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ミステリの祭典

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火神を盗め

作家 山田正紀
出版日1977年09月
平均点7.00点
書評数4人

No.4 6点 パメル
(2025/03/06 19:25登録)
中国との国境に近いヒマラヤ山中に建造された原子力発電所(火神・アグニ)。極右派の工作員たち(フラワーチルドレン)によってアグニに爆弾が仕掛けられていることを知った日本商社のセールス・エンジニアの工藤篤は命を狙われることになる。一旦帰国した工藤は、爆弾を撤去することが生き残るための唯一の道だと知り、数人のサラリーマンとともに鉄壁の要塞であるアグニに潜入を試みる。
落語家になり損ねた桂正太、英語コンプレックスで影の薄い仙田徹三、女を口説くことに全精力を傾ける左文字公秀という、無能と烙印を押されたサラリーマンが勇気を持って潜入しようとするのだから痛快。この原発は、周囲を触圧反応装置で囲まれ、ドーベルマン付き鉄網錠、熱廃水用水路にはワニがいる。おまけにフラワーチルドレンの冷酷無比な殺し屋リリーとローズが彼らをつけ狙うという念の入れよう。
このウルトラ級難度の障害を、あの手この手で突破しようとする過程が読みどころだが、それとともにそれに至る経緯、平凡なサラリーマンがなぜ危険を冒すのかというところも魅力の一つとなっている。また、ダメ社員とされるメンバーが、困難を乗り越える冒険小説を超えた人間ドラマとして爽やかに描かれている。確かにご都合主義的な部分はあるが、スパイ小説の緊張感とコメディ要素が融合した極上のエンタメ作品に仕上がっている。

No.3 8点 文生
(2022/08/21 07:41登録)
落ちこぼれ集団が奮闘して大事を成し遂げるというベタな話ですが、SF作家ならではのアイディを盛り込んだスパイスリラーとしてかなり面白い作品に仕上がっています。落ちこぼれ社員たちが特技を活かして活躍するシーンが荒唐無稽ながらも楽しく、特に主人公とCIA工作員との対決は感動的ですらあります。山田正紀としては珍しくラストも爽やか。

No.2 8点 クリスティ再読
(2019/09/16 21:48登録)
70年代の山田正紀の冒険小説じゃ「謀殺のチェスゲーム」と並ぶ名作だと思う。

大企業に温情主義は通用しないと言いながら、社員には忠誠を期待している...冗談じゃないですよ。会社が利益のために平然と社員を切り捨てるのなら、社員だって生命のために会社を切り捨てて当然じゃないですか

よくぞ言った!社畜根性をひっくり返す過激さが素晴らしい。今こそ見習わなくっちゃね。上出来のアンチ企業小説(なんてあるのか?)である。
インドのアグニ原発の中心部に爆弾が仕掛けられているらしい...総合商社の傍流社員の工藤がこれに気づいたとき、アグニ原発に派遣されていた同僚たちは事故にみせかけて殺されていた。帰国した工藤は専務を脅すまでして、この原発に侵入してトラブルの根源である爆弾を解除するプロジェクトを強引にスタートさせる。しかし集まったメンバーは社内でも指折りの無能社員たちばかり。対するアグニ原発は中印国境沿いにあることから、軍事施設級の重警戒が施されていた。プロも匙を投げる「不可能」なミッションにひるむことなく、無能社員たちを率いる工藤は奇想天外な手段でアグニ原発を攻略する...
とまあこんな話。こりゃサラリーマンのロマンが詰まった小説、じゃないかね。で、無能とされていた社員たちも、このプロジェクトの中で、それぞれがそれぞれのコンプレックスを克服していくのがお約束とはいいながら感動的。評者は桂の独演会が、泣けたなあ。劇画調でSFチックだが、シンプルでストレートな良さがある。まあ、大人の童話と思って読みたまえ。

サラリーマンを馬鹿にするんじゃない。スパイはカスだ、カスが真っ当に生きている人間に勝てるわけがない

No.1 6点 虫暮部
(2016/10/31 10:53登録)
 ところどころにさぁ感動的に盛り上がれと促すような文章があるが、それに乗っかるにはキャラクターの掘り下げが甘い気がした。工藤はなんであんなに強気なの。フツーの会社員があんな風に会社を脅すなんて、フィクションとしてのリアリティに欠ける。かつて過激派だったとかの過去がなくちゃ。

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