幻告 |
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作家 | 五十嵐律人 |
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出版日 | 2022年07月 |
平均点 | 5.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | 猫サーカス | |
(2024/07/22 18:15登録) 宇久井傑が幼い頃に母と離婚した父は再婚し別の家庭を持っていた。傑が父の姿を初めてみたのは法廷だった。義理の娘への強制わいせつで被告人となったのである。無罪を主張した父には有罪判決が下され、刑務所に服役することになった。その後、傑は裁判所書記官となり働いていたがある日、いずれも万引きを扱った二つの審理に臨んだ後、法廷で意識を失う。目覚めると彼は、父の裁判が行われた五年前の過去にいた。事件資料から父の冤罪の可能性に気付いた傑は、タイムリープを繰り返し真相に迫ろうとする。とはいえ、有罪判決の過去を簡単に変えられるわけではない。現在の傑の意識が、過去の傑の体の中にいられるのは短い時間に限られる。タイムリープしてかつて行ったのとは異なる行動をすると、それが影響して現在へ戻った時に自分を取り巻く人間関係などが予想外に変化していたりする。うかつに過去を変えられないし、変えるには覚悟がいる。現在と過去を往還するタイムリープをいう超常現象により、過去から未来へという通常の一定の時間進行とは違うプロセスが可能になる。だが過去には短い時間しかいられないという事情に加え、冤罪を証明するためには、法的な手段を経なければならないという制約が重くのしかかる。裁判に関わる仕事をする人間が過去の誤りを正そうとする際、正しい手続きであるべきだという倫理感が物語のベースにある。SF的設定で何でもありになるのではなく、裁判に対し法的に律儀な姿勢で向き合おうと努めるのが面白い。人が人を裁くことや罪を償うことの難しさをめぐり、ただ無罪にできればいいという単純な展開ではないところに妙味がある。 |
No.2 | 5点 | 八二一 | |
(2023/11/26 20:23登録) リアルな法廷シーンから知る、人が人を裁く難しさ。過去と現在を行き来して、まだ見ぬ明日を切り開く。暴かれる人間の本性に、感情の揺らぎが止まらない。 高密度に凝縮された著者の決意と覚悟が伝わる物語。 |
No.1 | 5点 | 文生 | |
(2022/09/17 08:13登録) 裁判所書記官の主人公は学生時代に、自分が幼い頃離婚した父が強制わいせつの罪で有罪判決を受ける場面を傍聴席から目撃。数年後に偶然タイムリープの能力を得た彼は現代と過去を行き来しながら、父を救おうとするが...。 著者ならではの法に関する蘊蓄は興味深いものがありますし、SF+リーガルミステリーという組み合わせもユニーク。ただ、タイムリープに伴う時系列が理解しづらく、ミステリーとしてもSFとしても明快さに欠けているのが難。また、父親は悪人ではないけれど、半ば自業自得である点もなんだかもやもやします。 |