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ミステリの祭典

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紙の梟 ハーシュソサエティ

作家 貫井徳郎
出版日2022年07月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 パメル
(2024/09/30 19:39登録)
人を一人殺せば死刑になることが決まっている、架空の日本を舞台にした5編からなる短編集。
「見ざる、書かざる、言わざる」あるデザイナーが指を切り取られ、舌を切り落とされ、さらには両目も潰されるという凄惨な傷害事件。犯人は、なぜ彼をこんな酷い目に遭わせたのか。架空の設定と意外な動機を結び付けたロジカルなミステリ。
「籠のなかの鳥たち」外界から隔絶された山間の別荘で起きる連続殺人事件。外部からの侵入経路がないため内部犯行ではないかと疑心暗鬼になる。特殊設定を生かした、この世界でしか成立し得ない動機が描かれている。
「レミングの群れ」いじめによる自殺者が絶えない中、いじめの首謀者を突き止め、第三者が復讐する事件が続発する。こうした風潮に乗り、ある男が立てたおぞましい計画とは。意外な真相に背筋が寒くなる。
「猫は忘れない」殺された姉の復讐を果たすため、主人公は姉の元恋人をつけ狙うという、犯人の視点で綴られる倒叙ミステリ。周到な計画の綻びにハラハラする。自分勝手な思い込みが自分に跳ね返ってくる男の末路。
「紙の梟」笠間の恋人・紗弥が殺された。容疑者は逮捕されたが、それと同時に笠間は思いがけない事実を知る。彼女について調べる中、笠間が下した決断は。それまでの4編は「こういう社会に成ったら何が起きる?」と問題提起し、それを踏まえた上で、テーマ性の高いこの作品に繋がっている。一度罪を犯した者は許されないのか、人生をやり直せないのか、死刑制度の根幹に関わる問題が提示される。
SNSで誰かを叩く人は、それが悪いことだと思わず、むしろ良いことをしていると思っている。だから叩くのが気持ちよくてやめられないのだろう。自分が正しいと思い込んでいるスタンスを客観視することが必要だと訴えている作品集。

No.1 6点 文生
(2022/09/17 10:53登録)
日本の裁判では1人殺しただけではまず死刑になることはなく、2人でボーダーライン、3人殺せば概ね死刑判決が下されるというのがだいたいの目安です。本作は、そうした現状が改められて一人でも殺せば即死刑となった社会を描いた一種のシュミレーション小説だといえます。
以下各話の感想

「見ざる、書かざる、言わざる」
殺せば即死刑になったことで起きた残忍な犯行。家のセキュリティを強固なものにしたら空き巣が減った代わりに強盗が増えたといった類の話でまずは皮肉効かせた軽いジャブといった感じ


「籠の中の鳥たち」
クローズドサークルミステリーに死刑問題を絡めた点がユニーク。犯人の狂った動機が意表を突くホワイダニットものの傑作です。ただし、人を殺せば正当防衛でも死刑という設定はかなり無理があるように思う


「レミングの群れ」
最近話題になっているいわゆる無敵の人を死刑問題と絡めた点が秀逸。読み応えという点ではこの作品が一番

「猫は忘れない」
証拠不十分で逮捕を免れた男を法に代わって成敗する話ですが、これは最初からオチがみえみえでイマイチだった。


「紙の梟」
本作品集の核となる作品ではあるものの、恋人を殺された主人公が死刑の是非について延々と悩む話でミステリ的な面白さはほぼなし
主人公が出した結論も特に新味はなく面白身に欠ける。

まずまず面白かったのだけれど、最後の2篇がイマイチだったのが残念。

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