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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.87点 書評数:1230件

プロフィール| 書評

No.1090 5点 札幌着23時25分
西村京太郎
(2023/07/08 16:30登録)
 昭和時代以来の再読。航空ストで飛行機が飛ばない状況の中、重要な証人を当日中に札幌まで運ぶミッションを遂行する十津川・亀井コンビ。それを阻止しようとする暴力団顧問弁護士との知恵比べ。
 当時の東北新幹線は、大宮・盛岡間だったのですねぇ。青森までは「はつかり」、そしてまだトンネルが使えないから、青函連絡船ですか。時代の流れを感じるなぁ…。こういった懐かしさも悪くないし、サスペンスとしても悪くないです。
 一方で、大人になって読み返してみると、突っ込みどころも満載。まずは、札幌地裁の判断があり得ない。仮に陸路で運ぶとしても、もっと安全な策が容易に考えつきます。そもそも、事件に無関係の乗客を危険に巻き込まないことを第一とすべきで、「そんなことに気を遣うのなら、コレコレをしなよ…」とややイライラ。でも、それでは物語にならないし、大人気ないかぁ。うーん、もしかして、時代の流れの中で面倒なオトナになっちゃったのかな…。


No.1089 7点 仮面病棟
知念実希人
(2023/07/06 20:47登録)
 正直、病院の秘密や黒幕を含めた物語の大枠は、早い段階で予測がつきました。あまりにもアレすぎますしねぇ。
 しかしながら、決して「つまらなかった」とはならなかったことがポイント。むしろ次々にページをめくらされ、展開に身を委ねる心地よさを感じました。終盤の急展開も好印象。リーダビリティは高いです。
 本作は2014年の発表。この時点で作者の技量は十分に確認できますねぇ。切り上げたうえでの、この採点。


No.1088 6点 火のないところに煙は
芦沢央
(2023/07/02 21:19登録)
 ドキュメンタリーの体裁を使ったホラー連作短編。各短編が衝撃的に怖いわけではなく、じわじわ来るあたりで短編の収束を迎える感じで、個人的には丁度いい塩梅。ホラーはあまり得意ではないので…。最終話のまとめっぷりは、なかなか上手いと思いましたし、タイトルが浮き出てくる感じもイイですね。


No.1087 7点 寝ぼけ署長
山本周五郎
(2023/06/29 20:52登録)
 勉強不足の私にとって、山本周五郎といえば「樅ノ木は残った」一択なのですが、こういった探偵小説も書いていたのですねぇ。このサイトで知りました。ありがとうございます。
 10短編の中に決して大技があるわけではありません。しかしながら、寝ぼけ署長・五道三省の王道たる「正義の味方」譚は非常に清々しい。弱者への作者の温かい眼差しが随所に表れている、好短編集と言えると思います。


No.1086 6点 教室が、ひとりになるまで
浅倉秋成
(2023/06/26 21:26登録)
 高校で立て続けに発生した生徒の自殺。遺書には同じ文章が書かれていたらしい…。
 一般的な学園ミステリかと思っていた矢先、突然ぶち込まれるSF要素。何の事前知識なく読み始めた者としては「そっち系だったかぁ」といった軽い驚きがございました。で、心も新たに?特殊設定ミステリとして読み進めますと、隠された能力の謎を含めてなかなかに興味深く、グイグイ読まされました。達者な作家さんだなぁ、と思います。
 一方でモヤモヤする点も。学園青春ミステリ的な要素も十分に備えていて、その時期特有の悩みも分からないではないのだけれども、だからといって何人も殺していいわけではないし、有耶無耶にしていいわけでもないような…。どうしても、犠牲となった生徒の家族に思いを巡らせてしまう自分がいたりします。


No.1085 6点 百万のマルコ
柳広司
(2023/06/18 22:18登録)
 舞台は13世紀末のイタリア・ジェノヴァの牢中。マルコ・ポーロと名乗る新人が囚人として加わるが、彼は大ハーン・フビライの命で遙か東方の国々を巡り、多くの体験をしてきたという。「神に感謝。アーメン、アーメン。」で終わる彼の体験談に「肝心な点が抜けてやがる!」とその真相を探ろうとする囚人たち。このパターンの謎解き14話(文庫版の場合)を収録する連作短編集。
 難解な謎解きではなく、「とんち話」といった趣であることが特長。気軽に楽しめる内容なので、合間合間に少しずつ読み進めるのもいいと思います。


No.1084 6点 11文字の檻
青崎有吾
(2023/06/16 20:18登録)
 短編・掌編集。デビュー10周年記念作品集ということで、各編の趣向は様々。個人的な評価は作品によって大きく異なります。
①加速してゆく:アンソロジー「平成ストライク」にて既読。JR福知山線脱線事故を題材としていることは承知していたが、そうか、そういった結論だったか。
②噤ケ森の硝子屋敷:新本格30周年記念アンソロジー「謎の館へようこそ 白」にて既読。この結末なら記憶に残っていてもいいはずなのに…。
③前髪は空を向いている:漫画作品を読んでいないので、何が何やらよく分からない。
④your name:「超短編!大どんでん返し」にて読んだはずであることを、著者による各話解説で知ったくらい、記憶になかった。
⑤飽くまで:これは好きなタイプの掌編。
⑥クレープまでは終わらせない:イラストレーターとのコラボ作品だそうで、巨大ロボの清掃バイトをする女の子のお話。うーむ。
⑦恋澤姉妹:非ミステリ。作者の作品で、こういった乾いた雰囲気の作品を読むのは初めてかも。
⑧11文字の檻:本短編集中のベスト。


No.1083 6点 もつれっぱなし
井上夢人
(2023/06/08 23:01登録)
 男女二者間の会話のみで構成された短編集。会話のみという趣向自体は目新しいものではないけれど、突拍子もない話を議論(証明?説得?)するスタイルは何か楽しかったし、いつもと違った気分でスラスラと読み進めることができました。
 消化不良であったり、結末が見えやすい短編もあったりした中で、後半の2作品「幽霊の照明」と「嘘の照明」の落とし方は好みです。


No.1082 5点 小鳥を愛した容疑者
大倉崇裕
(2023/06/04 22:34登録)
 まずは、警視庁総務部総務課「動物管理係」の新米巡査、薄圭子のキャラがいい。動物は詳しいけれど、慣用句というか日本語全般が苦手という、天然さが可笑しい。大ケガがなければ鬼警部補として捜査一課でバリバリ活躍していたであろう、須藤との掛け合いも楽しい。読み心地はとても良いです。
 一方で、ミステリとしては薄味。動物の生態や飼育手法をからめた工夫は買うのですが。


No.1081 5点 ハートフル・ラブ
乾くるみ
(2023/05/29 22:50登録)
 掌編1話を含む短編集で、個人的には①と⑦が印象深い。作者らしい作品集とは言えるけれども、全体としては小粒かな。
①夫の余命:日本推理作家協会賞の候補作。転換が面白い。
②同級生:設定のわりに結末は中途半端な印象。
③カフカ的:捻りはあるが、無理もある。
④なんて素敵な握手会:別アンソロジーで既読だったので驚きはなかったが、掌編としては良質。
⑤消費税狂騒曲:アンソロジー「平成ストライク」読んだはずだが、記憶には残ってなかった…。
⑥九百十七円は高すぎる:この設定を用意してこのネタ?という感じ。⑤のテーマとも被る。
⑦数学科の女:ちょっと無理があると思うのだけれど、色々と強烈。


No.1080 8点 俺ではない炎上
浅倉秋成
(2023/05/27 21:06登録)
 「ああ、こういった展開は苦手なんだよなぁ…」ってのが、序盤の正直な感想。とはいえ、一定の加速感の中で中盤まで連れていかれ、終盤のとある表記で「?」となって以降は一気読みでした。巧みな伏線配置とミスリード。そういった技巧もさることながら、読者にとって登場人物たちの印象が次々に変化させられていく展開もお見事で、各々の人間ドラマとしても秀逸。様々に考えさせられる作品でした。


No.1079 7点 大雑把かつあやふやな怪盗の予告状: 警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル
倉知淳
(2023/05/23 20:23登録)
 3つの中編で構成。タイトルと表紙の印象から、緩い感じの中編集かと勝手に思い込んでいたところ、ユーモラスな舞台・人物設定の裏で丁寧に作りこまれた作品が揃っていました。論理的に多少無理を感じるところもなくはないのだけれども、猫丸先輩っぽくて嫌いではない。得手勝手な探偵たち(特に勒恩寺探偵)と、警察庁に入庁したての気弱な官僚・木島クンの掛け合いも楽しい。続編があるような締め方だったし、今後も楽しみ。
①古典的にして中途半端な密室
 犯行現場には、糸と針による密室トリックの仕掛けが使われないまま残されていた。でも密室は中途半端ながら成り立っているようにも…。何かワクワクしますよねぇ。
②大雑把かつあやふやな怪盗の予告状
 怪盗が予告した犯行日時は、3週間以内の水曜日15時から20時までの間のいずれかというもの。ごみ収集っぽくて何か可笑しい。動機と犯人の特定が読みどころ。
③手間暇かかった判りやすい見立て殺人
 見立てを利用したロジック。その簡潔かつ明快さに感心。


No.1078 5点 オペラ座館・新たなる殺人
天樹征丸
(2023/05/17 21:20登録)
 「金田一少年の事件簿」世代としては、一種の懐かしさもあって、次々にページをめくらされました。一方で、金田一の推理の根拠も含め、細部には突っ込みたくなる点も。漫画版の「オペラ座館~」と比べればよく練られていると思うのですが、やはり、良くも悪くも「漫画的」という印象。
 ちなみに、同シリーズの書評でも書いたのですが、「漫画だったら、このシーンはこんな感じで描かれるだろうなぁ」などと想像しながら読んでみるのも、結構楽しいです。


No.1077 6点 ラスト・ワルツ
柳広司
(2023/05/14 14:21登録)
 シリーズ第4弾。安定して楽しめるシリーズで、本作でもD機関の異次元ぶりを堪能できます。
 個人的なベストは、伝説の超特急・あじあ号を舞台とした「アジア・エクスプレス」か。反転はもとより、絵的にも美しく纏められている印象。シリーズ第一作「ジョーカー・ゲーム」の雰囲気を最も色濃く残しています。次点は、この短編集のタイトルに繋がる「舞踏会の夜」。結城中佐がかっこよすぎます。


No.1076 6点 みんなのふこう
若竹七海
(2023/05/12 21:17登録)
 グイグイと、そしてスイスイと読まされました。17歳のココロちゃんの天然っぷりと運の悪さ(良さというべきか?)が印象的。
 そんな中でどんなオチが待っているのか…などと様々に想定してしまう私は、心がひねくれているのでしょうか。スッと終わったなぁ…という寂しさが残りつつも、エンタメ小説としては面白かったです。


No.1075 7点 富豪刑事
筒井康隆
(2023/05/07 23:04登録)
 ミステリの側面は別として、純粋に面白かったですねぇ。良質なエンタメ小説。登場人物が突然回転椅子をくるりと回して「読者の皆さん…」と語りかける辺りが特に好き。収録4作品ごとにパターンが異なっているので、飽きずに読み進めることができます。「富豪刑事」こと神戸大助も印象的ではありますが、何といってもその父である喜久右衛門氏が個人的なツボ。笑わせていただきました。


No.1074 7点 掲載禁止
長江俊和
(2023/05/02 23:45登録)
 何かが起こりそうな不穏な展開の中での反転を味わえる短編集。次々とページをめくらされましたね。
①原罪SHOW:死の瞬間を目撃できるツアーを潜入取材するジャーナリスト。グイグイ引っ張られる展開で最後の捻りに感心。
②マンションサイコ:元恋人のマンションの天井裏で暮らす女。本質の一部が①と被っている点で割り損か。
③杜の囚人:ある別荘に引っ越してきた兄妹。途中までは「ありがち」と思っていたが…。
④斯くして、完全犯罪は遂行された:大学時代の恋人と15年ぶりに同棲することとなった男。本質が③と被っていて、想定の範囲内かも。
⑤掲載禁止:二転三転。少しわかりにくい面も。


No.1073 6点 雷祭殺人事件
天樹征丸
(2023/04/29 20:09登録)
 中編+短編2本で構成。斬新なトリックが…という訳ではないけれど、クイズ本として読む分には悪くないかな。「漫画だったら、このシーンはこんな感じで描かれるだろうなぁ」などと想像しながら読むのも一興。


No.1072 6点 赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。
青柳碧人
(2023/04/24 21:06登録)
 昔話シリーズ全体では4作目であり、赤ずきんシリーズ(童話シリーズ)としては2作目となります。
 ある日、偶然ピノキオの腕を拾った赤ずきん。その後ピノキオに会えたものの、彼は手足をバラバラにされてしまいます。ピノキオ(の一部)とともに、各パーツを探す旅に出かけますが、道中様々な死体と出会うことになって…あ、タイトルどおりか。果たしてピノキオはすべてのパーツを見つけ出して、めでたく人間になれるのかしら、というお話。白雪姫、ハーメルンの笛吹き男、三匹の子豚が元ネタ。ブレーメンの音楽隊とかも加えるべきか。
 赤ずきんとピノキオという、連作短編を通した魅力的なメインキャラが存在している分、日本昔話シリーズよりも読み進めやすいかも。驚愕の展開が…という訳ではないけれども、面白く読ませていただきました。


No.1071 6点 風が吹いたら桶屋がもうかる
井上夢人
(2023/04/20 23:25登録)
 同居する三人組(シュンペイ・ヨーノスケ・イッカク)それぞれのキャラが立っていて、楽しい雰囲気で読ませてくれます。
 何より、ヨーノスケの超能力が微笑ましい。超能力を発揮しようと取り組んでいる姿が楽しく、特にアロエの鉢植えとの格闘?は絶品。ミステリマニア・イッカクの的外れな推理も捨てがたい魅力があるし、何気に本格ミステリに対するパロディとしても機能しています。二人を眺めるシュンペイの突っ込みも悪くない。
 一方で、同じパターンの短編が続くことのデメリットも否定できず。現に、最も印象深かった短編が、ヨーノスケの超能力が、唯一直接的に人の役に立った作品でありました。そういった側面はありつつも、安心感をもって読み進められたことは評価したいと思います。

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