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ミステリの祭典

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W県警の悲劇

作家 葉真中顕
出版日2019年01月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点 まさむね
(2023/10/15 21:52登録)
 架空の県警を舞台とした連作短編…なのだけれど、横山秀夫とは全然異なるテイスト。こっちもイイですねぇ。個人的には、「交換日記」のあざとさが好きです。
 ただし、後半になるとこちらも構えがとれてきて、特に「破戒」は序盤からの予想どおりの着地。最終話「消えた少女」の伏線も分かりやす過ぎたかも(別の角度での驚きはあったけどね)。
 総合的には、読み得な連作短編だったなぁ、という感想。

No.2 7点 パメル
(2022/07/13 08:08登録)
W県警の特徴は、日本の県警の中でも旧態依然をもって知られ、男尊女卑がまかり通っていること。当然ながら松永警視を始め、女性警官への風当たりも強くなる。
W県警では月に二度、「円卓会議」が開かれる。出席者はお飾りである本部長を除いた県警幹部たちで、ここで合意されたことが県警の決定事項となるのだ。松永警視は一刻も早くこの会議に出席できるよう、出世を目指していた。女性警察官を低く見るW県警の古い体質を刷新することに意欲を燃やしているからだ。しかし...。
本書は全六編からなる連作短編集で、各編でW県警に勤務する女性たちがフィーチャーされるのが特徴。同時に彼女たちに支持されている松永警視の存在も、ストーリーに影響を及ぼしていく。
極秘任務を与えた警部の不審死に隠された二重三重の仕掛けとは「洞の奥」。
女子小学生殺害事件を捜査しながらも、コンビを組んだ先輩刑事への想いを断ち切れない女性刑事が登場する。騙りの倒叙を交え翻弄してみせる「交換日記」。
家宅捜索で特技を見せる。極上の仕掛けを凝らしている「ガサ入れの朝」。
痴漢容疑で逮捕され黙秘を続ける男を取り調べながら、かつて自分が受けた痴漢被害を思い起こす。組織内部の戦いを描いた「私の戦い」。
実父を殺したと自白した神父の真意を探っていく。悲哀の構図「破戒」。
ついに警視正に昇進し幹部になった松永が、山で姿を消した少女の捜索のため現地に赴く。真相はかなりブラックな「消えた少女」。
警察小説の意匠を隠れ蓑に、さまざまなテクニックを駆使した仕掛けが爆発するどんでん返しミステリ。さらに最後の一撃というべき驚きも待っている。

No.1 6点 E-BANKER
(2020/06/02 22:51登録)
「ロスト・ケア」「凍てつく太陽」など、硬派で重厚、社会派よりの作風という印象だった作者。
そんな作者が発表した連作短編集。舞台は架空の県警「W」。登場人物は当然、警官や刑事たち・・・
警察小説? いやいや結構企みに満ちた作品のようだ・・・
2019年発表。

①「洞の奥」=品行方正、警官の鑑と言われた男・熊倉警部。彼が死体で見つかるという事件が発生。戸惑う刑事の娘と暗躍するW県警の円卓会議。そして、かなりブラックなサプライズ、どんでん返しが炸裂することに・・・
②「交換日記」=これは・・・かなりの叙述トリック!(ネタバレだが)。でも無理矢理感はかなり強い。読者を騙してやろう感がものすごい。でも、まぁ面白いといえば面白い。
③「ガサ入れの朝」=これは・・・宮部みゆきのあの作品をどうしても思い出してしまう・・・。ただなぁー、コレ一発勝負というのは如何なものか?
④「私の戦い」=改題前のタイトルは「痴漢に報いを」というわけで、電車内の痴漢事件がテーマとなる。連行されても一向に口を割らない容疑者の背景には大きな欺瞞が隠されていた。これにも裏のサプライズ(どんでん返し?)が隠されている。
⑤「破戒」=島崎藤村の名作、ではなくて聖職者が起こしてしまった尊父の殺人事件。容疑者である子=牧師の人となりを知る女性警官は真相に気付く・・・。とは言え、それほどのサプライズではない。
⑥「消えた少女」=単行本化に当たり書き下ろされた最終話。全編にその姿が見え隠れしていたW県警の希望の星・初の女性警視正・松永菜穂子。奈落の底に落とされるかのような手ひどいラストを迎える・・・。でも伏線は見え見えだったな。

以上6編。
こんな作品も書けるんだね。作者は。というような感想。
タイトルだけ見てると横山秀夫の警察小説みたいだけど、実態は叙述トリックを中心としたどんでん返しに只管拘った連作集。
正直なところ、仕掛けのための仕掛けという感じが強くて、やや“あざとさ”も見え隠れするわけなのだが、先にも書いた通り、面白いか面白くないかというと、「面白い」の方に軍配を上げようか・・・
作者の懐の深さや多彩な才能を知る意味ではいいかもしれない。評点はこんなもん。

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