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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.87点 書評数:1196件

プロフィール| 書評

No.276 6点 さよならドビュッシー
中山七里
(2012/03/03 11:13登録)
 音楽青春小説としては,純粋に楽しめましたね。特に,ピアノ演奏シーンの描写力は素晴らしい。音楽的素養の全く無い私ですら,クラシックをじっくりと聴きたくなったほど。
 一方,ミステリーとしては正直「分かりやすい」ですし,それほど評価することはできません。ミステリー要素だけで見れば,『このミス』大賞で同時に最終候補に残った「連続殺人鬼カエル男」(応募時は別タイトル)の方に軍配が上がる気がします。(勿論,同一作家の複数作品が最終候補に残ること自体が凄いコトですけれども。)
 しかし,「どちらの作品の方が惹きこまれるか」という観点で言えば,私はこちらの作品に1票。実際の受賞作も本作(まぁ,『このミス』大賞のコンセプトからすれば,妥当なのでしょうが)。
 よくよく考えてみれば,「オチは分かっているけれども,ページをめくる手が止まらなかった」という事実は,私にとって珍しいコト。筆力は高いと思います。


No.275 7点 放浪探偵と七つの殺人
歌野晶午
(2012/02/27 22:23登録)
 読者挑戦形式の本格短編7連発。そして解答編は袋とじ(ノベルス版の場合)。読者挑戦モノ好きの私としては,この構成自体で「プラス1点」って感じです。
 で,中味も良かった。凡作と言えるのは1話のみ。個人的なベストは,傑作と評価したい「有罪としての不在」。(問題編のみで完璧な「正答」に辿り着ける方は皆無のような気もするが…)次点が「水難の夜」でしょうか。総合的にレベルが高い短編集だと思います。
 えっ?「結局,お前は何問解けたのだ」ですって?痛いところを突きますねぇ。すみません,1問だけでした。しかも,その1問は前述で「凡作」と評した,分かり易すぎるもの。でも,「分からなかったからこそ,楽しめた」って側面もあるわけですしね!(開き直り)


No.274 5点 聴き屋の芸術学部祭
市井豊
(2012/02/24 22:30登録)
 作者との出会いは,創元推理文庫のアンソロジー「放課後探偵団」において。その中の収録作品が軽快かつロジカルで好印象だったため,単独デビュー作品たる本書を手にとった次第です。
 で,本書ですが,聴き屋体質の大学生「柏木クン」が探偵役を務める4短編が収録されています。短編ごとに趣向が異なっていて,作者本人があとがきで語るとおり,バラエティ豊かとも言えるし,統一感がちょっと…との印象も受けます。個人的ベストは「からくりツィスカの余命」という短編でしたね。
 総合的に軽快かつロジカルという印象に変化はなかったですが,「動機が…」(表題作)とか、「この短編って聴き屋体質と関係ある?」などなど,ちょっと引っ掛かる点があったのも事実。
 とはいえ,ポジティブ過ぎる思考回路の学生たち,逆にネガティブ過ぎる「先輩」のキャラ設定はなかなか面白かったですね。シリーズ続編も予定されているとのことなので,期待します。


No.273 6点 猫柳十一弦の後悔
北山猛邦
(2012/02/21 22:26登録)
 タイトル&表紙からは想定しにくいですが,内容としては真正面からの孤島モノ。
 犯人特定までの流れはなかなか楽しめました。読みやすかったですし,全体的には整った作品だと思います。探偵&助手のキャラ造成も悪くないので,続編があれば,私はきっと手にすることになるでしょう。
 しかし,ミッシング・リンクの設定(それ自体は,いかにもこの作者らしいのですが)を含めた「動機」については,かなり浮いた印象を受けましたねぇ。孤島モノにはありがちな傾向(あくまでも個人的な印象ですよ)とはいえ,やっぱり気になる。
 ちなみに,講談社HPの本書担当者コメントに「東川さんの次は北山さんダ!」って表記が。なるほど,ふむふむ。ここにもミッシング・リンクが施されていたか(笑)。ソノ線で想定すれば,次の次は「西村」先生ってことになりますか!


No.272 3点 東尋坊マジック
二階堂黎人
(2012/02/19 11:11登録)
 結構がっかりな作品。
 水乃サトルが遭遇した東尋坊での銃殺事件と,日本各地で20年にわたって発生している猟奇的殺人事件いう,大きく2つの事件を解き明かそうってことなのですね。まぁ,ご都合主義感満載で,解決はするんだけどさ…。
 前者の事件は,一定の謎がある分だけ,まぁ,ごちゃごちゃ言いますまい。(勿論,言いたいことは山ほどあるのですよ。敢えて言わないだけで。)
 ひどいのは後者の事件。なんだこりゃあ。長々と無駄に読まされた…って印象しか受けませんでした。つまらなかったです。作者は読者に何を与えたかったのでしょうか。
 正直,唯一良かった(驚いた)のはエピローグの最後の一行のみ。と言っても,叙述系の「驚き」ではありませんし,事件とも無関係。このシリーズの読者として「へぇー」くらいのものですが。


No.271 5点 素人がいっぱい
新野剛志
(2012/02/15 23:50登録)
 渋谷のデリヘル「ラブホリック」を舞台に,その従業員やお客様等を巡る謎を解き明かしていくという,まぁ安楽椅子モノに分類されるであろう連作短編。本格度は低め。探偵役は,店長の同級生,というか居候。
 舞台が舞台だけに色モノで攻めてくるかと思いきや,そうでもなかったりして,この舞台を用意した意義があまり見出せませんでした(皆無とは言わないけど)。探偵役の設定もちょっと上滑りしている印象を受けましたね。
 とはいえ,サクサク読み進められたし,嫌いな雰囲気でもなかったので,この点数に。


No.270 6点 プリズム
貫井徳郎
(2012/02/13 20:39登録)
 自己矛盾する2つの印象を受けました。
 まず,第1点。前章で犯人(と目された)人物が次章の語り手となり,新情報も加えて独自の推論を組み立てるスタイルは,やはり面白い。最終的には循環させつつ,読者に委ねる構成もニクイ。人それぞれ,無限の楽しみ方があると思いますね。
 その一方,純粋に「正答が知りたい!」と感じてしまったのも事実。作者の狙いは十分に認識しつつも,やはり,どうしても…ねぇ。これが2点目の印象。何ともワガママな読者ですみませんねぇ。
 ちなみに,タイトルは「被害者」・「容疑者」・「関係者」の多面性を端的に表していて,秀逸です。


No.269 5点 Rのつく月には気をつけよう
石持浅海
(2012/02/11 11:28登録)
 大学時代からの3人の飲み仲間。最近は,誰かがゲストを連れてきて,一緒においしい酒と肴を囲もうという趣向。そこでゲストの語る恋愛話が突然ミステリー風味を帯びたり…っていう,まぁ,軽い安楽椅子モノですね。最終盤の一捻りは…微妙かなぁ…。
 ミステリとしての側面よりも,酒と肴のシーンが楽しめましたね。我慢できずに,牡蠣を大人食いしちゃいました!


No.268 7点 烏丸ルヴォワール
円居挽
(2012/02/10 22:58登録)
 ルヴォワール・シリーズ第2弾。
 前作「丸太町~」を読んでから手にされることをオススメします。と,言いますのも,前作の重要ネタの一部が惜しげもなく(?),冒頭で示されるからです。
 で,この作品ですが,前作と比べて,事件そのものはシンプル(まぁ,設定として「真相」にはあまり意味は無いのですが…)。そして法廷ミステリとしての側面も,前作からすると弱めかな。
 しかし,「龍師」たちの前哨戦を含めた「騙し合い」は前作以上とも言え,なかなか楽しめます。どんでん返しの連射も健在。よくあるラノベと思ったら大間違いです。
 しかし,最重要ポイントは何と言ってもラスト。唸りました。見事にやられました。脱帽です。


(ネタバレ?)
 第1章があっただけになぁ…。「又鴉の計」ねぇ…。悔しい!


No.267 6点 夏の王国で目覚めない
彩坂美月
(2012/02/06 22:56登録)
 青春小説のイメージが強いかもしれませんが,実は(?)本格ミステリ度合いも高い作品です。もっとミステリ好きに読まれてもいいような気がしますね。
 とは言え,各々のトリックや後半の反転については,概ね察しがつきますし,リーダビリティも決して高いとは言えません。(残念なことに,青春小説的要素は,私にとって「蛇足」としか映りませんでした…)
 その一方で,現実と仮想を混然とさせつつ,心理的クローズドサークルとでも言うべき状況を作り出した「架空遊戯」なる設定の妙,さらに,様々な仕掛けを用意した「志」は,評価すべきと思います。次回作も追いかけてみたくなりました。


No.266 6点 花の鎖
湊かなえ
(2012/02/03 21:53登録)
 3人の女性に関する物語が平行して語られていくスタイル。
 各物語に登場する,花(コマクサ・コスモス・りんどうetc…)や食べ物(きんつば・からあげetc…)等のキーワードを踏まえつつ,3人に係わる「K」と名乗る人物,そして3人の「共通項」を見出せるか…ってことなのでしょうが,多くの読者は,最終章前に容易に正答に辿り着くでしょうねぇ。もっと巧妙な手法でも良かったような気もしますが,これまでの湊作品とは異なる雰囲気を醸し出しており,それはそれで楽しめましたよ。


No.265 7点 マリアビートル
伊坂幸太郎
(2012/01/31 22:26登録)
 東北新幹線の車内で巻き起こる,殺し屋たち(極悪中学生も混じっているけど)の協奏曲。舞台が舞台だけに,空間的・時間的制約から生じるサスペンス要素も相まって,次々にページをめくらされましたねぇ。「いい人系アウトロー」を主人公に据えると,この作者は強いなぁ。
 最後に個人的な望みを述べれば,極悪中学生の行く末(?)について,もっと生々しく描いて欲しかった。だって相当ムカムカする奴だったんだもの。


No.264 3点 六とん2
蘇部健一
(2012/01/28 22:55登録)
 アホバカ・トリック自体は,嫌いではないのです。仕事で思い悩んだ際などには「劇薬」の効果も期待できますし。(勿論,単にストレスが増大するだけという危険性も。だから「劇薬」ですね。)
 で,この短編集ですが,前作「六枚のとんかつ」を引き継いだ劇薬系アホバカ作品もあるにはあるのですが,ファンタジー系の作品(ある意味で驚愕!)を含め,上品にしようとしている雰囲気が垣間見えます。正直,中途半端感は否めません。突き抜けるようなアホバカ作品だけを読みたかったのだけれど。


No.263 7点 雪密室
法月綸太郎
(2012/01/26 23:14登録)
 まさにタイトルどおりの内容。オーソドックスかつストレートな本格ミステリと言えます。私は楽しめましたよ。「読者への挑戦」は大好物だし,伏線もキッチリ。法月親子の描き方をはじめ,雰囲気も悪くなかったと思いますねぇ。
 確かに,トリックとしては微妙な点もあります。しかし,私としては,判明した瞬間「嗚呼!その可能性に気付かなかった!不覚だ!」って気持ちの方が強かったので,まぁいいかなぁ…と。
 こういう端正な本格モノへの個人的な想いにより,1点加点!


No.262 6点 メルカトルかく語りき
麻耶雄嵩
(2012/01/25 21:55登録)
 収録5短編とも,基本設定はWHOに力点をおいた王道路線なのです。そしてロジックも十分に展開されるのです。しかし,読者として解決の爽快感を得ることはできません。いや,「解決」とは何か,その定義なくして軽々に語るべきではないのかもしれませんが…。
 個人的には非常に複雑な読後感でした。「裏爽快感」とでも呼ぶべきか…。これは好き嫌いがハッキリと分かれそうです。


No.261 5点 羽衣伝説の記憶
島田荘司
(2012/01/21 16:17登録)
 先日「北の夕鶴~」を読み,吉敷と通子の「その後」が気になったため,早速手にした次第でございます。
 正直,中盤までは「あれれ?もしかして期待ハズレ?」などと感じてしまいましたが,2人の再会以降の終盤は,ちょっとした謎解き要素もあり,2人の進展(?)もありで,盛り返してくれました。
 ただし,シリーズファン限定の面白さという側面も否定できないため,広くお勧めすることは難しいかも。


No.260 5点 北の夕鶴2/3の殺人
島田荘司
(2012/01/19 22:12登録)
 ラブロマンス的要素,サスペンス的要素にバカミス的要素も加わり,何とも不思議な読後感でした。(ちなみに,私にとって「バカミス」とは,決して否定的意味合いではございませんので,念のため申し添えます。)
 ラブロマンス的要素は,今後の2人の関係に興味を持てたし(早速「羽衣伝説~」を入手),まぁ良かったかなぁと。
 一方,サスペンス的要素は,私にはちょっと冗長に感じてしまいましたねぇ。相当にまどろっこしいぞ吉敷刑事。犯人もトリックに自信があるのなら,敢えて夜討ちをかけなくてもさ…なんて言ってたら小説が成り立たないか。
 最後に,バカミス的要素は楽しめましたよ(現場見取図で概ね察しはつきましたが…)。鎧武者の偶然性などご都合主義が過ぎるとか,実現可能性云々とか,敢えて申し上げますまい。この大技自体に意義がある!


No.259 4点 ペルシャ猫の謎
有栖川有栖
(2012/01/17 19:12登録)
 大変失礼ながら,表題作「ペルシャ猫の謎」に関する,作者自身のあとがきを引用させていただきます。
「こんな結末を読まされた読者がどんな気分になるのか、私には判らない。恐ろしいことだ。」
 ええ,本当に恐ろしいことです。問題作であると事前に認識して読むべき作品でしょうなぁ。
 
 一方,森下刑事にスポットを当てた短編「赤い帽子」は,嫌いではなかったです。火村・アリスが登場せず,純粋な「刑事モノ」だったことに新鮮味を感じたのかも。ちなみに,この作品の初出誌は大阪府警の機関誌とのこと。なるほど,だからか…と納得しつつ,依頼した大阪府警,さらには受諾した作者ともに,懐の深さを感じましたよ。こんなこともあるのですねぇ。


No.258 6点 赤い糸の呻き
西澤保彦
(2012/01/15 18:37登録)
 5編からなるノンシリーズ短編集。個人的には,これまで「西澤作品は肌に合わない」と思い込んでいましたが,ちょっと反省。まずまず楽しめました。
 ベストは,エレベーターという密室を扱った表題作でしょうか。動機は相当に疑問ですが,複数の仕掛けが施されているため,まぁいいか…と。読者挑戦モノの「お弁当ぐるぐる」・都筑道夫氏のパスティーシュ「墓標の庭」もまずまず。他の2作品は正直微妙な点も(特に動機なのですがね)…。
 とはいえ,短編ごとに異なる探偵役の設定(キャラもいい),そして妄想推理と論理の絶妙なバランスはやっぱり楽しかったですよ。総合的にこの点数で。


No.257 7点 チェインギャングは忘れない
横関大
(2012/01/12 00:13登録)
 これはイイ。
 「再会」(乱歩賞受賞作),「グッバイ・ヒーロー」と順に読み,この作家の筆力に注目していましたが,間違いではなかった。
 序盤からテンポのよい展開。効果的な視点転換を含めて,グイグイ読ませます。このサイト閲覧者にとっては,読中「楽しいけれど,これってミステリー?」という疑念(?)を持たれるかもしれませんが,構わず読み進めるべし。ミステリーとしての仕掛けもしっかりと用意されていますよ。(好き嫌いはあるでしょうが…。)読後感も良です。時期的にも,このような作品があってもいい,というか,あってしかるべき。
 この作者のこれまでの作品を読むと,「売れる作家」たる要素は多いと思います。乱歩賞出身だし,是非とも東野さんを目指して欲しいですね。個人的に,引き続き要注目の作家さんです。

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