りゅうさんの登録情報 | |
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平均点:6.53点 | 書評数:163件 |
No.143 | 6点 | マダム・タッソーがお待ちかね ピーター・ラヴゼイ |
(2011/11/06 22:44登録) 容疑者ミリアムが容疑事実を認めているにもかかわらず、ミリアムの犯行の実施可能性に疑義があるため、捜査を命じられるクリッブ刑事。ミリアムの絞首刑執行までに残された日数は11日。並行して、ミリアムの蠟人形を制作し、マダム・タッソー蠟人形館に展示する話が絞首刑執行人ベリーの視点で語られます。2つの話が微妙にリンクして、ひねりのある結末を迎えます。 タイムリミットものですが、サスペンス性はあまり感じられません。クリッブ刑事の捜査は回りくどく感じられ、緊迫感がなく、中盤あたりはやや退屈に感じました。 この作品の筋立てや犯人の企みは、日本人読者にはわかりにくいと思います。クリッブ刑事は長々と捜査をした挙句にミリアムを訊問しているのですが、なぜすぐにミリアムを訊問して疑義を確認しなかったのかと疑問に思います。一応、作品中では、ミリアムが処刑猶予の期待を持っていて、訊問することで動揺をきたすのを避けるためだとの説明があるのですが、腑に落ちません。容疑者の犯行の可能性に係る謎はなかなか魅力的で、うまい解決法なのですが、ちょっと狡いとも感じました。 |
No.142 | 5点 | 金田一耕助の帰還 横溝正史 |
(2011/11/01 19:06登録) いずれも後に加筆されて長編ないしは中編となった8作の短編集です。長編化されたもので私が読んでいるのは、「渦の中の女(白と黒)」と「迷路荘の怪人(迷路荘の惨劇)」の2作のみですが、どちらも短編と長編では真相を若干変えています。「迷路荘の怪人」は作品の構想が雄大であり、短編よりも長編向きの作品だと感じました。短編ミステリ集としてみると、各作品とも面白いアイデアが含まれていて真相も意外ですが、ページ数の関係もあって説明不足なところがあり、謎解きとしては消化不良といった印象です。一番面白いと感じたのは「貸しボート十三号」でした。 「毒の矢」 密告状の扱いや殺人トリックは面白いのですが、密告状に関してある人物がしたことと目的との結び付きが弱く、わざわざこんなことをするかなあと思いました。 「トランプ台上の首」 首のない死体ならぬ、胴体のない死体です。真相を推理する上で必要なある事実が後出しですが、その事実を示すと推理が容易になってしまうので仕方がないのでしょう。 「貸しボート十三号」 首切りを途中でやめた状態で発見された男女の死体、どうしてそうなったのかという謎解きです。 「支那扇の女」 金田一耕助はある事実を知っていて、犯人のミスを見抜きますが、現代の読者でその事実を知っている人はまずいないでしょう。婉曲的で確実性にかける動機に基づく犯行ですが、それが意外性につながっています。 「壺の中の女」 金田一耕助と等々力警部がテレビで観た曲芸の場面にヒントが示されています。 「扉の中の女」 こんな勘違いをするものでしょうか。死体を移動させた理由はなかなかでした。 |
No.141 | 5点 | 女が見ていた 横溝正史 |
(2011/10/29 15:53登録) 再読です。金田一耕助も由利先生&三津木俊助も出てきません。 作家の風間啓介は妻と夫婦喧嘩をして家を飛び出し、銀座で飲み歩いているうちに酔いつぶれて記憶を失い、家に帰ってみると妻が居なくなっていた。下宿人の新聞記者から連絡があって、妻は銀座のキャバレーで殺されていると言う。妻は、誰かが自分の名前を語って電話をしてキャバレーに呼び出されたらしい。啓介にとって不利な証拠が見つかり、警察に捕まる前に逃亡する。啓介に恩義のある田代が啓介をかくまって調査に乗り出し、犯行のあった時間帯に啓介を尾行していた謎の三人の女をアリバイ証明のために探すが、寸前で2人の女が殺されてしまう・・・・・・ 初読時には、アイリッシュの「幻の女」を読んでいなかったので気付きませんでしたが、今読むと明らかに「幻の女」のオマージュ作品であることがわかります。「幻の女」は真相の意外性で成功している作品ですが、本作品は3分の2ぐらいまで読むと犯行の構図が見えてきて、犯人の予測がつき、真相には意外性は感じられません。それなりにまとまりのある筋書きですが、告白で語られる最初の殺人動機や、三人の女が啓介を尾行していた理由などはちょっと苦しく感じます。サスペンス性でも本家には及びません。 |
No.140 | 6点 | 魔女の暦 横溝正史 |
(2011/10/25 18:47登録) 再読です。角川文庫版(「魔女の暦」と「火の十字架」の中編2作品)で読みました。どちらもダンスレビュー小屋を舞台にした連続殺人事件で、金田一耕助は殺人予告の手紙を受け取ることで事件に巻き込まれていきます。 「魔女の暦」 謎解きとして面白い作品ですが、設定に強引さを感じます。一つ目の殺人はある心理状況を利用して行われているのですが、この心理は私には理解できません。二つ目の殺人にはかなり意表を突くトリックが使われていますが、都合よく行き過ぎで実現可能性には大いに疑問を感じます。計画段階でこのようなトリックがうまく行くと考える人はまずいないでしょう。 「火の十字架」 犯人はいくつものトリックを仕掛けて捜査陣を欺こうとしていますが、それを見抜く金田一耕助の推理や捜査は鮮やかで、なかなかの名探偵ぶりを発揮しています。また、金田一耕助には珍しく(?)、連続殺人を途中でくい止めています。この作品も謎解きとして面白い作品なのですが、ご都合主義と感じられるところがあります。 (完全にネタバレをしています。要注意!) 「火の十字架」 犯人は新宿から浅草に行って、そこで小栗啓三の変装をして運送会社の車にトランクを預け、新宿に引き返してそのトランクを受け取っています。しかし、これは無理ではないでしょうか。通常、運送会社の方が先に到着するはずで、その場合、新宿に不在だったことがわかってしまいます。作品中では、運送会社の車にたまたまエンジントラブルが起こり、犯人よりも遅く到着しているのですが、ご都合主義としか言いようがありません。 |
No.139 | 6点 | 悪魔が来りて笛を吹く 横溝正史 |
(2011/10/23 14:45登録) 再読です。犯行方法やアリバイなどには特に見るべきものはなく、隠された人間関係の謎を解くことが主眼の作品です。 悪魔とは誰のことか、「悪魔が来りて笛を吹く」という曲の意味、タイプライターの打ち間違い、風神像と雷神像、火焔大鼓の紋章が換気窓から見えていたかどうか、偽電話と偽電報を誰がしたのかなどの細かい謎が盛り込まれ、最後まで読者の興味を引っ張ていくストーリー展開はさすがと言えます。金田一耕助が事件の謎を解明するために神戸や淡路島に遠征するくだりは、個人的によく知っている地名が出てきて楽しめました。人間関係の謎に関する真相は作者らしい意外なものですが、全体の真相はあまりすっきりとしていません。 (完全にネタバレをしています。要注意!) 犯人が椿子爵の邸宅に潜り込んだ経緯や、後に天銀堂事件を起こす飯尾と犯人との関係がいい加減で、ご都合主義に感じられます。 また、犯人が最後の告白で語っているように、犯行は場当たり的ですきがあり、飯尾殺しの際のアリバイを調べれば金田一耕助の登場がなくても犯人を逮捕できていたのではないでしょうか。 最初の殺人が密室状態になったのは、玉虫元伯爵が怪我をした理由を思案するために自らドア・閂・掛け金をかけたためなのですが、密室にした行為とその理由との間につながりが感じられません。 |
No.138 | 8点 | 八つ墓村 横溝正史 |
(2011/10/18 19:52登録) 再読です。過去の猟奇的な大量殺人事件、突然の家督相続の話から巻き込まれる連続殺人、洞窟での冒険など、サスペンス性に富んだストーリーはミステリとしての読み応え十分です。 本格ミステリというよりもサスペンスミステリよりの作品だと思います。そのことは、連続殺人に巻き込まれた主人公の視点で物語が語られていること、金田一耕助が事件をどう見ていたかは真相説明まで明らかにされていないことからも伺えます。主人公には真相を解明しようとする姿勢はなく、自分の身に起こった出来事を忠実に書き記しているだけです。一方、金田一耕助は依頼者からの入れ知恵によって当初より犯人の目星が付いていたわけで、作者はミステリとしての体裁を整えるためにも金田一耕助の視点を物語の記述に入れるわけにはいかなかったのです。作者は、この作品では謎解きよりもストーリー性を重視したミステリを書きたかったから、こういった記述方法を選んだのだと思います。 真相説明で金田一耕助自らが語っているように、この事件での金田一耕助は探偵役として機能していません。警察と連携を取って、犯人と推定していた人物に監視をつけていたら、5人目以降の人物は殺されずに済んでいたでしょう。 最も疑わしい人物が途中で失踪したこともあって、関係者のアリバイは全く問題にされておらず、記述された内容だけでは犯人を特定することは困難だと思います。しかしながら、金田一耕助の真相説明は、私が気付いていなかった犯人のミスを指摘していて、感心しました。 |
No.137 | 8点 | 殺人鬼(角川文庫版) 横溝正史 |
(2011/10/15 18:21登録) 再読です。合計4編の短編集ですが、「百日紅の下にて」が断然すばらしく、これ以外の3編は設定に無理があり、この3編だけだと5点ぐらいでしょうか。 「殺人鬼」 話の展開や伏線の盛り込み方はなかなかですが、ある人物が取った行動は全く理解不能で、真相はあまりすっきりとしていません。 「黒蘭姫」 偶然が重なって複雑な事件となっていますが、犯人の取った行動や心理はちょっと理解できません。 「香水心中」 複雑な真相ですが、各人の取った行動をみると、無理があると感じる部分があります。真相を知ってみると、犯人のみならず、金田一耕助や等々力警部にとってもゾッとするような状況があったことがわかります。 「百日紅の下にて」 金田一耕助が戦地で戦友から聞いた話だけをもとにして推理を組み立て、戦友の遺志に従って、ある人物に真相を伝えにいく話。誰が青酸カリを盛ったのかという謎解きですが、シンプルにして魅力的な状況設定、金田一耕助の論理的な推理(若干臆測も入っていますが)、美しくも悲しい真相と、短編推理の傑作と呼ぶにふさわしい作品です。 |
No.136 | 8点 | 夜歩く 横溝正史 |
(2011/10/11 19:19登録) 再読です。ストーリーの一部を覚えていたくらいで、犯人は覚えていませんでした。横溝作品にしては登場人物が少なく、人間関係もシンプル。 海外の某有名作品と同じトリックが使われていますが、一つの趣向であって、この作品の構成要素の一部に過ぎないと思います。犯人の犯行計画が実に巧妙で、予期せぬ人物からのアシストもあって、謎解きを困難なものにしています。夢遊病者の存在がうまく犯行の欺瞞に結びついていますし、また、誰も触れることができなかったはずの日本刀で殺人が行われたことなど謎の提示も魅力的です。犯人が予測していなかったある出来事(これは逆アシストともいえます)によって矛盾が生じているのですが、それを指摘する金田一耕助の推理も鮮やかでした。 (完全にネタバレをしています。要注意!) 最初の蜂屋殺しの手法に若干疑問があります。犯行に使った日本刀は、直記が父親から奪って自室のベッドの下に隠していたものですが、犯人はどうやってその場所を知ったのでしょうか。また、犯人に首切りを行うような時間があったかどうかが文章を読むだけではわかりませんし(この真相であれば致し方ないとも言えますが)、犯行現場のはなれまで日本刀を運ぶのは目撃される危険性が高いと思います。 蜂屋と守衛、八千代とお藤、直記と屋代、肉体的条件が似ている人物がこれほど揃うというのもちょっと出来過ぎの感じがします。 |
No.135 | 5点 | 夜の黒豹 横溝正史 |
(2011/10/09 17:05登録) 再読のはずですが、全く覚えていませんでした。横溝作品に共通の事ですが、この作品も人間関係が複雑で、特に物語途中で登場して失踪する朱之助を巡る人間関係は複雑すぎて、混乱しました。作品の途中に「疑問のかずかず」という章があって、金田一耕助が疑問点を箇条書きで整理しているのは、わかりやすくて良かったと思います。真相は結構面白いのですが、謎解きとしては比較的難易度が低く、印象に残らない作品です。私は真相の一部しか見抜くことができませんでしたが、じっくり考えればほとんどの謎を見抜くことは可能だと思います。 (若干のネタバレをしています。) 岡戸竜平が息子の朱之助と後妻の操との密会を受認していることや、犯人が朱之助に対して〇〇に行くように電話をしていることなど、作品の設定上で疑問に感じる箇所がありました。 |
No.134 | 7点 | 仮面舞踏会 横溝正史 |
(2011/10/05 19:38登録) 再読です。マッチ棒のメッセージや真相のごく一部を覚えていたくらいで、犯人や細かい事件の内容は覚えていませんでした。昭和35年の舞台設定ですが、事件の真相には戦時中の混乱が影響しており、入り組んだ人間関係がもたらした悲劇と言えます。昭和35年8月に起こった事件と、1年前の事件とがクロスしながら記述されており、どちらの話だったかなとゴチャゴチャになってわかりにくく感じました。衣服に付いていた蛾の鱗粉、鍵束から外された鍵、盆踊りの拡声器の音が聞こえていたかどうかなど、物証等から論理的に推理を推し進めている点は好感が持てます。真相はかなり意外で面白いものですが、若干無理があると感じる箇所もあります。金田一耕助の真相説明は、自ら「多分に臆説的なところがある」と言っているように、ちょっと飛躍的な推理です。マッチ棒のメッセージに関しては、その意味するところを読者が解読するのは困難ですが、そのメッセージがなぜ残されていたのかという理由の説明には納得できました。 (完全にネタバレをしています。要注意!) 赤緑色盲を扱ったミステリはいくつか読んだことがありますが、本作品ではマッチ棒のメッセージやゴルフ場のグリーンでの露見など見せ方が巧みで、全体の真相を推理する重要な鍵にもなっており、うまく活かされていると思います。 真相で無理があると感じたのは、田代が津村の死体を隠し戸棚に隠したり、衣服を奪って津村が生きているように見せかけたところ。また、篤子が戦時中に美沙の身代わりとして替え玉を連れてきているのですが、伏線不足で読者がそれを推理するのは難しいと思います。 |
No.133 | 5点 | 白と黒 横溝正史 |
(2011/10/02 09:26登録) 再読です。猟奇性はなく、サスペンス性も抑え目で横溝作品としては地味な作品。金田一耕助の鮮やかな推理で解決するのではなく、捜査の進展に伴って徐々に真相が明らかとなっていく作品で、本格ミステリというよりも社会派の側に若干シフトしたような印象です。団地内を横行する怪文書、コールタールで顔が焼けただれた死体、被害者の謎の過去、被害者を訪問したと思われる人物の失踪、容疑者とみなされる人物の逃亡、怪文書に書かれた「白と黒」の意味など、複雑な事件に見せることには成功していますが、真相を読むとうまくまとめてはいると思いますが、想定の範囲内というか、特に驚くような箇所はありません。「顔のない死体」のバリエーションとも言えますが、ストレートすぎる真相です。登場人物の過去など、人間関係をちょっとゴチャゴチャさせすぎている感じがします。捜査を進展させるために、金田一耕助がある策(いたずら)を講じているのが興味深いところです。 |
No.132 | 6点 | 迷路荘の惨劇 横溝正史 |
(2011/09/27 20:37登録) 再読です。過去の殺人事件とのつながり、片腕の怪人の登場、抜け穴や洞穴の探検など、横溝作品らしい仕掛けが詰め込まれた作品です。 抜け穴のある館での連続殺人事件を扱った作品ですが、抜け穴が密室トリックの言い訳になっているのではなく、犯行経路やアリバイの条件として、うまく活かされています。複雑な真相で、ひねりすぎのあまり、逆にまとまりが悪くなっている印象を受けます。密室トリックも出てきますが、大したものではなく、この作品の枝葉に過ぎません。登場人物それぞれが不可解な行動を取った結果の総和として、複雑な謎が形成されており、その謎を推理するのが主眼の作品です。しかしながら、各人が取った行為には合理性、必然性に欠けているように感じられるものもあり、また、手掛かりが不足していて、この真相を読者が言い当てるのは困難だと思います。 最後に犯人は壮絶、悲惨な死を迎えますが、「罪を憎んで人を憎まず」の金田一耕助にしては珍しく、この犯人に対しては嫌悪と侮蔑の言葉を吐いているのが印象的です。 |
No.131 | 6点 | 悪霊島 横溝正史 |
(2011/09/24 21:32登録) 再読のはずですが、ほとんど記憶にない作品でした。スケールの大きな作品で、舞台設定、人物設定などの物語の作り込みは往年の名作に匹敵する出来映えですが、謎解きとしてははるかに及ばない印象です。テープレコーダーに吹き込まれたダイイングメッセージ、三人の人物の失踪、市子殺しとその手紙、神主殺しの殺人方法など、謎の提示は魅力的なのですが、真相は常識的で意外性や驚きがありません。犯人像が十分に描かれていない点も不満です。シャム双生児、洞窟の探検など、江戸川乱歩の「孤島の鬼」を連想させる作品で、本格ミステリというよりも犯罪冒険小説よりの作品という印象を受けました。 (完全にネタバレをしています。要注意!) 洞窟探検の末に見つけた事実が、常軌を逸した人間の犯行であったというのは、本格ミステリの観点からみるといただけない真相です。本格的要素が感じられるのは神主殺しに関する推理だけで、三人の人物の失踪に何かあるのかと思っていましたが、特に何もなくて、三人とも殺されていたというのは拍子抜けでした。また、片帆殺しの動機が示されていないと思うのですが、単に常軌を逸した人間の犯行ということなのでしょうか。 |
No.130 | 4点 | 吸血蛾 横溝正史 |
(2011/09/19 16:55登録) 再読です。ファッションモデルが連続して殺されるという粗筋を覚えていたくらいで、犯人も真相も全く忘れていました。金田一耕助が登場する、猟奇的な作品で、狼男の登場、死体発見場面など、相変わらず過剰とも言える演出がされています。 プロットが複雑すぎて、スッキリとしておらず、理解できない箇所が多いです。登場人物それぞれが不思議な行動を取っていて、さらにそれをサポートする人物が登場するなど、真相が見えにくくはなっているのですが。 真相を読むと、ある出来事が原因となって、この犯罪計画が生じているのですが、ある出来事と全体の犯罪計画との結びつきに飛躍があるように感じます。動機に関して、ある出来事に係る殺人の理由は理解できるのですが、それ以外の殺人の理由は皆目わからないし、作品中でも明確に説明されていません。ムッシューQなる謎の人物の登場に関しても、ある人物がムッシューQを演じた理由には理解しがたいものがあります。 最後まで、不明なことが多く、この作品では金田一耕助も精彩を欠いています。 この時期に書かれた猟奇的な作品の個人的評価は、「悪魔の寵児」>「幽霊男」>「吸血蛾」の順番です。 (ネタバレをしています。注意!) 最初の発見死体は、人形工房でマネキンの入った箱とラベルの入れ替えが行われているのですが、犯人が死体の入った箱を工房に持ち込んだ際に、浅茅文代のアトリエ発注のマネキンの入った箱が近くにあったというのはちょっと都合が良すぎるのではないでしょうか。 その他にも、3人のモデルが拘束された倉庫の場所を犯人がどうやって知ったのか、犯人が自分の名前を告げられる危険があったにも拘らず日高ユリに杉野弓子あてに電話を掛けさせたこと、当然犯人にも警察の監視が付いていたと思われるがそれをかいくぐって倉庫まで行けたことなど、わからないことが多すぎます。 |
No.129 | 6点 | 幽霊男 横溝正史 |
(2011/09/17 13:27登録) 再読です。初めて読んだ横溝作品で、角川文庫のカバーのイラストがミイラ男みたいで一番目につく作品でした。 金田一耕助が登場する、猟奇的な作品で、サスペンス性を強調するあまり、演出過剰のきらいがあります。ストリップ劇場での死体発見場面などは、警察が厳重な警戒をする中で犯人がこの演出を行うのはさすがに無理だと思いました。マダムXなる謎の女性の登場もちょっと唐突に感じます。いろいろ詰め込みすぎて、プロットを複雑にしすぎではないでしょうか。 幽霊男が誰なのかというのが最大の謎なのですが、それに関するある秘密は途中で明かされます。それよりも、武智マリが殺された理由に関する謎の真相が優れており、犯人を特定する決め手になっています。謎解きとしては、まずまずの作品ではないでしょうか。 (若干のネタバレをしています。注意!) 幽霊男とみられる人物がタクシーの運転手に扮装して、菊池陽介と宮川美津子を車に乗せる場面があるのですが、さすがにこれは都合が良すぎると思いましたが、真相を知るとご都合主義でもないことがわかります。武智マリが殺された理由に関する謎が面白いのですが、読んでいるだけでは地理的な関係がわかりにくいことが難点です。また、武智マリがハンカチを落としたことを言わなかった理由がよくわかりません。 |
No.128 | 7点 | 悪魔の寵児 横溝正史 |
(2011/09/13 19:16登録) 再読です。これぐらいの作品だと完全に忘れていると思っていましたが、作者が仕掛けたミスディレクションに気付き(思い出し)、したがって犯人もわかりました。 金田一耕助が登場する、都会を舞台とする猟奇的な作品で、謎の雨男の出現、蝋人形館での冒険、エログロな死体の発見場面などの演出でサスペンス性を盛り上げています。犯人を誤認させるトリックや異常な人物のキャスティングなどによって、推理を混乱させることにも成功していると思います。心中事件の挨拶状の枚数やご神託の意味など、真相説明を読んでなるほどと思う箇所もありました。一方、不満なところも何箇所かあります。犯人が相当な危険を冒して犯行に及んでいる点は不自然ですし、水上三太が石川宏を発見した経緯も都合が良すぎます。プロットが複雑な割には、金田一耕助の真相説明が簡略すぎるのも不満です。全部で8人が死亡、石川兄妹が誘拐されるなど、ここまで警察が無能というのも普通は考えられないことです。また、金田一耕助が途中で知り得たある秘密が、真相説明まで伏せられていますが、その秘密を明らかにすることで謎解きが格段にグレードダウンするので、これはやむをえないでしょう(金田一耕助が何を調べていたかは明示されています)。 作者の他の有名作品と比較すると、物語としての重厚さはなく、エログロ表現があるためにそれほど評価されていませんが、謎解きミステリとしてはなかなかの作品ではないでしょうか。 |
No.127 | 6点 | 女王蜂 横溝正史 |
(2011/09/10 17:18登録) 再読です。智子という「絶世の美女」のヒロインは覚えていましたが、犯人やトリックは覚えていませんでした。写真の謎の真相や19年前の密室の真相はまずまずですが、特筆するほどの箇所がなく、謎解きとしてはあまり印象に残らない作品です。手掛かりが不足気味で、金田一耕助も推理に確信を持っていたとは思えず、それでこのような結末になったのでしょう。 ストーリーにもちょっと無理矢理感があります。智子の迎えに九十九龍馬のような人物を普通選ばないでしょうし、多門連太郎の登場も取って付けたような感じがしました。19年前の事件に関しても、犯人がわざわざあのようなことを危険を犯してまでやる必要はない(もっと単純な方法で殺せたのではないか)と思います。 |
No.126 | 8点 | 悪魔の手毬唄 横溝正史 |
(2011/09/06 20:39登録) 再読です。人間関係が複雑で、互いの関係を追いかけるだけでも大変ですが、表面に現れていない人間関係の謎をいかに解くかが主眼の作品です。3つの見立て殺人よりも、約二十年前の殺人・失踪事件の真相の方がこの作品の肝と言えるでしょう。殺害方法やアリバイには特にトリックが使われておらず、アリバイに関しては謎の老婆の存在によって、問題にもされていません。 よく言われる金田一耕助の犯行阻止率の低さの観点からみると、せめて最後の殺人だけでも阻止すべきでした。金田一耕助が峠で老婆とすれちがう場面など、ミステリーとしての雰囲気は横溝作品の中でも最高ランクの作品です。 (ネタバレをしています。注意!) 見立ての理由は、失踪を偽装した人物に罪をなすりつけるためのものであり、個人的には必然性がないとは思いません。 約二十年前の殺人・失踪事件の真相に関しては、時間的な重なりや人との接触などの面から、このトリックが成立するかどうかを読者が判断するのは困難に感じます。また、金田一耕助は泰子殺しの犯人を、一つの道が崖くずれで不通になっていることを知らない人物であると推理して絞っていますが、文章を読んでいるだけでは周辺の地理的関係がわかりにくいのが難点と言えます。 |
No.125 | 10点 | 獄門島 横溝正史 |
(2011/09/04 05:30登録) 再読です。初読時に結構感心した作品で、犯人や有名な「てにをはの問題」、見立て殺人の概要などは鮮明に覚えていました。読み返してみて、やはり傑作だと感じました。 3つの殺人事件それぞれに工夫があります。いずれも犯行時に良い条件が揃いすぎていて、うまく行き過ぎの感はありますが。第1の殺人は大胆な犯行で、「てにをはの問題」を含めて3つの錯誤で読者を混乱させています。第2の殺人では吊り鐘を用いたトリックによって、第3の殺人では殺人方法によって、読者を欺いています。また、連続殺人を起こさせるための仕掛けや、レッドへリングとなる人物のもぐり込ませ方もうまいと思いました。 このサイトでの評価が低い理由としては、犯人の設定、動機、金田一耕助の探偵役としての不甲斐なさがあるようです。犯人や動機に関しては、人物設定や舞台設定によって説得力をもたせるような工夫がなされており、個人的には納得できるものでした。金田一耕助が探偵役として機能していないという意見に関しては、少なくとも最初の2つの殺人は防ぐ術はありません。最後の殺人は防ぐことは出来たかもしれませんが、金田一耕助自身が山狩りに駆り出され、居残った人、特に男性2人に後を託したのですが、その2人が全く役に立たなかったという不運もありました。最後の殺人までに真相を見抜くのは困難だったと思います。 (ネタバレをしています。注意!) 犯人は罰を受けることをおそれて探偵を欺こうとしているのではなく、探偵に正々堂々のフェアプレーを挑み、見抜かれることをある意味、期待しています(このことは犯人の告白で述べられていますし、金田一耕助の説明でも触れられています)。犯人から探偵役に対して、過剰な伏線が示されているとも言えます。 見立てに関しては、それ自体はトリックにはなっていませんが、実行犯が見立てを行おうとした理由(計画立案者の意思の尊重と探偵役への挑戦)には納得できました。 |
No.124 | 9点 | 犬神家の一族 横溝正史 |
(2011/09/01 18:37登録) 映像作品を見た印象ではそれほど大した作品だとは思いませんでしたが、書物を読んでみて本格ミステリの傑作であることがわかりました。 犯人の意外性はなく、偶然を多用しすぎている感はあるものの、真相の意外性という面では非常に成功している作品です。この真相を成立させるための人間関係の構築が絶妙。4つの殺人が行われるのですが、第3の殺人事件におけるある錯誤も巧妙ですが、特に私が気に入っているのは指紋の謎の処理の仕方です。また、最後の殺人事件がめくらましになっていますが、この殺人を成立させるための工夫もうまいと思いました。 湖上での逆さま死体など、視覚面でインパクトがあって映像向きの作品なのでしょうが、連続的に流れていく映像作品ではじっくりと考える余裕がありません。この作品の本格ミステリとしての出来の良さは書物で読んでこそ味わえると思います。 |