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ミステリの祭典

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E-BANKERさんの登録情報
平均点:6.00点 書評数:1851件

プロフィール| 書評

No.11 7点 空飛ぶタイヤ
池井戸潤
(2009/08/02 22:25登録)
熱いオヤジたちの戦いに涙するエンターテイメント小説。
直木賞候補にも挙げられた佳作です。
~トレーラーの走行中に外れたタイヤは凶器と化し、通りがかりの母子を襲った。タイヤが飛んだ原因は「整備不良」なのか、それとも・・・。自動車会社、銀行、警察、週刊誌記者、被害者の家族など事故に関わった人それぞれの思惑と苦悩。そして「容疑者」と目された運送会社の社長が、家族や仲間とともに事故の真相に迫る。オヤジの戦いに思わず胸が熱くなる!~

粗筋からも明らかなように、本作は数年前に起こった某○菱自動車のトラックタイヤ脱輪事故を下敷きとしています。
そして、主人公として、社会の不条理に挑むのは、零細運送会社の中年社長!
大企業やメガバンクといった「厚き壁」に何度も跳ね返されるが・・・決してあきらめない!
そして、徐々に同志が増え、ついには感涙のラストを迎えます。
まぁ、このような経済系エンタメ小説を書かせたら、現在の日本で作者の右に出る者はいません。
本作も、突き詰めれば、昔ながらの「浪花節」、「勧善懲悪」といったプロットなのですが、これが実に心地よい!
やっぱり、日本人はこの手の話に弱いんですねぇ・・・
(日本経済の強さの源は、何といっても中小企業の技術力の高さでしょう。そういう意味でも、頑張れ「池井戸」と言いたくなる!)


No.10 9点 時計館の殺人
綾辻行人
(2009/08/02 22:09登録)
中村青司の「館」シリーズ第5弾。
日本推理協会賞受賞が十分に頷ける高レベルの作品ですし、個人的には「十角館」よりも、こちらの方が数倍面白い作品だと思っています。
館を埋める108個もの時計コレクション。鎌倉の森の暗がりに建つその時計館で、10年前に1人の少女が死んだ。館に関わる人々に次々起こる自殺、事故、病死。死者の思いが籠る時計館を訪れた9人の男女に無差別殺人の恐怖が襲う。凄惨な光景の後に明かされるめくるめく真相とは?
ということで、ラスト、探偵島田潔(鹿谷門実)が解明した真相を読んで、久方振りに鳥肌がたちました。
「なるほどねぇ」という一言です。伏線はそこかしこに張られてるわけですし、ヒントは最初からあからさまに示されているんですよねぇ・・・
これはメモをとりながら読み進めるスタイルに非常に適した作品ですね。違和感1つ1つを拾い上げ、その理由を丁寧に検討していけば、読者が真相に迫ることも十分可能でしょう。
エンディングの光景も非常に象徴的。作者の本作への思い入れを感じることもできます。
「館」シリーズということで、これまでいくつもの奇妙な館が登場しましたが、「館」そのものがトリックに直結している例があまりない中、本作は貴重。
「館」のつくりそのものが大いなる欺瞞の象徴なのですから・・・
とにかく、綾辻本格作品の最高峰と断言できる作品ですし、未読の方がいましたら是非ご一読ください。
(被害者たちが、なかなか自分たちが命を狙われる理由に気付かないのが唯一の難点? 普通気付くよな。これは「十角館」でも感じたこと)


No.9 9点 監獄島
加賀美雅之
(2009/08/02 00:20登録)
パリ司法判事・シャルル=ベルトランシリーズの長編2作目。
ノベルズ版で上下分冊というボリュームですが、長さを感じさせないほど素晴らしい作品。
~断崖に囲まれた脱出不可能な孤島、「監獄島」。そこで次々に巻き起こる血で彩られた惨劇! 吊り下げられた火達磨の死体、バラバラ殺人、そして密室・・・パリ警察が誇る名判事ベルトランがこの大いなる謎に挑むのだが・・・~
とにかく、不可能犯罪の連続で息もつかせぬ展開。密室などは序の口で、バラバラ殺人が数種類、火あぶりされた死体は地上高く掲げられたり、おまけに過去の爆発事件まで登場するなど、まぁスゴイですよ。ここまで畳み掛けられたのは、二階堂の「人狼城の恐怖」以来です。
(作者の作品と二階堂作品はかなり相似形ですけど・・・)
トリックだけでなく、プロットもなかなか見事! 「解決したかに見えた事件の背後にさらなる悪が・・・」ということで、その辺り終盤のサプライズの連続にも大いに満足しました。
まぁ、こういうクラシカルなコード型作品は肌に合わないという方もいらっしゃるかもしれませんが、私にとってはまさに「ド・ストライク」な作品。
誰がなんと言おうが、「犯人はおまえだ!」という前の「ゾクゾク感」こそが、ミステリーを読む醍醐味なのだと改めて気付かされます。
「作者渾身の作品」だと思いますが、逆に「出しすぎたんじゃないか」と心配になってきます。こんな作風の作家は貴重ですから、2・3作で燃え尽きないように願うばかりです。
(3作目「風果つる館の殺人」以降、新作の噂を聞かないので心配になってきます)


No.8 5点 仮面山荘殺人事件
東野圭吾
(2009/08/01 23:41登録)
比較的初期のノンシリーズ作品。
ラストで作者が企んだ「大技」が炸裂!する有名作。
~8人の男女が集まる山荘に、逃亡中の銀行強盗が侵入した。外部との連絡を絶たれた8人は脱出を試みるが、ことごとく失敗に終わる。恐怖と緊張が高まるなか、ついに1人が殺される。だが、状況から考えて犯人は強盗たちではあり得なかった。7人の男女は互いに疑心暗鬼に囚われ、パニックに陥っていったが・・・~

ある意味、たいへん作者らしい作品だなぁというのが正直な感想。
細部まで計算され尽くしていて、非常にスキのないプロット&ストーリーに仕上がっています。
ただ、ミステリー中毒の方なら、何となく途中で「カラクリ」については察してしまう可能性が高いのではないですかねぇ?
ちょっと「いかにも」っぽい描写や展開が目に付いたのは事実。
ラストの「種明かし」も「やっぱりねぇ」と思われた読者も多いかもしれません。(私もそう)
というわけで、あまり高い評価はしにくいんですよねぇ・・・
(「東野圭吾」というだけで、ついついハードルを上げてしまいます)


No.7 9点 黒いトランク
鮎川哲也
(2009/08/01 23:26登録)
鬼貫警部シリーズ。
大作家鮎川哲也の出世作であり、戦後日本のミステリー史に燦然と輝く作品なのは間違いない名作。
国鉄汐留駅でトランク詰めの男の腐乱死体が発見され、荷物の送り主が溺死体となって見つかり、事件はあっけなく解決したかに思えた。だか、かつて思いを寄せた女性からの依頼で九州へ駆けつけた鬼貫の前に青ずくめの衣装の男が出現。アリバイの鉄の壁が立ち塞がる・・・
本作が、F.Wクロフツの名作「樽」にインスパイアされて生み出されたのは有名ですが、アリバイ作りの緻密さでは、本家を数倍上回っています。
確かに、今となっては、アリバイトリックの類型的な技法といえるものなのですが、発想自体が斬新! 鉄道・船を有機的に組み合わせた「人間」のアリバイトリックと、複数の「トランク」の動きが複雑に絡み合っており、作者の並々ならぬ能力の高さを感じさせられる、そんな作品です。
これ以降、「鬼貫シリーズといえばアリバイトリック」ということになるのですが、正直、本作を超える作品は生み出されなかったというのが本作のスゴさを象徴しています。
(鬼貫物では、古き良き時代の列車時刻表が登場するのも魅力的。今のJR時刻表の味気ないことと言えば・・・どうしようもないくらい)


No.6 7点 倒錯の死角−201号室の女−
折原一
(2009/07/30 22:39登録)
「倒錯」シリーズの第1作。
作者の「叙述トリック」を世間に認知させたという意味では、本作と「倒錯のロンド」が双璧でしょう。
覗く男と覗かれる女が織り成すエンドレスストーリー。そこに、女の不倫相手や空き巣の常習犯の男が複雑に絡み合い、摩訶不思議な世界が出現する・・・
個人的には、「倒錯のロンド」で初めて折原の叙述トリックに触れ、「これは面白い!」と感じ、次に手にしたのが本作。これで、ますます折原ワールドに嵌っていくことになった記念すべき作品・・・
まぁ、ある人物に関する仕掛けについては、「○○的に無理があるだろう!」という突っ込みはもちろん感じるのですが、そもそも狂人たちが織り成す物語のわけですから、それもありでしょう。
とにかく、折原作品の中でも、指折りの面白さだと思いますし、ここに出てくるキャラ(清水とか大沢とか田宮とか)は、後の作品にもたびたび登場してきます
ので、是非ご一読して独特の世界に浸って欲しいと思います。
(「倒錯シリーズ」の主な舞台は北区東十条、「~者シリーズ」なら埼玉県の久喜市周辺、という具合に、シリーズごとに場所を明確に変えているが面白い趣向)


No.5 7点 盗まれた都市
西村京太郎
(2009/07/30 22:32登録)
私立探偵、左門字進シリーズ。
日米ハーフの名探偵左門字が活躍するシリーズは、作者初期の野心溢れる良質な作品が並んでいます。
人口10万人のある地方都市が、ある日を境に突如「反東京」という狂気に支配されてしまう。その謎を解明すべく乗り込んだ左門字夫妻は、たちまち狂気に巻き込まれ、あげくの果てには殺人事件の容疑者にされてしまう。さて、この「狂気」の正体は何か? というのが本作の粗筋。
何はともあれ、この「プロット」自体がたいへんによくできており、面白い。
左門字もこの理不尽な狂気に巻き込まれるわけですが、それに対して冷静にかつ鋭い観察&推理力で対抗する姿に何ともいえない魅力を感じてしまいます。
真相は、意外といえば意外で、想定内といえば想定内(どっちだ?)。
現実的に考えて、マスコミはともかく市民感情をここまでコントロールできるのか? という疑問は湧くのですが、ナチズムの例を出すまでもなく、人間とは「より声の大きい方」へ流されてしまう特徴があるのでしょうし、特に日本人はその危険性がより大きいような気はします。
まぁ、昨今溢れてる作者のトラベルミステリーとは一味も二味も違う作品ですし、一読に値すると言ってよいでしょう。
(マスコミの功罪って大きいですよねぇ・・・本作を読んで、まず感じるのはこのこと。マスコミの良心ってなんなんでしょうか?)


No.4 6点 マジックミラー
有栖川有栖
(2009/07/30 22:17登録)
講談社から出した最初の作品。
火村准教授も江神さんも登場しないノンシリーズの1冊。
~琵琶湖に近い余呉湖畔で女性の死体が発見された。殺害時刻に彼女の夫は博多、双子の弟は酒田にいてアリバイは完璧。しかし、兄弟を疑う被害者の妹は推理作家の空知とともに探偵に調査を依頼する。そして謎めく第2の殺人が・・・犯人が作り出した驚愕のトリックとは?~

作者としては珍しく(と言うかこれ1作だけでは)、時刻表まで駆使したトラベルミステリー風アリバイ崩し。
ただし、そこは「新本格の雄」とも称される作者ですから、単なる旅情ミステリーではありません。
「双子」というのも1回はトライしてみたくなるテーマなんでしょうねぇ。
きれいにとはいかないまでも、なかなか巧みな騙し方だとは思います。
それと、やっぱり「アリバイ講義」(!)。
書きたかったんでしょうねぇ・・・
というわけで、ボリュームの割にはいろんな要素を詰め込んでいて、まずは読んで損のない1冊ではあるでしょう。
(プロットそのもは既視感あり。まぁそれは致し方ないですね。)


No.3 5点 摩天楼の怪人
島田荘司
(2009/07/28 22:45登録)
御手洗潔シリーズですが、舞台はNY。
NYに留学中ということで、若き日の御手洗の姿がなかなか凛々しく描かれてます。
~ニューヨーク・マンハッタン。高層アパートの1室で死の床にある大女優が半世紀近く前の殺人を告白した。事件現場は1階、そのとき彼女は34階の自室にいてアリバイは完璧だったというのに・・・。その不可能犯罪の真相は、彼女のいう「ファントム」とは誰なのか? 建築家の不可解な死、時計塔の凄惨な殺人、相次いだ女たちの自殺、若き御手洗が摩天楼の壮大な謎を鮮やかに解く!~

今回は、マンハッタンに聳え立つ高層マンションが事件の舞台&主役。
嵐の日に起きた殺人事件、エレベーターが停止したにもかかわらず、50階から1階へテレポーテーションしたとしか思えない、という不可能状況に御手洗が挑む・・・というのが本筋。
トリックについては、読者に解明しろというのはちょっと酷じゃないかというレベルで、「へぇーそんな秘密があったのねぇー」というような読後感になっちゃいます。
この辺り、「荒わざ」とか「荒唐無稽」とか言われても、読者には想像可能な範囲内にあった初期~中期の作品に比べると、どうしても不満感が残る感じなんですよねぇ・・・(作者が進化したということかもしれませんが)
あと、本筋とはあまりリンクしてませんが、摩天楼やNYセントラルパークの歴史などの薀蓄はなかなか面白く読ませていただきました。
(本作はタイトルからも分かるように、ルルー「オペラ座の怪人」が下敷きになってます。そういう意味では、自然に真犯人も分かっちゃうんですよねぇ・・・)


No.2 7点 出雲伝説7/8の殺人
島田荘司
(2009/07/28 22:35登録)
吉敷刑事シリーズの第2作目。
今回の舞台は、山陰地方と寝台特急「出雲」!
~山陰地方を走る6つのローカル線の終点と大阪駅に女性のバラバラ死体が流れ着くという大事件が発生、なぜか頭部だけは発見されず。捜査の結果、被害者の女性は死亡推定時刻に「出雲1号」に乗車していたことが判明するも、容疑者には鉄壁ともいうべきアリバイが・・・~

寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁に続く、吉敷刑事分数シリーズですが、猟奇的な殺害方法や不可能状況といった、初期島田作品に共通のガジェットが本作品でも多く取り入れられています。
列車を使ったアリバイトリックというと、好き嫌いの分かれる分野かもしれませんが、やはり島田流トラベルミステリーは一味も二味も違うというべきで、バラバラ殺人の必然性とアリバイトリックをうまい具合に処理しています。
ただし、この設定も今は昔。登場した列車やローカル線の大部分は今は消滅しているのが悲しい・・・
事件の背景として引用される「ヤマタノオロチ」伝説へのなぞらえ方も見事に嵌っていて、水準以上のミステリーに仕上がっています。
(本作までの吉敷はキャラがはっきりしてませんね。その分、次作「北の夕鶴」での吉敷の変身振りに驚くことに!)


No.1 4点 奇跡の人
真保裕一
(2009/07/28 22:29登録)
ストーリーテラーとして定評のある作者としては中途半端な作品。主人公をはじめ登場人物のキャラもなにかしっくりこない印象。もう少しやりようがあったのでは?

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