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平均点:6.01点 | 書評数:1812件 |
No.1652 | 5点 | モノグラム殺人事件 ソフィー・ハナ |
(2021/07/01 20:52登録) クリスティの孫も「公認」したポワロシリーズの続編としての位置付けである本作。 出版社が白羽の矢を立てたソフィー・ハナは9冊のミステリーを上梓している現代英国の有名作家(とのこと) 2014年の発表。 ~名探偵エルキュール・ポワロはお気に入りの珈琲館で夕べのひと時を過ごしていた。灰色の脳細胞の束の間の休息。そこへひとりの半狂乱の女が駆け込んできた。どうやら誰かに追われているようだ。ポワロが事情を尋ねると意外な言葉が。彼女は「殺される予定」というのだ。しかも、その女はそれは当然の報いであり殺されたとしても決して捜査しないでと懇願し、夜の街へと姿を消した。同じ頃、ロンドンの一流ホテルで三人の男女が殺害された。すべての死体の口にはモノグラム付のカフスボタンが入れられていた!~ 本作。プロットがかなり錯綜している。 いや「錯綜」というよりは「混乱」と言う方がいいのか。巻末解説者はE.クリスピンの言葉を引用してクリスティの良さを「簡潔平明さ」と評されており、同時に本作には致命的にそれが欠けていることを残念がられている。 これは・・・そのとおり。 本作のポワロは原典以上に人が悪い。今回の相棒となるスコットランドヤードの若き刑事キャッチプールの指導のためと称して、事件の真相をなかなか詳らかにしないどころか、彼の推理力を試すかのように意味不明な言動を行っていく。 「高級ホテルで起こる三人の殺人事件」⇒「動機をめぐり英国の小村での困難な捜査」⇒「浮かび上がる過去の事件に纏わる動機」という、冒頭から中盤までの展開はまだ良かった。 ただ、例えば魅力的な物証(モノグラム付のカフスボタンやきれいに整頓された死体)も結局ダイレクトには真相と結びついておらず、どうにも「クリスティらしく飾っただけ」という印象が拭えない。 それと、そう。楽しくないのだ。読んでて。 それが一番の不満点かな。 やっぱり、クリスティは偉大だった! そのことをなお一層意識させられたのが、一番の収穫ということかな。まだ未読作品はあるのだから、素直にクリスティの作品を手に取ればいいのだ。 |
No.1651 | 6点 | ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで 真梨幸子 |
(2021/07/01 20:51登録) 舞台は業界でも老舗の「万両百貨店」。その中でも特に優秀な社員が集められた『外商部』! お客様のためなら、「ゆりかごから墓場まで」用意することも辞さない。まさにプロの営業職。そんな方々が巻き込まれる事件の数々を描く連作短編集。 2018年の発表。 ①「タニマチ」=その名も「熱海乙女歌劇団」の冴えないメンバーを応援するコアな団体。そんな冴えない団体のメンバーは実は・・・。そして、本作の主人公「大塚佐知子」は更なるタニマチを探して・・・ ②「トイチ」=作中でも触れられてるが、「トイチ」とは法外な利息のことではなく、百貨店の隠語で「上客」のことを指す(らしい)。初めてデパチカで働くことになった三十路女性をめぐるあれやこれやが本編の中身。そして、周りの人々も徐々に巻き込まれていくことに・・・ ③「インゴ」=大事に育てたはずの娘が妙な方向にねじ曲がっていく・・・。そんな女性もひょんなことから、万両百貨店のデパチカへ派遣されることに・・・。②の続きで妙なことになっているデパチカでまたまた事件は起こる。 ④「イッピン」=外商部は某有名芸能人の話し相手にもなる! そんなことも現実には起こるんだろうか? そんな我儘芸能人がスキャンダルのすえ徐々に狂っていく。そして、最後に明かされる「イッピン」とは・・・これ? ⑤「ゾンビ」=桁違いの金持ちの気持ちはよく分からん、って思わせる一編。そんな世間の感覚とかけ離れた相手も外商部にとっては一番の上客なわけで。 ⑥「ニンビー」=連作の終盤に来て不穏な空気が!って感じの第6編。「ニンビー」=not in my back yardということで、白金にある事故物件がクローズアップされる。この事故物件に纏わる過去の一家心中事件に大塚佐知子が関わっているらしい・・・ ⑦「マネキン」=デパートに派遣された売り子(死語?)さんのこと。珍しいほどの美女のマネキンが失踪。事件に巻き込まれたようなのだが、⑥の事件も関わっているらしく・・・ラストスパートへ ⑧「コドク」=「孤独」ではなく「蟲毒」の意。外商のことを「蟲毒」と称しているのだが、そんなにスゴイ職業なんだろうか? 一応、連作の結末が付く。 以上8編。 プロット&仕掛けは面白いと思った。連作らしく徐々に深まった謎が終盤にかけ、一気に解きほぐされ、頭の中の霧が晴れていく感覚。それは本作でも味わうことは可能。 ただ、もうひと捻りあればなぁーという気にはなった。特に大塚佐知子については、”黒い疑惑”が徐々に高まっていただけに、更なるサプライズがあっても良かったな。 まぁ全般的には水準級の面白さはあるという評価。 |
No.1650 | 6点 | ロードサイド・クロス ジェフリー・ディーヴァー |
(2021/06/08 20:21登録) キネティクスの達人キャサリン・ダンスシリーズの二作目。 前作の後日談も関わってくる今回の事件は、新しい犯罪の形を示したもののようだが・・・ 2010年の発表。 ~路傍に立てられた死者を弔う十字架・・・刻まれた死の日付は明日。そして問題の日、十字架に名の刻まれた女子高生が命を狙われ、九死に一生を得た。事件は連続殺人未遂に発展。被害者はいずれもネットいじめに加担しており、いじめを受けた少年は失踪していた。尋問の天才キャサリン・ダンスは、少年の行方を追うのだが・・・~ キャサリン・ダンスシリーズ二番目の事件は、最初の事件が解決を見た興奮も冷めやらぬ間に発生した。 今回の戦場は、SNS(主にブログだけど)とネットゲーム。 10年前だと最新の舞台だったのかもしれないけど、今となってはやや古臭さを感じてしまうところはやむなし。 ”尋問の天才”の異名を持つダンスにとっても、ネットの世界は門外漢であり、得意技を封じられたなかでの捜査にいつにもまして苦悩することとなる。 そんなダンスに今回救いの手を差し伸べるのが、カリフォルニア大学教授にしてネット世界に精通するJ.ボーリング。物語のなかでは、ダンス⇔オニールと微妙な三角関係をもたらすことになる。 作者の作品に対しては、個人的に「疾走感」を求めてしまうのだが、本作も前作同様、この「疾走感」が感じられないのがどうもなぁ・・・ 特に、今回は当初から犯人と目される人物の「捨て筋」感が半端ないところが目に付いてしまう。 物語の中盤、予想通りに「彼」が犯人でないことに気付くわけだけど、そうなるとそれまでのダンスたちの捜査行がなぁー。どうにも無駄なものを読まされたように思えてしまう。(もちろん伏線は張られているのだが・・・) で、今回の真犯人。うーん。魅力なさすぎ。 ライムシリーズならば、「コフィンダンサー」然り「ウオッチメイカー」然り、実に恐ろしく魅力的な犯人役が目白押しなんだけど、それに比べると・・・小粒感が半端ない。 もちろん水準級の面白さは持ち合わせていることは事実。でも、読者は期待してしまうものなんだよ。 (他の方も指摘されてるとおり、安楽死事件についてももう少し本筋と絡んでくるかと思ったけど・・・) |
No.1649 | 5点 | 四季 冬 森博嗣 |
(2021/06/08 20:20登録) 「四季」四部作もついに最終作。タイトルは当然に「冬」。 真賀田四季をめぐる物語は一体どんな結末を迎えるのか? それは果たして私の理解の範疇なのか? 2004年の発表。 ~「それでも、人は、類型の中に夢を見ることが可能です」四季はそう言った。生も死も、時間という概念をも自らの中で解体し再構築し、新たな価値を与える彼女。超然とありつづけながら、成熟する天才の内側を、ある殺人事件を通して描く。作者のひとつの到達点であり新たな作品世界の入口ともなる四部作完結編~ うーん。『よく分からん』 以上! てな具合で書評を終えてもいいくらいの作品だった。 これは真賀田四季の頭の中なのか、内面なのか、はたまた作者自身の頭の中の光景なのか? 平々凡々たる私の頭では、なんとも曖昧模糊とした感覚でしかない。 終章の四季と犀川の場面。 これは時間軸としては一体どうなっているのか? 「今」なのか、「100年後(?)」なのか、単に四季の想像の産物なのか・・・ それでも実に教唆に富む言葉を四季は放っていく。 『そもそも、生きていることの方が異常なのです。死んでいることが本来で、生きているというのは、そうですね、機械が故障しているような状態。生命なんて、バグです・・・』 だそうです。でも、何となく頷けるような気もしたりして・・・ これで一応、彼女をめぐる物語には一応のピリオドが打たれる。そして、紹介文にもあるとおり、新しい作品世界が始まることとなる。 我々読者は、作者の大きな手のひらのなかで弄ばれる存在のよう。いや、次々と作者が制作したフィルムを見せられる「ゲスト」というべきか。 いずれにしても次のステージへ進むことにしようか・・・ (よく分からん書評でスミマセン) |
No.1648 | 5点 | 菩提樹荘の殺人 有栖川有栖 |
(2021/06/08 20:19登録) 「火村&アリス」シリーズの数ある短編集のうちの一冊。 作者があとがきで書いているとおり、収録された四作には「若さ」という共通のモチーフがある・・・とのこと。 2013年発表。 ①「アポロンのナイフ」=東京都内で起こった美少年による連続殺人事件。その美少年が大阪でも殺人事件を? という内容で引っ張るのだが、ラストは割と意外な展開に。でも、途中から火村がこの人物にえらく拘ってたから、凡その察しはついてしまう。 ②「雛人形を笑え」=いかにも大阪らしい(?)。お笑いコンビ(しかも男女コンビ)の片割れが殺害される事件が発生。「オチ」が決まるかどうかがプロットの肝というところからして”いかにも”。(時期からして南海キャンディーズ当りがモデル?違うか・・・) ③「探偵、青の時代」=名探偵・火村英生の「エピソード・ゼロ」的な一編。学生時代から火村は変人だったと思わせる一方、「若いっていいよなぁー」っていうノスタルジイを感じさせる。でもそれだけと言えばそれだけ。 ④「菩提樹荘の殺人」=齢53にして30代半ばにしか見えないという「アンチエイジングの寵児」が別荘で殺害される。途中から容疑者は四人に絞られるわけだが、真犯人を特定する「鍵」がまさかアレとは・・・。アレがこっそり伏線だったんだね・・・。でもそれだけと言えばそれだけ。 以上4編。 毎度ながら安定感は半端ないこのシリーズ。このシリーズ作品の書評を書くと、いつもこんな感じになってしまう。 決して突き抜けるような出来はなく、いつも平均点くらいの評価。 でもこれってかなり難しいことなのかもしれない。多くのミステリファンが安心して楽しめる短編作品。あるようであまりない(ような気もする)。 でもねぇ・・・。せっかくだから、火村にももう少し痺れるような謎解きの場を与えてあげてもいいのではないでしょうか。本作も、馴染みの大阪府警や兵庫県警の面々、そして名パートナーである有栖に囲まれ・・・っていう環境だからね。この辺からして、平均点に落ち着く原因なんだろう。 (ベストは④かな。他もそれほど差はない。本シリーズって関西の隠れた名所を紹介してくれるんで、そういう意味ではガイドブック的機能もあるように思う。今は関西行けないけどな・・・) |
No.1647 | 6点 | 四つの兇器 ジョン・ディクスン・カー |
(2021/05/13 22:21登録) 全五作から成るアンリ・バンコランを探偵役とするシリーズの最終作。他の方も触れてますが、四作目となる「蝋人形の館」(1932年)から5年のタイムラグを経て、その間すでにフェル博士とH・Mもすでに登場する中でのバンコランの再登板という状況。そこにはいろいろと事情があったようですが・・・ 1937年の発表。原題は“The Four False Weapon”(→四つの誤った凶器) ~依頼人であるラルフ・ダグラスと高級娼婦ローズの関係を清算すべく青年弁護士リチャードがパリ近郊の別宅に到着したとき、娼婦はすでに寝室でこと切れていた。死体発見現場からはカミソリとピストルと睡眠薬、そして短剣が見つかる。過剰に配置された凶器は何を意味するのか。不可能犯罪の巨匠カーの最初期を彩った名探偵アンリ・バンコランの最後の事件を描いた長編~ カーらしく中身が詰め込まれ過ぎて、ややこしくなっている感がある。いろんな要素を一度に、一か所に詰め込み過ぎたせいだろう。 でもまぁそれがカーの良さには違いない。 今回、創元文庫の新訳版で読了したわけだが、第14章から第15章にかけてのバンコランの謎解き、”多すぎる凶器”や謎のレインコートの男など、バラバラに配置された要素が、彼の叡智によって解きほぐされる刹那。 確かにそこには往年のカーの腕力が込められていた。 でも待てよ、まだ残りのページ多くない?って思ってると炸裂するドンデン返し。 最終的な真相は更にややこしく錯綜している。 複数の人間が偶然にもバラバラな思いで、バラバラな悪事を働く、そこへ更に予想外の人物の要素まで加わる・・・ そりゃ3人が関係してるんだから、ややこしくなるのは間違いなし。 それを見事なまでに解き明かすバンコラン。よく言えば「快刀乱麻」かもしれないけど、悪く言えば「読者には推理不能」という感想になるのはやむなし。 個人的には十分面白かったという感想。けど、あまりにも偶然の要素が強すぎるって思う読者は多いと思う。 それに、バンコランのアクが抜けすぎてるのも不満・・・なのかも! いずれにしても、バンコランを主要キャラクターにしなかったのは作者の英断、かもね。 |
No.1646 | 6点 | 四季 秋 森博嗣 |
(2021/05/13 22:20登録) 時は流れ、「すべてがFになる」(=妃真加島での事件)以後の世界が描かれる本作。 「秋」といえば『実りの秋』となるのか・・・? 2004年の発表。 ~妃真加島で再び起きた殺人事件。その後、姿を消した四季を人はさまざまに噂した。現場に居合わせた西之園萌絵は、不在の四季の存在を意識せずにはいられなかった・・・。犀川准教授が読み解いたメッセージに導かれ、ふたりは今一度彼女との接触を試みる。四季の知られざる一面を鮮やかに描く、感動の第三弾~ なるほど・・・ シリーズファンにとって、本作はまさに“ボーナス・トラック”的な一冊だったんだな。 「犀川と萌絵」、「保呂草と各務」、「紅子と林」、「世津子と祖父江」などなど、これまでのシリーズに登場してきた主要登場人物たちの関係性、更には作者にうまいこと(?)はぐらかされてきた時間軸が鮮やかにお披露目されることになる。 個人的にいうと、vシリーズの異端作「捩れ屋敷の利鈍」の伏線がここで綺麗に回収されたことに感動。 まぁ、ネタバレサイトで凡その「仕掛け」は理解していたわけだけど、これは目の前に示されてみると、やはり「鮮やか」という一言。 あと他の方も書かれてますが、終盤での紅子と萌絵の出会い。「すべてがF」から順に読み継いできた読者としては、ただただ「万感の思い」(!) 本作でもうひとつ感慨深かったのが、萌絵の成長ぶり。 シリーズ当初、二十歳そこそこの世間知らずのお嬢さまだった萌絵。当時はただ自分自身の意見を表明しさえすればよかった「昔」、そして周りの歩調に合わせ、人生の後輩たちの成長にも目配りをしなくてはいけなくなった「今」 当たり前のことだけど、こうやって人は年を重ね、成長していくんだよなぁ・・・という思いを今さらながら強く考えさせられた。「文学的」という形容詞とは最も遠いはずの理系ミステリーで、こういうことを内省させられるなんてなぁ・・・ ということで次作はシリーズ最終章の「冬」。 そして作品世界は更に広がっていく。 |
No.1645 | 5点 | 火のないところに煙は 芦沢央 |
(2021/05/13 22:19登録) ~『神楽坂を舞台に怪談を書きませんか』・・・突然の依頼に作家の「私」は、かつての凄惨な体験を振り返る。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。「私」は事件を小説として発表することで情報を集めようとするが・・・~ 企みに満ちた連作形式の短編集。 2018年の発表。 ①「染み」=神楽坂にある“よく当たると評判の占い師”に占ってもらった恋人同士。そこで不吉な占いを聞いた男性はその後態度を豹変させる。そしてついには最悪の結果が・・・。最初から不吉な展開。 ②「お祓いを頼む女」=「私」の知人である作家。彼女の元へ突如かかってきた電話。その電話はまるで憑かれたような女が、「お祓いをしてくれる人を紹介して欲しい」と懇願してくる。でも、女が語る身の上話はどうも・・・ ③「妄言」=最初はよくある隣人トラブルの話かと思いきや、かなりヘビイな内容だった。こんな奴が隣に住んでたら、それこそ不幸としか言いようがない。そして今回も最悪の結末が待ち受ける。 ④「助けてって言ったのに」=今回もある「家」が舞台。結婚して、夫の実家で義母と同居を始めた途端、悪夢にうなされることになる新妻。その夢は何と、義母もうなされ続けた悪夢だった・・・。そしてまたも不幸な結末が。 ⑤「誰かの怪異」=今回はとある集合住宅が舞台。優良物件に住めたと思った瞬間、不幸のどん底に落とされる学生と、その隣人の女性。知人の助けを借り、盛り塩と御札で結界を張ったのだが、またしても予想外の展開が。 ⑥「禁忌」=本編は単行本化に当たって書き下ろされたもの。①~⑤までの連作をまとめて、つながりを持たせるための最終章。 以上5編+α なかなか器用だね、作者は。 「怪談」(と言っても、ちょっと怖い話という程度だが)という体裁を借り、しかも①⇒②⇒③というふうに話に繋がりをつけながら徐々に読者の心を煽っていくという展開。ここまで技巧的なプロットは最近お目にかかってないと思う。 でも、ちょっと器用貧乏なところはあるかな。 確かに心は多少ざわざわするけど、揺さぶられるというほどでもない。よく言えば「ほどよい怖さ」かもしれないけど、悪く言えば「中途半端」ということになる。 もう少しビジュアル的にインパクトのある「怖さ」、或いはにじみ出るような「悪意」というようなものがあれば、よかったのかもしれない。 |
No.1644 | 5点 | 探偵術教えます パーシヴァル・ワイルド |
(2021/04/29 22:21登録) ~お屋敷付の運転手モーランは通信教育の探偵講座を受講中。気分はすっかり名探偵の彼は、習い覚えた探偵術を試してみたくてたまらない。ところが、シロウト探偵の暴走が毎回とんでもない騒動を引き起こすユーモア・ミステリ連作集~ 米EQMM誌に1943年から1947年まで掲載された後、同年に作品化されたもの。 ①「P.モーランの尾行術」=実に不親切な通信講座とモーランのやり取りから始まり、実際の事件発生⇒何だかんだあってなぜか解決、という本作の道筋が示される初っ端の作品。途中が・・・よく分からん。 ②「P.モーランの推理法」=作中ではなぜかモーランは「推理」ではなく、「論理」「論理」と間違い続ける。でもラストのどんでん返しっていうか、「結果オーライ」の展開がなかなか楽しい。 ③「P.モーランと放火犯」=これまたドタバタ劇(死語?)が展開される第3編。なのだが、やはり最後は上手い具合に解決してしまうモーラン。結局、犯人は何をやりたかったのかイマイチ不明。 ④「P.モーランのホテル探偵」=ホテル付の探偵として臨時に雇われることとなったモーランに再びドタバタ劇が巻き起こる。これもよく分からなかったんだけど、最後にはなぜか解決してた! なぜ? ⑤「P.モーランと脅迫状」=町の教会に届いた1通の脅迫状を巡る探偵譚。当然、誰がなぜ出したのかが問題になるわけで・・・。そんなこんなでモーランのああでもないこうでもない推理が展開される。 ⑥「P.モーランと消えたダイヤモンド」=大勢の人の目の前で忽然と消えたダイヤモンド。今回モーランの助手役となる女性=マリリンは有名ミステリー作家たちの作品を参考に謎を解こうとするのだが、それが間違いの始まり。迷走に告ぐ迷走で、依頼人は何とかモーランたちの暴走を止めようとする。ハチャメチャ。 ⑦「P.モーラン、指紋の専門家」=これはラストのツイストが効いた最終譚。まさか通信講座のやり取りが最後になって効いてくるとは・・・ 以上7編。 これって、やっぱり「ユーモア・ミステリー」なんだろうな。ユーモアという言葉自体死語だけど、アメリカンジョークみたいな雰囲気の「ユーモア」を読ませられても、なかなか大爆笑というわけにはいかなかった。 ただ、さすがに筆達者な作者だけあって、なかなか小気味いいプロットではある。 通信講座を巡るやり取りもなかなか。モーランが単語の間違いを連発していた前半。後半はなんと講師役の主任警部までも綴りを間違うことに・・・。こんなこともアメリカン・ジョーク? |
No.1643 | 5点 | 四季 夏 森博嗣 |
(2021/04/29 22:20登録) 「四季」四部作の二作目は当然「夏」。四季も成長して十三歳・・・。 目くるめく森サーガはどのような展開をしていくのか。 2003年発表。 ~十三歳。四季はプリンストン大学でマスタの称号を得て、MITで博士号も取得し真の天才と讃えられた。青い瞳に知性を湛えた美しい少女に成長した彼女は、叔父・新藤清二と出掛けた遊園地で何者かに誘拐される。彼女が望んだもの、望んだことは? 孤島の研究所で起こった殺人事件の真相が明かされる第二弾~ 本作にはうわべだけの書評なんて必要ない。いや無意味だろう。 以上、終了。 ・・・いやいや、さすがにそれでは気が引ける(何に?)、ということで雑感だけを記す。 本作はいわゆるミステリーでは全くない。 ラストに衝撃的な展開が待ち受けてはいるが、中途は目に見える形では「謎」の提示もなく、事件めいた事象も起こらない。ただ、ひたすら、四季の目で捉えた事象、話した言葉、頭の中のイメージが語られていくだけ。 それでも。読者は揺さぶられる。圧倒的な世界観に。 今回のサブタイトルはRed Summer! 確かに「Red」。 四季にとっての「生」とは、はたまた「死」とは。人は「死ぬ」のではない。「死ななければならない」のだ。それが彼女にとっての唯一無二の帰結、ということなのだろうか? 今回は前作に引き続きとなる紅子、各務のほか、保呂草も登場する。時系列の壁を越えて登場する森サーガの役者(登場人物)たち。まるで彼らの群像劇のようだという思いを強くした。 誘拐された(?)四季と彼女を発見した林(この書き方って叙述トリックですか?)のやり取りがなかなか秀逸。紅子とかつて夫婦だったことを一瞬にして四季に言い当てられた林。結婚指輪を外してない林が「外れないだけ」とうそぶくのに対して、「嘘」「緩そうだもの・・・」って返す13歳。何か心に残る場面だ・・・ |
No.1642 | 5点 | 烙印の森 大沢在昌 |
(2021/04/29 22:19登録) ノンシリーズ・ハードボイルド。(ノワールかもしれないが・・・) こういう小説を書かせれば安定感十分! 作者の比較的初期の作品。 ということで単行本は1992年の発表。 ~芝浦の人気のない運河沿いに佇むバー「ポッド」。集まるのは裏稼業に携わる者ばかり。元傭兵のマスター、盗聴のプロ、ニューハーフのボディガード、そして私は犯罪現場専門のカメラマン。特に殺人現場に拘るのは、ある目的で伝説の殺し屋”フクロウ”を探し当てるためだ。ある晩、ついに命を狙われ始めた私は裏社会に生きる「ポッド」の連中と手を組むことに。驚愕のラストが待ち受ける!~ 作者というと、どうしても新宿、歌舞伎町の薄暗い街角が思い浮かぶ。 しかし、「新宿鮫」の人気シリーズ化以前である本作の舞台は六本木・西麻布界隈。どちらかというと、薄暗いというよりは「きらびやか」な雰囲気。 そのせいなのか、どうもしっくりこないというか、ややうわべ感が強いような気がしてしまう。 伝説の殺し屋「フクロウ」を巡って、決してカタギでない登場人物たちが繰り広げるドラマが本作のテーマ。 主人公の「メジロー」の秘められた過去が明かされる中盤以降、物語はスピードを増し、紹介文でも触れている驚愕のラストへ突入する。 ただ、これが「驚愕」かというと大いに疑問ではある。 全体的に、「新宿鮫」以降に触れてきた人物たちの背負っている「因果」に比べれば、どうにも軽いような気がするな・・・ まっでも、それほど穴のない作品に仕上がっているのは事実。 さすがにまとめ方は若いころから熟知していたのだろう。一定の満足感は得られるはず。 ラストになってタイトル(=烙印)の意味が判明するところも読みどころかな。 |
No.1641 | 5点 | 刑事の慟哭 下村敦史 |
(2021/04/15 22:27登録) 「小説推理」誌に2018年6月号から2019年1月号まで連載された作品。 短い期間に矢継ぎ早に作品を発表する作者だが、警察小説は初めてかな? 単行本は2019年の発表。 ~新宿署の刑事・田丸は、本部の方針に反して連続殺人事件の捜査を行い、真犯人を挙げた。結果、組織を敵に回し署内で厄介者扱いされていた。そんな中、管内でOLの絞殺体が見つかった。捜査の主軸から外された田丸は、帰宅途中に歌舞伎町の人気ホストの刺殺体を発見する。ふたりの思いがけない共通点に気付き、その筋を追うことを会議で提案するも叶わず、相棒の神無木と密かに捜査を行うが・・・~ 何か中途半端な警察小説だな・・・というのが最初の感想。 紹介文を読むと、いかにもはみ出し者で威勢のいい刑事が、警察組織を向こうに回して八面六臂、大活躍の末に真犯人逮捕! スゲエー っていう展開なのかなと思うかもしれない。 実際はかなりジメジメした警察小説。 組織に反したことを後悔したり反省したり、逆に正しいことをしたと開き直ったり、なのだ。 数多の警察小説で描かれるとおり、警察組織ほどタテ社会そして複雑な人間模様を持つ組織はない(実際はどうか知らないけどね)。そんな組織のなかで逆らった行動を取ることのリスクをしみじみと感じさせられる。 まぁ私もとある組織の中で生きるはしくれだが、組織の難しさを感じる日々・・・ うまく組織の中を亘っていける奴は羨ましいことこの上ない。 って、いやいや、自分の組織の中での話なんてどうでもよかった。 本筋は・・・うーん。最初に書いたとおり、どうにも中途半端だ。終盤、唐突に真犯人が判明するのもどうかと思うし、ラストシーンも感動するというよりは、エッ!っていう感覚。これが「慟哭」ということなのかな?よく分からん。 作者も書きすぎじゃないかな。アイデアがいろいろあるのかもしれないけど、この「薄味」はやはりいただけないと思う。 (タイトルだけみると薬丸岳の作品っぽい。中味も意識してるのかな?) |
No.1640 | 6点 | スリーピング・ドール ジェフリー・ディーヴァー |
(2021/04/15 22:26登録) リンカーン・ライムシリーズの「ウオッチメイカー」で初登場したキネティクスを操る名手キャサリン・ダンス。 そんな彼女を主役に据えたスピンオフシリーズの一作目。 2007年の発表。 ~他人をコントロールする天才ダニエル・ペル。カルト集団を率いて一家を惨殺、終身刑を宣告されたその男が、大胆かつ緻密な計画で脱獄に成功した。彼を追うのは、いかなる嘘も見抜く尋問の名手=キャサリン・ダンス。大好評<リンカーン・ライム>シリーズからスピンアウト。ふたりの天才が熱い火花を散らす頭脳戦の幕が開く~ 徹底的に「物証」に拘るのがリンカーン・ライムならば、徹底的に「人間の心情」に拘ったのが、このキャサリン・ダンス。でも、これ真逆というわけではなく、どちらも犯罪を構成する重要な要素ということなのだろう。 彼女のキネティックの力が最も示されたのが、終盤の天才的犯罪者ダニエル・ペルとの対決シーン。ペルの罠に嵌まり、捕らわれの身となってしまったダンスが、自らの能力で見事脱出を図る場面。 キネティクスどころか、僅かな心理の“アヤ”から事件の真の構図を暴くことに成功するのだ。この辺りの爽快感はリンカーン・ライムシリーズにも決して引けを取らない。 そしてもう一つのヤマが、作者お得意の終盤のどんでん返し。他の方も書いているとおり、作者の作品に通暁している読者ならもはや自明なのがツライところなのだが、それでも序盤から作者が密かに仕掛けていた伏線が見事に炸裂することになる。 ということで、安心して楽しむことのできる作品なのは間違いなし。けど、刺激性や爆発力といった点からはちょっと物足りなさも残った感じ。 まぁシリーズ一作目だし、まずはスロースタートということもあったのかも。 途中、ライムとアメリアがカメオ出演するシーンもあったから、これからも「両者」の共演が期待できるということなのだろう。次作も期待大。 (結局ペルのいう「山」って、何のことだったんだろう? いわゆる「山」?) |
No.1639 | 5点 | 血縁 長岡弘樹 |
(2021/04/15 22:26登録) ~親しい人を思う感情にこそ、犯罪の盲点はある。誰かに思われることで起きてしまう犯罪。誰かを思うことで救える罪~ ということで、作者得意の短編集。2017年の発表。 ①「文字盤」=コンビニ強盗を追う田舎警察署の刑事。彼には独特の捜査方法があるのだが、その捜査を行ううちに”ある人物”に目を付けることになる。 ②「青いカクテル」=父親の介護をする「姉」。弁護士と言う仕事をしながら厳しい日々を過ごす「妹」。介護をテーマにした作品は数多いけど、本作も事件の根は介護される人の「尊厳」ということ。 ③「オンブタイ」=これも介護、介助?がテーマとなる作品。タイトルは聞いただけでは?だが、最後にはその意味が分かる仕掛け。 ④「血縁」=うーん。本当の姉妹でここまでのことをするのかなぁ? どうもリアリティにかなり欠けるような気が・・・。でも女性同士だからなぁ・・・あり得るかも。 ⑤「ラストストロー」=これもかなり特殊な状況。死刑囚に刑を執行する役どころの3人に纏わる物語。その心は相当に複雑。だからこそ・・・いろいろ起こる、ということか? ⑥「32-2」=意味深なタイトル。何かと言うと、正解は「民法」。民法第32条の2項がテーマということ。なのだが、これもかなり特殊な状況。こういう状況としても、こんなことやるか?という感じ。 ⑦「黄色い風船」=舞台は死刑囚を収監する刑務所。悩みを書いた札を黄色い風船に巻き付け飛ばす⇒気持ちが軽くなる、ということ(らしい)。 以上7編。 短編集の名手らしく、いろいろなアイデアを惜しげもなく投入された作品集、なのだろう。 ただ、上にも書いたように、どうにも無理矢理感のあるプロットが目に付く作品だった。 プロットのためのプロットとでも表現すればよいのか、強引にパズルのピースに当てはめたところ、嵌まったと思った刹那、すぐに崩れたような感覚。 それだけ良質な短編集を量産するのは難しいということなんだろう。 でも、作者の拘りとしての短編集はこれからも続けてほしいなぁ・・・ |
No.1638 | 4点 | 赤い霧 ポール・アルテ |
(2021/03/21 10:15登録) ツイスト博士シリーズの第一長編「第四の扉」に続いて発表された長編二作目。 ノンシリーズしかも二部構成、舞台は19世紀のイギリスというちょっと変格気味のプロット。探偵役として登場するのは、スコットランドヤードの腕利き警部ジョン・リードなのだが・・・。1988年の発表。 ~1887年英国。ブラックフィールド村に新聞記者を名乗る男が10年ぶりに帰郷する。昔、この村で起こった密室殺人事件を正体を隠して調べなおそうというのだ。10年前、娘の誕生日に手品を披露する予定だった父親が、カーテンで仕切られた密室状態の部屋で背中を刺されて死んでいた。当時の関係者の協力を得て事件を再調査するうちに、新たな殺人事件が起こり・・・~ 『何じゃ、こりゃ?』っていうのが最初の感想。 第一部は紹介文のとおり、作者らしい不可能趣味に溢れた密室殺人がテーマとなる。なんだけど、この解法はないんじゃないか? あまりにもお粗末に感じた。 現場に居合わせた人々の誤認や誤解だけをあてにしたトリックなんて、誤認・誤解を誘導する仕掛けに納得感があるならまだしも、これではアマチュアレベルと言われてもやむなしではないか? これは本気のトリックじゃないのかな・・・と思ってるところで、第二部に突中。 ここで突然、舞台は霧深いロンドンの暗部に移る。19世紀のロンドンでの大量猟奇殺人事件といえば、そう、「切り裂きジャック」ということで、よもやの切り裂きジャック事件の真相解明がテーマとなってしまう。 真犯人は大方の読者なら途中で十分察しがついただろう。 ということで、本格志向の読者にとっては全く食い足りない印象。スリラー、サスペンス寄りだとしても、あまり緊張感のある展開とは言い難い。 もってまわったような表現が多いという作者の悪い部分が目に付くところも評価を下げる。 これは思い付きのプロットを十分煮詰めないまま慌てて発表しましたということなのかな? 他作品でも荒唐無稽で現実性に乏しいトリックというのはあるけど、それはそれで本格ファンにはご馳走なのだが、本作は味のない見た目だけの料理を食べさせられた感じ。 (19世紀末のロンドンということで、世界で最も有名な私立探偵と助手のコンビもカメオ出演! しかも探偵はジャックではないかと一瞬疑われる役どころ!) |
No.1637 | 5点 | 四季 春 森博嗣 |
(2021/03/21 10:15登録) 真賀田四季-森博嗣作品を語るうえで、欠かすことのできない登場人物。 その彼女を主人公とした四部作。その第一章となるのが、本作。題して「春」・・・ 2003年の発表。 ~天才科学者・真賀田四季。彼女は五歳になるまでに語学を、六歳には数学と物理をマスタ、一流のエンジニアとなった。すべてを一瞬にして理解し、把握し、思考するその能力に人々は魅了される。あらゆる概念にとらわれぬ知性が遭遇した殺人事件は、彼女にどんな影響を与えたのか?~ 文庫版の121頁で、四季が言い放つ台詞。 『そうなの。冗談みたいな真似をしないといけないってこと。この世の手続って、大半が冗談だと思うわ。』 ・・・成程。フィクションの中の登場人物とはいえ、わずか6歳の子供にこうまで断定されるとは。 でも、言われてみればそうかもしれないなぁー。 昨今の政治家たちの答弁や、日々繰り返される過剰接待を巡る野党からの追及なんて見てると、「冗談」という表現が最も適格かもしれないと思ってしまう。 いやいや、そんなことはどうでもよかった。 本題なのだが、うん? 本題って何だ? そもそもこの作品に本題、本筋なんてものが存在するとは思えない。 個人的には、読んでて森博嗣の頭の中が恐ろしくなってきた。 矢継ぎ早に出された作品の数々、時系列すら超えた登場人物たちとその背景。こんなにまで膨らみを持つ作品世界が頭の中で構築され、それを実際に表現できるなんて・・・ 単純に作者の才能に、能力に敬服するばかりだ。 vシリーズの最終作「赤緑黒白」で、思いもよらなかった作品世界のつながりが見えてきた刹那。もはや、本作はトリックがどうとか、密室がどうとかいうレベルで断じてはいけないのかもしれない。 真賀田四季をめぐる物語は始まったばかり。そして、今後どのように「すべてがF」に繋がっていくのか・・・ (本作を一作ごとの登録にしていただいて誠にありがとうございます) |
No.1636 | 6点 | お引っ越し 真梨幸子 |
(2021/03/21 10:14登録) ~片付かない荷物、届かない段ボール箱、ヤバイ引っ越し業者、とんでもない隣人・・・きっとアナタも身に覚えのある引っ越しにまつわる6つの恐怖!~ ということで、「引っ越し」テーマの連作短編集。2015年発表。 ①「扉」=謎の「扉」の向こうには何がある・・・ということで実際「何か」があった! で、その「何か」が問題。でも途中夢オチっぽい仕掛けが何回か続いて、よく分からない感じに・・・ ②「棚」=不要なものを捨てようとして、仕分けしてたら、懐かしいものがどんどん出てきて、あーあ時間が過ぎていく・・・ということはよくある。で、最後は急に時間軸が怪しくなって・・・???という状況。 ③「机」=決して開けてはいけない机の引き出し。それを開けると、奥に挟まっていた書類にある文章が・・・。恐ろしい想像をした割に大したことではないと思ってたら、そうでもなかった! ④「箱」=こんなに大きな社内でこんなに大掛かりな引っ越し作業するのは結構キツイ。ついでに社内には有象無象な「局」やら「怪人物」たちが・・・で、最後は「無」。 ⑤「壁」=壁と言えば「隣人トラブル」。これは・・・あるよなぁー。でも、想像してたのと違った結果、エライ結末を招くことに・・・ ⑥「紐」=今度は謎の「紐」。確かめずにはいられない主人公は結局・・・「無」。 以上6編。 スルスル読めるのがまずは良いところ。「引っ越し」という身近なテーマと「引っ越しあるある」的ネタで万人ウケする作品には仕上がってる。 各編は一応独立しているけど、謎の管理人”アオシマ”が全編に登場し、緩く世界観が繋がっていることを示唆する。(実際①と⑥のマンションは同じだしね、って全部同じマンション?) まぁそれほど大きな仕掛けはないし、ホラーというほど怖くはないので、中途半端といえば中途半端。 隙間の読書にはちょうど良い。 (独身時代の引っ越しは楽だったけど、家族が増えての引っ越しはキツイ) |
No.1635 | 5点 | 間違いの悲劇 エラリイ・クイーン |
(2021/03/08 16:26登録) ~クイーンの既刊短編集に収録されていない中短編七編と未完成長編の梗概からなる、最後の「聖典」作品集である。単なる落ち穂拾いではなく、優れた作品や興味深い作品が揃っているので、ミステリファンには格別な贈り物になるに違いない~という作品。原書は1999年の発表。 ①「動機」=とある田舎の村で起こる連続殺人事件。若き副保安官が必死に動機&真犯人を突き止めようとするが・・・。いわゆるミッシング・リンクがテーマと思われるのだが、うーん。クイーンにしてはぼやけた作品かなぁーと感じた。雰囲気は確かにあるんだけどね。 ②『クイーン検察局』での3編。いずれも短いながら、どこかにキラリとした輝きがある(ほんの少しだけどね)のは、さすがというところか。中では「結婚記念日」が一番だと思うが、「トナカイの手がかり」もトリビア的で好き。 ③『パズル・クラブ』での3編。これはアシモフの「黒後家蜘蛛会」を思わせる設定。他の3人がエラリーに向けて推理クイズを出題し、エラリーがあっという間に真相を見抜くというパターン。3編ともワンアイデアで大したことはないのだが、それはクイズですから・・・ ④「間違いの悲劇」=これこそが本作の白眉。本作に纏わる詳細は他の方の書評を参照していただくとして、これはやはり「もったいない」というのがまず最初の感想。梗概というレベルでもここまで「読ませる」ストーリーを編む力量はクイーンということなのだろう。テーマとなっている「操り」についても、それ自体がうまい具合にミスリードを誘うようになっていて、それだけにラストのサプライズが嵌まっている。もちろん、国名シリーズでの鮮烈なロジックは期待すべくもないけど、ちゃんとした作品にならなかったのが返す返すも悔やまれる。 以上、〇編? 中味はもちろんだが、巻末の有栖川有栖氏の本作発表についての経緯がなかなか興味深い。かのE.クイーンの作品を”おこす”なんていうことになれば、自作品を発表する以上に大変なんだろうな。 それはともかく、期待以上に楽しむことはできた。クイーンの未読作品も残ってはいるんだけど、その手の入りにくさもあって、どうしても後回しになっている現状なのだが、やはり避けては通れないと再認識した次第。 やっぱり、ミステリー界の巨人、いや巨星だな。クイーンは。 |
No.1634 | 6点 | 鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース 島田荘司 |
(2021/03/08 16:25登録) 「追憶のカシュガル」に引続き、京都大学在学中の若き御手洗潔と彼を慕う予備校生サトルが再登場。つまり、舞台は昭和40年代の京都。更に事件はその十数年前、つまりは昭和30年代・・・ノスタルジックだよね。 単行本は2018年の発表。 ~完全に施錠された少女の家に現れたサンタクロース。殺されていた母親。鳥居の亡霊。猿時計の怪。クリスマスの朝、少女は枕元に生まれて初めてのプレゼントを見つけた。家は内側から施錠され、本物のサンタクロースが来たとしか考えられなかったが、別の部屋で少女の母親が殺されていた。誰も入れないはずの、誰もいないはずの家で。周囲で頻発する怪現象との関連は?~ 「いい話である」。本作をひとことで言い表すなら、そういうことになる。 御手洗も若く、何とも言えない瑞々しさがある。最初に我々の前に登場した、あの馬車道の御手洗は、世間に背を向け、ねじ曲がった性格の奇人としてだった。 そんな御手洗もこの時はまだ医大生。当然、常人では計り知れない頭脳と洞察力を併せ持つスーパーマンなのだが、まだまだ人間そして日本という国に失望してない雰囲気を纏っている。 それだけでも本作を読了した価値があるというものだ。 で、本題なのだが、「密室」。うーん、「密室」ねぇ・・・ 確かに堅牢な密室が出てくる。一階はスクリュウ錠、二階はクレセント錠ですべてが施錠された家・・・堅牢だ! でも、これってワンアイデアだろう。作者が前々から持ってた「密室」ネタのひとつを大きく膨らませたもの。 まぁ、ワンアイデアでここまで感動的なストーリーを紡ぐことができるのだから、それはそれでさすがということなんだけど、いかにも「薄味」という感覚にはなるよね。 途中に挿入された物語。こういう手の話も、「あーあ。島荘らしいね」と思うんだけど、何となく既視感いや既読感ありありって感じになってしまう。(こういう不幸でやりきれない男や女の話は妙にうまい) 悪くはない。うん。悪くはないんだけど、満足もしてない。前の島荘作品の書評で「荒唐無稽でもいい、あの剛腕で私をこれでもかとねじ伏せて欲しい」って書いた気がするんだけど、同じく! でも、さすがに今は150キロの剛速球なんて無理だよな。じゃあせめて、100キロでもいいから鋭い変化球を見せて欲しい・・・って難しいかな? |
No.1633 | 5点 | 道徳の時間 呉勝浩 |
(2021/03/08 16:24登録) 第61回の江戸川乱歩賞受賞作にして、当然作者のデビュー長編。 謎めいたタイトルが以前から気になっていた作品なのだが・・・ 2015年の発表。 ~連続イタズラ事件が起きているビデオジャーナリストの伏見が住む町で陶芸家が殺される。現場には『道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?』という落書きがあり、イタズラ事件との類似から同一犯との疑いが深まる。同じ頃、かつて町で起きた殺人事件のドキュメンタリー映画のカメラの仕事が伏見に舞い込む。証言者の撮影を続けるうちに、過去と現在の事件との奇妙なリンクに絡め取られていく・・・~ 他の方も書かれてますが、乱歩賞審査での池井戸潤氏の選評に頷かれる方が多いように思う。 曰く、①『まず、過去の事件と現代の事件が結びつかないこと。せめて・・・略』②『選考会で最も問題になったのは主要登場人物の背景である』③『文章がよくない。大げさな描写は鼻につくし、誰が話しているかわからない会話にも苛々させられる。さらに最後に語られる動機に至っては、まったくばかばかしい限りで言葉もない』 ・・・酷評である。 出版に当たっては手直しされた箇所もあったろうと思うので、選考会時の原稿とは異なるのかもしれない。 でも、②はともかく、①と③は首肯してしまう・・・かな。 ①については、要はプロットのまとまりの問題だろう。複数の筋が時間軸を超えて並行して語られるのだが、どうにも整理されてない。ラスト、一応の解決が付くわけだが、結局?で終わった筋もあった。 ③はかなり手直ししたのかな? まぁデビュー作だしね。多少の粗はやむなしという気はするんだけど ただ、受賞することとなった理由として、辻村深月氏が言及している「続きはどうなるのか」と思わせる作内の謎が際立っていた、という点。確かに、ミステリーとしてこれは外せないポイントなのだろう。これについては、「まぁそうかな」という感想。いずれにしても、「作家」としての腕前はまだまだこれからという読後感。 他の作品を手に取るのかというと・・・やや微妙。 (他者の感想の引用ばっかで申し訳ございません。でも、一流作家は選評の文章も読ませるね) |