home

ミステリの祭典

login
スケアクロウ
ジャック・マカヴォイ&レイチェル・ウォリングシリーズ

作家 マイクル・コナリー
出版日2013年02月
平均点6.75点
書評数4人

No.4 6点 E-BANKER
(2023/01/07 15:04登録)
今回の主役はジャック・マカヴォイ。そう、あの「ザ・ポエット(詩人)」事件以来の登場となる。ロサンジェルス・タイムズ誌の記者でありながらFBIやハリー・ボッシュ顔負けの行動力を持つ男。
前回の事件以降、離れてしまった恋人でFBI捜査官であるレイチェルとともに連続猟奇殺人事件の後を追う。
2009年の発表。

~人員整理のため二週間後に解雇されることになったLAタイムズ誌の記者マカヴォイは、LA南部の貧困地区で起こった「ストリッパートランク詰め殺人」で逮捕された少年が冤罪である可能性に気付く。スクープを予感して取材する彼を「農場(ファーム)」から監視するのは案山子(スケアクロウ)。コナリー史上最も(?)不気味な殺人犯が登場~

今回の相手は「詩人」に負けず劣らず強力な奴。何しろネットワークを自由自在に操れるという現代社会において最も強力な武器を有しているからだ。コナリーにしろ、ディーヴァーにしろ、ネット社会を背景にした事件、犯人を最近は手掛けることが増えてきたように思うけど、それも時代の流れなのと同時に、読者にとっても身に迫る危機感を感じやすいのだろう。
で、今回疑問に感じるのが、マカヴォイの相方であるヒロイン役のレイチェル。今回もFBI捜査官として凛々しい姿を見せるとともに犯人の策略にかかってピンチに陥るなど、実にヒロインらしい役どころ。それはいいんだけど、レイチェルといえばハリー・ボッシュの愛しい相手としてもシリーズに再三登場する女性のはず・・・ってことは二股?
と同時に、ボッシュとマカヴォイは同一の世界観を共有している存在ということになる、当然。じゃあボッシュとマカヴォイは裏と表で存在していることになる。なんかゾクゾクしてきた。まぁコナリー作品の各世界観は共有しているし、登場人物が重複しているのもファンならば自明のことではある。
(そういえば過去作「天使と罪の街」でもふたりはクロスしてたような・・・)
本作はマカヴォイが事件の裏の構図に気付いた経緯がちょっと安易かなとは思ったけど、後はいつものコナリー節というか抜群の安定感だった。
敵役の「スケアクロウ」。うーん、最強というほどではなかったのが残念。もう少しブッ飛んだキャラでも良かった気はするが・・・。
いずれにしても次作も楽しみ。

No.3 8点 Tetchy
(2019/02/05 23:20登録)
これは『ザ・ポエット』第2章か?
詩人の事件でコンビを組んだ新聞記者のジャック・マカヴォイとFBI捜査官のレイチェル・ウォリングが再びタッグを組み、連続殺人鬼スケアクロウに立ち向かう。20世紀の敵、詩人(ザ・ポエット)と違い、21世紀の敵、案山子(スケアクロウ)は更に強力だ。
スケアクロウことウェスリー・カーヴァ―は平時はデータ会社の最高技術責任者の貌を持つ男で、ウェブ世界を自由に行き来し、各会社のサーバーに容易に侵入し、個人情報を盗み出す。ジェフリー・ディーヴァーの『ソウル・コレクター』に出てきた未詳522号を髣髴とさせる。
特にスケアクロウことウェスリー・カーヴァ―がジャックの後任アンジェラのブログ記事から飼っている犬の名前をパスワードにしていると推測して勤務先の新聞社のサーバーに彼女に成りすまして侵入していく有様はいかに我々一般人がウェブに関して無頓着に自ら重要な情報を明かしているのをまざまざと見せつけられる思いがした。

また今回の事件がトランク詰め殺人であることでどうしても同様の事件である『トランク・ミュージック』を想起させられてしまう。作中でもジャックの後任のアンジェラが過去のデータベースを引っ張った際に、ボッシュが担当したこの事件について言及される。つまり本書は同時期に書かれた『ザ・ポエット』と『トランク・ミュージック』に21世紀という時代を掛け合わせた作品と云えるだろう。

ジャックの一人称で紡がれる物語は新聞記者の特性が実に深く描かれている。自身地方の新聞記者からロサンジェルス・タイムズ紙に引き抜かれたコナリーにとってジャック・マカヴォイは自らが色濃く反映されたキャラクターだろう。そこに書かれているのは新聞記者たちがいかにスクープを物にし、のし上がろうと貪欲に事件を追いかけている有様とそのためには他人を出し抜くことを厭わない不遜さを持っていることだ。
解雇通知を受け、後任となったアンジェラは事件記者としては新米ながらもジャックが追いかけることになったスケアクロウの事件を既にキャップと話してジャックの記事ではなく、2人の共同記事にすることをとりなして、一刻も早く大きな事件を扱えるように画策すれば、ジャックは自分の記事がセンセーションを巻き起こすことを期待して掴んだ手掛かりはいつまでも持っておく。更に自分が当事者になることで記者から取材対象者になると、解雇通知を受けたジャックに同情を寄せていた同僚は嬉々としてジャックに訊き込みを行う。
そんな生き馬の目を抜く、上昇志向の塊のような集団が新聞記者たちのようだ。即ちこれはコナリー自身の回顧録でもあるのかもしれない。
一方で顕著なのは花形とされていたメジャーメディア会社であるロサンジェルス・タイムズ紙が斜陽化してきていることだ。インターネットの発展でウェブ化が進み、新聞の発行部数は軒並み減少。従って経費削減としてリストラを行わなければならず、その憂き目にあったのがジャック・マカヴォイなのだ。
高給取りのベテラン記者を排し、安い月給の新人記者に取って換えようとする。実際ロサンジェルス・タイムズ紙は経営破綻し、会社更生手続きの適用を申請したそうだ。コナリーも巻末のインタビューで応えているように、この新聞界を襲う未曽有の経営危機が本書を書く動機になったようだ。それは新聞界に向けたエールであると同時に鎮魂歌でもあるのかもしれない。なぜならジャックは新聞社を去るのだから。

しかし今回もまたストリッパーに絡んだ事件だ。コナリーの物語は本当にこのストリッパーや売春婦たちが巻き込まれる事件が多い。そしてウェスリー・カーヴァ―はハリー・ボッシュと同様に母親がストリッパーである。ストリッパーが母親でありながらもボッシュは悪に染まらず、罪を裁く側の人間となった特別な存在だと強調するかのようだ。

しかしディーヴァーの『ソウル・コレクター』の時もそうだったが、今回は実にリアルで寒気を感じた。情報化社会でもはやウェブがなければ生活できない我々がいかにインターネットに、情報端末に依存して生きており、そして自分たちの秘密をそこにたくさん放り込んでいることに気付かされた。そしてそれがある意味自身の生活を、いや自分自身のアイデンティティそのものを容易に侵す可能性を秘めていることも改めて思い知らされた。
ブログやツイッター、ラインにフェイスブック、インスタグラムなどに代表されるSNSに我々はいかに無防備に自分をさらけ出していることか。悪意あるハッカーたちやクラッカーたちが虎視眈々と狙っている付け入る隙を自ら提供しているようなものである。
しかしこれからはキャッシュレス化が進んでいけば、更にこのウェブで生活や仕事達の大半を処理していく傾向は強まることは避けられない。
そうした場合、何が問われるかと云えば、本書でも言及されているように、堅牢なシステムは無論の事ながら、それを扱う人間の資質だ。他人を盗み見ることが常態化し、悪い事とは思えなくなってくる、いや寧ろ他人の情報すらも容易に手中に出来ることで自らを一般人とは上位の存在、神と見なして他者を単なる名前やIDだけの文字だけの存在としか認識しなくなる怪物が育ち、悪用されるのが恐ろしい。某通信教育会社がデータ管理会社の社員によって金になるという理由でユーザー情報を流出して売り払らわれていた事件を目の当たりにし時と同じ戦慄を覚えた。なんでもそうだが、結局行き着くところは「人」なのだ。
つまりこのウェスリー・カーヴァ―は単に創作上の怪物ではない。本書は実際に起こりうる事件であり、ありうる犯人であるからこそリアルで恐ろしいのだ。

しかしコナリーのストーリー運びには今回も感心させられた。特にジャック・マカヴォイが事件の結び付きを発見していくプロセス、レイチェルが行うプロファイリングの緻密さ、畳み掛けるように起こる2人への危難とそれを打倒する機転。それらは実に淀みなく展開し、全く無理無駄がない。よくあるデウスエクスマキナ的展開さえもない。全てが必然性を持って主人公の才知と読者の眼前に散りばめられた布石によって結末へと結びつく。
ジャック・マカヴォイとレイチェル・ウォリング2人が最高のコンビであることを再度確信した。ジャックは新聞社を辞し、またこの「スケアクロウ事件」を題材に本を著すが、その先はどうなるか解らない。レイチェルは見事FBI捜査官の第一線に復帰したが、彼女はジャックと2人で探偵事務所を開くことに興味を抱いている。
悔しいが、こんなに面白く、そして知的好奇心を刺激され、なおかつ爽快な物語を読まされたら、2人はお似合いであると認めざるを得ないだろう。再びこのコンビでの活躍を読みたいものだ。

No.2 7点 あびびび
(2015/10/26 00:06登録)
人員整理のため二週間後に解雇されることになったロサンゼルス・タイムズの記者マカヴォイは、ロス南部の貧困地区で起こった「ストリッパートランク詰め殺人」で逮捕された少年が冤罪である可能性に気づく。

スクープを予感し取材する彼は、真犯人の「スケアクロウ(案山子)」に逆に発見され、そこから追いつ追われつのスリリングなシーンが始まる。

ジェフリー・ディヴァーの作品とよく似ているが、あちらは動で、こちらは静。大胆な仕掛けはないが、連続殺人犯の本質を繊細に表現して、不気味な犯人像がよく伝わってきた。

この作家も外れはなさそうだ。

No.1 6点 kanamori
(2013/04/05 13:45登録)
LAタイムズの記者ジャック・マカヴォイとFBI女性捜査官レイチェルが、「ザ・ポエット」事件以来12年ぶりにコンビを組んで、再びシリアルキラーに対峙するといったストーリー。

インターネットを使って個人情報を改竄・工作するサイコパス”案山子”という犯人像は、ディーヴァーの「ソウル・コレクター」など幾つか書かれていて二番煎じ感は否めないが、敵の”農場”での攻防をはじめとする終盤のスリリングな展開は、さすがコナリーと思わせる。
ただ、”ブン屋もの”としては、デジタル・ジャーナリズムの影響を受け、新聞社の人員整理の対象となった記者マカヴォイの矜持の描き方は中途半端で消化不良の感がある。

4レコード表示中です 書評