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ミステリの祭典

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コロナと潜水服

作家 奥田英朗
出版日2020年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 E-BANKER
(2022/11/17 14:12登録)
もう、絶対に面白い奥田英朗の短編集。(敢えて「絶対」と言ってみる)
今回も、ちょっと笑って、ちょっとほっこりして、ちょっとキュンとする、そんな短編集となっていて欲しい。
2020年の発表。

①「海の家」=時折登場する、作者の分身ともいえる登場人物。今回は、そんな彼が妻の不貞に怒り、一人暮らしを始めるところから始まる。存在感が強すぎる「幽霊」なども出てくるけど、個人的には「やっぱり娘はいいよなぁー」「羨ましい!」と、ふたりの「息子」しかいない私は強く思ってしまった。
②「ファイトクラブ」=むかし、ブラッド・ピット主演の同名映画があったよね(古いな)。ただし全く関係なし。リストラで閑職に追い込まれた中年男性たちがボクシングにはまっていく物語。なぜか毎日神出鬼没に現れる老年のコーチの正体は? 男は本気で殴り合いをすると一皮むけるというコーチの主張はなぜか身に染みた。
➂「占い師」=やっぱり女性って占いにはまりやすいんだねぇ・・・ということを改めて実感させてくれる作品。結婚相手はできるだけグレードの高い相手がいいけど、釣り合いが取れてないと結局しんどいっていう物語。昔からそんなこと変わらんよ。
④「コロナと潜水服」=これはごく初期のコロナ禍の頃のお話。この頃は感染者が何百人になっただけで大騒ぎしてたんだよなぁー。あの頃なら笑えない話だけど今になってみると笑える話。未だに続いているなんて、想像つかなかったなぁー。
⑤「パンダに乗って」=パンダは動物園の人気者の方ではなくて、70年代に一世を風靡した自動車。それにしても「いい話だ!」。で、どことなく村上春樹テイストのような気がする。こんなナビが開発されないものかと思っていたけど、AIが進化していけば夢ではないのかもしれない。「甘酸っぱくて切ない大人の物語」。これが間違いなく本作ベスト。

以上5編。
相変わらず「うまい」ですなぁー、奥田英朗は。
シリーズ前作っぽい作品集(「わが家のヒミツ」)では、作者の老成(?)ぶりに嘆いた書評を書いたんだけけど、本作はいい意味で吹っ切れてる感じ。で、キーワードは「ノスタルジー」なのかな。
そして、全作品に通じるのは、「幽霊」っていうか、本来いるはずのない「人物」に影響された物語、ということ。
これが実にいい味を出している。
主人公たちも「オカシイ?」とは思いながらも、そのことを受け入れ、最終的にはちょっとしたハッピーエンドを迎える。

だんだん自分も「あの頃はよかったなぁ・・・」と思う機会が増えてきた今日この頃。時代の移り変わりは早すぎて、ついていけないことを「ついていかない」ということに無理やり置き換えようとしている。
もちろん、「ついていかなくても」いいんだけど、そこまで強くはなりきれない自分もいたりする。
そんな自分に、「まぁそんなんでもいいんじゃない」って思わせてくれる作品。そんな感想もありでは?

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