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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.839 7点 しらみつぶしの時計
法月綸太郎
(2013/03/09 22:44登録)
作者といえば、もちろん法月綸太郎・法月警視の親子が活躍するシリーズが有名なのだが、本作はノンシリーズの短編を集めた作品集。
クライム系ミステリーまたは名探偵のパスティーシュ作品というのが収録作のテーマ(ということらしい)。

①「使用中」=これは面白いなぁ。さすが、短編の法月綸太郎はスゴい。とにかく“フリ”と“オチ”の連携が見事に嵌っている。でも、こんなプロットを「ああでもない、こうでもない」って考えるのって・・・ミステリー作家って変な人種だ!
②「ダブル・プレイ」=野球に引っ掛けた「交換殺人」が本作のテーマ。しかし、もちろんただの「交換」で終わるはずがない。でも、ここまで人って操られるのだろうか?
③「素人芸」=これは少しオカルト色のある作品。ちょっとした悪意・殺意が思いもかけない結果を招く・・・というプロットはよく目にするが、本作のオチはかなり強力。
④「盗まれた手紙」=もちろん、ポーの同名の名作ミステリーを意識した作品なのだろうが・・・ちょっと分かりにくいなぁー。
⑤「イン・メモリアム」=これはショート・ショート。「それで?」っていう感覚になるのは私だけでしょうか・・・?
⑥「猫の巡礼」=これは何だ!? 作者あとがきを読むと分かるが、これは締切に追い込まれて書いた作品なんだろうなぁ。でも、それはそれで味のある作品になっているのが、作者のスゴさか。
⑦「四色問題」=これは都筑道夫の名シリーズ「退職刑事」のパスティーシュ。しかもテーマは何と「特撮戦隊ヒーロー」って・・・。真相はこのシリーズらしい「緩ーい」感じ。
⑧「幽霊をやとった女」=本作も結構異色。ハードボイルド色を出した作品なのだが、これも都筑氏のシリーズ作品のパスティーシュとのこと。でも、これはかなり予定調和。
⑨「しらみつぶしの時計」=表題作かつこれもかなり異色。全て異なる時を刻む1440個の時計の中から唯一正確な時計を探す・・・というプロットなのだが、このオチって・・・何? やられたねぇ。
⑩「トゥ・オブ・アス」=これは、名作「二の悲劇」の原型となった作品で、作者が京大ミステリー研時代に発表した作品とのこと(タイトルは変えてるそうだが)。でも、こっちの方がまとまってないか? 「二の悲劇」で詰め込まれた伏線はすべて張られているし、これでいいじゃない。

以上10編。
さすが、とにかく短編を書かせると冴える。(裏返せば、長編になるとなぜかモタモタするってことなのだが)
本作は、よく言えば「バラエティに富んでいる」だが、悪く言えば「ごった煮」または「玉石混交」。
まぁ、でも作者の「ミステリー愛」はたっぷり感じられるし、やっぱり安定感十分だよなぁー。
水準以上。
(ベストは悩むが⑩かな。①や②、⑨が次点という感じ)


No.838 7点 求婚の密室
笹沢左保
(2013/03/09 22:42登録)
1978年発表。作者が「久々に本格ミステリーに取り組んだ」という位置付けの作品。
探偵役を務めるのは「他殺岬」にも登場したルポライターの天知昌二郎。

~東都学院大学教授・西城豊士は、自らの誕生日を祝うため軽井沢の別荘にルポライターの天知昌二郎をはじめ、十三人の男女を招待した。西城はここで娘・富士子の婚約を発表するつもりでいた。だが、パーティーの翌朝、密室状態にあった離れの地下室で、西城夫婦の服毒死体が発見される。床にはWSの文字が残されていた・・・。ダイイング・メッセージと密室の謎に挑む会心の本格推理小説~

本格ミステリーとしてのギミックを詰め込んだような作品。
そういう意味では作者の面目躍如というべきなのだろう。
60年代はじめに、「霧に溶ける」や「人喰い」という代表作を発表した作者だが、トリックやプロットの限界を感じ、しばらくこういう手の作品から遠ざかっており、ようやく本格ミステリーに「復帰」したのがこの頃ということらしい。

紹介文のとおり、密室とダイイング・メッセージ、他にも意外な犯人やE.クイーンばりの「操り殺人」など、本作は本格好きの読者の心をくすぐる趣向に満ちている。
なかでも「密室トリック」は相当レベルが高い。
堅牢な鉄扉と外から決して開けられない南京錠、天窓はあるが人の身長をはるかに超える高さ・・・。鉄壁とも思える密室状況を打ち破るトリックは見事。無理がないこともないが(○○と○○と○○がアレできるのか?)、この着想は素晴らしいの一言。
ダイイング・メッセージはまぁこじつけと言えばこじつけだし、これがあることで逆に真犯人が察しやすくなっている気がする点がマイナスかもしれない。
推理合戦を絡めたフーダニットは、意外な真犯人というどんでん返しをラストで炸裂させるなど、作者の一流の手腕が冴えている。
ただ難を言うなら、手練のミステリーファンにとっては、この「意外性」が逆に「分かりやすさ」に繋がってしまうかもしれない。
(登場人物を見回してみて、コイツが怪しいよなぁーって思っちゃうよねぇ・・・)

でも好きだな、こういう作品。密室トリックだけでも読む価値ありだろう。
難癖を付けるのは容易いが、作者の心意気を買いたい。
(綺麗な薔薇にはトゲがある・・・ミステリーでは言い古された台詞だな)


No.837 6点 夏のレプリカ
森博嗣
(2013/03/01 22:58登録)
前作「幻惑の死と使徒」と同時並行で起こっていた事件を扱ったのが本作。
S&Mシリーズでありながら、犀川&萌絵は脇役という位置付けで、萌絵の親友・簑川杜萌を主役とした作品。

~T大学大学院生の簑沢杜萌は、夏休みに帰省した実家で仮面の誘拐者に捕らえられてしまう。杜萌も別の場所で拉致されていた家族も無事だったが、実家にいたはずの兄だけが、どこかへ消えてしまった。眩い光、朦朧とする意識、夏の日に起こった事件に隠された過去とは何か? 「幻惑の死と使徒」と同時期に起こった事件を描く~

今までのS&Mシリーズとは一味も二味も違う肌合い・・・そんな作品。
その訳は、最初に触れたとおり、事件の顛末がSでもMでもなく、簑沢杜萌という別の人物の目線で描かれるため。
犀川も萌絵も(特に萌絵は)同時期に発生したという設定の『幻惑の死と使徒』事件の方に忙殺され(?)ていて、終盤までほとんど出番はない。
というわけで、長野県警のキレ者警部も登場するが、終盤までは解決に向けて遅々として進まぬ展開が続いていく。

ただし、結局事件を解決するのは犀川であり萌絵。
相変わらずフーダニットはブッ飛んでるなぁ・・・。
今回は、恒例の密室やら不可能趣味は薄いが、この仕掛けにはやっぱり驚かされた。
「仮面」という物証が、作者が企んだ欺瞞の「鍵」であり、トリックの「肝」であった訳だ。(ネタバレっぽいが・・・)
この辺りの手練手管は「さすが」としか言いようがない。

まぁでも、これまでの作品との比較でいうなら、やっぱり落ちるかなぁー。
同時並行で進む二作品というアイデア自体は面白いが、そこにそれ程の仕掛けやサプライズがなかったのが逆にもったいない気はした。(もしかして、あったのか?)
(最後のチェス勝負のくだりは、ミステリーっぽくでいいね)


No.836 5点 ピーター卿の事件簿
ドロシー・L・セイヤーズ
(2013/03/01 22:55登録)
大家・クリスティと並び称される英・女流ミステリー作家がドロシー・セイヤーズ。
彼女が創造した名探偵がピーター・ウィムジー卿。
本作は東京創元社が編んだピーター卿を探偵役とする彼女の作品集で、「ホームズのライバル」シリーズの一つ。

①「鏡の映像」=突然、左右の臓器が逆になってしまった男が記憶を失っている間に殺人まで犯してしまった? と書くと非常にミステリアスで魅力的な謎に見えるのだが・・・。トリックはミステリーの禁じ手に類するのではないか?
②「ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪」=舞台はスペイン・バスク地方。昔、恋焦がれながらも人妻となった女性との再会、だが彼女は無残な姿に変わっていた・・・。この謎の真相はスゴイが、医学的に本当に正しいのか?
③「盗まれた胃袋」=タイトルからすると、ポーの某名作を思い出させるが・・・。胃袋を遺産として贈るという男の真意とは何か、というのが本作のプロット。
④「完全アリバイ」=実にミステリーっぽいタイトル。ピーター卿が語る種明かしを読むと、見事なアリバイトリックのように見えるのが不思議! だが、正直よく分からなかった。
⑤「銅の指を持つ男の悲惨な話」=これまた「意味深」なタイトル。ロンドンの某クラブで、アメリカの俳優が語る不思議な話をピーター卿が解き明かすという短編らしいプロット。
⑥「幽霊に憑かれた巡査」=怪しい男を袋小路へ追い詰めたと思った刹那、どの家にも怪しい男はいなかった、なぜ? という謎。ホームズものなど古典作品でよく登場しそうな設定だが、このトリックはなかなか奇抜。リアリティは別にして・・・。
⑦「不和の種、小さな村のメロドラマ」=凡そミステリーっぽくないタイトルだが・・・。プロットというか筋立て自体もちょっと不明瞭。結構長い割には、ラストでがっくりくるパターン。

以上7編。
個人的には、セイヤーズという作家も、ピーター卿という探偵にもあまり馴染みがないし、イメージが湧かない、というのが本音。
本作の収録作も、それ程ひどくはないが、それ程感心もしない、というレベル感なのだ。
まぁ、古き良き英国ミステリーという風合いの作品が並んでいるので、こういうノスタルジックな作品が好きな方にはいいのかもしれない。

思ったよりは良かったかな。次は、長編の代表作でも読んでみることにしよう。
(ベストは⑥か。後は①~⑤までは同程度。)


No.835 6点 ゴメスの名はゴメス
結城昌治
(2013/03/01 22:53登録)
1962年に発表された日本のスパイ小説の嚆矢とも言える作品。
当時、早川書房編集長だった小泉太郎(「生島治郎」の本名)氏の推挙で本作が生まれたとのことだが・・・

~失踪した前任者・香取の行方を探すために、内戦下の南ヴェトナム・サイゴンに赴任した「わたし」こと坂本の周囲に起きる不可解な事件。自分を尾行していた男が、「ゴメスの名は・・・」という言葉を残して殺されたとき、坂本は熾烈なスパイ合戦の渦中に投げ出されていた。香取の安否は? そして、ゴメスの正体とは? 「不安な時代」を象徴するものとして、スパイの孤独と裏切りを描いた迫真のサスペンス!~

雰囲気のいい作品、という感じ。
何より舞台設定が秀逸。
今でもサイゴン(ホーチミン)というのは、フランス占領下の影響が残り、アジアにあってヨーロッパの香りが漂う街だが、内線下のサイゴンという不穏で剣呑、かつ無国籍な雰囲気がよく出ている。

「スパイ小説」とはいえ、時代性もあり、それ程複雑なプロットがある訳ではない。
最後になってみれば、怪しい奴はやっぱり怪しかったし、謎の人物にはやはりそれなりの背景を抱えていたことが分かる。
それでも、それが不満を誘発するものではなく、何とも言えない読後感、風合いを残すところが作者の技量ということなのだろう。
「ゴメス」というダイイング・メッセージも、それ自体にそれ程の仕掛けはないが、終盤に明らかになる二人の男の背負った罪や影に混ざり合い、後を引く。

まぁさすがに名作と呼ばれるほどの雰囲気を持った作品。
ミステリー的なギミックを期待する方にはどうかと思うが、サスペンスというよりはハードボイルド好きにはウケる作品ではないかと思う。
(ヴェトナムの女性っていいよねぇ・・・。アオザイも・・・。)


No.834 6点 謎解きはディナーのあとで
東川篤哉
(2013/02/23 16:03登録)
もはや説明不要(?)となった本シリーズの第一弾。
今さら初読且つ書評を出すのもどうかと思いつつなのだが・・・。

①「殺人現場では靴をお脱ぎください」=『なぜ被害者がブーツを履いたまま死んでいたのか?』がメインプロット。このロジックは短編らしく切れ味と、スッキリ感を味わえる。フーダニットはかなり強引だとは思うけど・・・。
②「殺しのワインはいかがでしょう」=ある種のCC設定下で、残された物証や関係者の証言一つ一つから執事・影山が真相を導き出す、と書けば何だか立派な本格ミステリーのように見えるが、この条件のみで犯人を絞り込んでいいのかどうか・・・?。
③「綺麗な薔薇には殺意がございます」=これはタイトルどおり、「薔薇」をフーダニットの鍵としたなかなかの良作。ただし、設定やプロット自体は②とほぼ同様。
④「花嫁は密室の中でございます」=筋立て自体は何てことないように感じる作品。ただ、ロジックはきれいに嵌っているし、『普通に考えれば変なのだが、それが日常的になっているために気付いていない」ことがうまい具合に隠されているところがミソ。
⑤「二股にはお気を付けください」=うーん。このネタはちょっとレベルが低すぎる気がする・・・。「笑える度」から言えば、本作中NO.1かもしれないが・・・。
⑥「死者からの伝言をどうぞ」=タイトルからすればダイイング・メッセージものっぽいが、そこにはそれほど拘りはない。ロジックの鍵が「窓を割った謎」一点張りになっているのがかなり強引に思える。

以上6編。最後にボーナストラックあり。
作者らしく「お笑い」要素がかなり掛けられているが、本作は昔からある「正統派の安楽椅子型探偵」ものに相違ない。
(刑事から事件の詳細が語られるということでいえば、都筑道夫の「退職刑事」シリーズにかなり近い)
あまりに売れすぎたため、どうしても「色眼鏡」で見られてしまうが、押えるべき所を全て押さえた水準級の本格ミステリー短編ということでよいのではないか。
酷評するほど酷い出来とは思えないが、氏の他作品と比べてもそれ程の高評価にはならないかな。
(①~④はどれもマズマズ。⑤⑥はちょっと落ちる気がする)


No.833 5点 ホット・ロック
ドナルド・E・ウェストレイク
(2013/02/23 16:02登録)
1970年発表。作者12作目の長編作品。
“盗みの天才”ドードマンダーが初登場した記念すべき作品と言えそう。

~長い刑期を終えて出所したばかりの盗みの天才・ドートマンダーに、とてつもない仕事が舞い込んだ。それは、アフリカの某国の国連大使の依頼で、コロシアムに展示されている大エメラルドを盗み出すというもの。報酬は15万ドル。彼は四人の仲間を集め、意表をつく数々の犯罪アイデアを練るが・・・。不運な泥棒ドートマンダーの奇怪で珍妙なスラプスティックミステリー~

持ち味がよく出た作品だろう。
今まで、本シリーズは短編しか読んだことがなかったのだが、むしろ長編の方が楽しめた。
(連作短編的な味わいではあるが・・・)
本作は、ドートマンダーと仲間たちがエメラルドの強奪に成功したと思いきや、何らかの邪魔が入って失敗するという展開が都合五回繰り返されるが、ラストには見事に肘鉄を食らわせるというプロット。
まぁ、要は痛快でコミカルなクライムミステリーということだ。

捻りやドンデン返しなど複雑な仕掛けやプロットはないので、トリックなどの風味を期待するとダメだが、その分気軽に楽しめる作品。
欲を言うなら、ラストにツイスト感というか、もうひと捻りがあるとよかったかな、という感じか。
ただ、この作者であれば、こんな手の作品が最も持ち味が出ていると言うべきだろう。
そんなに高評価はできないが、まずは水準プラスαという評価に落ち着く。
(登場人物では、ドートマンダーよりも国連大使の方がよっぽど不運な気がするが・・・)


No.832 6点 透明人間の納屋
島田荘司
(2013/02/23 16:00登録)
2003年、「講談社ミステリーランド」シリーズとして配本されたなかの一つ。
子供向けの作品でも「島荘はやはり島荘」だった!

~昭和52年の夏、一人の女性が密室から消え失せた。母子家庭の孤独な少年・ヨウイチの隣人で、女性の知人でもある男性は「透明人間は存在する」とささやき、納屋にある機械で透明人間になる薬を作っていると告白する。混乱するヨウイチ・・・。やがてその男は海を渡り、26年後、一通の手紙がヨウイチに届く。そこには驚愕の真実が記されていた!~

これは本当に子供向けというのを意識して書かれたのだろうか?
主人公は一人の少年(小学校低~中学年くらいか?)だし、ボリュームは抑えられているなど、作品の体裁としてはそれっぽいのだが、書かれている内容は実にシビアでハードな内容・・・。
これを小学生や中学生が読んで、理解できたのだろうか?

まぁそれはともかく、本作のプロット・筋立てはいつもの「豪腕・島荘」のままだ。
殺人現場から死体が消失し、その理由が「透明人間」なんて、奇想と言わずして何と言うのか。
密室からの消失トリック自体は、さすがにそれ程のレベルではない。
ただ、そんなことは二の次、二の次・・・。
物語としての、この「壮大さ」はどうだ! 子供向けのストーリーの背景にあの「歴史的&社会的事件」が使われるなんて・・・

これは子供向けの名を借りた社会派ミステリーなのかもしれない。
ミステリーとしての完成度も水準も全く異なるが、名作「奇想!天を動かす」をなぜだか思い出してしまった。
やはり、稀代のミステリー作家なんだよなぁ・・・。
(最後の一行は相当切ない)


No.831 5点 蠟人形館の殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2013/02/16 22:39登録)
「夜歩く」や「髑髏城」などに続くアンリ・バンコラン物の長編四作目が本作。
「蝋人形館」という、いかにもカーらしい怪奇趣味が漂う作品。昨年に出版された新訳版で読了。

~オーギュスタン蝋人形館に入る姿を目撃されたのを最後に行方不明となった元閣僚の娘オデットは、翌日セーヌ川に死体となって浮かんでいた。予審判事バンコランが老館主を尋ねると、彼は最近館内で女殺人鬼の人形が動き回るのを見たと言い出す。蝋人形館へ赴き現場を確認しに地下の恐怖回廊へ向かった一行を出迎えたのは、セーヌ川に巣食う半人半魚の怪物サテュロスの像に抱えられた女の死体だった!~

敢えていうなら、ちょっと「竜頭蛇尾」な作品と言えそう。
前半から中盤にかけての謎の提示は、いかにもカーらしいケレン味に溢れている。
蝋人形館、恐怖回廊、サテュロス像、謎の殺人鬼などなど、読者の首筋をゾクゾクさせる道具立てが揃っている。
現場の蝋人形館も密室状況とあっては、その後の展開を期待せずにはいられない・・・のではないだろうか。

ただ、暗黒街の大物・デュランが登場してからがどうもパッとしない。
バンコランの捜査&推理過程が開陳されるわけではなく、ワトスン役のマールの冒険譚などが中心となるのがちょっと拍子抜けなのだ。
確かに、終章で明かされる真犯人の名には「エッ?!」という衝撃を受けるのだが、この人物の登場シーンがあまりにも少なくて、正直かなり唐突感がある。
まぁ、伏線が丹念に張られているのだと言えなくはないのだが、ロジックの鍵となっている「ある材料」について、読者が気付くのはかなりキツイ気がする。

カー作品の解説などを読んでると、やっぱり初期のバンコラン・シリーズはその後のフェル博士やH・M卿物に比べて一枚も二枚も落ちるという評価に首肯せざるを得ないのだろうなぁ。
本作も決して悪くはないのだが、作者の代表作と比べると、高い評価は無理だろう。
(退廃的なパリの街の描写はなかなか惹き込まれる)


No.830 7点 ゴールデンスランバー
伊坂幸太郎
(2013/02/16 22:38登録)
2007年発表。映画化もされ、作者の代表作ともいえる作品となった。
ビートルズの名曲「ゴールデン・スランバー」に載せて、作者らしい洒脱な言い回しが冴える大作。
山本周五郎賞受賞作。

~衆人環視のなか、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。「なぜだ?」 、「何が起こっているんだ?」、「俺はやっていない!」。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走劇。行く手に見え隠れする古い記憶の人物たち・・・。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテイメント巨編~

これは「伊坂らしさ」と「伊坂らしからぬ」が混じりあったような作品、
っていう感じか。
読了後に「文庫版解説」を読むと、作者が本作では今までの作品とは「伏線の回収」という点で趣向を変えている云々との記述があり、これが「らしさ」と「らしからぬ」という相反する感想につながったのだろう(多分)。
「らしさ」で言うなら、相変わらず登場人物に配慮が行き届き、一人一人が見事なまでにキャラ立ちしていること。
本作でも森の声が聞こえる森田や、カズ、そして元カノの樋口とそして樋口の子供まで・・・説教めいているのにどこか洒脱で心に響いてくるフレーズの数々・・・
(でも一番秀逸なのは、青柳父の『痴漢は死ね』か!?)

「らしからぬ」なのは、やっぱりラスト。
今までなら綺麗に伏線が回収されて、「アレとアレがここでつながるのかぁ!」という快感を得られていたのだが、本作では多くの?が回収・解決されないまま残されていく。
ラストこそ薄明かりの見えたシーンで終わっていて後味がいいが、この辺はちょっとむず痒い感覚はどうしても残ってしまう。
(特に、警察側の異様さの謎が最後まで明かされないのが、一番歯痒いのだが・・・)

『物語の風呂敷は、畳む過程がいちばんつまらない』とは、作者の言葉なのだが、ある意味、自身の作品のレベルを一段上げるためにも、本作の「試み」は必要だったのだろう。
ただし、単なる市井の一ミステリーファンとしては、今までの「伊坂マジック」をもう少し味わっていたい、というのが偽らざる気持ちなんだけどなぁ・・・
(「ゴールデンスランバー」聴きたくなった・・・)


No.829 4点 モロッコ水晶の謎
有栖川有栖
(2013/02/16 22:36登録)
お馴染み、火村助教授(今なら准教授か?)&推理作家アリス・コンビの作品集。
今回も滋賀~京都~大阪~兵庫と、関西圏を股にかけての捜査行・・・

①「助教授の身代金」=助教授とは別に火村のことではなく、ドラマで助教授役を演じたある俳優のこと。いかにも狂言めいた誘拐事件に巻き込まれる二人なのだが、火村がたどり着いた真相は意外なもの・・・。ただ、何かピンとこないプロットなんだよなぁ・・・。
②「ABCキラー」=クリスティの名作「ABC殺人事件」のオマージュとして出版されたアンソロジー収録作品。確かに、元ネタをひと捻りもふた捻りもしてはいるのだが、これも何だかピンとこない。そもそも最初の二件の動機や背景は何だったのか? 声明文を送りつけた奴は? いろんなものが置き去りにされたまま強制終了という感じ。
③「推理合戦」=これは「箸休め」的ショート&ショート。別にねぇ・・・
④「モロッコ水晶の謎」=中編ほどの分量のある作品。意図的に書き順を遡っているのだろうが、あまり意味がないように思える。謎の中心は毒を入れたタイミングと動機なのだろうが、どちらもあまりピンとこないんだなぁ・・・。フーダニットは分かりやすいし、あまり褒めるところはない。

以上4作。
相変わらずこのシリーズのクオリティは低いように思える。
特に、今回の収録作については、作者あとがきでプロットの「狙い」が書かれているので理解できたが、そうでなければ「一体なにが書きたかったのか?」という感じになったに違いない。
それほど「ピンとこない」のだ。

確かに、短編ミステリーとしてのまとめ方は旨いと思うし、ソツはないのだが、だからといって満足できるレベルではないだろう。
ちょっと辛い評価かもしれないが、どうもこのシリーズとは相性が悪いのだ。
(「これがいい」と言えるのはないかな・・・)


No.828 7点 むかし僕が死んだ家
東野圭吾
(2013/02/11 20:03登録)
1994年発表のノンシリーズ長編作品。
作者の多彩ぶりがよく分かる一冊と言っていいのではないか?

~「わたしには幼い頃の思い出が全然ないの・・・」。七年前に別れた恋人・沙也加の記憶を取り戻すため、私は彼女と「幻の家」を訪れた。それは、めったに人が来ることのない山の中にひっそりと建つ異国調の白い小さな家だった。そこで二人を待ち受ける恐るべき真実とは・・・? 人気作家が放つ長編ミステリー~

派手さはないのだが、徐々に心に染みてくるような・・・そんな読後感。
紹介文のとおり、本作の舞台は山の中にひっそりと建つ別荘風の一軒家。物語のほとんどがこの家の中で、わずか二人の登場人物の間で展開される。
そして、過去が綴られた「日記」が本作のプロットの中心。
登場人物の二人が、この「日記」を紐解くたびに、謎が解け、そして謎が追加され或いは深まっていく・・・
それが憎らしいくらいに旨いのだ。

文庫版解説の黒川博行氏が、「この作品の伏線の張り方は尋常ではない」と書いているが、まさにそのとおり。
全ての謎が解決される「第四章」では、これまで埋め込まれた伏線の数々が鮮やかに回収され、収まるべきところに収まっていく。
まぁ、これは言うなれば「一流のマジシャンの手口」ということに尽きる。
しかも、それをさもたいしたことないようにやってのけるのが、大作家・東野圭吾の真骨頂なのだろう。

サプライズ或いはインパクトでいえば、正直なところ「小品」と言うべきなのかもしれないが、決して侮れないスゴイ作品だと思う。
ラストの切なさも個人的にはGood。
(リーダビリティも尋常じゃない・・・)


No.827 6点 黒後家蜘蛛の会3
アイザック・アシモフ
(2013/02/11 20:01登録)
安楽椅子型探偵シリーズの第三弾作品。
本作でもメンバーのあまり意味のない(?)喧々諤々を尻目に、給仕人ヘンリーが鮮やかに謎を解く。

①「ロレーヌの十字架」=旅先で知り合った「運命の人」がバスの中から消える。残されたメッセージが今回の謎、というわけで十字架型の印がいったい何を表すのか、という展開。でも、これはアメリカで暮らしてないとピンとこないなぁ・・・
②「家庭人」=今回のゲストはみんなの嫌われ者、税務署の職員。彼はあらゆる犯罪の中で最も罪の重いのは脱税だと主張するのだが・・・。謎を解く鍵となる「進法(10進法とか)」の話はよく分からん。
③「スポーツ欄」=米国に住み、二重スパイとなったロシア人が殺された際に残したいわゆるダイニング・メッセージ。ワシントンポスト紙のスポーツ欄にこの暗号を解く鍵があるのだが・・・ロシア語のネタは確か前作か前々作にもあったような気がする。
④「史上第二位」=これも「謎のメッセージ」がプロットになった作品。歴代の米大統領の中で「史上第二位の人物は?」という謎らしいのだが・・・これもアメリカ人じゃないとちょっとピンとこないかも。モンローとかクリーブランドなんてマイナーだろっ!
⑤「欠けているもの」=新興宗教が唱える「トライ・ルシファー」。その男は、火星から見た景色が見えるということなのだが・・・一見すると全く矛盾のない話に思えたのだが、ヘンリーは根本的な「誤り」に気付く。そりゃそうだ!
⑥「その翌日」=今回のゲストは出版社の編集者。せっかく発掘した有望新人からの原稿が滞るという自体に困り果てているのだが・・・これも「謎のメッセージ」系の作品。今回はこういうプロットがかなり目立つ。
⑦「見当違い」=これもまた「謎のメッセージ」が登場。で、謎を解く鍵が、米国内の地理(地名)とある制度(コード?)ということで、またまた日本人にはピンとこない感じ。
⑧「よくよく見れば」=本作は珍しく殺人事件が扱われた一編。冒頭から「言葉」に関する議論がメンバーで行われていて、そういう方向のプロットなのは察しがつく。でも、「ブラインドマン」って、「見えない男」って意味だよね?
⑨「かえりみすれば」=ゲストとしてSF作家が登場。となれば、例のごとく作者自身も話のネタとして登場させ自虐ネタに。本筋は・・・まぁどうでもいいか!
⑩「犯行時刻」=本編はタイトルどおり「アリバイ」を主題とした作品。要は、アリバイに関して証言した人物の時刻の認識に係る問題なのだが、こんな勘違いするかなぁ・・・?
⑪「ミドル・ネーム」=これも日本人にはピンとこない、アメリカのカルチャーが謎を解く鍵になる。まぁ小品だが・・・
⑫「不毛なる者へ」=黒後家蜘蛛の会の設立メンバーが残した遺言が今回の謎。そう、またまた「謎のメッセージ」に関するプロットなのだ。でも、「不毛」=ハゲって発想には笑えた(これが正解じゃないですが・・・)

以上12編。
それにしても、今回は「謎のメッセージ祭り」だった。
「小ネタ集」的なのは最初からなので気にはならないが、ちょっとネタ切れ感が出てきたのかもしれない。
でもまぁ楽しめる作品だろう。
(レベル的にはどれもあまり変わらないが、敢えていえば⑤かな)


No.826 6点 スリープ
乾くるみ
(2013/02/11 20:00登録)
作者らしい企みに満ちたミステリー作品がコレ。
ジャンルで言えばやっぱりSFってことになるのかな・・・。

~テレビ番組の人気レポーター・羽鳥亜里沙は、中学校卒業を間近に控えた二月、冷凍睡眠装置の研究をする『未来科学研究所』を取材するために、つくば市に向かうことになった。撮影の休憩中にふとした悪戯心から立ち入り禁止の地下五階に迷い込んだ亜里沙は、見てはいけないものを見てしまうのだが・・・。どんでん返しの魔術師が放つ傑作ミステリー~

プロットとしてはかなり魅力的。
主人公の少女が、研究所職員の奸計に嵌って冷凍催眠状態にされ、目覚めれば30年後の世界・・・さて、これからどのような危機に巻き込まれるのか、というところまでは最初から読者にも予想できるのだが・・・
ここまで「ふんふん」と読み進めてきた読者は、第九章(「胡蝶の夢」)で「えっ!」と思わされることになる。
これが一つ目のどんでん返し。

そこから、まるでパラレルワールドのような作品世界が二重構造のように仕掛けられていたと分かるのだ。
これが単なるSFではなく、ミステリー的仕掛けを十分に意識した作者の真骨頂と言えるだろう。
終章ではもう一度「裏の裏か?」と思わせつつ、後を引くようなラストを迎える。
この辺りの手練手管は、「魅力的」プロットと評するだけのことはあるのだ。

ただ、例えば「リピート」などと比べると、サプライズ感は小さいかなぁ・・・
「リピート」は、リピートの仕組みと殺人事件の動機の謎が最後に一気に収束されるというカタルシスが味わえたのだが、本作ではサプライズ感はありつつも、ある程度「予想の範囲内」のまま終了したという印象になってしまう。

ということで、あまり高評価はできないのだが、決して「つまらない」作品ではない。
本作はSFの大家・ハインラインの名作「夏への扉」のオマージュということだが、ネタ元も読みたくなってきた。
(これって、かなり映像向きな作品のような気が・・・。特に美少女フリークなら・・・)


No.825 6点
麻耶雄嵩
(2013/02/07 22:13登録)
問題作(?)「夏と冬の奏鳴曲」の続編的位置付けの作者第三長編。
メルカトル鮎、木更津悠也という二大探偵を登場させながら、主役は前作に引き続き如月烏有が務める。

~忌まわしい和音島(かずねじま)の殺人事件の後遺症で記憶喪失になった如月烏有は、失われた記憶を取り戻そうと寺社に連続放火。すると、焼け跡からは焼死体が発見される。その彼のもとに、「今度はどこに火をつけるつもりかい?」と書かれた手紙が届く・・・。烏有は連続放火殺人犯なのか? 銘探偵メルカトル鮎が真相に迫る新本格ミステリー~

やっぱり分からん。正直、理解の範疇を超えてる。
前作(「夏と冬の奏鳴曲」)も長々と物語を読まされて、結局読み終わっても数々の?が残されたままという展開。
そういう消化不良の状態のまま、本作では更に新たな謎が提示される。
文庫版解説で、法月氏が『本作を前作と続編という考えで読むと肩透かしをくう・・・』と書かれてますが、その通りでしょう。

放火事件の方はともかく、殺人事件については一応合理的な解決が成されていますが、何だが付け足しのような内容。
後はひたすら烏有が悩み悶える姿を延々読まされてるという感覚。
中盤過ぎ、唐突にメルカトルが登場し、ようやく物語が加速し始めるのだが、その真相はかなりご都合主義のような感じなのだ。
(木更津に至っては出てきた意味あるのか?)

本作一番のサプライズはやはり「エピローグ」部分なのだろう。
ここで、処女長編「翼ある闇」と本作がリンクしていることが明らかにされる・・・。メルカトルの行動&言葉はコレを踏まえてのものだったのか・・・ということになるのだ。
この世界観を若干20代の作者が示したことについては素直に敬意を表したい。

ただ、全体的にはやはり「若書きかなぁ」という評価は免れないと思う。
(新本格というムーブメントがあったからこその作品であり、作家だったんだなという思いを強くした)


No.824 7点 死との約束
アガサ・クリスティー
(2013/02/07 22:11登録)
名作「ナイルに死す」に引き続き、中近東を事件の舞台とした作品。
エルサレム~ヨルダン~ペトラ遺跡など、個人的にも興味深い舞台背景なのだが・・・

~「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ・・・」。エルサレムを訪れたポワロが耳にした男女のささやきは闇を漂い、やがて死海の方へ消えていった。どうしてこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか? ポワロの思いが現実となったように殺人は起こった! 謎に包まれた死海を舞台に、ポワロの並外れた慧眼が真実を暴く~

これも実にクリスティらしいなぁ・・・
ミステリー作家としての作者のスキル&テクニックが凝縮されたような作品ではないか。
クリスティの「うまさ」が読者をミスリードさせる「腕」なのだとしたら、本作はかなり高水準だと思う。

一人の老婦人に生殺与奪権を握られたかのような家族たち、そしてその一家と関わりを持ち、殺人事件に深く関わってしまう男女5名。
老婦人が殺害されたとき、当然「動機」により容疑者にされてしまう家族たち・・・
一家の立ち振る舞いが余りにも戯画化されているため、読者の目線はどうしてもそこにフォーカスされてしまうが、作者=名探偵ポワロの目線は事件全体の大きな円(サークル)全体を捉えているのだ。
そしてラスト。ポワロの推理は、今までずれていたフォーカスを正確な位置に合わせてしまう。
本作ではそこがきれいに嵌っている。
(特に、何でもないように思えた前半のある場面が、実は事件全体に関わる大きな「鍵」になっている、という仕掛けが見事)

殺人事件が起こるまでがやや長いが、その分ストーリーをじっくり味わえると言えなくはない。
プロットやラストのサプライズ感でいえばやや小品かもしれないが、とにかく端正な本格ミステリーなのは間違いない。
(本作では、ポワロの「天狗ぶり」が特に目立つような気がした。まぁいつものことだが・・・)


No.823 3点 ポケットに地球儀
安萬純一
(2013/02/07 22:10登録)
「ボディ・メッセージ」で第20回鮎川哲也賞を受賞した作者が贈る連作短編集。
事件に巻き込まれるとなぜか「密室」に閉じ込められるミステリー作家・アマンと担当編集者が織り成す事件簿。

①「パンク少女と三日月の密室」=毎朝通勤電車で乗り合わせる一人の女性がとる謎の行動の理由とは・・・。本筋の真相はかなりこじつけ感がある。今回閉じ込められる密室は三日月型の部屋。
②「ノイズの母と回転する密室」=事件の舞台は崖地に建つマンション。なぜか雨の晩にベランダに砂が積もってしまうというのが依頼人の持ち込んだ謎。これも真相は??・・・強引だろ! 因みに密室は回転しながら開ける部屋という仕掛け。
③「DJルリカと四角い密室」=同窓会に出席したDJルリカがちょっと会場から離れた次の瞬間に参加者が消えてしまう・・・というのが今回の謎。で、閉じ込められる密室は四角形の堅牢な奴なのだが・・・
④「メロデス美女とドアのない密室」=部屋から持ち物が次々と無くなる・・・というのが今回持ち込まれた依頼。同棲している男性が恐らく犯人なのだが、どうやって盗んでいくのかが不明、ということなのだが、真相は脱力感あり。性懲りもなく閉じ込められた密室は文字通り「ドアのない密室」(!)。
⑤「密室魔と空中の密室」=これまで(①~④)、アマンと編集者を密室に閉じ込めてきたのが「密室魔」。ということで、今回は密室魔の正体が明らかになるとともに、究極の密室に閉じ込められることに・・・。そんなアホな!

以上5編。
これは・・・ダメだろっ・・・。
「密室」という謳い文句に惹かれてついつい手に取ってしまったのが運の尽き。
創元文庫もよくこんな作品出版したよなぁ・・・
「密室」は事件の本筋とは全く関係なく、しかもたいした仕掛けがあるわけではない。本筋の方のプロットもかなり脱力感のあるものなのだ。

これでは高評価はできない。
作者はいったい何を狙ってコレを書いたのか? 鮎川賞受賞者ならもう少しレベルの高い作品を生み出して欲しい。
(ちょっと言い過ぎかな?)


No.822 7点 夜想曲(ノクターン)
依井貴裕
(2013/01/31 21:57登録)
1999年発表。どうやら、今のところ本作が作者最後の作品になってしまっているようだが・・・
「読者への挑戦」も挿入した王道の本格ミステリー。

~同期会が催された山荘で三日三晩に三人のメンバーが絞殺された。俳優の桜木もこの会に参加していたが、なぜかその間の記憶が抜け落ちていた。ただ、ひとつロープで他人の首を絞めた生々しい感触を除いては・・・。そして、その追い討ちをかけるように何者かからワープロの原稿が送られてきた。そこには空白の三日間が小説として再現され、桜木を真犯人として断罪していたが・・・。トリック&ロジックの本格派が新たに叩き付ける「読者への挑戦状」~

粗も目立つが、前向きに評価したい作品。
作者が仕掛けたトリックは主に二つ。
一つ目は結構面白かった。
もちろん、ミステリーを読み慣れた者にとっては、最初からなんとなく違和感を持ちながら読み進めていたわけで、こういう手のトリックじゃないかという予想は付いた。
見せ方があまりうまくないせいか、「鮮やか!」というわけではないが、探偵役・多根井の推理により真相が見事に反転する場面はなかなか唸らされるのではないか。真犯人絞込みのロジックも実に端正。
ただ、一つ気になるのは警察の捜査の具合。この真相であれば、警察の捜査はいったいどのように行われたのか? いわゆる「作中作」的な仕掛けなのだから・・・

で、もうひとつのトリックが問題。
これって必要か?
まぁ一つ目のトリックだけでは弱い、ということかもしれないが、唐突すぎてちょっと「どうかなぁ・・・」という気になった。
(一応伏線は張ってあるのだが、これは気付かないよなぁ)

でも、こういうチャレンジブルな本格ミステリーはなるべく評価してあげたいというのが本音。
基本的にはこういう作品は好物なのだ。
(もう少しプロットを煮詰めていればなぁ・・・。ちょっと惜しい)


No.821 6点 わが身世にふる、じじわかし
芦原すなお
(2013/01/31 21:55登録)
「ミミズクとオリーブ」、「嫁洗い池」に続くシリーズ第3弾。
今回も悪友・河田警部を含めたお馴染みの3人が、美味しそうな数々の料理とともに事件を解決に導く・・・

①「ト・アペイロン」=悪友・河田警部がNYへの研修出張から帰国。因みに表題は古代ギリシャ語で『無限なもの、不定なもの』という意味を表す言葉。
②「NYアップル」=河田警部がNY在任中に発生し、名探偵の奥さんが解決した事件の顛末を披露する。しかし、NYの事件を安楽椅子型探偵するとは・・・やるねぇ奥さん!
③「わが身世にふる、じじわかし」=地元・八王子界隈で起こった2人の老人の失踪事件。片方の老人が残した手紙は何と「暗号」だった。まぁ暗号自体はよくある「手」の奴なのだが・・・。
④「いないいないばあ」=主人公が幼年期に遭遇したある不思議な事件が、河田警部の持ち込んだ現在の事件解決のきっかけとなる。本編で登場するお好み焼きのソースの話・・・すごくよく分かる(気がする)。
⑤「薄明の王子」=今回の事件の舞台はあるプロレス団体。団体のエースが、他団体へ移籍前の最後の試合で、負けるはずのない「噛ませ犬」役のレスラーのバックドロップを浴び死んでしまう・・・。これって、三沢の件がきっかけなのか?主人公のプロレスへの想いはすごくよく分かる。
⑥「さみだれ」=複雑な人間関係を持つ家族の間で起こった殺人事件。河田から話を聞くだけで、大凡の真相を察してしまう奥さんって・・・。今回は早稲田界隈の街歩きのシーンがなかなか楽しい。

以上6編。
相変わらず何ともいい雰囲気の作品。
事件自体は結構猟奇的だったりするのだが、気取らず且つ美味そうな料理や、互いに貶しながらもなくてはならない存在の主人公と河田の会話などを楽しんでると、自然にゆったりした気分になる・・・そんな作品集。

ただ、ミステリーとしては前作や前々作の方に軍配が上がるとは思う。
(ミステリーとしては②かな。それ以外では⑤も好きだが・・・)


No.820 6点 ボーン・コレクター
ジェフリー・ディーヴァー
(2013/01/31 21:53登録)
大人気「リンカーン・ライム」シリーズの第一弾がコレ。
伝説の殺人鬼・ボーンコレクターが蘇る・・・NYを恐怖のドン底に陥れる連続殺人事件が発生する。

~ケネディ国際空港からタクシーに乗った出張帰りの男女が忽然と消えた。やがて生き埋めにされた男が発見されたが、地面に突き出た薬指の肉はすっかり削ぎ落とされ、女物の指環が光っていた。NY市警は科学捜査専門家リンカーン・ライムに協力を要請する。彼は四肢麻痺でベッドから一歩も動けないのだが・・・

「さすが」と言えば「さすが」だが・・・
途中の展開は結構冗長かなぁと思えた。
とにかく、本作はリンカーン・ライムという人物の「人となり」を味わい尽くすことが肝要なのだろう。
殺人現場に残された「犯人の痕跡」の一つ一つに対し、己の経験や勘、そして数々の科学捜査を駆使して真犯人に肉薄する姿。
他の方の書評でもあったが、その姿はまるで『現代に蘇ったシャーロック・ホームズ』と言っていい。

そして、本作のもう一人の主役が、事件に巻き込まれ、ライムの片腕となったアメリア・サックス。
美しい外見とは裏腹に、心の中に暗闇を持つ彼女も、ライムの慧眼に心酔し、彼の目となり手となって事件の渦中に飛び込んでいく・・・

作者と言えば「終盤のどんでん返し」というイメージだが、本作はその辺りはそれ程でもない。
この手のミステリーの場合、どうしても真犯人に意外性が要求されるため、こういう感じになるのだろうが、ちょっと無理やり感はある。
サスペンス感こそが本来「肝」になるべきなのだろうが、最初に書いたように、それにしてはちょっと冗長すぎるのだ。

作品自体の質は相当高いと思えるので、そんな所が気になってしまった次第。
(これから本シリーズを順に読んでいくつもり)

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