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ミステリの祭典

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三幕の殺意

作家 中町信
出版日2008年01月
平均点5.78点
書評数9人

No.9 7点 測量ボ-イ
(2024/08/11 08:21登録)
アリバイトリックは平凡ながらも、構成の妙
で読ませる作品。
最初このプロットを見たとき、某海外有名作品
の結末を連想しましたが、さすがにそれは考え
過ぎだったようです。
それと最後3行のインパクトもなかなか。

採点は
6点(基礎点)+1点(読書への挑戦と最後3行
を好感)

No.8 6点 ミステリ初心者
(2024/07/25 23:36登録)

ネタバレをしております。

 クローズドサークルに惹かれて買ったのですが、割と普通の推理小説の雰囲気でした。たしかに、複数人の男女が閉鎖的な空間に閉じ込められてはいますが、連続殺人ではいし、またお互いを犯人扱いしてギスったりするようなサスペンス性も薄かったです。
 また、序盤に登場人物たちが日田原への恨み辛みがあるシーンがあります。探偵役?になる刑事の津村にすらあります。すこし変わった構成でしたが、あまり効果的だったように思えません。ただ長ったらしくて読みづらかったです;
 作中に鮎川さんの名前が出てきますが、すこしこの作品も鮎川作品のような趣があると思います。あまり無駄なところがなく、純粋にトリックを楽しめる作品である一方、小説としてはやや退屈な感じがしますw ただ、アオリ文の通り、最後の3行は楽しめました。
 神崎がパクった日田原の推理小説(実は海外作品)についてですが、見事なトリックの短編であれば海外作品であっても有名なはずで、推理作家志望の神崎や選考会がしらないはずがない…と思ってしまったのですがw

 推理小説部分について。
 小粒ですが、効果的なアリバイトリックが見事でした。私はさっぱり見抜けられませんでした;; 
 また、探偵役のような津村が神崎と同室であり、神崎のアリバイを真っ先に主張してしまったことから、自然と犯人から外してしまいましたw もっとも犯人から遠い人物こそ疑えという基本を忘れていましたw

 全体的にやや読みづらさと味気なさを感じましたが、アリバイトリックに関しては楽しめました。

No.7 8点 斎藤警部
(2024/07/15 01:50登録)
「わたしは探偵小説のファンなんですよ。ことに奇抜なトリックのある――つまり本格探偵小説が大好きなんです」

いやいやいや、この「ラスト三行」の突破力は本物よ!!! いかに帯で喧伝されようと、むしろその非道なるネタバレ波動を何周か回って味方に付けちゃってんじゃないの。 いやはや、この残酷味の残響はそうそう消えてくれない。 一見いかにも短篇上等オチのようだが、短編枠に押し込まれていたならこれほどの絶望咆哮は聞こえなかったろう。

観光シーズンを過ぎた初冬の尾瀬の山小屋に、数多の男女が集まった。 呼び寄せたのは山小屋の離れに住む初老の男。 なかなかの才人でありながら堂々恐喝業を営む彼が屍体で発見される。 どいつもこいつも殺意は認めるが、犯行は否定。 著者最初期1968年の中篇を、晩年になって長篇に仕立て直した2008年作品。 とにもかくにも創元の戸川さん、並々ならぬグッジョブでした。 40年越しの虹を掛けてくれてありがとう。

「その点、鮎川哲也氏の作品は気持がいいですな。最初から、脅迫者をばっさりとやってしまうんですから――」

企画性がくっきりはっきり、シンプルな多角形構造が良い意味で複雑に配置されているような、大人受けするパズル玩具のような、叙述トリックではなく叙述ギミックの金字塔とさえ思える作品。 探偵役らしきお方がハナッから容疑者、それも読者目線でかな~り容疑濃厚な中心人物のお一人というエキサイティングな設定。 一方で「謎の男」の動向に気を揉んでいると、いきなり飛び出すその意外な独白に戸惑ったり。 それにしても何なんでしょうかこの、目に入る全てがアリバイ顛末の結晶みたいなサブ章立てのグリグリ来る快速リーダビリティ! わたしゃあもっとゆっくり読みたいんじゃよお。。

「さっそく、これを小説に書いたらどうですか? 傑作ができると思いますよ。 なにしろ、事件の渦中にいたんですからね――」

オラはさっそぐ仮説を立でただ。 被害者は実は●●●でねがったっぺが、、と思わせといて実は他のキーマン(犯人に限らず)こそ●●●だったとか・・ あのストがズヅはアレって線はそこで早くも消されだってが、いんやー本当にそうなんだっぺぇが。。 んま「村長」のアレはダミーィのアレだっぺなー いやいや妄想が膨らむこと膨らむこと。 「石油ストーブ」とか「◯◯隠し」とか。 「想い出はアカシア」と言っても裕次郎のカヴァーじゃないんだよな。。

“このとき相手の正体にうすうす気づき、思わずはっとした。”

さて前述の「三行」がここまで有効って事は、「アレ」が実はぶっとい伏線だったってことでしょう(なのか?! だよな!?)?!  ◯◯間(そして◯◯◯どうし)の愛情と友情に熱く裏打ちされた「アレ」。 元の中篇にはあったのかな? ソレの逸話が。 どちらにしても、元の中篇がどんな原石だったのか興味津々、読んでみたいものですなあ。

“あなたは、今度の事件を小説に書くとしたら、肝心の犯人を誰にするおつもりですか。”

そしてたどり着きました。 いんゃあ、こんな濃いぃぃいぃいぃぃ、トリッキー過ぎる複雑構造のエピローグ。 そいや帯には、たしかに「本作は叙述トリック使ってます」とは書いてないんだな。 つまりこの帯自体がかなりの叙述トリック使い手なわけだな・・

登場人物表見るといっけん平板均一で誰も区別付かなそうなのが、実際読んでみるとどなたもこなたもみなさん生き生きとご自身の差別化をキープされておってからに、実にカラフルで読みやすい小説になっておるわけです。 容疑者もかなり後の方までそうおいそれと絞り込みに掛かれないような巧い仕組みになっておるわけです。 

「容疑のまったくの圏外にいた人物が、実は真犯人だったという手が、探偵小説の常套手段になっていますが、私はあまり感心しませんな」

真犯人のナニに関するとても大事なポイントの念押し繰り返しタイミングも絶妙です。 「新人賞殺人事件(模倣の殺意)」へのセルフオマージュかと思うポイントもありますね。 何気に目を引いたのは「筆跡トリック」の悩ましき新機軸!! 地の文で「ちょっとおもしろい」なんて自画自賛してんのもちょっとおもしろいです。 ほんとうに、ちょっとしたライフハックなんですけどね。 (そう簡単に.. って気もしますが.. でも.. )

二回繰り返されるのではなく、一回で二度美味しい、あるいは苦しい、魅惑の「ダブル」読者への挑戦も素晴らしい。 正直、終盤ある地点で当てやすくなった犯人を当てましたが、その「当たり方」のあまりの意外さと、グッジョブ真犯人への賛美と、さらにはその、あまりに皮肉が燻り薫を留めすぎる結末(巨オチ)とのために、当てたからどうというのではない、中町信さんの晩年宇宙に吸い込まれて今度はこちらの晩年にやっとそこから吐き出される予感のような感覚に覆われて、最早ミステリライフ的にとてもそれどころではなくなってしまっていたのでした。

三幕×三行=九点を文句なく付けられてたら良かったけど、そこまでは惜しくも届かず・・・だが堂々の8点(8.3相当)を献上させていただきます。

野球好きの中町さん。いかにも “新機軸は俺が打つ!” と青空へ宣誓せんばかりの、快音響き渡る最後の傑作だったと思います。

「待ってくれ。話したいことがあるんだ。殺さないでくれ。殺さないで・・・・・・」

No.6 5点 虫暮部
(2020/06/18 12:17登録)
 一応及第点だが、読み進める為のエンジンが弱かった。魅力的な登場人物がいないせい?
 題名のせいでどうしても構成に目が行くが、“三幕”という概念が物語に於いてそんなに重要? 第二幕と第三幕の境目が何故あそこなのか、良く判らなかった。

No.5 5点 ボナンザ
(2016/11/27 22:16登録)
他の方も指摘されているとおり、叙述トリックはなく、「謎の男」の意味もあまりない。それでも全編通じての魅力や最後の皮肉等見所は十分あると思う。

No.4 6点 nukkam
(2016/03/20 23:23登録)
(ネタバレなしです) 「錯誤のブレーキ」(2000年)以来、久しぶりの2008年に発表された本書が中町信(1935-2009)の最終作となりました。純粋な新作ではなく中編「湖畔に死す」(1968年)(私は未読です)をリメイクしたものだそうですが、それでもファン読者にとっては何よりのプレゼントだったのではないでしょうか。「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説で、いかにも怪しげな容疑者たちのアリバイ調べが中心の地味な展開です。若い時代の作品が原書だからでしょうか、作品全体に強い緊迫感が漂っており、地味でも退屈には感じませんでした。

No.3 5点 E-BANKER
(2013/03/24 19:54登録)
東京創元社より2008年に発表された作品で、実質的に作者の遺作となったのが本作。
本作発表の背景は、戸川安宣氏の巻末解説に詳しく書かれているが、本作は昭和43年に雑誌「推理ストーリー」で発表された中編「湖畔に死す」を長編へ改稿したもの。

~その山小屋は尾瀬の名峰、燧ヶ岳が目の前に聳え立つ尾瀬沼の湖畔にあった。昭和40年の厳しい雪の訪れを控えた12月初旬の吹雪の晩、山小屋の離れに住む日田原聖太が頭を殴打されて殺された。山小屋にはそれぞれトラブルから日田原に殺意を抱く複数の男女が宿泊していた。犯人は一体誰なのか。口々に自分のアリバイを主張する宿泊者たち。容疑者の一人でもある刑事の津村を中心に各々のアリバイを検証していく。最後の三行に潜む衝撃とは?~

「遺作」と呼ぶにはちょっと寂しい・・・という感じにさせられた。
本作は、三幕に分かれ、各章(幕)で事件関係者たちによる複数視点でストーリーが進行していくという体裁。
実名の関係者に混じって、「謎の男」などという“いかにも”というような視点も登場し、読者としては期待させられるのだが・・・
これがあまり「効いてない」。

本作のメインテーマは「アリバイトリック」ということになるのだろうが、正直、これは長編で引っ張るほどのインパクトには欠ける。
ひとことで言うなら、「電話を使った子供騙しのトリック」というレベルなのだ。
かといって、作者らしい叙述系のトリックもない。
ということで、長編への改稿に当たり捻り出されたのがエピローグの章であり、紹介文にあるとおり「最後の三行」での企みということになるのだろう。
確かにこの「最後の三行」は気が効いてるし、これがあることで一応本作が「締まった」形で収まっている。
そこが唯一の評価ポイントかな。

中編→長編というのは乱歩や正史、鮎川哲也の得意技だが、それ程簡単な技ではないのだろう。
本作は本来は短、中編でこそというプロット。

No.2 6点 いけお
(2012/11/05 13:11登録)
トリックは古いが、細部まで丁寧で楽しめる作品。

No.1 4点 kanamori
(2010/06/05 15:19登録)
中町信の久々の長編(といっても初期の中編「湖畔に死す」の長編化)ですが、ちょっとガッカリな出来でした。
尾瀬沼の雪の山荘を舞台にした読者への挑戦付きのオーソドックスな犯人当てで、トリックの絡みで原型と同じ昭和40年を時代背景にせざるを得ないというのは分かりますが、現代では読むに堪えない内容でしょう。
新しい趣向を考える気力が、もはや喪失したということでしょうか。

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