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ミステリの祭典

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シャドー81

作家 ルシアン・ネイハム
出版日1977年04月
平均点7.22点
書評数9人

No.9 7点 ROM大臣
(2021/09/01 13:17登録)
作者はこれを書いたとき、AFPの記者だったという。ジャーナリストがこの種の小説を書くのは、フォーサイスをはじめとして多くの先例があり、職業的出自の特徴は小説の随所に明らかだ。
情報を駆使し、事実を延々と記述するスタイルは記者ならではの手堅い筆遣いだし、さらに言えばいわゆる報道された真実の裏にもうひとつのドラマティックな陰謀を読み取ろうとする感受性は、やはりジャーナリストに固有の病癖みたいなものだろう。

No.8 8点 斎藤警部
(2021/08/02 21:55登録)
歴史に乗った話だが、全く古びていない! 現代そのまま!! 長短さまざまなカットバックで描かれる、ベトナム戦争からの旅客機ハイジャック群像劇。群像の中へ飛び込み、やがて奥から飛び出す主役のぶっ倒し感がドエラい。
何より、凄まじいばかりのアリバイトリック!!!! 本格ミステリ流儀のそれとは全く違う話だが、これだけ壮大なアリバイ偽装を最後までやり抜けたなら、、 誰にも言えない最高の想い出作りだよな。。。。

“平和なしびれるような感覚が筋肉の隅々までしみ渡った。こうして豪勢な気分で手脚を伸ばしていると、エンジンの音に眠気を誘われて何ともいえない良い気持だ。”

滑り出しすぐから旨味が満ち溢れ出る、いきなり熟成、内なるバイブレーション豊かな「準備」の第一部。
振り返れば眩しい堂々の中盤、愉しいツラい愉しい「実行」の第二部。
サスペンス急襲から大団円へと降り立つ、大反転するくせに大いなる謎を残す「事後」の第三部。
看過出来ないモヤモヤを積み残すのに何故か爽やかな後口も、特筆したい。

「計算に入れるですって? それでその計算は誰がしたんです?」

ユーモラスな味も、特に終盤に近づくにつれ、シリアスな空気が濃くなるのを尻目に快調に飛ばすこと! 黄色いハンカチを振り続ける男。。ブリーフ一丁で対峙する男と男。。

「あなたがすぐれたお手本なんです。あなたに限らず誰ももう信用しないことにしています」

男が惚れる男の、遥かなる伏線があったのか。。こんなに高速で読みやすいのに、それはもう遥かな故事の気がする。。。 何故か忘れられなかったあのシーンは、ダブルの意味で、泣かせる伏線だったのか。。。(そうさ、俺だって忘れるものか!) そのタイミングでいきなり上下関係という安定装置を蹴飛ばすのか!! しかも、上の方からも!!  オ、忘れてたあいつがここで再登場か!! しかもその立ち位置か!! ザッツ悲喜交々じゃないか・・!!

「自分が完全に自由だと一瞬なりとも信じたのはばかでした」

これほどまでに結末がジリジリ気を持たせるその気合いの度合い、本当に尊いね。最終盤で松本清張バリに強烈な暗黒予感のサスペンスが炸裂するのはヤバかった。



【これより後は、結末についての大きなネタバレに通じます】

最後の最後は一波乱も無く物語を終えたところに(さざ波はあった。。)、なんとも言い難い深い味を感じます。 いくらでも別方向の結末に持っていく余地はある筈なのに、そこんとこ満点のスリルで最後まで切り抜けたってのは、つまりそこに本作が本国米国でヒットせず、映画化も頓挫した、更には作者がこの一作だけで消えた原因があるのでしょうか。。 (更に言ってしまえば。。。。 いや、言いません) 

No.7 6点 ねここねこ男爵
(2017/11/04 22:18登録)
各所でやたら評価が高いので頑張って探して読んでみたが、面白いことは面白いけど言うほどかな?というのが正直な感想か。

ハイジャックの設定はドキドキするし、実行してからは犯人の謎指示の意味が次々明らかになり適度に危機もありで面白い。
が、準備フェーズがあまりにも長く淡々として正直退屈。気付かないように伏線張ってんのかなと思ったら全く張ってなかった。「ぼくのかんがえたさいきょうのじゅんびをみて!」をダラダラと。現代の作家ならこの準備段階での些細なミスや妥協がのちのち主人公を追い込んでいって…とか、実行犯の正体を追跡する捜査の手が徐々に…とかするんだろうけど、順次計画通りでほぼ完璧にうまくいく。危機も偶発的なアクシデントばっかりで計画が段々破綻していくような追い詰められる感がない。そういった部分でもっと面白くなったんじゃないかな〜と思ってしまった。
この時代にこれだけの、という価値はあるが現代のこの手の小説は完全上位互換なので、本作は探してまで読まなくても良いかと。

No.6 6点 蟷螂の斧
(2015/12/12 09:42登録)
「東西ミステリーベスト100」の32位にも拘わらず、ジャンルが「冒険」(あまり得意な分野でない)ということで今まで未読でした。ある解説で「死体のない楽しいミステリー」ベスト3に入るという評論や、本サイト・他サイトでの高評価により拝読。面白かったのは事実ですが、諸手をあげてとまでいかなかった。緊迫感・危機感にやや物足りなさを感じてしまったのが原因です。つまり、物事がスムースに運び過ぎといったところか・・・。後半、サプライズがあったのですが、それならついでにその動機もというのは、ないものねだりでしょうか?。金塊強奪については、007「ゴールド・フィンガー」(映画)をイメージしながら読んでいたら、主人公が、「ゴールド・フィンガー」を口笛で吹くシーンが出てきました。私的には一番受けたシーンでした。なお読後、判明したことですが、「東西ミステリーベスト」の解説は、サプライズの”完全ネタバレ”をしていますので要注意です。

No.5 6点 ボナンザ
(2014/04/23 01:00登録)
壮大なスケールで描くアクション小説。
ミステリかと言われると戸惑うが、犯人の行動力とスケール、意表を衝く手口はなかなか見事。
ただし、最後の方の主人公の矜持みたいなものには呆れた。

No.4 8点 E-BANKER
(2013/03/09 22:46登録)
海外ミステリー・ランキングには必ず入ってくる名作サスペンス。
全盛期のハリウッド秀作映画を思わせるような手に汗握る展開・・・って感じかな。

~ロサンゼルスからハワイへ向かうボーイング747ジャンボ旅客機が無線で驚くべき通告を受けた。たった今、この旅客機が乗っ取られたというのだ。犯人は最新鋭戦闘爆撃機のパイロット。だが、その爆撃機は旅客機の死角に入り、決して姿を見せなかった。犯人は二百余名の人名と引き換えに巨額の金塊を要求、地上にいる仲間と連携し、政府や軍、FBIをも翻弄する。斬新な犯人像と周到にして大胆な計画・・・冒険小説に新たな地平を切り拓いた名作!~

これは評判に違わぬ面白さ。
ハイジャックをテーマにした作品もいくつか接してきたが、ここまで緻密且つ斬新な計画とクールな犯人グループというのはなかったように思う。
ハイジャック前の「準備」を描く第一部こそややもたつく印象を残すが、ハイジャックシーンに突入した第二部はとにかく「ページをめくる手が止まらない」状態。
そして、犯人グループのからくりが明らかになる第三部では、作者の緻密なプロットに舌を巻くことになるのだ。
大量の金塊自体が犯人の“疑似餌”だったというプロットだけでも相当面食らってしまった。

本作のもうひとつの要素が、登場人物たちの造形の見事さ。
犯人グループももちろんだが、ハイジャックされた旅客機のパイロット・ハドレーやロサンゼルス空港の管制官・ブレイガンなど、一人一人の登場人物が実に緊張感をもって描かれていて、スキがない。
そして、印象的なラストシーン・・・。
これなんて、かなり映像向きな場面だと思うのだが、本作がアメリカ国内では全く評判にならず、もちろん映像化なんてことにもならなかったということが驚きだ。
(まぁ、もう少し「因果応報」的なドンデン返しの要素があってもいいかもしれないが)

若干誉めすぎかもしれないが、上質なサスペンスミステリーという評価は揺るぎないのではないかと思う。
とにかく面白いよ。
(ベトナム戦争の真っ只中という時代背景も効いているのかもしれない)

No.3 8点 あびびび
(2012/02/23 12:30登録)
復刊されたのは当然で、ハイジャックものの大傑作。大胆不敵にして繊細、緻密な計画。この作家が一発屋だとはとても思えない。

まさにハリウッド向きなのに、これが映画化されず、それどころかアメリカではあまり話題にならなかったというのも不思議な話である。

No.2 8点 isurrender
(2011/06/12 01:15登録)
「映画のような」という形容がまさに当てはまる
映画化されていないことが不思議でならない

スペクタクルな展開で、そしてしっかりミステリ的要素も含まれている
ユーモア色の薄い『大誘拐』ですかね

No.1 8点 kanamori
(2010/04/24 15:39登録)
冒険ミステリ界の「一発屋」ルシアン・ネイハムの傑作航空サスペンスです。先年、30年ぶりに復刊されたので再読しました。

ベトナム戦争の翳が時代を感じさせますが、ジェット戦闘機による航空機ハイジャックと身代金奪取のサスペンスは今読んでも全く色あせていない。主人公で犯人のグラント大尉の造形が、クライムサスペンスなのに暗さを感じさせないのもいい。第1部で張られた伏線が、最後のどんでん返しにつながるプロットの巧さも再確認できました。
第1回文春ミステリベスト10の第1位は伊達じゃない傑作。

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