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ミステリの祭典

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ピーター卿の事件簿
ピーター卿シリーズ

作家 ドロシー・L・セイヤーズ
出版日1979年03月
平均点5.57点
書評数7人

No.7 5点 弾十六
(2020/03/14 23:40登録)
日本独自編集。元は1979年出版。新版2017年には戸川安宣さんの行き届いた解説ありですが、セヤーズさんの生涯をHitchman本に基づいて書いてるのでいささか情報が不正確だと思う。電子本で読んでいます。
だいたい初出順に読む試み。カッコ付き番号は文庫本収録順。英語タイトルは初出優先。初出情報は戸川解説をFictionMags Indexで補正。[BP]以下はBill PeschelのWebページAnnotating Wimseyからのネタ。

⑶盗まれた胃袋 The Piscatorial Farce of the Stolen Stomach (単行本Lord Peter Views the Body 1928): 評価5点
途中でネタを割っちゃうのがセヤーズさんらしい。横道が多くて無駄に長いがファンなら楽しめる。
p158/598 わずか五百ポンド: 英国消費者物価指数基準1928/2020(63.24倍)で449万円。
p168 誰の遺言書でも1シリング提供したら内緒で見せてくれる: サマーセット・ハウス(Somerset House)の秘密ルール… って本当? 1シリングは449円。
p176 チェスタトン氏の分類における上品なユダヤ人(under Mr Chesterton’s definition of a nice Jew): チェスタトンならどこかに書いてそうなネタ。引用元は調べてません。
(2020-3-14記載)

⑸銅の指を持つ男の悲惨な話 The Abominable History of the Man with Copper Fingers (単行本Lord Peter Views the Body 1928): 評価5点
随分グロな話。女性は結構この手の話が好きなような…(偏見です)
p161 アメリカが大戦に参加する直前: 米国参戦は1917年4月。
p163 色の浅ぐろい、つやつやした肌の持ち主で(He was… dark and smooth):「黒髪で髭のない」じゃないでしょうか。(2020-3-16追記: セヤーズさんのピーター卿シリーズの用例には類似が無く、一般的な使い方を見るとsmooth(=finesse)で「要領が良い、上手く立ち回る、油断ならない、隙のない」みたいな意味のようです)
p176 話しおえるまで、葉巻にもウィスキーにも手を触れさせないからな(Not a smoke do you smoke and not a sup do you sip till Burd Ellen is set free): [BP] Burd Ellenは童話Childe Rowland(1814)に出て来る妖精の国に囚われた妹の名前。妖精の国のものを食べたり飲んだりしちゃ駄目よ(永久に地上に戻れなくなる)という禁止事項からの連想。
(2020-3-15記載)

⑺不和の種、小さな村のメロドラマ The Undignified Melodrama of the Bone of Contention (単行本Lord Peter Views the Body 1928): 評価5点
翻訳ではピーター卿の喋り方が傲慢な感じ。本当はもっと丁寧に言っていると思います。Frobisher-Pymさんは、別の作品にも出てたような気がするのですが思い出せません… 内容自体は無駄話が多くて長くなってる話。偽装が大掛かり過ぎて面白くないし、不気味効果も低い。とんでもない遺言の意味が全く不明。ストーリーの都合上でないとしたら、遺言者の意図は何なんでしょう?
p301 旧型のナイフ(his knife… was one of that excellent old-fashioned kind): Victorinoxのスイス・アーミー・ナイフは1890年のスイス陸軍規格がもと。もっと以前からこのタイプのマルチツールは存在しており『白鯨』(1851)第7章にも登場するようだ。(wiki)
p309 かえる運びで(frog’s-marched her): 羽交い締めは相手の手を挙げる形で後ろから押さえるが、手を下げる形で後ろから腕を押さえて進むのがfrog-marchのようだ。
p328 手品師の名コンビ、マスケリンとデヴァントそこのけの仕掛け(Maskelyne-and-Devant stunts): [BP] 有名な英国のマジシャンJohn Nevil Maskelyne(1839-1917)とDavid Devant(1868-1941)の興行コンビ(1905-1914)。Maskelyneは空中浮揚の発明者らしい。
p330 もう一度、ひっ返すんだ、ウィッティングトン(‘Turn again, Whittington’): Wiki「ウィッティントンと猫」に詳細あり。14世紀のロンドン市長Dick Whittingtonの伝説。
p330 六ペンス銅貨を落としたスコットランド人(Aberdonian who had lost a sixpence): 224円。当時の6ペンス貨幣はジョージ五世の肖像、1920年以降は.500 Silver、直径19mm、重さ2.88g。宇野先生は1947年以降の白銅貨のイメージか?
p362 半ペニーみたいなやくざな兄貴が、突然、帰ってきた(Come back like a bad halfpenny):「出来損ないの半ペニーみたいに戻ってきたぜ」当時の半ペニー貨はジョージ五世の肖像、青銅、直径26mm、重さ5.7g。19円。Grose俗語辞典(1823年版)にもbad halfpenny(手もとにそのまま戻る。上手くいかなかった計画の意味)が項目立てされています。
(2020-3-17記載)

⑴鏡の映像 The Image in the Mirror (単行本Hangman’s Holiday 1933)

⑵ピーター・ウィムジイ卿の奇怪な失踪 The Incredible Elopement of Lord Peter Wimsey (単行本Hangman’s Holiday 1933)

⑷完全アリバイ Impossible Alibi (Mystery 1934-1) 単行本タイトルAbsolutely Elsewhere
Mystery誌は元Illustrated Detective Magazineというタイトルの大判スリック誌。ウールワース百貨店だけで売られた雑誌。当時10セント140ページ。

⑹幽霊に憑かれた巡査 The Haunted Policeman (Harper’s Bazaar 1938-2)

No.6 5点
(2020/02/03 11:24登録)
ピーター卿シリーズの7中短編が収録してある。

いずれも奇想な流れで後半まで引っ張り、最後に一気に本格ミステリー化する。
これは短編ミステリーとしてうまい手である。
でも奇想なわりに話が種々変化しながら進むわけではないし、凄いと感心するほどの結末であるとも感じられない。悪くはなかったが・・・

セイヤーズは、正真正銘のお初。
短編好きなので、まず短編から試したいと思い手を出したが、これを機にいざ長編へ、とはいかないのかな。
とはいえ、みなさんの熱のこもった書評を前にすると、長編も読みたくはなる。
でも、評者の方々の間で、作品ごとに評価が分かれているのを見ると、好みの問題とはいえ、それはそれで気にはなる。
それに、人気作『学寮祭の夜』が分厚すぎる。これがいちばん気になる(笑)。

No.5 6点 ボナンザ
(2018/07/27 19:13登録)
長編よりも雰囲気のある物語が多く、ある意味ドイル等々の影響を受けているといえるかも。

No.4 5点 斎藤警部
(2017/01/11 07:13登録)
山田風太郎の筆ならさぞかし、、と歯軋りを強いる、キツさの足りない「惜しい反転劇」が目立つ!
むろんそんな風太郎風センスオヴワンダーなんざこの人(の短かいの)にァ求めちゃいませんがね。
しかし、最後に設えられた中篇はコクが反芻出来るな。なかなか好きだ。

鏡の映像/ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪/盗まれた胃袋/完全アリバイ/銅の指を持つ男の悲惨な話/幽霊に憑かれた巡査/不和の種、小さな村のメロドラマ
(創元推理文庫)

No.3 6点 りゅうぐうのつかい
(2015/12/08 18:52登録)
かなり不思議な謎が提示されるが、おおまかな真相に関しては予想しやすい話が多い。
しかしながら、それぞれに工夫があって、楽しめる短編集。

「鏡の映像」
これだけの「世にも奇妙な物語」の真相は、これしかないだろう。
「ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪」
話が急に切り替わるところがある。そこがちょっとわかりにくい。
「盗まれた胃袋」
胃袋を遺産として残した男の謎。
「完全アリバイ」
アリバイトリックの方法に関しては概ね予想どおりであった。
「銅の指を持つ男の悲惨な話」
マリアの身体的特徴がうまく真相に活かされている。
「幽霊に憑かれた巡査」
このようなトリックで本当に人をだますことができるのか、疑問ではあるが。
「不和の種、小さな村のメロドラマ」
ある人物がピーター卿を利用しようとするが、ピーター卿を甘く見過ぎて墓穴を掘る。

No.2 5点 E-BANKER
(2013/03/01 22:55登録)
大家・クリスティと並び称される英・女流ミステリー作家がドロシー・セイヤーズ。
彼女が創造した名探偵がピーター・ウィムジー卿。
本作は東京創元社が編んだピーター卿を探偵役とする彼女の作品集で、「ホームズのライバル」シリーズの一つ。

①「鏡の映像」=突然、左右の臓器が逆になってしまった男が記憶を失っている間に殺人まで犯してしまった? と書くと非常にミステリアスで魅力的な謎に見えるのだが・・・。トリックはミステリーの禁じ手に類するのではないか?
②「ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪」=舞台はスペイン・バスク地方。昔、恋焦がれながらも人妻となった女性との再会、だが彼女は無残な姿に変わっていた・・・。この謎の真相はスゴイが、医学的に本当に正しいのか?
③「盗まれた胃袋」=タイトルからすると、ポーの某名作を思い出させるが・・・。胃袋を遺産として贈るという男の真意とは何か、というのが本作のプロット。
④「完全アリバイ」=実にミステリーっぽいタイトル。ピーター卿が語る種明かしを読むと、見事なアリバイトリックのように見えるのが不思議! だが、正直よく分からなかった。
⑤「銅の指を持つ男の悲惨な話」=これまた「意味深」なタイトル。ロンドンの某クラブで、アメリカの俳優が語る不思議な話をピーター卿が解き明かすという短編らしいプロット。
⑥「幽霊に憑かれた巡査」=怪しい男を袋小路へ追い詰めたと思った刹那、どの家にも怪しい男はいなかった、なぜ? という謎。ホームズものなど古典作品でよく登場しそうな設定だが、このトリックはなかなか奇抜。リアリティは別にして・・・。
⑦「不和の種、小さな村のメロドラマ」=凡そミステリーっぽくないタイトルだが・・・。プロットというか筋立て自体もちょっと不明瞭。結構長い割には、ラストでがっくりくるパターン。

以上7編。
個人的には、セイヤーズという作家も、ピーター卿という探偵にもあまり馴染みがないし、イメージが湧かない、というのが本音。
本作の収録作も、それ程ひどくはないが、それ程感心もしない、というレベル感なのだ。
まぁ、古き良き英国ミステリーという風合いの作品が並んでいるので、こういうノスタルジックな作品が好きな方にはいいのかもしれない。

思ったよりは良かったかな。次は、長編の代表作でも読んでみることにしよう。
(ベストは⑥か。後は①~⑤までは同程度。)

No.1 7点 Tetchy
(2009/02/19 22:59登録)
セイヤーズの初読作品として本作を手にしたが、これが間違いだった。
こういう短編集はやはりシリーズをある程度読んでいないと十二分に楽しめない。
これで2点はマイナスだ。

しかし、島田氏が本格の定義として提唱している「冒頭の怪奇的・幻想的な謎、そして後半の論理的解明」を正に実践しているのに驚いた。
こんな本格が過去、西洋にあったのかと再認識させられた次第。
ドッペルゲンガーに悪霊憑き、そして首のない馬車とゴシック風味満載である。
真相自体はずば抜けた物はないが、こういう正道作品があったことが素直に嬉しい。

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