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平均点:6.00点 | 書評数:1845件 |
No.1045 | 6点 | 彼女が追ってくる 石持浅海 |
(2014/08/27 21:13登録) 「扉は閉ざされたまま」「君が望む死に方」に続く、碓氷優佳シリーズの三作目。 相変わらずの“クール&ビューティー”振りを発揮する優佳の推理が本作でも炸裂!するのか? ~旧知の経営者仲間が集う「箱根会」の夜、中条夏子はかつての親友・黒羽姫乃を殺害した。愛した男の命を奪った女の抹殺を自らの使命と信じて・・・。証拠隠滅は完璧。さらに死体が握る「カフスボタン」が予想外の人物へ疑いを向ける。夏子は完全犯罪を確信した。だが、ゲストの火山学者・碓氷優佳は姫乃が残したメッセージの意味を見逃さなかった。最後に笑う「彼女」は誰か?~ 作者の作品でも、本シリーズは別格。 一作目の「扉は閉ざされたまま」は各種ランキングでも上位を占めた作品だし、「倒叙ミステリー」としての要素をすべて備えた佳作だった。二作目のプロットも前作の焼き直しではなく、新たな角度から倒叙ミステリーを捉えた良作。 そして三作目というわけなのだが・・・ 正直なところ、前二作よりは落ちるなという感想にはなる。 何しろ、真犯人の計画も完璧なものというわけではなく、「曖昧さ」を最大限利用しようとしたものであり、「緻密」とは対局にあるもの。 しかも、優佳にはあっという間に真相に気付かれるはめに・・・ まぁ「倒叙ミステリー」であれば、単なる裏返しというレベルではなく、真犯人が自身の計画とは予想外の事件が起こり右往左往する・・・というプロットがよく登場するが、本作の“予想外さ”も相当強烈なものだ。 それが明らかになる終盤、そして何よりもラスト一行の衝撃! こりゃ相当ブラックだなっていうか女は怖い! とにかく“推理機械”の異名をとる優佳の推理を堪能してください。 こんな女性がいたら、男は絶対に嘘をつけないんだろうなぁ・・・ すぐにバレる。 (続編も楽しみなシリーズ。でも、作者の作品ってこれと座間味君シリーズ以外それほど面白くないのが残念) |
No.1044 | 6点 | 石の猿 ジェフリー・ディーヴァー |
(2014/08/15 23:30登録) 2001年発表のリンカーン・ライムシリーズの長編四作目。 タイトルの「石の猿」とはズバリ「孫悟空」というわけで、中国からの密入国者と彼らを執拗に追う殺し屋“蛇頭”と対決するライムとアメリアの姿を描く。 ~中国からの密航船が沈没。十人の密航者がNYへと上陸した。同じ船に乗り込んでいた国際手配中の犯罪組織の大物“ゴースト”は、自分の顔を知った密航者たちの抹殺を開始した。科学捜査の天才リンカーン・ライムが後を追うが、ゴーストの正体は全く不明、逃げた密航者たちの居場所も不明だ・・・。果たして冷血の殺戮は止められるのか?~ シリーズも三作目、四作目となると、徐々に新機軸やこれまでとは違う要素を加えなくてはならなくなる・・・普通。 前作(「エンプティ・チェア」)では舞台をNYから移すことで、新たな要素を加えたのだが、本作では主戦地のNYに戻ってきた。 その代わりに加えたスパイスが「中国」。 (ただし十数年前の中国なので、2014年現在の発展した中国の姿からすると、若干の違和感はあるけれど。) 密入国者であるチャン一家やウー一家、ライムと共に捜査に当たることになる中国の公安刑事ソニーなど、多くの中国人が登場し、中国人の風習や考え方などが紹介される。 そして何より、「石の猿」のお守りを付けている男=蛇頭“ゴースト”の存在・・・ 本シリーズには毎回インパクトのある悪役が登場するが、本作の悪役“ゴースト”はこれまでの悪役と比べるとやや見劣りするところが残念。 作者の作品では毎度お馴染み、終盤の「ドンデン返し」も、これまでの三作よりはインパクトに欠ける。 異文化を持つ男たちの捜査官コンビというと、個人的には映画「ブラック・レイン」(懐かしいね・・・)を思い出してしまったのだが、作家としては取り組みがいのあるテーマなのかもしれない。 ライムとソニー刑事のやり取りや友情は本作の白眉のように思えた。 ただ、こういう好人物は得てして死んでしまうものだけど、本作ではさてどうか・・・ 二作目「コフィン・ダンサー」などとの比較では、評価は下げざるを得ないんだけど、五作目以降も是非読み続けていきたいことには変わりなし。 (アメリアのピンチシーンには相変わらずドキドキするなぁ・・・) |
No.1043 | 7点 | 赤の組曲 土屋隆夫 |
(2014/08/15 23:29登録) 日本推理作家協会賞を受賞した「影の告発」に続いて、千草検事と野本刑事のコンビが活躍する長編の第二弾。 1966年発表作品。 ~千草検事は懐かしい友人・坂口秋男の来訪を受けた。「警察署長を紹介して欲しい」・・・彼の妻が失踪したというのだ。千草は助力を約束する。坂口の妻らしい女性が長野県の温泉を訪れたという情報が入るが、その女性も失踪してしまう。犯人が残す「赤い」謎・・・。論理と直感が絡まり合い、引き立て合い、鮮やかな結末を紡ぎ出す本格推理小説~ 格式高く、実に気品のある佳作・・・そんな印象だ。 依頼人の妻の失踪、容疑者の男の死と事件は展開するのだが、事件の構図そのものは、割と早い段階で判明したように見える。 ただし、それが作者が仕掛けた欺瞞。 中盤以降は、登場人物たちの裏の姿が次々に判明し、事件は次第に混迷していく。 「どういう風に決着付けるんだろう?」って思っているところへ・・・ ちょっとしたきっかけで千草検事が真犯人の仕掛けたカラクリに気付く。 そのタイミングが実に絶妙。 たったひとつのピースが埋まることで、事件全体のパズルが瞬く間に明確になっていく。 この辺りの手練手管こそ作者の真骨頂だろう。 解決のきっかけとなるある“ことば”についても、なかなか気が利いている。 とにかくプロットの丁寧さが光る作品だ。 終章も実に味わい深く余韻を残す。 派手なトリックや仕掛けはないので、若干の食い足りなさを感じる方もいらっしゃるかもしれないけど、個人的には「いいもの読んだなぁー」のひとこと。 (ちょっと褒めすぎか?) |
No.1042 | 5点 | しのびよる月 逢坂剛 |
(2014/08/15 23:28登録) 御茶ノ水署生活安全課二係、斉木斉と梢田威の元同級生コンビが大暴れするシリーズ第一弾。 神田神保町や御茶ノ水界隈なんて警察小説の舞台に合わないような気がするのだが・・・ ①「裂けた罠」=泥酔し警察署に連れ込まれた男と、同じ時刻に起こった殺人事件。そこにマニアックなお店を経営する男が絡んできて・・・。その後も登場する刑事課・辻村警部と三人が事件を解決する。 ②「黒い矢」=夜の御茶ノ水で突然ボウガンで肩を撃たれた女性。街には夜頻繁に暴走族が徘徊していた・・・。捜査の途中で意外な人物の関わりが明らかになる。 ③「公衆電話の女」=“公衆電話”という言葉自体に懐かしさを覚える・・・。公衆電話を掛けている男性に誘いをかける女性、斉木たちに連行された女性は、なんと「じゃんけんをしようとしただけ」というとんでもない言い訳をしてくる! ④「危ない消化器」=消化器の中身を詰め替える業者、っていう地味な存在にスポットを当てた一編。業者の美人社員が気になる梢田だが、意外なラストが用意されている。 ⑤「しのびよる月」=いわゆるストーカーをテーマとした作品。この頃からストーカーなんて存在がクローズアップされてきたんだろうなぁという感想以外思い付かない。 ⑥「黄色い拳銃」=小川町にある美味しい中華料理店。そこで食事をしていた二人なのだが、突然拳銃強盗が押し込んでくる! しかも武器は黄色く塗られた拳銃・・・。これもラストは意外といえば意外。 以上6編。 逢坂剛ってこんな軽~い小説も書くのね、っていうのが感想。 読者に挑戦するというようなスタイルでもなく、ただストーリーの進行に身を任せればよい。 そういう意味では、のんびり読むのに丁度いいのかもしれない。 ただ、ちょっと退屈だったかな。 お笑い系としても、警察小説としてもひとことで言えば中途半端。 (敢えていうならベストは④かな。あとは特になし) |
No.1041 | 5点 | 電氣人閒の虞 詠坂雄二 |
(2014/08/07 21:50登録) 「リロ・グラ・シスタ」「遠海事件」に続く作者の長編三作目。 アクロバティックな作者の企みが炸裂する問題作(かも)・・・ ~「電気人間って知ってる?」・・・一部の地域で根強く語られている奇怪な都市伝説。真相に近づくものは次々に死んでいく。語ると現れ、人の思考を読むという電気人間は存在するのか? ライターの柵馬朋康もまた謎の解明に乗り出すが、複数の仮説を拒絶する怪異は、彼を出口の見えない困惑の迷宮に誘う・・・。ミステリーかホラーか。ジャンルの枠を軽妙に超越する鮮烈の作品!~ これは、相当な変化球投げたなぁ・・・ という感想だな。 ラストの第24章を読んで、最初は正直なところどういう意味なのか把握できなかった。 で、巻末の佳太山大地氏の解説を読んで、初めて理解した次第。 繰り返すけど、これはスゴイ変化球だけど、個人的には完全な“ボール”だなぁー ストライクとボールすれすれなら思わず振るかもしれないけど、ここまで完全なボール球だと振ることもなくただ呆然と見送った、という感じだ。 普通の読者なら、「電氣人間って何だよ?」という疑問が湧くと思うが、まさかここまで特殊な設定が施されているとはねぇ・・・ まぁこんなアイデアを思い付くこと自体は賞賛すべきなのかもしれない。 確かにアノ台詞は冒頭から繰り返し出てきていたしね。 でも、さすがにそれが大いなる伏線になっているとは気付かなかった。 プロットのアイデア性だけなら、近年稀に見る破壊力を秘めた作品。 ただ、これは決して初心者向けではないと思うので、どちらかというとひねくれた読者の方向け。 私は・・・だから「ボール」だって・・・ (ミステリーかホラーか、っていうと絶対にミステリーでしょう) |
No.1040 | 7点 | 麗しき疑惑―西村京太郎自選集〈2〉 西村京太郎 |
(2014/08/07 21:49登録) 徳間書店で編まれた作品集。 400を超える短編の中から厳選された自薦集の第二弾。バラエティに富む作品が並んだ作品。 ①「白い殉教者」=1975年発表。昨今の作者の作風とは全く異なるプロットと風合い。いわゆる雪密室をテーマにした作品なのだが、トリック自体は出来がいいとは言えない。でも、名探偵役として登場する徳大寺京介がいい味を出してる王道の探偵小説。 ②「アンドロメダから来た男」=1976年発表。本作中最も毛色の異なる作品。何しろ完全なSFなのだから・・・。別にオチもなにもないのだが、ラスト一行が何とも気が利いている。 ③「首相暗殺計画」=1981年発表。首相××というと、作者には首相誘拐計画を扱った「ゼロ計画を阻止せよ」という名作があるが、本作は日中戦争突入間近というきな臭い雰囲気の中、近衛首相の暗殺計画が描かれる。暗殺計画の舞台が超特急「つばめ」の車内というのが作者らしい。 ④「新婚旅行殺人事件」=同じく1981年発表の中編。本作中唯一、十津川警部と亀井刑事の超名コンビが登場するトラベルミステリー。新婚旅行中の花嫁が列車の中で爆死するという壮絶な事件が発生するが、犯人と目星をつけた人物には鉄壁のアリバイがあった・・・という定番のやつ。でもまあ、この頃は各列車の特徴に目をつけたトリックが用意されていて、トラベルミステリーもたまにはいいものだという気にさせられる。何しろ、まだ東北新幹線も走ってない頃の東北本線が舞台なのだから・・・(「やまびこ」「はつかり」「ひばり」・・・ってよかったなぁ) 以上4編。 さすがに400編超の短編というのは伊達ではない。 特に70~80年代の作品なら、作者のアイデアが十分に込められていて、ミステリー作家としての力量を感じることができる。 本作では特別トリッキーな趣向は出てこないが、ミステリー好きの要求に応えるだけの水準作品が並んでいる。 そんな読後感。 (②が印象に残った。①③もなかなか) |
No.1039 | 6点 | 興奮 ディック・フランシス |
(2014/08/07 21:48登録) 1965年発表の競馬シリーズ第三長編。 シリーズ中でも屈指の出来栄えを誇る作品との評価はあるが、果たして・・・ 原題“for kicks”(=刺激を求めて、という意味かな?) ~障害レースで思いがけない大穴が続いていた。番狂わせを演じた馬は、その時の状況から推して明らかに興奮剤を与えられていた。ところが、いくら検査をしても興奮剤を投与した証拠が出てこない。どんなからくりで不正が行われているのか? 事件の解明を急ぐ障害レースの理事は、オーストラリアに飛び、種馬牧場を経営するロークに黒い霧の真相究明を依頼したのだが・・・~ まさに「興奮」という邦題がピタリ当て嵌る作品。 明らかに興奮剤を与えたとしか思えないサラブレッドなのだが、検査をしても全く薬剤は発見されない。 その謎を解くために、悪徳厩舎に潜入を図る主人公ローク。 そして、本シリーズではお馴染みの終盤のピンチシーンを経て、事件は無事解決されるのだ。 こう書くと、「二番煎じ」とか「マンネリ」と思われそうなのだが、決してそういうことではない! 他の方も書かれているが、本シリーズのテーマは「男たちの不屈の心や矜持」ということなのだろうし、本作でもその醍醐味は十二分に味わえる。 ロークがトリックに気付くのが単なる偶然というのが気になりはするが、サスペンス性は過去二作を上回る出来栄えだろう。 ただし、個人的には一作目の「本命」の方が上に思えた。 昨今はサラブレッドだけでなく、人間でもドーピング問題がスポーツ会では問題になっているけど、人間がもしこのトリックを使えるのなら楽だろうねぇ・・・ (特定の人物だけ、というのは無理だろうが・・・) |
No.1038 | 6点 | 数奇にして模型 森博嗣 |
(2014/07/30 22:05登録) 「すべてがFになる」から始まったS&Mシリーズも回を重ね、本作が9作目の長編となる。 1998年発表の大作。 ~模型交換会会場の公会堂でモデルの女性の死体が発見された。死体の首は切断されており、発見された部屋は密室状態。同じ密室内で昏倒していた大学院生・寺林高司に嫌疑がかけられたが、彼は同じ頃にM工業大学で起こった女子大学院生密室殺人の容疑者でもあったのだ! 複雑に絡まった謎に犀川・西之園師弟コンビが挑む~ 本作のメインテーマは・・・やっぱりホワイダニットなのだろうか? 紹介文を読むと、これまでのS&Mシリーズと同様、密室トリックあたりがメインテーマなのだろうと思ってしまうのであるが、最終的に判明する密室トリックは正直、本シリーズファンには軽い裏切りに近いものに見える。 (もっとも、シリーズも回を重ねるうちに、当初の純粋なトリックというよりは、変化球的なトリックが目立ってはきていたが・・・) さらに今回は「首切り」まで登場するのだから、当然「首切り」についてもミステリーファン寄りのトリックを期待してしまうよなぁ・・・『なぜ真犯人は首を切ったのか』を!! 「見立て」などもそうだが、こういう“いかにも”というガジェットを加味する以上、必然性が問題となる。 ただし、本作で作者が用意した解答は相当な変化球! (あまりにも鋭く内に曲がりすぎて、思わずのけぞるほどだった・・・) こういうタイプの解答は全く予想していなかったし、ある意味初めての体験かも知れない。 それもこれも作者の舞台設定の勝利と言えるだろう。 でもなぁ・・・それが個人的な好みに合致しているかというと、そうではないというのが本音。 もちろん作者には豊富な球種があって、鋭く横に曲がるスライダーや縦に落ちるスプリットも投げられるだろうけれど、読者としては胸元ズバリのストレートを期待してしまうわけです。 (分かりにくい例えかもしれないけど・・・) |
No.1037 | 6点 | 殺意の楔 エド・マクベイン |
(2014/07/30 22:04登録) 1959年発表の87分署シリーズ作品。 シリーズとしては第九作目の長編。十月初旬のグローヴァー公園の鮮やかな彩りが眩しい季節・・・という設定。 ~秋の静かな昼下がり。87分署の前に蒼白な顔で黒い服の女が立っていた。女はキャレラ刑事に恨みを抱いている。彼に逮捕された夫が獄中で病死したのだ。彼女は署にキャレラがいないと知るや刑事部屋に押し入り、刑事たちに隠し持っていた拳銃とニトログリセリンの小瓶を突きつけた! 復讐の鬼と化した女と刑事たちとの熾烈な心理闘争。刻一刻と迫るカタストロフィ。息詰まるスリルとサスペンスで描くシリーズ屈指のサスペンス~ やはり本シリーズらしい味わいのある作品だった。 事件は急に起こる。 紹介文のとおり、突然87分署の刑事部屋に拳銃とニトロの液体を持った女が押し入る場面から始まるのだ。 たった二つの武器で屈強な刑事たちを釘付けにする女と刑事たちの緊張感たっぷりの対決。 電話や来客など、途中に発生する予想外の出来事を挟みながらも、ラストまでこの展開は続いていくのだ。 ラストを知ると、「じゃあ最初からそうしとけよ!」っていう突っ込みがありそうなのだが、そこは言わぬが華だろうな。 ただし、本作は上記以外に、女のターゲットとなるキャレラ刑事が挑む密室殺人事件の場面も並行して描かれる。 マクベインが密室トリック? というと意外感たっぷりなのだが、トリックそのものは・・・まぁこれも言わぬが華。 (J.Dカーを意識したようなセリフを登場人物がじゃべっているのが笑わせる) 二つの事件に直接のつながりはないのだが、事件を解決して刑事部屋に戻ってきたキャレラ刑事が最後に電話を取るシーンがなかなか気が利いている。 それほど派手な展開があるわけではなく、サスペンス感もほどほどだけど、それはそれで作者らしい味わいが良い。 悪く言えば、一昔前の刑事ドラマのようなのだが・・・ |
No.1036 | 7点 | 我が家の問題 奥田英朗 |
(2014/07/30 22:04登録) 小説「すばる」誌に断続的に掲載されてきた作品をまとめた短篇集。 先に発表された「家日和」の続編的な意味合いもある好編。 ①「甘い生活?」=新婚の妻は常に甲斐甲斐しく、家事も完璧にこなす。でも、なぜか居心地が悪く、まっすぐ家に帰れない夫・・・。これは「独身病」というらしいです。夫婦が初めて本音をぶつけ合うラストが何ともいえない。 ②「ハズバンド」=夫が会社で上司や部下から軽んじられているらしい・・・。妻が抱えた不安と夫のポーカーフェイス。専業主婦の妻が取った行動は、とにかく毎日おいしい弁当を作ること! でもこれが意外な効果を生むことに・・・ ③「絵里のエイプリル」=何気なく聞いてしまった父母の不仲と離婚の話・・・普段は仲の悪い弟も巻き込み、普段は“いて当たり前”だった親の存在を考えることに・・・(で、結局どうなったんだろうか?) ④「夫とUFO」=これはかなり面白い。突然、帰り道で毎日UFOを見ると言い出した夫に戦慄を覚える妻。会社では真面目で部下に頼られる存在の夫なのに、なぜこんなおかしなことを!? そして判明する夫の本当の姿。巻末解説の吉田氏も述べているが、『これからお父さんを救出してきます』という作中の台詞が本作NO.1だろう。 ⑤「里帰り」=せっかくの休暇なのに、お互いの実家に帰らざるを得なくなった新婚夫婦。でも、嫌々だったはずの里帰りで、思わぬ「ホッコリ」した気持ちを味わうことに・・・これも好編。 ⑥「妻とマラソン」=前作「家日和」の中にもあったが、作者自身の家庭をモデルにした作品。マラソンに嵌っていく妻を最初は訝しく思っていた夫なのだが、その理由に気付いたとき、夫婦そして親子の絆が強くなっていく・・・ラストなんて目頭が熱くなってもいい。 以上6編。 さすが奥田英朗! 実にウマイ! ホント、どこにもありそうな夫婦や親子の姿を描いているのに、それがこんなに読む側の心をしんみり、そしていい気分にさせてくれるなんて・・・ もう名人芸です。 ①~⑥までどれも好編揃い。特に、①に出てきた夫なんて新婚時代の自分にあまりにそっくりで笑っちゃいました。 ⑤も分かるね。でもベストは④かな。 とにかく読んでみてください。でもミステリーじゃないので・・・悪しからず。 |
No.1035 | 6点 | 極北ラプソディ 海堂尊 |
(2014/07/20 22:13登録) 「極北クレイマー」の続編という位置付けの作品。 前作で単身乗り込んだ“再生請負人=世良”は、破綻した極北市民病院の窮地をいかにして救い出すのか? 姫宮が登場していたということはやっぱりアイツも出てくるのか? などなど興味は尽きないが・・・ ~財政破綻した極北市の市民病院。再生を図る新院長・世良は人員削減や救急医療の委託を断行。非常勤医師の今中に、“将軍(ジェネラル)”速水が仕切る雪見市の救命救急センターへの出向を指示する。崩壊寸前の地域医療はドクターヘリで救えるのか? 医療格差を描く問題作!~ 前作(「極北クレイマー」)のテーマは、医療事故と地域医療の二点だったが、本作のテーマはズバリ「救急医療」だ。 一時期新聞誌上で救急車のたらい回しなどがよく槍玉に上がっていたが、本作では海堂ワールドの住人で東城医科大学病院を追われた速水(将軍)が登場し、世良や今中とともに日本の救急医療の問題点を抉っていく。 そして、救急医療の象徴として登場するのが「ドクターヘリ」というわけだ。 (こんなこと書いてると、とてもミステリーの書評とは思えないけど・・・) ただし、本作の読みどころはそこではない。 極北市民病院の問題があらかた片付いた終盤。突然、表舞台に登場してくるオホーツク海に浮かぶ島「神威島」。 そこで世良が運命の再会を果たすことになる・・・ でもこれを持ってこられると、そこまでの救急医療のくだりはなんだったのか・・・という気にはさせられる。 まぁ、これまで海堂ワールドの作品を読み継いできた読者にとっては、「そうきたかぁー」というある種感動のシーンにはなるわけだが・・・ ということで、この作品単独で読まれると、驚きや感動は恐らく半減すると思われる。 あくまでも、作者のファン向けの作品ということになるだろう。 (いつまでたっても狂言回しの役割から抜け出せない今中の立場は?!) |
No.1034 | 5点 | リッジウェイ家の女 リチャード・ニーリィ |
(2014/07/20 22:11登録) 1975年に発表された長編作品で、作者の代表作「心引き裂かれて」のひとつ前に当たる。 長らく日本未訳だったのが、最近扶桑社文庫にて発刊された。 ~ギャラリーでダイアンの絵を見て声をかけてきたのは、退役空軍大佐のクリスだった。裕福な未亡人だが夫の死に関わる暗い記憶をもつダイアンは、新たに始まった恋に戸惑う。やがて二人は再婚して新たな生活を始めるが、そこに疎遠になっていた娘のジェニファーとその恋人ポールから突然連絡が入って・・・。不幸な過去に囚われた母と娘の確執とアンビバレントな感情。同居を始めた四人の生活にさす怪しい影~ 帯には『鬼才ニーリィの離れ業』とあるが、そこまでではないなという感想。 ニーリィというと、どうしても「心引き裂かれて」や「殺人症候群」を始めとするサイコ・サスペンスのイメージが強すぎるきらいがある。 本作はそういった要素は皆無といってよく、正直なところニーリィとしてはおとなしいプロット。 ラストには一応ドンデン返しが待ち受けてはいるのだが、十分に予想の範囲内のものではあった。 ストーリーは母娘であるダイアンとジェニファーというリッジウェイ家の二人の女性の視点で描かれる。 ただし、視点に何か仕掛けがあるのではないので、逆にそれが読みにくさに繋がっているかもしれない・・・ 序盤から中盤までは特段事件らしい事件も起こらず、淡々とした展開が続く。 その分、終盤からのスピードアップが効いてくるという面はあるのだけど、冗長さは免れないかなぁ。 こうやって書いていると、どうにも不満点しか浮かんでこないんだけど、それもこれもニーリィという作家に対する固定観念のせいなのかもしれない。 誰しも全ての作品が似たようなプロットというわけではないのだから、ニーリィにもこういう作品があるということなのだろう。 巻末解説者の折原一もその辺りは心得ており、本作に対する評価はほんのおまけ程度に触れているだけ。 「読みやすく」「とっつきやすい」というのが本作のストロングポイントだろうけど、そこはあまりなぁ・・・期待していないところだけに高評価は難しい。 |
No.1033 | 4点 | うさぎ幻化行 北森鴻 |
(2014/07/20 22:10登録) 2010年1月、48歳の若さで急逝した作者。 作者がちょうどその時期に「ミステリーズ」誌上で連載していた作品が本作。 「音」に着目した珍しい連作形式のミステリー。 ~飛行機事故で突然この世を去ってしまった義兄・最上圭一。優秀な音響技術者だった彼は、遺書とは別に「うさぎ」宛に不思議な音のメッセージを遺していた。圭一から「うさぎ」と呼ばれていたリツ子は、早速メッセージを聞くことに。環境庁が選定した日本の音風景百選を録音したと思われるが、どこか不自然なひっかかりを覚える。謎を抱えながら録音されたと思しき音源を訪ね歩くうちに、リツ子は奇妙な矛盾に気付く・・・~ ①「ヨコハマ12.31」=謎の提示が行われる一編。桜木町と東横線かぁ・・・ ②「対の琴声」=音源を探す旅で訪れた岐阜県美濃市。そこである殺人事件と遭遇することに・・・ ③「祭りの準備」=今回の音は祭囃子。 ④「貴婦人便り」=JR山口線を走るSL「貴婦人号」。そう、本編の舞台は山口市だ。 ⑤「同行二人」=タイトルからも分かるとおり、本編の舞台は「四国八十八箇所参り」。ということで、空海上人がキーワードとなる。本編から徐々に「うさぎ」の謎が深まっていく・・・ ⑥「夜行にて」=本編よりキーマンのひとり岩崎が登場。舞台は寝台特急「北斗星」。そこで岩崎は「うさぎ」と出会うが・・・ ⑦「風の来た道-夜行にてⅡ」=⑥と対になる一編。舞台は寝台特急「トワイライトエクスプレス」。岩崎は何と別の「うさぎ」と出会ってしまう・・・謎が謎呼ぶ? ⑧「雪迷宮」=舞台はいよいよ北海道へ。札幌の象徴「時計台」の音が問題となるのだが・・・ ⑨「うさぎ二人羽織」=本作全体の仕掛けがやっと分かる・・・が、どこか腑に落ちない。 以上9編の連作。 はっきりいってこれはミステリーというよりもファンタジーだ。 もちろんミステリーっぽいエッセンスはあるのだけど、謎が論理的に解明されるというミステリーの大前提からはズレている。 まぁ好みの問題ではあるのだけど、正直なところ個人的には退屈な作品にしか思えなかった。 「音」というテーマはやり方次第では面白いとは思うのだけど・・・ |
No.1032 | 4点 | 幽体離脱殺人事件 島田荘司 |
(2014/07/11 23:27登録) 吉敷刑事シリーズの長編。 1989年発表。「幽体離脱」というフレーズが時代を感じさせる・・・ ~警視庁捜査一課の吉敷竹史のもとに、一枚の異様な現場写真が届いた。それは、三重県の観光名所・二見ヶ浦の夫婦岩で、二つの岩を結ぶしめ縄に首吊り状態でぶら下がった中年男性の死体が写っていた! しかも、死体の所持品の中から、吉敷が数日前に有楽町の酒場で知り合った京都在住の小瀬川杜夫の名刺が発見される・・・?~ これは、まぁ小品だな。 (かなり前に読了しており)再読だけど、あまり大した印象もない作品だったよなぁ・・・と考えながら読み始めたわけなのだが、 やっぱりその印象は変わらなった。 特に終盤がいただけない。 「幽体離脱」というタイトルが示すとおり、中盤までは幻想的な謎と雰囲気を醸し出そうという努力は窺えたのだけど・・・ 犯人側の独白という形で唐突に事件が終結することになる。 しかも吉敷は実質二日間であらゆる謎を解き明かしてしまう。 そのきっかけというのが「生年月日」にまつわる謎! (これは今では通用しないのだが・・・) とにかく呆気なさすぎる。 “鬼気迫る女”の描写は、名作「毒を売る女」に負けず劣らずスゴイのだが、それくらいしか褒めるところはない。 吉敷刑事シリーズは御手洗シリーズよりも作品ごとのレベル差が大きい。 本作はその中でも「中の下」という評価が精一杯かな。 (これで吉敷刑事シリーズの未読作品はなくなった。吉敷刑事は大好きなキャラクターだけに、続編を期待したいんだけどなぁ・・・) |
No.1031 | 6点 | メソポタミヤの殺人 アガサ・クリスティー |
(2014/07/11 23:26登録) 1936年発表。エルキュール・ポワロ物で十二番目の長編ということになる。 「ナイルに死す」や「死との約束」など中近東を舞台とした作品のひとつ。 ~考古学者と再婚したルイーズの元に、死んだはずの先夫から脅迫状が舞い込んだ。さらにルイーズは寝室で奇怪な人物を目撃したとの証言をする。しかし、それらは不可思議な殺人事件への序曲に過ぎなかった・・・。過去から襲い来る悪夢の正体をポワロは暴くことができるのか? 中近東を舞台にしたクリスティ作品の最高傑作!~ 全体的な感想で言うと、「さすがクリスティ!」という感じにはなる。 なにしろそつがないミステリーだ。 砂漠の中の遺跡発掘現場というクローズドサークル。しかも現場となる「館」も密室というわけで、これはもう「二重の密室」ということになる。(しかも「館」の平面図付きというのがミステリーファンの心をくすぐる・・・) 序盤から中盤へと、作者の巧みなストーリーに乗せられていると、いつの間にか終盤へ突入することに! そして、例のごとく神のような「ミスリード」にまんまと騙されることになるのだ。 今回は容疑者も結構な人数になるので、純粋なフーダニットとしても楽しめる。 で、問題はそのトリックなのだが・・・ 他の方が指摘しているとおり、この○れ○○りトリックは相当強引だろうなぁー。 古いミステリーではこの辺りが割と無視されているケースが多いが、現実的にはそれに「ピン」とこない奴はいないのではないか? そこはどうしても割り引かざるを得ない。 そしてもうひとつが殺害方法に関するトリック。 一種の○○殺人ということになるのだが、これはポワロならすぐに気付くのではないか? その程度のトリックには思えた。 (まぁこういうトリックを不自然ではなく登場させる手口こそ褒められるべきかもしれない) 個人的にはそう悪い出来には思えなかったが、作者の他の良作に比べれるとどうしても“それなり”の評価に落ち着く。 なにしろ作者については評価のバーが高くなるので、こういう評点になるよなぁ・・・ (看護婦の手記という形式は結局・・・?) |
No.1030 | 6点 | ビブリア古書堂の事件手帖5 三上延 |
(2014/07/11 23:25登録) 大人気ビブリオシリーズもはや五作目に突入。 栞子さんと五浦の“仲”は果たして進展するのか、栞子さんの実母にして謎の女性・智恵子との関係は、などなど読みどころ満載の本作! ①「彷書月刊」=古書マニアには必読の雑誌『彷書月刊』。古書店に大量の『彷書月刊』を持ち込んだ後、なぜか再び買取に現れる謎の女性・・・。真相は本シリーズお馴染みの「あの人」の過去が大きく関わっていた! ミスリードの旨さが光る一編。 ②「手塚治虫「ブラックジャック」』=パートⅡでは藤子不二雄が登場したが、今回は日本漫画界の金字塔“手塚治虫”が登場。「ブラックジャック」に関する薀蓄に留まらず、手塚治虫の人となりまでも詳細に語られ、興味深く拝読させてもらった。手塚作品には様々な稀覯本があるらしいけど、それは氏の“仕事振り”に起因していたんだなぁ・・・納得。 ③「寺山修司『われに五月を』」=詩歌やエッセイ、演劇など様々なジャンルにその才能を発揮してきた“鬼才”寺山修司。知名度の割にはあまり詳しく知らなかった」んだよなぁ・・・。寺山の処女詩集という稀覯本を持ち込んだのは、母親・智恵子の古くからの知人、というわけで、栞子さんは智恵子の影に惑わされることになる。本筋の謎解き自体はやや平板。 以上3編。 作品としては上記の3編なのだが、幕間にはシリーズ全体のストーリーに影響を与えるショートストーリーが数編挟まれ、作者のストーリーテラーとしての才能が遺憾なく発揮されている。 各編のミステリー的な仕掛けはやや小粒なのだが、ここまでくればシリーズ全体が今後どのように進んでいくのか、伏線っぽく語られてきたエピソードやエッセンスはどのように回収されていくのか、そちらの方に興味が移ってしまい、気にならなかった。 作者あとがきによると、「シリーズも後半に入りました・・・」とのことだから、少なくとも数作はまだ続いていくということなのだろう。 栞子さんと五浦の関係にようやく進展が見られた本作だが、まだまだ紆余曲折ありそうな予感。 まぁいずれにせよ、ますます楽しみになった(という感じかな)。 (いつもながら、題材となる古書のセレクトが魅力的だ!) |
No.1029 | 7点 | 墓場への切符 ローレンス・ブロック |
(2014/07/05 09:47登録) 1990年に発表されたマッド・スカダーシリーズ第八作。 本作に続く「倒錯の舞踏」「獣たちの墓」と合わせて、「倒錯三部作」と呼称される作者の代表作。 ~無免許の私立探偵スカダーは、旧知の高級娼婦エレインから突然連絡を受けた。かつて彼女の協力を得て刑務所に放り込んだ狂気の犯罪者・モットリーがとうとう出所したというのだ。復讐に燃える彼の目的は、スカダーのみならずスカダーに関わった女たちを全員葬り去ることだった! ニューヨークに展開される現代ハードボイルドの最高傑作~ L.ブロックの作品を読んでいると、NYが実に魅力的な街に映る。 ハードボイルドの“本場”といえば、LAやサンフランシスコなど西海岸の都市を思い浮かべてしまうのだが、このマッド・スカダーシリーズに触れた瞬間から、NYこそがハードボイルドに似合う舞台という気になってしまう。 (もっとも、「新宿鮫」を読むと新宿こそがハードボイルドが最も似合う街、っていう気になるのだが・・・) それはともかく、本作はスカダーVS狂気の殺人者である。 この殺人者モットリーはかなりヤバイ。 先日読了した「倒錯の舞踏」の悪役も相当強烈で、頭がクラクラしたほどだったけど、本作も負けず劣らずだ。 なにしろ、“鉄の爪”ならぬ“鉄の指”を持つ男なのだから・・・ この男には、さすがのスカダーも相当苦しめられることになる。 ラストの二人の対決シーンは手に汗握ること請け合い! ただし、本作には謎解き要素はほぼないし、そこが不満という読者は多いかもしれない。 本格ミステリーではないのだから、伏線を用意しなければいけないわけではないのだけど、「倒錯の舞台」ではそこら辺りにも気を配り、徐々に謎が解明されるカタルシスを味わえるという要素もあっただけに、そこの比較上はどうしても「倒錯の・・・」に軍配をあげざるを得ない。 ただ、本作の醍醐味はスカダーと彼をとりまく脇役たちとの交流、そしてスカダーの生き様を思う存分味わうことだと思う。 読めば読むほど、スカダーという男に惹かれていく・・・これこそがハードボイルドの真髄と言えるのではないか。 とにかく読んで損のない佳作。 (読む順が逆になってしまったのがちょっと残念。やはりシリーズものは順に読むほうが絶対に良い) |
No.1028 | 6点 | ロシア紅茶の謎 有栖川有栖 |
(2014/07/05 09:47登録) 1994年発表の作品集。 スウェーデン、ブラジル、ペルシャ・・・と続く国名シリーズの第一弾に当たる作品。 W杯記念なら「ブラジル蝶・・・」を書評すべきだが、既読のため未読の本作をセレクトした次第。 ①「動物園の暗号」=決して嫌いではない。かつて時刻表フリークだった私にとっては・・・。でもまぁ普通の人には分からないだろうねぇ。鰐○や象○なんて・・・ ②「屋根裏の散歩者」=当然ながら乱歩の有名作をオマージュした作品。現代建築において広大な「屋根裏部屋」なんて存在するのだろうか? 犯人当てそのものは至極単純。 ③「赤い稲妻」=これは「よくある手筋」なのだが、こういう発想こそミステリーの原点だと感じさせる。そういう意味では非常に好感が持てるが、悪く言えば「ザ・推理クイズ」と言えなくもない。 ④「ルーンの導き」=神秘の言葉「ルーン文字」を使った一種のダイイング・メッセージが本編のテーマ。なのだが、かなり強引な解法に思える。これも犯人当て自体は単純、というか単調。 ⑤「ロシア紅茶の謎」=別に「ロシア紅茶」でなくても「セイロン紅茶」でも「烏龍茶」でもよかったわけだな・・・。でもまぁいくら実験を重ねてきたといっても、ここまでリスクを犯す益が犯人にあったのかどうか? でも、好きは好き。 ⑥「八角形の罠」=ある企画から生まれた作品。「八角館の殺人」なんてフザけてるとしか思えないが・・・トリックもあまり褒められたレベルではない。 以上6編。 火村&アリスの超お馴染みコンビによる、超お馴染みの短編シリーズ。 本シリーズについては、「ロジックに拘りすぎて単調に感じる」ということで、これまで高い評価をしてこなかったのだが・・・ 本作に関しては比較的好感を持てたというのが実感。 他の方も書評しているが、軽いし、某推理系アニメと同水準と言えなくもないのだけど、何ていうか、これぞ「パズラー」というエッセンスが凝縮されている感はある。(褒めすぎか?) きっと作者も楽しんで書いたに違いない・・・(違うか?) シリーズ第一作目っていうのは、やはり作者の新鮮な「思い」や「熱意」というのが感じられるのだろうと思う。 (抜けてる作品はないが、個人的には③⑤辺りが好み) |
No.1027 | 5点 | 顔に降りかかる雨 桐野夏生 |
(2014/07/05 09:46登録) 1993年。第三十九回の江戸川乱歩賞受賞作が本作。 女性をハードボイルドの主役に据えるという斬新なプロットが話題となった作品。 ~親友のノンフィクションライター・宇佐川燿子が一億円を持って消えた。大金を預けた成瀬時男は、暴力団上層部につながる暗い過去を持っている。あらぬ疑いを受けた私(村野ミロ)は、成瀬と協力して事件の解明に乗り出す。二転三転する事件の真相は? 女流ハードボイルド作家誕生の乱歩賞受賞作品~ 確かに処女長編としてはよくできているし、旨さを感じる。 突然事件に巻き込まれる序盤から、事件解明を進めていく中盤、そして事件のウラやカラクリが判明していく後半・終盤・・・というわけで、ミステリーとして実に真っ当な体裁を整えているといっていい。 次々と登場する“性倒錯者”も本作に華を添えている存在だろう。 (ちょっと気持ち悪いけど・・・) ただ、やっぱりミステリーとしては平板な印象は拭えなかった。 先程は褒めたプロットも、裏を返せば「紋切り型」で「ありふれた」ものという方も多いだろう。 “主人公を男性から女性に置き換えてみました”・・・では、さすがに途中で飽きてくる。 謎解き要素もあるにはあるけど、最初からミエミエでは仕方ない。 ということで、厳しい評価をしているが、デビュー作としては十分及第点という水準ではないか。 本作以降、「OUT」や「東京島」など、話題作を次々に発表した作者だし、ここは単なる通過点ということだろう。 評点としては・・・こんなもんかな。 |
No.1026 | 7点 | 悪女パズル パトリック・クェンティン |
(2014/06/23 22:24登録) ピーターとアイリスのダルース夫妻が活躍するパズルシリーズの四作目がコレ。 シリーズ三作目までは創元推理文庫で最近新訳版が出ているが、本作は扶桑社で2005年に発刊されたものを読了。 ~大富豪ロレーヌの邸宅に招待された。離婚の危機を抱える三組の夫婦。仲直りを促すロレーヌの意図とは裏腹に、屋敷には険悪な雰囲気が立ち込める。翌日、三人の妻のひとりが謎の突然死を遂げたのを皮切りに、ひとりまたひとりと女たちは命を落としていく・・・。素人探偵ダルース夫妻は影なき殺人者の正体を暴くことができるのか?~ なかなかの佳作だと思う。 何よりミステリーらしいプロットが「さすが」と思わせる。 離婚寸前の三組の夫婦が一堂に会するという不穏な舞台設定、間髪入れず起こる連続殺人事件・・・ スピード感のある展開に読者は否応なく巻き込まれてしまう。 章立てをひとりひとりの女性としているのも構成上当たっていると思う。 終盤も押し迫ってからは怒涛のような真相解明に突入。 ピーターの推理は完全な前座扱いでしかなく、主役は妻のアイリスが務める。 「三組の怪しげな夫婦関係」というミスリードがきれいに嵌っているし、そのための伏線の回収もまずは見事と言えるだろう。 他の方も指摘されていたけど、第二・第三の殺人についてはちょっと必然性に欠けるし、その動機にしては舞台設定が複雑すぎるというというところが気にはなった。 パズルシリーズは本作で三作読了したが、本作が一番面白かった。 世評的には「俳優パズル」の方が高いのかもしれないが、探偵役としてもレンズ博士よりはこの夫婦コンビの方がベターだし、作者の良さが前面に出た作品だろう。 他のシリーズ未読作も順に読んでいきたい。 (「悪女」というタイトルは正しいような、正しくないような気が・・・) |