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ミステリの祭典

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平均点:6.01点 書評数:1812件

プロフィール| 書評

No.1012 6点 フレンチ警部の多忙な休暇
F・W・クロフツ
(2014/05/20 21:52登録)
1939年発表の長編。原題“Fatal Venture”(運命の冒険?)
アイルランドやスコットランドを含めたイギリス全土を舞台に、フレンチ警部が大活躍するクロフツ好きには堪えられない(?)一冊。

~旅行者に勤めていたモリソンは、ふとしたことで知り合った男からイギリス列島を巡航する観光船の計画を聞かされ、その事業に協力することになった。やがて賭博室を設けた観光船エレニーク号が完成し、アイルランド沿岸の名所巡りを開始する。第一部では来るべき事件の前奏曲が、そして巧みに仕組まれた殺人が描かれ、第二部では船に乗り合わせたフレンチ警部の執拗な捜査が開始される!~

これも典型的なクロフツのフレンチ警部もの。
紹介文のとおり、本作は二部構成で、前半はモリソンの視点で殺人事件が起こり捜査が始まるまでが描かれ、後半は一転してフレンチ警部が登場し、事件を快刀乱麻のごとく解決する。
これも「フレンチ警部と・・・」というタイトル作品ではいつものパターンといえる。
前半は確かに冗長で、本筋とは結局関連してこない事業の詳細が紹介され、読者はそれにも付き合わされることになる。
「製材所の謎」などでも、前半は製材所の商売の謎が争点になり、事件発生の経緯が長々と書かれていたが、製材所の謎がメインの殺人事件と有機的に絡み合っていたのに比べ、本作では賭博船の商売そのものはあまり本筋には関係してこない。
(あまり書くとネタバレだが、「動機」には関わってくる・・・)
その辺がプロットとしては不満点。

本筋の謎はアリバイトリックがメイン。
ただし、同じようにイギリス全土を舞台としていた「マギル卿最後の旅」のような大掛かりなトリックではなく、○○を使ったもの。
これ自体は国産ミステリーでも割とよく目にする手のものだし、「ふーん」程度の感想。他の佳作に比べても正直小品かなという気にさせられる。(ありていに言えば、マンネリということになる)

まぁでもクロフツらしいと言えば、実にクロフツらしい作品。
登場人物のすべてが生真面目で、プロットも生真面目、トリックも生真面目・・・
クロフツ作品に親しんでいれば、結末はある程度予想できるところが玉に瑕だが、それなりに楽しめる作品には仕上がっている。
(アイルランドの観光地がいろいろと紹介されてるところもGood)


No.1011 7点 なんでも屋大蔵でございます
岡嶋二人
(2014/05/11 20:54登録)
鋭い勘と名推理で難事件を次々と解決する便利屋・釘丸大蔵が活躍する作品集。
名作「チョコレートゲーム」の次作として発表されたのが本作ということになる。

①「浮気の合い間に殺人を」=浮気調査を請け負っていた私立探偵が事故死(?)した。ひょんなことから事件に巻き込まれた大蔵が事件の裏に仕組まれたカラクリを暴く・・・粗筋を書くとこういうことになるのだが・・・
②「白雪姫がさらわれた」=“白雪姫”とは、大蔵の事務所の近所に住む通称・猫ババアが飼っている白い猫。その猫は町にある大木の上で袋詰めにされているのが見つかったのだが、なぜ猫がそんなめに?という謎。
③「パンク・ロックで阿波踊り」=大蔵の事務所に突然やって来た記憶喪失の若者。なぜか彼は大蔵の名刺を持っていた・・・。リアリティは感じないけど、ラストに謎がスルスルと解けていく感覚は好みの一編。
④「尾行されて、殺されて」=依頼人の留守宅へ行く途中、自分が尾行されていると知った大蔵。尾行者は出張中であるはずの依頼人だった。しかも僅かの間に彼は殺害されてしまう!? ということでなかなか魅力的な謎が呈示される本編。ロジックは甘いのだが、こういうプロットは好き。
⑤「そんなに急いでどこへ行く」=いつも変わった依頼を受ける大蔵なのだが、今回は依頼内容すら分からず呼び出されてしまうハメに。そして訪問した先にはまたもや死者が!? というわけなのだが、ちょっと無理やり感のあるストーリー&プロット。

以上5編。
どの作品も基本的プロットは一緒で、訳の分からないまま事件に巻き込まれてしまう大蔵が、物証や証言などちょっとしたことからの着想をきっかけに事件のウラのカラクリを解明するというもの。
(雰囲気やプロットは大倉崇裕の「白戸修シリーズ」に近い)
若干無理やり感はあるものの、短編向きのプロットだし、さすがに岡島二人というレベルの高さは感じさせる。
軽く読めるし、重い作品を読んだ後の気分転換にちょうどよい。
(個人的ベストは③④辺り。後もマズマズ)


No.1010 6点 犬はどこだ
米澤穂信
(2014/05/11 20:52登録)
2005年に発表された作者六番目の長編作品。
「氷菓」「愚者のエンドロール」など「古典部シリーズ」、そしてライトノベル風味以外では初の作品という位置付けとなる。

~何か自営業を始めようと決めたとき、最初に思い付いたのはお好み焼き屋だった。しかしお好み焼き屋は支障があって叶わなかった。そこで探偵事務所を開いた。この事務所<紺屋S&R>が想定している業務内容は、ただひとつ「犬」だ。犬捜しをするのだ・・・。それなのに開業するや否や舞い込んだ依頼は、失踪人捜しと古文書の解読。しかもこの二つは調査過程で微妙にクロスしてきて・・・。いったいこの事件の全体像とは?~

作者の“筆達者”振りを感じられる作品だろう。
冒頭に触れたとおり、それまでのラノベ風味ミステリーから、軽タッチのハードボイルド作品に挑戦した本作。
この挑戦はまずまず成功を収めたということになるかな。

探偵事務所開業早々、妙な依頼を引き受けることになった主人公・紺屋。しかも二つも・・・。
序盤から中盤にかけては、紺屋と助手の二人の捜査過程が順に語られることになる。
調査は徐々に進むものの、なかなか事件の全体像が掴めないまま終盤に突入。
(どなたかも指摘していたが、二人が互いに情報交換しないことが事件の解明が進まない原因となっている)
そして、ラストにはそれまでの調査結果を反転させる結果が待ち受けている・・・
心に傷を負い故郷に帰省せざるをえなくなった主人公・紺屋の造形もなかなか嵌っていて良い。

ということでここまで褒めてきたけど、全体的にはもうワンパンチ欲しかったなぁというのが本音。
これまで読んだ他作品(例えば「インシテミル」や「追想五段章」など)でもそうだったけど、作者のやりたいこと、描きたいプロットというのは十分に理解できるし、それなりの評価に値する水準なのだけど、どこかもうひとつ足りないような気にさせられるのだ。
未読の作品(「折れた竜骨」「満願」など)には満足のいくものがあるのかもしれないが、まだまだ伸びしろの期待できる年齢&キャリアだし、今後に期待したい。
(などと、エラそうなことを書いてみたりする・・・)

まぁ本作で一番のお気に入りは、ラストの一行で決まりだろう。(これがタイトルの意味なのかな?)


No.1009 7点 災厄の町
エラリイ・クイーン
(2014/05/11 20:51登録)
1942年発表。ライツヴィル三部作の一作目に当たるのが本作。
ロジック全開の国名シリーズから橋渡しのような数作品を経て、探偵として人間として成長したエラリーを味わえる作品。

~結婚式の前日に姿を消して三年、突然ジムは戻ってきた。ひたすら彼の帰りを待ち続けた許嫁のノーラは、何も訊かず、やがて二人は結婚して幸福な夫婦となった。そんなある日、ノーラは夫の読み止しの本の間から世にも奇怪な手紙を発見した。そこには夫の筆跡で、病状の悪化した妻の死を報せる文面が・・・。これは殺人計画なのか? こんなに愛している夫に私は殺される・・・? 美しく個性的な三人の娘を持つ旧家に起こった不思議な毒殺事件。架空の町・ライツヴィルを舞台に錯綜する謎と巧妙な奸計に挑戦するクイーンの名推理!~

さすがに読み応えあり。
ひとことで言うなら、そういう感想になる。
クイーンの作品群における本作の位置付けや意義については、今さらクドクド書くまでもないと思うが、パズラーとしてひたすら事件の謎そのものにスポットライトを当てた国名シリーズと比較すると、人間の「行動」或いは「心」の謎にスポットライトを当てているという印象が強く残った。

愛する夫との待ちわびた結婚生活、その幸福を打ち破る三通の手紙が本作のプロットの「肝」となる。
まるで未来の凶行を予言するかのような手紙を発見したノーラ、エラリー・・・。その手紙をなぞるかのように起こる奸計、そしてついに起こってしまう殺人事件。しかしながら、被害者はノーラではなかった!?
事件の謎そのものに複雑なロジックなどは仕掛けられていないのだが、その代わりに、ひとつひとつの事件を軸とした登場人物たちの動きが実に人間臭く、読者の興味を引き付けることになる・・・
ロジック&トリックのミステリーに限界を感じた作者の羅針盤は、本作という波止場を見つけた・・・という感じなのだろうか。
ミステリーでも人間の心の機微を描くことができる、という実感を得たに違いない。

初期の作品群とどちらが好きかと問われると、正直なところ「初期」と答えるのだが、本作の評価は揺るぎないものだと思う。
ということで、これ以下の評価は付けられない。
(エラリー・スミスって・・・普通気付きそうなものだが・・・)


No.1008 7点 贖罪の奏鳴曲
中山七里
(2014/05/05 21:01登録)
「このミス大賞」受賞以降、高水準の作品を連発する中山七里。
2012年に発表された本作もまた高い評価に値する作品なのかどうか・・・?

~御子柴礼司は被告に多額の報酬を要求する悪辣弁護士。彼は十四歳のとき、幼女バラバラ殺人を犯し少年院に収監されるが、名前を変え弁護士となった。三億円の保険金殺人事件を担当する御子柴は、過去を強請屋のライターに知られてしまう。彼の死体を遺棄した御子柴には、鉄壁のアリバイがあった。驚愕の逆転法廷劇!~

これもまた実に出来のいい作品だった。
このレベルの作品を出し続ける作家としての作者の力量はスゴイということになるのだろう。

本作の視点人物は主に二名。
ひとりは当然御子柴弁護士ということになるのだが、彼は保険金殺人事件の真相を追いながら、自身についても過去の犯罪のために刑事たちに追われる立場に立つという二面性を持つ。
そして、もうひとつの視点は埼玉県警の渡瀬&古手川コンビ。特に猟犬のように鋭いカンを発揮する渡瀬と御子柴の対決は本作の見所のひとつ。

序盤以降、御子柴が起こした過去の事件と現在の事件が交互に語られ、その関連性が曖昧なまま終盤の法廷劇に突入する。
そして、ここで用意されているのがドンデン返しの二乗だ。
医療器具を使ったトリックもよいが、それよりもやはり「動機」が本作最大の肝。
ある人物の悪意が明らかになるとき、なぜ作者が本作を書いたのかが鮮明になる。
これほどの「悪意」はそうそうお目にかかれない。
真実を知ったとき、読者は作者が仕掛けた大いなる欺瞞に気付くことになるのだ・・・

ということでよくできてます。
細かい部分がどうのこうのというよりも、プロットの妙を味わうべき作品。
続編も楽しみになった。


No.1007 7点 サム・ホーソーンの事件簿Ⅴ
エドワード・D・ホック
(2014/05/05 20:59登録)
不可能犯罪テーマの作品集といえばコレというべきシリーズの第五弾。
シリーズ開始当時は青年医師だったサムも気付けばすでに40代半ばのいい中年に(しかも独身)・・・。
今回は、ドイツが英仏との戦争に突入し、アメリカの片田舎ノースモントにも戦争の影が近づきつつある・・・という設定が各作品に微妙な影響を与えています。

①「消えたロードハウスの謎」=ある建物が忽然と消失してしまう謎、というとクイーンの「神の灯」あたりが有名だが、本作はそこまで凝った(?)仕掛けではない。要はどういうふうに誤認させるかという問題。
②「田舎道に立つ郵便受けの謎」=配達人が入れたにもかかわらず、その郵便物が消えてしまうといういわく付きのポスト。そして、あろうことか今度は郵便物を取ろうとした家主が爆死してしまうという不可思議な事件が! からくり自体は大したことはないのだが・・・
③「混み合った墓地の謎」=作中にクイーンの名作「ギリシア棺の謎」が引き合いに出されるなど、死者が入れるはずのない古い棺の中から発見されたという謎が本編のテーマ。謎は相当魅力的だが、果たしてこのトリックは成功するのかという疑問は生じる。
④「巨大ミミズクの謎」=胸を押し潰され圧死させられた死体と、そのそばに落ちていたミミズクの羽根。果たして、被害者は巨大なミミズクの犠牲になったのか? というのが今回の謎。当然ながら現実的な解が用意されている。
⑤「奇蹟を起こす水瓶の謎」=中東を旅していたサム医師の知人が現地で買い求めた「奇蹟の水瓶」。この水瓶は水をワインに変えることができるという・・・。しかし現実に起こったのはワインによる毒殺事件。ラストに判明するトリックは短編らしい切れ味鋭いもの。
⑥「幽霊が出るテラスの謎」=タイトルどおり幽霊に関する謎、ということで本シリーズに相応しい内容。
⑦「知られざる扉の謎」=密室ものも本シリーズでよく登場するが、本編もそのひとつ。しかも、目の前で人間が消失するというとびっきりなヤツ。ただし、トリックは肩透かし気味なのだが。
⑧「有蓋橋の第二の謎」=本シリーズの初作品「有蓋橋の謎」解決を記念した行事がとり行われることになったノースモント(なんじゃそりゃ?)。その華やかな行事の最中、またもや有蓋橋で町長が銃殺される事件が起こる。衆人環視の銃殺事件をうまく処理した良作。
⑨「案山子会議の謎」=何じゃそりゃ的なタイトルだが、第二次世界大戦の勃発で徐々に戦時の暗いムードに包まれるのを危惧した町長が発案したのがなぜか「案山子祭り」(?)・・・。プロットは本シリーズでよく出てくるものと同ベクトル。
⑩「動物病院の謎」=動物病院で起こった猫の絞殺事件(!)。同じ時期、その動物病院内にはオランウータンがいた!となると、当然「モ○○街の怪事件」がどうしても思い浮かんでしまうのだが・・・果たして真相は如何に?
⑪「園芸道具置場の謎」=本編のテーマも密室殺人。描写がやや不親切なところが玉に瑕だが、このトリックはさすがと唸らせるだけのことはある。でもまぁ短編向きだな。(ちょっと反則のような気もするけど)
⑫「黄色い壁紙の謎」=祝・エイプリル看護婦復活という本編。トリックはよくある○れ○○りの応用技だが、さすがに使い方がうまい。
⑬「レオポルド警部の密室」=ボーナストラックの一編はレオポルド警部ものの密室事件。出席した知人の結婚式で別れた妻に会う警部が密室殺人の濡れ衣を負うことに・・・。密室トリックとしての出来はまずまず水準以上。

以上13編。
さすがの安定感というしかない。
シリーズも五作目となれば、同ベクトルのプロットが目立つのは致し方ないが、それでも読者を飽きさせない工夫がそこかしこに仕掛けてあり、やはり「短編の名手」という冠名に相応しい仕上がり。
Ⅰ~Ⅳ以上という評価は難しいが、低い評点には決してならない。


No.1006 6点 生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術
泡坂妻夫
(2014/05/05 20:58登録)
「しあわせの書~迷探偵ヨギガンジーの心霊術」に続くシリーズ第二弾。
前作は“書籍”自体に仕掛けられた驚愕の(?)のトリックが炸裂したが、本作もまた驚きの仕掛けが施された作品。
最近新潮文庫で再版され、手に取りやすくなったのがうれしい。

~この本は絶対に立ち読みできません。はじめに袋とじのまま短編小説の「消える短編小説」をお読みください。そのあと各ページを切り開くと驚くべきことが起こります。そして謎の超能力者と怪しい奇術師、次々にトリックを見破るヨギガンジーが入り乱れる長編ミステリー「生者と死者」が姿を現すのです。史上初、前代未聞の仕掛け本!~

こんなことするのって作者くらいだろうなぁ・・・
前作(「しあわせの書」)も『何じゃこりゃ??』と思わされたけど、本作の仕掛けもかなり強烈。
本作発表の経緯については作者あとがきに詳しく書かれているので、そちらを参照するのが早いが、幻影城から出された作者の処女長編「11枚のトランプ」も袋綴じ形式(フランス装)だったのは知らなかった。
本作を発表するまでの苦悩にも触れられてるけど、確かにこれは難しい注文だったんだろうねぇ・・・

で、作品そのものの評価なのだが・・・
まず「消える短編小説」の方は、長編読了後は記憶までも消えてしまった。
内容云々ではなくて、消えること自体に意味があるんだろうけど、中身は殆どないという感じ。
長編については、サブタイトルどおり「透視術」をテーマとした作者得意の奇術ミステリー。
終盤にまるで叙述ミステリーに出てくるようなトリックが明らかにされるのだが、特段サプライズを感じるほどではない。

まぁ本作は「仕掛け」そのものを味わうための作品だろう。
「消える短編小説」がいかに消えていくのか、それを楽しめるかどうかにかかっている。
それを楽しめない方にとっては、まるで意味のない作品ということになる。
評点は作者のアイデアと努力に敬意を評して・・・。
(この「遊び心」は評価すべきなんだろうなぁ)


No.1005 2点 嘘でもいいから誘拐事件
島田荘司
(2014/04/27 20:55登録)
「嘘でもいいから殺人事件」に続き、隈能美堂巧(タック)・軽石三太郎らを主人公としたシリーズ第二弾。
島田作品とは思えないほどの軽さとギャグ・・・がウリのシリーズだが、本作は中編二作で構成。

①「嘘でもいいから誘拐事件」=胡散臭いロケで訪れた東北地方の山奥。ナレーションを担当する女性タレントがロープウェイという動く密室から忽然と姿を消した・・・って書くと、やっぱり島荘らしい大掛かりな物理トリックか?と思わせるのだが、本シリーズにそれを期待してはいけない。実に子供だましのようなトリックでしかないのだ。こんなショボイトリックにはそうそうお目にかかれない。
②「嘘でもいいから温泉ツアー」=今度の舞台は信州の山奥。またもや軽石の無茶ブリで胡散臭い温泉紹介を行うことになったロケ班が遭遇する怪事件なのだが・・・今回は謎自体がかなりショボイ。当然ながらトリックもプロットもショボイという結果になる。

以上2編。
これは読んではいけない。
特に島荘ファンであればあるほど読むべきではない。
両作ともよっぽど追い込まれて、やむにやまれず書いたのではないかとしか考えようがない。

まだ前作(「嘘でもいいから殺人事件」)には作者らしさが垣間見えていたのだが、本作ではそれが全くなくなっている。
まぁ、この頃はまだまだ出版社側の要請にどうしても応えなくてはいけなかったのだろうなぁ・・・
全然煮詰まっていないのに、締切が近づいて、「もう!えいやっ!」って感じで発表しちゃった・・・って感じかも。

ということで、評価は個人的な最低レベルとせざるを得ない。
怖いものみたさという方ならどうぞ。
(さすがにこれでは続編は出ないよなぁ・・・)


No.1004 5点 煙で描いた肖像画
ビル・S・バリンジャー
(2014/04/27 20:54登録)
1950年に発表された作者の代表作のひとつ。
同録の解説には、本作と「歯と爪」、「消された時間」が作者の三大名作と紹介されているが・・・

~古い資料の中から出てきた新聞の切り抜き。それは、ダニー・エイプリルの記憶を刺激した。そこに写っていたのは十年前に出会った思い出の少女だった。彼女は今どうしているのか? ちょっとした好奇心はいつしか憑かれたような思いに変わり、ダニーは僅かな手掛かりを追って彼女の足跡を辿り始める。この青年の物語と交互に語られていくのは、ある悪女の物語。二人の軌跡が交わった時、どんな運命が待ち受けているのか・・・?~

ひとことで言うなら「龍頭蛇尾」かな。
序盤から、二人の運命が交わる終盤までの盛り上げ方はさすがにウマさを感じさせる。
サスペンス性も見事で、いったいどういう結末が待ち構えているのだろうという期待感を抱かせてくれる。
その分だけ、ラストの捻りのなさが残念なのだ。
まぁ最近のドンデン返しにつぐドンデン返し・・・という作品ばかりの風潮もどうかなと思うのだが、やはりそういう手のジェットコースター・サスペンスを読み馴れた身にとっては、どうしても物足りなさが残ってしまう。

ただ、時代背景を考えれば十分だし、先駆性も勘案すべきだろう。
二つの物語を並行して描き、カットバックを多用して読者の興味を徐々に引き付ける手法もさすが。
何より、50年代のシカゴという舞台設定が魅力的。
男たちを踏み台にしながら、この大都会の中でのし上がっていく美貌の悪女と、その女を盲目的に追っていく平凡なひとりの男・・・何ともセピア色でノスタルジックな気分になる(?!)

ミステリーとしては評点はそれほど高くならないけど、読んで損する作品ではない。
何とも雰囲気のある名作という評価でもよいのではないか。


No.1003 6点 マリアビートル
伊坂幸太郎
(2014/04/27 20:53登録)
2010年発表の長編。
「グラスホッパー」の続編的位置付けの、“殺し屋”たちを主人公とした作品。

~幼い息子の仇討ちを企てる、酒浸りの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた腕利きの二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する・・・。小説はついにここまでやって来た。エンタメ小説の到達点!~

結構長かったなぁ・・・
っていうのがまずは感想になるだろうか。
前作「グラスホッパー」と同様、複数の“殺し屋たち”が主人公の本作。しかも今回は東北新幹線「はやて」の車内が主な舞台となる。
この閉鎖空間のなかで、殺し屋たちが血で血を洗う抗争(?)を繰り広げるのが本作の基本プロット。
ただし、そこは伊坂幸太郎。ただでは終わらない。

本作で登場する殺し屋のうち、中心となるのが中学生の「王子」。
コイツがかなりの曲者なのだ。
人を操る術を心得ている「王子」が、大人の殺し屋たちに混じって生き残っていくのだが、最後には人生の大先輩に人としての生き様を教わることになる・・・。
あと、個人的にストライクなのは何でも機関車トーマスのキャラクターに例える殺し屋「檸檬」。
(パーシーやジェイムス、デイーゼルって・・・普通の人分かるか?)

巻末解説でも触れているが、伊坂作品によく出てくる「悪とはなんなのか?」というのが本作のテーマなのだろう。
作者の軽妙な言い回しやぶっ飛んだ展開に乗せ、一流のエンターテインメントに仕立て上げる“腕”はやはりさすがの一言。
ただ個人的には前作の方がまとまってたような気はするけどなぁ・・・
本作は途中やや冗長に思えたところでやや減点。


No.1002 5点 なぎなた
倉知淳
(2014/04/18 10:45登録)
【倉知淳ノンシリーズ作品集成第一弾】と題された短篇集。
姉妹篇である「こめぐら」とともに、作者の企みに満ちた作品世界が展開する。

①「運命の銀輪」=倒叙スタイルで書かれた作品。で、探偵役として登場するのが「死神」のようなルックスをした警部。雰囲気はかなり違うが、某福家警部補を想起させるキャラで、是非シリーズ化してもらいたい。本筋もロジックがきれいに嵌っていて爽快。
②「見られていたもの」=ちょっと懲りすぎて分かりにくいのが玉に瑕・・・って印象。最初は仕掛け自体よく分からなかった。巻末の作者あとがきで、本編を「ミステリー入門編」と称しているが、これは入門編に相応しくないだろう。
③「眠り猫、眠れ」=猫丸先輩ではないが、作者の猫好きがよく出ている一編。幼い頃離別した父親が死亡。その際、なぜか神社のしめ縄を体に巻きつけていた、というのが本編の謎。猫=父親ってことなのかな?
④「ナイフの三」=こちらはあとがきで「シリーズ化しそこなった作品」として書かれている。キャラもそうだが、作品自体が相当小粒で切れ味に大いに欠けてるのでどうしようもない。
⑤「猫と死の街」=いなくなった飼い猫を殺してしまったと主張する初老の男性。彼はなぜあっさりと罪を認めたのか・・・というのが本編の謎。まぁこんな解法になるよねぇ・・・。(またまた猫)
⑥「闇ニ笑ウ」=別に「笑ウせぇるすまん」ではないけど・・・。これはまさに“最後の衝撃”が決まった作品。確かに道尾秀介の某短編と被ってるがそれほど気にはならなかった。
⑦「幻の銃弾」=衆人環視のなかで発生した銃殺事件。しかし、死体には銃痕が残っていなかった?? と書くと魅力的なミステリーみたいだけど、それほど凝ったプロットがあるわけではない。

以上7編。
冒頭の紹介どおり、非猫丸先輩シリーズの作品集がコレ。
一番古いのは1996年ということで、実に10年以上も経って作品集に編入された作品もある。
(何しろまだ公衆電話でしか連絡できなかった時代背景ですから・・・)

ただ、やっぱり猫丸先輩シリーズと比べると一枚も二枚も落ちるなぁというのが正直な感想。
短篇らしいワンアイデア勝負の作品が並んでるし、リーダビリティについては申し分ないのだが、如何せんインパクトは弱い。
その中で取り上げるならば、やはり①か⑥ということになるかな。後はそれほどでもない。
(姉妹篇「こめぐら」も一応手に取るんだろうなぁ、やっぱり・・・)


No.1001 7点 イン・ザ・ブラッド
ジャック・カーリイ
(2014/04/18 10:44登録)
「ブラッド・ブラザー」に続く、カーソン・ライダー刑事シリーズの第五長編。
前作で実兄ジェレミーとの問題に一区切りを付けたライダー刑事が、今回は地元モビールで起こる怪事件(前作はNYが舞台だった)を相棒のハリー刑事とともに解決に導く。

~刑事カーソン・ライダーが漂流するボートから救い出した赤ん坊は、謎の勢力に狙われていた。収容先の病院には怪しい男たちによる襲撃が相次いだ。一方で続発する怪事件・・・銛で腹を刺された男の死体、倒錯プレイの最中に変死した極右の説教師・・・。すべてをつなぐ衝撃の真実とは? 緻密な伏線と鮮やかなドンデン返しを仕掛けたシリーズ第五弾!~

本当にこのシリーズは面白い。抜群の安定感だ。
冒頭にも触れたとおり、兄ジェレミーがストーリー中に垣間登場する前作までが、いわばシリーズ第一期。そして、本作からはいよいよ第二期に突入といった感じ。
カーソンはジェレミーとの確執や不安が失くなった代わりに、事件を追っている渦中にも拘わらず喪失感を味わうことになる。
(ここにも作者は周到な仕掛けを用意しているのだが・・・)

今回は、紹介文のとおり、①カーソンが救い出した赤ん坊を巡る謎と、②白人絶対主義のカリスマ説教師の変死事件、この二つの謎が同時進行で語られていく。
②については、いつものシリーズ作品どおり、後半に鮮やかなドンデン返しが待ち受けている。
本シリーズでは常に特徴的な犯人役が用意されているのだが、今回もなかなかスゴイ。
(個人的には別の人物にアタリを付けていたのだが、これはダミーというか小物だった・・・)
終盤のとある登場人物の証言をきっかけに、パズルのピースがすべてカタカタ嵌っていく、そして伏線が鮮やかに回収されていく“感覚”を味わうことができる。
もうひとつの①の謎についてはかなり啓示的。
すべての謎の動機につながっているほか、本作のプロットに大きく関わっている「人種問題」についてひとつの光明を投げ掛けている。

巻末で解説者の酒井貞道氏が作者の作品を以下のように評しているのだが、これがまさに言い得て妙だろう。
“カーリイの諸作品は、最近の海外ミステリーとしては珍しく、最初に真相を設定し、そこから逆算してストーリーやプロットをかっちり堅牢に組み上げ、伏線或いはヒントを丹念に散りばめたうえでそれらを「読者が真相に感付かないように」配置する。極めて緻密な構成を採用している。・・・”

本作以降もシリーズは続いていくようなので、ますます楽しみ。
評点はシリーズ他作品との兼ね合いでこうなった。


No.1000 5点 民王
池井戸潤
(2014/04/18 10:41登録)
これが1,001冊目。(これからもマイペースで書評をアップしていきたい・・・)
本作は2010年発表の長編。
今春から「ルーズヴェルト・ゲーム」と「花咲舞が黙ってない(原作は「銀行総務特命」「不祥事」)」のニ本が地上波としてスタート。ますます絶好調の作者が贈る、政界を舞台とした痛快エンタメ小説(+薄味のミステリー風味を少々・・・という感じ)

~「お前ら、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか? 目をさましやがれ!」 漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足とりのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀をめぐる痛快劇の幕が切って落とされた。総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは? 一気読み間違いなしの政治エンタメ~

『なんで池井戸潤ってこんなに人気あるんだろう?』
デビュー作以来の古い(?)ファンとしては、最近の異常なまでの池井戸人気は全く想像がつかなかった。
「半沢直樹」は演出の過剰さとハマリ役の俳優陣がうまく噛み合った結果と原作が相乗効果を生んだという気もしていたけど、たまたま一昨日「花咲舞が・・・」を見ていて、やはり作者の作品は、日本人の特性というかセンチメンタリズムに嵌っているということなんだろうと感じさせられた。

池井戸作品のプロットの多くは、ひとことで言えば「勧善懲悪」という実に分かりやすい図式を取る。
そう、時代劇ではお馴染みの悪代官と悪徳商人のコンビを黄門様御一行や将軍吉宗が成敗する・・・という例のやつ。
それをそっくりそのまま銀行業界に置き換えたものが十八番のプロット。
そうなのだ、この“分かりやすさ”と“痛快劇”・・・これこそが人気の秘密なのだろう。多くの作家はこんなこと分かっていながら、あまりの単純さに敬遠してきたものを、作者は躊躇せず書き続けてきたのだ。
これはこれで「信念」の賜物だろう。
読者も「単純だなぁ・・・」と分かっていながら、読み終わったときにはなぜかスッキリした気持ちになった自分がいてビックリさせられる・・・そんな感覚ではないか?

ということで本作なのだが・・・(長い前フリだ)
紹介文のとおり、実際に何年か前の内閣をベースに書かれた作品で、実に分かりやすい作品に仕上がっている。
まぁ全体的には肩の力の抜けた作品という印象だし、同時期の他作品に比べて評価できるポイントは少ない。
ってことで、評点としてはこの程度。通勤中に軽く読むくらいが丁度いいかもしれない。
(これで今のところ刊行されている池井戸作品はすべて読了。次作は半沢シリーズの「銀翼のイカロス」かな?)


No.999 8点 虚無への供物
中井英夫
(2014/04/14 21:56登録)
ついに到達した1,000冊目の書評。(ここまで長かったような短かったような・・・)
この記念すべき書評作品(あくまで個人的な意味ですが)としてセレクトしたのが本作。
改めて言うまでもありませんが、夢野久作「ドグラ・マグラ」、小栗虫太郎「黒死館殺人事件」と並び、日本三大奇書のひとつとされる作品。
今回は講談社文庫で刊行された新装版(上下分冊)にて読了。

~昭和二十九年の洞爺丸沈没事故で両親を喪った蒼司・紅司兄弟、従兄弟の藍司らのいる氷沼家に更なる不幸が襲う。密室状態の風呂場で紅司が死んだのだ。そして叔父の橙二郎もガスで絶命・・・。殺人?事故? 駆け出しの歌手・奈々村久生らの推理合戦が始まった。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、内外の探偵小説など蘊蓄も満載。巧みに仕掛けた罠と見事に構成された「ワンダランド」に作者の“反推理小説”の真髄を見る究極のミステリー~

いやぁー・・・これは書評できません。
というより書評する意味がないと思うし、ましてや評点を付けるなんて××××・・・
ミステリー好きにとっては避けて通れない作品として、以前に一度手に取り「読もう」としたのだが、一頁に埋め尽くされた文字と長大な分量、そして冒頭から始まる迷路のような展開に恐れをなして、途中で放り出した経験があるのだ。

さすがに今回は放り出さなかったのだが、作者の仕掛けた迷路(ラビリンス)に嵌り込み、前の方に微かに灯された光に向かって進むだけという読書になってしまった。
そう、本作はまるで“蜃気楼”のような作品なのだ。
何度も続く推理合戦、真相究明と思いきや次の瞬間には肩透かしのように全てが否定される展開。
捕まえようと思って手を伸ばしても、決して届くことのない存在・・・という表現がピッタリだと感じた。

いつもは飛ばし読みする巻末解説も今回は割と真剣に読んだのだが、やっぱりよく分からない。
結局、作者は読者に或いは世間に、社会に何を問いたかったのか? 何を言いたかったのか?
単に、ミステリーに対するアイロニーなのか?

まぁこんなことを真剣に考えさせる作品というだけでもスゴイことなのだろう。
読み手はトリックだのロジックだのにとらわれず、ただひたすら作品世界に没入するだけ。
そして、数多くの?(疑問符)があればあるほど、作者の「ニヤリ」という表情が作品の奥から見えてくる(筈だ)。
評点は参考程度。
(今回は1冊のみの書評。1,001冊目からもマイペースで書評していきたい・・・できれば週3冊程度で・・・)


No.998 7点 ジキル博士とハイド氏
ロバート・ルイス・スティーヴンソン
(2014/04/07 22:24登録)
最後の(?)ゾロ目、999番目の書評としてセレクトしたのは本作。
「二重人格」の代名詞ともいえるジキル博士&ハイド氏。作者は「宝島」でも知られる大作家スチーブンソン。
というわけで999冊目に相応しい作品ではないだろうか。
今回は新潮文庫の田中西二郎訳で読了。原題は“The strange case of Dr.Jekyll and Mr.Hyde”

~医学、法学の博士号を持つ高潔な紳士ジーキルの家にいつのころからかハイドと名乗る醜悪な容貌の小男が出入りするようになった。ハイドは殺人事件まで引き起こす邪悪な性格の持ち主だったが、実は彼は薬によって姿を変えたジーキル博士その人だった! 人間の心に潜む善と悪の闘いを二人の人物に象徴させ、二重人格の代名詞として今なお名高い怪奇小説の傑作~

これはもう「古典」としかいいようがない。
おおよその筋書きは未読の読者でも知っているだろうが、改めて今回読んでみると、ジキル博士の苦悩と悲しみが行間から溢れ出るようだった。
友人である弁護士アタスンに残したジキル博士の書き置き。そこには自身の悪の化身であるハイド氏を生み出すまでの経緯や、生み出してしまった後悔、そして徐々にハイド氏に実態が奪われていく恐怖・・・
それらが切々と語られているのだ。

時は19世紀後半のロンドン。
まだまだ夜が夜らしい姿を見せていた時代。
こんな時代に人間の「善」と「悪」をここまで追求したプロットを捻り出すこと自体がスゴイとしか言いようがない。

大昔(小学生時代かな?)に本作を一度読んでいるのだが、そのときはハイド氏の容貌と相俟って、とにかく怖いというイメージしかなく、再び本作を手に取る日が来るなんて考えてなかった。
分量はたいへん短いのだが、やはり名作として残すべき作品なのだろうと感じる。
ミステリーとしては甚だ変格だが、それ相応の評価はすべき作品。
(やはりスゴイ作家だと再認識。) 
さて、次はいよいよ記念すべき1,000冊目の書評だ!


No.997 5点 暗闇の殺意
中町信
(2014/04/07 22:21登録)
「模倣の殺意」の思わぬヒット!
それに気をよくしたのか、今回は光文社文庫よりタイトルまでシリーズを模して発表された本作。

①「Sの悲劇」=ダイニング・メッセージがテーマとなった本作。よくある推理クイズ程度のプロットといってしまえばそれまでなのだが、手堅くまとめてはある。(「Yの悲劇」のアンソロジーで有栖川有栖が似たようなプロットで書いていたのを思い出した・・・)
②「年賀状を破る女」=ラストには全体の構図が反転する・・・といえば面白そうに見えるが、それほどでもない。
③「濁った殺意」=“安楽死”をテーマとする作品。一応動機はあるけれど、それでも○○を殺すかねぇ・・・。
④「裸の密室」=これはトリッキーでよくできた作品。相当綱渡りだし、現実的に通用するかというと?(疑問符)なのだが、物証や関係者のコメントなどの仕掛けがラストに効いてくる。密室はオマケ程度。
⑤「手を振る女」=鉄道を利用したアリバイトリックがメインテーマなのだが、別に時刻表を使った複雑なトリックではない。でも、手を振るのを○○と見○○○うかなぁ??
⑥「暗闇の殺意」=表題作だが、他作品よりも出来は落ちる。一応フーダニットに主眼が置かれているのだろうけど、特段サプライズがあるわけでもなく終了。要はタイトルだけ欲しかったのかな?
⑦「動く密室」=自動車教習所を舞台とした一編。というと、最近読了した「自動車教習所殺人事件」(創元文庫版で「追憶の殺意」と改題)と同じだが、本作は短篇っぽいプロット。教習所らしい小道具がアリバイトリックに一役買っているのが面白い。

以上7編。
ひとことで言えば「寄せ集め」っていう感じだろうか。
作者らしい生真面目な作品が並んでるし、どれもまずまず楽しめる作品ではある。
ただ、全ての作品が“ジャブ”というレベルで、「へぇー」というパンチの効いた作品はない。

まぁ「殺意シリーズ」に便乗した作品集と言われても仕方ないかな・・・
評価はこのくらいになってしまう。
(個人的ベストは④。次点は⑧。あとはうーん・・・)


No.996 5点 戌神はなにを見たか
鮎川哲也
(2014/04/07 22:20登録)
1976年発表の長編。
鬼貫警部シリーズの作品だが、本作では地味で忠実な部下・丹那刑事が大活躍(!?)する・・・

~東京・稲城市のくぬぎ林で小日向大輔の刺殺死体が発見された。物証は外国人の顔が刻まれた浮き彫りと、小日向の胃に未消化のまま残されていた瓦煎餅のみ。捜査陣の地道な努力によって、同業のカメラマン・坂下護が浮かび上がるが・・・。犯行時期、坂下は推理専門誌の仕事で、乱歩生誕の地・三重県名張市にいたと主張する。アリバイ崩し、遠隔殺人トリック、アナグラムなどを盛り込んだ重量級ミステリー!~

長かった!
冒頭でも書いたとおり、本作では中盤、主に丹那刑事の捜査行が書かれているのだが、これが実に丹念&懇切丁寧。
事件関係者から話を聞くために、日本列島を東奔西走し、本作はそれをひとつひとつ書き残していく・・・
そういうシリーズだからと言ってしまえばそれまでだが、さすがにこれは冗長だった。

懸命の捜査の末判明する真犯人。
後半は真犯人のアリバイ崩しが当然のごとくメインテーマとなる。
二つ目の殺人については、遠隔殺人というほどのものではないが、メインの小日向殺しのアリバイはかなり精緻なもの。
いつもの時刻表を駆使したトリックではないが、写真というお得意の小道具をうまく使いながら、捜査陣(読者)の誤認を誘っている。
この辺りはやはり“さすが“ということだろう。

ただ、本作は鬼貫警部は完全に脇役扱いで、シリーズファンにとっては物足りないのではないか?
トリック&プロットも今ひとつ切れ味に欠けるという印象。
作者の作品群でも上位に評価するのは難しいと思う。
(日本各地の変わった地名がうまく使われてるのが面白い・・・)


No.995 7点 人間の尊厳と八〇〇メートル
深水黎一郎
(2014/03/30 18:57登録)
第64回日本推理協会賞短篇部門受賞作を含む作品集。
前々から読みたかった本作だが、文庫落ちを待って早速購入&読了。

①「人間の尊厳と八00メートル」=表題作。日本推理協会賞受賞作に相応しい芳醇な香り漂う作品。途中で語られる「なぜ八00走が人間の尊厳につながるのか」というロジックと、ラストのオチが見事に決まっている。小粋な作品。
②「北欧二題」=二つの別作品からなる一編。それぞれスウェーデン(瑞典)とノルウェー(諾威)が舞台となるのだが、前者の方が好み。作者あとがきにあるとおり、日本語の持つ表意文字としての美しさが存分に出ている(ような気がする・・・)。でも、ユーレイルパスの話は学生時代を思い出した!
③「特別警戒態勢」=設定として出てくる自身と妻と子供の三者関係は、もろに現実の自分を思い出した。小学生低学年だったら、今の時代これくらい考えてておかしくないと思う。
④「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」=これはまさにタイトルどおりのオチ。プロットとしては特段珍しくない。
⑤「蜜月旅行Lune de Miel」=この主人公の考え方って・・・なんか他人事のように思えなかった。私自身も昔、同じようにバックパッカーとしてあちこちを旅し、その度に日本人の団体旅行者を色眼鏡で見ていたなぁ・・・。でも今思えば、実につまらないことを気にしていたことを、この女性から突きつけられた感じ・・・。でも男って、こんなつまらない見栄を張りたい生き物なんですよ!

以上5編。
①以外はミステリーとしてはどうかなぁという作品が並んでいるのだが、それでも読了後は満足感を得られている。
それもこれも、作家としてのレベルの高さなのだろう。
その中でも①はやはり別格。
濫作に陥ることなく、質の高い作品を今後も発表していただきたい。
(ベストは断然①なのだが、②と⑤は学生時代を思い出して実に懐かしくなった・・・。あの頃のように時間に縛られない旅ができればなぁ・・・)


No.994 7点 キドリントンから消えた娘
コリン・デクスター
(2014/03/30 18:56登録)
1976年発表。「ウッドストック行き最終バス」に続くモース警部シリーズの長編二作目。
モースとルイス部長刑事のコンビが織り成す「論理の迷路」(!?)が楽しい作品。

~二年前に失踪して以来、行方の知れなかった娘バレリーから両親に無事を知らせる手紙が届いた。彼女は生きているのか、生きているとしたらどこでどうしているのか。だが捜査を引き継いだモース主任警部は、ある直感を抱いていた。「バレリーは死んでいる・・・」。幾重にも張り巡らされた論理の罠をかいくぐり、試行錯誤の末にモースがたどり着いた結論とは? アクロバティックな推理が未曾有の興奮を巻き起こす現代本格の最高峰~

これは評判どおりの“怪作”だ。
(人によっては“快作”かもしれないが・・・)
中盤以降、モースの「解決した」という言葉に何度騙されたことか(!)
モースの推理をあざ笑うかのように、解決を確信した彼の前に現れる新たな壁、壁、壁・・・
最終的に示された真相に対しては、もはや「へぇー」という感想しか湧いてこなかった。

一人の探偵役がこれほどトライ&エラーを繰り返している作品というのは、やはり初めてお目にかかった。
バークリーの「毒入りチョコレート事件」でも感じたことだが、要はミステリーにおける「真相」なんて作者の匙加減ひとつだし、あまりにもロジックに拘りすぎると、どうも無味乾燥なストーリーになりやすい・・・ということなのだろう。

最終的な真相について納得したかと問われると、正直なところ「うーん」ということになるのだが、こういう風に振り回されること自体は嫌いではないし、なかなか楽しい読書にはなった。
これまで読んできた作者の作品のなかではベストという評価。
(こんな失踪事件程度を主任警部が担当するというのはどうなんだろう・・・)


No.993 5点 影の告発
土屋隆夫
(2014/03/30 18:55登録)
1963年に刊行された作者の第四長編。
今作以降、メインキャラクターとなる千草検事が初登場する作品であると同時に、日本推理作家協会賞を受賞したエポック・メイキングな作品という位置付け。

~「あの女が・・・いた・・・」。そう言ってデパートのエレベーターの中で男が死んだ。手掛かりは落ちていた名刺とこの言葉だけ。被害者の周辺から疑わしい人物の名前が挙がってくるが、決定的証拠がつかめない。そして被害者の過去のカギを握る少女の影。千草検事と刑事たちは真実を追いかける・・・。日本推理作家協会賞受賞の名作~

古いタイプの本格ミステリー。
作者の作品はデビュー長編の「天狗の面」に続き、二作目の読書になるのだが、ロジック全開だった「天狗の面」に比べると、動機探しやアリバイ崩しといったその頃流行りのガジェットに拘った作品にシフトしていた。
「動機探し」については、早い段階からほぼ読者が察することができ、それと同時に真犯人もほぼ特定されてしまう。
戦後を引き摺ったような暗く重い動機であり、タイトルどおり「影」という言葉が作品全体に大きな意味を持ってくる。

そして、中盤以降はほぼアリバイ崩し一本槍の展開。
そのアリバイトリックの鍵となるのが「電話」と「写真」。でも、写真についてはここまで綿密に計画した犯人にしてはアレを計算に入れないというのがあまりにもお粗末な気がするし、○○についても、ピントが甘いという時点で捜査陣が気付かないというのはちょっと頂けない・・・
ただし、電話の使い方については感心。
捜査(読者)側の錯誤をうまい具合にアリバイトリックに絡めているなど、ミステリー作家としての作者の腕の確かさを感じられる。

まぁ全体的な評価としてはなぁ・・・
「天狗の面」がかなり鮮やかで、大いに感心させられただけに、どうしても格差を感じてしまう。
“物書き”としての力量は、デビュー時よりも当然上がっているのだろうが、ミステリーとしての衝撃度ではやはりこの程度の評点に落ち着いてしまう。

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