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ミステリの祭典

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石の猿
リンカーン・ライムシリーズ

作家 ジェフリー・ディーヴァー
出版日2003年05月
平均点6.33点
書評数6人

No.6 7点 斎藤警部
(2024/03/23 14:10登録)
「しかし」ライムが言った。「きみにとっては、事件は集産化されなかった」

蛇頭、中国公安刑事、反体制密航中国人、中国系米国人刑事等こぞって登場し、社会問題孕んだスリルでいくらでも深く抉れそうな所、敢えてソレは気前よく濃いぃダシに使い切り、中国文化へのツンデレ共感帯は盛り立てつつ、JD自家薬籠中の激風サスペンスで平常心の堂々反転勝負を挑んだ、誇り高き一篇!

「だめよ、ライム。このままでいいの。やりすぎなくらいがちょうどいいときもあるのよ」

数十数名の中国人を乗せ、ロシア某港より出航した密航船。ニューヨークに到着する直前、悪天候にも祟られ当局に拿捕されかかったその時、密航を取り仕切る蛇頭「ゴースト」はあろうことか船を爆破させる。更には生き残った密航者たち、即ち自らの大量殺人を告発する証人となり得る者たちの全抹殺に取り掛かる。まずは身内の裏切り者から、古代中国を思わせる惨烈な拷問の末、捜査陣へ見せつけるように葬り去った「ゴースト」。

瞬時の隙も無く読者を揺さぶり続ける本作だが、中でもラス前第四章終わりのヒリヒリする熱さったら無い。 やぱぁ友情・・奇蹟と必然の結晶・・が中心に来るミステリは最高だね。 こ、この泣かせるシーンは、まさか、アレのフラグじゃあるまいな・・と危ぶみつつも、やはり胸熱だ。 しかし、このタイミングでソレをバラすって事は。。などと熱々の先読み、切ない憶測を促す文章力と構成力は本当に強力。 現場(海底)遺留品から数学的に或る疑惑を状況証拠へと具体化して行くくだりも素晴らしい。 最後の、「二人」それぞれの決断。 友情のため、愛のため、それだけではない。 そしてあまりに熱い抱擁。 何より、最高に泣かせる「或る見知らぬ人」への手紙!

今さら言ってネタバレにもならないだろうが(??)、やってくれました、この甘々の、瞬時にしてお花畑の広がる(?)とろける結末・・ だがそこへ行き着くまでのスリルとサスペンスと反転がモ~ァザン盤石であるからこそ、俺は全然好きだ。 それから、これを言うと若干ネタバレかも知れないけれど、ある意味それまでのシリーズ作風が重要な真相隠れ蓑になっているような気配は、いたします。 何しろ、アッチのあの反転はよしんば想定内としても、まさかの大オチがね。。。 
そして相変わらず、高級コールガールの様な高級読み捨てマテリアル。 これぞ最高の美点でありましょう。

No.5 4点 レッドキング
(2020/02/24 17:06登録)
ライムシリーズ第四弾。蛇頭殺し屋、中国不法移民、中国刑事そしていつもの探偵チームの手に汗握る攻防を、倒叙・カットバック見事に効かせて描いたミステリックサスペンス。唯一のミステリ要素のフーダニットはフーんてな感じで、面白さも「毒猿」に毛が生えた程度かな。  そっか、石の猿って孫悟空か!

No.4 6点 E-BANKER
(2014/08/15 23:30登録)
2001年発表のリンカーン・ライムシリーズの長編四作目。
タイトルの「石の猿」とはズバリ「孫悟空」というわけで、中国からの密入国者と彼らを執拗に追う殺し屋“蛇頭”と対決するライムとアメリアの姿を描く。

~中国からの密航船が沈没。十人の密航者がNYへと上陸した。同じ船に乗り込んでいた国際手配中の犯罪組織の大物“ゴースト”は、自分の顔を知った密航者たちの抹殺を開始した。科学捜査の天才リンカーン・ライムが後を追うが、ゴーストの正体は全く不明、逃げた密航者たちの居場所も不明だ・・・。果たして冷血の殺戮は止められるのか?~

シリーズも三作目、四作目となると、徐々に新機軸やこれまでとは違う要素を加えなくてはならなくなる・・・普通。
前作(「エンプティ・チェア」)では舞台をNYから移すことで、新たな要素を加えたのだが、本作では主戦地のNYに戻ってきた。
その代わりに加えたスパイスが「中国」。
(ただし十数年前の中国なので、2014年現在の発展した中国の姿からすると、若干の違和感はあるけれど。)

密入国者であるチャン一家やウー一家、ライムと共に捜査に当たることになる中国の公安刑事ソニーなど、多くの中国人が登場し、中国人の風習や考え方などが紹介される。
そして何より、「石の猿」のお守りを付けている男=蛇頭“ゴースト”の存在・・・
本シリーズには毎回インパクトのある悪役が登場するが、本作の悪役“ゴースト”はこれまでの悪役と比べるとやや見劣りするところが残念。
作者の作品では毎度お馴染み、終盤の「ドンデン返し」も、これまでの三作よりはインパクトに欠ける。

異文化を持つ男たちの捜査官コンビというと、個人的には映画「ブラック・レイン」(懐かしいね・・・)を思い出してしまったのだが、作家としては取り組みがいのあるテーマなのかもしれない。
ライムとソニー刑事のやり取りや友情は本作の白眉のように思えた。
ただ、こういう好人物は得てして死んでしまうものだけど、本作ではさてどうか・・・
二作目「コフィン・ダンサー」などとの比較では、評価は下げざるを得ないんだけど、五作目以降も是非読み続けていきたいことには変わりなし。
(アメリアのピンチシーンには相変わらずドキドキするなぁ・・・)

No.3 7点 Tetchy
(2011/10/06 21:59登録)
West Meets East。
本作の主題を一言で表すとこうなるだろうか。中国からの密入国者とそれを抹殺する蛇頭の殺し屋の捜索に図らずも中国から密入国してきた刑事ソニー・リーと協同して捜査することになったライムとリーとの交流が実に面白い。物語の構図は殺し屋対ライムと変わらないが、決してマンネリに陥らないようアクセントを付けているところがディーヴァーは非常に上手い。特にお互いが白酒とスコッチと西と東の蒸留酒を飲み交わしあいながら語り合い、碁を打ち始めるシーンはとても印象的だ。毎回このシリーズには名バイプレイヤーが登場するが本書ではまさしくこのソニー・リーだ。
あくまで物的証拠を重視し、刑事の勘などを一切認めなかったライム―その頑なさが前作『エンプティー・チェア』でアメリアとライムとの対立を生んでいた―が本書では東洋の―というか中国人の―特異な考え方のために、ソニー・リーに頼らざるを得なくなるのが面白い。

(ここからネタバレ)
だからソニーの死は非常に残念だった。今後の作品にも出てくるものだとすっかり思っていたので。
またゴーストとライム&アメリアの戦いも意外に呆気なかった。いつもなら最後の章まで危機が尽きないので。しかしこれは作品の主題―今までの敵になかった政府との太いパイプを持った殺し屋をいかに逮捕するか―がそこにはなかったからだろうが、やっぱりちょっと物足りない。

No.2 7点 take5
(2011/08/11 09:19登録)
まるでテレビを見ているような気分になります。
自分で考えなくてもどんどん頭に入ってくるので、
数時間で一気によめます。
社会背景の記述やトリックの正当性などに疑問をもつのは、おそらく読み終わってからだと思います。
ライムシリーズは読んでいる最中は、何も考えずに浸っていればいいと思います。
人気のある理由だと思います。

No.1 7点 ナナメ
(2009/06/18 11:15登録)
 4作目は、いつものNYに戻って、いつもの仲間も集合。
 今度の敵「ゴースト」は蛇頭、密入国した中国人を狙って
動く彼を追跡しつつ、標的である密入国者も探さなければならない。しょっぱな、ド派手に爆発で開幕、サックスは陸海空に
大活躍と相変わらずのサービスっぷり。印象に残るのは、ゲストキャラのソニー・リー。彼とのかかわりが、ライムに変化をもたらせます。最後まで、油断できませんよ。

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