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ミステリの祭典

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平均点:6.00点 書評数:1859件

プロフィール| 書評

No.1199 9点 ユダの窓
カーター・ディクスン
(2016/02/14 11:42登録)
本サイトでの書評もついに区切りの1,200冊目に到達!!
(いやぁーめでたい、メデタイ、目出度い・・・)
ということで何を記念の書評にしようかちょっと前から悩んでいましたが、結果として本作をチョイスすることに。
(コレともうひとつで悩んだのだが・・・)
「三つの棺」や「火刑法廷」とならび、カーの最高傑作と名高い作品なのはもちろんだが、黄金期の本格ミステリーを代表する作品でもある。1938年発表。
最近創元文庫で刊行された新訳版で読了。

~1月4日の夕刻、J.アンズウェルは結婚の許しを乞うため恋人メアリの父親E.ヒュームを訪ね書斎に通された。話の途中で気を失ったアンズウェルが目を覚ましたとき、密室内にいたのは胸に矢を突き立てられてこと切れていたヒュームと自分だけだった・・・。殺人の容疑者となったアンズウェルは中央刑事裁判所で裁かれることになり、HM卿が弁護に当たる。被告人の立場は圧倒的に不利、十数年ぶりに法廷に立つHM卿に勝算はあるのか?~

今さら評するまでもない傑作。
ということで書評を終えてもよいのではないかと思えたほどの出来栄え。
他の多くの方も評価しているが、これほど秀逸なプロットはお目にかかったことがないほど。
当初は比類ないほど堅牢に立ち塞がっていた密室がHMの頭脳によりガラガラと崩れ去るカタルシス!
意外性溢れるフーダニットなど、まさに本格ミステリーのひとつの完成形だと思う。
(ちょっと褒めすぎかも?)

本作を有名にしたのはもちろん例の密室トリックなのだが、実現性云々は置いといて、とにかくそのインパクトがすごい。
「ユダの窓」というタイトルで読者の興味を惹きつけつつ、ここまでビジュアル的にも見事なトリックはないだろう。
ただ、本作のプロットの妙はそこではない。
目の前に見えている表の事件の裏側に、二重三重に仕掛けられた「作為」と、それをひとつひとつ解きほぐすHM卿の推理過程、それこそが真のメインテーマ。
終盤、HMの推理過程に沿った形で当日の時間経過表が挿入されているのだが、そこに作者の欺瞞の数々が込められているのだ。

いやいや、やはり名作に相応しい内容だし、香気すら漂っているかのような作品。
本作が後年の作家に及ぼした影響は計り知れないように思える。
これほど美しいミステリーは今後お目にかかれないかもしれない・・・そんなことを感じさせられた。
高評価なのは当然。
(巻末の四名のカーマニアによる座談会も読みどころ。)


No.1198 6点 愚か者死すべし
原尞
(2016/02/07 22:42登録)
発表当初私立探偵沢崎の新シリーズ第一弾と称されたのだが、今となっては“最終譚”となってしまった感のある本作。
約九年もの歳月をかけて完成したというのはそれだけ苦心したということなのか・・・

~大晦日の朝、私立探偵沢崎のもとを見知らぬ若い女性・伊吹啓子が訪ねてきた。銀行強盗を自首した父親の無実を証明して欲しいという。彼女を父親が拘束されている新宿署に送り届けた沢崎は、狙撃事件に遭遇してしまう。二発の銃声が轟き、一発は護送されていた啓子の父親に、もう一発は彼を庇おうとした刑事に命中した! 九年もの歳月をかけて完成した、新・沢崎シリーズ第一弾~

年明け早々に読了したシリーズ前作「さらば長き眠り」にあまりに興奮したため、時間を置かずにとった次作。
なのだが・・・本作のプロットは作者の九年間の苦悩を表すかのような錯綜ぶり。
冒頭に起こるのは、紹介文のとおりの銃撃事件。
しかしながら、事件は次から次へと発生&展開し、沢崎も複数の事件を同時に追いかけている状態に。
一応、最後にはすべての伏線が回収され、「さすがは原尞」「さすがは本シリーズ」ということには落ち着く。

結局、「愚か者」とは誰のことを言っているのか?
これが本作のメインテーマということでいいのだろう。
確かにこの人物=愚か者というのは、序盤では想像できないサプライズだしミステリーとしてのツボを押さえているのだが、如何せんこれまでの作品のような何とも言えない気品と寂寥感は感じられなかったというのが本音。
それもやはり錯綜というか、詰め込みすぎということが原因なのだろうと思う。

まぁでもそれは本シリーズに対するハードルの高さの裏返し。
普通のレベルの面白さは楽々とクリアしている。
相変わらず魅力的なキャラ(特に女性)は出てくるし、錦織警部や相良などお馴染みの脇役も登場する。(今回出番は少ないが)
さあ次作が楽しみだと言いたいところなのだけど・・・
もう無理なのかな・・・。
これほどのシリーズにはなかなかお目にかかれないのになぁ・・・
(強盗に入られる銀行が実在の銀行名なのはどうなのか・・・・・・)


No.1197 6点 ザ・ポエット
マイクル・コナリー
(2016/02/07 22:41登録)
作者といえばやはりハリー・ボッシュシリーズとなるのだが、一作目のノンシリーズ作品として書かれたのが本作。
先にノンシリーズ二作目の「わが心臓の痛み」を読んでしまったので、早速一作目を手にとったというわけなのだが・・・
1995年発表。

~デンヴァー市警察殺人課の刑事ショーン・マカヴォイが変死した。自殺とされた兄の死に疑問を抱いた双子の弟で新聞記者であるジャック・マカヴォイは、最近全米各所で同様に殺人課の刑事が変死していることを突き止める。FBIは謎の連続殺人犯を<詩人>(ザ・ポエット)と名付けた。犯人は現場に必ず文豪エドガー・アラン・ポーの詩の一節を書き残していたからだ。FBIに同行を許されたジャックは、捜査官たちとともに正体不明の犯人を追うのだが・・・~

さすがに安定感たっぷりというか、安心して楽しめる水準には仕上がっている。
いつもながら結構な分量だし、事件は派手に目眩くような展開。
そして、終盤以降は逆転につぐ逆転というサスペンスフルな展開が待ち受けている。
この辺りはツボを押さえたプロットだなと思わされるのだが、それを「予定調和」とか「想定内」と感じる向きもあるだろう。

でも相変わらずフーダニットというか、犯人像の作り込みに旨さを感じてしまうよな・・・
今回は被害者が全員刑事という特殊性、そしてその前に必ず“餌”となる殺人事件を起こしている!
そんなのってどんな人間なんだ?
って思ってると、いかにも犯人ですといわんばかりの人物が別視点で描かれる。
「こりゃ当然ミスリードだろう」と思うのだが、ではなぜこういうミスリードを仕掛けてくるのか?という疑問が湧く。
こうなると作者と読者の化かし合いだ。
そしてやっぱり最終的には黒幕の出番となるのだ。

いかにもジェットコースターミステリーと思って敬遠する方もいるかもしれないが、大波小波に乗ってとにかく楽しめる作品ではある。
中盤がちょっと冗長なのがいただけないけど、それ以外は特に欠点はない。
でも欠点がないというのが欠点かもしれない。ということでこの評点に。
(必ず登場する美女。そして必ず主人公の男性とメイクラブ・・・でも今回は割とほろ苦!)


No.1196 7点 密室蒐集家
大山誠一郎
(2016/02/07 22:40登録)
時代を超越して神出鬼没な存在。その名も「密室蒐集家」。
彼を探偵役に据え、事件はもちろんすべて密室殺人事件・・・
とにかく密室に拘り抜き、ロジックを徹底的に追求した作品集。第十三回本格ミステリー大賞の受賞作!

①「柳の園」=時は1937年。夜中の音楽室で起こった不可思議な密室殺人事件を目撃した女子高生。逃げられるはずのない密室から犯人が消えたトリックとは? 本作中これが最もオーソドックスな解法っぽい。単行本当時は密室の“穴”が指摘されていたが、文庫版では改訂が施されている。
②「少年と少女の密室」=時は1953年。東京郊外の住宅で高校生の男女の死体が発見される。しかも問題の家は刑事たちが張り込みをしているという堅牢な密室下だった! これはアリバイと密室の融合かと見せかけて、読者は見事に騙し絵を見せられることに・・・
③「死者はなぜ落ちる」=1965年。苦心した跡が相当に伺えるプロットなのだが、やっぱりプロットのためのプロット、或いはトリックのためのトリックという側面があまりに強すぎるか? 他の方が触れていましたが、カーの「皇帝のかぎ煙草入れ」を彷彿させるところは確かにある。偶然性が強すぎるという指摘は仕方ないかな。
④「理由ありの密室」=時は1985年。唯一倒叙形式で書かれていて(ただし、犯人は匿名)、他の作品とやや毛色の異なる作品。犯人が「なぜ密室をつくるか」を八つの理由に分け説明している(あとで九つに増えるのだが・・・)のが斬新。ということでWhy Do itに拘った一編。でもこんな名前の容疑者いたら疑ってしまうよなぁー
⑤「佳也子の屋根に雪ふりつむ」=最後は2001年という設定。タイトルどおりいわゆる「雪密室」テーマの作品。トリックはどこかで見たようなやつなのだが、真犯人の意外性が実に鮮やか・・・と言いたいのだが、動機に至る経緯がすべて後出しだからなぁ・・・

以上5編。
このご時世にここまでロジックに拘り抜いたミステリーを読める幸せ!
密室トリックは出尽くしたと言われて久しいが、見せ方を工夫すればまだまだ面白いということがよく分かった。
ほぼ全ての作品に共通するのは「錯誤」を使ったトリックということ。
誰かが何かを「錯誤」したことで密室トリックが成立してしまう・・・そんな読後感。

偶然性に頼りすぎなのは百も承知で、「こう考えれば」超堅牢な密室もあっという間に瓦解してしまう!
とにかく本格ファンにとっては実に楽しい読書になるはず。
(ベストはやっぱり⑤かな・・・。時代設定を変えているところに思ったほどの仕掛けがなかった点がやや割引材料)


No.1195 5点 ダブル・ダブル
エラリイ・クイーン
(2016/01/19 22:26登録)
1950年発表。
「災厄の町」「フォックス家の殺人」「十日間の不思議」に続くライツヴィル・シリーズの四作目。
「四作目」なのだが、前作から久々にライツヴィルを訪れて・・・という設定。

~クイーンのもとへ匿名の手紙が届いた。なかにはライツヴィルのゴシップを知らせる新聞の切り抜き記事が数枚入っていた。“町の隠者”の病死、“大富豪”の自殺、“町の呑んだくれ”の失踪。この三つの事件の共通点は? 手紙の主は不敵にもクイーンに挑戦状を叩きつけてきたかのようだった。だが、懐かしの土地へ赴いた彼を待ち受けていたかのように古い童謡に憑かれて犯行を重ねる殺人鬼にクイーンもなすすべがなかった!~

後期クイーンの作品らしいと言えばらしい・・・作品。
紹介文のとおり、エラリーへの挑戦状や一見して無関係に見える連続死がエラリーの登場後、童謡通りの「見立て殺人」という共通項が発見されるなど、本格ファンにとっては魅力的なガジェットが盛り込まれている。
かといって、それが面白さにつながっているかと問われればやや疑問符。
メインテーマはもちろんフーダニットの謎になるのだろうが、そこが今いちピンボケのような感じなのだ。
連続殺人が進んでいき、最後の最後で大ヒントが与えられ、読者も「まさか?!」と思った・・・ところで最後のドンデン返しは待ち受けている。
そこはまぁいいのだが、これって要は「○乗殺人」ってことだよね・・・
その辺りがどうも整理されてなくって、すっきりしない感じになっているのではないか。
(動機も分かるようで、どうも納得性が薄い)
どちらかというと重厚な作品がつづいた時期だから、「九尾の猫」や本作でやや派手な仕掛けを込めたかったのか??

本作のもうひとつのポイントが「リーマ」の存在。
まるで妖精のような美少女なのだが野生児。エラリーがNYの高級店で淑女に仕上げていくところはまるで「プリ○○ウーマ○」??
完全に惚れてるのに、他の男に盗られてしまいジェラシーを感じるエラリー・・・
サイドストーリーとしてラブストーリーが書きたかったのかどうか? でもちょっと中途半端かな。
まっそれは作品全体をとおしてではあるが・・・


No.1194 7点 邪魔
奥田英朗
(2016/01/19 22:25登録)
2001年発表。
「最悪」「邪魔」「無理」と続く、作者初期の代表的シリーズ(特にシリーズ名はないが・・・)の二作目。

~及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供二人と東京郊外の建売住宅に住む。スーパーのパート歴一年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がっていく・・・。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織り込んだ傑作!~

やっぱ達者だわ! 奥田英朗は!
もう読み出したら止まらない。他にも佳作の多い作者だけど、この三部作は特にリーダビリティが半端ない。
平凡な主婦の及川恭子、最愛の妻に先立たれた刑事の九野薫、本当は臆病な不良少年の渡辺裕輔。
最初は主役級の三人の人となりが順番に語られ、静かな幕開け。
やがて三人の運命がまるで何かに導かれるようにクロスしていく刹那。
その瞬間から、まるでジェットコースターのように奈落の底へ向けて落ちていく三人・・・
読者もハラハラしっぱなしだ!

特に酷いのが及川恭子。
小市民の典型のような生活をしていたはずの主婦のはずが、ほんのちょっとした弾みで落ちていく姿を見せ付けられる。
特にラストが何とも救いがない!
あれだけ心の拠り所だった最愛の子供からも離れなくてはならなくなる・・・ああ救いがない!
その後の物語は何も語られてないのだけど、どうなったのか是非とも知りたくなった。
(残された子供も本当に心配だ! って完全に物語の世界に入り込んでるな)

まぁ正直なところ、「最悪」「無理」と同じようなプロットじゃないか!とも思ったのだが、それはそれで十分に楽しめる作品に仕上がっている。
時間のあるときに一気読みして、とにかくハラハラドキドキさせられることをお勧めします。
(人間の心ってなんて勝手なんだろう・・・って思っちゃうよね・・・)


No.1193 5点 私の嫌いな探偵
東川篤哉
(2016/01/19 22:24登録)
依然として大好評(?)の烏賊川市シリーズ。
その第七弾にして、「はやく名探偵になりたい」に続く第二短編集がコレ。
相変わらず鵜飼と朱美のボケ=ツッコミが冴える(!)のか??

①「死に至る全力疾走の謎」=タイトルからして何となく島田荘司の短篇「疾走する死者」を思い浮かべてしまう。恐らく作者もソレを意識してかいたのではあるマイカ? トリックも同系統だし・・・
②「探偵が撮ってしまった画」=写真に偶然写りこんでしまったひとりの人物をめぐる大騒動(?)。いわゆる“雪密室”を扱った作品だけど、まさかこの程度のトリックで終わらせる気か? と思ってたら・・・。鵜飼の骨董品のようなアレが皮肉な結果を導くのではあるマイカ?
③「烏賊神家の一族の殺人」=これはなんとも言えないノリ・・・。烏賊のユルキャラ探偵「剣崎マイカ」が鵜飼に変わって謎を解く! トリックはなるほど・・・烏賊だけにっていう奴ではあるマイカ?
④「死者は溜め息を漏らさない」=シリーズではお馴染みの舞台“盆蔵山”で起こった転落死。調査に向かった鵜飼&明美の前に現れた怪しい男と生意気な中学生。そして中学生が見たという死者から吐かれた“溜め息”の正体とは? これもまぁー緩い話ではあるマイカ・・・
⑤「二○四号室は燃えているか?」=これもまぁしようもないと言えばしようもない事件。プロットもかなり古臭いというか、他にネタはなかったんだろうかと思ってしまうのではあるマイカ・・・

以上5編。
うーん。もともと軽いタッチのシリーズだけど、本作は相当ユルイ。
何とかミステリーとしてのネタを絞り出して膨らませてみました・・・っていう感じにしかとれない。
本作はいつもの鵜飼=流平のコンビではなく、朱美をサブキャラとしたのが唯一のヒットか。

とにかく最近多作すぎるのが面白さ半減の原因だろう。
もう少し骨のある本格ミステリーを望む!(無理かもしれないが・・・)
(ベストは中味云々ではなく③。イカのユルキャラ探偵がとにかくツボ。再登場を求む!!)


No.1192 5点 不安な産声
土屋隆夫
(2016/01/09 12:58登録)
前作「盲目の鴉」以降、九年間の沈黙を破って発表された長編。
千草検事シリーズの五作目であると同時に最終作であり、作者特有の文学的雰囲気を纏った作品。
1989年発表。

~大手薬品メーカー社長宅の庭で、お手伝いの女性が強姦・殺害された。容疑者として医大教授の久保伸也の名があがり、犯行を自供する。名誉も地位もある男がなぜ? しかも久保にはアリバイがあり殺害動機もなければ証拠もない。担当検事・千草が見た理解を超える事件の裏に隠された衝撃の真相とは?~

例えは悪いけど、「なんだか地上波の昼メロみたいな話だな・・・」って思ってしまった。
(フジTVで13:30からやってる奴ね)
過去に犯してしまった事件が回り回って、現在の自分に降りかかってくる運命。
運命を振りほどこうと更なる犯罪に手を染めてしまう主人公。
しかしそれは大いなる欺瞞だったのだ!!!
ってプロット。昼メロっぽいでしょう?

そう言ってしまうと何だか安っぽく思えてしまうのだけど、他の方が評価しているほどのめり込めなかったというのが本音。
確かにラストにはサプライズも用意されているし、全編中の2/3が主人公から千草検事への手紙という形式も斬新。
倒叙というスタイルを取ったことで、主人公の心情とシンクロし、サスペンス感を盛り上げることにも成功している。
「人工受精」というテーマもミステリーにはマッチしているだろうと思える。

でもねぇ・・・
巻末解説者も触れているけど、1989年といえば新本格ムーブメントも一服してきた時期。
それを勘案するとどうしてもプロットの古臭さが目に付く。
もちろん本作が「動機」に拘った作品なのは分かるのだが、格調だけでは高評価しにくいのも事実。
千草検事が引退したのも・・・致し方ない感じだ。


No.1191 6点 十四の嘘と真実
ジェフリー・アーチャー
(2016/01/09 12:57登録)
作者の十八番・・・といえばポリティカルスリラーとツイストの効いた短編集。
ということで、これまでも数作よんできましたが、十一や十五のつぎは“十四”を読了。
2000年発表。

①「専門家証人」=互いに無二の親友である検事と証人。しかも「専門家証人」(!)である。法廷劇も当然出来レースということになるのだろう・・・
②「終盤戦」=チェスになぞらえたタイトルで本作中最も長い一編。富豪となった男が最も自身のことを考えてくれている者を相続人とするのだが・・・というプロット。欲に目のくらんだ兄弟と欲のない○○、っていうようなこと。
④「犯罪は引き合う」=獄中であらゆる法律の条文を学習する男は、出所後ある犯罪に手を染める。しかも、条文を絶妙に利用した方法で・・・ということで犯罪は“引き合う”のか?
⑤「似て非なるもの」=これは皮肉の効いたなかなかの秀作。絵の才能があり母親が可愛くて仕方のない次男と、ただ只管真面目に生きてきた兄。順調に出世した兄に依存しつづけた弟に最後に強烈な一撃が打ち下ろされる!! (ざまあみろ!!)
⑥「心(臓)変わり」=南アフリカを舞台に白人と黒人の間の人種差別が巻き起こす一幕。
⑦「偶然が多すぎる」=これも実に作者らしい一編(これも実話らしいが)。愛に溺れた女性ってやっぱり目が曇っているということかな。まぁ男も一緒だけど・・・。詐欺師ってうまいよね。
⑨「挟み撃ち」=アイルランドとイギリス(アイルランド島北部ね)の国境にまたがって建つ家。家主はふたつの国の法律をうまく使って金儲けをしていたのだが・・・警察はそれに対して! さて!
⑩「忘れがたい週末」=結局この女性はこの男性が好きだったのか? 単なる当て馬だったのか? まあそっちだろうね。
⑪「欲の代償」=このラストは・・・救いがないねぇ・・・。詐欺にあうくらいなら笑い話の範囲内だが、こういう結末では笑えない。でも好きな一編。
⑭「隣の芝は・・・」=タイトルどおりで、要は他人を妬んではいけないという話。その人にはその人の本分があるということ。

以上14編。(4編は未書評)
さすがにこういう短編集を書かせたら旨い!
作品ごとのレベル差はあるけど、どれもツイスト感を効かせたいかにも短篇という作りになっている。
14編中9編は実話に基づくというのも興味深い。

人間の欲や罪というのは洋の東西を問わず同じということかな。
無難といえば無難だが、やはり水準以上の評価はできる。
(個人的な好みでいえば⑤>⑦>②あたりかな。)


No.1190 9点 さらば長き眠り
原尞
(2016/01/09 12:56登録)
皆さま明けましておめでとうございます。(遅くなりましたが・・・)
2016年(平成28年)最初の書評はどうしようかなと熟考した結果・・・手にしたのがなぜか本作。
私立探偵沢崎シリーズの四作目にして最長の本作。

~400日ぶりに東京に帰ってきた私立探偵沢崎を待っていたのは浮浪者の男だった。男の導きで、沢崎は元高校野球選手の魚住からの調査を請け負う。十一年前、魚住に八百長試合の誘いがあったのが発端で、彼の義姉が自殺した事件の真相を突き止めて欲しいというのだ。調査を開始した沢崎は、やがて八百長事件の背後にある驚愕の事実に突き当たる・・・。沢崎シリーズ第一期完結の渾身の大作!~

これは・・・スゴイ。
文庫版で600頁弱の大作。完成まで五年以上の歳月がかかったというのが頷ける中味。
事件の発端は十年前以上の事件なのだが、沢崎が事件に関わった途端、まるで現在進行形の事件であるかのように彼の周りに大きな“うねり”が発生する。
自殺として解決したはずの事件の裏には、複数の人間・組織の悪意や保身が隠されていた。
沢崎の孤独な調査が目眩く謎をひとつひとつ紐解いていく・・・
ひとりひとりの登場人物が実に魅力的だし、欲や保身、見栄のために犯罪に手を染めてしまうのがいかにも人間臭い。
もちろん本格ではないので、読者が謎解きを楽しむというプロットではないけれど、何重にも重ねられた事件の構造や意外性のあるラストなど、ミステリーファンにとっても十二分に満足できるストーリーだと思う。

今回は沢崎が探偵業に手を染めることになった渡辺の消息がひとつのサイドストーリーとなっている。
シリーズ当初より沢崎に付きまとう錦織刑事、そしてヤクザたち・・・彼らとの関係にも一定の結末が得られるなど、シリーズの分岐点としても重要な作品。

世評としては直木賞受賞作「私を殺した少女」の方が上なのだろうが、個人的には本作の方に魅力を感じる。
とにかく、新年から手応えのある作品に出会えたことに感謝したい。そんな気持ち。
よって、久々にこの点数。


No.1189 7点 下町ロケット2 ガウディ計画
池井戸潤
(2015/12/31 00:14登録)
2015年、そして平成27年の締めくくりは、今や“超売れっ子作家”になられた作者の最新作で。
阿部寛主演の地上波の好評も耳に新しい本作。
前作は直木賞まで受賞した代表作だけに、失敗のできない続編だが・・・

~ロケットエンジンのバルブシステム開発により倒産の危機を乗り越えてから数年・・・。大田区の町工場・佃製作所はまたしてもピンチに陥っていた。量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発ではNASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペ話が持ち上がる。そんなとき、社長佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。しかし、実用化までの長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所にとってあまりにリスクが大きい。苦悩の末、佃が出した決断は・・・?~

やはり今回も読み手の目頭を熱くさせる物語だった。
もはやストーリーなど紹介する必要もないのかもしれない。
いつもどおりの勧善懲悪・・・
今回も佃航平をはじめとして佃製作所の社員たちは企業人として、熱くそしてプライドを持って仕事を全うしたし、貴船教授や日本クライン、そして佃のライバルとして登場するサヤマは見事なまでに悪人としての役割を果たしている。

あ~あ。またもやお涙頂戴の型にはまった“いい話”か・・・
って思う人も多いことだろう。
それでも引き込まれて読んでしまう。
なぜ作者の作品がつぎつぎとドラマ化され、高視聴率を稼ぎ出すのか?
やっぱり、それは人の心に深く突き刺さる物語だからだろう。
特に、日頃悩んだり苦しんだり、時々いいことがあり・・・そんな小市民的な暮らしを営んでいる多くのサラリーマンたちにとっては、自分自身とシンクロするところもあるし、「そんなうまいことないよなあ」って思う気持ちもあるし・・・
とにかく、やっぱりうまい具合に引き込まれてしまう、ってことかな。

そうはいっても、違う展開や違うプロットの作品も出していかないとそろそろマズイのではないか?
もはや全くミステリーとは呼べない作品ばかりになっているだけに、そろそろ初心に帰ってはどうか、っていう気もする。
でも、ついついまた手にとってしまうんだろうね。
(結局、今回のドラマも一回も見ないまま終了・・・)


No.1188 6点 炎に絵を
陳舜臣
(2015/12/27 20:05登録)
直木賞作家にして歴史小説の大家でもある作者の傑作ミステリー。
前々から読もう読もうと思っていた作品。
1966年発表。

~会社の神戸支店に転勤することになった葉村省吾は兄夫婦にある調査を依頼された。彼の父親は、辛亥革命の際に革命資金を略奪したとされているが、その汚名をはらして欲しいというのである。父親の記憶がほとんどない省吾はあまり気乗りがしなかったが、病床の兄のたっての頼みとあって事件の調査を開始する。怪しい影に命を狙われながら二転三転の末ようやくたどり着いた驚愕の真相とは? 風光明媚な港町・神戸を舞台に展開する謎また謎・・・~

なるほど、さすがに評判どおり端正に練られたミステリー・・・
そんな読後感。
典型的な「巻き込まれ型」探偵である主人公・省吾を軸として展開するミステリアスな事件の数々。
本筋である父親の汚名はらしに纏わる事件のほかに、自身の命が狙われる事件、自社の新製品に係る産業スパイなど複数の脇筋が複雑に絡み合う。
どのように一本に合流していくのか、と思いながら読み進めていた。

終盤はそれまでの若干まだるっこしい展開が一変。
激流に巻き込まれるようにスピードアップし、サプライズ感のある真相まで一直線に進んでいく。
2015年現在の目線で見ると、もちろん既視感はあるし、まぁ予想の範囲内ということにはなるのだが、発表当時はかなり衝撃的だったに違いない。
何よりもタイトルにもなっている「炎に絵を」だ。
ある人物が死の間際に放つ言葉なのだが、その意味が明らかにされるとき、人間の悪意があからさまにされる刹那!
これこそが本作一番の読みどころになる。

巻末解説を読んでると、本作は作者のミステリーとしては本流ではないとのこと。
乱歩賞受賞作をはじめ、他にも食指の動く作品もありそうなので、折を見て手にとっていきたい。
さすがに名作と言われるだけのことはあるね。
(やっぱり女って怖いということが改めて再認識されるよなぁー・・・)


No.1187 7点 クリスマス・プレゼント
ジェフリー・ディーヴァー
(2015/12/27 20:05登録)
皆さまMerry Christmas!(ちょっと遅かった・・・)ということで、この時期に合わせてチョイスした本作。
作者初の短篇集という触れ込みの作品なのだが、短篇とはいえ、ディーヴァーらしい切れ味鋭い「捻り」を期待してしまう。
原題もそのものずばり“Twissted”

①「ジョナサンがいない」=不倫の男女の逢引(古い!)現場かと思いきや、妻が殺し屋に夫殺しを依頼する現場だった・・・。
③「サービス料として」=精神に異常を感じた女性が通う精神科、そしてセラピスト。やがて起こるその女性による夫殺しなのだが・・・真相は??
④「ビューティフル」=すべての男性を虜にするほどの美貌を持つスーパーモデル。その女性の悩みは「美しすぎること」。ストーカー被害に悩まされる彼女がとった意外すぎる撃退法とは?
⑤「身代わり」=不倫に興じている夫の殺害を通りすがりのたくましい男に依頼する妻。その肉体の虜になった男は夫殺しを引き受けるのだが、意外な結末が・・・って基本的なプロットは結構似てる。
⑥「見解」=刑事と犯罪者。この関係もディーヴァーにかかると意外な結末に持っていかれる! まっでも普通かな。
⑦「三角関係」=これは見事に騙された。他の方も高評価を与えているとおりの良作。後から読んでみると、確かにはっきり書いてないよなぁ・・・
⑨「釣り日和」=これはなかなかブラック。無邪気な子供とブラックさがいいコントラストになっている。
⑩「ノクターン」=これは“いい話”系の一編。甘いような気はするが・・・
⑪「被包含犯罪」=法廷もの。これも最後のツイスト勝負の一編。ちょっと分かりにくいけど・・・
⑫「宛名のないカード」=超猜疑心の強い夫が織り成す“悲劇”。こんな捻れた男がやたら登場するなぁ・・・
⑬「クリスマス・プレゼント」=本作唯一の作者の大看板“リンカーン・ライム”もの。娘の取り越し苦労で終わったかに思えた失踪事件が意外な展開に・・・。短編でもサプライズを味わわせてくれる。
⑮「パインクリークの未亡人」=これも短篇らしく、「実は・・・でした」というツイスト感溢れる一編。
⑯「ひざまずく兵士」=ストーカー被害に悩まされる父娘。父親はついに相手の男を殺してしまうのだが、実は・・・っていうやつ。

以上16編。
短編でもディーヴァーはディーヴァーだったということ。
原題どおりにツイスト感を十二分に味わうことができる作品が目白押し。
是非第二短編集も手に取りたい・・・そう思わせる作品集に仕上がっている。
ある意味短編のお手本かもしれない。
(個人的ベストは⑦かな。⑤や⑥、⑬なども高評価。短評してない作品はちょっと感心しない)


No.1186 6点 Y列車の悲劇
阿井渉介
(2015/12/27 20:03登録)
1991年発表の長編。
警視庁捜査一課・牛深警部を主人公とする「列車シリーズ」の第四作。
“不可能犯罪”てんこ盛りがウリのシリーズ作品。

~上り寝台特急「はやぶさ」のA寝台車の個室で、女性の惨殺死体が発見され、残りの乗客全員は走行中の列車から消えた。そして有名俳優の声を使った脅迫電話と呼応してつぎつぎと姿を現すのは乗客の死体! 不可解な事件が女流脚本家のシナリオのとおりに動いていることが判明したとき、謎はさらに混迷の度を深める!~

相変わらず重い雰囲気を纏った・・・っていうか重苦しい雰囲気を纏った作品。
本作はTVドラマのシナリオどおりに殺人事件が行われるという、一種の「見立て殺人」のガジェットが取り入れられているのだが、その昔「特捜最前線」(懐かしい!)のシナリオも書いていたという、いかにも作者らしいプロット。
(「Y列車」もいったいなに?と思ってたけど、そういうことね・・・)

今回の最大の「不可能」は寝台特急の個室車両から六人の乗客が忽然と消えたという謎。
身元が判明した二人は殺害された姿で発見されるのだが、残りの乗客はなかなか発見されない・・・
まぁこのトリックに関しては・・・実に現実的!
島荘的な豪腕トリックではなく、現実的に考えればこうだろうという解放に落ち着いている。
(牛深が最初からこれを思い付かないということが問題ではあるが・・・)

フーダニットについてはもったいぶりすぎ!!
本シリーズを読んでいる読者なら中途で気付くはず! この登場人物が犯人に違いないと!!
もともとフーダニットにはあまり重きを置いていないシリーズなのだが、これはちょっとヒントありすぎだろう。

トリック重視の本格ミステリーと警察小説のハイブリッド、という意味では先進的ともいえる本シリーズ。
人間として、日本人として考えさせられる動機や背景・・・
もう少し評判になっても良かったのではと思うのだが・・・。
ただ本作はちょっと落ちるかな。


No.1185 5点 舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵
歌野晶午
(2015/12/20 17:30登録)
「・・・11歳、ダンスときどき探偵」に続く“舞田ひとみ”シリーズの第二弾。
小学生から中学生へと成長したひとみは、探偵としても成長していた・・・のか?
2010年発表の連作短篇集。

①「白+赤=シロ」=初っ端の事件は本作のレギュラーとなる中学生三人とひとみの出会いから・・・。駅前で募金を呼びかける女性に不信を覚えた四人だったが、渦中の女性が殺害される! タイトルの白と赤はとある国の国旗に関するもの。
②「警備員は見た!」=家政婦ではなく警備員である。女子高に不審者が侵入したのだが、三人の警備員の目を如何にして盗めたのか?ということで、つまりは「密室」テーマ。ただし、思わぬところに「抜け穴」があったことが判明する。ある意味この密室の解法は初めてのような気がする。
③「幽霊は先生」=外国人の臨時英語教師が突然激やせして登壇する! 激やせの理由は何と幽霊を見たからというのだが・・・? 冒頭から伏線は確かに張られていたのだが、それは普通気付くんじゃないかな??
④「電卓男」=携帯電話のある特徴を使った暗号がテーマの一編。小学生がそんな分かりにくい暗号使うなよ!!って気がするのだが・・・。
⑤「誘拐ポリリズム」=④で登場した愛美璃の弟が誘拐された! ゆるーい作品が続いていた本作が急にシュールな展開になる一編。誘拐テーマの作品は数多いが、こういうプロットっていうか誘拐の方法は初めて読んだ。確かに誘拐事件↓、オレオレ詐欺↑は相関関係なんだろうな。
⑥「母」=本筋の結末よりもふたりの登場人物の「母」に関する謎の方が気になる。結局答えは明示されず、次作以降につづく、ということなんだろうな。

以上6編。
前作はあくまでヒントの出し手であったひとみが今回は押しも押されぬ探偵役として主役を張っている。
とはいっても前半はユルメの展開が続いて、読み手も緩~い感じで読んでいたのだが、⑤辺りから雰囲気が急変。謎を積み残したまま続編へということに。

短編らしく、ワンアイデアの切れ味勝負という作品が並んではいるが、まぁそれほどキレキレではない。
それでもさすがに水準級の短編集にはまとめているのは作者熟練の腕だろう。
(個人的ベストはどれかな・・・敢えていえば③or⑤かな)


No.1184 7点 死への祈り
ローレンス・ブロック
(2015/12/20 17:28登録)
2001年発表。マッド・スカダーシリーズの長編も数えて十五作目。
二十一世紀に入って初めて発表されたという意味では記念碑的作品と言える(ような気が・・・)

~ある夜、マンハッタンの邸宅に住むホランダー夫妻が帰宅直後に惨殺された。資産家を狙った強盗の仕業と思われたその事件は、数日後に犯人たちの死体が発見されたことによって決着をみた。しかし、被害者の姪から気がかりな話を聞かされたスカダーは、背後に更なる“第三の男”が存在しているのではという疑念を抱き、事件に潜む闇へと足を踏み入れていく・・・。姿なき悪意の影にスカダーが挑むシリーズ新境地!~

「静謐」
本作を読んでいると、まさにその言葉が胸に染み入ってくる感覚だった。
無免許探偵スカダーも数えて六十四歳。すでに老境に入ったというべき年齢。エレインという理想の伴侶まで得て、充実したシニアライフを送る・・・そんな人生だったはず。
なのに、図らずも事件に巻き込まれていくスカダー。

今回巻き込まれた事件もシリアルキラーを思わせる連続殺人鬼だ。
「倒錯三部作」ではいずれも強烈なキャラクターを持つ真犯人が登場してきたので、本作でも同様の強烈な犯人が判明するものと思っていた。
しかし、終章に入っても犯人の姿は曖昧模糊として実態を現さない。
てっきり、「えっ!あいつが真犯人だったのか?!」という展開かと思っていたのだが、結局そういうサプライズは起こらない。
(ある意味ネタバレだが・・・)
「静謐」なまま、しかし何とも言えない余韻を引いたまま物語は終りを告げる。
これこそが新世紀に作者が送る新しいスカダーシリーズなのだろう。

本作ではもうひとつの物語が並行する。
それはスカダーの別れた妻とふたりの息子との絡み・・・そこには責任を果たせなかった父親としての顔があった!
父と息子というのは何となく照れくさいというか、もどかしい関係なんだなぁーと、同じくふたりの息子を持つ私も思ってしまったわけである。
とにかく本シリーズのレベルの高さは疑うべくもないし、未読の作品を読み続けていきたい。


No.1183 7点 キングを探せ
法月綸太郎
(2015/12/20 17:27登録)
2011年発表。
超お馴染み『法月綸太郎父子シリーズ』の第九長編。
その年の各種ミステリーランキングでも上位を占めた作品。

~繁華街のカラオケボックスにつどう四人の男。めいめいに殺意を抱えた彼らの、今日は結団式だった。目的はひとつ、動機から手繰られないようターゲットを取り換えること。トランプのカードが、誰が誰を殺るか定めていく。四重交換殺人を企む犯人たちと法月警視&綸太郎コンビの熾烈な頭脳戦!~

“さすが法月綸太郎!”とでも言いたくなる・・・そんな作品。
とにかく職人芸が光る。
「四重交換殺人」というのは手練のミステリー作家にとって挑みがいのあるテーマなのだろう。

冒頭から倒叙形式に準じるようにストーリーは進んでいく・・・
読者としては「いったいどこを捻ってくるのだろう?」って考えながら読み進めていく・・・
順に交換殺人が行われていくうちに、思わぬアクシデントが発生! いったいどういう方向へ??
・・・って考えていくうちに、作者の企みに嵌ってしまうのだ。
(トランプもそういう意味があったのね・・・)

とにかく本作を読んでると「本格ミステリーってこうやって作っていくんだなあー」っていうのがよく分かる(ような気がする)。
「交換殺人」というテーマとそれを題材とした過去の名作が作者の頭の中にあったとして、それを如何に混ぜ合わせてプロットを組み立てていくのか・・・!
最近、自作よりも解説での活躍が目立つ作者なのだが、やっぱりファンとしては本シリーズをコンスタントに出して欲しいというのが偽らざる願いだろう。
まぁ欲を言えば、もう少し爆発力があれば言うことなし!
(保険調査員のキャラor存在はもう少しうまく調理する方法がなかったのだろうか?)


No.1182 8点 ヨハネスブルグの天使たち
宮内悠介
(2015/12/06 20:17登録)
2013年発表。
デビュー作として評判を呼び、直木賞候補にも押された短篇集「盤上の夜」に続く第二作品集。
本作もまた独特の雰囲気を持つ作品に仕上がっている。

①「ヨハネスブルクの天使たち」=舞台は当然南アフリカの大都市ヨハネスブルク。近未来の時代の荒廃した都市として描かれているのが興味深い。主人公の男女二人が、見捨てられた耐久試験場で何年も落下を続ける日本製ホビーロボットDX9の捕獲に挑むのだが・・・。
②「ロワーサイドの幽霊たち」=9.11を過去に経験したNYのツインタワー跡。時代を行きつ戻りつ、関係者たちの証言をつなぎ合わせながら進行する物語。ここでもまたDX9の落下が作品のモチーフとなるのだが・・・
③「ジャララバードの兵士たち」=舞台は戦乱下のアフガニスタン。NYで過ごした経験を持つ日系人ルイが主人公となる本編。③以下④~⑤は世界観を共有する物語のよう・・・。
④「ハドラマウトの道化たち」=舞台はまたしても戦乱下の国、中東はイエメン。③で登場したルイが再び姿を見せる中、日系人のアキトがDX9たちの攻撃に備えるのだが・・・
⑤「北東京の子供たち」=“北東京”というのは解説によるとどうやら高島平のマンション群辺りを指しているらしい。ルイには弟がいて、兄ルイが帰京するのを待っているという状況の本編。

以上5編。
いやぁー独特の世界観!
何とも言えない雰囲気を纏った作品たち。
登場人物のひとりひとりに血が通っていて、作家としての力量の高さが窺える。直木賞候補となるのも十分うなずけた。

日本製ロボットDX9という共通項を持って繋がっている連作短篇。
結局作者が何を問い、何を語りたかったのか? それが十分汲み取れたかというと疑問なのだが、何とも映像的というか余韻をひくというか・・・いやいや・・・
あまりクドクドいうべきではないと思うので、未読の方は是非手にとってください。
(無国籍、荒廃とした世界・・・落下するロボット・・・やっぱ独特)


No.1181 6点 ピカデリーの殺人
アントニイ・バークリー
(2015/12/06 20:16登録)
1929年発表。
超有名作となった「毒入りチョコレート事件」に続いて刊行された長編。
「毒入り・・・」にも登場したチタウィック氏が探偵役として大活躍する(?)作品。

~ピカデリー・パレス・ホテルのラウンジで休んでいたチタウィック氏は、目の前で話し合っている二人連れにいつとはなしに注目していた。年配の女性と若い赤毛の男。そのうちに男の手が老婦人のカップの上で妙な動きをするのが目に入った。しばらく席を外して戻ってみると男の姿はなく、婦人はいびきをかいて眠っている。異常を感じた彼は、やがて死体の第一発見者にして殺人の目撃者となっていた!氏の証言から容疑者はただちに逮捕されるのだが・・・?~

バークリーらしい風刺や皮肉の効いた作品。
チタウィック氏が何とも小市民的で、右往左往しながら必死で探偵役を務めるのが歯がゆくもあり、らしさを感じる。
「毒入りチョコレート事件」では“多重解決”という新しいプロットを導入したわけだが、本作にはそこまでの斬新さはない。
“一見して疑いようのない事実”をどのようにしてひっくり返していくか・・・
これが本作のテーマとなる。

最初は自分の目で見た「事実」を疑いなく信じていたチタウィック氏が、容疑者一族の人々に籠絡(?)された結果、自身の目に疑問を持つようになり、逆の捜査を始めることになる。
いかにもという容疑者候補が用意されているのだが、読者としては当然それはダミーだろうと予想しながら読み進めていく。
結果判明する真犯人については、そこそこサプライズはあるのだが、今ひとつピンとこないまま終わったなぁーという感覚。
(登場人物が少ないという事情はあるのだが・・・)

まっ、でも十分に面白さを備えた作品だとは思った。
バークリー好きならシェリンガムではなく、チタウィック氏が活躍する本作も見逃せないはず。
叔母に翻弄されるチタウィック氏は何ともいいキャラクターだよ。
(働かなくて良いという環境が何とも羨ましい! 一体何で生計を立てているのか?)


No.1180 5点 ルームメイト
今邑彩
(2015/12/06 20:15登録)
1997年発表の長編。
昔の作品ながら何故か最近映画化もされた作品。

~「わたしは彼女のことをなにも知らなかったのか・・・?」 大学へ通うために上京してきた春海は、京都から来た麗子と出会う。お互いを干渉しない約束で始めた共同生活は快適だったが、麗子はやがて失踪、跡を追ううちに彼女の二重、三重の生活を知る。彼女は名前、化粧、嗜好までも変えていた。呆然とする春海の前に既に死体となったルームメイトが・・・~

とにかく『多重人格』というプロットをいかに膨らますかに専心した・・・という作品。
ルームメイトのひとり(麗子)が多重人格者だということはほどなく判明し、後はいったい作者がどうやって読者にサプライズを与えようとしているかということが鍵となる。
二重人格までなら作中の書き分けでもアンフェアにならないのだろうが、三重・四重・・・まで来るともはや書き分けでは無理だし、こういうプロットになるのだろうなぁーと納得した。

で、問題は、というか要は最終章となる「第三部」が本作のほぼすべてということだろう。
途中から「こうなる」ことはほぼ察しがついてはいたのが(伏線はあったしね)、なかなかサスペンスフルな展開ではある。
影の主役ともいえる工藤が真相を知って苦悩するさまも、命の危機に陥る展開も予想内とはいえ、ツボを押さえた盛り上げ方ではあるよなぁ・・・
いわくつきの「モノローグ4」は・・・どうかなあ?? 
(いらないと言えばいらないかなぁー)

まっでも、正直小粒な印象は残った。
作者の作品も数多く読んできたけど、どれも水準以上の出来が多いのは確か。
本作も映画化に耐えうる作品だとは思った。
評点はこんなもんだろう。

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