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ミステリの祭典

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不安な産声
千草検事シリーズ

作家 土屋隆夫
出版日1989年10月
平均点6.30点
書評数10人

No.10 7点 メルカトル
(2021/03/01 22:36登録)
大手薬品メーカー社長宅の庭で、お手伝いが強姦・絞殺された。容疑者として医大教授・久保伸也の名が挙がり、犯行を自供する。名誉も地位もある男がなぜ?しかも、久保にはアリバイがあり殺害動機もなければ証拠もない。担当検事・千草がみた、理解を超える事件の裏に隠された衝撃の真相とは…?斬新な手法を駆使した日本推理小説史上に残る記念碑的作品。
『BOOK』データベースより。

非常に丁寧且つ堅実な文章で好印象。ホワイという大筋がありながら、そこを通過しているうちに万華鏡のように次々と見ている景色が変わっていく感じがします。つまりは、巧みに構築されたプロットが見事に最後まで展開されていくわけです。適度に人工授精に関する情報を取り込みながら、ミステリとしての愉しみを読者に提供する姿勢を忘れていない作者の強い心意気に感心させられました。


【ネタバレ】


ただ、肝心のホワイ、何故事件に関係なさそうなお手伝いの糸子が殺されたのかの回答にはかなり肩透かしを喰らいました。しかし、それを補って余りある裏事情、一体誰が一番悪だったのかには驚かされました。まさに久保の気持ちを思うと絶望しか残らないし、救いのないラストにも十分納得がいきます。
最終章の第四部の畳み掛ける様などんでん返しの連続は圧巻で、この物語の最後を飾るに相応しい幕引きと言えるでしょう。

No.9 6点 パメル
(2018/10/23 14:10登録)
週刊文春ミステリーベストテン1989年国内部門第1位。東京地検の検事千草泰輔が活躍する千草検事シリーズ。
人工授精は生命の尊厳を冒瀆する行為だという偏見が蔓延していた時代に、この重いテーマに挑んだ意欲作と言えるでしょう。(本格というより社会派に近いと思う)人の弱みにつけ込む卑劣な人物、復讐に燃える人物など登場人物の心理描写も丁寧で好感が持てる。アリバイがあり、動機も無い人物がなぜ犯行を自供したのか、魅力的な謎にどんでん返しも用意されている。しかし、ある人物の誤認は無理があるでしょう。

No.8 7点 斎藤警部
(2018/05/24 05:59登録)
こりゃのめり込むよねえ。。。。 出だし’告白開始の合図’からもう、期待感という名の巨大な絶壁が目の前に立ちはだかりますよ。あせらなくていいから、ゆっくりじっくり崩壊に向かってくれ、絶壁よ。。 

人工授精の業績で名を馳せる大学教授は何故、出遭ったばかりの女性を  し、更には、、、、のみならず、、、、、、、、 ところが、、、

一見平凡のような章立て「過去の章」「現在の章」「犯罪の章」「未来の章」もよくよく練り込まれています。

若い女性の殺害を認めつつ、“千草姉さんに申し訳が立たない”と何度も悔やみつつ、偶然同じ名の千草検事には事件の核心を隠し続ける教授。 遠い過去、亡くなった姉さんの復讐を動機に、或る非道極まりない行為を犯した教授。 更に過去、ラジオ番組に出演して人工授精を取り巻く諸々について一席ぶち、一躍セレブリティ(有名人)の座に躍り出た教授。。

もしも本作を、常道の本格推理形式に再構築したらどうだろう、とか、読了前から早くも妄想炸裂気味になっていました。それだけ内容重厚で魅力溢れる中盤の展開だった、というわけです。

そうそう、アリバイ崩し基調の本格要素がどっどどどどうと雪崩れ込んで来る「犯罪の章」、そこに見えるトリックこそ小粒ではありますが、それまでの心理ミステリー風横顔から急展開ならではの味わいが思いのほか深く、小説全体に一層の彫りの深みを与えていました。粋だ。



さてここからはっきり【【ネタバレ】】になりますが

謎の核心である「初対面の人物を殺害した背景」が成功確信犯ではなく事故(人違い。。)だったなんて。。。(しっかり伏線が張ってあったのが逆になんとも)ここで、動機の堅牢無比な筈の意外さが、断崖絶壁の幻想からせいぜい工事現場の立入禁止フェンスへと一気に萎んでしまう口惜しさや! せっかく中盤でグイグイ引っ張っといて、結末で不意に手を離された、昔のスキー場のロープトウ(ご存知の方は?)電気系統がブレイクダウンしやがったみたいな気分です。 ま例えば、てっきり千草姉さんとこそ何かあったんでないかと冒頭から仄かに匂わせるのは純粋にミスディレクションとして成功してるのかも知れないが、、もちろんそこだけじゃないんだが、、うむむ。。。 おまけに、追い討ちを掛ける、あまりに見え透いた最後のオチ。。



結末にたどり着くまでの非凡なる面白さを勘案し、献上する得点はそれなりです。

No.7 5点 nukkam
(2016/05/24 19:42登録)
(ネタバレなしです) 1989年発表の千草検事シリーズ第5作でシリーズ最終作です(特別なサヨナラ演出は全くありません)。測量ボーイさんのご講評の通りで、本書を本格派推理小説ですと断言するのはためらわれます。確かに千草検事の活躍する場面では得意のアリバイ崩しがあるのですがそれは四部構成の中のわずか一部だけに過ぎず、残りはほとんど犯人のモノローグ(独白)で占められており、犯罪心理小説の部分の方が大きいように思えます。性描写或いはそれに近い表現があるのもシリーズ作品としては異色です。決して意味のない官能趣味に走ったわけではなく、プロットに必要不可欠な要素ではあるのですが好き嫌いは分かれるかもしれません。とはいえ物語としての完成度は非常に高い作品です。

No.6 5点 E-BANKER
(2016/01/09 12:58登録)
前作「盲目の鴉」以降、九年間の沈黙を破って発表された長編。
千草検事シリーズの五作目であると同時に最終作であり、作者特有の文学的雰囲気を纏った作品。
1989年発表。

~大手薬品メーカー社長宅の庭で、お手伝いの女性が強姦・殺害された。容疑者として医大教授の久保伸也の名があがり、犯行を自供する。名誉も地位もある男がなぜ? しかも久保にはアリバイがあり殺害動機もなければ証拠もない。担当検事・千草が見た理解を超える事件の裏に隠された衝撃の真相とは?~

例えは悪いけど、「なんだか地上波の昼メロみたいな話だな・・・」って思ってしまった。
(フジTVで13:30からやってる奴ね)
過去に犯してしまった事件が回り回って、現在の自分に降りかかってくる運命。
運命を振りほどこうと更なる犯罪に手を染めてしまう主人公。
しかしそれは大いなる欺瞞だったのだ!!!
ってプロット。昼メロっぽいでしょう?

そう言ってしまうと何だか安っぽく思えてしまうのだけど、他の方が評価しているほどのめり込めなかったというのが本音。
確かにラストにはサプライズも用意されているし、全編中の2/3が主人公から千草検事への手紙という形式も斬新。
倒叙というスタイルを取ったことで、主人公の心情とシンクロし、サスペンス感を盛り上げることにも成功している。
「人工受精」というテーマもミステリーにはマッチしているだろうと思える。

でもねぇ・・・
巻末解説者も触れているけど、1989年といえば新本格ムーブメントも一服してきた時期。
それを勘案するとどうしてもプロットの古臭さが目に付く。
もちろん本作が「動機」に拘った作品なのは分かるのだが、格調だけでは高評価しにくいのも事実。
千草検事が引退したのも・・・致し方ない感じだ。

No.5 6点 あびびび
(2014/07/04 01:38登録)
一人旅の友としてこの本を電車、バスの移動中に読んだ。力作である。9年ぶりの書き下ろしらしいが、その気迫が読み手に伝わってくる。ただ、人工授精が題材の推理劇だが、今となっては結末が分かりやすい。

どんでん返しも、どんでん返しでなくなってしまう。結末はこれしかないと言う感じで、それを確認するだけの物語になった。その点が残念でならない。

No.4 7点 ボナンザ
(2014/04/08 01:03登録)
ホワイダニットの傑作ではなかろうか。初期の作品の影に隠れがちだが、説得力は強い。

No.3 7点 T・ランタ
(2010/01/14 17:40登録)
いわゆる倒叙型、犯人視点中心の小説です。
犯人はもちろん、トリックも明かされているので動機に焦点が当てられる事になります。
それには犯人の職業が関わっているのですが・・・

しかし事を起こしたあとで・・・と言うのも辛いものです。
どんな罰も覚悟した犯罪者でもこればかりは絶望感を味わうのではないでしょうか。
これも一つの罰なのかも知れませんが、あまりにもやりきれません。

No.2 6点 測量ボ-イ
(2009/05/29 19:42登録)
犯人やトリックがどうというのではなく、殺人の動機に焦点
をあてた作品です。
広義なら勿論本格推理小説といえますが、狭義なら微妙です
ね。内容自体はまずまずですが、狭義の本格推理を好む僕に
は、なかなかこの点数以上はつけ辛いです。

でも作者土屋氏は数年に一遍程度しか長編を発表せず、その
丹念な作品作りには好感が持てます。

No.1 7点 こう
(2008/08/04 23:23登録)
 動機に焦点を当てた力作だと思います。千草検事シリーズの最終作でもあります。
 大手社長宅でお手伝いが強姦、絞殺され、医大教授が犯行自供、逮捕されるが殺害動機は明らかなものがなく、何故彼は殺人を起こしたのか、というストーリーです。
 動機一本の作品ですがこういう動機での殺人もあるか、と納得できる力作です。
 500ページ弱と長く、犯人の手記を読まないと読者には動機を見破るのは難しいと思いますが、一読の価値は十分にあるかと思います。

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