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ミステリの祭典

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平均点:6.01点 書評数:1812件

プロフィール| 書評

No.1452 6点 六人の超音波科学者
森博嗣
(2018/06/25 21:26登録)
「恋恋蓮歩の演習」に続くVシリーズの第七弾。
2001年の発表。

~土井超音波研究所・・・山中深くに位置し、橋によってのみ外界と接する。隔絶された場所。所内で開かれたパーティーに瀬在丸紅子と阿漕荘の面々が出席中、死体が発見される。爆破予告を警察に送った何者かは実際に橋を爆破、現場は完全な陸の孤島と化す。真相究明に乗り出す紅子の怜悧な論理。美しいロジック溢れる推理長編~

同じ“流れ”の中にあった前作(「恋恋蓮歩の演習」)と前々作(「魔剣天翔」)から一転、今回の舞台は「陸の孤島」と化した超音波研究所という何とも怪しげな設定・・・
しかも、巻頭から思わせぶりな館見取り図が挿入され、中途には首切り死体も現れるなど、本格ファンの心をくすぐるガジェットに溢れた作品となっている。
Vシリーズも巻を重ねるごとに“超変化球”的な仕掛けが目立ってきたと思いきや、初期作品に近い直球の本格ミステリーに先祖返りしたかのような趣向?いう感覚だったが・・・

ただ、どうも、本作、作者が新しいアイデアを捻り出して・・・というわけではなく、自作や他作のトリックの焼き直し或いは流用っぽいものが目立つ気がする。
例えば、首切り+手首まで切られた死体っていうと、Why done it?⇒ 被害者の入れ替わり、というのは見え透いてるから、当然“捻り”があるんだろうと読者は予想するんだけど、今回のトリックはなぁ・・・作者としては安易すぎるのではないか?
Who done itも分かりやすすぎて、瀬在丸紅子もすぐに看破してしまったし・・・
どうもその辺り、敢えての安直さなのか、単なるネタ切れなのか、気になるところだ。

ド直球の本格ミステリー志向の作品にするんだったら、もうワンパンチもツーパンチも欲しかったなというのが偽らざる思い。
ただし、次作(「朽ちる散る落ちる」)も本作と同様、「土井超音波研修所」が舞台ということで、作者らしい仕掛けがあることを期待したい。
(いよいよVシリーズも佳境に入ってきたのかな?)


No.1451 5点 強盗プロフェッショナル
ドナルド・E・ウェストレイク
(2018/06/25 21:24登録)
一作目「ホット・ロック」、三作目「ジミー・ザ・キッド」と並ぶウェストレイク三部作のひとつが二作目の本作。
1972年発表。原題は“Bank Shot”

~天才的犯罪プランナー、ドートマンダーも近頃ではその仕事に少々嫌気がさしていた。ところが、そこへ親友のケルプがでっかい話を持ち込んできた。銀行強盗だ。しかもただの銀行強盗ではない。その銀行はトレーラーを使って目下仮営業中。そこで、そのトレーラー、すなわち銀行をそっくりそのまま盗もうというのだ。ドートマンダーのプロ根性がムラムラと頭をもたげるが・・・。タフでクールな泥棒ドートマンダー・シリーズの第二作~

さすがに手馴れている。
そんな作品だ。
作者が実際にトレーラーで営業している銀行の店舗を見かけたことが本作執筆のきっかけになっているとのこと。「銀行強盗」をテーマとする作品はたまに見かけるけど、「銀行」そのものを盗むというプロットは確かに斬新。
警備員や警察も、まさか盗まれるとは思ってないから、彼らの慌て振りも結構面白いことになっている。
ドートマンダーを中心とした強盗グループも、奪ったはいいけど、その後に起こるさまざまトラブルに右往左往させられることになる。
“奪った方”も“奪われた方”もどっちもドタバタする・・・そこが本作の読みどころなのだろう。
このシリーズらしくラストも旨いなという感じ。

評価かぁ・・・
本作、実際に強盗を実行するまでの前段が長いんだよねぇ
強盗に参加することになるメンバーひとりひとりを割と丁寧に紹介しているんだけど、いるかな?
なかなか本題に入らないんでちょっとイライラさせられた。
できれば本筋の強盗シーンをもうちょっと膨らまして書いたほうがよかったのではないか。
などと、職人的作家に対して失礼なことを考えたりした。
(あまり気付かかなかったけど、アメリカンジョークが作中結構あったみたい。分かりにくいからなぁアメリカンジョークは・・・)


No.1450 6点 怪盗ニック全仕事(1)
エドワード・D・ホック
(2018/06/10 10:18登録)
「サム・ホーソン」「サイモン・アーク」両シリーズ読破後、次に挑むのは「怪盗ニック」シリーズということで・・・
全八十七編からなる膨大なシリーズを十四~十五編ずつに分け、全六巻に渡っての刊行とのこと(スゲぇ・・・)
まずは第一巻に取り掛かろうか・・・

①「斑の虎を盗め」=まさに本シリーズの初っ端に相応しい一編。要は本シリーズのプロトタイプたる作品なのだろう。最初の依頼は動物園の虎を盗めという無理難題なのだが、盗んだあとでもう一捻りあるのがホックらしい。
②「プールの水を盗め」=今度は何とプールの水だ! これはhow done itを楽しむタイプの一編。確かに水だったらこうやって「盗む」よねぇー
③「おもちゃのネズミを盗め」=おもちゃのネズミを盗みにパリまでやって来たニック。これも単なる盗み以外に仕掛けが!っていうタイプ。
④「真鍮の文字を盗め」=とあるビルに掛かっている真鍮製の企業のロゴを盗めという依頼。本編ではニックの“天敵”としてウェストン警部補も登場。
⑤「邪悪な劇場切符を盗め」=上映が終わったはずの芝居の切符を盗めというかなり風変わりな依頼。半信半疑で依頼を受けたニックを待ち受けていたのは・・・っていうプロット。単純だけど、結構面白い。
⑦「弱小野球チームを盗め」=西村京太郎は長編「消えた巨人軍」で、新幹線の車中から巨人の全選手を誘拐してみせたが、今回作者はメジャーリーグの弱小チームを飛行機の中から盗む(=誘拐?)することに成功! でも終盤の捻りの方が本題。
⑧「シルヴァー湖の怪獣を盗め」=アレをアレに見せるのは相当無理があるんじゃない? お前の目は節穴か!って言いたくなる。バカミス的な面白さはあり。
⑩「囚人のカレンダーを盗め」=今回の依頼はかなりの難題。何せ牢獄の中からその壁にかかっているカレンダーを盗めというのだから・・・。それでも割合簡単に盗んでしまうニックって・・・
⑫「恐竜の尻尾を盗め」=なぜ恐竜の尻尾なんか?って、そう、まさにwhy done itがうまく嵌った一編。さすがに短編の名手だ。
⑬「陪審団を盗め」=ニックが怪盗ではなく、「名探偵」ばりの活躍をする一編。これは本格ミステリーだね。
⑮「七羽の大鴉を盗め」=「盗め」という依頼と「盗みを防げ」という依頼を同時に受けてしまったニック! さぁーどうする?っていうプロット。あんまりよろしくない。

以上全15編。
さすがに短編の名手という冠に相応しい。確かに似たようなプロット&趣向の作品は目につくけど、読者を飽きさせないように、どこかしらに工夫が凝らされているのが職人芸だ。
ということで、第二巻も楽しみ楽しみ・・・


No.1449 5点 残像に口紅を
筒井康隆
(2018/06/10 10:17登録)
アメトークの「読書芸人」でオードリー若林(カズレーザーだったかな?)が取り上げたことでも有名となった本作。
作者らしい遊び心と壮大な実験的小説という解釈でよいのか?
「中央公論」誌に連載された後、1989年に単行本化。

~「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつとことばが消えていく。愛するものを失うことは、とても哀しい・・・。言語が消滅するなかで、執事し飲食し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状態を予感させる、究極の実験的長編小説~

まさに「実験的」小説なんだけど、市井の普通の一般的な読者にとっては、「だから何なんだ?」という感想しか残らないのでは?
以上、感想終わり!
ということでもよいのだが、雑感を追加すると・・・

まずは作者の多大なる労苦に経緯を評したくなる。
第三部開始時には(雑誌連載時は第二部までて終了していたとのこと)、
世界からすでに「あ」「ば」「せ」「ぬ」「ふ」「ゆ」「ぶ」「べ」「ほ」「め」「ご」「ぎ」「ち」「む」「ね」「ひ」「ぼ」「け」「へ」「ぽ」「ろ」「び」「ぐ」「べ」「え」「ぜ」「ヴ(本来ひらがな)」「す」「ぞ」「ぶ」「ず」「づ」「み」「ざ」「ど」「や」「じ」「ぢ」「き」「で」「そ」「ま」「よ」「も」「げ」「ば」「り」「ら」「る」が消えている状態(合ってるか?)。
そこから更に一字ずつ消していく第三部がハイライトというか何ていうか・・・

それまでにSFをはじめ、さまざまな作品を書いてきた作者がたどり着いた極北が本作ということなんだろうか。
泡坂妻夫の「ヨギガンジー」シリーズでも感じたことだけど、もっと創作の中身で勝負したいいのに、って思ってしまう。
でもまぁ、作家も煮詰まってきたら、いろんなことを考えるんだろうね。
「実験」としてなら、面白い趣向だと思う。
(今回ウィキペディアで作者のプロフィール&履歴を改めて確認したけど、やっぱりなかなかの人物ですなぁー)


No.1448 5点 イノセント・デイズ
早見和真
(2018/06/10 10:15登録)
2015年に発表し、その年の日本推理作家協会賞を受賞した長編。
作者はもともとミステリー作家ではなく、本作以外にミステリーと呼べる作品は発表していない(のではないか?)

~田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と一歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか? 産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼馴染の弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は・・・。筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長編ミステリー~

「そうか、こういうストーリーだったのか・・・」
当たり前だけど、読後はこういう感想になった。
確かに、日本推理作家協会賞受賞作という惹句からだと違和感がある作品。

物語は、ひとりの女性を中心に、彼女に関わってきた人々の半生を綴りながら、過去そして現在へと進められていく。
なぜ、彼女はここまで不幸な人生を歩まねばならなかったのか、そして許されざる犯罪に手を染めねばならなかったのか?
いうならば「動機探し」が本作のメイン・プロットなのだろうと予想しつつ頁をめくることになる。
でもミステリーファンとしては、「もしかして他に真犯人がいるのでは?」という目線でどうしても見てしまうよねぇ・・・
で、その期待はかなり中途半端な感じで収束することになる。
そして、救いがあるのかないのか意見が分かれそうなラストシーンを迎えることに・・・

文庫版解説の辻村深月氏は、本作を「重い」とか「暗い」という言葉で評するのは違和感があるという趣旨のコメントを書かれているが、でもまぁー「暗い」し「重い」よねぇ・・・
「死ぬことに希望を持って生きている」なんてことを言うんだもんね・・・
ここまで不幸な主人公は久しぶりのような気がする。
もう少し何とかならなかったのか?何てことを小説の主人公に対して感じるんだから、結構のめりこんでいたのかもしれない。
でも、ミステリーとしては見るべきところはないし、面白いかと聞かれればネガティブな意見になってしまう。
そういう意味では不思議な作品かもしれない。


No.1447 6点 慈悲深い死
ローレンス・ブロック
(2018/05/25 23:08登録)
マット・スカダーシリーズ第七作目。
前作「聖なる酒場の挽歌」のラストシーンで明らかにされた“飲まなくなった男マット・スカダー”が描かれる本作。
原題“On the Cutting Edge”(=切っ先の上に立つ?)。1989年の発表。

~酒を絶ったスカダーは、安ホテルとアル中自主治療協会(AA)の集会とを往復する日々を送っていた。ある日スカダーは、女優を志してニューヨークへやって来た娘を行方を探すように依頼される。ホームレスとヤク中がたむろするマンハッタンの裏街を執念深く調査した末に彼が暴いた真相とは? 異彩を放つアル中探偵を通して、大都会ニューヨークの孤独を哀切に描く!~

前作「聖なる酒場の挽歌」では、まるでスカダーの酒に対する挽歌(エレジー)のようだと書評したが、本作では完全に酒を断ったはずのスカダーが、実は“on the cutting edge”=際どい切っ先の上に乗っているようなものと表現され、ちょっとした拍子に酒に溺れる生活に戻りかねないというあやうさが作品世界のひとつとなっている。

本作の物語は実に静謐で何とも哀愁に満ちたものだ。
とにかく、終盤も終盤を迎えるまで、さざ波のような静かな展開が続いていく。
事件はふたつ。ひとつは紹介文にある、田舎からNYに上京した女優志望の娘の失踪事件。そしてもうひとつが、AAの仲間の死亡事件。
ふたつともとにかく曖昧模糊としていて、このままでまともに解決するのだろうかと、思わず心配になるほど。
それが急転直下。特にふたつ目の事件については、結構なサプライズが用意されている。
そこで語られるのが、邦題である「慈悲深い死」・・・というもの。
これこそが大都会NYの闇ということなのか? マンハッタンに聳えたる摩天楼も実は“砂上の楼閣”であるということなのか?
いずれにしても、印象深いラストを迎えることになる。

本作では、後の作品でレギュラーとなるミッキー・バルーが初登場。スカダーと親交を深めることとなる。
名作「八百万の死にざま」以降、更なる進化を遂げることとなる本シリーズの重要な分岐点ともなる本作。
やはり必読の名シリーズだという思いを深くした。
残りの未読作品も楽しみ・・・
(読み順がバラバラになってるのが、いいのか悪いのか・・・)


No.1446 7点 真実の10メートル手前
米澤穂信
(2018/05/25 23:06登録)
「さよなら妖精」に登場した大刀洗万智を探偵役に配した連作短篇集。
“ジャーナリストとしての矜持”というテーマも垣間見える作品が並ぶ。
2015年発表。第155回の直木賞候補作にも挙がった作品。

①「真実の10メートル手前」=表題作に相応しい冒頭の一編にして、本作で唯一新聞記者時代の太刀洗を描いた作品。電話での会話から推理を広げていくプロット自体はそれほどではないけど、タイトルどおり、真実の10メートル手前に迫った刹那・・・残酷なラストが待ち受ける。
②「正義感」=電車への飛び込み自殺騒ぎが、終盤鮮やかに反転するプロットが光る。実に短篇らしい一編。
③「恋累心中」=前評判どおり、コレが本作NO.1だろう。②と同様、高校生カップルの心中事件と思われた事件が、ラストに鮮やかに反転させられる。伏線も見事に嵌ってるあたりもなかなかの出来栄え。
④「名を刻む死」=これは・・・何とも痛々しい感じだ。男って生き物はこういうものに拘るところはあるんだけど、何もそこまでねぇ・・・。でも、こういう投書をしてる奴って多そうだ。
⑤「ナイフを失われた思い出の中に」=世界観がよく分からん!って思ってたら、これって「さよなら妖精」の続編的な作品だったのね・・・。「さよなら妖精」が未読なもんで、どうにも・・・。何か、七面倒臭いことやってるし、考えてるなぁーという感想しか思い浮かばない。
⑥「綱渡りの成功例」=いくら田舎町の年寄りだって、今どきコーンフレークの食べ方くらい分かるんじゃない? 人間、生きるか死ぬかの瀬戸際になったらこれくらいのことやるって・・・

以上6編。
「満願」の書評で、『このレベルの作品を出し続けられたら、作者は稀代のミステリー作家だ』って書いたんだけど、本作もまずまず高レベルの作品集だと思う。
「儚い羊たちの祝宴」や「満願」ほどの悪意や後味の悪さはないけど、本作の主人公・大刀洗万智もかなりのツワモノだし、彼女の冷徹でストレートな視点が作品に程よい緊張感を与えている。
何より、作者の短編ならきっと何かが仕掛けられてるっていう期待に応えられる引き出しの多さ、これこそが作者の腕前っていうことかな。
このあと、長編「王とサーカス」も文庫化されるみたいだから、楽しみにしておこう・・・(ついでに「さよなら妖精」も読んでみるか)
(ベストは前述のとおり③。あとは④か①)


No.1445 5点 悪いものが、来ませんように
芦沢央
(2018/05/25 23:05登録)
デビュー作となる「罪の余白」に続いて刊行された第二長編がコレ。
2013年の発表。

~助産院に勤める紗英は、不妊と夫の浮気に悩んでいた。彼女の唯一の拠り所は、子供の頃から最も近しい存在の奈津子だった。そして育児中の奈津子も、母や夫、社会と馴染めず、紗英を心の支えとしていた。そんなふたりの関係が恐ろしい事件を呼ぶ。紗英の夫が他殺死体として発見されたのだ。「犯人」は逮捕されるが、それをきっかけにふたりの運命は大きく変わっていく。最後まで読んだらもう一度読み返したくなる傑作心理サスペンス~

先週に続けての「芦沢央」作品となった本作。
読了後に本サイトやamazonの評価をチラ見したけど、「まぁ、皆さんの言うとおりかな」という感じだ。
はっきり言うと、「何が書きたかったのか?」という感想に尽きる。

ミステリー的な観点からすると、ラストに判明するアノ仕掛けがやりたかった、ということなんだろうね・・・
ただ、それが仕掛けられたところで、「ヤラレタ」感にはつながらないのではないか。
冒頭から「どうも、登場人物の関係性がよく分からん・・・」という違和感を持つ読者は多そうだし、それは当然ワザとなんだけど、だったらそういうことだろうと、中途でどうしても察してしまうしなぁー

じゃぁ、紹介文のとおり「心理サスペンス」が主眼だったのかというと・・・サスペンス性は薄味気味だ。
主役級のふたりが徐々に深みに嵌っていく展開はいいんだけど、それほどシビアな展開が用意されている訳ではない。
などなど、あまり褒めるべきプロットとは思えない。

敢えて褒めるとすれば、ソツのなさというか、売れてる作家のいいとこ取り的な部分だろうか。
湊かなえ的なストーリテラー振りだし、一連のイヤミス作家風味でもあるし、ラストにはちょっとしたミステリー的なオチも用意してあるし・・・ということで、あらゆる読者のニーズを満たそうとしているところはニクイ。
地上波のドラマの原作としてはなかなか良いのではないかと思っていたけど、いや待て! 本作はダメだな・・・・あの仕掛けはさすがに映像化は無理だろう。前言撤回。


No.1444 5点 シャーロック・ホームズ絹の家
アンソニー・ホロヴィッツ
(2018/05/13 10:37登録)
シャーロック・ホームズもののパスティーシュは数多いが、コナン・ドイル財団から正式に「続編」として認められたのは本作が初めてとのこと。
『六十一番目のホームズ作品』として2011年に発表。

~ホームズのもとを相談に訪れた美術商の男。アメリカである事件に巻き込まれて以降、不審な男の影に怯えていると言う。ホームズは、ベイカー街別働隊の少年たちに捜査を手伝わせるが、その中のひとりが惨殺死体となって発見される。手掛かりは、死体の手首に巻き付けられた絹のリボンと捜査のうちに浮上する「絹の家(house of silk)」という言葉・・・。ワトスンが残した新たなホームズの活躍と、戦慄の事件の真相とは?~

パスティーシュは普段あまり読まないんだけど、「まぁこんなもんかなー」というような感想。
ホームズはともかく、ワトスンは原典の雰囲気をよく出しているとは思った。

本作のプロットの軸は、紹介文のとおり「絹の家」という言葉(というか存在)の謎なんだけど、ミステリー好きの読者なら中途で薄々察するだろうなという真相ではある。
まぁ、でもこれはやっぱり二十一世紀の現在目線で書かれた話だな・・・
十九世紀末のロンドンでもこういう世界は当然あったんだろうけど、ホームズ作品でまさかこういう世界が語られるとは思わなかった。

そしてもうひとつの読みどころが、“ホームズの大ピンチ!”
犯人グループの罠に嵌って、なんと郊外の堅牢な牢獄に収監されてしまうことに!
そこからまるでアルセーヌ・ルパンばりに脱獄してみせるのはご愛嬌、っていうやつか・・・
(相変わらず変装してるし、ワトスンはそれに全く気付かないし・・・)
兄・マイクロフトも登場して、いい味出してるところもファンサービスなのかな。

いずれにしても、ミステリーとしての観点では語るべきところは多くない。
本格ミステリーというよりは、まさに「冒険譚」という単語がピッタリ。
事件現場で拡大鏡を取り出したり、依頼人を観察するだけでその人となりをズバズバ言い当てる、なんていうホームズが堪らないという方なら読んで損はないでしょう。それ以外の方なら、特にスルーしていいかと・・・
(例の○○教授についての前フリもサラリと入れているけど、次作への布石なのか?)


No.1443 5点 今だけのあの子
芦沢央
(2018/05/13 10:36登録)
「罪の余白」「悪いものが、来ませんように」など、ヒットを連発する若手女流作家・芦沢央(よう)。
初めて東京創元社から出版した短編集がコレ。(芦沢央も初読み。)
2014年発表。

①「届かない招待状」=一番仲の良かった親友の結婚式に呼んでもらえない女性・・・。考えたら、これほど不幸で居たたまれない女性もいないかもしれない。で、そこには当然理由があるわけで、こんな偶然ってドラマ以外有り得ないでしょう・・・
②「帰らない理由」=「親友」そして「彼女」を交通事故で失った女と男が主亡き部屋で対峙することに・・・。理由は「主」が書いていた日記だった。で、当然問題は日記の中身ということなのだが、それってそんなに隠さなくてはいけないことなのか?
③「答えない子ども」=長い不妊治療のうえやっと授かった我が子。その我が子を大切に大切に育てようとする母親・・・。我が子(娘)が一生懸命描いた絵が別の子ども(やんちゃな男!)に盗られたと知ったとき・・・。しかし、この旦那はスゲえな!我慢強さの極地だ!
④「願わない少女」=受験に失敗した余波で嘘をついてまでも設定した「漫画家になる」という夢。一緒に頑張ってきたはずの親友に裏切られたと知ったとき・・・。しかし、そこまで「他人」に合わすかねぇ・・・
⑤「正しくない言葉」=舞台は老人ホーム。そして今回の謎は「手土産のロールケーキに生えたカビ」だ!(すげぇ謎!)。「なぜカビが生えたのか?」・・・正直どうでもよい。ただし、最後はとってもいい話になる(と、フォローしておく)。

以上5編。
『女性脳は周りのみんなと同じ価値観を持ったり、同程度だと思うと安心感を得られる・・・』-最近見た地上波のバラエティ番組で女性評論家が話してたけど、本作を読んでるとまさにその通りだなと納得させられる。
本作の主人公はすべて女性。
例えば①の主人公は、「同じグループの他のみんなには招待状が届いているのに私には来ていない」ことに、④の主人公は、「クラスの他のみんなは仲の良いグループがあることに」・・・“自分だけ違う”ことに強いストレスを感じるわけだ。
うーん。メンドくさい・・・って思ってはいけないんだろうな。今のご時世では。
なにしろ主役は女性である。職場でも家庭でも・・・。男は黙って我慢するしかない!
(って・・・ついつい自分自身に置き換えてしまう)

作者の“旨さ”はそこそこ感じられた作品。①~⑤で世界観を緩やかに繋がらせる技巧もニクイ。
でも、こんな手の作品は結構多いから、どうも既視感が拭えなかったのも事実。
評価はこんなもんかな・・・


No.1442 6点 クビキリサイクル
西尾維新
(2018/05/13 10:35登録)
第23回メフィスト賞受賞作にして、作者のデビュー長編。
「クビシメロマンチスト」などに続く『戯言』シリーズの一作目でもある本作。
2002年の発表。

~絶海の孤島に隠れ住む財閥令嬢が、「科学」「絵画」「料理」「占術」「工学」という五人の天才女性たちを招待した瞬間、“孤島×密室×首なし死体”の連鎖がスタートする。工学の天才美少女、“青色サヴァン”こと玖渚友とその冴えない友人、“戯言遣い”のいーちゃんは、天才の凶行を証明終了できるのか? 第二十三回メフィスト賞受賞作~

いまさら「西尾維新」初読みである。
前々から評判は耳にしていた本作。もちろん、ラノベ風文体や現実感の全くしないキャラや、「うにうに・・・」「僕様」などという張り倒したくなる台詞etcについてはいろいろ思うところもあるんだけど、敢えて触れないことにする。
(それほどアレルギーがあるわけではないんだけど・・・)

そういうスパイス(?)を剥がしてしまえば、紹介文のとおり、“孤島×密室×首切り”という新本格世代垂涎のミステリー、ということになる。
で、「首切り」については確かに衝撃的。
こんなこと横溝正史なんかがとっくに書いてるんじゃないかと思ってしまうんだけど、あまりにも基本的すぎて誰も書かなかったということなのか?
「首切り」の場合、どうしても「首」の方に目がいってしまうということを逆手に取った、ってことなんだろう。
(「いーちゃん」の電話ボックスの例え話はなかなか良い)
「密室」は添え物程度。特に二つ目の密室はかなり苦しい。

プロットはデビュー作としては異例の出来栄え。
孤島の連続殺人なんていう手垢のついたプロットなのに、「見せ方」さえ工夫すればまだまだいけることを示した作品。
こういうプロットだと警察不介入が大前提になるし、リアリテイ云々に触れるのは筋違い。
まぁ突っ込み所は満載なんだけど、それを言うのは野暮っていうことで・・・
今ではミステリーのフィールドからは大きく外れたらしいですが、さすがに売れっ子になる作家は違うということかな。


No.1441 7点 ラン迷宮
二階堂黎人
(2018/05/01 22:44登録)
「ユリ迷宮」「バラ迷宮」に続く、二階堂蘭子シリーズの短篇集三作目。
今回は自身の名前どおり「ラン」にまつわる迷宮に挑戦ということで・・・
2014年の発表。

①「泥具根博士の悪夢」=作者自身の編んだアンソロジー「密室殺人大百科」(2000年)に収録された作品。雪密室+四重の扉が立ち塞がるという超強力な密室が登場。これはどんなトリック??って興味津々だったのだが・・・解法としては、蘭子のお決まりの台詞「困難は分割せよ」を地でいくトリック。読者でも十分解き明かせるという意味では、実によくできたトリックだと思う。因みに“泥具根博士”とは「鉄人28号」に登場する“ドラグネット博士”のもじりとのこと・・・(知らねぇ・・・)
②「蘭の家の殺人」=中編級のボリュームで本作の核となる作品。過去に起こった毒殺+密室殺人を蘭子が関係者の証言をもとに解き明かすというプロット。作中で触れているように、A.クリスティの「五匹の子豚」が作者の頭にあった模様(巻末解説者はE.クイーン「フォックス家の殺人」により近いと言及してますが)。密室トリックは「そんなこと!」っていう程度のものだし、フーダニットも「意外な犯人」の典型。そういう意味では大したことないとは言えるけど、雰囲気は好ましい。
③「青い魔物」=乱歩の世界をもじった“通俗風”スリラーの匂いがする作品。体全体が「青い」人間など、いかにも作者が仕掛けてきそうなプロットだなーっていう感想。分量も短くて小品。

以上3編。
超大作となった「人狼城ー」以降、作品レベルの劣化が目立つ作者。
前作「覇王の死」も酷くて、「もう終わったのか?」って思っていた矢先の作品集。
あまり期待せず読み始めたのだが・・・

マズマズの満足感という感じかな。
もちろん初期の佳作とは比べるべくもないんだけど、特に①なんかはいかにも「二階堂」という匂いが漂う作品。大げさなこけおどしや前時代的な舞台設定など、ファンにとっては「コレ、コレ!」っていうことになる。
蘭子は相変わらず高飛車&上から目線の極地なんだけど、今どきこんなクラシカルな探偵小説に挑戦するスピリット自体、ある意味国宝級かもしれない。
どんな批判にあっても、やっぱり「二階堂らしさ」は忘れずということで、次作にも期待します。


No.1440 6点 売国
真山仁
(2018/05/01 22:43登録)
「ハゲタカ」シリーズでお馴染みの作者が贈る、硬派&社会派エンタメ作品。
2013年5月から2014年8月まで「週刊文春」(!)に連載され、後に単行本化された長編。
単行本は2014年刊行。

~気鋭の特捜検事・冨永真一。宇宙開発の最前線に飛び込んだ若き女性研究者・八反田遥。ある汚職事件と、親友の失踪がふたりをつなぐ。そしてあぶり出される、戦後政治の闇と巨悪の存在。正義を貫こうとする者を襲う運命とは? 雄渾な構想と圧倒的熱量で頁をめくる手が止まらない!~

『頁をめくる手が止まらない!』・・・かというと、確かに序盤から終盤に入る頃まではそのとおりだった。
東京地検特捜部に異動した途端、大物政治家の汚職事件を担当することとなった冨永パートと、宇宙開発の最前線で働くチャンスを得たものの、そこに大きな壁の存在を知った遥のパート。
ふたりのパートが順に語られる展開。
当然ながら、このふたつの潮流はどこかでクロスすることになるんだろう・・・と想像しながら読み進めていく。

そして、“売国奴”という存在が浮かび上がる終盤。ついにふたりの運命はクロスする!
これこそがプロットの妙! と言いたいところなんだけど、そこまで鮮やかなものではなかった。
正直にいって、終盤はトーンダウンしたように、それまでの迫力が落ちていった印象は拭えない。
「巨悪」の対象こそ明らかになったものの、「さあ、これからどういうふうに立ち向かっていくのか?」っていうところで、唐突にカットされたように思えた。
(もしかして、ノンフィクション的にどこかから横槍が入ったのか?)

「ハゲタカ」シリーズでは一企業内での権謀術数が語られていたが、本作は日本だけに留まらず、米国をも巻き込んだ権謀術数の世界へ突入。そこには当然ドロドロした争いや必殺仕事人orゴルゴ13のような闇の世界が広がっているのだ・・・
おおー怖!
一小市民でしかない私には想像もつかない世界。
ちょうど、朝鮮半島で歴史的な会談が行われた時節というのが何とも暗示的だ。あれも裏側には数限りないドロドロした人間の欲望が蠢いているんだろうな・・・


No.1439 6点 夜より暗き闇
マイクル・コナリー
(2018/05/01 22:40登録)
2001年発表。
作者のメインキャラクターであるハリー・ボッシュ。そして「わが心臓の痛み」の主役、テリー・マッケイレブ。ふたりがダブル主演を務めることとなった本作。
“ボッシュ・サーガ”の深化とともに、新たな展開を予感させるシリーズ七作目。

~心臓病で引退した元FBI心理分析官テリー・マッケイレブは、旧知の女性刑事から捜査協力の依頼を受ける。殺人の現場に残された言葉から、犯行は連続すると悟ったテリーは、被害者と因縁のあったハリー・ボッシュ刑事を訪ねる。だが、ボッシュは別の殺しの証人として全米が注目する裁判の渦中にあった。現代ミステリーの雄コナリーが、人の心の奥深くに巣食う闇をえぐる!~

ハリー・ボッシュとテリー・マッケイレブ。そして、『ザ・ポエット』(1996)の探偵役ジャック・マカボイまでもが顔を揃えた本作。
まさにオールスターキャストとでも表現すべき大作だ。
物語は当初、「マッケイレブ」パートと「ボッシュ」パートに分かれて進行する。
共に、真犯人や弁護人の策略に遭い、徐々に窮地に陥ってしまうふたり。
特にマッケイレブは、プロファイルを進めるうちに、何とボッシュ自身が真犯人ではないかという疑いすら抱いてしまうことに・・・

ボッシュが真犯人なのか?という、何とも刺激的でファンにとってはやきもきする展開。
その鍵となるのが、“ヒエロニムス・ボッシュ”という画家。
(ボッシュの名前がその画家に因んで名付けられていたということ、不覚にも忘れていた。)
講談社文庫表紙にはボッシュの作品である『最後の審判』と『快楽の園』が使われているのだが、これがルネサンス期の画家だとすれば実に先鋭的だし、「夜より暗き闇」というタイトルに妙にマッチしている。

で、総合的な評価はどうなんだっていうと、ひとことで言うと「ちょっと微妙」っていう感じ。
これまでのサプライズ感の強いどんでん返しやいわゆる“ジェットコースター”的要素はこれまでの作品に比べて薄くなっている。
終章近くで判明する真犯人や全体の構図にしても、それほどの大技ではなく地味な印象は拭えない。
そんなことよりも、ボッシュにまとわりつく「闇」が本作通じてのテーマ。
妻や子供に恵まれ、前向きに生きようとするマッケイレブとの対比もあって、ますますボッシュのダークサイドが気にかかってくる。
この何とも言えない「後味」は、次作に期待しろっていうことなんだろうね。


No.1438 6点 花咲舞が黙ってない
池井戸潤
(2018/04/15 21:18登録)
地上波TVドラマでお馴染みとなった『花咲舞』が大活躍(!)する連作短篇集。
2016年1月~10月にかけて、読売新聞に連載された作品の単行本化。
読みながらどうしても杏と上川隆也の顔がチラ付いてしまって・・・

①「たそがれ研修」=五十歳を超えて、組織の中でもはや“上がり目”のなくなった男たち・・・。そうまさに「黄昏」なのだ。サラリーマン小説としてはよくあるテーマ。オッサンも哀しいわけですよ、そんな哀しいオッサンに何もそんなに強く当たらなくても・・・
②「汚れた水に棲む魚」=テーマは“反社会的勢力”。まっとうな会社にとっては実にやっかいな存在。ただし、完全に無視はできない存在だったりする・・・。ここにも私利私欲を最優先する罰すべき男たちが登場。
③「湯けむりの攻防」=なぜか“湯の町・別府”が舞台となる第三編。しかも、なんとあの男が登場! そう半○直○だ! なぜ彼が登場するのかは実際に読んでみてください。ついに作者の主要キャラふたりが作中でニアミスしてしまう刹那!
④「暴走」=銀行でローンを断られた男が、その後自動車の暴走事件を引き起こす! 一見単なる事故に思えた事件を花咲舞の鋭い勘が意外な真相に導く。でも欠陥住宅はいかんよ! 男の一生の買い物なんだから!
⑤「神保町奇譚」=唯一ほっこりするいい話がコレ。確かに神保町界隈には地味だけどいい仕事してる飲み屋さんが多そう。一冊の通帳から意外な真実を探り出すというのは、作者の作品の原点かもね。
⑥「エリア51」=物語もついに佳境へ!というわけで、東京第一銀行を揺るがす大事件が勃発する第六篇。ふたりもなぜかその渦中に巻き込まれるわけだが、真相に近づきすぎたふたり(特に相馬)にピンチが・・・。
⑦「小さき者の戦い」=いやだねぇーこういう組織って・・・などと思わずにはいられない最終編。結局は予定調和の結末に終わるかと思われたその時、またしてもあの男が登場! そう、半○直○だ!ってクドイな・・・。

以上7編。
花咲舞があまりにもスゴすぎて、こんな一般社員本当にいたら嫌だな・・・
すべてに対して「白は白、黒は黒」って言いたいんだけど、どうしてもしがらみや複雑な人間関係を考えて煮え切らない態度を取ってしまう自分自身と違いすぎるからな・・・

でもなぁ、多くのサラリーマンはそういう組織の嫌なところを見ながら、微妙なバランスの中で生きている。当然プライドもあるし、正義感もあるのだか、小さな幸せを守るために奮闘している。
って、そんなことを言うと花咲舞に笑われそうだな。
やっぱ、女性の方が強いね。


No.1437 5点 カレイドスコープの箱庭
海堂尊
(2018/04/15 21:17登録)
田口&白鳥の『バチスタ・シリーズ』もついに最終章。
2014年の発表。
なお、宝島文庫版では書き下ろしエッセイ「放言日記」と「桜宮市年表」を併録。

~閉鎖を免れた東城大学医学部附属病院。相変わらず病院長の手足となって働く“愚痴”外来・田口医師への今回の依頼は、誤診疑惑の調査。検体取り違えか診断ミスか・・・。国際会議開催の準備に向け米国出張も控えるなか、田口は厚労省の役人・白鳥とともに再び調査に乗り出す。「バチスタ」シリーズの最終章!~

これはもう付録というかファンブック。
シリーズの幕開けとなった「チーム・バチスタの栄光」を彷彿させるような田口&白鳥のやり取りもそうだし、物語の終盤にはバチスタ・スキャンダルの当事者・桐生医師や“ゼネラル”速水医師まで登場するなど、シリーズファンにとっては堪えられない展開。
ただ・・・ファン以外の方には「何じゃこりゃ?」という感想しか残らないんじゃないか。

今回も例によってAiの是非が裏テーマとなっている。
これはシリーズ通じての作者の一貫した主張だし、シリーズ最終譚でも外すことはできなかったんだろうな。
本作では米ボストンでの講演や国際会議まで開催するなど、もうやりたい放題。
(個人的にはお腹いっぱい)

で、本筋はというと・・・なんだっけ?
というくらいのものです。
そんなことより、併録の「桜宮市年表」が興味深い。
「海堂ワールド」の集大成というか、世界観もここまで広げられれば壮観のひとこと。
ここまで何作にも渡って同じ世界観を共有する作品を書き続ける作家って他にいたっけ?
これは・・・もう才能としか言いようがないし、スゴイとしか言えない。
最近、地上波TVドラマ(「ブラックペアン1988」)も始まったことだし、また人気が再燃するかもね。
(相変わらず人に形容詞を付ける才能がスゴイ! 本作では「牛丼鉄人」が登場)


No.1436 6点 インスブルック葬送曲
レーナ・アヴァンツィーニ
(2018/04/15 21:15登録)
作者は1964年、オーストリア・インスブルック生まれ。
というわけで、生まれ故郷の街を舞台にした本作は、デビュー作にしてドイツ推理作家協会賞受賞という快挙。
2011年の発表。

~イサベルが死んだ。彼女は家族から離れ、オーストリアのインスブルックでピアノを学んでいた。心不全だったという。妹の死に不可解なものを感じた姉・ヴェラは、真実を突き止めるべくミュンヘンからインスブルックに居を移し、独自の調査を開始する。時を同じくして、切断された腕だけが発見されるという猟奇殺人が当地で発生した。チロル州警察首席捜査官のハイゼンベルクが捜査に当たるが、事件はやがて連続殺人の様相を呈していく・・・~

インスブルック・・・
オーストリア・チロル州の州都。風光明媚な観光都市であり、またウィンタースポーツの聖地として世界的にも知られており、1964年と76年に冬季オリンピックを開催したことでも知られる。人口は約13万人で国内五番目の規模。
というわけで、まずは舞台の紹介から・・・(最近、こういうのが増えたな・・・)
つまりは、良く言えば歴史と伝統ある、悪く言えば古びて陰鬱な中央ヨーロッパの小都市ということ。
こういう街で、サイコ的な連続殺人事件が発生する。(その割には警察ものんびりしているのだが)

で、ここから本筋。
良く言えば、スピード感や意外性十分のフーダニットを絡めたいかにも現代風のミステリー。悪く言えば、どこかで読んだような(何度も)、既視感ありありのプロット、というところか。
作者自身も作中でアメリカのミステリーチャンネルを揶揄しているのだが、本作こそまさにそれをなぞったかのようなミステリーに仕上がっている。
視点人物が次々に入れ替わり、真犯人の思わせぶりな独白パートが中途で何回も挿入されるなどなど、これでは某J.ディーヴァーの焼き直しと言われても仕方ない。
そしてラストに判明するサプライズ!というべき驚きの真犯人。
ただ、やっぱり練り込み不足かな。三つの脇筋が最後に合流するというプロット自体はいいんだけど、最初からミエミエだしね。
ここまであからさまな疑似餌だと、さすがにアホな読者も引っ掛からないということ。

ちょっと辛口すぎる書評になってしまったけど、きれいにまとまってるし、駄作というわけではないので誤解なきよう。
デビュー作でここまで書ければ上出来かもね。


No.1435 5点 シーラカンス殺人事件
内田康夫
(2018/04/01 21:02登録)
去る三月十八日、八十三歳にてお亡くなりになった作者。
浅見光彦シリーズをはじめとして、数多くの作品を残された作者に敬意を評して・・・ということで本作をセレクト。
1983年発表で探偵役は初期作品らしく、警視庁の岡部警部。

~大東新聞学芸部記者・一条秀夫は、大東新聞が後援する<シーラカンス学術調査隊>に同行するため、南アフリカのコモロ・イスラム共和国へ特派された。だが、“巨大シーラカンス日本へ”という特ダネが大東新聞のライバル紙中央新聞の第一面を飾った。大東は完全に出し抜かれたのだ。その後、一条は突然姿をくらまし、調査隊員のひとり・平野の死体が発見された。凶器には一条の指紋が! 傑作長編ミステリー~

内田康夫というと、世間的には「浅見光彦」というイメージだろうね。
実際、あれだけ日本中の津々浦々を訪れ、各地の名所や名産、名物料理を紹介し、いつも若く美しい女性から好意を寄せられながらプラトニックに徹し、何十年間も“ソアラ”を乗り回し、そして母親に決して頭が上がらない男・・・
いやいや、浅見光彦は今回関係ないんだった。

初期作品にはこの岡部警部や信濃のコロンボこと竹村刑事(のちに警部)が主な探偵役として登場するけど、この二人をメインで書き続けてたらどうだったかね?
本作同様、ずっと硬派で真面目な作風だったのかな・・・
ひとつ言えるのは、間違いなくここまでの人気作家にはなってなかったろうね。
でも、そのせいでコアなミステリーファンからはそっぽを向かれる存在になってしまった。
個人的には・・・昔は旅のお供として手軽な読書にはうってつけの存在だったけど、最近はだいぶご無沙汰だったなぁー

というわけで、一応本作の書評もということなんだけど、うーん。
ひとことでいうと、可もなく不可もなくという感じかな。
もともと探偵役の捜査行を追っていくだけの読書になりがちだし、本作はアリバイトリックなどで多少の工夫があるとはいえ、サプライズなどとは無縁なプロット。
ただ、逆に言えば安心して読める。若い頃から抜群の安定感。
褒めるところはそれくらいか・・・
いずれにしても合掌。ご冥福をお祈りします。
(シーラカンスか・・・最近ぜんぜん話題に上がらないけど、どうなんだろ?)


No.1434 5点 虹の歯ブラシ 上木らいち発散
早坂吝
(2018/04/01 21:01登録)
問題作(?)「○○○○○○○○殺人事件」につづく、上木らいちシリーズの第二弾。
単行本刊行は2015年だが、文庫化に当たり大幅改稿が行われたとのこと(文庫版「作者あとがき」より)。
今回も問題(?)満載の連作短篇集。

①「紫は移ろいゆくものの色」=「紫」の章。初っ端作品らしく、“軽いジャブ”って感じの一作。こんなアリバイトリックを思い付いて実行する奴が本当にいたらスゴイ!
②「藍は世界中のジーンズを染めている色」=「藍」の章。ラブホテルに残されたジーンズのジッパーに残された指紋から導き出す、らいちの見事なロジック! まさにらいちしか思い付かない推理・・・かも? これが藍川刑事とらいちの出会いとなった事件。
③「青は海とマニキュアの色」=「青」の章。「作者あとがき」によると、本編がこの連作の端緒となった作品とのこと・・・だが、こりゃ“大問題作”だな。まさか本作を褒めている方がいらっしゃるとは思わなかった! あの深水氏までもが褒めてるなんて、ある意味ショック。これじゃタチの悪い特撮AVみたいだ・・・
④「緑は推理小説御用達の色」=「緑」の章。これもなぁ・・・、やれやれっていう感覚に陥ったけど、これはこれでアリかなとも思う。
⑤「黄はお金の匂いの色」=「黄」の章。ここまでくると、作者の狙いってなに?っていう疑問がまず浮かぶ。正直、何書いてるかよく分からないんだけど、多分これも作者の仕掛けなんだろうね・・・(っていうことで次へ)
⑥「橙は???の色」=「橙」の章。これは普通に一読しても理解不能。(っていうことで次へ)
⑦「赤は上木らいち自身の色」=「赤」の章。というわけで、連作の狙い、仕掛けが判明する最終章。確かにね、気になってたよね。途中のよく分からない「太字」や「ルビ」。なるほど、こういうことか・・・。で、結局?

以上7編。
なにか、作者にいいように遊ばれてる感じだ。
①~③辺りまではまだいいんだけど、だんだんと不穏な空気が流れてきて、最終章まで付き合うと怒りすら覚えてくる。

でも、それも作者の狙いなのだろうね。
ふざけてるといえばふざけてるんだけど、ミステリーなんて所詮作者の匙加減ひとつでどうにでもなるもの。
文庫版あとがきで深水氏も書かれてるけど、多重解決やら多重設定やら、つぎつぎと新基軸を考える作者も大変だ・・・
って上から目線でスイマセン。
(一晩五万円か・・・男の夢orロマンだね)


No.1433 5点 紐と十字架
イアン・ランキン
(2018/04/01 21:00登録)
「リーバス警部」シリーズの一作目に当たる本作。
(他の方も触れてますが、当初シリーズ化の意図はなかったとのこと・・・)
1987年の発表。

~「結び目のついた紐」と「マッチ棒で作られた十字架」・・・。奇妙な品物がリーバスのもとに届けられた。別れた妻が嫌がらせで送ってきたのか? 孤独なリーバスはエジンバラの街を震撼させている少女誘拐事件の捜査に打ち込む。だが、間もなく少女は無残な絞殺体で発見された。やがて彼のもとに差出人不明の手紙が。「まだおまえは分からないのか?」・・・。現代イギリス・ミステリーの最高峰、リーバス警部シリーズ待望の第一作~

エジンバラ・・・
有名なスコットランドの古都。人口約四十六万人。旧市街と新市街の美しい街並みはユネスコ世界遺産にも登録されている。
イギリス国内有数の観光都市である・・・(ウィキペディアより)

ということで、舞台となるのがエジンバラということがまずは本作、本シリーズの魅力となっている。
本格ミステリーというよりは米国のハードボイルドや警察小説の影響を強く受けた作風なんだけど、LAやNY、はたまたロンドンという渇い大都市ではなく、何ともジメジメした地方都市、しかも歴史だけは古く、伝統と因習に彩られた街で起こる事件・・・
それが本作、本シリーズの価値を高めているのだろう。

で、本筋はというと、うーん。正直、たいしたことはない。
真相についても、もう少し早く気づくだろう!っていうレベルだし、連続少女誘拐&殺人事件という猟奇的&魅力的な筋立ての割には工夫が足りないというか、起伏に乏しい。
リーバスの家族や過去に焦点を当てるというプロットも、シリーズ化を企図していたなら分かるけど、そうじゃなかったっていうんだからなぁー・・・
終章の対決場面も若干(?)消化不良気味。
それほど悪くはないんだけど、特段褒めるところもないというのが正当な評価かな。

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