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ミステリの祭典

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向田理髪店

作家 奥田英朗
出版日2016年04月
平均点5.00点
書評数2人

No.2 5点 まさむね
(2019/08/06 23:51登録)
 「過疎の町のさまざまな騒動と人間模様を、温かくユーモラスに描く連作集」という解説通りの連作短編集。舞台は、北海道の架空の自治体「苫沢町」なのですが、このモチーフは誰が考えても夕張市でしょうねぇ。夕張を訪れたことのある身としては、想像しやすい舞台設定でスッと入り込めましたね。
 全般において、スラスラと、しかも一定考えさせつつ読ませる巧さがあります。すごいスーパーマンもいないけれど、すごく悪い奴もいない、これって、落ち着いた心持ちで読み進められますよね。だからこそ、と言っていいものか分かりませんが、反転度合は相当に少ないかな。これらを総合的にどう捉えるかで評価も変わってくるのだと思います。個人的には楽しめたのですが、どう贔屓目に見てもミステリー作品とは言い難いので、この採点とします。

No.1 5点 E-BANKER
(2018/12/10 22:07登録)
『この町には将来性はないけど希望がある!?』『温かくて可笑しくてちょっぴり切ない』という帯が付された本作。
北海道にある架空の町“苫沢町”を舞台に起こる人間ドラマの数々。
2013年より「小説宝石」誌に断続的に発表された作品をまとめた連作短編集。

①「向田理髪店」=まずは本作の世界観を紹介する一作目。“苫沢町”が夕張市をモデルにしているのは自明だが、急速な過疎化と超高齢化に襲われている町の理髪店の跡を継ぎたいと息子から言われた父親は? かなり複雑。
②「祭りのあと」=年老いた父親は田舎、長男は東京在住。よくある、ありふれた話だけど、我々世代には決して無視できない大問題。“苫沢町”の人々はあれやこれやと世話を焼くのだ! これぞ田舎のいいところ(?)
③「中国からの花嫁」=結婚できずにいた中年男がめとったのは中国人の花嫁、というわけで話題に乏しい苫沢町の人々の格好の話題となる。まぁ女は強いけど、男は弱いねということに尽きる。いや、シャイなだけか・・・
④「小さなスナック」=都会から舞い戻り苫沢でスナックを開業した妙齢の女。そんな女性に50代の男たちは色めき立ち・・・というお話。やっぱ男っていくつになっても美人に弱いし、かわいいもんだね・・・そんな女、絶対ワケありなのにね。
⑤「赤い雪」=苫沢町を舞台にした映画の撮影が決まり、沸き立つ町の人々。経済効果やらエキストラでの出演やら、とにかく街中が大騒ぎになる。で、完成した映画を見た途端・・・ということなのだが、最後にはそれを皮肉るオチまで用意されている。
⑥「逃亡者」=優等生で鳴らした男が東京で犯罪に手を染め、警察に追われることに・・・。さぁ大変というわけなのだが、右往左往する中年たちを尻目にというか、意外に若者たちが活躍する・・・

以上6編。
やっぱり老成したよね・・・奥田英朗は。
少し前に読んだ作品(「我が家のヒミツ」)でも書いたけど、とにかく老成ぶりが目立つ。
旨いのは間違いない。それはもう保証する。大げさに言うと職人芸だし、まさに「帯」コメントどおり、読んだあとはほんわかと温かい気分になれる。

でも毒がなさすぎかなー。なんか、塩分超控えめ、薄味の中華料理を食べた気分。
ギトギトした料理はもう作らないということなのかな。それはそれで寂しいから、できればバランスよく、たまには強烈に辛いやつを出して欲しいなどと思ってしまう。
(すみません。まったくの非ミステリー作品です。でも好きなんです)

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