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ミステリの祭典

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平均点:6.01点 書評数:1812件

プロフィール| 書評

No.1512 3点 仔羊たちの聖夜
西澤保彦
(2019/05/07 20:17登録)
タック=タカチシリーズ。
時系列でいうと「彼女が死んだ夜」「麦酒の家の冒険」に続くシリーズ三作目となる本作。
1997年の発表。

~通称タックこと匠千暁、ポアン先輩こと辺見祐輔、タカチこと高瀬千帆。キャンパス三人組が初めて顔を突き合わせた一年前のクリスマスイブ。彼らはその日、女性の転落死を目の当たりにしてしまう。遺書そして動機も見当たらずに自殺と結論づけられたこの事件の一年後、とあるきっかけから転落死した女性の身元をたどることになった彼らが知ったのは、五年前にも同じビルから不可解な転落死があったということ。ふたつの事件には関連があるのか?そして今また、新たな事件が・・・~

いくらなんでも、この動機はあまりにも変で納得しがたい。
五年前の事件はまだ分かる。思春期の少年だし、勢いでということもあるだろう。
けど、二番目そして三番目は・・・ミステリーの動機としてはどうにも理解できない。

あまり書くとネタバレになるんだけど、死亡の動機はもちろん、現場に落ちていたという重要な物証であるプレゼント。
このプレゼントを買った動機。これも変だ。こんなこと考える?
終章、タカチ(本作はタカチが探偵役)が真相を語るんだけど、読みながら、「えーっ!」っていう感情しか湧かなかった。
三番目の事件が起こる背景。これも酷い。
こんなことで結婚までする? 他にいくらでもやり方はあるだろうに・・・

とにかくつじつま合わせがあまりにも酷い。
これはもう、本作はシリーズ、特にタカチファン以外は読む価値なしと断じてもよいくらい。
タカチファンはぜひ読んでください。
彼女の美貌とツンデレキャラが存分に味わえます。(想像の世界で)

まぁ、悪い意味で本シリーズらしい作品と言えなくもないかな・・・


No.1511 6点 教場2
長岡弘樹
(2019/04/27 12:50登録)
~必要な人材を育てる前に不要な人材をはじき出すための篩。それが警察学校だ。白髪隻眼の鬼教官・風間のもとに初任科第百期短期課程の生徒たちが入校してきた。半年間、地獄の試練を次々と乗り越えていかなければ卒業は覚束ない。ミスを犯せばタイムリミット一週間の「退校宣告」が下される~
大変だな・・・こんなところ私なら絶対入らん! ということでスマッシュヒットとなった「教場」シリーズの続編。2016年発表。

①「創傷」=前作では教師⇒警官を目指す男が描かれたが、本作も初っ端は医師⇒警官という異色のコースを選択した男・桐沢が主役。その桐沢が気になる同じ訓練生・南原。なぜ気になるか、その理由は想像を超えている。(よく入学したよなぁー)
②「心眼」=警官を目指すにはあまりにも小柄&ベビーフェイスな男・忍野が主役。学校内で意外な物が盗まれる事件が続発するなか、その真相は・・・。こりゃー、好きな女の子のリコーダーを盗む中学生と一緒だな
③「罰則」=主役は津木田。苦手な潜水訓練の授業で死の恐怖を味わった津木田は教官にある復讐を計画する。それが意外な結果を生むことに・・・。ここまで事実を看破する風間って・・・
④「敬慕」=主役は容姿端麗な女性警官候補生・菱沼。男クサイ環境のなかで可愛い女性ってだけで目立つ。で、自分自身でもそれを自覚して行動してるって奴。そういう奴にはやはり鉄槌が下されてしまう・・・。(それでも男は可愛い娘に弱いのだが)
⑤「机上」=刑事になり重大事件で活躍する姿に憧れる男・仁志川が主役。ただ、そこは単なる候補生。いくら机上で勉強しても、経験・場数を踏んできた風間には到底叶うはずはないのだ。残念!
⑥「奉職」=“警察に恨みがある”男・美浦が主役の最終章。厳しい訓練もようやく終わりに近づいてきたというのに、さすが鬼教官・風間。でもラストはホロリとさせられる・・・

以上6編。
前作同様、警察学校の訓練生ひとりひとりにスポットライトを当て、他の訓練生や教官、そして風間と関わる中で、意外な姿、本性、真相を浮かび上がらせる、という展開。
なかなか旨いです。いや、手堅いというべきか。
人物の掘り下げもあるし、警察学校という密閉された特殊環境が効いてるのもあるだろう。

それほど奇をてらっているわけではないので、サプライズを期待すると肩透かしを食うけど、まずまず満足感は得られる。
短編の書き手としては、出版社も安心して頼めるのではないか?
続編もあるとのことで読むだろうな・・・


No.1510 4点 出版禁止
長江俊和
(2019/04/27 12:49登録)
作者は元々映像作家。深夜番組「放送禁止」シリーズは熱狂的なファンを生み出した・・・とのこと。
残念ながら、そこら辺はまったくといっていいほど疎いのだが・・・
2014年発表。

~著者・長江俊和が手にしたのは、いわくつきの原稿だった。題名は「カミュの刺客」、執筆者はライターの若橋呉成。内容は有名なドキュメンタリー作家と心中し、生き残った新藤七緒への独占インタビューだった。死の匂いが立ち込める山荘、心中のすべてを記録したビデオ。不倫の果ての悲劇なのか。なぜ女だけが生還したのか。息を呑む展開、恐るべきどんでん返し。異形の傑作ミステリー~

想像していたものではなかった。或いは「好み」ではなかった。
ひとことで終わるなら、“以上!”ということになる。
他の方の評価が割と高いのでびっくりしたが、個人的にはその面白さが分からなかった。
ジワジワくるんですかねぇ・・・?

本作は「カミュの刺客」という作品の入れ子構造というか、いわゆる作中作になっている。
これだけで、もう何らかの「仕掛け」があるのだろうと身構えてしまうが、最終段階になって明かされる真実にそれほどの衝撃はない。
そうか。そういう意味ではジワジワくるのかもしれない。
一読しただけでは分からない、背中がザワザワする感覚。
それが楽しめるのなら手に取る価値があったということかも。

まぁ確かに、山荘での若橋の行動を想像すると、薄ら寒い感覚にはなる。
なにしろ「出版禁止」になったのだから・・・
ただ、高い評価にはならないかな。あくまで「好み」の問題です。
(「ホラー」という感じでもないけど・・・)


No.1509 6点 シティ・オブ・ボーンズ
マイクル・コナリー
(2019/04/27 12:48登録)
ハリウッド署刑事ハリー・ボッシュシリーズの第八作。
一作目から読み継いで来たボッシュ刑事の物語は今回どのような展開を見せるのか・・・
2002年の発表。

~丘陵地帯の奥深く、犬が咥えてきたのは少年の骨だった・・・。20年前に殺された少年の無念をはらすべく、ハリウッド署の刑事ハリー・ボッシュは調査を始めた。まもなくボッシュは現場付近に住む児童性愛者の男にたどりつくが、男は無実を訴えて自殺を遂げる。手掛かりのない状況にボッシュは窮地に立たされ・・・。深い哀しみを知る刑事ボッシュが、汚れ切った街の犯罪に挑む~

“骨の街”
作中でボッシュがLAの街を指して放った言葉である。
いったいどういう意味なのか? それを探るのが本作の裏テーマのように感じた。

今回は20年も昔の事件がテーマ。そんな過去の事件にボッシュを駆り立てたのは、被害者の少年の「骨」に残された無残な虐待の跡の数々・・・。不幸な少年時代を過ごした自分自身の姿と重ね合わせることで、この事件の解決に命を賭すことになる。
「骨」に残された傷跡は、あるひとつの不幸な家族の過去をあぶり出す。
大都会LAの街には、様々な犯罪や不幸、不運が日常茶飯事に起き、それがこの街に住む人々の「骨」にまで刻まれていく・・・
ボッシュの捜査行のなかで出会った人々も例外ではない。

いかん。何だか必要以上に感傷的になってしまった。
それもこれもラストシーンのせいかもしれない。
今後どのような展開を見せるのか分からなくなるようなボッシュの突然の行動。
やっぱり、どこまでいってもボッシュはボッシュなのだと言いたかったのか・・・

他の方も触れられてますが、本作は警察小説の色合いも濃い作品。
日本でもアメリカでも組織は組織のために動いているし、トップに近づけば近づくほど組織を守ろうとする。
一匹狼的存在のボッシュですら、昇進を知らされれば心は沸き立つ・・・
そういう意味ではサラリーマンと変わらないんだねと妙に納得。
というわけで、次作ももちろん期待大だけど、本作の評価としてはやや微妙かな。


No.1508 7点 Wの悲劇
夏樹静子
(2019/04/07 21:31登録)
今さらながら・・・という感じの本作。
どうせなら惜しまれつつ作者が鬼籍に入った直後にでも読めばよかったのだけど・・・
というわけで作者の代表作といっても差し支えないであろう作品。1982年の発表。

~新雪に包まれた山中湖畔にある日本有数の製薬会社、和辻製薬会長の別荘。和辻家の一族が水入らずの正月を過ごしていたこの別荘で、突然悲劇の幕が上がった。和辻家の誰からも愛されている女子大生の摩子が、大叔父に当たる当主の与兵衛を刺殺してしまったのだ。たまたま摩子の卒業論文の手伝いに来ていて事件に巻き込まれた家庭教師の一条春生は、一族の強い希望で事件を外部からの犯行と見せかける偽装工作に協力する。だが、この工作を警察に暴露するよう細工する者が現れた。事件の裏に隠された真相とは? E.クイーンの「Yの悲劇」に挑戦した作者会心の長編推理~

想像していた水準よりかなり上・・・そんな読後感。
本作はまさにプロット勝負の作品。
2019年現在の目線でならそう目新しさはないけど、発表当時ならば、この「二番底」「三番底」の展開はインパクトがあったに違いない。

「Yの悲劇」というと、当然“あ○○り殺人”が問題になるが、本作はその本歌取りを狙っている。
両作品ともに言えるのは、この仕掛けはどうしても“あ○○られる理由・動機”に必然性や納得感があるかどうかが鍵になるということ。
でも、「W」もそこは弱さが拭い去れなかったなぁー
これだとどうしても真犯人側の「賭け」或いはプロバビリティの部分が大きくなるのではないか?
本作は「Y」よりもCC要素が強くなるだけに、なお一層リスクを負っている感が強かったし、そこが弱点に思えた。

まぁでも、さすがに作者だけあって、細部までよく練られてるし、全体的に良くできた作品。
「悲劇」というタイトルが似合う度合いでいえば、「X」「Y」「Z」を凌駕している。
で、巻末解説がまさかのE.クイーン(F.ダネイ)とは・・・恐れ入りました。

地上波や映画で何度も映像化されているのも頷ける。それだけ日本人のメンタリティに訴える作品なんだろう。
(図書館で借りてきた文庫版の表紙は薬師丸ひろ子・・・若いね!)


No.1507 6点 ハイスピード!
サイモン・カーニック
(2019/04/07 21:30登録)
「ノンストップ!」に続いて発表された作者の第六長編。
現代英国のクライムノベルをリードする(?)作者が送り出す「ジェットコースター・サスペンス」。
2007年の発表。

~タイラーは血染めのベットで目が覚めた。隣には恋人の惨殺死体。殺しの濡れ衣を着せられ、彼は不審なカバンの受け渡しを強制された。それが、決死の逃亡劇の始まりだった。敵は一体何者なのか。なぜ自分が狙われたのか。陰謀の全貌とは? 敵の攻撃をかわしながら、彼は反撃の機会を伺うのだが・・・。冒頭から全力疾走。一気読み確実の豪速サスペンス~

前作の「ノンストップ!」を読了したのが約七年前。
それから人気に火がつくこともなく、次作を読むこともすっかり忘れていた。
前作でも「まずまず面白い」という趣旨の書評を書いたように記憶してるけど、今回もそれに近い。

事件はいきなり始まる。
目覚めたら隣に首無しの惨殺死体があるという強烈な冒頭シーン。こりゃ映像化は向かんよな・・・
その後はピンチの連続、銃撃戦、美女との偶然の出会いと別れ、親友や戦友との再会・裏切りなどなど、たったの一日間でこれでもかというほど畳み掛けられる。
作者自身、冗長になるのを嫌い、過剰な人物描写や文学性を排除しているとのことで、それがこの疾走感を生み出している要因。
ただ、やはりこれは好みが分かれそう。

ご都合主義や予定調和と感じる方もきっと多いだろう。
私自身もそう感じた側かな。
結局黒幕が誰か、“ヴァンパイア”と呼ばれる謎の殺し屋が誰か、というところに興味はフィーチャーされるのだが、ラストに来てあかされる正体も、「やっぱりね」感からは逃れらなかった。
あと訳のせいかもしれないけど、どうも盛り上げ方が今ひとつ。
まっ楽しめないことはないので、評価としてはこんなものでしょう。


No.1506 6点 ノッキンオン・ロックドドア
青崎有吾
(2019/04/07 21:23登録)
~密室、容疑者全員アリバイ持ち・・・「不可能」犯罪を専門に捜査する巻き毛の男「御殿場倒理」。ダイイングメッセージ、奇妙な遺留品など「不可解」な事件の解明を得意とするスーツの男「片無氷雨」。相棒だけどライバルなふたりが経営する探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」には今日も珍妙な依頼が舞い込む・・・~
2016年発表の連作短篇集。

①「ノッキンオン・ロックドドア」=確かにパズラーとしては面白いし、自分の志向にも合う表題作。初っ端の一編としては理想的とも言えるんだけど、この「Why」はどうかな? 本人が気付いてないなら「○み○」の意味なくない?
②「髪の短くなった死体」=確かに無理矢理感は強い、っていうか満載だし、偶然の要素が多すぎるところはどうかなって思う。でも、こういう逆転の発想は本格ミステリーにとっては大事な要素だろう。
③「ダイヤルWを廻せ!」=“開かない金庫と殺人事件”。二つの事件を別々に追い始めたふたりの探偵だが・・・やがて二つの事件が交叉してくるのは自明。この金庫の謎はどなたかが書かれてるとおり、ちょっと頂けない気はする。どういう表記だったんだろうね?
④「チープ・トリック」=ここから謎の男・糸切美影が登場。ふたりの探偵VS美影という構図。で、トリックなのだが、確かに「チープ」といえば「チープ」。誰もが思い付きそうな仕掛けなのだが、あまりにチープで誰も使わなかったということなのか? でもこういう発想自体は好き。
⑤「いわゆる一つの雪密室」=えー!っていう真相。まぁ短篇らしい小ネタといえばそうなのだが。ちょっとした思いつきだろうか?
⑥「十円玉が少なすぎる」=ふたりの探偵が完全なるアームチェア・ディテクティブに挑む一編。テーマは「50円玉20枚」ではなく、「10円玉が5枚くらい少ない」謎。確かに今の世の中、コレを使ったことない人多いんだろうけど、10円玉っていうとやっぱりコレっていう発想になるんだな。
⑦「限りなく確実な毒殺」=うーん。こんな衆人環視の状況で殺人のリスクを犯す必然性はよく分からなかったが、設定そのものは面白い。因みにこれは架空の毒物?

以上7編。
作者ってこんなスタイリッシュな作品も書けるんだと感心。
こりゃ絶対映像向きだね。最近ミステリー原作の地上波ドラマが多いし、若手俳優をキャスティングするには絶好ではないか?

長編の裏染天馬シリーズなどと比べると、練りきれてないアラも目立つけど、まぁそこは短篇だしっていう割り切りで読めばいいのではないか。キャラも面白いし、どの作品も一つくらいは光る何かが仕込まれてると思う。
ということで続編も出るんだろうけど、これ以上レベルが落ちるとちょっとツライかな。
(個人的には②>①>④かな。あとは・・・)


No.1505 5点 青ひげの花嫁
カーター・ディクスン
(2019/03/21 22:10登録)
H・M卿を探偵役とするシリーズ第十六作目。
作者らしからぬプロットとなっている(らしい)本作。やはり、シリーズもここまで重ねると変わった趣向に行かざるを得ないのか?
1946年の発表。

~最初の犠牲者は牧師の娘。つぎは音楽家、三人目は占い師、四人目は身元不明・・・。謎の男ビューリーと結婚した女たちが消えた事件にロンドン近郊の住民は“青ひげ”出現と震え上がった。しかもビューリーは警官の張り込みのなかを死体とともに姿を消したのだ。そして何の手掛かりも掴めぬままに11年後・・・ある俳優の元に何者かから脚本が送られてきた。それは警察しか知りえないビューリー事件の詳細まで記した殺人劇の台本だったのだ! 果たしてこれは殺人鬼の挑戦状なのか?~

-「青ひげ」とは、シャルル・ペローの童話。有名なグリム童話としても収録されていた-
知らなかった・・・
要は結婚するたびに妻が行方不明になるという部分が「青ひげ」との共通項ということである。

で、本筋なのだが、冒頭に触れたとおり、いつものHM卿シリーズとはやはり違う雰囲気。
殺人こそ起こるのだが、トリックとか不可能趣味などとは一線を画した展開。
目の前から死体が消えるという現象は起こるのだが、その解法も正直何だかよく分からない。
そう、「何だかよく分からない」というのが本作全体に対する感想になる。
ブルース(俳優)が殺人鬼に扮した理由なども、終盤明らかにはなるのだが、敢えてこんな面倒なことをやった理由はよく分からない。
HMは中盤辺りで事件の構図を察したらしいのだが、どうも何をしたいのかよく分からないまま終盤の見せ場に突入した感じ。

うーん。とにかくいつものシリーズの展開を期待すると肩透かしを食う。
殺人鬼の正体についてはサプライズ感はあったものの、そこだけだったかな・・・
あっ忘れてた、「お笑い」シーンはいつもどおり用意されてます。
それもまさかのHMのゴルフ! 
ズルしちゃいけませんや! HM卿!(笑)


No.1504 6点 日本アルプス殺人事件
森村誠一
(2019/03/21 22:09登録)
作者が得意とするジャンルのひとつが“山岳ミステリー”。
その代表的作品といて挙げられるのが本作(恐らく)。
「週刊小説」連載後、1972年に単行本化して発表されたもの。

~北アルプス・槍ヶ岳の観光開発をめぐり、しのぎを削る若きエリート社員ー国井、村越、弓場。三人は福祉省・門脇局長への接近を図り、更に上高地で会った門脇の娘・美紀子の愛を得ようと争う。自分の会社に開発利権を導くために。しかし、彼女に最も近づいていた国井が殺害された。村越と弓場が容疑を掛けられるが・・・。捜査陣は鉄壁のアリバイを崩せるのか?~

いかにも森村誠一らしい本格ミステリー。
よくいえば“生真面目”で、悪く言えば“生硬”と表現すればいいのだろうか。
犯罪を犯す側も捜査する側も全く“遊び”がなく、それぞれの役目を懸命に果たそうとしている。
時代性かもしれないけど、そんな思いを抱いてしまう。

本作のテーマは紹介文のとおり、アリバイ崩しに収斂されていく。
当然、舞台はアルプス山脈となるのだが、トリックの殆どが「写真」或いは当時の「写真機」(古い表現だ)によるものなのがツラい。
刑事たちが図解入りで説明してくれるけど、もともとこういう方面に疎い私が、しかも数十年前の内容で説明されるもんだから、ほぼ理解不能。
列車に関するアリバイ作りも一応登場はするのだが、あくまで添え物程度で、こりゃぁーカメラマニア以外にはどうにもピンとこなかったのではないか。
本格ミステリーとしてのプロットはほぼこれ一本勝負なのは、他の良作と比較すると弱さを感じる。

あとは美紀子だな・・・
これも、いかにも森村作品に登場しそうなヒロインとして描かれている。
誰もが振り返る美しさ、そして清廉な心を持つ女性・・・なんだけど、自分が美しく男を惑わしていることも十分に認識している・・・
そんな彼女を不幸のどん底に陥れる終章。そして思いもかけぬラストシーン!
もしかしたら、これが本作で一番のサプライズかも?


No.1503 4点 御子柴くんの甘味と捜査
若竹七海
(2019/03/21 22:08登録)
~長野県警から警視庁捜査共助課へ出向した御子柴刑事。甘党の上司や同僚から何かしらスイーツを要求されるが、日々起こる事件はビターなものばかり・・・~
というわけで、大人気(?)シリーズとなった葉村晶シリーズのスピンオフ的位置づけの連作短篇集。
2014年の発表。

①「哀愁のくるみ餅事件」=長野県上田市の甘味にまつわる事件・・・というわけではなくて、上田市の山中で発見された不審死体にまつわる事件。今どき、こういうニートの子供を持って苦労する親って多いんだろうな・・・
②「根こそぎの酒饅頭事件」=酒饅頭かぁー確かに旨いやつもある!っていうわけでなく、何だか怪しい奴がいっぱい出てきて何が何だか分からないうちに解決されちゃった事件(あくまで雰囲気です)
③「不審なプリン事件」=どんなやつだ?「不審なプリン」って?? 長年逃亡を続けてきた殺人犯をめぐって、軽井沢の教会を舞台に起こる事件・・・。で、何なんだ「不審なプリン」って?
④「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」=味噌ピッツァとは、長野県駒ヶ根市のB級グルメだそうです。甘味じゃねえじゃん! でもこれがミステリー的には一番まとまってる気がした。
⑤「謀略のあめせんべい事件」=何なんだ?「謀略のあめせんべい」って?? 長めの割には実につまらない事件、っていうかプロット。

以上5編。
主人公はタイトルどおり御子柴刑事だけど、探偵役は短篇集「プレゼント」に登場する長野県警の小林警部補。全編、御子柴君からの報告を受けて、小林警部補の“気付き”から事件が解決するというパターンとなっている。

まぁ正直言ってつまらん。その一言。
そう言ってしまうと身も蓋もないのだけど、やっつけ仕事感が半端ないっていう感じだ。
作者あとがきで、作者自身もそれっぽいことを書いてるんだから、もはやそういうことなんだろう。
こういう巻き込まれキャラっていうのも既視感ありありだしね。

葉村晶シリーズのファンとしてついつい手にとってしまった本作なんだけど、うーん、余計だったな・・・


No.1502 8点 眠れる美女
ロス・マクドナルド
(2019/03/10 21:40登録)
リュウ・アーチャーシリーズとしては最後から二番目に当たる長編。
1973年発表。要は晩年の作品ということ(だろう)。
原題“Sleeping Beauty”(そのまんまだな・・・当たり前か)

~流れ出した原油が夜の帳のように広がる海岸で、美しい女が鳥の死骸を抱いて泣いていた。女の名前はローレル・ラッソ。原油流出事故を起こした石油王のひとり娘だった。海岸で彼女を見かけたアーチャーは、その翳りのある美しさに心惹かれ自分のアパートに連れ帰った。しかし女は何も言わずに致死量の睡眠薬を持ち出して姿を消した。夫の依頼を取り付けたアーチャーは捜査を開始するが、両親のもとに身代金を要求する脅迫電話がかかってくるにおよび事件は深い傷口を見せ始めた。悲劇に弄ばれる人間の苦悩を浮き彫りにする巨匠の野心作~

何とも救いのない話である。
プロットの主軸はやはりロスマクらしく家族の悲劇。
石油王・レノックス一族にとどまらず、レノックス家に関わることになった二つの家族も抗えない大きな渦に巻き込まれることになる。
いつの時代も、どこの世界でも男と女は決して相容れぬもの。それでも互いに互いを求めあう・・・
それが全ての悲劇の源流になってしまう。突き詰めればいつもそこに行き着く。
そんなことを読了して改めて感じさせられた。

物語は偶然原油流出事故を目撃したアーチャーが、美しい女性にひとめ惚れしてしまうことから始まる。
女性の自殺を心配するアーチャーが、彼女を捜索するうちに、事件は思わぬ広がりを見せる。そして開いてはいけない過去の悲劇にも・・・
読者に対し、横へ奥へ世界を広げて見せる作者一流のプロット。
そして、今回はその回収ぶりも見事。終章、悲劇は想像以上だったことをどんでん返しの結末から知ることになる。

今回、アーチャーは惚れた弱み(?)か、いつも以上に積極的&献身的。食事を取るのも忘れるほど、疲弊した体を酷使し続ける。
でも、なぜ人はアーチャーに聞かれるとなんでもしゃべってしまうのか?
当たり前だろ!って、まぁそのとおりなのだが、何だか古いタイプのRPG(ドラクエ的なやつ)を思い出してしまった。(田舎の街の人々一人一人に主人公の勇者が聞きまわってる姿にアーチャーを重ねてみる・・・別に意味はない)
いずれにしても、作者熟練の腕前を堪能させていただいた。晩年の作品でここまでのクオリティを見せられれば文句はない。
さすが!のひとこと。


No.1501 5点 白衣の嘘
長岡弘樹
(2019/03/10 21:39登録)
~医療の現場を舞台に描き出す、鮮やかな謎と予想外の結末。名手による傑作ミステリー集~
ということで、「傍聞き」「教場シリーズ」で著名となった短編の名手(?)の作品。
2016年発表。

①「最後の良薬」=問題の多い女性入院患者を担当することになった医師。その入院患者と接するうち、あることに気付く。そして思わぬラスト・・・。いくら人材不足とは言え現実の医療現場でそんなことがあり得るのかは大いに疑問。
②「涙の成分比」=医師の姉とバレーボール日本代表の妹。ふたりが車中で遭遇したトンネル落盤事故。脚の半分を失った妹を気遣う姉もまた・・・。なにも二人揃って不幸にならなくても、って思ってるうち、ラストは微かな光が射す。
③「小医は病を医し」=タイトルは中国の諺(らしい)。これって、どこまで真実を見抜いての行動なのかが今ひとつ分からず。でも、確かに大きな病院って迷路みたいだよね。(嘘をつき通しても良かったんじゃない、って個人的には思ってしまった)
④「ステップ・バイ・ステップ」=これも③と同じベクトルの作品。医療現場の裏側で別の犯罪が・・・っていう展開なんだけど、こんな回りくどい示唆の方法しかなかったのかという疑問を感じずにはいられない。
⑤「彼岸の坂道」=主任の地位を競い合うライバルふたり。その任命権を持つ上司が不慮の事故に遭う。そしてラストは思わず真実が・・・。うーん何か地味。
⑥「小さな約束」=刑事の姉と新米警官の弟。姉が腎疾患で入院するなかで知り合った青年医師。医師と弟で磯釣りで出掛けた最中に大事故が起こる! これも三たび医療現場の裏側で別の犯罪が!っていう展開。

以上6編。
作品トータルでみて、ひとことで評価するなら「旨い」ということになる。
でもこの「旨い」がイコール「面白い」にはつながっていない。
他の方も書かれているけど、どうにも無理矢理感が強すぎるんだろう。
プロットをこね回しすぎてるというか、意外なラストのために登場人物の行動がどうにも不自然になっている。

短篇だから、ワンアイデアの切れ味勝負になるのは当然なんだけど、日本刀やナイフでスパっと切るという感じではない。
良く練られてるし、ツボは押さえてるんだけどね・・・
そういう意味では惜しい作品。


No.1500 6点 首無館の殺人
月原渉
(2019/03/10 21:38登録)
「使用人探偵シズカ~横浜異人館殺人事件」に続いて発表されたシリーズ第二長編。
新潮文庫NEXのために書き下ろされた作品。
2018年の発表。

~没落した明治の貿易商、宇江神家。令嬢の華煉は目覚めると記憶を失っていた。家族がいて謎の使用人が現れた。館は閉ざされており、出入り困難な中庭があった。そして幽閉塔。濃霧立ち込める夜、異様な連続首無事件が始まる。奇妙な時間差で移動する首無死体。猟奇か怨恨か。戦慄の死体が意味するものとは何か。首に秘められた目的とは?~

もうすぐ平成の世も終わるというこのご時世に、こんな大時代的な設定を出してくるとは・・・
この作者何奴?
っていうことで「首切り」である。
探偵役となるシズカ自身が作中で「首切り」=「入れ替わり」というロジックを読者にちらつかせます。
これが本作のプロットの肝となるのは当然で、読者は入れ替わりを意識しつつも、その裏や裏の裏まで想像することになる・・・

で、終章に明かされるサプライズ感満載の真相。
他の方も触れられている首切りの理由については、これは・・・要は戦国時代の武将と同じような発想ってことか?
でも、しかし・・・これはいくらなんでも無理筋だろう。さすがに荒唐無稽すぎて、どうにも消化不良だった。
あと、濃霧の中を移動する「首」の真相。
まさかと思ったが、最も単純なやつだったとは・・・(最初は例の島荘振り子トリックかと考えてた)

動機を含めて事件の構図自体をガラっと変えてみせる仕掛け自体は面白い。
ただ、これを成立させるにはこのボリュームでは無理が目立ちすぎる。
いきなり記憶喪失を持ち出されると、ここに仕掛けがあることもすぐに察してしまうしなぁー
まぁでも、その心意気や良しだ。
2019年の世でこんな作品を書く作者、発売してくれる出版社に乾杯!
前作も未読なので、読んでみようと思います。


No.1499 7点 黒死館殺人事件
小栗虫太郎
(2019/02/23 11:48登録)
やっとたどり着いた1,500冊目の書評。
今回は「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」とともに、日本ミステリー界の三大奇書として名高い本作をセレクト。
直近で復刻された河出文庫版にて読了。
本作は雑誌「新青年」1934年4月号から12月号にかけて連載され、1935年新潮社より刊行。

~黒死館の当主・降矢木算哲博士の自殺後、屋敷の住人を血生臭い連続殺人事件が襲う。奇々怪々な殺人事件の謎に対し、刑事弁護士・法水麟太郎がエンサイクロペディックな学識を駆使して挑む。江戸川乱歩も絶賛した本邦三大ミステリーのひとつ、悪魔学と神秘科学の結晶しためくるめく一大ペダントリー~

いやはや・・・まずはその一言しか思い浮かばなかった。
読む前から三大奇書中でも最難関の難解さという評判は聞いていたが、その評判もむべなるかなという感想。
文庫版で500頁を超える分量を読了するのに、どれだけの時間を要したことか・・・
でも途中で諦めなかった!(エライ!と自分で自分を褒めたりする)
これが以前の私なら、途中で投げ出していたに違いない。そういう意味ではミステリーファンとしていくらかでも成長したのかなと思う。

そんな個人的なことはどうでもいい! 本筋の評価は? ということなのだが・・・
うーん。書きようがない。
終章も終盤に差し掛かったところで、一応真犯人の名前は明確になり、事件全体を貫く構図や動機も(恐らく)こうだろうというのが見える。
でも、読者にとってはそんなこともはやどうでもよくなってる!
中途で法水から披露される圧倒的な衒学と、トライ&エラーの上に積み重ねられる推理の数々、一応科学的と思われるトリックの数々・・・いったいどれが正解でどれがダミーなのか、混乱に混乱が重なってもはや夢遊状態!
ネタバレサイトも閲覧したが、あまり納得のいく解釈はなかった。
これはもう・・・作品の雰囲気・世界が好きかどうか、それ次第。

これが書かれたのが昭和一桁年代というのが驚き。よく出版したな! 読者もビックリだろう。
でもこの作風が後のミステリー界に影響を与えたのは確実。そんなエッセンスが作中のあちこちに見られた。
それだけでも本作に触れた意義はあったと思いたい。
(とりあえず2,000冊目までは書評を続けていこう。そこまで到達すれば後は・・・)


No.1498 5点 悪意の夜
ヘレン・マクロイ
(2019/02/23 11:47登録)
ベイジル・ウィリング博士を探偵役とするシリーズで十番目の長編に当たる。
原題は“The Long Body”
1955年の発表。

~夫を転落事故で喪ったアリスは、遺品のなかに“ミス・ラッシュ”なる女性の名前が書かれた空の封筒を見つける。そこへ息子のマルコムが美女を伴い帰宅した。彼女の名前はラッシュ・・・彼女は何者なのか? 息子に近づく目的、夫の死との関連は? 緊張と疑惑が深まるなか、ついに殺人が起きる・・・。迫真のサスペンスにして名探偵による謎解きでもあるウィリング博士もの最後の未訳長編~

“Long Body”・・・作中でウィリング博士がヒンズー教でいうところの『分身』という意味で使っている言葉。
宗教的でやや難解な説明なので分かりにくいけど、その人の本質という意味で理解した。
本作の主人公アリスは、「夢中歩行」という怪現象に悩まされることになる。(夢遊病と同意?)
自室や病室にいながら、肉体だけはそこから無意識に抜け出し、思いもよらぬ行動を取ってしまう。
そして気づくと部屋のなかにいる・・・という怪現象。まさに「分身」。

1955年というと作者中期の作品で、創元文庫で先に刊行された代表作「暗い鏡の中に」や「幽霊の2/3」と同じ頃ということになる。
「暗い鏡・・・」のドッペルゲンガーと同様、本作では「夢中歩行」が象徴的なテーマとして取り上げられたわけだ。
これが幻想的、神秘的な作品世界を醸成する効果を発揮しているのは確かなんだけど、本格ミステリーとしては決していい方向に出ていないのが玉に瑕。
登場人物が少ないことも相俟って、最初から真犯人が察しやすくなっている。
ウィリング博士の真相解明場面。
これも殆どが動機探しなんだけど、どうもオカルトや神秘性が果たして必要だったのかという思いを抱いてしまう。
要は復讐譚なわけで、個人的にはホームズものの「恐怖の谷」なんかを想起してしまった次第。
それだけ単純なプロットということだろう。

作者の作品は刊行されるごとに読了してきた。どの作品も一定水準以上の良質な作品ばかりと賞賛してきたけど本作は・・・うーん。
解説の佳多山氏も本作が最後の未訳作品となったのも頷けると評されているが、まぁそのとおりかな。
良作の間に挟まれたのが不運ということかもしれない。


No.1497 5点 イヤミス短篇集
真梨幸子
(2019/02/23 11:45登録)
2007年~2013年にかけて「メフィスト」誌などで発表された作品をまとめた短篇集。
その名も「イヤミス短篇集」(!) 
さぞかし“イヤーな”感じなんだろうな・・・

①「一九九九年の同窓会」=同窓会の主役に祭り上げられる男。そして幹事役としての役割を率先してこなす男。実は裏側では・・・という実際にありそうな話。別に“イヤ”じゃない。
②「いつまでも、仲良く」=昔からの仲良し五人組。グループのなかで最下層(容姿で)にいたはずの女性がダイエットに成功して想像以上の美女に! グループ内のヒエラルキーは崩壊。でも結局は・・・というお話。いかにも女性グループっぽい。別に“イヤ”じゃない。
③「シークレットロマンス」=上司と部下が男女の関係に・・・それこそありふれたお話なのだが、本編はひと味違う。そこにさらに一人の男と一人の女が絡んでくるのだが、やがて思わぬ方向に・・・。これは“イヤ”だ。(最初は「オッサンズ ラブ」的な話かと思ってた・・・)
④「初恋」=中学生時代の甘~いお話、な訳ない。恋していた同級生の美少女は・・・という展開。でもそれほど“イヤ”じゃない。
⑤「小田原市ランタン町の惨劇」=本当にあるのでしょうか? ランタン町って? まっそれはどうでもいいのだが、これは“イヤ”だ!と思ったら、最後に軽く救われる。じゃあ“イヤ”じゃない。
⑥「ネイルアート」=ある企業が運営するサイトでのやり取りをテーマとした一編。まとまりなくダラダラ書かれたのが惜しい。オチも見えやすいのが×。それほど“イヤ”でもなかった。

以上6編。
なにしろ「イヤミス短篇集」と銘打っているくらいだから、よっぽど“イヤーな”感じなんだろうと構えていたんだけど、③が割とイヤだった他はそれほどでもなかった。
まぁー若干背筋がヒンヤリという感はなくもなかったけど、こういう手のジャンルが好きな方にとっては喰い足りない水準ではないか。

女性作家だけあって、どっちかというと女性視点で女性のイヤーなところをあからさまに書いた方が良いのでは?
あまりホラー寄りになるのも嫌なので、立ち位置が難しいな。
これが作者の初読みなんだけど、続けて手に取りたいというほどでもなかった。
(ベストはうーん③かな・・・)


No.1496 6点 一ドル銀貨の遺言
ローレンス・ブロック
(2019/02/08 21:53登録)
マット・スカダー・シリーズの三作目に当たる本作。
原題は“Time to murder and create”
1977年の発表。

~タレコミ屋のスピナーが殺された。その二か月ほど前、彼はスカダーに一通の封書を託していた・・・自分が死んだら開封してほしいと言って。そこに記されていたのは彼が三人の人間をゆすっていたこと。そして、その中の誰かに命を狙われていたことだった。スカダーは殺人犯を突き止めるため、自らも恐喝者を装って三人に近づくが・・・。NYを舞台に感傷的な筆で描く人気ハードボイルド~

発表順に関係なく、ランダムに読み進めている本シリーズ。
どちらかというと「倒錯三部作」以降の後期作品を多く読んでいるので、“アルコール抜きの”スカダーに慣れているせいか、本作のようなシリーズ初期作でひたすらアルコールに溺れるスカダーに接すると違和感を覚えてしまう。
(表紙からしてジャックダニエルの瓶だしな・・・)

今回の事件は紹介文のとおり、ひょんなことから巻き込まれた殺人事件の真犯人探し。
解明する義理など何もないはずの事件。なのに、スカダーはNYの街を歩き回ることになる。
そして、恐喝者を装い「おとり」役となったスカダーに殺人者が迫る。
そんな中、不可抗力で起こってしまった自殺事件。この事件はスカダーの心に深いダメージを与えてしまう。
行き着く先はやはり酒場・・・

フーダニットに関しては終盤一応捻りはあるものの、それほど凝った作りではない。
プロットそのものも後期代表作などに比べると平板で起伏に富んでいるとは言い難い。
でもこれはこれで良いのだ。
当初から、シリーズがこんなに長く続くと意識していたのかは定かでないが、最初から波乱万丈、驚天動地なんていう展開だったら、きっと短命シリーズで終わっていただろう。
世界一の大都会NYと同様、作者そしてスカダーの懐はそれだけ深いということか。

総じて評価するなら、本作はジャックダニエルをロックグラスでちびちび飲んでるような作品・・・だと思う。
(意味不明)


No.1495 2点 探偵部への挑戦状 放課後はミステリーとともに2
東川篤哉
(2019/02/08 21:51登録)
「放課後はミステリーとともに」に続いて、私立恋ヶ窪学園探偵部シリーズの連作短篇集。
本作は多摩川部長を中心とした(?)三馬鹿トリオではなく、副部長霧ヶ峰涼が主役となる・・・(まぁどうでも良いが)
2013年の発表。

①「霧ヶ峰涼と渡り廊下の怪人」=“怪人”でも何でもない。単なる騎○戦・・・。あ~あ脱力!
②「霧ヶ峰涼と瓢箪池の怪事件」=凶器の消失がメインテーマなのだが・・・。これ成功するか?  だった○アメだし・・・っていうのは野暮なのか?
③「霧ヶ峰涼への挑戦」=「霧ヶ峰」VS「うるるとさらら」・・・これがエアコン対決!
④「霧ヶ峰涼と十二月のUFO」=UFOをこよなく愛する美人教師(?)池上先生が探偵役となる一編。これは・・・実に映像的というか、頭の中でこの光景がスローモーションで流れた。
⑤「霧ヶ峰涼と映画部の密室」=これが最もミステリーっぽいトリック(実にしょうもないけど・・・)。普通気付くよ!
⑥「霧ヶ峰涼への二度目の挑戦」=③に続いて「霧ヶ峰」VS「うるるとさらら」第二弾。真相はもはやどうでもよく、ドタバタ感を楽しむのみ。
⑦「霧ヶ峰涼とお礼参りの謎」=こんなおフザケミステリーだけど、ネタ切れだったんだなぁーと思わせる一編。アレが凶器なんてあまりにもヒドイ!

以上7編。
ミステリーとしては「壊滅的」といえる水準。
これを時間をかけて読む人ってどんな奴?って思ってしまう!?
出版社もよく許したな、こんな出来で・・・

そんな作品を読む私も「どうかしてた」。
反省してます・・・
作者ももうちょっとまともな作品を書いてください。
上から目線かもしれませんが・・・


No.1494 6点 去就
今野敏
(2019/02/08 21:50登録)
「隠蔽捜査シリーズ」も重ねて六作目となる本作。
お馴染みとなった“合理性の男”竜崎署長をめぐるストーリー。
2016年の発表。

~大森署管内で女性が姿を消した。その後、交際相手とみられる男が殺害される。容疑者はストーカーで猟銃所持の可能性が高く、対象の女性を連れて逃走しているという。指揮を取る署長・竜崎伸也は的確な指示を出し、謎を解明していく。だが、ノンキャリアの弓削方面部長が何かと横槍を入れてくる。やがて竜崎のある命令が警視庁内で問われる事態に。捜査と組織を描き切る警察小説の最高峰~

今回も竜崎は竜崎だった。(当たり前だ!)
いや、ますます竜崎らしくなっている。(どういう意味だ?)
とにかく組織の旧弊やら妙なしがらみ、個人の出世欲や支配欲・・・etc
そんな障壁をものともしない。国家・国民に資する公務員として、大森署を預かる署長として、原理原則そして合理性に則った行動を貫こうとする。
そんな竜崎の姿に本作でもほだされた男がひとり。警視庁・梶警備部長だ。

事件は紹介文のとおり、ストーカー被害が背景となっている。
若い女性が好きでもない男に付き纏われ、その結果事件に至る・・・という当然の図式が竜崎たちの明晰な頭脳&捜査でひっくり返されたと思った束の間・・・読者は本作のタイトルが「去就」であることを思い知ることになる。
弓削方面部長の横槍のため大ピンチに陥った竜崎だったが、竜崎を救ったのは親友である伊丹刑事部長をはじめ、一緒に事件を解決した部下たちだった・・・
そして梶部長が竜崎にかけた最後の言葉『今、おそらく日本中の警察が君のような人材を求めている』・・・(泣ける!)

私も一応組織の中で管理職(のようなもの)を務めているが、組織の旧弊に負けない、部下を信じきって任せる、そして自分が全責任を負う・・・これがどんなに難しいことか・・・
読んでて自分が恥ずかしくなってきたと同時に、竜崎にどうしようもない羨望の眼差しを向けてしまう。
架空の人物にこんな感情を抱くなんて、のめり込みすぎだろうか?
でもすごい奴。


No.1493 5点 ハートの4
エラリイ・クイーン
(2019/01/24 22:56登録)
「悪魔の報酬」に続くハリウッドシリーズの第二弾。
遠くハリウッドに進出(?)したエラリーは果たしてNYと同様に活躍できるのか?
1938年発表。

~作家兼探偵のエラリー・クイーンは映画脚本執筆のためにハリウッドに招かれたが、そこでも彼が直面したのはやはり殺人事件だった。銀幕の名優、スクリーンの美女、変わり者の脚本家や天才的プロデューサーなど、多彩な映画王国の登場人物をめぐる冷酷きわまる殺人、また殺人。前作「悪魔の報酬」につづき、クイーン中期を代表するハリウッドもの第二作~

何だか、無理矢理ハリウッドに合わせたかのような作品。
前作はまだクイーンらしさも十分残っていたように思うけど、本作はかなりくだけた印象。
まぁ、紹介文のとおり、登場人物が俳優や映画関係者など、いわゆる“業界人”だから、それもやむなしというところか。
硬質なミステリーという雰囲気は殆ど消え失せ、映像化を意識した軽い読み物っぽい。

で、本筋はというと・・・
本作のメインは一見「動機さがし」。ハリウッドを代表する俳優と女優の毒殺事件。でも、ふたりには少なくとも同時に殺される理由が見当たらない。そこへ現れるトランプのカードによる殺害の予告・・・
こう書くと魅力的な道具立てにも見えるのだが、これが単なるこけおどしなのだ。
動機はエラリーがさんざんもったいぶって披露するようなレベルではない。むしろ最初から明々白々・・・
それよりも、本筋の裏側で進行していた別の悪意の方がサプライズ。
こちらの方は伏線もなかなかうまい具合に回収されてクイーンっぽい感じだ。
(古典作品によくある○れ○わりなんだけど、やむにやまれずというか、必然性がある分納得感がある)

でも評価としては高くはならないよなぁー。
「駄作」と評されるのも仕方なしという感じだ。やっぱり、クイーンにはNYの街が似合うということなのかも。
(本作発表年は日本でいうと昭和10年代前半。戦前のきな臭い時期だったわけで、ハリウッドの華やかさとの差に愕然とさせられる・・・)

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