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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1924件

プロフィール| 書評

No.164 6点 第三の時効
横山秀夫
(2011/06/08 21:31登録)
表題作は確かに面白かったし、ミステリ的な仕掛けも施されていて楽しめる。それ以外の短編は微妙だが、警察関係者のアクの強い個性豊かな人物が目白押しで、その意味では読者を惹きつけて離さない。
特に第二班の班長、楠見は非常にリアリティがあってよい。
だが、警察小説としてはよく出来ているとは思うが、本格志向の読者にはお薦めできない。
なぜなら、オチや捻りが今ひとつと感じられたから。


No.163 7点 水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪
佐藤友哉
(2011/06/03 21:46登録)
全く無関係に見える3つの物語が平行して一人称で語られる。
しかしそのストーリーがやがて・・・これ以上はネタバレになるので書けない。
独特の筆運びで最初は読みづらい印象を受けたが、読むにつれて気にならなくなり、次第にその世界観に引き込まれる。
少々長いが、最後まで読者を惹きつける手腕はなかなかのものではないだろうか。
しかしラストの鏡の残酷な仕打ちはちょっといただけない気もする。
またそれをまともに認識できない彼って一体。


No.162 5点 ミミズクとオリーブ
芦原すなお
(2011/05/30 21:27登録)
普通、一介の刑事が一般の民間人に事細かに殺人事件の概要を説明するだろうかとか、うら若き女性が初対面の男にそんなに馴れ馴れしい口調で話すだろうか、と言った突っ込みどころは見受けられる。
しかしまあ、奥さんの痒いところに手の届く、一本筋の通った性格はなかなかよく描かれているように感じるし、魅力的でもある。
ミステリとしてはいかにも弱く、素晴らしい出来とは決して言い難いが、雰囲気を楽しむべき作品なのだろう。
小難しいミステリに疲れた時などの息抜きにはもってこいの、ほっこりとした佳作である。


No.161 7点 よもつひらさか
今邑彩
(2011/05/26 21:48登録)
ホラーとミステリの境界線を危うい綱渡りをしながら、どちらにも傾かず上手く平衡を保っている稀有な短編集。
ホラーにも合理的な結末が用意されているものもあり、ミステリの要素を取り入れているのは今邑女史らしいところ。
しかもそれぞれの作品が一々面白く、まさに粒揃いと言ってよいであろう。
先の展開が読めたりもするのだが、更にもう一捻り加えられていたりして、工夫がなされているのも好感が持てる。
それぞれ余韻を残す佳作が並んでいるので、読んでいて飽きる事はない。


No.160 6点 落下する緑
田中啓文
(2011/05/22 21:39登録)
真面目に書いてるなあ、というのが第一印象。
駄洒落が遊び心程度に放り込まれているくらいで、勿論グロの要素も皆無だし、脱力系でもない。
いたって普通の連作短編集。
田中氏もやれば出来るじゃないか、と再認識させられる一冊でもある。
内容的には日常の謎を扱ったものだが、さして魅力的な謎が提示される訳でもないのに、結構没頭できる不思議な作品と言えるかもしれない。


No.159 6点 チルドレン
伊坂幸太郎
(2011/05/18 21:59登録)
伊坂氏本人の言の通り、短編集の形を借りた長編といった感じ。
そこそこ楽しめたが、全体を通して何か物足りなさを覚えてしまう。
それはドラマ性やストーリーの起伏が薄いせいかもしれない。
謎解きも至って単純なものではあるし、ミステリ色はあまりないように思われる。
しかし、最終話のどこかほのぼのとした結び方は悪くない。
各登場人物も上手く描き分けられているので、キャラ萌え小説としても楽しめるのではないだろうか。


No.158 6点 メルカトルかく語りき
麻耶雄嵩
(2011/05/15 21:37登録)
5編の物語で構成される短編集。
本格ミステリとはいえないと思うが、良くも悪くも麻耶氏らしい作品ではある。
メルカトル鮎は悪徳探偵ぶりを遺憾なく発揮しているし、彼らしい怜悧な推理を披露してくれて、存在感はやはり只者ではない。
ただ、ある程度予想はしていたが、期待通りの出来とは言えず、文体も読みづらいのでファン以外の読者が楽しめるとはあまり思えない。
第一話は別として、それ以外の作品はどれもラストがスッキリしないのもどうかと。


No.157 7点 そして誰もいなくなる
今邑彩
(2011/05/12 21:29登録)
前半はサスペンス仕立てのわりに緊迫感が希薄で、歯応えが感じられなかった。
シナリオ通りに見立て殺人がおこなわれていて、次の犠牲者が分かっているにもかかわらず、女子高生達に危機感がなく、暢気すぎるのは読んでいて不可解さを覚える。
しかし、物語が佳境に差し掛かってからは、一変スピード感に溢れ展開がめまぐるしくなり、歯応えが出てくる。
真相も捻りがよく効いていて、ありがちな展開とは言え、読者を引き込む筆力は素晴らしいと思う。
個人的には今邑女史の最高傑作は『金雀枝荘の殺人』だと考えているが、本作はそれに比肩するほどの傑作ではないだろうか。


No.156 4点 蹴りたい田中
田中啓文
(2011/05/09 21:31登録)
『蹴りたい背中』ではない。
勿論、芥川賞受賞作でもなく茶川賞受賞作である。
ミステリ、時代劇などを含むバカバカしいほどの大スケールで描かれるSFを中心とした、短編集。
相変わらず、脱力系だじゃれ満載の田中節が炸裂する。
決して読者に迎合することなく、自分の書きたいものを書くという、作者の意気込みは伝わってくる。
だから、読者を選ぶタイプの作品だが、ある種のマニアにとっては堪えられないだろう。
しかし、人に薦められる小説でない事は確かである。


No.155 5点 ささらさや
加納朋子
(2011/05/05 22:09登録)
終始ふわふわした雰囲気に包まれていて、それを心地よいと感じるかどうかで評価が変わるだろう。
私には今ひとつピンとくるものがなかったため、辛目の評価になってしまった。
これは夫が事故で死亡し、その夫が幽霊となって妻を見守り、時には近しい人物にとり付いてちょっとした謎を解きながら彼女を救うという、ミステリと言うよりヒューマン・ストーリーだ。
それにしても主人公のさやは頼りなさ過ぎる。
その彼女を助けるべく登場するのが三婆で、この老婆達は実に個性豊かでいい味を出しているが、感情移入できるほどではなかった。
それに、なんといってもドラマチックさに欠けるのが、難点だろう。
しかし、私の嗜好に合わなかっただけで、こういった暖かみのあるほのぼのとした小説が好きに人には、十分面白いのではないかと思う。


No.154 6点 死神の精度
伊坂幸太郎
(2011/05/01 21:43登録)
死神のクールさがなあ・・・そこが良いという読者も勿論いるだろうが、私にはやや食い足りなかった。
全体としてはよく考えられた連作だと思うが、ちょっぴり物足りなさを感じるのも確か。
ただ、様々なシチュエーションが楽しめる作品ではあるし、死神が主人公のわりに、暗すぎず重すぎず、適度なユーモアを保っているのは評価できる。
尚、最終話のオチには深く頷かされ、感動的といってもよいと思う。


No.153 5点 つきまとわれて
今邑彩
(2011/04/28 21:47登録)
日常のふとした事件から超常現象まで、読者の興味を惹きそうな謎を提示した短編集。
ホラー色は薄く、真っ当なミステリとしての体裁は保っている。
本書の特徴は、前の話の登場人物が次に再び登場するという、ちょっと風変わりな設定にある。
そして最後のストーリーが最初に繋がってくるという、リンクが凝っている。
それぞれの短編にオチもしっかりついていて、中には二転三転して楽しめるものもあるが、『鬼』に比べるとインパクトが薄い印象は否めない。
全体としてはまずまずと言ったところか。


No.152 6点 禍記
田中啓文
(2011/04/23 23:40登録)
伝奇ホラーの短編集だが、全編に亘って「禍記」が関わってくるのが異色。
だが、連作というわけではなく、それぞれが独立したストーリーになっている。相変わらずグロは健在で、その意味で田中ファンにとっては安心して?読めるであろう。
また、謎解きの要素も各短編に備わっている為、ミステリとしての側面も読み取る事ができる。
あとがきにもちょっとした仕掛けが施されていて、読者サービスも怠っていない姿勢は立派だと思う。


No.151 6点 三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人
倉阪鬼一郎
(2011/04/19 21:42登録)
これは正直評価が難しい。
賛否両論を呼びそうな作品だが、本格志向の読者にとっては全く読むに値しない可能性が高い。
バカミスなのは最初から承知で読んだが、何しろ全体的に単調なのは閉口する。
決して人に薦められないので、5点にしようと思ったが、作者の地道な努力に敬意を表して6点。


No.150 7点
今邑彩
(2011/04/17 22:34登録)
ミステリを中心とした、ホラーを含む短編集。
久しぶりに今邑女史を読んだのだが、この人の作品がこれ程洗練されていて、尚且つ読みやすいとはまさに嬉しい誤算であった。
全体として、切れ味の鋭い内角をえぐるシュートといった感じの作品が多く、ほとんどが読者の意表を突く展開で、意外性も十分。
オチも素晴らしく、短いが読み応えのある短編集である。
なんとなくやり切れない気分や、不可思議な余韻を残す作品が多いのも評価できる点ではないだろうか。


No.149 6点 マドンナ
奥田英朗
(2011/04/14 21:48登録)
中間管理職の悲哀を描いた、主人公達の心情が手に取るように分かる、ユーモラスな短編集。
やはり表題作の『マドンナ』が最も共感できる。
40代の男が淡い恋心に大いに戸惑い、心揺らす様は読んでいて身に詰まされるし、凄く理解できる。
これほどまでに主人公の心の中に入り込んだ描写を出来る作家はそうはいないと思う。
それだけに貴重な存在であろう。
『ボス』もなかなか良い出来だ、ラストシーンは少しだけ癒されるかも。


No.148 6点 ミミズからの伝言
田中啓文
(2011/04/12 21:44登録)
SF、伝奇、ミステリ、都市伝説など様々な要素を取り入れた、脱力系ホラー短編集。
あとがきにもあるように、7作品全てに共通するキーワードは「だじゃれ」。
かなりグロイものも含まれているが、最近あまり見られなくなったホラーらしい奇想溢れる短編が並んでいて、飽きが来ない。
それぞれのオチも捻りが効いていて、なかなか楽しめる仕上がりとなっている。


No.147 6点 ガール
奥田英朗
(2011/04/09 23:44登録)
働く女性たちの職場での、私生活での悲喜こもごもの愛憎劇。
と言っても、決して深刻なものではなく、どちらかというと日常生活の何気ないやり取りが丁寧に描かれている短編集である。
それだけにあまりドラマチックな作風ではないが、なるほどと頷かされるような女性の微妙な心理状態が見事に表現されている。
どれが秀でていると言う訳ではなく、どの作品も一定の水準を保っている。
サラッと読めて、後味スッキリの軽い仕上がりだと思う。


No.146 4点 秋の牢獄
恒川光太郎
(2011/04/07 23:52登録)
『夜市』のような透明感溢れる文体はなりをひそめてしまっているし、幻想的な雰囲気も感じられなくなった。
表題作他全三篇からなる短編集だが、いずれの作品も既視感を覚えるようなストーリーだし、捻りも全く効いていない。
ホラーとしては面白いのかもしれないが、ミステリ読みとしてはかなり物足りない。
世評は高いようだが、私にとっては期待はずれであった。


No.145 7点 熱帯夜
曽根圭介
(2011/04/01 23:55登録)
第62回日本推理作家協会賞短編賞受賞の表題作を含む、3篇からなる短編集。
『熱帯夜』はなかなかサスペンスフルで小気味良いが、少々駆け足気味なのが残念な点ではある。
しかし、登場人物全てに役割がしっかり与えられていて、一風変わったホラー色も加わって独特の世界観を紡ぎ出している。
『あげくの果て』はやや散文的な文体で、まとまりに欠ける感があり、印象が薄い。
『最後の言い訳』は意表を突く展開で楽しめる。
いわゆるゾンビものではあるが、ドラマ性も十分で、ラストでかなり強烈な余韻を残す力作だ。

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