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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1923件

プロフィール| 書評

No.363 9点 絡新婦の理
京極夏彦
(2013/11/15 22:34登録)
まず何と言っても冒頭の美しさは、日本のミステリ史上髄一と言っても過言ではあるまい。そしてそれはラストシーンに繋がるという、まさに構成の妙を見せている。勿論、ストーリー全体の構成力はさすがなものがあり、これだけの長尺を無理なく描いている腕は確かである。
本作は、いきなり犯人が登場することで『鉄鼠の檻』と共通する部分を持っている。そして、『鉄鼠』は男の世界、『絡新婦』は女の世界というようにまるで対比するような描かれ方をしている。その意味で両者は兄弟或いは姉妹的な関係にあると考えられるのではあるまいか。
いずれにしも本作は、ある意味「百鬼夜行シリーズ」の頂点に立つ作品なのかもしれない。シリーズ最長であることも、何かを示唆してはいないだろうか。
まあそれにしても、よくこれだけ長い小説を書けるものだと感心する。ただ書くだけではなく、複雑な事件や人間関係をキッチリまとめ上げる手腕は大したものだと思う。
確かに犯人は分かりやすいかもしれない、しかしそんな些末なことはこの大作を前にしては、いか程のものでもない。


No.362 7点 殺人方程式
綾辻行人
(2013/11/14 22:22登録)
再読です。
犯人も死体切断の理由も分かった上で読み直したので、どうかなとやや不安だったが、やはり上質の本格推理小説であった。
氏にしては珍しく物理的トリックを駆使して、死体を○○させているのはお見事。図解も入って分かりやすく、まるで本格物の教科書のような印象すら受ける。
反面、「館シリーズ」のような独特の雰囲気が全くなく、文章も淡々としすぎていて、ワクワクするとかドキドキするといったミステリ特有の愉しさが欠けているのは大きなマイナス点だろう。おそらくそれが災いして、平均点の低さにつながっているのではないかと思う。
とにかく綾辻らしさがないので、氏らしいミステリを期待した読者には裏切られた感があったのではないかと感じる。だが、例えば他の作家がこれを書いたとしたらどうだろう。もっと評価が高くなっていたのではないかと私は思うのだが。


No.361 6点 チャイナ蜜柑の秘密
エラリイ・クイーン
(2013/11/13 22:00登録)
国名シリーズの中でも異色作だと思う。クイーンと言えば、殺人事件のそれ程不可思議ではない謎をロジックで徹底して詰めていって、段階的に真相を解き明かしていく過程に、特徴があるのだと思うが、本作はまずトリックありきで、そのホワイダニットを解けば自然と犯人にたどり着くという珍しい構造を持っている。
半分密室の中であべこべに服を着せられて殺されている男、しかも部屋の中のすべての家具などもあべこべに向きを変えられている。
犯人は何故そんな面倒なことをしなければならなかったのか。とにかくその謎が不可解であり、その理由が解き明かされた時にはなるほどと思ったものだが、よく考えてみればそこまでする必要性が果たしてあったのかどうか、やや疑問視される。
作中の切手に関する薀蓄は興味のない人間にとっては退屈だろうし、中国があべこべの国だという解釈には、首を捻らざるを得ないと私は考える。
単純な事件のわりには尺が長すぎるきらいがあるのも、やや気になる点である。
多分当時としてはかなり画期的な謎の提示だったのだと思うが、改めて今読んだらどうだろう、それ程までには魅力を感じないのかもしれない。


No.360 6点 迷宮学事件
秋月涼介
(2013/11/12 21:59登録)
再読です。
みなさんは迷宮と迷路の違いをご存知ですか?本書を読むとその答えが明らかになります。
そんな事はどうでもいいが、これは綾辻と京極を掛け合わせたような作品である。プロットや雰囲気、事件そのものは綾辻似、登場人物の人間模様は京極似で、当然京極堂、榎木津、関口、木場に相当する人物が登場する。誰が誰に対応しているのかは敢えて書かないが、そういう事を頭に入れて読んでいくと一層楽しめるのではないだろうか。無論、秋月氏が大先輩諸氏の影響を受けたかどうかは定かではない。
面白いのは、上記の4人のうち3人までが女性であること。しかし彼女らすべてが女性らしさをあまり前面に押し出さず、どちらかというと中性的に描かれているのも興味深い。
まあいずれ絶版になっているだろうから読む機会はないと思うが、もし図書館や古書店で見かけたら、読んでみても悪くはないと思うよ。ハズレの多い【密室本】の中では、かなりよく描かれているほうであろう。


No.359 6点 阿弥陀ヶ滝の雪密室
黒田研二
(2013/11/11 22:13登録)
再読です。
切断された死体が移動する謎、幼児連続誘拐事件の謎、雪密室の謎と中身が盛りだくさんで大丈夫かと心配したが、思った以上にスッキリと解決してなかなかの満足感。
特に「J」の正体を告げられた時は唖然としたが、謎が解明されるにつれてなるほどと思わず唸らされる真相であった。
切断された死体の謎はやや無理があるが、それでも面白いと個人的には思った。意表を突く感じで、イマジネーションを掻き立てられるような、それでいて絵になるような、不思議な感覚とでも言おうか。
タイトルにもなっている雪の密室は、残念ながら前例があるため、これはあまり評価できない。
なのでこの点数にとどまった、心情的にはもう少し上なんだけど。


No.358 5点 ドサ健ばくち地獄
阿佐田哲也
(2013/11/10 22:31登録)
これはミステリじゃないね。でも書いちゃうよ、登録されていたからね。
本作は、阿佐田哲也氏が創作したキャラの中でおそらく最も人気の高いドサ健が主役の、ギャンブル小説である。確かにドサ健を中心にひりつくような勝負の数々を描いており、ある意味ピカレスクロマンとは言えるかもしれないが、やはり博打の世界だから、ミステリとは全く別物と考えるべきだろう。
この作品は私にとっては麻雀シーンが少ないのが不満の一つである。それに、別格の『麻雀放浪記』或いは『小説・麻雀新撰組』、『新麻雀放浪記』などの長編や『雀鬼五十番勝負』『雀鬼くずれ』『牌の魔術師』他多数の短編集に比較すると、幾分出来が劣る気がするのは、私の気のせいだろうか。
阿佐田氏といえば麻雀小説、だから、本作ももっと麻雀の勝負を描いて欲しかったというのが私の本音である。
たまたまこれを目にして、興味を持たれた方は、もし未読であるならば、まず『麻雀放浪記』から読み始めていただきたい。勿論『青春編』『風雲編』『激闘編』『番外編』の順でお願いしたいところである。面白さは太鼓判を押させてもらう。


No.357 5点 赤きマント 第四赤口の会
物集高音
(2013/11/09 23:16登録)
怪しげな趣味を持つ収集家たちが集う、地下組織的な秘密集会、それが第四赤口の会だ。
彼らはいわゆる都市伝説や昔話、おとぎ話といった不可思議で怪しい噂を持ち寄って検証し、様々な角度から仮説を組み立てる。そして一応の結論を出していくのだが、これが今一つスッキリしないものが多いのである。よって、結局推測はあくまで推測であり、真実とは限らないというわけだ。それも当然、都市伝説という噂を検証しようということ自体に無理があるから。
まあそれはいいとしても、この文章、短文が畳み掛けるように続いており、慣れるまでが大変である。まるで一つの文章が途中でぶつぶつと切られているようで、読者によっては途中で放り投げたくなる不快さを感じるかもしれないので、その点は要注意である。


No.356 5点 殺しも鯖もMで始まる
浅暮三文
(2013/11/08 22:13登録)
再読です。
冒頭、地下約2メートルの空洞に眠る餓死した奇術師。それをたまたま釣りに来ていた老人とその愛犬が掘り返すという奇妙な滑り出しは、なかなか興味深く読めたが、話が進むに従って次第に中だるみの様相を呈してくる。
そして第二の密室殺人が起こるが、最初の事件と同様、ダイイングメッセージが真相解明のカギを握ることになる。
第一の事件は「サバ」第二の事件は「ミソ」、一体これは何を意味するのかが、物語の焦点であり、密室ははっきり言っておまけのようなものである。
葬儀屋が探偵役を務めるのだが、最初から最後まで当たり前のように担当刑事につきっきりでアドヴァイスを送ったりする不自然さはどうにかならないものかと思う。他にもツッコミどころ満載で、多少イラッとするが、そこそこ面白かったとは言える。


No.355 4点 月長石の魔犬
秋月涼介
(2013/11/07 22:17登録)
再読です。
各章ごとに猫の目のように視点が入れ替わるため、ややこしい物語のように感じるが、事件そのものはいたって単純。ある大学の同じゼミに通う女子大生が次々と猟奇的なやり方で殺されていく、というもの。それぞれの被害者は皆首を切断され、その代わりに犬の首を縫い付けられるという、異様な連続殺人事件である。
となれば当然興味はなぜそのような面倒なことをするのか、という一点に絞られるのではないだろうか。真犯人は誰かなどは二の次になってくるのは致し方ないと思うのである。
だが、その理由がいかにも拍子抜けで、正直がっかりだ。
最後に事件を追う側の関係者が一堂に会して、和やかな雰囲気で談笑するわけだが、事件はまだすべて解決したわけではないのに、なごんでいる場合じゃないだろうと突っ込みたくもなる。
全てが中途半端で、何も完結していないのに、宙ぶらりんの格好のまま読者は置き去りにされる。これはいけないんじゃないか。
初読の際はそこそこ面白かった記憶があっただけに、今回裏切られたような気分になってしまった。これがメフィスト賞受賞作とはお笑い草だ。


No.354 9点 アクロイド殺し
アガサ・クリスティー
(2013/11/06 22:13登録)
私が初めて本作を読んだのは確か中学の頃だったと思う。読み終わった後の衝撃は今でも忘れられない。しばらく呆然として何も手につかなかった覚えがある。
勿論その頃は叙述トリックなどというものは全く知らなかったので、その驚きは読んだ方なら想像できると思う。まだ年端もいかない少年がこんな奇天烈なトリックを体験するのは、読書人生でそう何度もあるものではない。
ただ、殺人事件そのものの真相は割と平凡で、こうしたトリックに慣れてしまった現代の読者には物足りないかもしれない。
しかし叙述トリックの先駆者としての歴史的価値は十分に評価されるべきであろうし、クリスティ畢生の大仕掛けだと思う。


No.353 6点 コミケ殺人事件
小森健太朗
(2013/11/05 22:50登録)
同人誌をそのまま取り込むアイディアはなかなか面白いと思う。
メイントリックも一発勝負の、これっきりでもう二度と使用できないもので、斬新とは言えるだろう。だが、当然こうした無理のあるトリックに関しては批判の声が上がってもおかしくはないと考えられる。それを許容できるか否かで、評価も随分違ってくるのではないだろうか。
ここに書かれている方は、大方好意的にとらえられているようだが、それはこの作品の形体に対しての評価も含まれているのかもしれない。どことなくメタな本作は、その新鮮味においては十分高い評価が与えられてもおかしくはないと思う。


No.352 7点 貴族探偵
麻耶雄嵩
(2013/11/05 22:40登録)
「推理などという雑用は使用人に任せておけばいいんだよ」と公言してはばからない貴族探偵。当の本人は何をしているかというと、もっぱら美しい女性を口説くのに精を出しているという始末。
この特異な探偵をどう捉えるかで、作品そのものの評価もかなり変わってくるだろう。安楽椅子探偵を気取って、何もしないどころか推理すらしない、こんな馬鹿げた探偵など評価に値しない、と思えば必然的に採点は低くなるし、いや、これは今までにない新ジャンルなんだと考えればそれなりの点数は入れるだろう。
個人的にはあまり魅力を感じないが、逆に執事やメイド、運転手兼用心棒らの推理力は確かなものがあり、彼らに対しては好印象を受ける。しかし、貴族探偵の存在感はやはり絶大で、何もしなくてもそこにいるだけで許されてしまう感覚は、この作者ならではだと思う。
作品自体は短編集だが、それぞれのトリックもロジックもしっかりしていて、私としては高評価。
特に第三話の首と両手首を切断した理由は奮っている。


No.351 8点 仮面山荘殺人事件
東野圭吾
(2013/11/03 22:30登録)
普段ほとんど読まない東野氏の作品を再読しようと思ったのは、他でもない本サイトにおいて、採点者数が多いにもかかわらず平均点が高かったからに他ならない。
が、本棚を探しても一向に見つからない、確かノベルズだった記憶はあるが・・・どうやら『白馬山荘殺人事件』と混同していたようだ。そこで、これはもう購読するしかないと心に決め書店に向かい、無事ゲットできたのである。
さて前置きが長くなったが、本作、大変面白かった。
今の時代なら、これくらいの仕掛けには驚かない読者も多いことと思うが、私は気持ちよく騙されたということで、後味もスッキリしていて悪くないし、とても楽しめたと思う。
ただ、これだけの大掛かりな仕掛けは若干無理がある気がしないでもない。しかし、文章自体には不自然なところがないので、ミステリとしては十分成立しているのではないだろうか。
序盤、登場人物が誰が誰だかやや分かりづらかったのが、個人的には多少不満ではあるが、これは私の読解力のなさによるものだから、これから読まれる方は大丈夫だと思う。


No.350 5点 日曜日の沈黙
石崎幸二
(2013/10/31 22:29登録)
再読です。
「お金で買えない究極のトリック」を目の前にぶら下げられて、最後まで引っ張られ、挙句の果てにそのトリックがこれか、と幾人の読者が憤りを覚えたことだろう。
まあ、ミステリィど素人の女子高生コンビと、ぼんやりとした名探偵石崎幸二の掛け合いは結構笑えるので、その意味では面白かったとも言える。
中でも、殺人劇の謎を解くために招待された内の一人である、ミステリィ研の大学生の「ミステリィファンにとってはたまらない名誉だぜ」という発言に対して、女子高生コンビの一人ミリアの「たまらないのはあんたの頭の中よ」という傍若無人な発言には笑えた。
しかし、起こるのが実際の殺人事件ではないので、のんびりピクニックにまで出かける始末。こんな緊張感を欠いたミステリも珍しいのではないか。
そんなわけで結局最後まで消化不良のまま終わって、スッキリしない読後感を味わわされる羽目になる。
ダミーの解答はそれなりに考えられているとは思うが・・・。


No.349 4点 探偵作家 江戸川乱歩の事件簿
楠木誠一郎
(2013/10/28 22:37登録)
再読です。
作家江戸川乱歩と編集者横溝正史が探偵役を務め、しかも事件はメキシコミイラとすり替えられた、「美女」の全裸首なし死体。そして、マネキンの首とすげ替えられた生首という派手さで、いやが上にも気分は盛り上がらざるを得ない。
しかし、その期待感も事件が起きるところまでで、後の展開は終始緊張感を欠き、ダラダラした退屈な描写が続く。
せっかくのミステリ界の二大スターの顔合わせだが、それぞれの個性が全く描かれておらず、読み進むにしたがって不満が募る一方だ。
また、動機も弱く、わざわざ派手な事件を演出した理由がこれでは、全然納得がいかない。なんとなく手に取って読み返してみたが、読むんじゃなかったと後悔している。


No.348 6点 「夜叉ケ池」殺人事件
楠木誠一郎
(2013/10/27 22:36登録)
再読です。
泉鏡花が潔癖症なのは有名な話で、本作ではそのエピソードが存分に散りばめられていて、失礼ながらその都度笑いを誘わずにはいられない。それにしても、潔癖症というのも大変に精神的苦痛を伴うものだということがよく分かる。
何かを触った後にいちいち手を消毒したり、酒は煮えたぎるくらいの熱燗にしなければ気が済まないなど、結構厄介なもののようである。
物語の舞台は割烹旅館「湖畔亭」。ここで鏡花を囲む会で催された百物語が語り終えられた瞬間から殺人事件が始まる。
いきなりその参加者の一人が暗闇の中死体となって発見される。しかも、右腕が欠損した状態で。
その後次々と体の一部を切断された死体が現れる。一体何のために、それぞれの死体の右腕、左腕、右脚、左脚、胴体が持ち去られるのか・・・
龍神伝説を絡ませて、明治という時代を感じさせる語り口調は、なかなかの力量を感じさせる。
だが肝心の死体の一部を切断する理由は、十分納得がいくものではなく、その点は残念な気もするが、穏やかな性格の泉鏡花と子犬を抱いたお調子者の編集者鯛之介との掛け合いは面白く、陰惨な殺人事件をうまく相殺している。無邪気な子犬もしっかりと活躍していて、その意味では前作とリンクしていて楽しく読める。


No.347 5点 木乃伊男
蘇部健一
(2013/10/24 22:33登録)
再読です。
これ、『秘密室ボン』と同じ密室本だったのね、改めてページを開くまで思い出せなかった。でも一応、内容はうろ覚えながら、ある程度は記憶に残ってはいた。が、こんなに贅沢にイラストを描いていあることは失念していた。
特にラストのイラストはとてもいい味だしていて、小説的にも好感の持てる終わり方だったと思う。
肝心の中身は、第一部は子供向けかと思わせるほど、噛んで含めるような描き方をしており、多少じれったい印象を受けた。
特筆すべきことは何もなく、どこを取ってもイマイチって感じで、何もかもが中途半端である。
鏡の迷路での殺人だが、トリックは反則技スレスレであまり評価は出来ない。
木乃伊男の正体に重点を置いているのか、密室殺人がメインなのか、はたまた絡み合う人間模様を中心に据えたかったのか、その辺りが判然としないため、どこかしら焦点がはっきり定まっていない中途半端な感じを受けた。


No.346 5点 心霊写真
吉村達也
(2013/10/22 22:17登録)
再読です。
7編からなるバラバラのジャンルの短編を、無理やり短編集にまとめた感じが見え見え。それもそのはず、ほとんどが小説宝石に掲載された作品を一冊に寄せ集めただけという、発想的にはいかにも貧弱な内容。
一応何作かは氷室が登場するが、全くシリーズとは無関係と思われる作品も半分くらいある。それらに氷室想介の「サイコカルテ」と称する注釈が書き加えられただけ、という感じ。
肝心の中身はホラーっぽいミステリ、本格物、倒叙物、サイコサスペンスなど様々で、よく言えばバラエティに富んでいる、悪く言えば節操がない。
氏にしてはかなりぎっしり詰めて書かれているので、他の作品に比べると若干読みづらかった気がする。その代わり、少しだけ重厚感が感じられる。
全体的にそこはかとなく異色な雰囲気が漂う作品集となっている。


No.345 5点 秘密室ボン
清涼院流水
(2013/10/20 22:25登録)
再読です。
主人公のメフィスト翔はいきなり秘密室(ひみっしつ)に閉じ込められて、脱出不可能な状態に追い込まれる。しかもなぜかタイムリミットが90分に設定されていて、その制限時間内に脱出しないと秘密室は爆発してしまう。
そこに密室の神と名乗る老人の声がして、ここから逃れるには、これから出す問題に正解しながら、そこからヒントを得なければならないと告げる。
と言う、目茶苦茶な設定だが、読者は嫌でも翔と共に脱出方法を模索せざるを得ない状況に陥ることになる。
だが、老人の出す問題は密室に関するものばかりだが、抽象的なものが多く脱出の手掛かりになりそうもない。どうすればこの難関を乗り越えられるのか?
というわけだが、果たしてそのオチはいかにも拍子抜けするものであり、お世辞にも読者の期待に応えているとは言えない。
面白くないわけではないが、大方のミステリ読みには不満が残るであろう。駄作とまでは言わないが、見るべきところはあまりない。


No.344 6点 エル 全日本じゃんけんトーナメント
清涼院流水
(2013/10/18 22:30登録)
再読です。
今年も極楽ドームで第13回全日本じゃんけんトーナメント、決勝ラウンドが行われようとしていた。
応募総数のべ3000万人の中から、予選を勝ち抜いた1024名が集結し、今まさに火ぶたが切って落とされるところである。
この中には優勝候補最有力の読心術者ミスター・トジック、過去のデータを解析し相手の出す手を予測するTVでもお馴染みの十津川教授、十代にしてゲームのシナリオライター、若き天才天草翔、そして主人公の木村彰一が一目惚れした名誉あるゼッケン番号1番の少女、京極のぞみなどがいた。
一方、その裏では大会主催者のエルが不穏な動きで暗躍し、大会を思うがままに操ろうとしていた・・・
彰一の初戦の相手はゼッケン番号777番の水野守。彼は実はのちにJDCの探偵となるピラミッド水野である。
更に過去に、2大会連続で777番を引き当てたこれもJDC第一班の名探偵、龍宮城之介も参加していたというどうでもいいような逸話も残っているらしい。
ひたすらじゃんけん勝負を繰り広げていくという、一見単純なストーリーだが、プロットの妙で読者を飽きさせない工夫がなされていて、最後まで物語に入り込めるようにうまく作られている。
また、じゃんけんだけでなく、主人公を中心にある種の人生ドラマを描いており、その意味でも楽しめるエンターテインメント作品に仕上がっている。
本当は7点付けたかったが、ミステリではないしね、これくらいが妥当かもしれない。
だが、一人また一人とじゃんけんに敗れ去っていく様は、まさにサバイバルゲームの見本のようでもある。

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