メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1923件 |
No.383 | 8点 | すべてがFになる 森博嗣 |
(2013/12/11 22:23登録) 再読です。 全く素晴らしい出来栄えの一言に尽きる。 花嫁姿の死体が登場するシーンは圧巻で、それこそ度肝を抜かれたし、密室のトリックもおそらく前例のない斬新なものだと思う。冒頭の西之園と真賀田教授との邂逅も、最終章の余韻を残す締めくくりなども見事だ。 しかし、褒めてばかりもいられないのが人情というものである。ここからは本作の、私なりの気になる点を列挙していこうと思う。 まず、犀川と萌絵ばかりでなく他の登場人物のほとんどに、人間味が感じられないこと。よって、誰にも感情移入する余地がない。 第二に若干読み難いこと、これはまあ私の責任によるところも大きいので、一概には断言できないが。 第三に肝心の密室トリックに関してだが、その状況はかなり無理があるのではないかとの疑問。共犯者でもいるのなら別だが、一人では○○をこなすのは難しい。 最後に、動機の問題。作者が敢えてぼかしたとは思えないので、作者自身にもはっきりとした動機が思い浮かばなかったのではないかとも思える。ただし、これは私の読解力が足らないせいかもしれないので、あまり大きな声では言えない。 これだけの欠点がありながらも、やはりこの作品は本格ミステリの本髄と言っても決して言い過ぎではないだろう。稀有な傑作であるのは間違いないと思う。 |
No.382 | 5点 | 狩野俊介の事件簿 太田忠司 |
(2013/12/08 22:18登録) 再読です。 作者はあとがきで、殺人の起こらないミステリをたまには書いてみたかったと発言していたが、確かにその目論見は成功している。これは中学一年生で探偵助手を務める少年、狩野俊介の比較的身近に起こった事件を、彼やその周りの登場人物たちが知恵を出し合って解決してくという、4編からなる短編集である。 第一話と最終話はそれなりに好感が持てる作品だし、他もそれほど悪くはない。が、やや気になるのが語り手が探偵自身(所長の野上)という点である。どうも違和感が付きまとう、特に現役の警部に対しての上から目線の言葉遣いは、かなり居心地の悪さを感じた。 まあしかし、事件を解決するのが狩野少年ばかりでなく、石神探偵事務所の所長、野上だったり、行きつけの喫茶店「紅梅」のウエイトレス、アキが鋭いところを見せたりと、周囲に助けられながら成長していく少年の姿を描いている辺りも見どころの一つとなっている。 |
No.381 | 6点 | 六とん2 蘇部健一 |
(2013/12/07 23:14登録) 再読です。 相変わらず点数低いですねえ。そんなに酷いかな。私はそれなりに楽しめたのでこの点数。 ただ、これは『六とん2』じゃないね、はっきり言って『動かぬ証拠2』+αって感じ。ジャンル的には少しだけ気の利いた『世にも奇妙な物語』的な。まあミステリとは言い難いが、オチはそこそこ考えられていると思う。 らしくないファンタジーで締めくくられているけれど、これはいらないかな。もっとはじけた、とんでもない短編を並べて欲しかった気がする。その辺りは残念だけど、みなさんが考えるほど悪くはない。おそらく、作者の名前とタイトル名で、平均点が下がっている面もあるのではないだろうか。 |
No.380 | 6点 | ペルソナ探偵 黒田研二 |
(2013/12/06 22:26登録) 作家を目指す6人の男女がチャットルーム「星の海」に集い、同人誌を作成し、毎号ごとにそれぞれの小説を発表していた。そのジャンルは多岐にわたり、ファンタジーやミステリ、文芸など様々。 本作ではその同人誌に載せられた短編3作品がまず作中作として掲載され、それらをもとに最終話の事件の謎を解明していくという、一見ややこしく思える構成となっている。 好み的には第一話が最も面白かった。第二話、第三話はまずまずの出来で、まあ飽きが来ない程度のほどほどの作品。無論、それらすべてがリンクしてくる最終話は別格ではあるのだが、捻り過ぎてどうにもすわりがよろしくない印象を受ける。 どんでん返しの連続と言っても、ジャブの繰り返しで、読者が受けるダメージは大したものではないと思う。だから、強烈なパンチを食らった感じではなく、軽く頬を掠める程度のものである。 全体としてはまずまずだが、一作ごとに作風を変えているのは、それなりに作り込まれている証左であるとは思う。だが、出来としてはごく普通の感じで、まあまあかな。 |
No.379 | 5点 | 金沢W坂の殺人 吉村達也 |
(2013/12/04 22:31登録) 再読です。 現場は金沢市のW坂、絞殺、撲殺、毒殺、刺殺とそれぞれ違う方法で死体となって発見された同じ大学へ通う学生たち。死亡推定時刻はほぼ同時刻であり、しかも一か所ではなく坂の途中の四か所で殺されたらしい。体力自慢の体育系の男子学生たちがなぜ抵抗の跡もなくあっけなく殺されたのか・・・この謎に挑むのはお馴染みサイコセラピスト、氷室想介である。 なかなか派手な殺人事件ではあるが、展開はいたって平凡で、大した捜査もせずに、犯人がわれてしまう。まあ、殺害方法はそれなりに納得は行くものの、動機がどうもねえ。犯人にとっては切実なのかもしれないが、読む側にはそれが今一つ伝わってこないので、心から首肯できないものがある。 それと、別にそれぞれ違う殺害方法を選ばなくてもよかったのではないかという、素朴な疑問も生まれてくるのだが、いかがなものだろう。 はっきり言って犯人の意外性は全くないし、ほとんどの読者が予想している通りだと思う。 ただ、個人的にW坂のイメージを今回再読するまで勘違いしていたようなので、そこが訂正されたのが唯一の救いだった。 |
No.378 | 8点 | 贖罪の奏鳴曲 中山七里 |
(2013/12/03 22:29登録) 一部を除いて重苦しい雰囲気に覆われている。それもテーマがテーマだけに仕方ないのかもしれないが。 途中まではどこに重点を置いて読み進めればいいのかが判然とせず戸惑ったが(その辺りは解説を参照されたい)、終盤、一気に加速し俄かに焦点が鮮明に合いはじめ、全体像が明らかになる。その過程は『カエル男』に酷似している。まさに中山氏の本領発揮と言っていいだろう。 作者お得意の畳みかけるようなラストの逆転劇は、読者を酔わせること請け合い。 蛇足だが、個人的に第三章を頭に持ってきた方が読みやすく、スッキリするのではないかと思った。まあしかし、そんなことはどうでもよくて、これは相当な傑作だと言えるのではないだろうか。 やや読み難い部分もある気がするが、色々な意味で勉強にもなるし、なかなか強烈な余韻を残す作品であるのは間違いない。 |
No.377 | 8点 | クビキリサイクル 西尾維新 |
(2013/11/30 23:20登録) 再読です。 戯言、戯言と言いながら、骨格は非常にしっかりとした本格ミステリだ。文体はライトノベルに近いせいか、各キャラが立っているのも好印象。13人もの主要登場人物にそれぞれ個性が感じられ、見事に描き分けられているのは、デビュー作にしては、と言うかだからこそと言うべきか、見事の一言に尽きる。 さらには、戯言に隠れて分かりづらいかもしれないが、凝りに凝ったプロットと読者を欺く欺瞞に満ちていて、素晴らしい作品に仕上がっていると思う。 首なし死体に絡むトリックも、これこそ前例のないもので、思わずタイトルのセンスに感心させられる。 ただ、後味だけは正直あまりよくない、というよりほろ苦い感じでラストを迎えるので、それだけが減点の対象であろうか。まあ私にとっては、ということなので、それほど気にならない読者のほうが多いとは思うけれど。 ああ、「いーちゃん、髪くくって」がクセになりそう。 当然、次に続く『クビシメロマンチスト』も刊行と同時に期待を込めて読んだわけだが、残念な結果に終わってしまった。西尾氏はもうあっちの方向へ行ってしまったので、いまさら何を言おうが仕方ないが、もう一度ミステリの世界に戻ってきてほしいと心から願うものである。 |
No.376 | 8点 | 暗色コメディ 連城三紀彦 |
(2013/11/28 22:18登録) 4つの異なる異常なエピソードが並走し、最後に収束するという、いかにも私好みの連城三紀彦氏初期の傑作。どの物語も現実味の薄い、どう考えてもまともな解決とは程遠いものだけに、それらの謎が論理的に解明されるカタルシスは有り余るほど濃く味わい深い。特に自分をひき殺したはずのトラックが体を通り抜けて消えてしまう謎は、多少無理があるがなるほどと思った。 全体的にタイトルが示す通り、雰囲気は暗くコメディというにはあまりに陰鬱だが、その後の氏の作品と比較すると、実はこの作品が最も本格ミステリに近い形態を備えていると言えるだろう。 個人的には氏の代表作とされる『戻り川心中』よりもこちらのほうが好きだ。初めて読んだのもこの作品だったので、この路線で他の作品も行ってくれるのかと期待していたが、残念ながら少し違った方向へ走ってしまったようだ。だが、他の諸作品も決して悪くはないと思っている。特に『敗北への凱旋』や『夜よ鼠たちのために』などは独特の雰囲気がいいし、連城氏にしか書けない作品だと思う。 |
No.375 | 6点 | 七回死んだ男 西澤保彦 |
(2013/11/27 22:24登録) 再読です。 まあ面白かった。しかしそれはあくまで、「遊び」或いは「実験」としての面白さであって、真摯に本格ミステリを標榜する読者には受け入れられ難いのではないかと思う。 ところが、本サイトでは非常に得点が高いので、これは私にはちょっとした驚きすら感じてしまう。どうやら本サイトだけではなく、他のサイトなどでもかなりの高評価なので、公平に見てそれだけの評価に値する作品なのであろう。ただ単に私がへそ曲がりなのか、それとも私に審美眼がないだけなのか、おそらくそのどちらかだと思う。 このSF的な設定は、それ程目新しいものではないので、それ自体は驚かないが、そこに「殺人」を絡ませたという点は目の付け所が良かったのではないだろうか。 蛇足というか、どうでもいいことだが、なぜこの作者は句点ばかりを用いて、読点をほとんど使わなかったのかが不思議だった「。」ばかりが目立って読みづらいだけだと思うのだが。 まあとにかく本作は西澤氏らしい、奇妙な味わいの作品であることは間違いないし、(私にとっては)意外にも本格ミステリファンにも十分受け入れられる変則的なミステリといえるようだ。 |
No.374 | 6点 | 誰彼 法月綸太郎 |
(2013/11/26 22:29登録) 仮説を構築してはそれを崩壊させるの繰り返しで、読んでいていささか疲れるというか、飽きてしまう。でも、プロットやストーリーがかの名作『エジプト十字架の謎』に何となく似ていなくもないので、そこは気に入っている。 それにしても本作の法月綸太郎はあまり苦悩していない気がする。悩んで何ぼの名探偵なんだから、もっと苦しむ姿も見たかったかも。 ところでこのタイトル、一体どう読むのかと思っていたが、「たそがれ」とはねえ、なかなかセンスがいいね。 まあ、そこそこ面白かったし、楽しめた。みなさんが言うほどひどい作品だとはあまり思えない。 |
No.373 | 6点 | コズミック・ゼロ 日本絶滅計画 清涼院流水 |
(2013/11/25 22:46登録) その年の大晦日も例年のように、大勢の初詣客で各寺社はにぎわっていた。そして年が明けると同時に、明治神宮、熱田神宮、川崎大師、伏見稲荷大社など10ヵ所の初詣客のほとんどが消された。その数およそ650万人。 更に正月休みが明けると、ラッシュアワー時のJR、私鉄の約3000万人の乗客が消された。 そして、時を待たずに今度は、東京、大阪、名古屋の3大都市がダムの爆破により水没した。 これは大規模なテロ行為なのか、或いは某国の工作員の仕業なのか、一体何の目的で・・・ といった、いきなりの怒涛の展開で始まる、この作者らしい荒唐無稽なパニック小説となっている。 単行本が刊行された際、あちらこちらでこれ以上ないほどこき下ろされた作品だが、それは全体を通してマクロな視点からパニックの状況を淡々と描写しており、ミクロの視点からの細かな描写がなされなかったため、リアリティに欠けるとの印象を持たれたからだろうと想像される。 確かに私もそう思うし、公平に見てそのそしりは免れないだろうけれど、私は本作が決して嫌いではないし、出来も悪くないと思う。少なくともお金と時間の無駄とは思わない。 そんなことを書いても、おそらく清涼院流水氏の作品を好意的に受け入れているのは、このサイトでは私以外ほとんどいないだろうから、誰も見向きもしないと思うが、面白いよ、本当に。それだけは言っておきたい。 |
No.372 | 8点 | りら荘事件 鮎川哲也 |
(2013/11/24 22:16登録) これぞ本格推理小説の王道を行く傑作ではないだろうか。 書かれた年代を考えれば、数々のトリックやプロットは見事だと思う。まさに本格パズラーのお手本のような作品。 まあ今読めば細かいアラが見えてくるかもしれないが、当時(確か高校生の頃だったと思う)の私には十分新鮮な印象を持った。特にトランプを利用したトリックには感心した、これは読者の盲点を突くさすがの仕掛けだと思う。 ただ、何人かの方が指摘されているように、次々と殺人が起きているわりには、緊迫感が欠けるというのは否めない。 だがそれはそれとして、やはりこの作品は鮎川哲也の代表作だと私は思う。 |
No.371 | 7点 | 邪馬台国はどこですか? 鯨統一郎 |
(2013/11/23 23:20登録) これは歴史好きには堪らない作品だね。私は特に日本史が好きとか得意とかではないので、そこまでは楽しめなかったけれど、それでもこの高得点。 本作には歴史ミステリのロマンが香っているねえ、どの短編も珍説、新説が盛りだくさんで、なるほど本当にそうなのかもしれないと思わず納得しそうになるものが多くて、興味深い。 個人的に一番気に入っているのは『謀反の動機はなんですか?』で、信長○○説がなんだかとても信憑性がありそうだし、意外性を買って一押し。でも、この説だと信長の性格まで通説とがらりと変わってくるので、やや無理があるかなとは思うが。 そして表題作は、これはまさに歴史のロマンが漂う佳作だろう。定説を覆してのまさかの邪馬台国東北説、しかし、それなりに土台がしっかりしているので、なるほどと頷ける点も多い。 まあとにかく、歴史好きには必須アイテムであるのは間違いない。 |
No.370 | 8点 | パラサイト・イヴ 瀬名秀明 |
(2013/11/22 22:56登録) 再読です。 若い頃、ある女性に薦めたところ、友人がとても怖い思いをしたとの理由で拒絶された、苦い思い出のある作品。 とは言っても、良いものはやはり何度読んでも面白い。そこら辺に転がっているホラーとはレベルが違う秀作である。 前半は専門用語が氾濫して、相当チンプンカンプンな部分も多かったが、それを補って余りあるアカデミックな香りと、じわじわ迫ってくる怖さがウリのひとつだと思う。さらには、それぞれの人物描写もしっかりしていて、その意味でも優れた作品と言えよう。 一転後半は怒涛のホラー&アクションの連続で、読者を引き付けて離さない魅力を持っている。ホラー小説大賞の審査員の一人、林真理子女史が徹夜して読破したというのも納得の出来である。 |
No.369 | 5点 | ロートレック荘事件 筒井康隆 |
(2013/11/21 22:26登録) なんだか違和感ありありの文章で、何か仕掛けがあるのかなと思いながら読み進んでいったのだが、これがいわゆる叙述トリックだと気付くのにちょっと時間が掛かった。その頃の私はまだ擦れていなくてあまりこのようなトリックに慣れていなかったため、あっさり騙された。しかし、やられたという感じは全く受けなかった。なので、良い意味でのカタルシスは生まれなかったのを覚えている。本来なら、そうだったのかと、膝を打つような軽いショックを受けても良さそうなものなのに、その辺がミステリ作家ではないゆえなのかとも思う。 事件そのものもありきたりであまり感心しないが、まあ短くて伏線を後から確認しやすいのが美点と言えるだろうか。 他はこれと言って褒めるべきところが見当たらないかな。 |
No.368 | 5点 | ラジオ・キラー セバスチャン・フィツェック |
(2013/11/20 22:23登録) 数々の難事件を解決に導いたベルリン警察のベテラン交渉人、イーラ。彼女は長女ザラの自殺に心を痛め、その日が彼女の最期になるはずだったが・・・しかし、皮肉にもラジオ局を乗っ取っての立てこもり事件に駆り出されることになってしまう。 事件の犯人はサイコな知能犯で、人質を盾に殺人ゲームを始めようとしていた。しかも彼の要求は事故で亡くなった恋人を連れて来いというものだった。 とまあ、なかなか派手な展開で、飽きることなく楽しませてくれる。主人公のイーラの心理描写もよく描き込まれている上に、各登場人物の造形がしっかりしているのは好感が持てる。 アマゾンではすこぶる評価が高いが、私にはそれ程でもなかった。確かにスピード感あふれるサスペンスは一読に値するとは思うが、この程度なら日本の作家のほうがよりきめ細やかに描くことができるだろう。ただ、翻訳物独特の雰囲気のようなものは勿論真似できるわけではないけれど。 後味は悪くなかった。果たしてアル中でシングルマザーの主人公がこの事件を通じて得たものは何か、その後彼女はどんな人生を歩んでいくのか、その辺りも想像をかき立てられる。 |
No.367 | 5点 | 軽井沢マジック 二階堂黎人 |
(2013/11/19 22:21登録) 再読です。 コージーミステリはやはり肌に合わないと痛感させられた作品。 水乃サトルのキャラは嫌いではないし、さらにそのお姉さまはとても素敵だとは思う。本筋よりもむしろこの軽すぎる探偵の紹介や、お姉さまが大暴れするシーンのほうが面白い。よって、ミステリとしての面白さはイマイチとしか言いようがない。 何もかもが中途半端で、ライト感覚のユーモアミステリでもなければ、トリック重視の本格物でもない、新興宗教やトラベルミステリ的な要素も絡んでくるが、それも際立ったものが見当たらない。 一番注目していた、死体の眼球を抉り取った理由もなんだか納得できない感じで。 二階堂氏は蘭子の「~ですわ」口調が鼻につくが、やはり二階堂蘭子シリーズのほうが読み応えがあっていいんじゃないかな。 |
No.366 | 7点 | 永遠の0 百田尚樹 |
(2013/11/18 22:24登録) これはミステリじゃないね、立派な文芸作品だよ。でも書いちゃうよ、登録されていたからね。 とても素晴らしい作品、何が?それは読まなきゃ分からない。そこかしこに落涙ポイントが散見されるし、その上立派なエンターテインメントとしても成り立つという、まれにみる名作じゃないだろうか。 志願せずして特攻隊として亡くなった祖父の謎を、孫たちが彼を知る当時の仲間たちを訪ねて聴取するという構図は確かにミステリのようではあるが、あくまで文芸作品と捉えたい。 それにしても、本作は様々なことを勉強させられるし、また感動を与えてくれる、勿論嗚咽を堪えながら読まなければならないシーンも少なくない。戦争を体験することなく育った我々が読むべき作品であり、長きに亘って語り継がれるであろう作品でもある。 尚、文庫版の解説は、本好きで知られた今は亡き児玉清さんが担当しているのも、因縁浅からぬものがあるような気がする。 |
No.365 | 5点 | 覆面作家 折原一 |
(2013/11/17 22:21登録) 再読です。 そうねえ、まあ折原氏らしいと言えばそうなんだろうが。どうもいまいちインパクトに欠けるというか、盛り上がらないんだよね。 トリックというか、覆面作家の正体を明かされても、はあそうですか、くらいの感慨しか浮かんでこなかった。そうだったのか!とか、一杯喰わされたとか、とにかくやられた感がほとんどないので、全体が霞んでしまうのだろうかね。 多重構造はお手の物の作家だから、今更驚かないし、こちらも身構えて読むから、この結果にはいささか拍子抜けしてしまう。 残念だが、読み返す必要もなかった。折原氏の作品の中でもどちらかというと精彩を欠いた仕上がりに思えてならない。 |
No.364 | 7点 | 鼻 曽根圭介 |
(2013/11/16 23:20登録) 第14回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作『鼻』他、『暴落』『受難』を収録した短編集。 それぞれ違ったタイプの不条理劇とでもいうべき佳作が揃っている。ホラー小説とは言ってもさほど怖くはなく、むしろブラックユーモア的な独自の世界観を醸し出している辺りは、新人らしからぬ筆力の持ち主だと感じる。 個人的に最も気に入っているのは『暴落』でラストの衝撃はもうね、これ程意表を突いた結末はなかろうというくらい、まさかの展開が待っている。『鼻』も途中サスペンスを交えながら、これまたオチが見事に決まっている。 『受難』はこれぞ不条理の世界って感じで、なぜだか分からないが身動きが取れなくなった主人公の前に3人のタイプの異なるちょっといかれた人々が現れては去っていくという、何とももどかしいホラーである。何故誰も助けてくれないのか、その辺り不条理さ全開で、奇妙な味わいを醸し出している。 どれもかなり面白く、レベルの高い作品ばかりで、とても印象深い一冊である。 |