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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1902件

プロフィール| 書評

No.862 6点 触法少女
ヒキタクニオ
(2018/05/27 22:34登録)
小学四年生の時に母親に捨てられた深津九子は、児童養護施設から中学校に通っていた。十三歳の九子は担任の欲望を利用し支配し、クラスメイトの男子西野を下僕化、同級生の井村里実からは崇められていた。
或る日、母親の瑠美子の消息を知るチャンスが訪れ、そこから九子のそれまで抑えていた感情が溢れだし、運命が動き出す。

ジャンルを登録する時に正直迷いました。一応本格にしましたが、プロット的にはクライムノベルのようでもあり、触法少年という概念が根本にあるので社会派でも通用しそうだし、全体から受ける印象はサスペンスに近いものがあります。そんなジャンルミックスの要素を強く持ったこの作品は、子供に対する親の虐待、刑法第四十一条問題、事細かに記された毒物生成方法などの危険な要素を孕んだ犯罪小説と言えるかもしれません。

九子の計画はやはり子供らしく、アリバイトリックや指紋の問題などやり口が稚拙で、警察の手に掛かれば簡単に見破られてしまいます。その辺りは、まあ作者の計算通りなんでしょうけれど、毒物を作る過程だけは専門知識を駆使しており、リアリティがあります。
前半はやや冗長な感じを受けますが、事件後はなかなか読ませます。全般的に気分良く読めるとは言い難いですが、飽きることはないと思います。後半、二捻りあり、意表を突かれます。ここはある海外の名作を彷彿とさせ、なるほどと深く肯かされます。それまでの伏線も効いていますね。
なんとも言えない独特の世界観を持った作品であるのは間違いないですし、ヒキタクニオの本領を発揮していると言っても言い過ぎではないでしょう。


No.861 7点 DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件
西尾維新
(2018/05/24 22:24登録)
ロサンゼルスで起きた連続猟奇殺人事件。休職中のFBI捜査官の南空ナオミはこの事件の捜査依頼を、世界的名探偵Lから受け入れた、というか受け入れざるを得なかった。第一の現場に向かうナオミは竜崎と名乗る私立探偵に出会い、協力して捜査に当たるのだが。

ページ数の割に値段が高いですが、これには理由があります。まず普通の単行本よりも一回り縦も横も長い、そして文字が細かいうえに二段組みとなっているということです。全体的にスペシャルでゴージャス感が漂う、凝った装丁になっています。集英社にもそれだけ力が入っている証左だと思います。
私は『デスノート』は映画しか知りませんが、読み終えるのに支障は全くありませんでした。原作を読んでいない、映画も観ていないという方でも十分に楽しめると思います。

西尾維新にしてはガチガチの本格ミステリです。いつもの作風とは結構かけ離れていると思います。ただ、軽妙さはどことなく感じられ、そこに若干の重厚さが加味されているような印象です。
ノベライズですが『デスノート』に関連していると言えるのは、死神の目とラストだけで、中身はほぼ西尾氏のオリジナルと考えて間違いないだろうと思います。内容に関しては興が削がれる可能性が高いので触れずにおきます。おそらく西尾維新のファンにも、『デスノート』のファンにも受け入れられる作品でしょう、断言はできませんが。


No.860 6点 遊星小説
朱川湊人
(2018/05/21 22:29登録)
短編の名手、直木賞作家の朱川湊人のショートショート集。さすがに文章が上手いです。どこか昭和を思い起こさせるノスタルジックな雰囲気の作品が多く、黄昏や夕暮れが似合いそうなレトロ感覚を味わえます。
ジャンルとしてはSF、ホラー、ミステリなど様々で、中でも当たり前の日常で起こる不可思議な出来事を扱ったものがかなりの割合を占めています。しかし、やはりショートショートの殻を破った革新的な作品集とは言い難く、奇妙な味わいではあるものの、それほど破天荒な感じはありません。それでも、この作者らしく、切ない余韻を残す印象的なものもいくつかあって、ファンとしては納得のいく出来ではあると思います。

ウルトラマン、仮面ライダー、UFO、怪獣、幽霊、妖精などなどが登場し、ショートショートらしい賑やかさです。大方驚くような結末が用意されているわけではありませんが、それなりにオチがついています。そういった意味でも、短いながら小説としての骨格はしっかりしていて、プロの作家はやはり違うと思わせますね。

お節介な幽霊がなんとも微笑ましく、ラストが切ない『ゴメンナサイネ』、ミステリ的手法が生きる、子供たちの悪意を描いた『暗号あそび』、ザラブ星人やニセライダーマンからちょっといい話に発展する『ニセウルトラマン』、ぼろアパートに住む冴えない男と野良猫の感動の物語『傷だらけのジン』など後々まで記憶に残りそうな作品も。


No.859 9点 萩原重化学工業連続殺人事件
浦賀和宏
(2018/05/19 23:29登録)
「脳」を失った死体が語る、密室の不可能犯罪!双子の兄弟、零と一の前に現れた、不死身の少女・祥子と、何もかもを見通す謎の家政婦。彼らが信じていた世界は、事件に巻き込まれる内に音を立てて崩壊していき…。脳のない死体の意味とは!?世界を俯瞰する謎の男女と、すべての事件の鍵を握る“萩原重化学工業”の正体とは!?浦賀和宏の最高傑作ミステリが世界の常識を打ち破る。

以上、私の下手な説明より簡潔にまとめられた「BOOK」データベースのほうがすっきり分かりやすいので引用しました。尚これは講談社ノベルズ版のものであり、今回私が読んだのは幻冬舎文庫より刊行された『HEAVEN』で、かなり縮尺されていますので、若干内容的に変化があるのかもしれません。
最高傑作かどうか全作読んでいるわけではないので何とも言えませんが、とにかく謎だらけで、頭の中が?でいっぱいになります。そして読んでいる途中から、これは超本格ミステリ(多分)なので、一般で言うところの解決はとても望めないと不安になりました。しかしながら、SF的趣向を交えながらも何とかギリギリ納得のいく真相が得られます。ただし、いくつかの謎を残していて、それは続編の『女王暗殺』に委ねられているようです。

「世界の常識を打ち破る」というより、常識など通用しない作品が正解じゃないでしょうかね。良く言えば破格の超絶ミステリ、悪く言えば何でもアリの複雑系、いずれにしても浦賀氏自身が「この小説を書くために生まれてきました」と言っているように、稀有な怪作、力作なのは間違いないと思います。
途中、警察の捜査の杜撰さ(○○に隠れていたのを発見できず)や、あまりにも発想が突飛すぎるなど、気になる点もありましたが、凝りに凝った規格外の本格ミステリだと個人的には感じました。
余談ですが、ノベルズ版の装丁が物々しくいかがわしい雰囲気で好きだったのですが、読後あまり作品の意にそぐわないように思いました。その意味では残念ながら期待を裏切られた気分です。


No.858 6点 プールの底に眠る
白河三兎
(2018/05/15 22:20登録)
ぬるま湯の様な描写と展開を、心地よいと感じるか、刺激が足りないと感じるかは読み手によって随分変わってくると思います。私は当然後者。これは最早ミステリというより文学に近いです。というわけで、終始頭から離れなかったのが、何故本作がメフィスト賞を受賞したのかでした。それが腑に落ちたのはようやく終章に入ってから。

ここに至ってようやく作者の企みが明らかになります。一言で言うと「やられた」って感じでしょうか。確かにそれ程の衝撃ではありませんが、あとからじわじわ来る辺りが心憎いではないですか。構成の妙ですね。新書で刊行され時から大幅に変更されたプロット、それが良い影響を与えたのか、逆効果だったのかは読み比べてみなければ分かりませんが、ミステリ的には正解だったのでは?と思います。

それにしても終章で徐に姿を現した佐々木の爺さんのキャラは、本当にいい味出しています。主人公を始め、誰も彼もが心のどこかに歪みを抱えているような人物ばかりの中、この人は素直にいい人だと感じましたね。
主人公が心情を吐露する場面の「一度でいいから両親に、幸せになってもいいと言ってほしかった」というセリフが本作を象徴している気がしました。これは心に突き刺さりましたよ。でも、決して人に薦められる小説とは思いませんが。


No.857 3点 最良の嘘の最後のひと言
河野裕
(2018/05/12 22:25登録)
世界的に成功を収めるIT企業ハルウィンには超能力研究の噂があった。ハルウィンは「4月1日に年収8000万で超能力者をひとり採用する」という告知を出す。審査を経て7名の自称超能力者が3月31日の夜に最終試験に臨むことになった。
日付が変わる瞬間に採用通知書を手にしていた者が雇用されるという。超能力者たちはそれぞれの能力を駆使して頭脳戦を繰り広げる。

とまあ、話だけ聞くと面白そうに思われるかもしれませんが、はっきり言って全然つまらないです。プロローグと最終章(6話)を除けば、ダラダラと能力者同士の騙し合いと陳腐なドタバタ劇が延々と続きとても煩雑です、何度か挫折しそうになりました。それは私の読解力のなさばかりとは言えないと思います。物語がすんなり頭に入ってこないリーダビリティの低さ、最後に親切にも時系列ごとに何が起こったのか纏めてくれていますが、それでも薄れた興味は二度と湧いてくることはありませんでした。巻き戻して再度確認する気力は私には残っていませんでした。
エピローグも余分でしょうね。

ラストでようやく「最終試験」のカラクリが見えてきて、若干そうだったのかとはなりますが、そこの捻りがなければ1点でしたね。主催者側の思惑など一切描かれることもなく、そちらも片手落ちに思えます。


No.856 6点 誰も死なないミステリーを君に
井上悠宇
(2018/05/09 22:47登録)
以前書評した『死を見る僕と、明日死ぬ君の事件録』(登録時にまさかのミスを犯し『死を見る』が抜けていました、さっき気付きました、すみません)と設定が似通っていますが、こちらの方がより本格に近いです。タイトル通りだと誰も死なないわけで、果たしてミステリとして成立するのかとの疑念を吹き飛ばして、体裁は予想以上に整っていました。

何故元文芸部の四人に『死線』が現れ、孤島に渡っても消えないのか、という謎自体はほぼ予想が付いてしまいます。これはおそらく誰しもが想像し得ることだと思いますね。ですから、謎の焦点は事の発端となった最初の転落死にあります。この事件は事故だったのか、殺人だったのか。そこから派生する四人の「容疑者」のそれぞれが抱える事情を探り、事件の全容が明かされた時、驚愕の事実が!とはなりません。
謎解きはあっさりと片付けられ、驚くような真相が待っていたりもしません。ですが、一応は筋が通った解決を見ます。あっけないですが、それが事実なら受け入れるしかありません。まあなるほどとは思いますが、それだけですね。

しかし、何がどうとは言えませんが、青春ミステリとしてどこか捨てがたいところがある小説だと思います。それはおそらく、余分と思われるような描写が意外に印象に残っていたり、登場人物同士の何気ないやり取りであったり、主人公の過去のエピソードだったり、なのでしょうかねえ。


No.855 7点 悪意
東野圭吾
(2018/05/06 22:11登録)
構成は凝っているが、構造は至って単純な作品ですね。全てがホワイに一点集中しており、興味の大半はそこに落ち着きます。しかしながら、読み進むにつれそれもある程度予想出来てしまい、衝撃度という点においていささか物足りなさを覚えるのは私だけでしょうか。意外性がいまひとつなので、こうした作品においてはかなりのマイナス点になろうかと思います。

ただ、結末に至るまでの道のりがきっちりと纏まっていて、フェアプレーの精神も忘れておらず、その意味では好感が持てます。逆に言えば、あまりに優等生的ないかにも東野らしい堅い作風なので、それが解釈によっては弱点ととらえることもできます。例えばこうした作品を得意とする折原一辺りがこれを書いたとすれば、もっと衝撃的な作品に仕上がったのではないかと思うのです。まあ死んだ子の歳を数えるようなものなんですけどね。

色々ケチをつけましたが、やはり東野作品の中では上位に位置する作品ではあるでしょう。ミステリファンが読んでも、一般読者が読んでもそれなりに満足できるブランド品といったところですかね。


No.854 7点 ファミ・コン!
鏑矢竜
(2018/05/03 22:23登録)
あの歴史ある、そして由緒正しいSRの会(実はSRが何の略かも知らない)の俎上に載せられるほどの作品であるならば、これは読むしかないと一念発起しました(大げさ)。ラノベ風ですが読み応えは十分あります。カテゴリーとしては青春ミステリに入るのでしょうが、個人的には青春小説+冒険活劇+健全な変態小説といった趣を感じます。
その場その場での言葉のチョイスの堅実さや、時にハッとさせられるような、読者の想像力を掻き立てられる描写が心に沁みます。また登場人物が多い割には秀逸なキャラ設定、印象に残る人物像など、新人離れした構想力、文才が感じられます。

しかし、本格ミステリの鬼が集うであろう組織SRの会(ど素人の私などは秘密結社的なイメージすら抱いていたけれど、実は公に活動をしているらしい)も、このような砕けた作品にすら触手を伸ばしているというか、意外に守備範囲が広いのには少々驚きました。そしてその慧眼の鋭さにも。さすがSRの会に取り上げられるだけのことはあります。面白いですね。

新刊は入手困難な本作ですが、これはお勧めできる一作です。軽いと言えば軽いですが、そして誰かの言を借りるなら西尾維新に似た作風かとも思いますが、取り敢えず読んでいる最中は夢中になれます。それは間違いないですよ。
さらに、終盤の畳みかけるような展開と待ち受けるサプライズの波状攻撃に、酔いしれることができます。


No.853 2点 泥棒だって謎を解く
影山匙
(2018/04/30 22:13登録)
四人の幼馴染みの男が再会する。二人は泥棒で二人は刑事だ。それぞれが相棒同士なのだが、勿論お互い現在の境遇は知らない。
程なく刑事の一人桜庭の恋人が殺され、そこから事件は十年前にまで遡り、ひょんなことから刑事が泥棒に情報を提供するようになり、泥棒のコンビが謎解きに挑戦するが。

出ましたよ、久しぶりの2点が。これほどつまらない小説を読んだのはいつ以来だろうというくらい出来は酷いです。どこがそんなに面白くないのかを整理するために、箇条書きで以下列挙してみます。

1.一章のアリバイトリックは手垢が付いているもので、単に焼き直したに過ぎない
2.展開がダラダラしていて起伏に欠け、どこで盛り上がってよいのか分からない
3.人物造形が全くできていない
4.泥棒コンビのセリフの語尾が「~でしょ」「~の」が多すぎて、オカマっぽく生理的に受け付けない
5.4の影響もあり、誰が喋っているのか分からない会話が多すぎる
6.謎を解くとは名ばかりで、ただ事件を追っているに過ぎない
7.伏線や手掛かりなどは皆無
8.連続殺人事件の動機が弱すぎるし、顔を潰す意味も不明

このくらいで勘弁してあげます。これだけあれば十分でしょう。
まあ、どこを取っても褒めるべき美点らしきものは皆無で、これを出版してもいいのか疑問に思うレベルですね。
しかし不思議なことに世評はそれほど悪くないんですよ、何よりこの作品が『このミス』大賞の最終候補に残ったことが私にとって驚愕です。私が間違っているのでしょうか。失礼ながら、お金と時間の無駄遣いでしたね。
この人は専業作家は無理だろうと思っていたら、会社員でした。二作目は書かないほうがいいんじゃないでしょうかねえ。


No.852 6点 やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女
皆藤黒助
(2018/04/26 22:27登録)
元気で子供の頃は男子に混じって遊んでいた女子高生、空木五雨は自分でも嫌になるほどの雨女である。そんな彼女はある日視聴覚室で、謎が多く雨に関することにやたら詳しい雨月先輩に出会う。雨月先輩は五雨自身の名前の謎や、二人の周辺で起こる日常の謎を雨に纏わる蘊蓄を絡めながら解いていく。

全般的に文章が稚拙な印象を受けます。まだまだ作家としての力量に欠ける部分が多いような気がします。ただ、お話としてはとても素敵な短編が並んでおり、一般読者にはそれなりに受け入れられると思います。
また雨に関しての様々な蘊蓄はまあ、なるほどなとはなりますね。しかしミステリとしてはいささか弱く、二話などはある程度先の展開が読めてしまうのがどうにかならんのかって感じがします。しかも一話、二話ともに強引な感は否めません。かなりのご都合主義だと思いますね。

本領を発揮するのは三話ですよ。これは良いです。五雨の幼少時に起きた事件と雨月先輩がリンクしての意外な展開、そして二人の持つ謎が鮮やかに解きほぐされます。
それぞれのキャラはまずまず立っており、その意味でも楽しめる作品だとは思います。小難しい本格ミステリに疲れた時の箸休め的な癒しとしては持って来いではないでしょうか。読後雨が好きになるかどうかは?だと思いますが、より身近に感じるようになるのは間違いないです。


No.851 8点 アルファベット・パズラーズ
大山誠一郎
(2018/04/23 22:29登録)
かなり以前から、おそらく10年位前から気になっていた作品。いやあ、読んでよかったですよ。Amazonでは賛否両論のようですが、あらあらこちらでも似たような現象が起こっているとは。

確かに文章はお世辞にも上手とは言えません。無味乾燥な感じで、翻訳物にも近いようなやや取っ付きにくい面はあります。さらに言えば個性や魅力がほぼ感じられないキャラ達も感心しませんね。しかしながら、いずれ劣らぬトリッキーなパズラー作品は、短編3作を読み終えた時点で7点は堅いなと思いました。
この連作短編集にはリアリティを求めてはいけないということは、タイトルからも分かりますよね。作者もこんなふうに思っているのでは?そんなものはクソ喰らえなんだと、こっちはパズルを解いて欲しいからミステリを書いているんじゃ、と。そうした意気込みや情熱を感じ取れるかどうかで、評価は分かれるのではないでしょうかね。ミステリはこんなものではないんだという意見も分からないではないですが、そこを大目に見てこの点数です。

というか、一にも二にも本作をこの点数に押し上げたのは最後の中編『Yの誘拐』ですね。本作のみで長編だったら9点を献上しても吝かではないくらいの傑作だと私は思います。
誘拐物の本質はサスペンスにあると個人的には考えますが、この作品はそこを飛び越えて本格ミステリとして堂々と屹立しております。面白いです。他の方の指摘するような瑕疵も少なからずありますが、それを加味しても十分鑑賞に堪えうる逸品ですよ。今までなぜ読まなかったのかと自分を責めたくなる程の衝撃でした。


No.850 5点 閻魔堂沙羅の推理奇譚
木元哉多
(2018/04/19 22:35登録)
確かにメフィスト賞受賞作にしては大人し過ぎる感じがします。ありきたりというか、意表を突いたところがどこにもなくて、正直新味という点においてもそれ程とは思えません。死亡した人間自身が己を死に追いやった犯人を推理するという趣向に新たなパターンを盛り込んだに過ぎず、特に沙羅が出てくるまでがかなり退屈な感は否めません。肝心の推理もまあごく普通の人間がおこなうわけであって、それほど複雑なトリックなども存在しません。しかし、10分で謎を解かなければならないという縛りの割には、スムースに解決してしまうのは、やや不自然というか無理があるようにも思います。

BLOWさんのご書評通り、完璧なるワンパターンで、しかも完全な予定調和でもあります。その為安心して読めるのは良いですが、意外性は全くありません。そこが残念ですね。ただ沙羅のキャラはなかなか魅力的だとは思います。シリーズ化されるのも分からないではないですが、安易に過ぎるのではないかという気もします。はっきり言って、本格ミステリをこよなく愛する読者にはかなり物足りないのではないかと思います。

第二弾に期待したいところですが、次はもう少し捻りを加えた本格的な謎解き、それもシリアスなのを一つくらい加えていただけると良いのではないでしょうか。例えば刑事や探偵が死者となって推理するとか。でないと、すぐに飽きられますよ。そして『奇譚』の名が泣きます。


No.849 7点 少女ノイズ
三雲岳斗
(2018/04/15 22:33登録)
このタイトルとあの表紙、当然爽やかな青春ミステリを想像していましたが、相当認識が甘かったです。ゴリゴリの本格ミステリとは言いませんが、かなりの本格派だと思います。しかも、様々なタイプの短編を用意して読者を楽しませてくれます。僭越ながら解説で有川浩氏が書かれているような、「ミステリにかこつけて二人の恋を書きたかった」という意見には賛同できません。どちらかと言えば、恋愛控えめの本格ミステリだと私は思いますね。

確かに、淡い恋心が垣間見えるシーンも時折ありますが、ミステリファンにとってそれは二の次でしょう。全ての作品に魅力的な謎があり、それを論理的或いは合理的に解決に結びつけている手腕は確かなものがあります。伏線も全くないわけではなく、唐突に探偵役の少女斎宮瞑が謎解きを始めて読者を置き去りにすることはありません。もうそれだけで私は満足です、他には何も望みません。最後の『静かな密室』だけは何それ?となりましたが、それもまあ私の見識が足りなかったとも言えるので、作者には何の咎もありません。

ラストシーンはとても良いです。美しく、情景が浮かんできます。瞑の初めてのはっきりした意思表示に心奪われます。装画がこれしかないという本当の意味を、ここでようやく知ることができます。


No.848 3点 警視庁陰陽寮オニマル 魔都の貴公子
田中啓文
(2018/04/10 22:24登録)
本書は講談社ノベルズから出版された『鬼の探偵小説』を、版元を角川に変えシリーズ化したものの、シーズン2の第一弾です。ややこしいですが、要するにオニマルの第2シリーズってわけですね。

『土俵の鬼』では相撲界の不祥事など旬の話題を取り込んで、読者に迎合しようとしているのかもしれませんが、成功しているとはお世辞にも言えません。トリックとかプロットとかの以前の問題ではないかと思います。凄く退屈です。
土俵の中から出た溺死体に河童騒動を絡めていますが、どちらも拍子抜けするほどくだらない真相ですね。これはいけません。

『人形は見ていた』は文楽の世界に次々と起こる怪事件の数々を陰陽道の力で解決しようとする物語ですが、こちらもかなり酷い出来です。謎だけを並べれば面白そうですが、全然面白くありません。御池薔薇子という、あの方を彷彿とさせるような府知事も登場します。ただそれだけですが。

個人的には『鬼の探偵小説』が結構楽しめたので、それなりに期待していましたが、見事に裏切られました。アメリカ帰りでハーフの陰陽師、ベニー警部と本物の鬼であることを隠して警視庁陰陽寮に勤務する刑事鬼丸のコンビに全く魅力が感じられず、キャラクター小説としてもつまらないですし、ミステリとしてもひとつも特筆できる点はありません。よって久しぶりの3点という不名誉な点数を進呈します。
読後、即古本屋行き決定です。さようなら~。


No.847 7点 ナミヤ雑貨店の奇蹟
東野圭吾
(2018/04/06 22:13登録)
これが日本を代表するミステリ作家の底力か、という気もします。
時空を超えるナミヤ雑貨店に悩みを打ち明ける側と、それに対する解決法を何とか捻り出そうとする相談される側、双方にドラマがあり読みどころとなっています。さすがに描写力が半端なく優れており、そのストーリーテラーぶりは素晴らしいと思います。
しかし、ややもすると技巧に走り過ぎるきらいがあり、どこにポイントを置いて読めばいいのか悩んでしまう一面もありますね。私だけなのかもしれませんが。

とにかく物語があちこちに飛び、長編としてはやや纏まりに欠けるような感じがなくもないですが、それぞれのエピソードが一々面白いので、最後まで楽しく読めます。
個人的には第二章の『夜更けにハーモニカを』が最も良かったと思います。これだけで一つの短編として大変優れた独立した作品とも言えます。

ラストも仄かな余韻を残す締めくくりとなっていて、いい話だったとじんわり胸に響く感じの、本作を象徴するようなエンディングです。取り敢えずあまり東野圭吾を読まない私が読んでみようという気になったのだから、やはりこの作品にはそういった吸引力のようなものが備わっているのではないかと思います。


No.846 5点 いなくなった私へ
辻堂ゆめ
(2018/04/01 22:29登録)
巷で人気のシンガーソングライター(ママ)、上条梨乃が意識を取り戻した時、彼女は渋谷らしき繁華街のゴミ捨て場にいた。しかし、道行く人間の誰も自分に気づかない。有名人であるはずの自分になぜ?さらに、彼女は昨夜自宅のマンションから飛び降り自殺をしたことを知る。では私はいったい誰なのか、自分が上条梨乃であることは自分が知っている。それは間違いないはず・・・。
街を彷徨っている時、初めて自分に気づいてくれる青年が現れる。そして、彼女の自殺が原因で命を落とした少年(彼も彼女の正体に気付く)に出会い、彼ら三人は梨乃が自殺したにもかかわらず、どうして生きているのかを探り始める。

このようなストーリーで最も興味を惹かれるのは、やはり生き返りよりも、なぜ誰も梨乃の正体に気づかないのか、そしてなぜ二人だけが彼女だと知ったのか、という点だと思います。しかし、残念ながらこの小説はミステリではなくファンタジーなので、そこに重きは置かれないのです。その謎が解明されたとき、ミステリ読みとしてはがっかりさせられます。多くの方がそんなはずじゃなかったのに、と思うでしょう。
しかし、その他の謎や自然に湧き起る疑問には一応破綻のない解法が与えられるような仕組みにはなっています。ですが、いかんせん冗長気味で、前述の最も肝心の謎が一向に解かれる様子がないのにはいら立ちを隠せません。

長尺のわりにさしたる盛り上がりもなく、どこか漠然とした印象を受けます。これといったサプライズもなければ、ファンタジーらしい壮大さも感じられず、全体的に小ぢんまりと纏まってしまっているような凡庸さが目立ちました。結局最後はいい話で終わっているのもどうかと思いました。


No.845 6点 どうか、天国に届きませんように
長谷川夕
(2018/03/28 22:20登録)
誤解を恐れずに言うならば、乙一を詩的にしてマイルド感を与えたような作風の短編集です。ホラー要素を加味したサスペンスでしょうか。

正直、半分はジャケ買いでした。装画はおそらく『黒い糸』の、冬の細かい雨がそぼ降る都会の片隅に、一人彷徨う青年の姿を描いた情景だと思います。良い味を出しています。その第一話『黒い糸』を読み終えたときは、7点を献上するかもと思いましたが、残念ながら次第にトーンダウンしてしまい、この点数に落ち着きました。
それにしても集英社オレンジ文庫から刊行された本作品は、ラノベレーベルにしては怖いです。表層的なものではなく、壊れていく人間の本質的な怖さがじわじわと迫ってくるようで、背筋が寒くなります。
読みやすいので引っかかりませんが、よくよく考えればある人物が狂気に取り込まれていたり、現実的にはあり得ない現象をさも当たり前のように描いている辺りは、普通のホラー作家ではまず想起しないであろう奇想が見られます。

最終話でそれまでの二作を裏側から捉えられていますが、これは若干蛇足だったように思えます。描かれる視点が異なるだけで、世界が反転するわけでも意外な事実が明らかになるわけでもありません。
惜しかったですね、すべてが第一話レベルだったら称賛を送るのに吝かではなかったでしょう。


No.844 5点 探偵女王とウロボロスの記憶
三門鉄狼
(2018/03/26 22:03登録)
女学院の旧部室棟からの少女転落、からの人間消失、からの死者の蘇りという、豪華絢爛な大風呂敷を広げ。そしてあまりにもあっけない解決編。嫌が上にも読者の心情を盛り上げておいて、突き放す、そのツンデレぶりにはいささか辟易とさせられました。
冒頭は良い感じで進行して、内心これは期待できると思いましたが、事件が明らかになり女生徒たちへの聞き込み等を読み進むにつれ、次第にアラが目立つようになります。アラというか、全体的に雑で荒削りな感じが否めません。
権威効果とソースモニタリングエラーとか言われても、納得できませんね。人間の記憶というのはそんなに曖昧なものではないと、個人的には思います。集団心理と言ってしまえばそれまでですが、発想が飛躍しすぎではないでしょうか。


【ネタバレ】


とか思っていたら、ラストであまりに突飛な事実を突きつけられます。ここで驚愕するべきなのかもしれませんが、私は拍子抜けしてしまいます。そういうオチか!とんでもない食わせ者ですよ。あり得ないことが起こります。なんとか読者を丸め込もうという意気込みが、逆に物語全体から浮いてしまう結果に終わっている気もします。
せめてここで多少なりともカタルシスを得られれば、終わりよければってことになったんでしょうけどねえ。まあここは読者によって温度差が顕著に現れるのではないかと思いますが。


No.843 6点 晴れた日は図書館へいこう ここから始まる物語
緑川聖司
(2018/03/23 22:12登録)
小学五年生の茅野しおりの日課は、年の離れたいとこの美弥子が司書をしている雲峰図書館へ通うことである。本が大好きな彼女の周りには不思議な出来事であふれている。しおりと美弥子はそれらの日常の謎に、優しい仲間たちと共に挑む。

本書は2010年12月に小峰書店より刊行された『ちょっとした奇跡 晴れた日は図書館へいこう(2)』を改題し、加筆・修正のうえ、書下ろし短編「九冊は多すぎる」を加え、文庫化したものです。と奥付の前のページに但し書きしてあります。

児童書であろうと「日常の謎」であろうと、内容がしっかりしていればミステリとして十分魅力のある読み物になり得るという、見本のような作品です。ここまで完成度が高ければ、むしろ大人が読むべき小説なのかもしれないとも思います。
作者は「日常の謎」が実は苦手らしいのですが、とてもそうは思えないような短編ばかりです。視点が小学生のせいか、どこか懐かしいような感慨に浸れます。各所にみられる美しい情景描写も臨場感があり、全体的に優しさを湛えた、心揺さぶられる作品集なのではないかと感じます。
おまけの『九冊は多すぎる』は名作『九マイルは遠すぎる』へのオマージュであり、各短編の主要登場人物が一堂に会し、それぞれの推理を戦わせる、ちょっと気の利いた作品です。
取り敢えず、前作も読んでみようかと思わせるのには十分な、楽しい連作短編集でした。

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