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ミステリの祭典

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六人の赤ずきんは今夜食べられる

作家 氷桃甘雪
出版日2018年05月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 6点 八二一
(2022/01/17 20:29登録)
基本的にパニックホラーの構造ながらも、巧みな情報開示で読者の認識を欺く手さばきは本格ミステリ流。

No.2 6点 メルカトル
(2018/11/12 22:07登録)
面白かったですよ、えぇ、えぇ。ブラックメルヘン的なファンタジーとして、ですけどね。もう一捻り欲しかったなと思うのは、一ミステリファンとしての無い物ねだりに過ぎないのは分かっているんですよ。主人公がある疑問を持ってからの推理はまあ普通になるほどと思いますが、結局最後は偶然に頼っているのがどうもねえ。

ストーリーは猟師の主人公が六人の赤ずきんを、巨大な狼から守るというシンプルなものでありながら、それぞれの赤ずきんの特性を生かした攻防や、そう来るかと思わず唸らされる最終局面など、さまざまな工夫が凝らされて最後まで飽きずに読めます。またサスペンス性に優れており、途中でダレることもありません。

ただ、人並さんが触れられているように、もう少し赤ずきんの書き分けというか、個性がきちんと立っていればもっと読者の琴線に触れるような物語に仕上げられたのではないかと思います。チューリップずきんやツバキずきんが目立ちすぎ。他はあまり印象に残らないといった感じで。
でも全体的には好感は持てました。ラノベだから差別するわけではありませんが、なかなかどうして文章もしっかりしているし、今後に期待できるんじゃないでしょうか。

No.1 6点 人並由真
(2018/06/30 00:30登録)
(ネタバレなし)
 とある世界。「私」こと一人の若き猟師は、かつて成り行きから無辜の人々を殺戮する凶行に加担。やがて己の非道を恥じて一人の少女を守ろうとしたが、結局はその小さな命を救えなかった悔恨の過去があった。贖罪のためにあてもない旅を続けてきた猟師は今、ある村を訪れ、そこでは「赤ずきん」と呼ばれる歴代の特殊技能の少女たちが高価な魔法の秘薬を生成し、村の繁栄を担っていることを知った。だが今度の赤い月の夜、現在は6人いる赤ずきんに狼の魔物「ジェヴォーダンの獣」が迫り、全員を食い殺すという。村人は頼りにならないと見た猟師は、村の廃墟である「お后様の塔」に6人の赤ずきん(バラずきん・リンゴずきん・チューリップずきん・ザクロずきん・紅茶ずきん・ツバキずきん)とともに籠城し、彼女たちを守ろうとする。だがその6人の赤ずきんのなかの誰かが、魔獣を手引きする魔女の化身である事実が判明して……。

 ダークメルヘン&スリラー(ホラー)的な設定のなかで語られる「誰が魔女なのか」を最大の主題にした謎解きフーダニット。同時に6人の赤ずきんの秘薬にはそれぞれ物質を無臭にする、透明化させる、硬化させる……などなどの一定の魔法的な効果があり、その効用を活かして魔獣からの逃亡と敵との対決を図る、そんなスリリングなデスゲーム性も物語の大きな興味となっている。
 異世界集団の仲間のなかで誰が悪のキーパーソンかのフーダニットといえば『六花の勇者』という著名な先例があるが、そこはやはり本書の書き手も意識したらしく、ひとつふたつさらに別の謎解きの趣向を設けているのはさすが(ネタバレになるのでここでは詳しく書かないが)。

 とはいえ設定も大筋もなかなか面白いんだけど、ヒロイン6人の書き込みがかなりバラバラで、主人公が特化して縁を感じる「バラずきん」やキャラクターの奇矯さがめだつ「ツバキずきん」(←個人的にこの子はかなり魅力的・笑)や「チューリップずきん」などはともかく、「紅茶ずきん」あたりの地味キャラの存在感の希薄なこと。作者の「推し」の深浅の差がモロに出てしまった感じで、この辺はもう少し何とかならなかったのかという思いが強い。
 ちなみに肝心の謎解き部分は伏線や手がかりを意識的に設けてあるのはとても良いのだが、そのロジックを支える異世界の法則性や現実に通じる常識的な情報の提示のこなれが悪い。マジメにしっかりとパズラーをやりたい気概はわかるんだけど、ここも、もうちょっと推敲して欲しかったという印象。

 それでもこの世界観での謎解きサスペンスの手応えは相当のもので、後半~終盤、事態の全容が徐々に見えてくる際の異様な迫力も味わい深い。手放しで「傑作」「優秀作」と誉めるには一つ二つ足りないが、変格設定のパズラーとしては十分に及第点だと思う。
 構成力と筆力もかなり期待できる感触があるので、次回はまったく違う物語設定での広義の謎解きミステリなどに挑戦してもらいたい。

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