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ミステリの祭典

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犯罪者 クリミナル
鑓水七雄シリーズ

作家 太田愛
出版日2012年09月
平均点7.67点
書評数3人

No.3 8点 take5
(2024/07/20 17:22登録)
脚本家、太田愛氏の小説デビュー作品。
上下巻1000ページがダレる事なく進む
その筆力に脱帽。冒頭の通り魔事件、
そのスピード感に名作の予感。主人公
3人の人物も次第に輪郭がはっきりして
絵が浮かぶようです。犯罪者側の得体の
知れなさがあれに似てるな~と思ったら
帯には書いてあるそうです。ディーバー
級というお勧めが(私は図書館本につき
帯なし)。
通り魔事件の他にも、政財界の癒着や、
政治のパワーバランス、食品安全問題、
市民運動、裁判の大変さ等、多くの話題
を含む満足度の高い読書となりました。
次の作品からも、主人公3人がそれぞれ
中心となっていくという事で楽しみです。

No.2 8点 HORNET
(2019/10/22 09:30登録)
 駅前広場で人待ちをしていた5人が暴漢に襲われる。4人は次々に殺されたが、最後の1人・繁藤修司の抵抗を受けて犯人は逃げ出し、やがて近くでヤク中毒で死んでいるのが発見された。イカれたヤク中の通り魔事件として処理されかけた事件だったが、ただ一人生き残った修司のところに一人の男がやって来て「あと10日、生き延びてくれ。君が最後の一人なんだ」と必死の形相で訴えていく。これは単なる通り魔事件ではない、狙われた5人は偶然ではない―?
 その言葉を裏付けるように、修司は自宅で再び襲われる。所轄の刑事・相馬は間一髪でその場に間に合い、修司を救うものの、襲った男には逃げられてしまう。事件には大きな背景があることを感じ取った相馬は、悩んだ挙句に旧知の鑓水七雄を頼ることに。鑓水、相馬、修司の3人が、背後の巨悪に立ち向かう。

 さすが脚本家出身、というのだろうか、臨場感のある展開が上下巻尽きることなく続けられ、圧倒的なリーダビリティである。「あと一歩遅かったら、命はなかった」のような紙一重のタイミングが多いのも、ある意味テレビ的な感じはするが、話の作りも非常にしっかりしているので安っぽくは感じない。
 食品会社の重大な過失から「それが生んだ奇病と被害者」「隠蔽しようとする業界関係者と政治家」「正そうとする内部社員」といった各立場が生まれ、それぞれの立場の人間描写も非常に読み応えがある。
 鑓水ら3人組の活躍もさることながら、社会・組織の中で人としての矜持を貫く真崎省吾と中迫武の2人の姿が非常に印象的だった。

No.1 7点 メルカトル
(2018/10/23 22:23登録)
白昼の駅前広場で4人が刺殺される通り魔事件が発生。犯人は逮捕されたが、ただひとり助かった青年・修司は搬送先の病院で奇妙な男から「逃げろ。あと10日生き延びれば助かる」と警告される。その直後、謎の暗殺者に襲撃される修司。なぜ自分は10日以内に殺されなければならないのか。はみだし刑事・相馬によって命を救われた修司は、相馬の友人で博覧強記の男・鑓水と3人で、暗殺者に追われながら事件の真相を追う。
『BOOK』データベースより。

作者はTVドラマ『相棒』などの脚本を手掛けているシナリオライターですが、作家としてはこれがデビュー作です。しかしその完成度は高く、まるで映画を観ているように情景が浮かび上がってきます。

通り魔事件はほんの発端に過ぎず、それからの展開は目まぐるしく変化し、文庫本で1000ページ近い大作とは思えないほど密度の高い作品に仕上がっていると思います。
主人公の三人は勿論ですが、ほんの端役のエピソードでさえおろそかにせず、しっかりと描き切っています。その辺りは脚本家としての素養を存分に発揮しているのではないでしょうか。
大企業の隠蔽体質や政治家との癒着、奇病に対する世間の偏見や好奇の目、被害者遺族への対応などの社会問題にサスペンスやアクションを絡めた本作は、社会派、本格などの枠を超えたエンターテインメント小説として昇華されています。

最後までダレルことなく楽しめます。ただ、終盤やや消化不良気味なのが気になりますが、総てをハッピーエンドに終わらせず、これが現実なのだという厳しさと虚しさ、そして新たな出発と、ささやかな希望が最後に訪れ、何とも言えない余韻を残します。

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