メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1915件 |
No.1855 | 5点 | 狂乱家族日記 拾参さつめ 日日日 |
(2025/02/10 22:22登録) 乱命、銀夏、千花三人の「恋」の行方は!? 不解宮の「正義」に反旗を翻した"不死の鬼"黄桜乱命が、大日本帝国の悪を結集して作り上げた巨大カジノ「正夢カジノ」。そこで行われた支配者決定賭博「極悪ギャンプル☆第七天獄」で敗北した乱命は、凶華の肉体=破壊神SYGNUSSを拉致し、次なる計画「鬼ヶ島計画」を発動する。悪党たちの楽園と化した正夢カジノ改め「鬼ヶ島」を舞台にさらなる狂乱が続く! 『狂乱家族日記』新エピソード「裏社会編」後編! まだまだ目が離せない!馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語! Amazon内容紹介より。 またしても一年以上間が空いてしまいました。前作を思い出しながら読みましたが、いつの間にか凶華がサッカーボールになっていたのには、そんなエピソードあったかなあと首を捻らざるを得ません。まあそんな事はどうでも良くて、本作は余りにもスケールが大きすぎて、それに筆が追い付いていない感が否めませんでした。新旧含めてキャラが多すぎ、こいつは誰だったのか?みたいな事が起こり過ぎです。 今回は凶華の出番が少なかったので、イマイチ面白みに欠ける印象が強かったですね。狂乱家族がばらけると一致団結感が無くなるので、そこも評価を下げる要因となってしまいました。強いて言えば銀夏のオカマらしからぬ男気が垣間見れたのが救いでした。実質主役級の活躍でしたし、これまでクセの強い他のキャラの陰に隠れて目立たなかっただけに、何となく全体の均衡がとれた感じがして良かったと思います。 |
No.1854 | 7点 | カンブリア 邪眼の章 河合莞爾 |
(2025/02/06 22:25登録) 三鷹の賃貸住宅で若い女性が死亡した。当初は急性心臓死と思われたが、尾島警部補と相棒の閑谷巡査は過去にも同じ部屋で女性の突然死があったことを突き止める。だが怪しいと踏んだ大家・水田をいくら調べても、証拠は出てこない。感じたことのない奇妙な感覚を覚える中、尾島はこの事件の鍵を握る青年と出会い……。 Amazon内容紹介より。 以前も他の作品で書きましたが、この作者はリーダビリティに非常に優れており、今回も一部の隙もなく一切の無駄がない文章は見事としか言いようがありません。丁度良い緊迫感を持って物語は進み、登場人物のそれぞれが個性的で人間も確りと描かれています。 密室も出て来ますが、本格ミステリとは違いますので、トリック云々という話になると残念ながら期待は禁物です。それでも面白いのは、正義感に溢れる刑事達の姿に胸を打たれるからです。最初から最後まで存分に楽しむことが出来ました。 法律で有罪とすることの難しい案件を扱っています。ですから、それじゃ何でもアリじゃんと云った意見も理解出来ますが、本作に於いては其処に眼目が置かれている訳ではないので、その辺り許容できない方は読んでも物足りないかも知れません。特に本格志向が高いほどその傾向は強くなると思いますので、ご注意下さい。それでも私は本書が嫌いになれません、私は好きですね。 |
No.1853 | 5点 | 自殺サークル 山下定 |
(2025/02/02 22:20登録) 2002年に公開された園子温監督の映画『自殺サークル』のノベライズ作品。 いきなりショッキングなシーンで始まる本作は、登場人物が異常に多く次々と自殺事件が起こります。更にはその背後関係に絡む人物やアイドル等がいて、混沌としているのに加えて、ノンストップで進行する為、それらを追うのに必死でなかなか全容を掴ませてもらえません。その裏には何故人々は自殺に走るのかという謎が横たわっていて、これも真相が見えて来ません。どちらかと言うと淡々とした文体で、退屈はしませんが、心に突き刺さるものが不足している感じがしました。 物語が終わっても終わった気がしないのは、やはり良くない事でしょう。これで一件落着してスッキリという訳にはいきません。これと云ったメッセージ性があるでもなく、起こった事象を只々追い掛けました、みたいな印象は最後まで拭えませんでした。 |
No.1852 | 2点 | イデアの再臨 五条紀夫 |
(2025/01/30 22:13登録) 朝起きたら、壁に四角い穴が空いていた。あるべきものがない? これって……世界から■が消えている!? 誰も異変に気がつかない。混乱する僕に突然、金髪の同級生が告げる。「ここは、小説の中の世界。俺たちは登場人物だ」……次々と消されていく言葉、混沌を極める世界で、僕たちは犯人の正体を突き止められるのか!? 紙の本ならではのギミックが炸裂する究極のメタ学園ミステリー、爆誕。 Amazon内容紹介より。 そもそもこの作者はメタの概念を履き違えているとしか思えない、1ミリも面白さが感じられないメタミステリの駄作。実験的な作品を目指したものと考えられますが、それが成功しているとはとても思えない、単なる色物的な何かに落ちてしまっています。別に紙の本じゃなくても再現可能です。 登場人物に魅力がなく、人間らしさも感じられません。主人公に感情移入も出来ず、一体何を読まされているのか、何がしたいのかが理解不能です。ぶっ飛んだ設定が好きな私ですが、流石にこれは許容範囲を大きく超えています。何事もやり過ぎは良くないってことでしょうかね。全然笑えません。いや本当にに笑い事ではなく、全くの時間の無駄でした。まあ反対意見も訊いてみたい気もしますが、誰も読まないと思いますので何ともアレなんですが。 |
No.1851 | 6点 | 有栖川有栖に捧げる七つの謎 アンソロジー(出版社編) |
(2025/01/28 22:46登録) 真正面から挑戦する超絶技巧の本格ミステリから、 女子高に潜入する火村とアリスや 不可解なダイイング・メッセージに挑む 江神たちEMCの面々まで。 Amazon内容紹介より。 青崎有吾は火村シリーズ、無難に纏めた感じ。シリーズ物の空気感は出色。 一穂ミチも火村シリーズ、日常の謎。文芸作家の香り、直木賞受賞者。 織守きょうやも火村、最も異色の怪談話。質より量で勝負も真相は拍子抜け。 白井智之も火村シリーズ、有栖不在のアリバイトリック。出来としては最高。 夕木春央は作家有栖川有栖が嫌いなのに全作読んでいるのは何故?の謎に挑む。動機が弱くイマイチの出来。 阿津川辰海は山伏地蔵坊が登場。なかなか面白い。蝶の標本が死体の周りに埋め尽くされて・・・ 今村昌弘は江神先輩が久々に登場。大学のメンバーが揃って、懐かしさ溢れた好編。 最も優れていたのは白井智之の『ブラックミラー』でしょう。短編とは思えないぎっしり中身の詰まった傑作だと思います。 次点は今村昌弘の『型取られた死体は語る』ですね。学生向けの事件で、ダイイング・トリックかと思わせておいて、という趣向が粋です。 あとは5~6点で、まずまず。夕木春央にはがっかりでした。 |
No.1850 | 4点 | サッちゃんの都市伝説 福谷修 |
(2025/01/23 22:05登録) 「霊」「呪い」「うわさ」など様々な恐怖の要素を持つ都市伝説。あるアドレスに空メールを送ると“恋の神様サッちゃん”からメールが来て恋が叶う。渋谷のコインロッカーに捨てられている赤ちゃんを助けるか、同じ文面を10人に送るかの選択を迫られるチェーンメール。ベッドの下のいるはずのない男。何を撮っても映り込む謎の女の子。廃ビルの窓からこちらを見つめる謎の美女。古道具屋で見つけた安い自転車、人には見えないがその荷台には少女が……。一見なんの関連性もないかのようなこれらの話の陰には、ある存在があった。全てのエピソードの背景にあの「サッちゃん」の影が……。 Amazon内容紹介より。 B級ホラー以下の出来。一応連作短編集と云う体裁を取っていますが、あまりそれぞれの話に関連性は感じません。誰が誰で、どのような人間関係になっているのか、はっきりと把握できないまま読み終わってしまいました。終章だけはちょっと良かったのでこの点数で、それが無かったら3点でしたね。 はっきり言って怖くもないし、インパクトもない。まあ、シリーズ物らしいので一作目二作目を読んでいない身でどうこう言えないのかも知れませんけどね。短いので短時間で読めて、すぐに忘れる、そんな作品集です。しかし、もう少し捻りがあったり、強烈なオチが付いていたりとは行かなかったものでしょうかねえ。そんな感じです。 |
No.1849 | 6点 | 真剣師 小池重明 団鬼六 |
(2025/01/21 22:22登録) プロよりも強いスゴイ奴がいた!“新宿の殺し屋”と呼ばれた将棋ギャンブラーが、闇の世界で繰り広げた戦いと破滅。日本一の真剣師を決める通天閣の死闘など、壮絶な軌跡を描く傑作評伝。 Amazon内容紹介より。 真剣師とはアマチュア将棋で生計を立てる勝負師の事。真剣師小池重明は作中何度も書かれている様な破滅型です。天衣無縫、荒唐無稽、人生そのものが破綻していて、飲む打つ買うの三拍子そろったアウトロー。しかし、どこか人を惹き付けて止まない魅力を持った男でありました。何度も女と駆け落ちし、仕事を転々としながら、最後は雇い主の車を盗んで金庫の中の金を持ち逃げするという、どうしようもない人間ですが、殊将棋に関しては無類の強さを持っており、アマプロ問わず強敵を次々と撃破していきます。将棋など駒の動かし方位しか知らない私でも、その熱い戦いの数々には胸がスカッとします。 団鬼六など私には無縁の作家だと思っていましたが、何故か積読状態にあった本書に目が行き、初めて手に取った次第です。面白かった、純粋にそう思いました。 真剣勝負と小池の生き様が当分に描かれ、丁度良いバランスで読み手の心を掴んで離しません。軽くもなく重くもなく、適度な緊張感とユーモアの相乗効果で読んでいて飽きが来ません。それにしても小池の強さは伝説級で、夜通し飲み明かした翌日その足で勝負に挑み、難なく勝ってしまい、「この時こう打っていたら勝負は分からなかった」などと飄々と感想戦で語ったりと、人間として愛され同時に嫌われた伝説の真剣師であったのです。 |
No.1848 | 7点 | たったひとつの、ねがい。 入間人間 |
(2025/01/17 22:30登録) 今日、俺は思い切って結婚を彼女に持ち出してみた。その瞬間。あんな――あんなことが起こるなんて。それから、僕のもう一つの人生は始まった。 Amazon内容紹介より。 入間人間と云う作家は『探偵・花咲太郎は閃かない』の様な駄作を書くかと思えば、本書の様な秀作を書くのだから油断なりません。個人的には大変面白かったとしか言えません。特にプロローグとエピローグが。ただ推測に過ぎませんがプロローグの途中で脱落者がかなり出そうな感じはします。まあそういった小説ですよ。察してください。内容に関しては書きません。まっさらな状態で読んで頂きたいと思いますので。 四章では驚かされ、エピローグではそれまでややモヤモヤしていて物が回収され、ああそうだったのかと衝撃を受けました。 長きに亘って積読状態だった本作は、漸く私の目にとまり日の目を見ました。良かったね、と自分自身にも本書にも語り掛けたい衝動が止まりません。本当に読んで良かったと思わされる作品でしたね。 |
No.1847 | 8点 | 二人目の私が夜歩く 辻堂ゆめ |
(2025/01/15 22:39登録) これは何を書いてもネタバレになるので、書評の書き様がありません。ただ、途中で何度も「え?」となったのは間違いありません。 人間もよく描かれており、特に主役の二人の心理描写は手に取る様に鮮明に脳内に浮かんできますね。 こういうのが嫌いな方も結構多いというのは想像に難くないです。 でも、何でもいいから面白い小説を、という人にはお薦めです。ジャンルとしてはその他でも良いと思いますが、どちらかと言うとサスペンスではないかと言う気がします。 取り敢えず多くの方に読んでもらって、色んな感想をお聞きしたい作品ではあります。高評価は伊達ではないと確信しています。 |
No.1846 | 6点 | 大樹館の幻想 乙一 |
(2025/01/12 22:11登録) ーー決して解かれえぬ謎と共に炎に包まれ、この世から消え去った「大樹館」。 この館に住み込みの使用人として働く穂村時鳥は、「これから起こる大樹館の破滅の未来」を訴えるおなかの胎児の声を頼りに、その未来を塗り変える推理を繰り返すがーー!? Amazon内容紹介より。 持ち前の切ない作風を封印した乙一の、初挑戦館ミステリ。とは言え一筋縄では行きません。大樹館の家政婦時鳥(ほととぎす)は未来から来たと云う胎児の声と共に事件解決に挑んでいきます。名前も与えられていない御主人様、幽霊が見える少年、樹齢何千年の大樹をそのまま取り込んだ館等いわゆる特殊設定物と捉える事も出来ます。しかし実際は繰り返し差し挟まれる図解に表れる様に、ガチガチの物理トリックを駆使した本格ミステリです。 ただ、読めども一向に盛り上がらない展開には冗長さと退屈さを覚えました。それでもメインとなる密室トリックの要はある○○を応用したものではあるものの、考え尽された新味を含んだ物理トリックと言っても良いと思います。これには素直に感心させられました。 多少のアクセントとなる蘊蓄も楽しく読めました。期待通りとはいかなかったものの、乙一の新たな可能性を感じ取る事は出来ました。 |
No.1845 | 6点 | 神探偵イエス・キリストの冒険 清涼院流水 |
(2025/01/01 22:01登録) 名探偵は、イエス・キリスト! 神の死の謎を筆頭に、2000年間秘められていた聖書の謎を大胆に解き明かす空前絶後の本格聖書ミステリ。 「すべてを見抜くのは、だれか? 神探偵のわたしである。はっきり言っておく。どれだけふしぎに見える事件も、神探偵にとっては謎ではない。神探偵の目に映るのは真実のみ」 Amazon内容紹介より。 いつの間にかクリスチャンになっていた著者があとがきで自分史上最高傑作と書いていますが、それ程でもないと思います。ストーリーとしてはそれなりに面白いのですが、ミステリとしてはトリックが弱いのが残念なところです。 ヨハネの福音書を叩き台にしているのは、ヨハネ自身の一人称で描かれている事からも分ります。イエスの誕生から十字架に磔にされ処刑され、その後奇跡の復活を遂げるまでに起こる事件を扱っています。 最初の葡萄酒事件のトリックは意表を突くものでしたが、その後は現代では考えられない様なものばかりで、イエスが奇蹟を起こしたり、生身の人間ではありえない現象が起こるので、流水大説の限界を見た気がして残念な気持ちになりました。 まあこれまでで最も「真面」な小説であるのは否定しませんが。Amazonの評価は高すぎると思いますね。 |
No.1844 | 7点 | 再愛なる聖槍 由野寿和 |
(2024/12/28 22:11登録) 妻との離婚以来5年ぶりに会った愛娘とともに、 テーマパーク・ドリームランドを訪れた元刑事の仲山。 楽しい時間は束の間、2人が観覧車に乗った直後、 何者かによって観覧車が乗っ取られ、人質となってしまう。 「小人」を名乗るジャック犯に連絡役として指名された仲山と娘・凛の運命やいかに。 そして、地上で事件解決の指揮を執っている貝崎は、5年前のクリスマスイヴに起こった 未解決事件に関して互いの秘密を握り合う因縁の相手で――。 絡み合う二つの事件とそれぞれの思惑。 ドリームランドを象徴する巨大観覧車に隠された衝撃の真相とは。 Amazon内容紹介より。 只の虚仮威しではありません。スケール感はそれ程壮大な訳ではありませんが、それよりも緻密な構成と主要登場人物の心理描写が光る逸品です。ただ、所々言葉のチョイスや語彙の貧困さが目立つのが欠点と言えば欠点でしょうか。お前が言うなというか、私の方が余程文章が稚拙なので人の事は言えませんが、一応相手はプロの作家なのでね。 サスペンスの割にはミステリ要素も結構あり、伏線回収やタイトルの意味が最後の最後で理解できる仕掛けになっています。 前述したように文体にやや難があるものの、決して読み難い訳ではなく、一般読者にも広く受け入れられる作品だと思います。ポイントとしては過去に何があったのか、です。その因縁が絡み合って生々しい人間関係が生まれ、それぞれの立場から事件を起こした者と、何故このような大仰な観覧車ジャックなどを実行したのか、犯人は誰なのか、この事件の裏に何があるのかを追う警察の対立が一番の読みどころです。そして最後に残るのは正義か愛か・・・。など興味が尽きません。 |
No.1843 | 7点 | 黒い糸 染井為人 |
(2024/12/24 22:28登録) 千葉県松戸市の結婚相談所でアドバイザーとして働くシングルマザーの平山亜紀は、仕事で顧客とトラブルを起こして以降、無言電話などの嫌がらせに苦しめられている。 亜紀の息子・小太郎が通う旭ヶ丘小学校の6年2組でも、クラスメイトの女児が失踪するという事件が起きていた。 事件後に休職してしまった担任に替わり、小太郎のクラスの担任を引き継いだ長谷川祐介は、クラス委員長の倉持莉世から、クラスの転入生の母親が犯人だという推理を聞かされて戸惑うが、今度はその莉世が何者かに襲われ意識不明の重体となってしまう。 特定のクラスの周辺で立て続けにおきる事件の犯人は同一なのか、またその目的とは。 Amazon内容紹介より。 かなり込み入った話を見事に捌き、混乱を招かない様に優しく書き切った手腕には拍手を送りたいと思います。終始不穏な空気が漂う中、次々と起こる事件、二つのパートからなる構成、つい読み続けてしまいたくなる牽引力は最後まで保ち続けています。怪しげな人物は、こいつしかいないと私の勘は告げていますが、アリバイがあったりして決定打が決まりません。 そんな魅力溢れた本作ですが、唯一弱いのが警察の存在でしょう。日本の警察の捜査力はこんなものではない筈。しかし、警察の介入があっては成立しない物語なので、どうしても二の次になってしまうのは避けられなかったようですね。 それでも最終盤のあれやこれの黒い糸が繋がっていくクライマックスは強烈で、採点はオマケでこの点数に。作者の文章を紡ぐ力は本物だと信じたいですし、他の作品も、特に今評判の『正体』は早く読みたいですね。 |
No.1842 | 7点 | 死んだ木村を上演 金子玲介 |
(2024/12/21 22:31登録) 啓栄大学演劇研究会卒業生の元に届いた脅迫状。 『誰が木村を殺したのか、八年前の真実を知りたければ、2024年1月9日14時、雛月温泉の宿・極楽へ来い』 集められたのは、庭田、咲本、羽鳥、井波の4人。 木村が死んだあの日の夜、劇研4年生だった皆には、それぞれ秘密にしていることがあったーー。 Amazon内容紹介より。 前半の茶番劇は何だったのか、これと云った伏線が張られている訳ではなく、個々人のアリバイの有無が後で効いてくる位の役目しか果たしていないのが悔やまれます。この部分で死んだ木村の心境や人となり等がある程度は掘り起こされてはいますがね。 しかし、終盤に差し掛かる辺りの怒涛の展開というか、四人による口論は凄まじいものがあります。誰が木村に引導を渡したのか、全く予断を許しません。 クライマックスも含めて全体的に荒削りな点はあると思いますが、読み終えれば木村役を含む死の当日の再現は、そういう事だったのかと納得が行きました。そしてミステリファンには嬉しいある仕掛けが施されており、この時点で8点もアリかと思われましたが、これからが本番だと気合を入れたところ、呆気なく終わってしまい非常に残念です。 まあそれでも大変な異色作であるのは間違いなく、ただ読み手によって評価がかなり分かれそうな気がします。個人的には好みの範疇で、作者の才能が前作同様垣間見られたのは良かったと思います。この人はまだまだ何か色んなことをやってくれそうな予感がします。 |
No.1841 | 7点 | クリスマス・プレゼント ジェフリー・ディーヴァー |
(2024/12/18 22:30登録) 原題は「Twisted」。つまり、「ひねり」。その名のとおり12の短編、全てにどんでん返しが仕込まれている。スーパーモデルが選んだ究極のストーカー撃退法、オタク少年の逆襲譚、未亡人と詐欺師の騙しあい、釣り好きのエリートの秘密の釣果、有閑マダム相手の精神分析医の野望など、ディーヴァー度が凝縮された一冊。あのリンカーン・ライムとアメリア・サックスが登場する「クリスマス・プレゼント」は書き下ろし。「ジョナサンがいない」「ウィークエンダー」「サービス料として」「ビューティフル」「身代わり」「見解」「三角関係」「この世はすべてひとつの舞台」「釣り日和」「ノクターン」「被包含犯罪」「宛名のないカード」「クリスマスプレゼント」「超越した愛」「パインクリートの未亡人」「ひざまずく兵士」の全16篇。 帯には「どんでん返し16連発」とありますが、着地が鮮やかに決まっているものもあれば、そうとも言いきれないものまで様々で、評価が難しいです。まず唯一の書下ろしで、リンカーン・ライムが登場する表題作は、まあまあとしか言いようがありません。安定感はあるものの、驚きという点ではイマイチ。 個人的な好みとしては、『ウィークエンダ―』『釣り日和』『被包含犯罪』『超越した愛』『パインクリートの未亡人』『ひざまずく兵士』が良かったですね。なかなかの反転を味わえます。そして何と言っても素晴らしいのが『三角関係』でしょう。そう来るかと思わず唸らされました。読んでいる途中とは全く違った角度から描かれているのに、驚きを隠せませんでした。 長いですが、一読の価値はあると思います。 |
No.1840 | 7点 | 少女には向かない完全犯罪 方丈貴恵 |
(2024/12/13 22:15登録) 黒羽烏由宇は、ビルから墜落し死につつあった。 臨死体験のさなか、あと七日で消滅する幽霊となった彼は、 両親を殺された少女・音葉に出会う。 彼女は、出会い頭に彼に斧を叩き込んで、言う。 「確かに、幽霊も子供も一人じゃ何もできないよ。 でも、私たちが力を合わせれば、大人の誰にもできないことがやれると思わない?」 Amazon内容紹介より。 間違いなく力作だと思います。特に第四章とエピローグは圧巻でした。しかし二転三転する多重推理がくどくて途中でちょっと、それはやり過ぎじゃないのかと思いました。せっかく驚きの犯人にまで到達したと思ったら・・・だし。最後までこのテンションが保ち切れなかった印象で、もう誰が犯人でもいいじゃん、みたいな感じになっていまいました。どの推理にも絶対的な必然性が感じられず、その意味では説得力に欠けるのがやや残念でした。 それでも怒涛の、畳み掛けるような展開はそれまでのスローテンポを凌駕しこの趣向が好きな読者には、堪らない魅力を与えるものと思われます。最終章の中盤あたりで、これは8点でもというのがチラッと脳裏を過ぎりましたが、解決編をやや引っ張り過ぎて、逆効果になってしまったのが惜しまれます。 ところで、この人は麻耶雄嵩のファンでしょうか。大学の後輩ではありますが。 |
No.1839 | 7点 | 禁忌の子 山口未桜 |
(2024/12/08 22:14登録) 救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。 Amazon内容紹介より。 確かに冒頭の謎は強烈なものがあります。しかし、これが医療ミステリである事を考えると自ずと先が読めてきます。その部分がもどかしいというか、予定調和的だったのが残念です。まあマジックではないのだから、自分と瓜二つの男の溺死体と言う時点で、真相は幾つかしかありえない事になりますね。しかし、本作の本領が発揮されるのはここからです。ミステリとしては密室の謎が最大の見せどころだと思います。この辺りのロジックはなかなか堂に入っており、新人とは思えないです。 それよりも、人間ドラマや先端医療の行き過ぎた結果の皮肉さに呆然とさせられます。ですから、本書は本格ミステリである前に医療ミステリなのです。本質はそこにあるので、不可能犯罪とかそういう要素は味付けの一つに過ぎません。 あとどうでも良い事ですが、気になったのは三人称の文章なのに、実質的には武田の一人称であるような書き方をしているところですね。何故終始武田の視点から描かれているのに一人称にしなかったのか、疑問に思います。どう考えても不自然でしょう。 |
No.1838 | 5点 | 朱雀村の惨劇 吉村達也 |
(2024/12/04 22:38登録) 風水の四神図に対応した、新たな村で発生する連続惨劇。朝比奈耕作は秘められた関係の弟・鳥神翼とともに、第二の事件に挑む! 《新・惨劇の村》第二弾。 Amazon内容紹介より。 序盤は作者のシリーズ第一弾は勿論、他作品のタイトルがこれでもかと出てきて、やはりそれらを読んでからでないと読むべきではないのかと不安になりました。そして、頭の中には?が色々と浮かぶことになり、少しだけ後悔しました。しかし、一応は単体でも知らない事があるなりに読む際に大きな支障はなかったので、ちょっとだけホッとしました。 それにしても、朝比奈耕作がこんなことになっていたとは。この後一体どうなってしまうのか心配の種が尽きません。本作を読むに当たっては、シリーズ読破が必須なのかも知れません。 採点は甘目で、トリックや猟奇殺人の真相などはあまり誉められたものではありませんでした。しかし、実際シリーズを一冊限りでやめてしまうのは、果たしてどうなのかと自問自答になりそうです。 |
No.1837 | 7点 | 蜜の森の凍える女神 関田涙 |
(2024/12/01 22:25登録) 大学生らが集い吹雪の山荘で行った”探偵ゲーム”。余興のつもりが、翌朝現実の刺殺死体が発見されて事態は一変した。現場の不可解な錠の開閉は何を意味するのか。50年前に起きた探偵小説家の惨殺事件との暗合は。 ヴィッキーという仇名を持つチャーミングな女子高校生が圧倒的活躍を魅せるメフィスト賞受賞作! Amazon内容紹介より。 「ヴィッキーからの挑戦状」が挿入されていて、そこで作者は謙遜していますが、読み易く文才はある人だなと思いました。ただ、人間が描けていないのは認めざるを得ません。犯人もその没個性の中に埋もれている感じで、その意味ではあまり共感は出来ませんでした。 その前に、本書のタイトルから、もっとファンタジックな内容かと思いましたが、ガチガチの本格ミステリでしたね。これを先に述べるべきでした。 密室とアリバイトリックが絡んできて、これが意外にも多重推理となっており、読者サービスもばっちりです。典型的な吹雪の山荘ものかと思わせておいて、実は途中で警察が介入してくるのにも意味があり、名探偵対警察の構図が見えてくるのもなかなか面白い趣向です。 終盤まではせいぜい6点かと思っていましたが、解決編でググッと評点が上がりました。結局これで良かったんだよなと、個人的には感じましたし、後味も悪くないし、アンフェアな面もギリギリ許せる範囲のものだと考えます。 |
No.1836 | 7点 | プロジェクト・ヘイル・メアリー アンディ・ウィアー |
(2024/11/28 22:33登録) グレースは、真っ白い奇妙な部屋で、たった一人で目を覚ました。ロボットアームに看護されながらずいぶん長く寝ていたようで、自分の名前も思い出せなかったが、推測するに、どうやらここは地球ではないらしい……。断片的によみがえる記憶と科学知識から、彼は少しずつ真実を導き出す。ここは宇宙船〈ヘイル・メアリー〉号――。 Amazon内容紹介より。 もうSFは当分読まなくてもいいやと云う位堪能しました。特に前編は非常にエキサイティングな体験が出来ます。こういうのはSFならではですね。 筆致は誰にでも受け入れられやすく、リーダビリティに優れていて、難解になりそうな内容をエンターテインメントに昇華させています。長いですが、途中でダレることなく、読者に圧力を加える程の圧迫感がなく、程良いユーモアをも含んで飽くまでも中道を往くことに徹していると思います。 時に我々の科学的探究心や知的好奇心をくすぐり、ハードな面を見せますが、それでもストレスなく読み切る事が出来るのは原書と翻訳が上手い所以でしょう。過去と現在が行き来する構成もストーリー性を高める上で一役買っていると思います。最後の一行も良いですね。 希望と絶望の狭間に揺れる主人公に感情移入出来る事必至で、その意味でも良く出来た小説です。 |