メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.1095 | 7点 | コンビニなしでは生きられない 秋保水菓 |
(2020/04/06 22:56登録) 大学生活に馴染めず中退した19歳の白秋。彼にとって唯一の居場所はバイト先のコンビニだった。そこに研修でやってきた女子高校生の黒葉深咲。強盗、繰り返しレジに並ぶ客、売り場から消えた少女。店内でひとたび事件が起これば、深咲は目を輝かせて、どんどん首を突っ込んでいく。彼女の暴走に翻弄されながら、謎を解く教育係の白秋。二人の究明は店の誰もが口を閉ざす過去の盗難事件へ。元店員が残した一枚のプリントが導く衝撃の真実とは?第56回メフィスト賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 おそらく多くの方がこのタイトルから、ラノベに近い軽めで恋愛要素の強い作品と言う印象を受けると思います。しかし私は断言します。これは日常の謎を扱った、本格パズラーであり、青春小説であり、恋愛小説であると。近年のメフィスト賞の中では、その出来栄えは抜きん出ていると思います。 コンビニならではの事件の数々が、やがて一点に収束していく様は、使い古されたパターンでありながら、思わず深く首肯せざるを得ない吸引力を秘めています。その中でもクルーたちの人間関係や恋愛模様をも描き切り、非常に充実したエンターテインメント小説に仕上がっています。 まああまり期待せずに読み始めました訳ですが、期待以上のものを私の心に残してくれました。世界の片隅でひっそり生きている青年と、新しく仲間として共にコンビニで働くことになった女子高生のコンビ、西尾維新ならこのネタで十作は書くでしょう。是非シリーズ化して欲しいものです。が、話の流れから鑑みると難しいでしょうかねえ。でもやって欲しい。 |
No.1094 | 6点 | 狂人の部屋 ポール・アルテ |
(2020/04/04 22:57登録) ハットン荘のその部屋には、忌まわしい過去があった。百年ほど前、部屋に引きこもっていた文学青年が怪死したのだ。死因はまったくの不明。奇怪なことに、部屋の絨毯は水でぐっしょりと濡れていた…以来、あかずの間となっていた部屋を現在の当主ハリスが開いた途端に、怪事が屋敷に襲いかかった。ハリスが不可解な状況のもとで部屋の窓から墜落死し、その直後に部屋の中を見た彼の妻が卒倒したのだ。しかも、部屋の絨毯は百年前と同じように濡れていた。はたして部屋で何が起きたのか?さすがのツイスト博士も困惑する、奇々怪々の難事件。 『BOOK』データベースより。 皆さん一様に怪奇趣味を取り上げておられますが、私としてはやはりカーとは比べるべきものとまでは思えません。確かにプロローグのシーンには興味を惹かれますし、なるほど上手いなと感心しました。それがまさにクライマックスとなってのちに詳細が明かされるに伴い、興奮は絶頂に達します。それに加え絨毯が三度に亘って濡れていたという謎や蘇る死者など、様々なガジェットが読者を魅了します。 個人的に恋愛模様などはどうでも良くて、そういった要素は必要なかったと思いました。まあしかし、全体としては面白かったのは否定できません。前半は事件なのか事故なのかはっきりしないモヤモヤ感が何とも悩ましかったのですが、ツイスト博士が登場してから物語が引き締まりますね。作品の性質上致し方ないかも知れませんが、もう少し露出多めでお願いしたかったですね。 |
No.1093 | 5点 | とくまでやる 清涼院流水 |
(2020/04/02 22:40登録) 夏休み開けの2学期早々、フレアとクレア、双子の姉妹の通う名門女子高・聖光女学院の生徒が連続で自殺した。その週末、近くのビデオ屋で働く出有特馬の周囲でも、不可解な連続自殺がスタートする。 毎日、必ず1人ずつ自殺する。この異常な事件は、本当に自殺連鎖なのか、それとも連続殺人か?特馬は、相棒の山本新悟や双子姉妹と事件の真相を探るが……。 Amazon内容紹介より。 1日に起こった出来事を見開き2ページで描き切り、1日一人ずつ自殺していくという、一風変わった趣向のミステリ。果たしてそれが本当に自殺なのか、何故自殺するのかといった肝心の謎に関して、既に放棄してしまっている時点でダメ。まさに竜頭蛇尾というに相応しい作品となっています。まあそこが流水らしいってことなんでしょうが。だから本格ミステリと思って読むの間違いで、あくまでライトノベルとして楽しむべきだと思います。 ご本人はあとがきなどで自信のほどを誇示しておられますが、自身の著作の中でそこまで重要な位置にあるとは思えません。アイディアは認めて良いでしょうが、中身が薄いです。敢えて言えば、登場人物の個性が明確に描かれているのがせめてもの救いですね。仕掛けが子供騙しで、ハウが不明だしホワイもいい加減に感じました。 |
No.1092 | 5点 | 傾物語 西尾維新 |
(2020/03/31 22:35登録) “変わらないものなどないというのなら―運命にも変わってもらうとしよう”。迷子の小学生・八九寺真宵。阿良々木暦が彼女のために犯す、取り返しのつかない過ちとは―!?“物語”史上最強の二人組が“運命”という名の戦場に挑む。 『BOOK』データベースより。 これまでとは毛色が違う、SF志向の高い作品となっています。その分ファンタジー要素は希薄で、激しいバトルやキャラ萌えも期待できません。 私としては当然八九寺真宵を中心に据えた物語だと思っていたので、こんな筈ではなかったという裏切りにあったような気持が強いです。八九寺はほとんど出て来ず、専ら暦と忍の二人でストーリーは進みます。最初から作者はそのつもりで書いたらしいので、その意味では意図通りではあります。しかし、作風というか、視点の違いに違和感を覚える読者も少なくないと思いますね。 終盤まではやや冗長に近い感覚で、それを我慢してやっと最後の腑に落ちる真実に出会える感じです。ファンにとっては待ち遠しかった、「役者」の登場でそれまでのもやもやが吹っ飛んでしまうようなもので、詐欺に近いと言ったら言い過ぎかも知れませんが、まあそんな感じです。 何故この人が真相を言い当てるのか、かなり唐突ではありますが、確かにそれは納得の行くものであり、何とかスッキリした形で物語を終えられたのではないかと思います。 |
No.1091 | 6点 | 実験小説 ぬ 浅暮三文 |
(2020/03/29 22:26登録) 交通標識で見慣れたあの男の秘められた、そして恐ろしい私生活とは?(「帽子の男」)。東京の荻窪にラーメンを食べに出かけた哲人プラトンを待っていた悲劇(「箴言」)。本の世界に迷い込み、生け贄となったあなたを襲う恐怖(「カヴス・カヴス」)。奇想天外、空前絶後の企みに満ちた作品の数々。読む者を目も眩む異世界へと引きずり込む、魔術的傑作27編。 『BOOK』データベースより。 第一章が実験短編集と銘打たれた10短編、第二章が異色掌編集でショートショート17編。 冒頭の『帽子の男』を読んだ時、これは素晴らしいと感じました。身体に衝撃が走ると同時に大笑いしました。各1ページごとに一つの交通標識を載せ、それを元にストーリーを組み立てていくという、奇想天外な小説に仕上がっています。これに似た構成の『線によるハムレット』も高評価。 しかし、実験小説という割りには前衛的なものは少なく、既成の作品を参考にしたものやどこが実験なの?といった至って普通の小説も含まれています。海外でも評判が良いらしい『カヴス・カヴス』はちょっと訳が分かりませんでした。 異色のショートショートは取り立てて特筆すべきものもなく、暇つぶしには丁度良い感じの作品ばかりで、すぐに忘れてしまっても大丈夫です。 全体的に読みやすかったのと、たまに現れる新鮮な企みを持った作品が幾つかあったのでこの点数にしました。人によっては凡作と感じる方も多いかもしれません。 |
No.1090 | 7点 | 臨床真実士(ヴェリテイエ)ユイカの論理 文渡家の一族 古野まほろ |
(2020/03/27 22:09登録) 言葉の真偽、虚実を瞬時に判別できてしまう。それが臨床真実士と呼ばれる本多唯花の持つ障害。大学で心理学を学ぶ彼女のもとに旧家の跡取り息子、文渡英佐から依頼が持ち込まれる。「一族のなかで嘘をついているのが誰か鑑定してください」外界から隔絶された天空の村で、英佐の弟・慶佐が殺された。財閥の継承権も絡んだ複紙な一族の因縁をユイカの知と論理が解き明かす! 『BOOK』データベースより。 派手な殺人事件やトリックなどはありませんが、ユイカが自身の持つ障害を駆使して容疑者(ほぼ全員)の真偽を判別しつつ、論理展開でもって真相に迫る過程は大変読み応えがありました。ただ、私は頭が悪いので、最初の真偽に関する方程式的な解明は正直十全に理解できたとは言えません。 それでも、孤立した村で起こる骨肉の争いと、それに対するユイカという異分子の絡みが何とも言えない独特の雰囲気を醸し出していると思います。 道中であれ?と感じる違和感が幾つかあり、それらは全て伏線となって解決編に有機的に繋がっているし、プロローグからしてかの名作を彷彿とさせるような幕開けであり、まさに本格の王道を往く作品として捉えてよいと思います。読者への挑戦状もありますしね。だからと言って、ロジック一辺倒ではなく、あっと驚くような仕掛けも施されており、なかなかの力作ではないかと感じます。 Amazonではやっぱりなと思うような低評価です。しかし、私はあくまで作品を評価するべきであって、作者を評価するべきではないと思いますね。 |
No.1089 | 5点 | 箱の中の天国と地獄 矢野龍王 |
(2020/03/25 22:48登録) 閉ざされた謎の施設で妹と育った真夏。ある朝、施設内に異変が起こり、職員たちは殺戮された。収容されていた他の男女とともに姉妹は死のゲームに強制参加させられる。建物は25階、各階には二つの箱。一方の箱を開ければ脱出への扉が開き、もう一方には死の罠が待つ。戦慄の閉鎖空間!傑作脱出ゲーム小説。 『BOOK』データベースより。 命懸けのサバイバル・ゲーム。各階に用意された二つの箱には様々なトラップが仕掛けられており、次々と人が死んでいくテンポは良いと思います。しかし、ちょっと説明不足な点があり、あれ?と感じることもありました。もう少し描き方を緊密にすれば、もっと楽しめる作品になったと想像することは出来ます。 この手の作品にしてはよく出来ている方だと思いますが、やはりそこまでする必然性と言うか理由付けが若干弱い気がしました。25階まで辿り着くまで、毎回毎回同じことの繰り返しなので、ややダレます。そこをマンネリ化しないように工夫されているのは認められますが、ご都合主義や話が出来すぎな感は否めません。 最後に明かされる十円玉の謎はなるほどなと思いました。 |
No.1088 | 5点 | しゃべくり探偵の四季 黒崎緑 |
(2020/03/23 22:07登録) 和戸君一家に降って湧いた騒動を見事収拾、保住君の新学期は好調な滑り出し。歌って踊れる名探偵とばかりギター片手に謎を解き、夏休みは珊瑚礁で魚と戯れ、また上高地の涼風に吹かれつつ事件の真相を看破する。馴染みの床屋や大学祭の模擬店で推理を聞かせたり、屋台の客から解決代をせしめたり。かくもバラエティに富んだ学生生活を謳歌する、なにわのホームズ保住君の事件簿。 『BOOK』データベースより。 前作同様、しゃべくりだから会話だけで成立しているのは覚悟していましたが、やはり地の文がないと読み難いですね。あまりボケとツッコミの遣り取りがしっくり来ず、それぞれの特性を生かし切れていない印象を受けました。第一話、第二話と最終話がその形式で、その他4篇は普通の文体で書かれています。、まあ全体的にインパクトに欠ける為、すぐに内容を忘れてしまいそうな気がします。 個人的には『注文の多い理髪店』がベストですかね。何故被害者の頭部と腕が焼かれていたのか、裸足だった理由はというホワイダニットがなかなか面白いです。無論、被害者の身元を不明にするなどという愚は冒していませんから安心です。 『怪しいアルバイト』はアンソロジー『競作五十円玉二十枚の謎』からの一作で、これもまた週末の書店に五十円玉二十枚を持って両替に来る人間の謎を、上手く説明しています。それが眼目であるのは間違いないですが、ミステリとしては人間消失を扱ったものとなっています。この二作位のレベルが並んでいれば6点でした、惜しかったですね。 |
No.1087 | 7点 | 宵待草夜情 連城三紀彦 |
(2020/03/21 22:27登録) 大正九年の東京。祭りの夜に、カフェ「入船亭」の女給・照代が殺された。着物を血に染めて店を出てきたのは、同じ店で働く鈴子。鈴子の恋人・古宮は、彼女が殺したのかと考えるが。はかない男女の哀歓を描き、驚きの結末を迎える表題作ほか五篇。人の心の底知れぬ謎、深く秘められた情念から、予想をはるかに超える真実が立ち上がる。不朽の傑作ミステリー、待望の新装版。 『BOOK』データベースより。 これは名作でしょう。特に情景描写が半端なく素晴らしいですね。この人にしか書けないと思います。 いずれの短編も愛憎のもつれというか、痴情のもつれが底辺に流れています。それが普通ではなく捩じれた形で表現され、事件の意外すぎる真相や殺人の動機に関わってきます。中には一見理解不能なものもありますが、ある覚悟をした女の情念はここまで深いものだということを、絵空事とは思えないような筆致で描き切っています。 トーンが全体的にくすんだ感じがしますね。と言うより、滲んだような、不透明な感覚が発散されています。それでいて事件の様相がくっきりと際立っている辺りはこの人の真価を発揮しているように思います。 どの作品にも本格ミステリの要素が横溢しており、本格スピリットを忘れていない点も高評価につながりますね。 |
No.1086 | 5点 | ある少女にまつわる殺人の告白 佐藤青南 |
(2020/03/19 22:51登録) 第9回『このミステリーがすごい! 』大賞・優秀賞受賞作の、待望の文庫化です。「今日的テーマを扱いつつ難易度の高いテクニックを駆使し、着地の鮮やかさも一級品」茶木則雄(書評家)。10年前に起きた、ある少女をめぐる忌まわしい事件。児童相談所の所長や小学校教師、小児科医、家族らの証言から、やがてショッキングな真実が浮かび上がる。巧妙な仕掛けと、予想外の結末に戦慄する! Amazon内容紹介より。 ある少女亜紀の関係者の独白で構成される、『告白』に似た形式の作品。ただこちらは茫洋として掴み所がなく、なかなか亜紀の人物像が見えてきません。これは結構フラストレーションが溜まりますね。児童虐待や児童相談所の有り方についてあれこれ書かれていますが、いかにも浅いです。亜紀という少女は一体どんな人間だったのか、それがテーマなはずなのに、なんとなくはぐらかされているようで、読んでいてとても据わりが悪い感じがしました。 衝撃の真実が明らかになる終盤は確かに目を瞠るものがありますし、ラストのオチは見事に決まっていたと思います。ただそこだけで評価するわけにはいかないので、5点にしました。こうした驚愕を味わわせてくれる小説は個人的に好みですが、そこに至るまでがねえ、残念な感じでした。 せめて、章の最初にどこの誰の独白なのかを明確にしてほしかったです。それだけでもメリハリが付いて、印象が随分違ったと思いますよ。 |
No.1085 | 6点 | 小説スパイラル 推理の絆 ソードマスターの犯罪 城平京 |
(2020/03/17 22:40登録) 新聞部部室にて、歩とひよのは、ひとりの少女から兄の仇を討つために力をかしてほしいと懇願される。そして、歩は過去の殺人事件をめぐり剣の達人・黒峰キリコと対決することに…。対決の行方は!?そして、事件の真相は!?ガンガンNETにて大好評掲載中の「名探偵鳴海清隆~小日向くるみの挑戦~」から2編も同時収録。 『BOOK』データベースより。 コミックスのノベライズ作品かと思っていましたが、一応設定はそのままにオリジナルの小説としてシリーズ化されたものです。冒頭から如何にも劇画的な雰囲気で、逆にコミックとして描かれていたらもっと面白いものに仕上がったのではないかと思ってしまいました。文体としては読者層を鑑みてか、かなり砕けた感じでそれが却って私的には読みづらかった気がします。 本格に寄せようとする努力は認められますが、伏線がかなり弱いですね。推理というより推測に近いと思います。容疑者は限られていて、ホワイダニットに特化しています。それも、どうして殺したのかというよりも、何故そのような殺し方をしたのか、に拘って書かれています。 短編のほうは、先に描かれている中編の主人公で探偵役の鳴海歩の兄である清隆の活躍を描いています。捜査一課の警部なのに名探偵と呼称されているのは、しっくりきませんね。現実的に刑事が名探偵と呼ばれることはあり得ないでしょう。本格の世界では刑事はあくまで脇役で、素人探偵や私立探偵が主役なのは当然ですけど。どうも作者は名探偵の定義を履き違えているとしか思えません。 こちらの二編も謎は魅力的ながら、真相は至ってシンプルでアッと驚くようなものではないです。 畢竟、コミックの読者にとっては大いに歓迎されると思われますが、ミステリファンには物足りなさを覚えるのではないでしょうかね。 |
No.1084 | 7点 | 法月綸太郎の新冒険 法月綸太郎 |
(2020/03/15 22:36登録) 名探偵・法月綸太郎が帰ってきた!著者会心の傑作鉄道ミステリー「背信の交点」、オカルトじたての怪事件「世界の神秘を解く男」、法月綸太郎本人が登場しない異色作「身投げ女のブルース」など、テーマと構成にこだわりぬいた中編を収録。本格推理の醍醐味が味わえる“知恵と工夫のエンタテインメント”。 『BOOK』データベースより。 ロジックと意外性が良い塩梅でハイブリッドした作品が多いですね。『リターン・ザ・ギフト』はちょっと煩雑な感じがして、あまり好みではありませんが、他は意外な犯人や反転などを味わえて佳作揃いだと思います。 特に『背信の交点』の構成力、一見単純な事件のように見える裏で、見事なまでの奸計が働いていたという小気味の良い切れ味は、読んでいて思わず唸らされます。 あと好みで言うと『身投げ女のブルース』ですね。綸太郎の登場はありませんが、法月警視を通して綸太郎の推理が披露される形を取っています。これもいいですね、冒頭のスリリングなシーンからは想像できないような展開が待っています。ある意味最も本格らしい本格ミステリなのではないかと思いますね。 ただ、やや文章が硬質でしょうか。ほんの少しで良いから遊び心があってもよかった気もします。でも、凄く真面目に書かれているのには好感が持てました。とても知的な読書体験をした気分になれます。 |
No.1083 | 5点 | 殊能将之 未発表短篇集 殊能将之 |
(2020/03/13 22:37登録) 未発表短篇「犬がこわい」「鬼ごっこ」「精霊もどし」にデビュー作『ハサミ男』刊行に関して友人宛てに綴った「ハサミ男の秘密の日記」を収録。 デビュー後、編集部の要請で送られていた習作短篇3篇とデビュー当時の様子を友人に書き送った「ハサミ男の秘密の日記」を収録。独特の笑いとセンス、ペーソスを湛えた殊能将之初期作品集。 Amazon内容紹介より。 デビュー前に描かれた短編集なので、習作的な匂いがプンプンする作品が3編と、『ハサミ男』がメフィスト賞を受賞する際の日記で構成されています。 短篇の出来については『犬がこわい』>『精霊もどし』>『鬼ごっこ』でしょうか。『犬がこわい』は日常の謎のような導入部から突然思わぬ事件に発展するというもので、これはなかなか面白かったと思います。『精霊もどし』はあまり怖くないホラーのようなもの、イマイチですね。『鬼ごっこ』は何がなんだかよく分からないけれど、ひたすら三人の男たちが一人の男を追い掛けるだけの作品で、あまり意味が解りませんでした。 余程のファンであれば手元に置いておいても良いかなと思いますが、コスパも良くないし、ミステリファンを含めた一般読者は読む必要性が感じられません。『日記』の方に期待していた私としては、やや肩透かしでしたね。 しかし、早逝されたのは残念な限りです。本来ならもっと多くの傑作をものにしてたはずでしょうからね。 |
No.1082 | 7点 | 妖異金瓶梅 山田風太郎 |
(2020/03/11 22:37登録) 性欲絶倫の豪商・西門慶は絶世の美女、潘金蓮を始めとする8人の妻妾を侍らせ、酒池肉林の日々を送っていた。彼の寵をめぐって女たちの激しい嫉妬が渦巻く中、第七夫人と第八夫人が両足を切断された無惨な屍体で発見される。混乱の中、西門慶の悪友でたいこもちの応伯爵だけは事件の真相を見抜くが、なぜか真犯人を告発せず…?美姫たちが織り成す凄惨淫靡な怪事件。中国四大奇書の一つを大胆に解釈した伝奇ミステリ。 『BOOK』データベースより。 先行書評をなぞる形になってしまいますが、『赤い靴』を読み終えた時点で、このレベルの短編が揃えば8点は堅いと思いました。この短編の衝撃はなかなかのものでしたよ。しかし、読み進めるごとに失速気味になり、マンネリ感を覚えてしまうのは自分だけではないと思いす。結局『赤い靴』と肩を並べる様な作品は現れず、非常に残念な思いをしました。 どうしても読んでいくにつれフーダニット、ホワイダニットへの興味が薄れていくのがこの連作短編の致命的な欠点ですね。大仕掛けがある訳でもなく、トリックとしてもどちらかと云うと小技の部類であったり、先行作品の変形だったりして独創性の点で優れているとは言えません。ただ、その見せ方が巧妙に出来ておりその意味では納得させられます。 長いのもありますが、何だか疲れました。それでも7点を付けたのは私の読みが浅かったとの反省からです。 |
No.1081 | 7点 | スクールアタック・シンドローム 舞城王太郎 |
(2020/03/08 22:38登録) 崇史は、俺が十五ん時の子供だ。今は別々に暮らしている。奴がノートに殺害計画を記していると聞いた俺は、崇史に会いに中学校を訪れた。恐るべき学校襲撃事件から始まった暴力の伝染―。ついにその波は、ここまでおし寄せてきたのだ(表題作)。混沌が支配する世界に捧げられた、書下ろし問題作「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」を併録したダーク&ポップな作品集。 『BOOK』データベースより。 正直表題作と『我が家のトトロ』は何となく読み終えてしまい、あまり印象に残りませんでした。特にオチがなく、起承転結のメリハリが付いていない気がします。何だか話が無茶苦茶なところは共通していると思いますし、それが舞城王太郎の特性なのでしょう。ですから、好みははっきり分かれるタイプの作家であるのは間違いないですし、本作品集を読んでこれは駄目だという方は避けて通るのが無難だと思いますね。 問題は『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』です。これは傑作ですよ。近親相姦、カニバリズム、スカトロなどエログロな面があり、万人向けとはお世辞にも言えませんが、直截的な描写が少ないのが救いです。個人的には舞城作品の中でも屈指の出来栄えではないかと思います。これは先に述べた起承転結がしっかりしており、普通の感覚で捉えることは難しいですが、この作家の作風を理解できるのであれば必須アイテムでしょうね。 |
No.1080 | 6点 | 新しい十五匹のネズミのフライ 島田荘司 |
(2020/03/06 22:33登録) 「赤毛組合」の犯人一味が脱獄した!ワトソン博士のもとに、驚天動地の知らせが舞い込んだ。だが肝心のホームズは重度のコカイン中毒で幻覚を見る状態…。犯人たちの仰天の大計画とは。その陰で囁かれた謎の言葉「新しい十五匹のネズミのフライ」とは。そして「赤毛組合」事件の書かれざる真相とは。果たして、われらがホームズが復活する時は来るのか―。さまざまなホームズ作品のエッセンスを、英国流のユーモアあふれる冒険譚に昇華させた大作。 『BOOK』データベースより。 叩き台となっている本家の『赤毛同盟』(本作では『赤毛組合』表記)、を読んでいた方がより楽しめると思いますが、未読でも意味不明にはならないのでご安心を。タイトル通り、ホームズではなく助手のワトソンが主役であります。事件解決に一役買っているのは無論ホームズですが、一応全編通して冒険しているのはワトソンです。しかしやはりホームズの個性は強烈で、出番は少ないもののかなりの異彩を放っているのは間違いありません。特に終盤退院してからのエキセントリックな言動は本領発揮と言ったところでしょうか。『赤毛同盟』自体が面白かっただけに、更にその先に意外な真相が隠されている本作が面白くないはずがありません。 ただ、「新しい十五匹のネズミのフライ」の謎だけで最後まで引っ張るのは、やはりちょっと強引だったのではないかと思います。それなりの大作の割にトリックがショボかったのもマイナス要因ですね。それを補って余りあるストーリーテラーぶりは流石だとは思いますが。 島荘は近年かつての輝きを失いつつあり、語り手としての熟練度は増しているように思いますが、トリックの独創性やスケールの大きさが枯渇している気がしますね。今後もまだまだビッグネームに恥じない作品を期待したいですね。本作でもらしさは見られるものの、やや存在感の希薄さを感じます。 |
No.1079 | 7点 | 学園祭の悪魔 浦賀和宏 |
(2020/03/04 22:57登録) あの日から、世界は壊れはじめていたのかもしれない。首なし死体、連続猟奇殺人事件、そして…。私の周りに“死”が堆積していく。学園祭で出会った笑わない“名探偵”安藤直樹は、すべてを解決してくれるのだろうか?凄惨!壮絶!明かされる事件の真相!日常の意味が消失する浦賀エンタテインメント最新作。 『BOOK』データベースより。 一体浦賀和宏は安藤直樹をどうしたかったのでしょうか。安藤直樹シリーズで最大の衝撃を受けました。しかしホラーはないでしょう、青春小説ですよ。ラストのショッキングな事実がなければね。物語は主人公の女子高生幸の一人称で語られますが、やはり一人称という形式には、身構えて掛からなければいけない訳で、だからと言って安易な叙述トリックではありませんよ。そんな生易しいものではありません。 言ってしまえば名探偵の宿命が、捻じれた形で表現されているのかも知れないですね。逆説的な名探偵論にもある意味納得です。他の作家は絶対やらない禁忌に触れていますし、シリーズ全体のあり様を作者自ら破壊しようとしています。 本作は全体がプロローグのようなものであり、本編は小説が終わってから始まるのです。次回作『透明人間』を読まなければ分かりませんが、おそらくその後の物語は永遠に書かれることはないと思いますね。 惜しいですね、安藤直樹シリーズがあと一作で読み終わってしまうのは。それにしてもなんだか久しぶりに安藤直樹が前面に出ていたと思ったらこれだから、浦賀は油断できません。世評の低さも理解できますが、個人的には気に入っています。と思ったら読書メーターでは割と評価されていました。 |
No.1078 | 4点 | ハナカマキリの祈り 美輪和音 |
(2020/03/02 22:13登録) 私は真尋、不破真尋。会社の飲み会の後、深夜に出会った彼女はどこか翳のある、優しくて有能な女性だった。つらい過去に囚われて苦しむ真尋は密かに彼女のようになりたいと願うが、次々と不可解な出来事に巻き込まれ、追い詰められた末に人を殺めてしまう。そこに彼女から、ある提案が―。私は真尋、不破真尋、なの?圧倒的な筆力で、驚愕のラストシーンまで主人公を追い詰めていく。「強欲な羊」でミステリーズ!新人賞を受賞した著者が贈る渾身の初長編。 『BOOK』データベースより。 序盤から中盤にかけて、方向性が定まらず右往左往させられます。どこに重点を置いて読めばよいのか分からず、どれを取っても中途半端な印象を受けます。そして人間関係が煩雑で解りづらいですね。カラクリは単純なのですが、それを上手く纏め切れていない感じが凄くします。サスペンスなのかホラーなのかイヤミスなのか判然としません。 女性作家の為か痛い描写が生温く、あまり残酷性が見られないのもインパクト不足と言って良いでしょう。ラストのオチは想定内でした、まあよくあるパターンですしね。 前二作の短編集は個人的に好意的に評価していました。どうやらこの人は長編が肌に合わないのかも知れないと思ったりもします。もう少し抑揚を付けるとかサプライズ的な趣向を凝らさないと、読んでいて中弛みしたり退屈さを覚えてしまうのではないでしょか。あまり期待はしていませんでしたので、裏切られた感はありません。でももう少し描き様があった気がしますねえ。 |
No.1077 | 7点 | 黒い春 山田宗樹 |
(2020/02/29 22:57登録) 覚醒剤中毒死を疑われ監察医務院に運び込まれた遺体から未知の黒色胞子が発見された。そして翌年の五月、口から黒い粉を撤き散らしながら絶命する黒手病の犠牲者が全国各地で続出。対応策を発見できない厚生省だったが、一人の歴史研究家に辿り着き解決の端緒を掴む。そして人類の命運を賭けた闘いが始まった―。傑作エンタテインメント巨編。 『BOOK』データベースより。 それは全くの偶然でした。400冊余りの積読本から引き抜いた一冊、それが本書でした。まるで運命の糸に操られたように・・・。勿論自分で選んで入手した物ですが、あまりに時間が経ちすぎていて中身などまるで覚えていません。それにしてもまさかこのタイミングで、と驚きを隠せませんでした。今まさに日本全土で或いは全世界で新型コロナウイルスが猛威を振るい、パンデミックに突入しかねないこの時に。なんと不吉な。北海道では緊急事態宣言が出され、安倍首相は小中高の臨時休校を全都道府県の各自治体に要請しました。それは取りも直さず、子供を守る為ではなく子供を介しての社会全体に感染拡大を阻止するもの。それが英断だったのか、それともやけくその場当たり政策だったのか。 いずれにせよ、読み始めてしまったからには読了しなければならないと思いました。それどころか読み出したら止まらないリーダビリティを秘めていて、ストレスフリーで読み終えてしまいました。 さて前置きが長くなりましたが、本作は死亡率100%の未知の感染病に、監察医、東京都立衛生研究所真菌研究室室長、国立感染症センター病原診断部の研究者の三人がチームを組んで立ち向かう物語です。ミステリ的に言えばミッシングリンク物と言えるかもしれません。滋賀県を中心に広がる感染者に共通するものは何か、そして中間宿主となる存在は、という命題に三人のスペシャリストが探究の末辿り着いた先に待っているものは。 政府特に厚労省が動かないのには大いに違和感を覚えますし、検査希望者が一万人余りに過ぎないのも疑問です。他にも細かい瑕疵はありますが、人間ドラマとして、家族愛を描いたサスペンスとして優れていると思います。そして歴史ミステリの側面も兼ね備えています。 次は高嶋哲夫の『首都感染』ですかね。それを読むのは現在抱えている新型ウイルスが終息してからにします。 |
No.1076 | 6点 | 幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート 倉知淳 |
(2020/02/27 22:34登録) ある時は幻の珍獣アカマダラタガマモドキの捜索隊員、ある時は松茸狩りの案内人、そしてある時は戦隊ショーの怪人役と、いっぷう変わったアルバイトに明け暮れる神出鬼没の名探偵・猫丸先輩が遭遇した五つの事件。猫コンテスト会場での指輪盗難事件を描いた「猫の日の事件」、意外な真相が爽やかな余韻を呼ぶ「たたかえ、よりきり仮面」ほか三編を収録した、愉快な連作短編集。 『BOOK』データベースより。 これは面白い。相変わらずの猫丸先輩、毎回怪しげなアルバイトで登場しています。本シリーズの中で一番笑わせてもらいました。いずれも日常の謎は魅力的ながら、謎解きが終わった後には脱力するみたいな作品です。しかし、猫丸先輩の慧眼は鋭く、見た目はのほほんとしていたり躁病の気があるような不思議な人ですが、真相を暴く時の立て板に水の推理は素晴らしいですね。絶対的な根拠がある訳でもないとは思います。でもまあそうなんだろうな、それで良いんじゃないの?と何となく納得させられる思いがします。 大抵、短編集で書下ろしが混じっているとそれは他と比較してイマイチな場合が多い気がしますが、本作品集ではそんなこともなく、平均して状況がいかにも不可思議で、一種の不可能趣味が堪能できます。心情的には7点付けたいところですが、手品の種明かしの様なガッカリ感が少なからずあったので6点にしました。 |