home

ミステリの祭典

login
性格交換

作家 吉村達也
出版日2007年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 メルカトル
(2020/12/09 22:30登録)
結婚三年目の南田礼子は、陰気な性格が夫に嫌われているのを察し、それを変えたいと思っていた。そんなある日、ネットで『性格交換案内所』という奇妙なサイトに出会う。自分と他人の性格を交換するという、常識では実現不可能と思える世界。しかし礼子は、その効能を信じ、会員登録をしてしまう。一方、堅物な夫の博は、もっと柔軟な性格になるべきと、弟から浮気を勧められ、いつもと違う人格で美人受付嬢と不倫の世界に。夫婦で第二の自分を求めていたころ、世間では性格交換によると思われる殺人事件が次々に…。
『BOOK』データベースより。

本人同士が会わずしてネット上で性格交換が出来るなど、あろうはずもないと言ってしまえばお終いですが、それを途中までは何となくあり得そうと思わせた時点で作者の勝ちですね。ただ登録をして性格を交換する相手が絞られ、いよいよ実行に移す段階でそれはないだろうといささか拍子抜けでした。簡単に理想の性格を手に入れるのは土台無理筋です、そんなに容易に人間の本質は変えられるものではありません。普通の感覚からすればそれは所謂詐欺に近い存在であると判断できるはずで、しかし振り込め詐欺に騙される人の様に、迷いながらも会員登録してしまう現実もあるのではないかと思わせられます。その意味で、ある程度のリアリティは感じます。

流石は吉村達也で、重くなり過ぎずサクサク読めます。そして丁度良いところでの場面切り替えは見事で、ああそこで次行くのかと思いながらも、そこからもまた面白いので中弛みもなく最後まで楽しめました。そのテクニックというか構成は心憎いばかりです。殺人事件まで絡んできて、俄かに性格交換サイトの信憑性が深まり、実際にそこにのめり込んでいく人の姿や行く末をも描いて、オチも着地点もしっかりしており、面白いホラーサスペンスの良作だと思います。

1レコード表示中です 書評