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ミステリの祭典

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人間の尊厳と八〇〇メートル

作家 深水黎一郎
出版日2011年09月
平均点6.44点
書評数9人

No.9 6点 パメル
(2022/04/13 08:32登録)
表題作は日本推理作家協会賞の短編部門受賞作。この作品を含め、五編からなる短編集。
受賞作は、いかにもミステリらしい切れ味の良い佳作。とあるバーにはいった「私」が、見知らぬ男の先客から「俺と八〇〇メートル競走をしないか」と持ち掛けられる。男は「私」が持っていた五万円に対して、土地の権利書を賭けるという。前半は、男が「私」を賭けに引き込むために、量子力学の話を延々とするので、いささか取りつきにくい。ここは、少々、作者の思いが強すぎた感がある。話の結末は、、ミステリを読み慣れた者ならば想像がつくかもしれない。それでも、どんでん返しをさらりと処理し、余韻を残して終わるあたりは、なかなか。
そのほかの短編は、いずれもミステリ色は薄いものの、人間の心理を行間に浮き上がらせる筆致は、フランス文学者としての作者の面目をよく伝えている。「北欧二題」では固有名詞を含むすべての外来語を、漢字(当て字)で表記する試みが行われ、それなりの効果を上げている。
全体のほぼ三分の一を占める「蜜月旅行」は、新婚旅行でパリを訪れた夫婦の観光小説といってよい。ところが、そこに結婚前には気付かなかった二人の価値観の相違が忍び込み、次第に緊張感を高めていく。予定調和には違わないが、サスペンスの醸成が巧みなだけに、読後感はいっそう爽やか。

No.8 6点 メルカトル
(2020/11/25 23:09登録)
「俺と八〇〇メートル競走しないかい」―ふと立ち寄った酒場で、見知らぬ男から持ちかけられた異様な“賭け”の意外な結末。一読忘れがたい余韻をもたらす、日本推理作家協会賞受賞の表題作ほか、極北の国々を旅する日本人青年が、おもちゃ屋と博物館で遭遇した二つの美しい謎物語を綴る「北欧二題」など、バラエティ豊かな5篇を収録。本格の気鋭による初短篇集が待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

かなり出来不出来の差が激しい短編集だと思います。何と言っても表題作が最高ですね。量子力学の蘊蓄からの人間の尊厳を賭けた戦いが始まるかと思いきや・・・その論理展開には思わず頷きそうになりました。ところがそこへ思わぬ伏兵が現れて、邪魔するなよとか勝手に思っていましたが、その人物がストーリーの結末に一役買うというなかなか粋な一篇です。二段落としのオチが待っていて、思わぬラストに。これだけなら8点献上しましたが、均してこの点数に落ち着きました。

他に個人的に好きなのは『特別警戒態勢』『完全犯罪あるいは善人の見えない牙』はそれぞれ7点。甘いかもしれませんが好みの問題なので。面白さよりも意外性を優先して。残りの『北欧二題』『蜜月旅行』が5点。前者はお洒落さは買うけれど面白みに欠ける為。後者はミステリとして評価するとどうしても弱いと言わざるを得ない為。勿論読解力のなさには定評のある私なので、その辺はご理解頂きたいですね。あくまで個人の感想ですので。

No.7 6点 tider-tiger
(2017/12/23 10:22登録)
傑作が一篇 良作が一篇。他は水準、もしくは水準以下。
深水氏にはどうしても高い水準を求めてしまうので、やや不満の残る短編集でした。

人間の尊厳と八〇〇メートル 7点 
良作。やはり、ダールが思い浮かびますね。八〇〇メートル走こそ人間の尊厳が試される競技であることに異議ありません(笑)。理屈っぽいようでいて理屈を超えたところに着地する。クールでウェットなこの読み味はまさに典型的な深水作品だと思います。

北欧二題 8点と5点
『老城の朝』『北限の町にて』 の二篇を併せて一篇としたもの。
『花窗玻璃 シャガールの黙示』と同じようにカタカナ表記を捨てて書かれています。漢字に拘ることによって奇妙な異国感が生まれています。
『老城の朝』は本短編集中のベスト。素晴らしい。反して『北限の町にて』は平凡な出来でした。二篇を切り離して二つの短編として欲しかったところ。

特別警戒態勢 5点
動機はまあまあ面白いのですが、どうにも既視感ある話で意外性も乏しい。

完全犯罪あるいは善人の見えない牙 5点
アイデアはなかなかいいし、よくまとまっていますが、なぜか面白みに欠ける。どうにも小説を読んだ気がしない作品でした。語り口に工夫の余地ありか。

蜜月旅行LUNE DE MIEL 6点
ミステリではないが、これは面白かった。バックパッカーの旅慣れたことによる不自由さは自分も感じたことがあります。所得水準が違うんだから、ちょっとくらいぼられてもいいじゃん、自分も大昔インドでそう思いました。

No.6 7点 名探偵ジャパン
(2017/08/28 20:19登録)
上質な作品が揃った短編集でした。

「人間の尊厳と八〇〇メートル」
表題作であり、一本目に持ってくるだけあって、かなりの完成度です。「日常の謎」と言うほどゆるくはなく、読み終わってみれば、漫画「カイジ」に通ずるような虚々実々の駆け引きが行われていたことが分かる、変則的などんでん返しものでしょうか。

「北欧二題」
一本目でハードルが上がった、というわけでもありませんが、打って変わってオーソドックスな「日常の謎」ものが二本続き、肩すかしをくったような。ただ、カタカナを一切用いない文章は反則的にかっこいいです(笑)。

「特別警戒態勢」
ミステリに慣れた人であれば、すぐにオチは読めるでしょう。ですが、短い中にうまくまとめられており、さすがの構成力の高さです。

「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」
結果的に犯罪を暴いたのですから、この「牙」はいい方向に働いたのでしょう。「善人」である被害者の行為を「牙」と感じてしまうこと自体が、その人が悪人であるということなのでしょうか。考えさせられる一作です。

「蜜月旅行LUNE DE MIEL」
ミステリ……? まあ、面白かったですけれど。
海外旅行で浮かれる無粋な日本人。それをコケにして優越感に浸る元自由人。無粋も自由人もひっくるめて、旅行者全てを金づるとしか見ない現地人。これも色々と考えさせられました。

真面目な(?)本格から、「ミステリー・アリーナ」のような変化球。「最後のトリック」のような型破りまで。深水黎一郎の引き出しの深さを改めて知った短編集でした。

No.5 7点 パンやん
(2016/07/09 11:33登録)
洗練されていて、知的好奇心が擽られるような、インテリジェンス溢れる短編集。いずれもバラエティに富んでいて、表題作が抜群に面白いが、ミステリー?な『蜜月旅行』の味わいも楽しい。嫌ミス、馬鹿ミス、恐怖ミス、人体破壊ミス等のお口直しに上質な作品集ですなぁ。

No.4 7点 E-BANKER
(2014/03/30 18:57登録)
第64回日本推理協会賞短篇部門受賞作を含む作品集。
前々から読みたかった本作だが、文庫落ちを待って早速購入&読了。

①「人間の尊厳と八00メートル」=表題作。日本推理協会賞受賞作に相応しい芳醇な香り漂う作品。途中で語られる「なぜ八00走が人間の尊厳につながるのか」というロジックと、ラストのオチが見事に決まっている。小粋な作品。
②「北欧二題」=二つの別作品からなる一編。それぞれスウェーデン(瑞典)とノルウェー(諾威)が舞台となるのだが、前者の方が好み。作者あとがきにあるとおり、日本語の持つ表意文字としての美しさが存分に出ている(ような気がする・・・)。でも、ユーレイルパスの話は学生時代を思い出した!
③「特別警戒態勢」=設定として出てくる自身と妻と子供の三者関係は、もろに現実の自分を思い出した。小学生低学年だったら、今の時代これくらい考えてておかしくないと思う。
④「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」=これはまさにタイトルどおりのオチ。プロットとしては特段珍しくない。
⑤「蜜月旅行Lune de Miel」=この主人公の考え方って・・・なんか他人事のように思えなかった。私自身も昔、同じようにバックパッカーとしてあちこちを旅し、その度に日本人の団体旅行者を色眼鏡で見ていたなぁ・・・。でも今思えば、実につまらないことを気にしていたことを、この女性から突きつけられた感じ・・・。でも男って、こんなつまらない見栄を張りたい生き物なんですよ!

以上5編。
①以外はミステリーとしてはどうかなぁという作品が並んでいるのだが、それでも読了後は満足感を得られている。
それもこれも、作家としてのレベルの高さなのだろう。
その中でも①はやはり別格。
濫作に陥ることなく、質の高い作品を今後も発表していただきたい。
(ベストは断然①なのだが、②と⑤は学生時代を思い出して実に懐かしくなった・・・。あの頃のように時間に縛られない旅ができればなぁ・・・)

No.3 7点 虫暮部
(2011/11/30 16:01登録)
 収録短編はどれも読みやすいけれど軽薄ではなく、いい塩梅の読み応えだった。
 「北欧二題」の“ルビ以外の箇所ではカタカナを一切用いていない”試みには解説されるまで気付かなかったが、表意文字としての漢字の美しさは私も常々感じており拍手を送りたい。ただ“規則(ルール)”や“歌劇(オペラ)”などはルビ不要ではないかと思う。

No.2 6点 まさむね
(2011/11/04 21:41登録)
 作者にとっては初の短編集。短編ごとの感想を。
①人間の尊厳と八〇〇メートル
 日本推理作家協会賞(短編部門)受賞作品だけに,プロット,伏線が秀逸。反転の効果も含め,気持ちのよい読後感。結末だけを捉えれば,某作家(複数いるけど)の短編を思い起こさせますが,プロットは別モノですし,こちらの方が上質。
②北欧二題
 一題目は「日常の謎」を逆手に取ったともいえる発想が面白い。二題目は正直肩すかし。
③特別警戒態勢
 動機は面白かったけれども,水準クラスかなぁ・・・と。
④完全犯罪あるいは善人の見えない牙
 纏まった作品だけれども,水準クラスかなぁ・・・と。
⑤ 蜜月旅行LUNE DE MIEL
 物語としては嫌いではないです。ミステリー?との疑問は,まぁ,作中で「人間にとって最大のミステリーは人間だ」と述べていますし(笑),アリということで。

No.1 6点 kanamori
(2011/10/15 18:13登録)
バラエティ豊かというか、ミステリの範疇に入らない作品もあったりで、いままで書いたのを全て揃えましたという印象の初短編集。
目玉作品はもちろん協会賞の表題作。初対面の男との”賭け”というダール風の物語の結末は、意外性充分な上に伏線すべてが美しい。(えっ、なに、最近同じようなネタの短編を読んだ?部位が違うでしょ、部位が)。
カタカナを排し漢字にこだわった文体の「北欧二題」は、一話目の”日常の謎”風エピソードが秀逸。好みだけで言えば表題作よりこちらがよかった。
他の作品は、悪くはないけれど斬新なアイデアという点では、前2作と比べると普通かなと。

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