メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1929件 |
No.1909 | 5点 | ミノタウロス現象 潮谷験 |
(2025/08/03 22:28登録) 目の前には三メートル超えの怪物、背後には震える少年。好感度を何よりも重視する史上最年少市長・利根川翼は、人生最大のピンチに陥っていた。だが、その危機からの脱出直後、「異様な死体」が発見される――。容疑者の一人になってしまった翼は、自身の疑惑を晴らすために謎解きを始める。『スイッチ 悪意の実験』『時空犯』で話題の新鋭が挑む、渾身の本格ミステリ。 Amazon内容紹介より。 これは本格ミステリと言うよりSFかファンタジーの範疇に入る作品だと思います。それにしても主人公の若き市長は何をするでもなく、己の無能さを晒してしまっているのはどうなんでしょうね。冒頭に起きた殺害事件を置き去りにして、政治を絡めてあらぬ方向へ向かって突っ走る姿勢には、読んでいてなんだこれは?作者はどこを目指しているのだろうかという疑問が自然と湧いてきました。 ジョークではなく本物の怪物を登場させてしまって、何故か分からないけれどある事をすると出現するその怪物は一体何なのかが深掘りされておらず、正体不明の無意味さに辟易させられました。 アイディアとしては悪くないかも知れませんが、どうにもうまく料理出来ているとは思えませんでしたねえ。ここまでやるなら、もっと大胆な仮説やミノタウロスの正体に迫る科学的、医学的アプローチが欲しかったところです。 |
No.1908 | 7点 | 白夜行 東野圭吾 |
(2025/07/31 22:32登録) 愛することは「罪」なのか。それとも愛されることが「罪」なのか。 1973年、大阪の廃墟ビルで質屋を経営する男が一人殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りしてしまう。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂――暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んでいくことになるのだが、二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪の形跡。しかし、何も「証拠」はない。そして十九年の歳月が流れ……。伏線が幾重にも張り巡らされた緻密なストーリー。壮大なスケールで描かれた、ミステリー史に燦然と輝く大人気作家の記念碑的傑作。200万部突破! Amazon内容紹介より。 今更ながら読みました。流石に一流の大人気作家だと素直に思いました。これだけの大作を一章ごとに視点を変え乍ら二人の男女を外側から描く手腕は、やはり只者ではないなと感じます。其々の章が見事に読者を飽きさせることなく読ませ、物語にのめり込ませるのは出来そうで出来ないことでしょう。 ミステリとしてはそれほど複雑なものではありませんが、物語は大河小説の如き変遷を経て、そしてその裏にはそれぞれの男女の愛憎劇があり、非常に読み応えがありました。最後まで主役の内面はスッキリとは描かれないもどかしさはありますが、その幼少期の悲劇が更なる悲劇を生んだ結果にはある種の納得感がありました。最後はこれで良かったのだろうかとの想いもありましたが、この作品に、そしてこのタイトルに相応しいエンディングだったのかなとも思いました。評点は8点か迷いました。がそんなに簡単にその点数をあげる訳にはいかない気がして・・・。 |
No.1907 | 6点 | アルラウネの独白 てにをは |
(2025/07/24 22:28登録) シリーズ累計160万再生超えの大人気ボカロ曲の小説第3弾! 推理小説が好きな高校生・ひばりと、偏屈な推理作家・久堂の事件簿!! 『推理作家は夜走る』『アルラウネの独白』『雪宿りの作法』の3編収録!! Amazon内容紹介より。 女学生探偵シリーズ第三弾。個人的には『推理作家は夜走る』>『雪宿りの作法』>『アルラウネの独白』。『推理作家は夜走る』は主人公の女学生探偵ひばりが何やら訳ありげな久堂を尾行し、彼の過去を掘り起こしていきます。その間にひばりの同級生達とも同行したりして、誰一人無駄な人物が出て来ないのが好印象でした。相変わらずの微妙な師弟関が付かず離れず描かれて、二人の行方が気になります。 表題作は呪いが掛けられていると噂される演劇『アルラウネの独白』を巡る日常の謎が描かれています。読み物としては面白いですが、ミステリとしては弱いです。シンプルな密室トリックもありますが、他愛のないものであまり誉められたものではありません。 最後の『雪宿りの作法』は少女?幼女?時代のひばりを預かることになった学生時代の若き日の久堂と、幼気なひばりの初めての出会いが、そこはかとない優しさに包まれた雰囲気で描かれています。中編と短編の最後を飾る物語としては、温かい余韻を残す心に沁みる好編に仕上がっていると思います。 |
No.1906 | 6点 | 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック 鴨崎暖炉 |
(2025/07/21 22:33登録) 「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある」との判例により、現場が密室である限りは無罪であることが担保された日本では、密室殺人事件が激増していた。 そんななか著名なミステリー作家が遺したホテル「雪白館」で、密室殺人が起きた。館に通じる唯一の橋が落とされ、孤立した状況で凶行が繰り返される。 現場はいずれも密室、死体の傍らには奇妙なトランプが残されていて――。 本シリーズは二作目から読みましたが、本作の方が典型的な陸の孤島と化した館と徹底的に物理トリックを駆使した密室はマンネリ感がありましたね。次から次へと起こる密室殺人、そしてその都度繰り返される真相開示。そこには完全に予期された展開とお約束が横たわっており、どうせこうなるんだろう?といった、又かと思わせる意外性の無さがありややウンザリさせられました。 ただ、それらを数で圧倒する力技で読者をねじ伏せます。また、登場人物をもじった名前で区別する工夫は褒められるべき点だと思いました。一度に全てを登場させるのではなく順序を踏んで紹介している点も良かったです。しかし、ホワイダニット、フーダニットに関して余りにも無神経だったのは、私としては少々不満でありました。まあでも、全体としては密室のアイディアを買って良作と評価するのに吝かではありません。 |
No.1905 | 6点 | 赤死病の館の殺人 芦辺拓 |
(2025/07/18 22:18登録) 素人探偵・森江春作の助手・新島ともかは、旅先で奇怪な屋敷に迷い込んだ。七色に塗り分けられ、ジグザグに繋がった七つの部屋。深夜に謎の怪人が現れた翌朝、主の老資産家と孫娘が失踪し、あとには使用人の無惨な死体が残されていた……。(表題作) Amazon内容紹介より。 相変わらずこの人は面白いんだか面白くないんだか判然としません。掴み所のない文体で描かれているし、お世辞にも読み易いとは言えない文章で、何だか読むこちらとしても気合が入りません。そして、記憶に残りそうにない点は過去の芦辺作品と同様と言えるでしょう。私が今まで読んだ作者で多少なりとも印象に残っているのは『明智小五郎対金田一耕助』くらいです。そんな芦辺拓ですが、人並由真さんがおっしゃるように、今回は芦辺流パズラーが並んだって事になるんでしょうか。 まず表題作はメイントリックには一瞬おっと思いましたが、それはいくらなんでも無理じゃないかと考え直しました。『疾走するジョーカー』もトリックが現実味が薄く、解り易すぎる気がします。見取図を見た瞬間にこれはあれか?と思いましたしね。最も良かったのは『深津警部の不吉な赴任』で、これは面白かったです。こういったとんでもない人物が登場するのは如何なものかと言う意見もあると思いますが、私的にはツボでした。最後の『鬼の密室』は解決編がややこしくてどうでも良くなりました。集中力を欠く読書姿勢で申し訳ないですが、もう少し読ませる文章で書いてくれていたらなあと云ったところです。 |
No.1904 | 6点 | 本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド 事典・ガイド |
(2025/07/14 22:29登録) 本格ミステリ誕生から180年。歴史がありすぎて古典ミステリって退屈そう、手のつけどころもわからないしと思っているそこのあなた! 本棚探偵があふれる本格愛を胸に、あの手この手で名作をお薦めします。第17回本格ミステリ大賞受賞、遊び心満載のブックガイドが目次・索引を加えた進化版で文庫化。 Amazon内容紹介より。 海外の古典本格ミステリを色んな括りでピックアップし、H-1グランプリと称して坂東善博士と女子高生のりっちゃんが評価を下していくコーナーがメイン。こちらは私の様な初心者にとってはあまり馴染みのない作品が多く、どう評価して良いのか正直分かりません。最初にあらすじが紹介されるのですが、あまり食指が動かないものが多く、魅力が感じられません。多少読んでいるクイーンやカーなどは初心者らしくりっちゃんの意見に共感しました。 一方、国樹由香が描く『本棚探偵の日常』では愛犬たちの話題が多く、泣けるシーンがあったり麻耶雄嵩の何気ない優しさに感銘を受けたり、エッセイ風の内容となっています。喜国雅彦と国樹由香の夫婦の仲の良さも良く伝わってきます。 他にも勝手に挿絵とか、コラム、短い本棚探偵を描いた漫画、相田みつををパクった本格力の詩など盛りだくさんで、長い割りには飽きが来ませんでした。 |
No.1903 | 7点 | 異常【アノマリー】 エルベ・ル=テリエ |
(2025/07/11 22:24登録) 良心の呵責に悩みながら、きな臭い製薬会社の顧問弁護士をつとめる アフリカ系アメリカ人のジョアンナ。 穏やかな家庭人にして、無数の偽国籍をもつ殺し屋ブレイク。 鳴かず飛ばずの15年を経て、 突如、私生活まで注目される時の人になったフランスの作家ミゼル……。 彼らが乗り合わせたのは、偶然か、誰かの選択か。 エールフランス006便がニューヨークに向けて降下をはじめたとき、 異常な乱気流に巻きこまれる。 Amazon内容紹介より。 全編、訳者あとがきに至るまで文字がびっしりで、活字中毒の方にお薦めです。私にはとても一晩で一気読みできる代物ではありません。これはSFでもミステリでもなく人間ドラマだと思います。SF風に大風呂敷を広げて、どう収束させるのかと思いきや、収束どころか逆に拡散していきます。その中には様々なドラマがありとても印象深いエピソードもありました。その辺り、純文学としての矜持を保っていますので、メタな部分もありつつエンターテインメントとして捉えるのは間違いではないかと云う気がしました。 起こった事象を宗教観からではなく、もっと物理学的見地からアプローチして欲しかったのが本音です。これをどう着地させるのか興味深く読みましたが、非常に微妙でした。結局そうなるのかと、正直ちょっとがっかりしました。傑作とは思いませんが力作だとは思います。 |
No.1902 | 7点 | 死んだ山田と教室 金子玲介 |
(2025/07/06 22:05登録) 夏休みが終わる直前、山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれたらしい。山田は勉強が出来て、面白くて、誰にでも優しい、二年E組の人気者だった。二学期初日の教室。悲しみに沈むクラスを元気づけようと担任の花浦が席替えを提案したタイミングで教室のスピーカーから山田の声が聞こえてきたーー。教室は騒然となった。山田の魂はどうやらスピーカーに憑依してしまったらしい。〈俺、二年E組が大好きなんで〉。声だけになった山田と、二Eの仲間たちの不思議な日々がはじまったーー。 Amazon内容紹介より。 二年E組の山田が死んで、スピーカーに憑依したという最初の段階を知った上で読みました。別にそれはネタバレでも何でもなく、自然その現象が日常になっていくまでの過程は面白かったです。それと猫を助けようとしたらしい山田が巻き込まれた事故を、新聞部の二人が調査する章はちょっとミステリっぽくて良かったですね。 しかしその後、同じような展開が続いて私のダラダラした読書に拍車がかかりました。その間、何故この小説が本屋大賞の候補に選ばれたのだろうと考えながら、どうにも理解出来ないなあとぼんやりと思ったりしていました。それが最終章で背筋がシャキーンと伸び、そうなのか、これは実は青春ミステリだったんだと納得しました。時々ダラダラの中に鋭いところを見せてはいましたが、そう来たかと思いましたよ。ただ、最初に登場人物が一気に紹介されるので、誰が誰だか区別が付きにくいのは難点かも知れません。それと、男ばかりで暑苦しいです、それはそれで又良いんですけど。 |
No.1901 | 7点 | 午前零時の評議室 衣刀信吾 |
(2025/07/01 22:28登録) 大学生の美帆に届いた裁判員選任の案内状。記載された被告人の名前に聞き覚えがあったが、それはアルバイト先の羽水弁護士事務所が担当する事件だった。事前オリエンテーションとして担当判事に呼び出された裁判員たちに、通常とは違う異例の事態が訪れる。一方、弁護士の羽水は検察のストーリーに疑問を抱き、見逃された謎に着目する。被害者の靴下が片方だけ持ち去られたのはなぜか? それを元に事件の洗い直しを始めるが……。 現役弁護士が仕掛ける伏線の数々……あなたはいくつ見破れる? Amazon内容紹介より。 第28回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。 硬質な文体で描かれる、どこかでお見かけした事がある様な展開で、新しさは感じられません。一応、最初に裁判員裁判制度の問題を提議している辺りは、社会派を思わせますが、最終的にゴリゴリの本格ミステリであることがはっきり解ります。数々の伏線を回収し、逆転に次ぐ逆転を見事に演じて見せて、少々胸やけがする思いすらします。 あれこれ盛り過ぎな感もしますが、大きな齟齬は見られず、なかなかの力作だと思います。ただ舞台が固定されているので相当な閉塞感は否めません。それは息苦しくなる程で、緊迫感も半端ではありません。 細かすぎて伝わらない伏線選手権があれば断トツかも。 |
No.1900 | 7点 | 52ヘルツのクジラたち 町田その子 |
(2025/06/27 22:22登録) 52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一匹だけのクジラ。何も届かない、何も届けられない。そのためこの世で一番孤独だと言われている。 自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれる少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる――。 Amazon内容紹介より。 流石に本屋大賞受賞作だけのことはあります。私に言わせれば広義のミステリですね。ちょっと無理があるかも知れませんが、トリックは確りと仕掛けられています。普通の感性を持っている人なら一回は涙を流す事でしょう。正に良作と言えると思います。物語は色々な形で動きます、その辺りの手腕は確かなものがあり、小説としてちゃんとした体裁を持っています。 そして登場人物もキッチリ書き分けられており、人間ドラマとして極上の時間を提供してくれます。一人きりで悩んだり辛い思いをしている人々に特に読んで欲しい小説です。きっと何かのきっかけになる事と思います。又そう願いたいです。 |
No.1899 | 5点 | 入居者全滅事故物件 晴海水亭 |
(2025/06/24 22:10登録) 『私、ストロング・ザ・メリーさん……』 深夜二時に東城明子のスマートフォンにかかってきたのは、都市伝説怪談めいた内容だった。 だが、ストロング・ザ・メリーさん……!? 何かがおかしい……。 「その……イタズラですか……?」 『貴様を殺す』 Amazon内容紹介より。 序盤は文句なしに面白かったですし、ラストもまあまあ良かったです。しかし、魅力的な登場人物が多い割りには中弛みが目立ちました。ストーリー的には悪くないものの、描き方が稚拙なせいかどうにも乗り切れません。全体的には結局何が言いたかったのか、何を書きたかったのかよく解りませんでした。 うーん、どうにも勿体ない感じがして仕方ありません。素材を上手く料理出来なかった印象で、実に残念な作品としか言えません。怖さはほとんどなく、アクションシーンも迫力不足で真に迫った、情景が浮かぶような描写がほとんど見られませんでした。個人的にとても消化不良で、何となく終わってしまった感が否めません。B級ホラーと言われても文句は言えないですね。 |
No.1898 | 7点 | 殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス 五条紀夫 |
(2025/06/21 22:48登録) 自身の身代わりとなった親友・セリヌンティウスを救うため、3日で故郷と首都を往復しなければならないメロス。しかし妹の婚礼前夜、新郎の父が殺された。現場は自分と妹しか開けられない羊小屋。密室殺人である。早く首都へ戻りたいメロスは、急ぎこの事件を解決することに!? その後も道のりに立ちふさがる山賊の死体や、荒れ狂う川の溺死体。そして首都で待ち受ける、衝撃の真実とは? 二度読み必至の傑作ミステリ! Amazon内容紹介より。 『吾輩は猫である』と並んで日本で最も有名な書き出しの『走れメロス』のパスティッシュです。原作は読んでいないので、どこまでが筋をなぞっているのかよく解りませんが、ミステリならではのガジェットが満載の好篇だと思います。決して色眼鏡で軽んじてはいけない本格ミステリです。勿論現代の話ではありませんので、科学捜査とかとは無縁の世界ですが、基本的には現代物と通底しており様々なトリックを楽しめます。 もじったネーミングセンスも良いので、誰が誰だかすぐに判ります。また、メロスに簡単に感情移入出来ますので、話にもすんなり入って行けます。殺人事件そのものはそれ程謎めいてはいないですが、解決編が一々面白いのでストンと腑に落ちます。文章も紀元前の物語とは思えないほど解りやすく、意外な人物も登場して、最後まで楽しめます。 |
No.1897 | 6点 | 遺伝子インフェルノ 清水義範 |
(2025/06/18 22:30登録) 簡単に遺伝子操作を受ける授精卵。時とともに若返る女性……。限りない繁栄と技術の発展を経て、人類は絶滅への第一歩を踏み出した。近未来で人類を待ち受ける恐怖を大胆に描いた予言小説。 Amazon内容紹介より。 清水義範渾身のSF連作短編集(著者によれば連作長編らしい)。 遺伝子、DNA、ニューロン、シナプス、ゲノム等のそれらしい用語が出て来ますが、内容は難解ではありません。面白いのは面白いですが、あまり印象に残りません。個人的にはもっといかがわしさや禍々しさを強調しても良かったのではないかと思いました。その方が一連の物語にフィットしている気がします。 最初は連作とは思わずに読み進めていましたが、第三話くらいであれ?となりました。同じ名前が出てきたと。そうなのです、本作はある組織に属する男性が主人公であり、彼は他では見られない憐れな境遇に遭います。 テーマとしては不老長寿が根底にあり、多くの短編がそれに沿って物語が進行しています。正に遺伝子レベルのミクロの世界を、壮大に描いた崩壊と誕生のストーリーです。ラストは果たしてこれで良かったのかと、疑問を投げかける、何とも言えない余韻を残します。 |
No.1896 | 4点 | ストリート・キッズ ドン・ウィンズロウ |
(2025/06/15 22:11登録) 1976年5月。8月の民主党全国大会で副大統領候補に推されるはずの上院議員が、行方不明のわが娘を捜し出してほしいと言ってきた。期限は大会まで。ニール・ケアリーにとっての、長く切ない夏が始まった……。元ストリート・キッドが、ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する! 個性きらめく新鮮な探偵物語。 Amazon内容紹介より。 正直イマイチでした。ハードボイルドでありながら随分マイルドなのも、面白さを半減させている一因だと思います。 打てば響く様な軽快な文章は良いのですが、一ページ丸ごと改行無しのびっしりと埋まった説明文にはうんざりさせられました。物語は単純で、ただ家出娘を探して期限までに連れて帰る事。これだけの内容で500ページ超えはあり得ませんね。本来なら半分以下の分量で済んだはずなのを、無理やり引き延ばして冗長に仕上げてしまったのは、どう考えても無謀でしょう。 それぞれのキャラも主役以外はあまり個性的ではなく、読んでいて全く心が動きませんでした。こんなの読んでる時間があるのならDVDでも観てたら良かったなあ。 高評価をされた方には申し訳ありません。しかし、自分に正直になるべきだと考え忖度することなく評価しました。私の読解力では本作の面白さが1ミリも理解出来ませんでした。残念。 |
No.1895 | 7点 | 黙過 下村敦史 |
(2025/06/10 22:55登録) “移植手術"は誰かの死によって人を生かすのが本質だ――新米医師の葛藤からはじまる「優先順位」。 生きる権利と、死ぬ権利――“安楽死"を願う父を前に逡巡する息子を描いた「詐病」。 過激な動物愛護団体がつきつけたある命題――「命の天秤」など、 “生命"の現場を舞台にしたミステリー。 Amazon内容紹介より。 色々勉強になるし、考えさせられる医療ミステリでした。 ずっしりと重いテーマだけに重厚でありながら、読み易さも兼ね備えた良作だと思います。予備知識なしで読むのが一番ですが、ある程度の範囲なら許されるでしょう。其々の登場人物が、其々の立場から何をどう捉えているのか、今何を考えているのかがありありと理解できるように描かれているのも好感が持てます。特に二人の准教授の対決姿勢がバチバチで、裏で表での心理戦が最早清々しく感じる程です。 第三話の『命の天秤』などは、舞台が珍しい事もあってなかなか興味深く読めました。などと呑気に書いている私が、まさかあんな事になるとは思いも寄りませんでした。ある種の予感はありましたが、本作をそれを軽く超えて来ました。ミステリ読みばかりでなく、多くの方にお薦め出来る作品です。一読の価値ありと思います。ラスト3ページも非常に印象深いです。 |
No.1894 | 5点 | だから捨ててと言ったのに アンソロジー(出版社編) |
(2025/06/07 22:26登録) こんなことになるなんて! 1行目は全員一緒、25編の「大騒ぎ」。 早起きした朝、昼の休憩、眠れない夜ーー。 ここではないどこか、今ではないいつかへ、あなたを連れ出す7分半の物語。 Amazon内容紹介より。 最初の一行は飽くまで書き出しであり、それをテーマにした作品は多くなく、ストーリーがどう転ぶかは書き手次第です。強く印象に残るものはあまりありません。最後の作者のプロフィールを読むとほとんどがメフィスト賞受賞作家でした。そんな事は考えるまでもない事ですが、だからイマイチ面白くなかったのかと納得しました。別に皮肉で言っている訳ではありません、まあ偶々だと思いますけどね。しかし他の黒猫?シリーズのアンソロジーと比較すると多少レベルが低いと言わざるを得ません。 まずまずだったのは麻耶雄嵩の『探偵ですから』、荒木あかねの『重政の電池』、にゃるらの『ネオ写経』の三作。いずれもメフィスト賞作家じゃないじゃん。メフィスト賞に肯定的な私ですが、何だか鼻白む思いです。もう少し本気を出して頂きたいですね。 |
No.1893 | 6点 | タダイマトビラ 村田沙耶香 |
(2025/06/06 22:25登録) 母性に倦んだ母親のもとで育った少女・恵奈は、「カゾクヨナニー」という密やかな行為で、抑えきれない「家族欲」を解消していた。高校に入り、家を逃れて恋人と同棲を始めたが、お互いを家族欲の対象に貶め合う生活は恵奈にはおぞましい。人が帰る所は本当に家族なのだろうか? 「おかえり」の懐かしい声のするドアを求め、人間の想像力の向こう側まで疾走する自分探しの物語。 Amazon内容紹介より。 村田紗耶香は特別感がありますね。発想力、表現力、描写力、文章力全てに於いて他を圧倒し、抜きん出ている気がします。皆どこかおかしいです。真面な人間はほとんど出て来ません。それが歪んだ世界を全身で表現しているようで、作者の正気を疑いたくなります。何を書かせても異常な物語を紡いでしまう、それが村田紗耶香なのです。狂っていると言っても良いでしょう。 ラストの怒涛の展開には瞠目すべきものがありました。それまでの狂気とはまた質の違う新たな世界へのトビラ。そのトビラの向こうは果たして本当の新世界なのか、或いは気の狂った世界なのか。そこには私の様な凡人の想像の付かない、正常とも異常とも付かない、誰も見た事のない世界が広がっているのでしょう。 尚、文庫本の解説は非常に腑に落ちるもので、とても親近感を覚えました。 |
No.1892 | 5点 | 天空高事件 放課後探偵とサツジン連鎖 椙本孝思 |
(2025/06/03 21:59登録) 私立天空高校の校舎屋上から、一人の女生徒が飛び降り自殺をした。騒然となる中、白鷹黒彦は、なぜか「天空高探偵部」部長の夢野姫子に目をつけられ、調査をすることに。果たしてこれは本当に自殺なのか!? Amazon内容紹介より。 まあまあですね。主な登場人物のキャラ設定は確りしていて、それぞれ個性的で読み易いです。やや長尺ですが会話文多目なので苦になりません。しかし、どこか既視感があり新味がありませんね。過去の作品で動機と言いプロットと言い、似たようなものが幾つもあった気がしてなりません。 動機に関して言えば、どうしてそこまでする必要があるのかなと思わざるを得ませんでした。もう少し穏便に済ませるやり方はいくらでもありそうなのに・・・。わざわざ連続殺人事件に仕立て上げて真相がこれでは、さすがにミステリ読みとしては納得いかないでしょうね。 まあ読み物としてはそれなりに面白かったですよ。しかし、ダイイングメッセージの件が納得いかない点があったり、警察の介入を完全に封印してしまうのは如何なものかと、疑問に思いました。警察は何していたんだろうなあと余計な詮索をしたくなります。 |
No.1891 | 5点 | 人質の朗読会 小川洋子 |
(2025/05/31 22:06登録) 遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた――慎み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは……。しみじみと深く胸を打つ小川洋子ならではの小説世界。 Amazon内容紹介より。 いやー、苦手なんですよね、こういう小説を解読するのは。本作は正に読者にどう読み解くかを迫る、読み手の懐の深さを測る様な、私にとってはとても嫌らしい作品でありました。人質達のそれぞれの朗読はしんみりとした静かな感動を与える物が多いのですが、非常に低刺激で私の記憶には残らないであろう代物です。正直申しますと、これが登録されていたとは思いも寄りませんでした。非ミステリを結構私自身登録してきましたが、この作品は最もミステリから遠いと言えるでしょう。 随分前に購入した古本ですが、何故これを選んだのか今の自分にはよく理解出来ません。多分Amazonの評価が高かったからだと思います。今後はAmazonの評価をあまり参考にしない様にします。何度も裏切られながら、結局安いからまあいいかと思い買ってしまっていましたが、もう沢山です。読書メーターも見乍ら、何でもかんでも衝動買いするのは止めにしたいと思いました。特に広義のミステリに入らないものに関して、ですね。 |
No.1890 | 6点 | 思いあがりのエピローグ 斎藤肇 |
(2025/05/28 22:18登録) まず文章について。時折一瞬の煌きを捉えた清冽な表現力にハッとさせられました。シリーズ二作に関してはかなりの酷評を受けて、本作に至っては今まで長きに亘って誰も書評していません。既に見切られたと考えても良いでしょう。しかし、これに限っては悪くないと思いました。全体を通して名探偵の存在意義を読者に問いかけている様に感じます。その為、結果的に衝撃のエピローグが冒頭に配置されているのです。 トリック自体はショボいし、解決編があっさりし過ぎていて物足りません。斎藤肇と云う人はもっとデキる人だと思っていましたが、結局いつも裏切られて非常に残念でなりません。ただ本格ミステリ愛は十分伝わってきました。欠点ばかり目立つような物言いになってしまいましたが、決して凡作ではないと思います。目を瞠るような文章力や的確な人物造形、凝った構成に謎めいた連続殺人事件は新本格マニアにとっては注目すべき点も多いです。又最後に配された名探偵論はなかなかのものだと思いました。ちょっと洒落たオマケもついていますし、愛すべき本格ミステリと言わざるを得ません。 |