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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:2057件

プロフィール| 書評

No.2037 5点 深淵のテレパス
上條一輝
(2026/07/07 22:03登録)
「変な怪談を聞きに行きませんか?」会社の部下に誘われた大学のオカルト研究会のイベントで、とある怪談を聞いた日を境に高山カレンの日常は怪現象に蝕まれることとなる。暗闇から響く湿り気のある異音、ドブ川のような異臭、足跡の形をした汚水――あの時聞いた”変な怪談”をなぞるかのような現象に追い詰められたカレンは、藁にもすがる思いで「あしや超常現象調査」の二人組に助けを求めるが……選考委員絶賛、創元ホラー長編賞受賞作。
Amazon内容紹介より。

三冠だか何だか知らないけれど、全然怖くないしミステリとしても体裁だけは整っているが伏線回収出来ていません。主要登場人物には魅力がないし、これと言った突出した部分が見当たらない、ごく普通のホラーだと思います。Amazonの評価高すぎではないかと。それとも私が間違っているのでしょうかね。

重要人物と思われた桐山楓を追う展開まではそれなりに読めましたが、その正体も拍子抜けでした。それに肝心の超常現象は一体何だったのかがはぐらかされた感じがして、エンディングを迎えた後もそれで?と云う疑問符が頭の中でチラチラして府が落ちません。ミステリで言う解決編というか「答え合わせ」が全然駄目でもっと解り易く説明してくれ、と思わずにはいられませんでした。


No.2036 5点 素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち
アーシュラ・K・ル・グィン
(2026/07/06 22:24登録)
子猫のアレキサンダーは二匹の妹達と幸せに暮らし、平和な日々を送っていました。兄妹の中でも最も大きく強いアレキサンダーはある日、家の外に出掛けます。するとトラックに遭遇した後、猟犬たちに追われ、森の中に逃げ込んで気付いた時は大きな木の上でした。しかし余りの高さに慄いて降りる事が出来ません。その時羽根の生えた黒猫のジェーンが彼の前に現れます。同じ子猫のジェーンに導かれて無事木から降りる事が出来たのですが・・・。

翻訳は村上春樹で優しい世界を包み込むように描いています。丁寧な訳注も入れてありとても親切だと思いました。我が家で飼っていた子猫も木に登ったのは良いけれど降りるに降りられず鳴いていたところを母が助けたのがきっかけで飼うことになりました。猫あるあるでしょうか。猫は高い所が好き、ある程度の高さなら楽勝で降りられますがあまり高いと怖気づいてしまいますね。

さて、黒猫ジェーンにはある秘密がありました。彼女はそれをアレキサンダーの助力により克服し、ジェーンの兄弟(全員空を飛べる猫)の仲間入りを果たすまでが描かれており、一定の支持を受けている様です。人間と猫ではなく猫同士の関係性を扱っているのが良いんでしょうね。猫が相手の猫の耳や顔を舐めるシーンがよく出てきて、ほんの少し心が温まりました。


No.2035 7点 鬼門の村
櫛木理宇
(2026/07/05 22:28登録)
大学生の友部は、社会民俗学の嘉形教授の依頼で、夏休みのあいだ山奥の村に滞在し、ラジオ番組に投稿された実話怪談の整理を行うことになった。
注意点は二つ、昭和三十年代に一家惨殺事件が起きた家に滞在すること。その土地の水やそこでとれた食物を口にしないこと。
何度返しても戻ってくる石、社(やしろ)を護る白い着物姿の子供、鳴り止まぬ羽音……整理を続けるうち、友部はこの村に隠されたおぞましい真実に迫っていく。
日本ホラー小説大賞出身作家、 初の本格ホラー長編。
Amazon内容紹介より。

櫛木理宇は村のホラーを書かせても上手かったです。主人公の友部は等身大の大学生として、至って普通な感じなのが良いんです、それによりリアリティも一層増してくるというもの。教授の嘉形とは通信可能であり、ミステリにありがちなクローズドサークルとは違います。なので閉塞感はありませんが、現代的な要素を取り入れているのも評価が高いですね。

前半は一見関係なさそうなラジオ番組への投稿を紹介していきます。それが次第に繋がっていき、遂には丑土村の悍まし過ぎる現実が明らかになり、物語は破局へと向かいます。ここに来て初めてこの作品の隠された狙いが明確になると同時に、ミステリ的要素を実感させられることになります。そう来たか、これは正にカタストロフィの始まりではないか、と思いました。
ただ、一家惨殺事件や謎の髪の毛、閉ざされた襖の向こうなど、何となく暈かされた様な所があり、読解力の乏しい私にとってはややモヤモヤした感じが残りました。


No.2034 6点 トカジャンゴ
戸梶圭太
(2026/07/03 22:31登録)
『ヒロミ』『トレンド』の二作目までを読み終えた段階で、随分物騒な作品だなと思いました。ちょっと今までに経験したことの無い様な、読者に緊張感を強いる感覚が残りました。要するにエログロなんですが、尋常ではない、ダイレクトに脳に突き刺さる感じでした、ちょっと大袈裟ですが。三作目以降はその毒が薄れると同時に、面白味も薄れます。駄洒落塗れの連続殺人事件を扱った『スーパー・クール・ランニング』は大味で捻りがないし、最終作の『ゴンドラの七人』は圧倒的に説明不足で、プロットも上手くない、ハッキリ言って滅茶苦茶な作品に感じました。

作品ごとに出来不出来の差が激しい短編集で、ミステリやらサスペンスやらの枠に嵌り切らない異様な作品は評価出来ますが、駄作凡作も混じる為全般的に高評価とは行きませんでした。正直一、二作目のクオリティならいささか疲れはするものの7点は堅かっただろうなと思うと残念です。


No.2033 5点 脳の冒険
評論・エッセイ
(2026/06/30 22:33登録)
東京大学医学部教授の養老孟司が、世の中に溢れる様々な事柄に触れるエッセイ。それは多岐に亘り、ファッション、死体、解剖、掃除、虫、宗教、飼い猫、バイオハザード、死後の世界等々。流石に教授だけあって、単純な事や簡単な事を難しくややこしく、回りくどく表現しています。例えば経済学で言う限界効用逓減の法則みたいなものです。大学教授っていうのはそういう商売なのでお手のものでしょう。更には著者は情というものが無いのかと思える程、感情を殺して書いています。

難解な用語などは出て来ません。その証拠に振り仮名が打ってあるのは、私の読んだ限りでは鉦や太鼓のかねだけです。なのにさっぱり頭に入って来ないのは、著者と私とでは頭の出来が違い過ぎるからだと思います。勿論、全部が全部理解出来ない訳ではありません、成程なと感じ入った箇所も沢山ありました。勉強になったと言うより、そういう見方もあるのかと云った感じですかね。


No.2032 6点 世にも奇妙な物語 小説の特別編 再生
アンソロジー(出版社編)
(2026/06/28 22:44登録)
タモリがストーリーテラーで有名なTVオムニバスドラマ『世にも奇妙な物語』は1990年に始まったそうです。私はそんなに観ていませんが、京極夏彦原作の『厭な扉』にはおっ、そう来たかと思ったものです。しかし未だに続いているのはそれなりに視聴率を稼げる番組だからでしょう。本作にもノベライズされた作品は結構ある様で、ごちらも一定の需要があった為と思われます。

『友達登録』 短大生の小百合は友達がいない。或る日初めて買ったケータイに『あなたも友達登録してみませんか』というメールが届く・・・。物語に動きが感じられずオチも予想が付きやすいのが欠点ですかね。
『株式男』 事務機器会社に勤める高桑喜一郎は冴えないサラリーマン。彼は自分の知らないうちに自身の株が売買されているのを知り、人生が一変する。これは面白い、ブラックなラストも私好みでホラー色が濃いです。
『太平洋は燃えているか』 最初これは私の苦手なタイプのSFかと思いました。が緊迫の雰囲気の中で初めて遭う祖父と孫の会話が感動的で、一番の出来だと思いました。オチはちょっと辛いものがありますが。
『心臓の思い出』 心臓移植を受けた女性のその後を描いた異色作。どこか既視感があるものの、ミステリ色は最も濃く最後まで読むと単なるサスペンスではないことが判ります。

全四作、なかなか読み応えがありました。ドラマも面白かったのだろうと想像が付きます。ドラマのノベライズ物としてはかなり優秀な部類だと思います。


No.2031 7点 小説・麻雀新撰組
阿佐田哲也
(2026/06/26 22:27登録)
正に虚々実々、現実と虚構の区別が付かないほど巧妙に計算された、阿佐田哲也ワールド全開の佳作。本作は阿佐田哲也が小島武夫と古川凱章と共に麻雀新撰組を結成し麻雀界に殴り込みを掛ける所から、阿佐田が隊長を退くまでが丹念に描かれています。
実は『新麻雀放浪記』で書きましたが、「私の読みたかったシーン」があると信じていたところ、又しても裏切られました。折角本の山から見付けたのにこれじゃなかったのかとがっかりしました。よくよく調べてみるとそのシーンは『麻雀狂時代』に書かれていることが判りました。やっとの事で辿り着いたのにその本はやはりどこにあるのか不明で、新しく買うことになるでしょう。古本しか売ってませんけど。

さてこの作品には多くの作家が出て来ます。五木寛之、吉行淳之介、清水一行など。特に新撰組に対抗した形になった、マージャン鞍馬天狗こと福地泡介との対決は二章に亘って描かれており、双方の麻雀スタイルを巡っての大決戦となっています。都合よく引き分けに終わったのは、嘘か誠か当事者にしか分かりません。又ムツゴロウこと畑正憲のエピソードもちょっぴりではありますが書かれています。まあしかし、どこを取っても惹き込まれる文章で、麻雀という遊戯の醍醐味が知れる内容となっており、流石にその道での第一人者だったことを伺わせます。


No.2030 5点 人類は衰退しました1
田中ロミオ
(2026/06/23 22:45登録)
わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。すでに地球は”妖精さん”のものだったりします。平均身長10センチで3頭身、高い知能を持ち、お菓子が大好きな妖精さんたち。わたしは、そんな妖精さんと人との間を取り持つ重要な職、国際公務員の”調停官”となり、故郷のクスノキの里に帰ってきました。祖父の年齢でも現役でできる仕事なのだから、さぞや楽なのだろうとこの職を選んだわたしは、さっそく妖精さんたちに挨拶に出向いたのですが……。田中ロミオ、新境地に挑む作家デビュー作。
Amazon内容紹介より。

サクサク読めるのは良いですが、いい大人の読む本ではないですね。序盤意味ありげに“彼ら”と連呼していますが、蓋を開けてみればそれは妖精だったというオチ。流石に予想外でしたが、何だか拍子抜け。その後もさしたる事件は起こらずのんびりと話は進みます。ふんわりしたファンタジーが好きな読者に支持されたのか、Amazonの評価は思いの外高く、それが一番驚きです。

まだまだ先は長く、所謂序章を読まされたような感覚でした。少なくとも長編を読んだ気はしません。ラノベ読者を腐すつもりは毛頭ありませんが、他ジャンルに比べて不当に高評価過ぎませんかね。メルヘン大好きな大人達が日本には多いって事でしょうか。日本って平和なんだなあ。


No.2029 6点 猫語の教科書
ポール・ギャリコ
(2026/06/21 22:57登録)
ある日、編集者のもとへ不思議な原稿が届けられた。文字と記号がいりまじった、暗号のような文章。
“£YE SUK@NT MUWOQ"相談を受けたポール・ギャリコは、それを解読してもっと驚くはめになる。
原稿はなんと、猫の手による、全国の猫のためのマニュアルだった。
「快適な生活を確保するために、人間をどうしつけるか」
ひょっとしてうちの猫も?
Amazon内容紹介より。

猫派必読の書。交通事故で母を亡くし、生後6週間にして世の中に放り出された猫が人間の家の乗っ取りを計画。如何に人間に取り入り快適な生活の場を勝ち得たのか、そして人間に自分の意向に沿った行動を取らせるにはどうすればよいのかを全世界の猫に発信する指南の書です。
私は毎日ネットのねこちゃんホンポの記事を読んでいるので、猫の気持ちはある程度理解しているつもりです。猫は人間で言うと3歳児程度の知能を持っていると言われていますが、本書ではそれを上回る狡猾さで、猫が人間を飼いならしていく姿が描かれています。

著者の猫に対する洞察力はなかなかのもので、猫がある行動を起こすには何らかの理由がある事を察知し、その意味を非常に解り易く解説しています。ただ、猫が閉所恐怖症でキャリーケースに入れられたりすると不快になるとしていますが、それは違うと思います。猫は狭いところが大好きなのは猫を飼ったことがある人なら知っているはず。例えば段ボール箱の中とかに入って悦に入っているのを見た事があるでしょう。好きでもないのにわざわざ狭い所に自ら入り込まないですよね。他に関しては大凡著者が書いている通り、猫は人間から見ると気高く優雅な存在に映ります。そのしなやかさは他の動物にはないものです。しかしその裏で猫はしたたかに人間を操っているのです。


No.2028 6点 魔界都市〈新宿〉
菊地秀行
(2026/06/20 22:32登録)
その昔、OVAのビデオを借りて観ましたが、それは素晴らしい出来でした。しかしこの作品は不評だったらしく菊地秀行の名を貶めたと言われています。信じられませんね。私に言わせればアニメは原作よりも遥かに面白いとしか思えません。だから原作に期待しながら読んだ訳ですが、大筋は同じであるものの、細かいディテールが全然違うので、原作とOVAは全くの別物と考えた方が良いです。重要と思えるプロローグの部分からして、原作は肝心のシーンが抜けていたと言っても良いでしょう。

かなりの脚色を受けて傑作となったアニメでしたが、原作も実は凄かったようで、私が読んだ古書は第53刷でした。そんなに売れたにしては世間の評判はそれ程でもなかったのかどうか。ヒロインのさやかは意外と天然キャラで、知られざる力も秘めています。又サブキャラのドクター・メフィストはもっと目立つ存在であって欲しかったですね。その辺りもOVAとは随分違います。


No.2027 6点 母という呪縛 娘という牢獄
齊藤彩
(2026/06/17 22:45登録)
2018年3月10日、土曜日の昼下がり。
滋賀県、琵琶湖の南側の野洲川南流河川敷で、両手、両足、頭部のない、体幹部だけの人の遺体が発見された。遺体は激しく腐敗して悪臭を放っており、多数のトンビが群がっているところを、通りかかった住民が目に止めたのである。
滋賀県警守山署が身元の特定にあたったが、遺体の損傷が激しく、捜査は難航した。
周辺の聞き込みを進めるうち、最近になってその姿が見えなくなっている女性がいることが判明し、家族とのDNA鑑定から、ようやく身元が判明した――。
Amazon内容紹介より。

高崎あかり(仮名)31歳が母の妙子(仮名)58歳を殺害し、死体を切断し遺棄するまでの二人の関係性を克明に描いたノンフィクション作品。妙子は国立大学の難関校の医学部を娘に強要し、娘は母の期待に応えようと必死に勉強し、9年も浪人生活をしていた。この9年の間にに何があったのか。あかりは妙子の度重なる虐待に耐えました。時には鉄パイプで背中を叩かれ、又ある時は庭で土下座させられ、足に回し蹴りを喰らわされ痣ができる程であったと言います。又、血文字で反省文を書かされたり、妙子の書いた叔母への偽の手紙を無理やり清書させられたりもしました。

これでもかという母の暴力や叱責に耐えきれなくなったあかりは、遂に母を殺すことを決意します。切断した四肢と頭部はゴミに出したと言います。そこから事件が発覚する事はなく、残った胴体部分が破棄されたことから事件性が見出されました。
しかしこれも、最初は動物の死骸と間違われています。これは私には疑問に思わざるを得ませんでした。果たして人間の死体の一部と動物の死体を見間違えるものだろうかと。しかし、そんな事よりも理解出来ないのは、妙子は何故看護師ではなく助産師に拘り続けたのかという事です。それさえ妥協していれば悲劇は起こらなかった筈なのに。

本書は全編に亘ってあかりの証言や書簡で構成されており、著者はそれを纏めて作品という形に仕上げるまでに2年掛かったと言います。これだけの内容を作り上げるのに2年は短い様に感じます。それだけ著者があかりと頻繁に面会し、友好的な関係を築いたことが伺えます。どうしてもあかり目線で描かれたノンフィクションなので、彼女に感情移入せずはいられませんでした。9年という永い地獄のような日々は彼女に何を齎したのでしょうか。


No.2026 6点 3分で読める!人を殺してしまった話
アンソロジー(出版社編)
(2026/06/15 22:34登録)
累計140万部突破!宝島社の大人気ショートショートシリーズ最新刊。
「人を殺してしまった」の書き出しから始まる物語を“チーム・バチスタ”海堂尊、
“さよならドビュッシー”中山七里ほか『このミス』大賞作家が全作書き下ろし!
ゾクッとするどんでん返しから意味が分かると怖い話まで超ショートストーリーを25作品収録。
Amazon内容紹介より。

これまで『このミス』出身作家とは相性があまり良くないと、自分で勝手に決めつけていましたが、本書を読んでその考えを改めなければならないかも知れないと思い直しました。人を殺してしまった話が全方位に広がり、瞠目せずにはいられません。
特に前半の中山七里、佐藤青南、小西マサテル、堀内公太郎、三田市零、高野結史、桐山鉄也、貴戸湊太辺りまでは良作揃いでかなりの好印象でした。特に桐山鉄也の『侵入者』と堀内公太郎の『穴』には痺れました。

その後はややトーンダウンするものの、中には秀作も含まれていて、全体としては7点も吝かではない気もしましたが、読み終えた時の気分で6点に。余計なお世話かも知れませんが、『3分で読める!』のは余程の速度で読める人に限ると思います。私は最低でも5分は掛かりました。確かに私は読むのが遅い方ですが・・・それにしても、ねえ。


No.2025 6点 それはそれはよく燃えた
アンソロジー(出版社編)
(2026/06/13 22:17登録)
『黒猫を飼い始めた』『嘘をついたのは、初めてだった』『これが最後の仕事になる』『だから捨ててと言ったのに』『新しい法律ができた』に続く、会員制読書倶楽部:Mephisto Readers Club(MRC)で配信(公開)された大人気ショートショート集第六弾!
Amazon内容紹介より。

海外が舞台の作品は面白くない法則は一体どいう訳でしょう。短編集としては普通の出来だと思います。混交玉石というか、これだけ多くの作家が書けば出来不出来の差が出るのは仕方ない事ですね。

個人的に良かったのは歌野晶午、米澤穂信、島田荘司、市塔承、黒澤いずみ、秋吉理香子、矢樹純、三津田信三です(登場順)。女性陣頑張ってますね。こうして見ると一人を除いてやはり著名な作家が並んでます。私は解り易い作品が好きなんだと改めて思いました。優勝は秋吉理香子の『ファンの鑑』でしょう。短い中にも起承転結がはっきりしていて、オチが素晴らしいです。みなさんこういうのを求めているのだと思いますよ。


No.2024 7点 文藝モンスター
二宮敦人
(2026/06/12 22:22登録)
文学賞の打ち上げのために集まった、強烈な個性をもつ売れっ子作家たち。そこで発生した猟奇殺人事件を、彼らは解決できるのか?
Amazon内容紹介より。

予備知識なしで読みました。タイトルから想像するに、文壇の確執や編集者との関係等を絡めた文学作品だと思っていましたが、意外にも本格ミステリでした。バカミスですけどね。しかし、ミステリ以外の部分が面白いんですよ。特に増田長春文学賞各受賞者のインタビューが奮っています。ジャンルの違う作家達の、小説を書くという事に対する姿勢の違いが浮き彫りになり、それぞれの個性が際立ちます。

ミステリとしては死体を何故損壊したのかを軸に、一人の奇矯な作家が真相に迫ります。アイディアは面白いですが、リアリティはありません。かなり突っ込みどころがあり、そこが評価が割れた原因となっている気がします。こういうのを許容出来るかどうか、これについては個人的にはあまり気にならない方なので評価は高めになっています。作風は真面目に書いているのにどこかユーモアが感じられ、事件に比して陰惨な雰囲気はありません。読み易いのも良いです。


No.2023 5点 飛ぶ教室
エーリヒ・ケストナー
(2026/06/10 22:15登録)
子どもだって、ときにはずいぶん悲しく、不幸なことだってあるのだ……。20世紀初頭。孤独なジョーニー、頭の切れるマルチン、腕っぷしの強いマチアス、弱虫なウリー、風変わりなゼバスチャン……個性溢れる5人の生徒たちが、寮生活の中で心の成長を遂げる。
Amazon内容紹介より。

講談社文庫で読みましたが、児童書の為平仮名ばかりで頭の中で漢字に変換する必要がある為、非常に読み難かったです。これが世界的な名作か、というのが率直な感想。色々な出来事が次々と起こりますが、今一つその世界観に入り込めません。第7章でやっと面白くなってきます。勿論感性の鋭い人は最初から楽しめる作品なのでしょう。ですが私は擦り切れた読者なので、ちょっとやそっとでは心が動きませんからね。

この物語には悪い人は出て来ません。五人の子供達はそれぞれ個性的で、境遇も違います。それは当然の事でリアリティがないとは言えません。彼らの友情と先生との絆の強さが心温まるストーリーを生み出している、のでしょう。私にはあまり響きませんでしたけど。まあしかし、子供も大人もそれなりに楽しめるのは確かで、私の様にピンと来なくても永く記憶に残りそうな気はしますね。特に幾つかのエピソードは・・・。


No.2022 6点 僕たちの青春はちょっとだけ特別
雨井湖音
(2026/06/08 22:23登録)
中学時代、クラスのお客様扱いでぼんやりと過ごしてきた青崎架月。15歳の春、この明星高等支援学校に進学したことで、そんな日常にちょっとした変化が。先輩が巻き込まれたゴミ散乱事件、ロッカーの中身移動事件、生徒失踪事件を同級生や先輩の手を借りながら解決していく。高等支援学校を舞台に、初めてできた友人たちとの対等な付き合いに戸惑う架月の青春と、彼が出合った謎を描く連作集。
Amazon内容紹介より。

知的障害を抱えた高校生達の、それぞれの青春。色々考えさせられる小説でした。健常者と障碍者との共生は昔からの課題ですが、これを読むとやはりそれはそんなに単純な問題ではないと思わされます。本作では支援学校の生徒達が個性的に描き分けられており、それだけでも好感が持てます。そんな中三つの事件を解決に結び付けていく主人公の架月の成長物語として、そして仲間達の友情を描く青春小説として優れたミステリです。

事件そのものは驚く様なものではありません。が、障害者ならではの動機や事件を事件として捉えない優しさを感じます。そうした事を含めて温かい目で読んで頂きたいですね。彼らの言動を好奇の視線を浴びせるのではなく、同じ青春を送った経験のある一人の人間として、同じ土俵に立って見守りたいと心から思います。


No.2021 6点 5分後に意外な結末 ベスト・セレクション 白の巻
アンソロジー(国内編集者)
(2026/06/06 22:23登録)
書き下ろしを含む20編とさらに短く切れ味鋭い19編のスケッチで構成。
恐怖、感動、笑い、涙……そして最後にやってくるだまされる快感!
たった5分の中で起こるドラマが、日常をリフレッシュさせる。
ティーンから大人まで、どこから読んでも楽しめるショート・ショート集。
朝読にも最適。親子で楽しめるアンソロジー。
Amazon内容紹介より。

うーん、確かに意外性がある短編も多いですが、アッと驚く様な作品は少ないです。何となく、ああそうなのか程度に思っておいた方が楽しめるかもしれません。とは言え、結末が読めるのかと問われると否と答えざるを得ません。恐怖とか涙とかはあまり感じませんが、皮肉な結末が多い様な。一話一話に付随するように配されたショートショートは、本題と関係があったりなかったりの、これと言って特徴のない話が殆どです。

編集と著作を兼ねた桃戸ハルよりも、よく知らない作家橘つばさの書いた作品の方が気が利いていて面白かったです。オチがナイスです。『名探偵の復活』『サイレント・ナイト』『愛妻弁当』『鏡よ鏡』『見えない男』辺りが良かったですね。全体的に好編が目立ち、これはどうもイマイチというのはありません。全て平均点以上だと思います。


No.2020 4点 トワイライトシンドローム
福谷修
(2026/06/05 22:51登録)
元ネタはプレイステーション用ゲームソフトであり、登場人物もゲーム内容も全く違います。本作はシリーズの独立した映画のノベライズであり、本来のゲームとは関係ありません。『デッドクルーズ』の主人公は春香で、仲間と共にクルーズ中に少女から渡されたゲームを始める所から恐怖が始まるというもの。ゲームなのかリアルなのか判然としない中、乗組員に襲われ死を賭けた戦いが繰り広げられます。
しかしこれが又平坦な文章で面白みがなく、誰にも感情移入が出来ない詰まらない代物。漫然と読み進みましたが全然心が動くシーンがなく、正にB級ホラー或いはそれ以下の読み応えの無さに辟易しました。一応オチはあるものの、後味は良くありません。全く何を読まされているのか、何やってるんだって気持ちにしかなりませんでしたね。

『デッドゴーランド』は春香の妹芽衣が主人公で、ゲームの得点上位者の男女がミッションをクリアしていくもの。こちらも『クルーズ』同様、見所が殆どありません。起こった事象を淡々と描かれていくだけ、心理描写も背後関係もほぼなし。両者とも出来はイマイチで暇潰しにすらなりませんでした。


No.2019 7点 官能的 四つの狂気
鳥飼否宇
(2026/06/03 22:23登録)
「ついにやってしまった……」
変態する数学者、暴走する助手──
最凶のバカミスコンビ、降臨!
不可解な事件に数学的思考から
「至高の解答」を導き出した──はずだったのだが、「真相」は──言えない。
Amazon内容紹介より。

のっけからパンテ○ラインだとかクロッチだとか、延々と女性のヒップに関する男目線からの考察が続きます。おいおい、大丈夫かこの小説。まるで私の為に書かれた様な作品じゃないか、とか思いましたが、やはりミステリはミステリ。名付けるなら変態理数系本格ミステリですかね。しかし意外にも図解入りで、親切設計です。まあ推理としては粗が目立ったり、密室トリックなどは他愛ないものであったりとあまり誉められたものではありません。勿論全篇エロ路線まっしぐらであります。

でも面白いからいいじゃん、まあ6点だけどねと思いました。ところが・・・。何と、何と、これ以上は書けません。私の愛の籠った7点という採点でそこの処を察して頂きたいと思います。いずれにしても、本書は禁忌とも言える危険な領域に踏み込んだ、作者渾身の問題作ではないでしょうか。
尚作者はドラゴンズファンの様で、往年のドラゴンズ選手の名字や名前が続々と出て来ます。木俣、孝政、正岡、三沢、安志、堂上、銅烈、近藤、今中、都、薫、徹ら多数出演。


No.2018 7点 そして物語のおわりに
小松立人
(2026/06/01 22:14登録)
医学生・張田雅之は、アルバイト先の店長の招きで、友人の久郷一と共にとある離島を訪れる。店長の父・柏谷高視は大手ゼネコンの会長でもあり、自身が所有するこの島で、親類や知人を招いて年末を過ごすのを習慣にしていた。集まった人々の前で高視が病気で余命幾ばくもないと明かされた翌朝、彼は四肢を切断され、池に浮かべられた死体となって発見される。高視の部下の男も同様に惨殺されていた。屋敷内のすべての通信設備は壊され、船も二日後まではやって来ない。出入り不能の孤島と化した中、猟奇的な事件を調べるために、張田は医学生としての知識を活かしたある提案をする──。『そして誰もいなくなるのか』でセンセーショナルなデビューを飾った著者による、第二長編。
Amazon内容紹介より。

特殊設定ではない、どこまでも真っ直ぐな孤島ミステリ。探偵と助手が目立ちすぎて、他の登場人物に個性が感じられません。奇矯な探偵というのはありがちな存在ですが、久郷一の場合特殊能力を持っていてそれを遺憾なく発揮しています。そこが他の本格ミステリと一線を画すところでしょうか。医学生の張田雅之は結構な観察力があり、これまた普通の探偵助手とは一味違います。彼のダミーとなる推理はなかなかのもので、こちらの方が真相よりも面白かったりします。

また四肢の無い死体の切断の理由は、私の知る限りでは初めてかも知れません。クローズドサークルだからか首なし死体という訳ではありません、登場人物が限られていますからね。一方密室トリックは前例があり、驚きはありませんでした。しかし王道の本格ミステリであるのは間違いなく、個人的に好感が持てました。探偵の相当の変人ぶりにも免疫があるせいか、それほど違和感を覚えることなく読めました。嫌いなタイプではないですし。

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