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ミステリの祭典

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simo10さんの登録情報
平均点:5.69点 書評数:193件

プロフィール| 書評

No.93 7点 花の下にて春死なむ
北森鴻
(2010/04/26 00:12登録)
マスター工藤哲也が営むビアバー「香菜里屋」シリーズ。6つの短編で構成されています。

①「花の下にて春死なむ」:句人片岡草魚の静かな最期に秘められた過去に迫る。作中の句「人のいぬ道選びて繰り返すその町の名」が良かった。
②「家族写真」:駅の本棚の各本に挿まれている白黒の家族写真の謎に対して「香菜里屋」の客達が推理を披露。ちょっと皮肉な作品。
③「終の棲み家」:多摩川沿いの小屋に住む老夫婦の弱々しさが非常に切ない。綺麗な作品で好きです。
④「殺人者の赤い手」:推理クラブ化した雰囲気が好かない。いくら赤いっつっても限度があるでしょう、と言いたくなる。
⑤「七皿は多すぎる」:これまた推理クラブ化現象。提示された謎のインパクトの割りにイマイチな真相。
⑥「魚の交わり」:①の続編。再び草魚の悲しい過去に迫るが予測もつかなかった恐ろしい推理が…。

ミステリ的には普通ですが、非常に「綺麗な作品」という印象があり、質の良い文学作品を読んでいるかのような心地良さを覚えました。(セリフ部分がちょっとぎこちないところもあるけれど。)
次に読む作品を探して、作者の訃報を知りました。非常に惜しまれます。


No.92 3点 光る鶴
島田荘司
(2010/04/22 20:49登録)
吉敷シリーズの中編&短編モノです。

①「光る鶴」:またもや冤罪ものです。空白の時間の不在証明を行うべく、「光る鶴」の謎を吉敷刑事が追い掛けます。謎が解き明かされたときの描写がどことなくきれいでした。妙にリアルな設定だと思っていたら、「秋吉事件」を元にした作品だったんですね。
②「吉敷竹史、十八歳の肖像」:若かりし吉敷の運命が警察官へと定まっていく過程を描いたエピソード。「涙流れるままに」でも触れられていましたが、宮沢賢治氏の作品を読んでみたくなりました。
③「電車最中」:「灰の迷宮」で登場した鹿児島の刑事、留井十兵衛が事件を追います。偶然にもこの作品を読む数日前に、件の路面電車を実際に見て知ったばかりなので、不思議な感じを受けました。さすがに最中は知らなかったけど。吉敷刑事はちょい役で登場です。

まあ、特にこれと言って面白いところの見当たらない作品集でした。
通子とのその後についても描かれていないし。


No.91 4点 涙流れるままに
島田荘司
(2010/04/19 22:56登録)
-ネタばれ含みます-

吉敷シリーズの総決算的位置づけとも言える本作。
というのも過去に関わった事件に大なり小なり触れながら話が進んでいくので、それまでの作品に触れている人ならば、もう一度読んでみようかなという気持ちにさせられます。
本編は吉敷刑事がまたも逆転不可能的冤罪事件に挑んでいく話と、加納通子が自らの過去の秘密を探り当てる話が並行しながら進んでいきます。
しかしその内容たるや、かなり辛い気持ちにさせられます。つまらないという意味ではなく、ただただ通子の人生が酷すぎて読むのが辛くなります。
事件を追ううちに、図らずもそんな通子の過去に関わってしまう吉敷刑事が可哀相になる。なんとも重い話です。
ミステリ的な要素としては通子の幻の正体にかなり興味をそそられたのですが、真相はちょっとがっかりです。いや、辛い話を読み進めたのも、この謎を解き明かすキーワードを探すことに主眼をおけたからでもあるため、その苦労を振り返るとかなりがっかりでした。
ラストの吉敷刑事と主任との決着はなかなか見ごたえがありました。
また、吉敷と通子の決着も見納めることができてほっとしました。


No.90 3点 飛鳥のガラスの靴
島田荘司
(2010/03/16 00:34登録)
理由は分からないけど、どうもこの作品は絶版されているようなので、書店で探すのが大変でした(色々探し回ったあげく、近くの古本屋で発見)。
メインの謎としては島田氏らしく、飛鳥の土地にまつわる怪現象が序盤に手記の形で提示されます。しかし真相と言うか「飛鳥」の謎については、「んなもん知らなきゃ分からんだろ!」と思うし、分かったとしても全然面白くないと思う。
しかも物語の大半は吉敷刑事の単独行動が空振りに終わるというもので、終盤にようやく天の助けで面白くもない「飛鳥」の謎にたどり着くというもの。
雰囲気はまああるんだけど、この内容で430ページは長すぎると思う。
自分的には「羽衣伝説~」以降の吉敷と通子のその後の展開が少し描かれている程度しか価値がなかった。とりあえず「涙流れるままに」を我慢して読まずに、この作品(吉敷、通子情報)を読めて良かったといったところ。


No.89 4点 殺人の門
東野圭吾
(2010/03/09 22:39登録)
幼い頃から動機の深い計画的な殺人に興味を持つ主人公。
おお、なんか今まで見たことのないパターンではないか。
しかもちょっと自分好みの暗めのどんよりした展開だし、これは期待できそうだ思った。
クラスの全員を殺すための予行演習として、ある人物を選定し、実行する。
ここまでは良かったんだけれど、主人公が気変わりを起こした瞬間、残り400ページ以上の展開が読めてうんざりした。
予想に違わず、殺意を抱いては失うのローテーションにやっぱりうんざり。
雰囲気は「幻夜」のアレンジバージョンみたいな感じで、キーマンの倉持修も男版新海美冬といった感じで、悪い奴なんだけどなんか魅力を感じる。
面白いことは面白いんだけど、どうも嗜好に合わないんだよなぁ。
ミステリでもないし。


No.88 2点 殺人鬼2
綾辻行人
(2010/03/04 21:11登録)
殺人鬼シリーズ第二弾。
さすがにどんな作品かわかっていたので、やめておけば良かったのですが、読んでみるとやっぱりやめときゃ良かったという結果に終わりました。
一作目のインパクトに比べれば、どうにも小粒だし、何よりも真相(?)が読めてしまったのが痛い。
そうなると後はただ惨殺シーンの傍観に終始し、後悔と吐き気のスパイラルに陥るばかり。


No.87 6点 殺人鬼
綾辻行人
(2010/03/04 21:03登録)
当時館シリーズにはまり、綾辻氏の他の作品も見てみようと手を出してみたものの、こんなグロいモノだとは予想しておらず、かなり気分が悪くなったことを覚えています。
違和感を感じつつも、その正体に気付かずに読み進んでいったら衝撃の真相が待ち構えていました。
あの衝撃はなかなかでした。
今読んだら気付いてしまうかもしれないけど、まああんな気持ち悪いモンはもう読みたくもないし、記憶の中に留めておくだけにしておこう。


No.86 6点 赤い指
東野圭吾
(2010/03/01 21:41登録)
加賀シリーズ長編モノです。
多くの家庭が抱える社会問題をテーマにした、倒叙形式となっています。
犯行の動機から方法まで全て稚拙なのですが、その分妙にリアリティがあり、恐怖すら感じました。
実は加賀シリーズなので本格モノを期待していたのですが、ミステリ的には目新しい所もなくイマイチでした。
しかし、ラストのくだりはなかなか圧巻です。
重めの作品だけど、好きな人にはたまらないかも。


No.85 8点 果断
今野敏
(2010/02/27 20:43登録)
この作品は一作目に比べ、幾分ミステリ要素はあるので点数制限の枠もそれなりに取り払いました。
本作でも主人公の人物像は一作目から全くブレおらず、前作に引き続きその魅力を堪能できます。また、主人公の新たな職場での活躍ぶりと、その回りの人間関係を楽しめます。
二作目にしてマンネリ化してるとも思われる「最初は嫌だった登場人物が実は…」的なパターンがあるのですが、どうにも私はこのパターンが好きなようだ。作者の見せ方が巧いんだろうけど。
意外な人物の名探偵ぶりも楽しかった。
幼少期にこのシリーズを読んでいたら、警察官になりたいと本気で考えたかも。


No.84 5点 隠蔽捜査
今野敏
(2010/02/27 20:33登録)
日本推理作家協会賞を受賞した「果断」を読みたかったので、シリーズ一作目の本作を読んでみたのですが、これはミステリ要素がなかったんですね。
そんな訳で、非常に面白かったのですが、点数は控えました。
この作品はありがちな刑事ものではなく、警察庁総務課課長を務めるキャリアが主人公という、ちょっと意外な設定。
しかも、キャリアと言ってもちょっと型破りで熱いハートを持っている等のようなこれまた主人公にありがちな設定ではなく、正統派のガチガチのキャリアだからさらに意外。
しかし、読み進めていく程に主人公竜崎の魅力にはまってしまいました。何があってもブレない姿勢はお手本としたいです。
「危機管理」をテーマとした作品で、数々の決断の選択を迫られる緊迫感と読後の爽快感、素晴らしいです。


No.83 6点 ある閉ざされた雪の山荘で
東野圭吾
(2010/02/23 18:42登録)
-ネタばれ含みます-

「仮面山荘~」の書評に本作の真相に触れる内容が多かったため、図らずもオチが知れてしまったのが残念な作品です。
「仮面~」とは違い、登場人物の中にも真相を知らないものが数名いたのが、良いフェイクになっていたと思いました。
しかし設定的にしょうがないのだけれども、緊迫感を演出させることができないため、そこにどうにも物足りなさを感じてしまう。
あと最初の見取り図ですが、ドアがあったりなかったりと、ちゃんと描かれていないため理不尽だと思いました。(「あの場所」がどうなってるのか全然解んなかったし)
久我君と貴子はナイスでした。


No.82 7点 どんどん橋、落ちた
綾辻行人
(2010/02/22 22:13登録)
-ネタばれ含みます-

第一話を見て、これは推理クイズ物だなと割り切ることで楽しめました。
「ぼうぼう」には脱帽でした。
犬は確か色盲だったよなと思い、さてはこれは「水車館」の二番煎じだなと思い至り解決編を読むと、とどめを刺すシーンにあの『』があるじゃないかと突っ込まれる…。作中の綾辻氏と正に同じリアクションになってしまいました。
「どんどん」では騙されたが「ぼうぼう」ではそうはいかないぞという意気込み、思考パターン、真相を知ったときのリアクション等、完全に術中にハマったと言ったところです。
前二作が良すぎて、残り三作は騙しのインパクトがイマイチだったかな。伊園家は笑えたけど。
綾辻氏がこういう作品を書いたのが意外ということで評価しますが、こういうのに高めの評価をするのもこれっきりです。


No.81 8点 密室殺人ゲーム王手飛車取り
歌野晶午
(2010/02/21 13:04登録)
-ネタばれ含みます-

久々に戦慄の走る作品でした。吐き気を催すような登場人物達だったけれどジャンルがジャンルなのでアリかなと(現実にあったらシャレにならんけど)。「魔王城~」とは違い、子供には見せられない作品ですね。
それぞれのトリックは短編、中編レベルに過ぎないんだけれど、この設定の中で行われるとワンランク上のネタに見えるから不思議だ。この手法は評価したい。
特に「求道者の密室」なんかは大したネタとも思われないけど、あの設定だと凄く感じてしまう。
「生首~」は普通に凄いと思ったし、背筋も凍った。伏線を拾いきってこそ見えてくる真実に納得。
この作品の直前に「女王様と私」を読んでいたので、その人となり等から最後の方にこんなトリックの事件を起こすんだろうなと序盤で予想できてしまったのが残念。


No.80 4点 女王様と私
歌野晶午
(2010/02/20 18:02登録)
-ネタばれ含みます-

自分の中では角川版の歌野作品ははずれが多いので今いち気が進まなかったのだけれども(ページ数多いし)、やっぱり予想通りでした。
序盤の挨拶代わりの叙述トリックには何回も設定を切替えさせられ、これは楽しめました。
しかし目次がないくせにページ数が多いなど、どう見ても同じ出版社のあの作品と同じ匂いを放っていたので、やっぱそういうオチなのかよと読後に疲労感を感じてしまった。
作者は何が狙いで主人公をあそこまでキモく描いたんだろう。
ちなみに題名、表紙ともに「さらわれたい女」と合わせて買うのにかなり躊躇した。


No.79 6点 魔王城殺人事件
歌野晶午
(2010/02/19 22:23登録)
いくら子供向けのミステリとは言え、これは簡単過ぎるのではないでしょうか?
あまりにもダイレクト過ぎる。
まあトリックはさておき、それ以外の部分はちょっと数学の計算もあったり、刑事のお兄さんからの教訓もあったりと子供向けを意識して描かれており、優良図書だと思いました。
思わず採点が甘くなるくらい絵も素敵で優しい作品です。


No.78 4点 ジェシカが駆け抜けた七年間について
歌野晶午
(2010/02/17 20:38登録)
-ネタバレ含みます-

最初に主人公の国の慣習についての説明がなされていたから、まあ多分その慣習が分身トリック(?)に関わってくるんだろうなと思いながらも、そっちはミスリードで「ハラダアユミを名乗る女」で行われるトリックの方にヒントがあると思っていたのですが、そのまんまでした。
まあうまいと思うし読み易いとは思うけれど、実験的な匂いがするというか、歌野氏らしい全力投球が感じられず残念でした。


No.77 6点 そして名探偵は生まれた
歌野晶午
(2010/02/11 12:43登録)
3つの中編+1つの短編で構成されています。

①「そして名探偵は生まれた」:コメディタッチで描かれた雪の山荘モノ。実際に名探偵が存在した場合のなれの果てのようなものが描かれており、ちょっと切ない。トリックはヒントと言えるヒントもなく明かされてしまい、何がメインなのかよく分からない。
②「生存者、一名」:400円文庫版側の書評の通りです。
③「館という名の楽園で」:400円文庫版側の書評の通りです。
④「夏の雪、冬のサンバ」:「鬼密室」の直観探偵が登場します。色々とミスリードっぽい要素が提示されていたけど、結局それらがどう機能していたのかが良く分からない。タイトルがメイントリックに絡むような単純な話でなくて良かった。しかし3°は傾きすぎでしょう。

②③は400円文庫にて既刊されており、読んだことある方は注意が必要です。個人的には①④だけだとかなり損だと思います。(①④が採点の足を引っ張っていると言えるぐらいの出来)
逆に②③を読んでいなければ、この一冊でかなり楽しめると思います。


No.76 7点 館という名の楽園で
歌野晶午
(2010/02/11 01:14登録)
-ネタバレ含みます-

まさに館を愛する者のために描かれた作品です。
謎解きに関しては、実は私も早々に回転するものだと思ってしまい、ろくに考えもせずに解決編を読んでしまいました。
思い返すと、いたるところにヒントが与えられており、実にフェアでした。
全体を通してなぜか寂しげな印象を感じるのですが、この雰囲気も好きです。


No.75 6点 生存者、一名
歌野晶午
(2010/02/08 19:57登録)
-ネタバレ含みます-

タイトルと最初の1ページ目で、ラスト一発逆転モノだろうなと予測がつき、「あの行為」から本書の狙いを察してしまった。
読者も推理以前に勘を働かせているので、「あの行為」に関してはもう少し曖昧にして終盤に明かすとか、一捻り工夫が欲しかった。
本書の狙いを察してしまうと、連続殺人はあくまでも「スケープゴート」の役割だろうということも察してしまい、流し読みになってしまった。
細かい文句を言えば、何故自殺と見せかけるようにできなかったのかの説明がなかったのが残念。
あともう少しで大化けできたかもしれないだけに、もったいないという印象が強い。(その「もう少し」が大変なんだろうけど)


No.74 6点 家守
歌野晶午
(2010/02/08 12:14登録)
-ネタバレ含みます-

「家」をテーマにした5つの短編集。

①「人形師の家で」:他者の評価にあるように、確かにギリシャ神話の絡ませ方が巧い。しかし真相はちょっと(?)エロい。
②「家守」:トリックは小粒だと思ったけど真相はなるほど。「有罪としての不在」的な構成も作者ならでは。
③「埴生の宿」:実は裏がなかったのが逆に裏になっている。個人的には雰囲気が凄く好き。
④「鄙」:共犯モノは好きじゃないけど、これは納得。「鄙」という言葉を始めて知った。
⑤「転居先不明」:オチがダーク。「鏡殺し」に収録して欲しい。

どれも地味な作品でありながら良くできています。
文章がうまくなっている感じを受けるし、歌野氏らしさが楽しめます。

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