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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.520 4点 鞆の浦殺人事件
内田康夫
(2016/11/16 17:08登録)
本作では序盤に、作家・内田康夫がいつも以上に、中心人物であるかのごとく多くのページに登場しています。後半には浅見が内田の作品を評する場面もあります。
意外な人物を犯人にすることはあっても、インチキ同然の露骨なひっかけをしない、いい人間と悪い人間とを色分けする、などと浅見が内田作品を評しています。
これは浅見の言葉を借りて自身をほめているように聞こえます。本作の後半、イマイチかなと感じ始めたころだったので、凝った作りにしないことの言い訳にも聞こえました。

ということで評価は当然高くありません。終盤が駆け足すぎです。浅見の推理が出来すぎということなのか。
舞台が福山市の鞆の浦から、東野氏の『真夏の方程式』の玻璃ヶ浦を連想したこともあって、期待したのですけどね。
福山の「N鉄鋼」はあからさまです。これほどわかりやすいと悪く書けないから、企業絡みの社会派ミステリーとしても中途半端な感があります。

序盤から中盤にかけての、内田の登場、事件の発生、浅見の捜査の取りかかりぐらいまでは引きこまれます。テクニックは抜群です。中盤の捜査と終盤の謎解きに、もう少しページ数を割いてくれればという気がします。


No.519 6点 古本屋探偵登場
紀田順一郎
(2016/11/10 10:10登録)
古本屋探偵シリーズ。『殺意の収集』と『書鬼』の中編2編が所収されている。
顧客が所望する古書を探し出すこと、つまり古書捜索が古書店探偵・須藤の職務である。

『殺意の収集』は、トリックもあり、それなりのラストが控えてもいるから、まずまずの出来ではあるが、謎解き対象が犯罪とはいえ日常の謎に近いものだから、緊迫感はない。
しかも古書がらみの話なので派手さはゼロといっていい。ビブリア古書堂シリーズのように登場人物に華があればよいが、それもなくキャラクタ的に見て魅力に欠ける。

『書鬼』は、須藤だけでなく他の登場人物もおもしろく、魅力的に見えてきた。慣れただけなのだろうかw
須藤が探偵業としてではなく、自分の利益のために動こうとするのがおかしいが、納得もした。
登場人物だけではなく、ストーリー自体がサスペンスフルで読み応えがあった。長編にもできそうな内容である。

地味なことには抵抗があったが、古書の行方や来歴を探る、というミステリーにおける新たな発想を利用したことはすばらしいと思う。


No.518 7点 珈琲店タレーランの事件簿2
岡崎琢磨
(2016/11/08 09:33登録)
ビブリア古書堂シリーズとくらべれば、蘊蓄が少ないためか、その分、謎解きが充実しているような気がする。しかもいろんな謎がてんこ盛り。

日常の謎と、安楽椅子モノとを融合させたような、まあ一言でいえば、やはり『ビブリア』と同類という定義づけか。
安楽椅子モノといっても、それだけではなく、後半は全編を貫くサイドストーリーがメイン寄りになってきて、探偵役の美星バリスタと妹の美空が中心人物になってくる。今回のアオヤマ君は傍観者かと思いきや、後半はキーマンになる。

短編ごとの細かな謎解きも楽しいが、長編としてのストーリーもなかなかうまく作り込んであり、自然にそちらのほうに入っていける。手がかりや伏線についても万全に仕込んであり、テクニック抜群の作家さんだなということがわかってきた。
珈琲や京都に関する蘊蓄がもう少しあればよいのではとも思うが、しつこすぎるよりはよいかもしれない。


No.517 5点 火刑法廷
ジョン・ディクスン・カー
(2016/10/24 16:06登録)
評価できるのは、どんでん返しだけ。
いやいやそんなことはない。あれがなくても十分にオモシロ要素はある。まあでも、あのラストがあればなおよいことは事実。

舞台設定よし、人物設定もよし、会話もよし、トリックもよし、オカルト要素もよし、伏線もよし、そしてあのエピローグもよしなのだが、とはいうものの個人的には、調子に乗り切れなかったことも事実。
カーの最高傑作ということで気負いすぎたか。
あえて言うなら、あの2つの謎の種明かしが物足りなかったのかなあ。


No.516 6点 臨床真理
柚月裕子
(2016/10/07 09:30登録)
臨床心理士の美帆が、担当の統合失調症患者である司の友人、彩の死の真相を追う展開。

美帆は司を救い守るため、そして自分の仕事をとことん全うするため、体を張って行動する根性のある女性です。女性版ハードボイルドといってもいいぐらいでしょう。
それほど強さが感じられなかった序盤とくらべれば、徐々にたくましく変化していく過程には魅かれます。大げさな言い方ですが美帆の成長物語ともいえます。
そして美帆だけでなく、司や、美帆の友人である警察官の栗原も彼女とともに変化していくところにも好印象が持てます。

アマゾンでは先が読めるとか、意外性がないとか酷評を受けていますが、あくまでもミステリー性が弱いだけで、エンタテイメント作品としては上出来だと思います。正統派ノンストップ・サスペンスといったところでしょうか。


No.515 7点 弁護側の証人
小泉喜美子
(2016/10/01 12:15登録)
長編第1作にしては、あまりにも大胆で、あまりにも技巧的で、あまりにも伏線がうますぎる。
だからといって滅茶苦茶おもしろいかというと、そうでもない。叙述を極めようとするあまり、物語性に悪影響をおよぼしているのだろう。
やはりミステリー小説は、どんでん返しで驚かされるだけではなくて、中途のストーリー性で引きこんでくれないと。

クリスティーの『検察側の証人』にタイトルだけでなく、構図を似せたところがある。〇〇系としてはそれこそが肝なのだが、そこまでする必要があったのか。すこし苦しいような気がする。なんとしても、完璧を期したかったのだろうか。やはりタイトルがまずいのか。

そんなことよりも物語の雰囲気と構成がじつは大好き。作中にも引用されている『レベッカ』を意識しているのではないかと思う。恥ずかしながら原作は未読で、ヒッチコックの超大作を観ただけだが、本作がゴシック・ロマンというほどではないにしろ、暗さの質に共通点があるように思う。最後に場面をがらりと変えてあるところも似ている。

と、欠点と長所が入り乱れるが、やはりうまさが目立つので、評価は中の上か、上の下ぐらいか。


No.514 5点 スタイルズ荘の怪事件
アガサ・クリスティー
(2016/09/22 13:33登録)
記念すべきデビュー作。
ポアロシリーズの第1作でもあり、本作ですでにヘイスティングズが登場している。しかも、このヘイスティングズがなんともいえない良い味を出している。

意外な犯人モノで、読者に対するミスリードは心憎いほど巧みです。クリスティーらしさは全開です。
これは作者の技量にはちがいありませんが、他の名作群にくらべると、テクニック抜群という感じではなく、なんとなくの巧さによるもののようです。

文章が拙いという評者の方がおられましたが、たしかにそのとおりで、本作に限らずクリスティーはそもそも文章が巧くないのかもしれません。それに人物造形だってイマイチというところがあるように思います。
でも、ミステリー性とのバランスが抜群です。というか、文章や人物造形のマイナスポイントがミステリー要素を引き立てているようです。


No.513 6点 アリバイ崩し
鮎川哲也
(2016/09/09 10:27登録)
5編とも、どうやってアリバイを崩すかに注力している。まさにタイトルどおり。
ただし、フーダニットという観点ではほとんど魅力なし。
個別には、4編目の『霧の湖』のラストの解決手段には拍手をおくりたい。短編らしくうまくまとめてある。
最終編の『夜の疑惑』は中編といってよく、プロットもそれなりに練られストーリーは変転がある。人物もそれなりに描かれている。ラストの落ちは仰天物ではあるが、短編レベルのあっけなさもあった。もっとページ数を割いてしっかりとした謎解き物にできそうにも思うが、これもまたよしだろう。

アリバイトリックは個人的には好みだが、一般的には地味で、いまではメイントリックとしてはあまり使われない。本書のような短編ミステリだからこそ生きる技だろう。
本書はエッセイが2編プラスされている。わずかだがお楽しみ度アップか?


No.512 8点 夜歩く
横溝正史
(2016/08/30 09:53登録)
ミステリー性も十分、物語性も十分。
制作時期は1948,9年。名作群『本陣』『八つ墓村』『獄門島』『犬神家』『悪魔』などとおおむね同じ、脂ののったころ(1945年~1960年)に書かれています。
良作かと思いますが、やや印象が薄いのは、金田一の登場が遅く、事件周辺の(一人称の私を含む)関係者たちが主人公に見えてしまうからなのかもしれません。

事件が起こるまで多くのページが割かれていますが、その部分のサスペンスは申し分なしです。その前半で関係者の人物像を、種々の事象を交えながら描写し進めていく流れは、そこだけ読んでいても楽しめます。
そして、後半(特に金田一登場後)、登場人物だけを見れば前後で何も変わりませんが、舞台をがらりと変えたのは、読者を飽きさせない絶妙な(ある意味安直な)ワザだと思います。これぞ、ストーリーテラー・横溝という感じがします。

最大に評価できるのは、アリバイトリックやあの真相を含む本格色全般でしょう。あれだけあれば上記作品群に決して負けていません。ただ、いろんな意味で問題や疑問点のある作品ではありますが。


No.511 7点 オランダ靴の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/08/19 13:44登録)
国名シリーズ第3作。
解決編はほんとうに素晴らしい。
一つ一つの事象、事実から論理的に解答を出し、事件を解決へと導いてゆく。個々のロジックは単純で地味ですが、それらがまとまれば派手に見えてきます。
個人的には、つながりのある、ある2つの伏線がかなり気に入っています。読者に気づかれても当たり前のような単純なものですが、美しさを感じます。

ただ、『フランス白粉』もそうでしたが、読者への挑戦状までのストーリーが一本調子です。
謎解きロジックを完璧にしようとするあまり、人を惹きつけるような話の流れを構築することに気が回らなかったのでしょうか。
本作後の国名シリーズは読んでいませんが、すくなくとも『X』や『Y』などのドルリイ・レーンシリーズは、もっと起伏に富んでいて、小説として絶賛できるような内容でした。

ということで、謎解きはすごいけど、物語としての面白味にやや欠ける、というのが最終評価です。
蟷螂の斧さんが紹介されているように、本作が本サイトでは高得点(現在、7.9)ながらも、東西ミステリーベスト100では(圏外)であることに納得です。
小説として万人向きではない、商業的にも成功し得ない、だから本書のような作品は今後、残念ながら出てこないのではと思います。


No.510 5点 仮面病棟
知念実希人
(2016/08/08 09:42登録)
ピエロの仮面をつけ拳銃を持った強盗犯による立てこもりが、夜間の病院で発生。
院内に監禁されているのは、急きょ当直となった医師・速水、傷を負った若い女性、院長、女性看護師2名の計5名と、大勢の入院患者たち。

閉鎖空間で人質たちに襲い掛かってくる恐怖。夜が明けるまで、というタイムリミットサスペンス物でもある。
一気読み必至、というのはたしかにそのとおり。
場面がほとんど病棟の中なので退屈しそうだが、院内で発生するいろんな事象、事件をつなぎ合わせて読者を惹きつけようとするテクニックは抜群です。
登場人物が少なく、読者が人物で混乱することはなく、読みやすいのもよい。

作者は、どんでん返し一本で決めたかったのか、病院自体が怪しいことは初めのうちに自白しているし、裏の解説や『仮面病棟』というタイトルでもばらしてしまっている。
これは少しもったいない。少し引っ張ればいいのに、と思うのは素人考えなのか。タイトルがこのままでも、ピエロの「仮面」というミスリードも成り立つのになあ。
でもこれを隠せばちがった筋の話になってしまうのかなあ。
なお、みなさんもご指摘のように予想しやすいラストでした。

まずまずの出来だが、まだまだとも言える、そんな作品でした。


No.509 7点 真夏の方程式
東野圭吾
(2016/08/04 09:35登録)
さすがの安定感。安心して読める。この作家さんの作品は、ほんとうにはずれがない。

湯川は玻璃ヶ浦滞在中に事件に遭遇する。被害者は元警視庁の刑事。
まず玻璃ヶ浦で知り合った少年・恭平との深交に魅かれた。子ども嫌いらしさゆえの恭平への接し方が自然でよかった。夏らしさもよかった。
一方の恭平は視点人物の一人。その心情、心境はやや子どもらしさに欠けるのでは、と思っていたが、案外こんなものだろう。むしろ小説のテーマに合っているようにも思う。

湯川、草薙の個別の捜査活動によって、徐々にあきらかになっていく事件の真相と背景。過去の人間関係がキーになるのはありがちだが、その流れと物語の組み立て方がうまい。犯人当てはどうでもよいと思っていたら・・・
そして、最後に魅せる適度なヒューマニズム。
湯川が大学の先生じゃなく、小学校の教師に見えた。

トリックは湯川物らしさがある。小学生レベルの理系トリックだが、かなり気に入っている。

個人の評価基準に照らせば6点だが、『容疑者X』よりも好きなので、この点数。


No.508 4点 シャーロック・ホームズ最後の挨拶
アーサー・コナン・ドイル
(2016/07/28 10:04登録)
どの作品も物語として退屈で、捻りもほとんどない。

突然、依頼が持ち込まれ、ホームズはすぐに現地に赴き、あっという間に奇想な話に急展開したり、とんでもない方向に進んだりする。
また、『緋色の研究』みたいに、主たる人物の過去の因縁話に及び、そして結びへと突き進む。

2,3の作品は、こんなホームズ物らしい定番の展開なので、安心感があっていいのだが・・・。
それでもせいぜい5,6点レベル。
全体としては『冒険』の1/3程度の面白さか。

ひとことで言えばネタ切れ。作者からすれば、ネタ切れではなく方向性を変えただけかもしれないが、今までが今までなので、読者にしてみれば期待を裏切られた感は当然ある。
まあ先入観なしに読めば多少は楽しめたのかもしれない。


No.507 5点 迷宮
中村文則
(2016/07/22 09:51登録)
売り出し中の若手作家さんなので読んでみた。
過去に、ある一家で起きた密室殺人事件「折鶴事件」の解明がテーマになっている。その生き残り女性と付き合っている若い男が主人公であり語り手である。
殺人事件を扱い、探偵や弁護士が登場するから、ふつうに考えればミステリーなのだが、やはり純文学がベースの代物だった。
一人称スタイルだから、語り手のことが気に入らなければ(というかよく理解できん)、入り込んでいきにくいし、テーマとなる殺人事件の背景もいかにも異常っぽい。だから、いろいろと楽しむための障壁があるのはたしか。エンタメ作品ではないから仕方ないか。

起伏も盛り上がりもほとんどない。ただ読みやすいだけ。それでも、後半、事件の核心に迫り、さらに主人公が種々想像していくところは楽しめた。すっきりとした解決とはいえないが、これでもいちおうはクライマックスとはいえる。

著者の作品は英訳版も出版されているとのことだが、こういう作家さんが世界中で読まれて、ノーベル賞候補になったりするのだろうか??


No.506 5点 紫雲の怪
ロバート・ファン・ヒューリック
(2016/07/13 09:49登録)
「首なし死体事件」が当然ながら主たる謎なのでしょうが、その事件と、「黄金盗難事件」や「謎めいた女の伝言」と、どう絡まっていくのか、そこがポイントです。
nukkamさんが書かれているように、読みやすいけど複雑という表現はまさにそのとおりでしょう。
ただ、さらっと読めば、あれっ、どうつながるの、というふうに思えてきます。「首なし」がメインだと思っていたら、次第に「黄金盗難」のことばかりになり・・・、う~ん、わからん、という感じにもなります。
作者が渾身の力をこめて書いたことは想像できますが、わかりにくくしすぎたという気がしないでもありません。
副官マーロンの活躍には目を引かれ、怪奇色にぞくぞくしましたが、自身で謎解きするには手に負えなくて、中途で思考が散漫になりました。


No.505 6点 アナザーフェイス
堂場瞬一
(2016/07/04 10:37登録)
主人公は警視庁、刑事総務課の大友鉄。2年前に妻を亡くし、小2の息子と二人暮らし。子育てのために現職に異動を申し出た経緯がある。
その彼が元上司に呼び出され、少年誘拐事件の捜査を応援することとなる。

主人公にクセはほとんどない。みなが安心するタイプだが、すべてが地ではなく、半分ぐらいは芝居で培った演技による。人たらしのような能力だが、ずるさはない。根っからの善人というわけでもないが、正義感はもちろんある。
ハンサムという点をのぞけば、主人公としては中途半端なタイプだった。
こんなふつうの人物を主人公にしてシリーズ化するのはむつかしいはず。それに挑戦したシリーズというか。自信があったのだろう。

ミステリーとしては、トリックらしきものはなく最後のどんでん返しだけが楽しめる要素だが、それも中盤でなんとなく読めてしまう。伏線が多すぎるのでは?
まあ、大友のキャラと捜査の過程を味わえば十分という内容だった。経験したことがないほどの読みやすさにも拍手。
100冊執筆ということで、最近書店でにぎわっていた作家だが、デビュー20年にもならずこの著作数だから、何でもさらっと書ける作家なのだろう。読み手もそれにおうじて、かるく読めばいい。


No.504 5点 ビッグデータ・コネクト
藤井太洋
(2016/06/28 13:44登録)
SF作家だそうなので、空想科学要素を取り入れた推理小説を予想していたが、そうではなかった。システム開発の最前線はこんなものか、と元SEの作者によるリアリズムが感じられる、ちょっと変わった警察ミステリーだった。八次請けとか、2万人月とかはウソっぽいw
現代社会や法制度に踏み込んで描いてあるので、社会派物とも言える。それとも蘊蓄を語りたかっただけなのか。

かつてウィルス事件の容疑を着せられ犯罪者扱いされたハッカーの武岱が2年後、官民施設のシステム開発を担当するエンジニア、月岡の誘拐事件で警察に協力することとなる。武岱は何者なのか、どんな策謀があるのか。それとも、刑事の万田が彼と協働して謎を解くのか?
劇画的な人物が登場するわりに、中途までは平板な展開となっているのが意外である。とはいえ終盤に予想外の流れになる。もっと現代風な技を使えばいいのにとも思うが、好ましい感じもする。

じつは作者のSF作、「オービタル・クラウド」を読むのがねらいだった。手始めに本書を読破した。中盤がちょっと退屈だし、推理が雑な感もある。でも「オービタル」を含めもう少し読みたい気もする。今後に期待か。


No.503 6点 消えた少女
五十嵐貴久
(2016/06/19 12:00登録)
吉祥寺探偵物語シリーズ第1作。
どこかで見たような表紙のイラストだなと考えていたら、パーカーのスペンサーシリーズが浮かんできた。似ている。
意識しているのだろう。スペンサーファンからすれば、とんでもないと言われそうだが、個人的には本シリーズのほうがいい。

主人公のおれ、川庄は妻に逃げられた元銀行マン。小5の息子を養っている。職業はコンビニのバイト。もちろん家事もこなす。夜家事を終えれば、夜の街へ繰り出し、おかまバーなど転々と飲み歩く。
最初は猫探しから始まる。意外に簡単に見つけ出す。探偵の素質ありなのか。
おかまの京子ちゃんから依頼を受け、1年前に行方不明になった少女の捜索へと乗り出す。

息子から心配されるほどのダメ男かと思いきや、探偵業はとことんやる一本筋の通った男でもある。そんなところはハードボイルドのようだ。このギャップが本家のスペンサーシリーズより好ましいところ。ユーモアから始まりシリアスに向かっていくストーリーも好み。

都合よく進みすぎなのは欠点だが、流れるように軽く読めるので、長所でもある。その点は本家に似ている。
それにしてもこの犯人、ちょっと身勝手すぎる。


No.502 6点 意識の下の映像
リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
(2016/06/13 10:19登録)
犯人は複数のトリックを組み合わせて殺人を実行している。そのうちのメイントリックはいまでは有名なもの。当時でも研究が進んでいて、話題にもなり、禁止されている分野もある。
ただ個人的にはあまり信用していない。あんなもので刺激できるのだろうか。

とはいえ本書では、犯人がそのトリックを上手に使うとともに、それだけにたよらず、他のいろんな技を使って、完璧に仕上げようとしている。
それに対してコロンボは、犯人のちょっとしたミスから出たほころびを見つけ出そうとする。
コロンボが犯人より一枚上手なのはいつものことだが、この風采の上がらないコロンボ対頭脳明晰な犯人の対決構図はほんとうに面白い。あのしつこさは犯人にとって堪らん。
なぜあんなに早く目をつけられるのかという疑問は感じるが、それも毎度のことで、気にせず読むのが正しい読み方だろう。

コロンボ入門にふさわしい典型的な作品だと思う。
コロンボだけではなく登場人物のほぼ全員の心情が地の文に書かれていて、とにかく読みやすすぎる。ということで、登場人物の心の中を探りたいという高度な読み手にはもちろん不向きな作品だろう(笑)。


No.501 5点 クランⅠ 警視庁捜査一課・晴山旭の密命
沢村鐵
(2016/06/08 11:49登録)
文庫書き下ろしの新シリーズらしい。
警察組織内の悪に立ち向かう警察官を描いた作品らしい。
主人公は、警視庁・捜査1課の警部補、主任刑事の晴山旭らしい。

検視官・綾織女史の恋人で、元捜査2課の刑事だった北森の死が始まりだった。その綾織は、渋谷で起こった警察OB変死事件で、とんでもない検視を行う。
晴山は綾織の内偵を命じられ動き出すが・・・

二人の刑事の視点による交互の描写がうまく決まったという感じ。
スピード感もあって興奮しながら読めるから、警察エンタテイメント好きには堪らないだろう。

しかし、しかし・・・
最終ページの最終行で、(Ⅱへつづく)となっていた。
ラストがあまりにもあっけなかったからな。
それなりの決着をみた、ということでクランⅠは「完」でいいのだろうか。最終章はエピローグとなっていたしなぁ・・・
ちなみに、クランⅡのサブタイトルが、「岩沢誠次郎の激昂」となっている。
この人物は本巻の二人目の視点人物である。晴山にくわえ、岩沢がクラン一派として大活躍するのだろうか?

全3巻(あるいは4巻以上)を読んでからまとめて書評をと思ったが、いつになるかわからないので、とりあえずアップした。

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