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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.91点 書評数:667件

プロフィール| 書評

No.147 6点 真夜中は別の顔
シドニー・シェルダン
(2010/07/30 21:44登録)
読んだのは20年ぐらい前です。ハードカバー上下2巻でしたが、あっという間に読めてしまった記憶があります。女性ふたりを主人公とした一風変わったドラマ性のあるストーリーに熱中できたことにはちがいありませんが、詳細な筋や読後感の記憶は消えてしまっています。当時、本書を読む前から積読状態にあった「ゲームの達人」を、そのぶ厚さに圧倒されて、結局読まなかったことから判断すれば、私にとって本書は並みの出来だったのでしょう。


No.146 6点 百万ドルをとり返せ!
ジェフリー・アーチャー
(2010/07/30 21:40登録)
巨額の金を取り返す計画と実行。その展開がユーモアたっぷりに描かれている。そして本当の面白さは後半にあり、しゃれたオチも用意されている。敵役のメトカーフも人間味があふれていて良かった。
話の骨子とは関係ありませんが、テニスならローズウォール、コナーズ、映画ならコンゲーム物の「スティング」など、当時の流行りの人物や事象を実名で登場させているのも、ファンにとっては楽しみです。
お遊び感覚のかるい小説ですが、それをヒットさせる作者はやっぱりすごい。エンターテイメント作家としての素質がピカイチなんでしょう。この作家、本当に波瀾万丈の人生ですね。牢屋から出た後は人生経験をさらに積んで、もっと面白い小説を書いていることでしょう。最近の作品は読んでないのでわかりませんが。


No.145 6点 裏窓
ウィリアム・アイリッシュ
(2010/07/22 09:54登録)
ヒッチコック映画のベストといえば、一般的には「サイコ」と「裏窓」(ちなみに私は「疑惑の影」と「白い恐怖」も好き)。それぐらい映画「裏窓」は名作だが、原作を読んで、原作のサスペンス・ミステリとしての骨格を忠実に再現したからこそ、あの名作が生まれたんだと実感する。ヒッチコックは、原作にはないグレース・ケリー(が演じた主人公の恋人)を登場させて、映像をさらに美しく表現したところに最大の功績がある。この眩しすぎるほどのグレース・ケリーに惹かれたファンは、男女を問わず多くいたはず。ただ、男にとってはクール&ノーブルすぎるようにも思うのだが(笑)。

余談はさておき、他の所収作品の中では、映像を頭に浮かべながら読める「死体をかつぐ若者」も好かった。この作品は、ヒッチコック・サスペンス劇場に採用されそうな、スリルはあるが視覚的にちょっと笑えるような作品。
密室モノの「ただならぬ部屋」も展開が良かった。主人公のストライカーの執念と根性には脱帽する。作中、「まだらの紐」のネタばらしがあるのでご注意を。
その他、「踊り子探偵」「殺しの翌朝」「いつかきた道」「じっと見ている目」「帽子」「だれかが電話をかけている」を含めて全9編が収録されている。


No.144 6点 藪の中
芥川龍之介
(2010/07/15 11:37登録)
江守森江さんが興味深い作品を登録されたので、ちょっと(5分で)再読してみました。たしかに本書はミステリーとして十分に体をなしています。
クロサワの「羅生門」の映像やストーリーが記憶に残っているせいか、原作ってこんなにあっさりとしてたんだなあ、と改めて感じました。リドル・ストーリーのせいか、想像力のなさゆえか、初読のときと同様の物足りなさがありました(映画の影響が強すぎるのかも。映画作品は映像が強烈でさすがクロサワと唸らされましたが)。
でも、読後、自分なりに推理でき、他の人たちとも語り合える点はやはり良いですね。

決して得意分野ではありませんが、マイナス要素も少ないので点数はこのぐらいです。仕事の合間に青空文庫でタダ読みできるのもこの作品のメリットですね。


No.143 5点 死火山系
水上勉
(2010/07/15 06:29登録)
物語の背景は林業、鉱脈、陸稲研究などで、いたって地味ですが、これも時代を反映したものなのでしょうか。まあ、金鉱や山師からは宝探しも連想され、ちょっと楽しそうな気もします。
でも本書は、ただひたすら暗くて陰気で、遊び心もなく、雰囲気的にみれば、個人的には許容範囲ぎりぎりの作品でした。華といえるのは、主人公の江田と、檜山絵里子との恋愛描写ですが、これもさほど楽しめる代物ではありません。
水上勉といえば社会派ミステリの番頭格ですが、本書は社会派色を出しきれず、本格色はもちろん少なく、中途半端な出来に感じます。復讐とか、過去の事件とかが深く関わって、素人探偵がそれに巻き込まれながら謎を解いてゆく構成ならまだ良かったのですが、悲劇的な背景はごくわずか、主人公の巻き込まれ方もごくわずかで、結局、ワクワクするところもありませんでした。実は最後に、どんでん返しのごとく復讐めいた真相と社会的背景が明かされるのですが、そのときはもう気持ちが萎えてしまっていて、感動もなにもなかったですね。
このように不満はたくさんありますが、謎の提示の仕方や、謎の絡み合う展開は良かったですね。文豪の筆の冴えと、構成の巧みさによるものなのでしょうか。


No.142 4点 神と野獣の日
松本清張
(2010/07/07 13:56登録)
タイムリミット・SFパニック物です。映画でいえば「ディープ・インパクト」(地球最後の日)みたいなものでしょうか。
個人の視点では描かれておらず社会小説的な描き方をしているので、感情移入することはなく、しかも性悪説に立って描かれているので心から楽しめるということもなく、読後の爽快な満足感なぞ全く得られません。オチは清張らしいとはいえ、想像を超えるものではありませんでした。
こんな内容でも猛烈な勢いで読めてしまうので、もしかして名作ではと勘違いしてしまいそうですが、他の名作にくらべながら冷静に考えると、やはり、清張の想像力に感心できただけの作品だったように思います。


No.141 4点 少女
湊かなえ
(2010/07/04 00:51登録)
「告白」がよかっただけに、ちょっと残念という印象です。あの鮮烈な感覚は得られませんでした。どうして新人や若手作家は、この種のミステリを書きたがるのでしょうか。工夫はいろいろありますが、そのにおいがプンプンするので疲れてしまいました。おまけに一人称二視点は、白い風さん評を事前に見ていたにもかかわらず、前半しばらく混乱がつづきました。と、悪いことばかり書きましたが、「おっさん」に絡んだ後半はけっこう楽しめましたね。
それから、表紙の件、あるびれおさんに同感です。


No.140 4点 夜光虫
横溝正史
(2010/06/30 12:45登録)
戦前の由利麟太郎&三津木俊助シリーズ作品です。
横溝作品は数十年ぶり。
本書のキーワードは、サーカス、ライオン、謎の時計塔、ゴリラ男、人面瘡、宝探し、そして美男と聾唖の美少女。横溝なら許せると最初は思っていましたが、荒唐無稽なストーリーが進んでいくと、まるでジュブナイルだなと途中で投げ出したくなってしまいました。
いちおう本格ミステリの形式を保っていますが、メイントリックは既読の横溝作品にもあったはずです。だからというわけではありませんが、途中で気が付いてしまいました。でも戦前に書かれた本書のほうが先のはず。そういう意味では価値ある作品かもしれません。
期待はずれの面はありましたが、再読したいと思っていた他の横溝作品の準備ができてよかったです。横溝の、あの大げさな言い回しには、少しウォーミングアップが必要ですからね。


No.139 5点 ブギウギ
坂東眞砂子
(2010/06/24 09:48登録)
Uボードのドイツ人艦長・ネッツバンドの変死の謎を探る戦時下ミステリー。視点は、ドイツ語通訳である法城、事件が起こった芦乃湯の旅館・大黒屋の女中である安西リツ、大黒屋の女将の3視点の変則型。
第一の事件から次の事件まで、だらだらと長く、しかも多視点で物語が進行するから、ミステリー的には集中できない。この前半はドイツ兵が滞在する箱根が舞台で話がゆったりと進むので、異人館を舞台とした陳舜臣の「柊の館」を連想してしまう。「柊」がのんびりとした話の流れにあっても、連作短編形式で話を引き締めていたので、本書もそうすれば退屈せずに読めるのにと思っていたが、後半になると(敗戦後の東京が舞台)話が急転する。
さらに読み進めていくと、徐々に安西リツのサクセス・ストーリーへと変貌してゆき、タイトルの意味もだんだんとわかってくる。それと同時に、ミステリーとしての解決があるのかなと一瞬不安になるが、そんな思いも束の間、終盤近くには、田舎娘を巻き込んだ、ナチ党、ソ連絡みの国際謀略サスペンスへと発展してゆく。

全体としてまとまりがない感がある。でもメリハリを付けて読ませようとする工夫はあり、終盤はまるで、ヒッチコック・サスペンスのようにワクワクしながら読めた。ただ、結末は少しお粗末だったかな。


No.138 6点 心の砕ける音
トマス・H・クック
(2010/06/15 14:58登録)
基本的には、語り部が秘密を抱えつつ、現在と過去とを行き来しながら話が進んでゆく、「記憶シリーズ」と同じパターンです。お決まりの純文学ミステリです。

語り手である兄キャルが、殺された弟ビリーの事件の真相と、忽然と消えた謎の女ドーラ・マーチの行方を追う話の展開です。事実を小出しにしてゆく叙述なので、事件の事実関係がもやもやしたまま読み進めざるを得ませんが、怪しげな語り口調から、事実がわからないながらも、なんとなく真相の一部にはたどり着けてしまいます(本当の結末は読めませんでしたが)。

「・・・クックがミステリを超えて、またひとつ美しくも悲しい物語を紡ぎだした。」この大げさな惹句、「緋色の記憶」なら通じると思いますが、本書にはいくらなんでもあてはまりません。どちらかといえば、意外に俗っぽい真相にやや拍子抜けといった印象です。でも後半はページを繰る手が止まらないほどだったので、楽しめる小説にはちがいなかったようです。初めてクックを読む人なら、たぶんもっと楽しめるでしょう。


No.137 8点 Yの悲劇
エラリイ・クイーン
(2010/06/09 10:05登録)
卵酒、パウダー、マンドリン、ヴァニラ、暖炉・・・。読書中、キーワードが登場するたびにすこしずつ記憶がよみがえってくるのですが、幸いにも途中で真相にたどり着くことはなかったので、再読を十分に楽しむことができました。再読であらためて感じたのは、それほどおどろおどろしさがなかったこと。感性が変化したからなのでしょうか。
「X」と比較すれば、謎解きの論理性、真相の意外性、物語性など、ほとんど同格です。舞台設定は全然ちがいますが、私は「X」のように場面に変化があり広がりのある設定も好きだし、本書のように閉塞感があって怪しげな雰囲気(『××家の○○』のようなやつ)も好きなので、物語に対する嗜好の面でも分け。本書がやや上だと思うのは、話の悲劇性(あのラストは日本人好みだと思う)と、納得のゆく犯人です(論理的にはどちらも納得できるが、「X」の意外な犯人はなぜか面白くない点があった)。


No.136 5点 殺人の棋譜
斎藤栄
(2010/06/05 12:34登録)
江戸川乱歩賞受賞の斎藤栄氏の出世作。乱歩賞という冠と、タイトルの「棋譜」という字句からすれば、いかにも暗号ミステリーの秀作という感じを思わせるが、そうではなく、ごくごく普通のミステリーであった。タイトルだけが一人歩きしたような感じだ(プリズン・トリックのように出版社がネーミングを後付けしたのでは?)。
ただ、本格モノとしては並の出来ではあるがサスペンスが十分にあったので駄作ということはなく、ほどほどに楽しめた作品だった。なお続編として、「殺人の棋譜」の時代から17年後の設定の「新・殺人の棋譜」も発刊されている。


No.135 4点 逆転
笹沢左保
(2010/05/31 11:44登録)
「九人目」「清志を返して」「馬鹿野郎」「さよならを、夜景に」「透明の殺意」の5編が収録されている。タイトルどおり、みな「逆転」の構図だが、どんでん返しねらいがみえみえで驚けなかった。もう一ひねりほしいなと思う作品ばかりだった。それに、誤植が気になった。ミステリの場合、仕掛けだと思ってしまうからね。
しいてあげるとすれば、「さよならを、夜景に」がきれいにまとまっていて良かった。

8年前に笹沢左保が亡くなって後あっという間に、作品が新刊書店の文庫棚から消えてしまったのが残念でならなかったのですが、その後、ブックオフの100円コーナーで棚2列に並んでいるのを見つけて安心した覚えがあります。それにいまは、光文社から「コレクション」が出版されているのもうれしいですね。
文庫で名を形として残すということは大変なことなのですね。山本周五郎、司馬遼太郎、横溝正史、松本清張などが、いまも文庫棚をにぎわせていることが、どれだけすごいことなのかがわかります。笹沢左保はそこまでいかなかったのですね。残念!


No.134 5点 冒険小説ベスト100
事典・ガイド
(2010/05/29 13:16登録)
苦手分野である冒険小説を開拓するつもりで手にとってみました。
ベスト100には、海外の「鷲は舞い降りた」「ナヴァロンの要塞」、国内の「海狼伝」「飢えて狼」など妥当なもののほか、柴田練三郎の「眠狂四郎」など、意外なものもランクインしてあります。個人(北上次郎氏)が選んだベストなので、その対象も自分なりの基準なのでしょう。
一般的に評価の高いハメット、チャンドラーなどのハードボイルド作品や、スパイスリラーである「ジャッカルの日」などは紹介されていません。ジャンル外として意図的に外したのであれば予想外です。主人公である男が自己のルールを曲げないということが冒険小説の定義(本書中にこれに近いことが書いてありました)であれば、一般的なハードボイルド作品も入るはずです。もちろん、たんに著者がベスト100として認めていないだけなのかもしれませんけどね。
とりあえず、なんとなく読みたいなという程度の作品は抽出できたのでよかったです。


No.133 4点 魔の不在証明(アリバイ)
笹沢左保
(2010/05/27 10:06登録)
いつもトリッキーな内容に概ね満足しているが、本作は多くの笹沢既読作品の中ではイマイチの出来だった。騙されたような感じがして(ミステリだから騙されるのは当たりまえだけど)、納得がいかなかった。多作なので、たまにはこういうのもあるのだろう。それともたんに読み方が悪かっただけなのか。

一時期、書き込んでいた読書ノートよりネタバレ部分を除いて記しました。ただし、筋の記憶はまったくなく、ネタバレ記載を読んでも記憶は甦ってきません。笹沢作品を多く読んだとあるけど、そんなに多く読んだのかな?ファンには違いないですがタイトルですら数作品しか思い出せません。


No.132 7点 招かれざる客
笹沢左保
(2010/05/27 09:52登録)
最初の章は事件の状況説明に終始し、次の章は一人称で刑事が事件を追う展開となっています。笹沢左保も松本清張の影響を受けたのでしょうか。出だしは社会派風で、冒頭から中盤ぐらいまでは、清張なみの読みやすさと筆力に、グイグイグイと引き込まれます。これがデビュー作とは驚きです(改稿はあったようですが)。と、いい調子で進むのですが、気が付けば最初の社会性はいったいどこにいったのだろう、というほど社会派ミステリではなくなっていきます。それはそれで問題はないのですが。
確実性は低いものの、ひと工夫あるアリバイ、暗号等のトリックが色々とあり、また物語性もあって、かなり楽しめた作品でした。


No.131 5点 大誘拐
天藤真
(2010/05/20 09:59登録)
タイトルから想像できるようなクライムサスペンスではなく、ユーモア系痛快エンターテイメントであることは書評を見て知っていましたが(好みではないと思っていた)、このサイトで評価が高かったので読んでみることにしました。
結果的には、マンガを読むような感覚で楽しめたし、身代金100億円の受け渡しをどう実行するのか、結末に向けてどう収拾をつけるのかなど、推理しながら読めたのもよかったです。意外性は低いものの、ラストに向けて自然な流れで論理的に辻褄あわせができていて、スケールが大きいわりには緻密なミステリという感じがしました。でもその反面、他の方が指摘されているように、たんなるドタバタ(国を巻き込むような派手すぎる展開から、ハチャメチャな社会派ミステリのようにも感じられた)という印象もたしかにありましたね。
褒めるべき点も多いのですが、自分の嗜好と照らせば点数はこのぐらいですね。


No.130 6点 Wの悲劇
夏樹静子
(2010/05/20 09:42登録)
倒叙でありながら本格要素を備え、かつサスペンスに満ちた作品です。本格ミステリーとしては陳腐な感はありますが、サスペンスを中心にストーリーは練られており、まずまず楽しめました。著者はプロットを極めたかったのでしょうね。トリックも、プロットもと欲張るよりは、このぐらいのほうが好感が持てます。
薬師丸ひろ子の映画も観ましたが、筋はかなり違っていました。でもどちらもそれなりに良かったですね。


No.129 5点 片眼の猿
道尾秀介
(2010/05/20 09:21登録)
ドラマにすれば面白いだろうなあ、というようなストーリーです。でも、そのままでは絶対に映像化できません。伏線(というより叙述トリックかな)のジャブが襲いかかってくるような感じです。さすが技巧派です。ただ、さらっと読めるわりには、手掛かりを見落とさないよう身構えてしまうので読んでいて落ち着かない感がありました。思わせぶりな煽りの叙述もありましたからね(伏線は自然がいちばんです)。そういう意味では技巧派とはいえないかもしれません。こういう作品を続けて読むのは苦痛になるので、この種の作品のあとは、ストーリーの流れに乗りながら読める作品で落ち着きたい気がします。でも、道尾作品はこれからも読んでいきたいですね。


No.128 6点 危険な関係
新章文子
(2010/05/08 12:50登録)
主たる登場人物がみな腹に一物あり、それを心境とともに生々しく描きすぎているせいで、人物自体には魅力を感じませんでした(人間模様は面白いのですが)。でも、この心境描写には、なかなかのテクニックを感じられます。かの海外の著名女流作家のようだなと思って解説を読んでみると、好んで読んでいたとのことで納得しました。トリックはともかくも、すくない登場人物の中、心境描写による話の展開(ミスリードを含めて)の上手さには感心します。

本書は再読だと思っていましたが、全くの初読でした。同時期に活躍した仁木悦子と勘ちがいしていたのかもしれません。作風は全くちがいますが。

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