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ミステリの祭典

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臣さんの登録情報
平均点:5.90点 書評数:660件

プロフィール| 書評

No.140 4点 夜光虫
横溝正史
(2010/06/30 12:45登録)
戦前の由利麟太郎&三津木俊助シリーズ作品です。
横溝作品は数十年ぶり。
本書のキーワードは、サーカス、ライオン、謎の時計塔、ゴリラ男、人面瘡、宝探し、そして美男と聾唖の美少女。横溝なら許せると最初は思っていましたが、荒唐無稽なストーリーが進んでいくと、まるでジュブナイルだなと途中で投げ出したくなってしまいました。
いちおう本格ミステリの形式を保っていますが、メイントリックは既読の横溝作品にもあったはずです。だからというわけではありませんが、途中で気が付いてしまいました。でも戦前に書かれた本書のほうが先のはず。そういう意味では価値ある作品かもしれません。
期待はずれの面はありましたが、再読したいと思っていた他の横溝作品の準備ができてよかったです。横溝の、あの大げさな言い回しには、少しウォーミングアップが必要ですからね。


No.139 5点 ブギウギ
坂東眞砂子
(2010/06/24 09:48登録)
Uボードのドイツ人艦長・ネッツバンドの変死の謎を探る戦時下ミステリー。視点は、ドイツ語通訳である法城、事件が起こった芦乃湯の旅館・大黒屋の女中である安西リツ、大黒屋の女将の3視点の変則型。
第一の事件から次の事件まで、だらだらと長く、しかも多視点で物語が進行するから、ミステリー的には集中できない。この前半はドイツ兵が滞在する箱根が舞台で話がゆったりと進むので、異人館を舞台とした陳舜臣の「柊の館」を連想してしまう。「柊」がのんびりとした話の流れにあっても、連作短編形式で話を引き締めていたので、本書もそうすれば退屈せずに読めるのにと思っていたが、後半になると(敗戦後の東京が舞台)話が急転する。
さらに読み進めていくと、徐々に安西リツのサクセス・ストーリーへと変貌してゆき、タイトルの意味もだんだんとわかってくる。それと同時に、ミステリーとしての解決があるのかなと一瞬不安になるが、そんな思いも束の間、終盤近くには、田舎娘を巻き込んだ、ナチ党、ソ連絡みの国際謀略サスペンスへと発展してゆく。

全体としてまとまりがない感がある。でもメリハリを付けて読ませようとする工夫はあり、終盤はまるで、ヒッチコック・サスペンスのようにワクワクしながら読めた。ただ、結末は少しお粗末だったかな。


No.138 6点 心の砕ける音
トマス・H・クック
(2010/06/15 14:58登録)
基本的には、語り部が秘密を抱えつつ、現在と過去とを行き来しながら話が進んでゆく、「記憶シリーズ」と同じパターンです。お決まりの純文学ミステリです。

語り手である兄キャルが、殺された弟ビリーの事件の真相と、忽然と消えた謎の女ドーラ・マーチの行方を追う話の展開です。事実を小出しにしてゆく叙述なので、事件の事実関係がもやもやしたまま読み進めざるを得ませんが、怪しげな語り口調から、事実がわからないながらも、なんとなく真相の一部にはたどり着けてしまいます(本当の結末は読めませんでしたが)。

「・・・クックがミステリを超えて、またひとつ美しくも悲しい物語を紡ぎだした。」この大げさな惹句、「緋色の記憶」なら通じると思いますが、本書にはいくらなんでもあてはまりません。どちらかといえば、意外に俗っぽい真相にやや拍子抜けといった印象です。でも後半はページを繰る手が止まらないほどだったので、楽しめる小説にはちがいなかったようです。初めてクックを読む人なら、たぶんもっと楽しめるでしょう。


No.137 8点 Yの悲劇
エラリイ・クイーン
(2010/06/09 10:05登録)
卵酒、パウダー、マンドリン、ヴァニラ、暖炉・・・。読書中、キーワードが登場するたびにすこしずつ記憶がよみがえってくるのですが、幸いにも途中で真相にたどり着くことはなかったので、再読を十分に楽しむことができました。再読であらためて感じたのは、それほどおどろおどろしさがなかったこと。感性が変化したからなのでしょうか。
「X」と比較すれば、謎解きの論理性、真相の意外性、物語性など、ほとんど同格です。舞台設定は全然ちがいますが、私は「X」のように場面に変化があり広がりのある設定も好きだし、本書のように閉塞感があって怪しげな雰囲気(『××家の○○』のようなやつ)も好きなので、物語に対する嗜好の面でも分け。本書がやや上だと思うのは、話の悲劇性(あのラストは日本人好みだと思う)と、納得のゆく犯人です(論理的にはどちらも納得できるが、「X」の意外な犯人はなぜか面白くない点があった)。


No.136 5点 殺人の棋譜
斎藤栄
(2010/06/05 12:34登録)
江戸川乱歩賞受賞の斎藤栄氏の出世作。乱歩賞という冠と、タイトルの「棋譜」という字句からすれば、いかにも暗号ミステリーの秀作という感じを思わせるが、そうではなく、ごくごく普通のミステリーであった。タイトルだけが一人歩きしたような感じだ(プリズン・トリックのように出版社がネーミングを後付けしたのでは?)。
ただ、本格モノとしては並の出来ではあるがサスペンスが十分にあったので駄作ということはなく、ほどほどに楽しめた作品だった。なお続編として、「殺人の棋譜」の時代から17年後の設定の「新・殺人の棋譜」も発刊されている。


No.135 4点 逆転
笹沢左保
(2010/05/31 11:44登録)
「九人目」「清志を返して」「馬鹿野郎」「さよならを、夜景に」「透明の殺意」の5編が収録されている。タイトルどおり、みな「逆転」の構図だが、どんでん返しねらいがみえみえで驚けなかった。もう一ひねりほしいなと思う作品ばかりだった。それに、誤植が気になった。ミステリの場合、仕掛けだと思ってしまうからね。
しいてあげるとすれば、「さよならを、夜景に」がきれいにまとまっていて良かった。

8年前に笹沢左保が亡くなって後あっという間に、作品が新刊書店の文庫棚から消えてしまったのが残念でならなかったのですが、その後、ブックオフの100円コーナーで棚2列に並んでいるのを見つけて安心した覚えがあります。それにいまは、光文社から「コレクション」が出版されているのもうれしいですね。
文庫で名を形として残すということは大変なことなのですね。山本周五郎、司馬遼太郎、横溝正史、松本清張などが、いまも文庫棚をにぎわせていることが、どれだけすごいことなのかがわかります。笹沢左保はそこまでいかなかったのですね。残念!


No.134 5点 冒険小説ベスト100
事典・ガイド
(2010/05/29 13:16登録)
苦手分野である冒険小説を開拓するつもりで手にとってみました。
ベスト100には、海外の「鷲は舞い降りた」「ナヴァロンの要塞」、国内の「海狼伝」「飢えて狼」など妥当なもののほか、柴田練三郎の「眠狂四郎」など、意外なものもランクインしてあります。個人(北上次郎氏)が選んだベストなので、その対象も自分なりの基準なのでしょう。
一般的に評価の高いハメット、チャンドラーなどのハードボイルド作品や、スパイスリラーである「ジャッカルの日」などは紹介されていません。ジャンル外として意図的に外したのであれば予想外です。主人公である男が自己のルールを曲げないということが冒険小説の定義(本書中にこれに近いことが書いてありました)であれば、一般的なハードボイルド作品も入るはずです。もちろん、たんに著者がベスト100として認めていないだけなのかもしれませんけどね。
とりあえず、なんとなく読みたいなという程度の作品は抽出できたのでよかったです。


No.133 4点 魔の不在証明(アリバイ)
笹沢左保
(2010/05/27 10:06登録)
いつもトリッキーな内容に概ね満足しているが、本作は多くの笹沢既読作品の中ではイマイチの出来だった。騙されたような感じがして(ミステリだから騙されるのは当たりまえだけど)、納得がいかなかった。多作なので、たまにはこういうのもあるのだろう。それともたんに読み方が悪かっただけなのか。

一時期、書き込んでいた読書ノートよりネタバレ部分を除いて記しました。ただし、筋の記憶はまったくなく、ネタバレ記載を読んでも記憶は甦ってきません。笹沢作品を多く読んだとあるけど、そんなに多く読んだのかな?ファンには違いないですがタイトルですら数作品しか思い出せません。


No.132 7点 招かれざる客
笹沢左保
(2010/05/27 09:52登録)
最初の章は事件の状況説明に終始し、次の章は一人称で刑事が事件を追う展開となっています。笹沢左保も松本清張の影響を受けたのでしょうか。出だしは社会派風で、冒頭から中盤ぐらいまでは、清張なみの読みやすさと筆力に、グイグイグイと引き込まれます。これがデビュー作とは驚きです(改稿はあったようですが)。と、いい調子で進むのですが、気が付けば最初の社会性はいったいどこにいったのだろう、というほど社会派ミステリではなくなっていきます。それはそれで問題はないのですが。
確実性は低いものの、ひと工夫あるアリバイ、暗号等のトリックが色々とあり、また物語性もあって、かなり楽しめた作品でした。


No.131 5点 大誘拐
天藤真
(2010/05/20 09:59登録)
タイトルから想像できるようなクライムサスペンスではなく、ユーモア系痛快エンターテイメントであることは書評を見て知っていましたが(好みではないと思っていた)、このサイトで評価が高かったので読んでみることにしました。
結果的には、マンガを読むような感覚で楽しめたし、身代金100億円の受け渡しをどう実行するのか、結末に向けてどう収拾をつけるのかなど、推理しながら読めたのもよかったです。意外性は低いものの、ラストに向けて自然な流れで論理的に辻褄あわせができていて、スケールが大きいわりには緻密なミステリという感じがしました。でもその反面、他の方が指摘されているように、たんなるドタバタ(国を巻き込むような派手すぎる展開から、ハチャメチャな社会派ミステリのようにも感じられた)という印象もたしかにありましたね。
褒めるべき点も多いのですが、自分の嗜好と照らせば点数はこのぐらいですね。


No.130 6点 Wの悲劇
夏樹静子
(2010/05/20 09:42登録)
倒叙でありながら本格要素を備え、かつサスペンスに満ちた作品です。本格ミステリーとしては陳腐な感はありますが、サスペンスを中心にストーリーは練られており、まずまず楽しめました。著者はプロットを極めたかったのでしょうね。トリックも、プロットもと欲張るよりは、このぐらいのほうが好感が持てます。
薬師丸ひろ子の映画も観ましたが、筋はかなり違っていました。でもどちらもそれなりに良かったですね。


No.129 5点 片眼の猿
道尾秀介
(2010/05/20 09:21登録)
ドラマにすれば面白いだろうなあ、というようなストーリーです。でも、そのままでは絶対に映像化できません。伏線(というより叙述トリックかな)のジャブが襲いかかってくるような感じです。さすが技巧派です。ただ、さらっと読めるわりには、手掛かりを見落とさないよう身構えてしまうので読んでいて落ち着かない感がありました。思わせぶりな煽りの叙述もありましたからね(伏線は自然がいちばんです)。そういう意味では技巧派とはいえないかもしれません。こういう作品を続けて読むのは苦痛になるので、この種の作品のあとは、ストーリーの流れに乗りながら読める作品で落ち着きたい気がします。でも、道尾作品はこれからも読んでいきたいですね。


No.128 6点 危険な関係
新章文子
(2010/05/08 12:50登録)
主たる登場人物がみな腹に一物あり、それを心境とともに生々しく描きすぎているせいで、人物自体には魅力を感じませんでした(人間模様は面白いのですが)。でも、この心境描写には、なかなかのテクニックを感じられます。かの海外の著名女流作家のようだなと思って解説を読んでみると、好んで読んでいたとのことで納得しました。トリックはともかくも、すくない登場人物の中、心境描写による話の展開(ミスリードを含めて)の上手さには感心します。

本書は再読だと思っていましたが、全くの初読でした。同時期に活躍した仁木悦子と勘ちがいしていたのかもしれません。作風は全くちがいますが。


No.127 6点 密使
グレアム・グリーン
(2010/05/02 09:13登録)
終始スリルとサスペンスに満ちたスパイ・スリラー。
石炭の買い付けのために英国にやってきた密使Dは、前半では追われる立場だったのが、ある事件をきっかけに追う立場に急転する。戦争が背景にあるし、こんなストーリー展開だったらもっと面白いはずなんだけど、心境吐露や会話が多すぎるせいか、物語の進行は停滞気味。火事場で何を持ち出すかゆっくり会議しているような感じで、緊張感があまり伝わってこなかった。映画で観ればもっと面白そうだけどね。
翻訳が合っていなかったような気がする(私が読んだのは全集)。それともたんに読み方が悪かっただけなのかな。
ハリソン・フォードの「逃亡者」の一シーンのような場面があったのが印象的だった。


No.126 10点 ケインとアベル
ジェフリー・アーチャー
(2010/04/30 13:47登録)
スリルも、サスペンスも、意外性もあるためミステリーとして分類するのに異論はありませんが、でもやはり本書は、ミステリファンならずとも楽しめる、壮大でロマンに満ちたエンタテイメント・サクセス・ストーリーといったほうが正しいでしょうね。

生まれも育ちも全く異なる二人がそれぞれ別の人生を歩みながら、一方のアベルはホテルビジネス、他方のケインは銀行ビジネスに従事してゆくこととなるが、ある事件をきっかけに二人の壮絶な戦いが始まる。生涯にわたり、数回しか顔を会わさないのに、ビジネスにおいても人生においても、宿命のライバルとして意識し合い、ぶつかりあい、憎しみあい、終盤にいたっては、二人の対立が2代目にまで及ぶこととなる…

こんなあらすじですが、まあひとことで言えば、金持ちエリートと、極貧出身のたたき上げとの生涯にわたるバトル・ストーリーといったところでしょうか。二人の対立がいつまで続くのか、どう収拾するのかしないのか、そのへんを想像することでも楽しめますが、二人の数奇に満ちたライフストーリーに思う存分酔うことが最高の楽しみ方だと思います。ご都合主義的なところもありますが、海外が舞台で、かつこのストーリではそんなこと全く問題なしです。感受性がわずかに残っていた二十歳台に読んだ作品で、今回の再読で幻滅しないかと心配だったのですが、文句なしの満点です。


No.125 7点 白い泥
陳舜臣
(2010/04/30 13:13登録)
寒天の積荷の中から死体が出てくる話です。舞台は神戸の貿易商社。いかにも陳氏らしい設定です。結末はやや暗めながらも意外性はばっちり。トリックと謎解きもよくできています。いつものように人物造形が上手いので印象は良く、暗めの結末によるいやな後味よりも上手い小説を堪能できたことの満足感が記憶に残っています。
ところで、神戸が舞台なのに、なぜ探偵役として陶展文を登場させなかったのでしょうか?登場させていれば話がもうすこし明るくなったろうし、みなに好まれる作品になったと思うのですが。。。


No.124 5点 検察審査会の午後
佐野洋
(2010/04/23 18:51登録)
佐野洋氏といえば辛口批評が有名でミステリー界のご意見番といった感じだが、同氏自身の多数のミステリーの中では超傑作の代表作ってあるのだろうか?あまり聞かないし、私はまだめぐりあっていない。それでも本書は、渡瀬恒彦主演のドラマが放映されたときタイムリーに読んだせいか、数すくない同氏の既読本の中では比較的よい印象が記憶に刻まれている。

検察審査会といえば今の裁判員制度の先輩格にあたるもの。審査会には選ばれた市民が参加するわけだから、そこには素人探偵が生まれるという発想だ。「十二人の怒れる男」の国内簡易版といった感じかな。いま脚光を浴びている裁判員とちがって地味だけど、目の付けどころはよかったと思う。ドラマで初めて知った制度であり、また連続ドラマと並行しながらの読書だったので、そこそこ楽しめた。有罪、無罪ではなく、「起訴相当」「不起訴相当」という最終結論の呼び方が新鮮に感じられた。


No.123 6点 メグレと老婦人の謎
ジョルジュ・シムノン
(2010/04/21 13:46登録)
シムノンは空さんの独擅場ですが、初心者ながら、仲間入りをさせていただきます。
100作ほどあるメグレものの中で、図書館で唯一、文庫の棚に置いてあったのが本書です。解説によればシリーズの最後から4番目だそうです。原題を直訳すればたぶん「メグレの狂女」。日本語タイトルのほうがしっくりきます。ただ、メグレものには本サイトでも登録済みの「メグレと老婦人」という別作品があるので、紛らわしいです。
本作は200ページ程度の中編で、謎が最初に起きた老婦人殺害事件だけなので、内容的にも小粒感があります。中途では、メグレファンがメグレとその妻などの会話を楽しむ程度の作品なんだなとも思いましたが、終盤には小粒ながらもしっかりとした真相が明かされ、終わってみればコンパクトにまとまったホワイダニットもの(ちょっとした推理パズル練習題)であるとの印象を受けました。ただ、コンパクトすぎて物足りなさはありましたね。同レベルの中短編を2,3集めて1冊にすれば相乗効果で点数はもう少し上がったでしょう。なおトリックらしきものはありませんがそれに不満はなく、軽い伏線だけで十分に満足しました。
それから、メグレの個人行動は警察ものを想像していただけに意外に思いました。「メグレと○○」という表題が示すように、このシリーズはメグレのキャラが全開なんでしょうね。その他、文体も含め予想外のことばかりです。私の場合、「コナン」の目暮警部か、テレビでやっていた「東京メグレ警視」でしか「メグレ」に触れる機会がなかったですから(笑)。


No.122 5点 プリズン・トリック
遠藤武文
(2010/04/16 19:22登録)
長所、欠点がいろいろある作品ですね。
 (欠点)
作家として素人に毛の生えた程度なのに、欲張りすぎ。それによる瑕疵が噴出したような感じ。
特に多視点は大きな問題。フェアを貫こうとしたためか?しかし、多視点にするとかえってアンフェアじゃないかと疑いを持たれる。佐野洋氏が選考委員だったら受賞はできなかったかも。
小説作法を無視して勢いだけで読ませようとしている(これは長所なのかも)。
トリックが大仕掛けすぎる(長所でもある)。そのくせ粗雑。必然性が見えてこない。
どんでん返しはなくてもよいのでは。最後の一行は、伏線からも、一般的な常識からも予想できたことで、驚きはない(作者はどうしてもやりたかったのでしょうね)。
主要な人物をメモしながら読んだが、メモしなかった人物が重要人物だった。人物造形がダメということか。それとも私自身の欠点なのか(笑)。
 (長所)
描写は部分的にはすごく迫力がある。例えば、冒頭の刑務所内の描写や、交通事故の被害者と加害者との対峙場面など。
ストーリーに勢いがあるせいかワクワクしながら読めた。だから視点がコロコロ変わるわりには読みやすかった。
汚職がらみの社会性は好みではないが、交通事故に関する社会性は時代にもマッチし、ストーリーにもうまくからんで自然な流れになっているので良かった。

選考委員は「志の高さ」を買って、減点方式も足切り方式も採用せず、一点豪華主義で賞を与えてしまったようです。プロの作家から見れば将来性があるのでしょうか。たしかに、なんとなく魅力があります。


No.121 5点 東京奇譚集
村上春樹
(2010/04/13 21:27登録)
所収の「品川猿」がバカミスと聞いて読んでみました。収録作品は、「偶然の旅人」「ハナレイ・ベイ」「どこであれそれが見つかりそうな場所で」「日々移動する腎臓のかたちをした石」を含む計5編です。
奇譚といってもホラー、怪奇小説ということはなく、「品川猿」を除けば、もしかしたら現実にも起こり得るのかなと思うような物語です。「品川猿」(自分の名前だけを忘れてしまった女性の話)だけはかなり不思議な話ですが、たんなるバカミスで片付けてしまうには惜しいような気がします。
全作とも結末がリドルストーリーっぽく(というか、サプライズがあまりない)、いかにも純文学ミステリーという感じがしますが、中途の展開はミステリーとして十分に楽しめるはずです。ミステリーファンにはぜひ一読を薦めたい純文学系作品です。

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