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ミステリの祭典

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危険な関係

作家 新章文子
出版日1959年01月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 7点 人並由真
(2023/01/01 18:30登録)
(ネタバレなし)
 22歳の美青年で電気店の店員・倉田勇吉は、病身の母さきが死に、自分の負担が軽くなったと考える。だがそんな矢先の勇吉に、出戻りで年上の女性・志津子が恋慕。勇吉はそんな彼女をうざったく思い、新たな生活に踏み出そうとする。そのころ、大会社の社長・世良峰行が61歳で病死。昭和30年代の時点での一億円近い莫大な資産は、その長男で放蕩息子の高行にのみ遺贈すると遺言書にあった。峰行の後妻で現在の妻ふじと、高行と腹違いの妹・めぐみには全く何も残されない? めぐみは愛憎の念を抱く兄に対し、いつしか殺人計画を練り始めた。そんな、もともとは別個に進行していた二つの人間模様は、やがて……。

 1959年の第五回乱歩賞受賞作品。同時に乱歩賞受賞作品では初めて、直木賞の候補になった逸話でも知られる、ミステリ作家・新章文子の処女長編。ネットでの情報によると、すでにこの時点で作者は別名義で三冊の児童向けの著書(創作童話と、伝記読み物のジュブナイル)があったそうだが、一般向け小説の長編作品はこれが初ということになるようである。
 そのような形で実作(商業出版)の経験があり、また本作の発表時に作者はすでに三十代半ば、それなりの人生経験を積んでいたとはいえ、今読んでも、これが本格的な処女長編かと目を瞠るほど、小説としては成熟し、文体の読みやすさも描写の的確さも高い完成度を示している。
 歴代の乱歩賞受賞作品は、新旧のものをつまみぐいで読んできた評者だが、たぶんこれは出会った中でも一、二を競う、きわめて練度の高いミステリ小説であろう。
 
 弱点は勇吉と高行、この二人の男性メインキャラクーとそれぞれその周辺の人物たちが織り成す二条のドラマ、それぞれのサイドの、そして次第に束ねられていく人物たちの関係性が、いささか煩雑でややこしいこと。
 そのため今回などは、登場人物の一覧表ばかりか、人物相関図のメモまで作りながら物語を読み進めた。

 いや、よく言えば本作の場合、それだけ人物の構図が、のちのちのミステリ的な展開の構想を踏まえて、密度が高いということであり、そのややこしさを新章の達者な筆遣いでカバーしているともいえる。たぶん脇役なのであろう? 人物までが実に印象的な存在感で描かれており、たとえば、16歳のお嬢様めぐみに献身的な恋慕の念を抱く世良家の運転手の青年・下路敬二の底の窺えない人物造形など、かなり鮮烈だ。

 当時から翻訳ミステリが好きだったという作者(仁木悦子と同様の、ポケミス洗礼世代だろう)らしい、入り組んだプロットと、かなり個性的な殺人の始終なども本作の特色。ラストは本当にそれですべて綺麗に収まったか? と少しだけあとから疑問に思わされるところはあるが、相応のサプライズなのは間違いない。

 すでに何冊か新章作品を読んでいる評者などからすれば、これが作者のベスト、とは言い切れないとは思うが、かなりの熟成感を読み手に与える力作なのは間違いないと思う。
 というわけで、これが今年の(昨年からの年越しの)ミステリ一冊め。

No.3 6点 nukkam
(2015/11/29 01:15登録)
(ネタバレなしです) 新章文子(1922-2015)は童話や少女小説、占い本なども書いていますがミステリーの第1作は1959年発表の本書です。この人のミステリー作品はどちらかと言えばサスペンス小説に分類されるものが多いようですが、本書は本格派推理小説です。作者の特徴である人物の心理描写の上手さは本書でも十分に発揮されており、単に個々人の性格描写だけでなく互いの関係や生き様にまで踏み込んで物語に深みを与えています。ただミステリーであることに忠実であり過ぎたのか、臣さんのご講評で指摘されているようにどの人物も腹に一物ありのようになっていて、それがサスペンスを盛り上げるのに寄与している一方でどこか物語的に余裕のないようにも感じられます。読者が共感を抱きやすい人物を登場させていた仁木悦子とはそこが作風の違いになっています。じっくり丁寧に作られたプロットではあるのですが謎解き場面はあっけなく終わり、読後の余韻は残りません。

No.2 6点
(2010/05/08 12:50登録)
主たる登場人物がみな腹に一物あり、それを心境とともに生々しく描きすぎているせいで、人物自体には魅力を感じませんでした(人間模様は面白いのですが)。でも、この心境描写には、なかなかのテクニックを感じられます。かの海外の著名女流作家のようだなと思って解説を読んでみると、好んで読んでいたとのことで納得しました。トリックはともかくも、すくない登場人物の中、心境描写による話の展開(ミスリードを含めて)の上手さには感心します。

本書は再読だと思っていましたが、全くの初読でした。同時期に活躍した仁木悦子と勘ちがいしていたのかもしれません。作風は全くちがいますが。

No.1 5点 こう
(2010/04/26 00:57登録)
 ずっと家で積ん読になっていたものを読みました。笹沢左保の「招かれざる客 」に競り勝ち乱歩賞を受賞した作品です。
 死亡した父親から全財産を譲ると指名された大学生高行が主人公で彼の家を中心に起こるトラブル、人間模様が描かれています。
 メインの殺人トリックは正直いくらなんでも直前にもう一度確認したら未然に防げますし本当に実行するなら誰にもしゃべらないでしょうからそもそもトリックとして成立しているのか疑問ですし犯人もこの人しかいないというその人です。また「ひき逃げ」の下りも杜撰すぎる印象です。また遺言の下りも弁護士の対応もおかしいです。(50年前ならOKだったのでしょうか)犯人の動機については海外ミステリ的で当時としては奇抜だったのかもしれません。
登場人物の描写は確かに優れ所謂「人物を描けている」のかもしれませんが読んでいて感情移入できる人物はほぼ皆無でした。面白みで言えば「招かれざる客」の方が上の様な気がしますがまあまあ楽しめました。

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