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ミステリの祭典

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ブギウギ
文庫版は『ブギウギ 敗戦前』『ブギウギ 敗戦後』に分冊

作家 坂東眞砂子
出版日2010年03月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点 猫サーカス
(2021/09/11 18:31登録)
溺死したネッツバント艦長は、果たして自殺か他殺か。さまざまな思惑を隠しているらしい軍人たち、ドイツ軍将校との情交に溺れるリツ、そしてリツが働く温泉宿・大黒屋の女将、事件に関わった人物たちの運命は、日本の敗戦によって大きく変わることになる。多彩な登場人物を鮮やかに造形する描写力は当然としても、フィルムの行方をめぐって終盤までもつれにもつれるストーリーの構成は見事。もちろん謎解きの面白さだけに頼った作品ではなく、時代の波に翻弄されながらも、臨機応変にたくましく生きる女性たちの強さが、物語の通底音になっているのにも注目したい。近代日本の歴史の中で最大の転換点であった昭和20年が事件の背景として選ばれているのは、その点を際立たせるための作者の周到な仕掛けに他ならない。

No.2 8点 touko
(2011/04/07 23:23登録)
土俗ホラーや歴史もので有名な作者が、新境地を切り開いたと評判になった作品。

太平洋戦争末期の箱根に疎開していたUボート艦長の変死から始まるミステリ、ナチスドイツ、進駐軍、ソ連入り乱れての謀略サスペンス部分も楽しめましたが、なんといっても、この作者ならではの、戦後の混乱期の中でもしたたかに生きる庶民、特に女の生き方の描写が痛快でした。

基本的に読ませる力も個性もある作家なので、ミステリやサスペンス部分は及第点レベルだとしても、小説としての完成度は高いと思うので、高めの点数にしてみました。

No.1 5点
(2010/06/24 09:48登録)
Uボードのドイツ人艦長・ネッツバンドの変死の謎を探る戦時下ミステリー。視点は、ドイツ語通訳である法城、事件が起こった芦乃湯の旅館・大黒屋の女中である安西リツ、大黒屋の女将の3視点の変則型。
第一の事件から次の事件まで、だらだらと長く、しかも多視点で物語が進行するから、ミステリー的には集中できない。この前半はドイツ兵が滞在する箱根が舞台で話がゆったりと進むので、異人館を舞台とした陳舜臣の「柊の館」を連想してしまう。「柊」がのんびりとした話の流れにあっても、連作短編形式で話を引き締めていたので、本書もそうすれば退屈せずに読めるのにと思っていたが、後半になると(敗戦後の東京が舞台)話が急転する。
さらに読み進めていくと、徐々に安西リツのサクセス・ストーリーへと変貌してゆき、タイトルの意味もだんだんとわかってくる。それと同時に、ミステリーとしての解決があるのかなと一瞬不安になるが、そんな思いも束の間、終盤近くには、田舎娘を巻き込んだ、ナチ党、ソ連絡みの国際謀略サスペンスへと発展してゆく。

全体としてまとまりがない感がある。でもメリハリを付けて読ませようとする工夫はあり、終盤はまるで、ヒッチコック・サスペンスのようにワクワクしながら読めた。ただ、結末は少しお粗末だったかな。

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