臣さんの登録情報 | |
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平均点:5.90点 | 書評数:660件 |
No.200 | 6点 | 地を這う虫 高村薫 |
(2011/02/07 13:03登録) 「愁訴の花」「巡り逢う人びと」「父が来た道」「地を這う虫」の4短編が収録してある。主人公がみな理由あって日陰の職に就いている元警察官の悲哀ただよう物語。 第1編を中盤まで読むと、構図の大逆転があるのかなと期待させるような展開だったが、この作家にかぎってそんなことはないだろうと思い直したら、やはり、ラストには大きなサプライズはなかった。他編もみな同じ程度でトリッキーな内容ではなかった。 舞台設定が身近なせいか、作り物のハードボイルドという感じはしなかった。したがって安心して気楽に読めた。ミステリー性が低めとはいえ、途中のサスペンス(というよりも話の中途の展開)にはけっこうワクワクもした。 かつて高村作品は読みづらくていやだったが、歳を食ってきたせいか、著者の思想に少しは近づいてきたせいか(絶対それはないか!)、硬質な筆致、執拗すぎる描写も受け入れることができ、むしろ読みやすくさえ感じた。高村薫という作家を身近に感じてしまった。 ミステリーとして高得点を付けるほどではないが、今後他の作品を読みたいと思わせる短編集だった。 |
No.199 | 7点 | 私が殺した少女 原尞 |
(2011/02/02 09:31登録) 私立探偵・沢崎は本書でも、前作「そして夜は甦る」と同様、抜群の推理力を発揮します。しかも理由付けがきちんと出来ていて論理的な真相解明となっています。緻密なプロット、繊細な描写は前作と同じで、サスペンスは前作以上です。でも気に入らない点が1つあります。 それはラストの2つのサプライズ。たしかに驚かされたし、論理も整っているし、賞賛に値しますが、「そんなことってあるの?考えられない」と、すぐに賛辞を取り消してしまいました。某国内売れっ子作家の某作品と事件の背景が似ている印象を受けました。その某作品にも同じような問題を少し感じていましたが、本書ほどの違和感はありませんでした(すみません、ネタバレを意識したため、何を書いているのか全くわからなくなりました)。 書評には推理に説得力がないことを指摘されたものがあります。私の場合、沢崎の推理は論理的だと思いますが、上記のようなロジック以前の問題があるから納得できませんでした。 都筑道夫は本格ミステリは(トリックよりも)「論理」が第一と主張していますが、論理で納得できないことだってあるはずです。 昔ならこんなこと考えもしなかったのですが、作品が緻密すぎて、そういう箇所が目立ってしまったようです。というより粗探しなのかもしれません(笑)。 というわけで、好みだけの問題ですが本書よりも前作「そして夜は甦る」を推します。 |
No.198 | 7点 | 黄色い部屋はいかに改装されたか? 評論・エッセイ |
(2011/01/28 15:27登録) 本書は、こうさんが「ベスト・ミステリ論18」の書評の中でも推薦されている、本格ミステリに関する評論作品です。 やはり「ベスト」にも抜粋されていた「トリック無用は暴論か」の章が気になり、その前後をじっくりと読みました。本格ミステリはトリックよりも事件解決に至るロジックが重要とのこと。これはパズラー条件6箇条の1つです。 ロジック論に絡んで、横溝正史の「獄門島」を今日の本格、「悪魔の手毬唄」を昨日の本格と呼んでいたことが興味深いです。たんなる好みだけなら反論もありませんが、私にとって「悪魔の手毬唄」は横溝の最高傑作であり、「獄門島」よりは上だったと記憶していただけに、この点には反論したくなります。まあ大昔に読んだきりなので、何を反論していいのかわかりませんが。 当時の流行作家の作品でもばっさりと斬り捨てるような文章もあり、心地よさ、反感、納得など様々な印象を受けましたが、総じてミステリー(パズラー)への愛情を感じられました。中身の濃さではピカイチでした。 なおネタバレもあるので気をつけてお読みください。 |
No.197 | 5点 | 殺しの四人 池波正太郎 |
(2011/01/28 14:53登録) テレビドラマ必殺仕掛人の原作である藤枝梅安シリーズの第一弾。 「おんなごろし」「殺しの四人」「秋風二人旅」「後は知らない」「梅安晦日蕎麦」の5短篇が収録されている。 短篇ごとにオチらしきものはあるが、サプライズというほどではない。読切短篇であるものの全作話がつながっていて連作短篇スタイルとなっているが、最終話で全体の謎の解決というようなラストではない。殺しの手段は、だいたいテレビどおりなのだが、テレビほどの様式美は感じられなかった。 ミステリーというよりは、どちらかといえば主人公・藤枝梅安と相棒の彦次郎のキャラクタ小説といったほうが妥当。シリーズ第一弾ということもあって、事件そのものよりも、梅安たちの日常の食事などの場面や会話を楽しむことに重点が置かれているような気がする。ミステリーを期待すると全く物足りない。 原作では梅安は堂々とした体躯の持ち主で、ふだんは医者然とした行動をとっているので、テレビ版よりも、表と裏のギャップをより大きく感じられる。 |
No.196 | 8点 | そして夜は甦る 原尞 |
(2011/01/19 10:18登録) 20年ほどまえに「私が殺した少女」を読んで以来の原作品です。そのときは忙しすぎたのか、気になることでもあったのか、乗り切れず途中で放置してしまいました。だから、著者作品は初めてみたいなものです。 チャンドラーに捧げるなんて、なかなか言えませんよね。自信の表われでしょうか。でもこの献辞にふさわしい出来ばえだと思います。チャンドラーをはじめ数々の海外作品を読んできて、完璧を目指して書いたデビュー作という感じがします。 文庫本の裏表紙の紹介には、「いきのいいセリフと緊密なプロット」とあります。 文章、特にセリフについては申し分なしです。一方のプロットは細やかすぎてテンポが遅いのではと感じましたが、最後まで読んでみると、これが凄い。中盤までは事実関係が交錯する複雑なストーリー(でも書き方がうまいせいか読みにくくはなかった)ですが、後半からラストの締めくくりまでで、それらが本当にうまく生かされています。この後半は絶品。最後の1行まで上手さが光っています。 これだけプロットが精緻に練られていれば、チャンドラーをまねた似非ハードボイルドにはあたらないのでは。むしろ、本格ミステリ風味の和製本格ハードボイルドといったほうが適切です。いや、本書こそが王道を行くミステリーなのではとも思っています。 それにしても主人公の沢崎の推理力は本格ミステリの探偵なみです。これにも脱帽。同じ沢崎シリーズの「私が殺した少女」も早く再読?したいですね。 本書に合わせて書評もハードボイルド文体でカッコよく書こうと思っていましたが、結局いつもどおりになっていしまいました(笑)。 |
No.195 | 8点 | 赤い指 東野圭吾 |
(2011/01/13 15:39登録) 親子、家族(特に介護問題)をテーマとした社会派・倒叙ミステリです。 さすが東野さん。読ませるストーリー展開には感心します。テーマがテーマだけに、もう少し重く読みにくくしてもよかったのでは、と思うぐらいです。 メインストーリーのラストにはもちろん気持ちよく驚かされましたが、加賀親子について同一テーマで並行してサブストーリーを展開させ、オチまで付けたのは、心憎いほどのテクニックです。 正月のテレビドラマもなかなかの秀作。父親役の杉本哲太が好演していました。 |
No.194 | 5点 | せどり男爵数奇譚 梶山季之 |
(2011/01/11 14:28登録) 年末に新聞で著者に関する記事を読んだこと、そして「せどり」という字句から興味を抱き、読んでみた。 主人公であるせどり男爵こと笠井菊哉が数奇な人生を歩んだわけではなく、その職業柄出会ったビブリオマニア(書物蒐集狂)に関する奇妙な出来事を連作短篇形式で語って聞かせるという程度のものである。なかには猟奇的でぞっとする話もあったが、どの短篇も謎解き要素はすくなく、最終話で一挙解決というような連作物の定例パターンもない。とはいえ、古書蒐集にまつわる薀蓄にはけっこう楽しめた。6話あるが、そのサブタイトルに麻雀の役名が含まれているのが面白い。十三么九(シーサンヤオチュー)というのがあったが、これは国士無双の別名のようだ。知らなかった。 ブックオフで買ってアマゾンかヤフオクで売るのが当世のせどりだが、本書の「せどり」はスケールが違っていた。 |
No.193 | 8点 | 皇帝のかぎ煙草入れ ジョン・ディクスン・カー |
(2011/01/04 12:24登録) シンプルかつ華麗、そしてクリスティ作風でもある作品。タイトルが実に上手い。 簡易な心理トリックなので、ちょっと似の作品は散見するが、読みやすくプロットが抜群だから今の時代でも十分に楽しめると思う。 巻き込まれ、嵌められたイヴが逃走しながら自ら犯人を割り出すのかと思っていたが、意外に早く事実を打ち明けてしまうところは、予想と違っていた。2時間ドラマ風サスペンス・ミステリの読みすぎ、観すぎのせいか、そんな内容を想像してしまっていた(笑)。 |
No.192 | 6点 | 悪魔が来りて笛を吹く 横溝正史 |
(2010/12/27 09:46登録) 帝銀事件を模した「天銀堂事件」の事件場面がいつまでも記憶に残っている。「悪魔の手毬唄」ほどではないが十分に楽しめた。 今年は横溝を再読しようと思っていたが、他の未読作品ばかりを追いかけてほとんど手が出せなかった。来年こそはぜひとも。 |
No.191 | 7点 | 心理試験 江戸川乱歩 |
(2010/12/27 09:39登録) 冒頭は「罪と罰」そのものといった感じがしますが、その後の展開は当然ながら本家を離れて、独自の倒叙ミステリーを構成していきます。この展開はほんとうに素晴らしい。短篇の中によくこれだけミステリー要素を詰め込んだものと感心します。 短篇でありながら、中身はずっしりと重く、それでいてシンプル。そして物語の雰囲気も抜群(私の好み)です。 |
No.190 | 6点 | 憎悪の化石 鮎川哲也 |
(2010/12/25 11:38登録) 著者と同時代(1900~30年代生まれ)の作家にはみないえることですが、久々の鮎川ということもあって特に、本を前にしただけで鳥肌が立ちました。地味ですが刑事主人公のアリバイ本格モノには、いまでも惹かれます。時間軸を頭の中に置いての読書は、混乱のため時間を要しますが、たいていの場合解法がていねいなので、たとえ偶然頼みの気になる点があっても、結果的には満足していることがほとんどです。 本書の場合、1つ目のアリバイトリックはかなり豪快(似たものを読んだことがあります)、2つ目は知る人ぞ知るという知識もの。ともに容易には解けませんが、アリバイ物はそもそも解くつもりはないので、私にとっては上等な部類だと思います。 難を言えば、12人もの容疑者を揃える必要があったのかということ。犯人当て要素は早々に捨て去り、アリバイ崩しにもっと力を入れれば大傑作になったのではという気もします。それに、「憎悪の化石」という暗喩タイトル。これは真相の一部(背景、動機)につながる言葉ですが、こんな背景は本格好きには意味のないことだし、そんなタイトルではぴんときません。タイトルで損をしていますね。 |
No.189 | 3点 | デイン家の呪い ダシール・ハメット |
(2010/12/20 11:12登録) コンチネンタル探偵社モノの異色作、オカルト風ハードボイルド・サスペンス。これだけハチャメチャなストーリーだから、むしろオカルト風な○○家物ドタバタ劇といったほうが的を射ている。 登場人物が多いことと、3部構成により、乗ってきたところで話が途切れてしまうこととによる読みにくさはこのうえない。途中で何がなんだかわからなくなってしまい、惰性で読み終えたという感じ。 前半、直感で予想した犯人は当たっていた。が、これだけこねくり回した話を読まされると、最後のサプライズな真相(動機)にも、犯人が当たっていたことにも、なんらの感動も沸いてこない。 見方によれば、すべてが著者の仕組んだミスディレクションだったとも言えるため、もしかして賞賛に値する作品なのでは?いやいやそんなことはない、やはりどうみても失敗作だと思う。 |
No.188 | 5点 | 二銭銅貨 江戸川乱歩 |
(2010/12/20 10:58登録) 暗号トリックだけなら、短篇小説ということを考慮してもまったく面白みなし。ただオチがあるからこそ楽しめるという作品です。笑い話程度のオチですが、ミステリの発展途上の時代だから、まずまず上出来なほうではと思います。 |
No.187 | 5点 | D坂の殺人事件 江戸川乱歩 |
(2010/12/20 10:54登録) 今では、本格派推理小説としてほとんど評価に値しない作品です。時代とともに読者の目が肥えてきたせいもありますが、現代の作家なら、たとえ短篇でももっとうまく作りこむはずです。でも読者に寄り道させる展開は面白いし、ウィットに富んでいるところが好ましくもあります。 |
No.186 | 8点 | 天使が消えていく 夏樹静子 |
(2010/12/08 10:14登録) 女性だからこそ書けるミステリーです。トリック、ストーリーともに申し分なしに素晴らしい。そして伏線も文句なし。この種の作品は、真相で驚かされる喜びはもちろんありますが、伏線がいかにうまく散りばめてあるかが評価を左右します。 欠点をあげれば、サスペンスがもっと盛り込んであればさらに楽しめたのにということぐらいでしょうか。なおトリックの実現可能性は低めですが、その点は意に介しません。 とにかく、さすが日本のクリスティといったところですね。 1969年の乱歩賞は、ライヴァルが正統派本格ミステリーである「高層の死角」であったため分が悪かったのか受賞を逃しましたが、本書のほうがまちがいなく万人受けすると思います(「高層」ももちろん素敵ですが)。 |
No.185 | 6点 | ミステリーを科学したら 評論・エッセイ |
(2010/12/06 10:22登録) この本を読めば、多くの作家の調査が科学的根拠をともなわない中途半端なものであるかを理解できますが、筆力やプロット力などによっては、誤った科学知識で書かれた作品でも十分に読者を楽しませてくれていることにもちがいありません。ということは、本書のような知識を知らなくてもミステリーを楽しむうえではまったく問題なしですが、知っていたら別の楽しみ方ができることもたしかです。 この著者はサイエンスに関してはもちろんですが、推理作家だけあって、ミステリーに関する論理や書き方についても一家言もっています。そして驚くのは著者の読書量。ややネタバレ気味ですが、多数のミステリーの紹介を含んだミステリー科学論は読み物としても面白いし、ガイドブックとしても利用できます。リアリティーをそれほど重視せず、社会派よりも本格派を好む著者の嗜好は、この本の趣旨とは乖離し、すこし違和感を感じますが、好感が持てます。 |
No.184 | 4点 | まほろ市の殺人 冬 有栖川有栖 |
(2010/12/01 10:19登録) たしかにオチはまずい。拍子抜けという程度ではない。豪快すぎる(笑)。ラストを除き出来が良いことから察すれば、著者は謎解きミステリにこだわりすぎたか、枚数の配分を誤ったか、あせってしまったのか、と想像できます。 実は途中、多胡輝の「頭の体操」の中の、本書の真相にちょっと似たクイズが思い浮かんできましたが、あまりに馬鹿げているので打ち消していました。 ただ、ラストはともかく全体的に見れば、恐怖ミステリっぽく、ヒッチコック風のサスペンス劇場にも採用されそうな感もあって、決して悪くはありません。読みやすさも評価できます。このサイトの酷い評価を見ていただけに、想像していたのよりましだったと感じただけなのかもしれませんが。 サイトでこれだけ評価が低いのは、本格ミステリ作家としての有栖川氏への期待が大きすぎるからなのでは?氏がこんな小説を書いてもべつにいいと思うのですが・・・ |
No.183 | 7点 | 黄色い犬 ジョルジュ・シムノン |
(2010/11/24 10:06登録) 主要な登場人物が出そろった段階で、なんとなく想像がつきました。既読感があったのでしょうか。というよりもむしろ、本作が国内のこの種の作品の原点なのかもしれません。真相や動機は意外に俗っぽく、国内作品ではよく見られますし、2時間ドラマのお得意パターンでもあります。でも、終始うら寂しげな雰囲気が出ていて、しかも「男の首」とセットで読めば、フランスの重厚な文学作品に触れたような気にさせてくれます。フランス文学なんてまったく知らないのですが(笑)。 「男の首」と比較すると本書のほうが楽しめたので、1点プラス。 |
No.182 | 6点 | 男の首 ジョルジュ・シムノン |
(2010/11/24 10:00登録) 冒頭の脱獄シーンでグイグイと引っ張られ、それにつづく前半部分はよくわからず、その後ところどころに挿入されるサスペンスにわくわくしながら、メグレと犯人との対決姿勢を楽しむ。そしてなぜかメグレだけが知っていた真相に触れ、驚かされる。そんな楽しみ方ができました。この後半の心理戦は読みどころです。動機が変わっているのは特徴です。 犯人はたしかにラスコーリニコフみたいですが、本家よりもさらに強気で自信過剰なラスコーリニコフが出現します。対するメグレも、犯人に負けじと短気で強引だったのが好かったですね。これがシリーズ初期の彼の性格なのでしょうか。 メグレ警視シリーズで最初に読んだのが「メグレと老婦人の謎」でしたが、これとくらべると本書は雰囲気がまるで違います。同じシリーズでも色々なパターンがあるようです。まだまだ初心者なのでよくはわかりませんが、本書のような重厚なものこそがシムノンらしさなのかもしれません。真相は変わっていますが、謎解きを楽しむということはありません。でも、サスペンスフルな雰囲気と、なんともいえぬ非ミステリ的な深みを感じさせてくれる作品でした。 |
No.181 | 3点 | まほろ市の殺人 秋 麻耶雄嵩 |
(2010/11/19 13:18登録) ラストに明かされる真相は比較的好きなパターンだし、それなりに面白い。本星、便乗犯のいずれについても謎解きは論理的。しかも物語性はそれなりにあるし、人物設定も悪くない。 でも、推理小説としてバランスが悪すぎる。部品はいいけど部品間の相性がイマイチという感じで、全体として好い印象は持てない。よって及第点には届かず。たんに自分に合ってないだけなのかもしれませんが。 |