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ミステリの祭典

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ガラスの鍵

作家 ダシール・ハメット
出版日1954年09月
平均点7.12点
書評数8人

No.8 7点 斎藤警部
(2018/05/06 23:28登録)
高名な拷問~逃走のくだりに差し掛かる予兆のあたりから物語の内燃機関躍動が露わに。ネタは上院議員選挙区の内幕。滋味溢れる犯罪真相追及の道筋にはハードボイルドミステリなる肩書への裏切り一分も無し。表題の由来が、本作の最も頑強な柱である「或る友情」とは別方向にあったのはスカされた気分だが、その別要素と不可分のエモーショナルなラストシークエンスは胸に残る。

No.7 8点 人並由真
(2017/07/25 21:02登録)
(ネタバレなし)
世評は高めながらスペードもオプもチャールズ夫妻も出ない単発編ということで、ずっと放っておいた一冊。ようやく小鷹訳の新版で読んでみた。

いやこれは期待以上の読み応え。あえて内面描写を切り捨てた文体はそれゆえにこそ独特の情感にあふれ、最後まで魂を惹きつけられる思いで一気に読み終えた。
ハメットがこういう音色で詩情を語れる作家だったことを改めて実感した次第だ。
『マルタの鷹』とは 微妙に違う距離感で心に刻まれる一冊です。

No.6 7点 クリスティ再読
(2017/01/29 21:15登録)
当サイトだと、本作がレジェンド2冊よりイイ平均点がついてるね。面白いな。うん、評者も本作好き。
本作は殺人事件の真相解明が一貫してラインにあるのはあるんだけど、「血の収穫」みたいなバイオレンスによる抗争は主眼ではないにせよ、どっちか言えば「党派抗争の小説」だね。選挙に勝てる見込みで動いていたのが、殺人事件の扱いを間違えたために、空気がガラっと変わる...というのが実にうまく描けている。空気が変わるとね、今まで信用が置けてた人間も、ほんと全然何考えてるかわかんなくなるんだよ。みんなわが身がカワイイのさ。
そういう「空気」と..まあ小説なのでバイオレンスに「抗う男」というのが主人公の賭博師ボーモンの姿。実際、ハメットは後年の赤狩りの際にほぼこんな感じで非米活動調査委員会に抗ったわけで、そのため服役さえ辞さなかったんだよ。
なので、リアル、という点ではレジェンド2冊に勝る作品だと思う。というか、レジェンド2冊は派手な展開で面白いけど、リアルっていうのはちょっと誇張されすぎな気もする。本作地味で、レジェンド2冊のようなサブカル的影響力があったわけではないけども、長く読み続けられる作品だと思う。

No.5 7点 kanamori
(2013/11/26 18:04登録)
賭博師のネッド・ボーモントは、路地端で地元上院議員ヘンリーの息子の死体に出くわす。次の市政選挙が控えるなか怪文書が関係者たちに届き、やがて彼の友人で市政の黒幕でもあるマドヴィッグに殺人の容疑がかけられる事態になる。ボーモントは親友の窮地を救うため、事件の解明に乗り出すが-------。

「海外ミステリーマストリード100」からのセレクト。早川版で読んでいましたが、今回は光文社古典新訳文庫で再読しました。
実は「マルタの鷹」も「赤い(血の)収穫」も評価されるほどの面白さが分からず(訳が古いせいだったかもしれませんが)、歴史的意義以上のものを感じることができませんでしたが、本書は古さを感じずノワールなストーリーも面白く納得のいく名作です。
事件の真犯人という謎解きとともに、三人称一視点による登場人物の内面描写を排した徹底した客観描写のため、主人公ネッド・ボーモントの心情も推し測って読む必要があり、本物のハードボイルドを読む面白さを堪能できました。
なお、主人公の名前は早川版(小鷹信光訳)では”ネド・ボーモン”ですが、本書は従来の”ボーモント”になっていました。

No.4 7点
(2011/03/19 11:13登録)
主人公の賭博師ネッド・ボーモンドは、敵にさんざん痛めつけられ、肉体的にも精神的にも窮地に追いやられるほどだから、それほどタフでもなく強くもない人物のようにも見えます。でも、弱さをほとんど感じられないのは、博打で鍛えた持ち前の深い洞察力と、冷静沈着なる精神力とが弱さを打ち消しているからなのかもしれません。そもそも派手な立ち回りもすくなく総じて地味な話だから、弱い面が目立たないということもあるようですが。

本書には、ハードボイルドにありがちな小気味のよいセリフはあまりありません。むしろ含蓄のあるセリフが目立ちます。徹底した客観描写も特徴の1つで、これにより読みにくさを感じますが、それも魅力だと思います。読み手は文章を追いながら行間も楽しむことができます。おそらく二度三度、再読するうちに、さらに深い味わいが得られるのでしょう。
とにかく地味は地味なりの格調をそなえた小説でした。本書を二十歳ごろに読んでいても、たぶん良さはわからなかっただろうなと思います。

かつて観た、ボガードの「マルタの鷹」(評判の名作ですが私にはイマイチでした)や、少し前に読んだ「デイン家の呪い」とは打って変わっての好印象。もうハメットはやめておこうと思っていましたが、今回は読んでほんとうに良かったです。やはり代表作、人気作には当たるべきだということを痛感しました。
長編が5作しかなく残念ですが、でもその程度なら全作読めそうです。

No.3 6点 mini
(2011/02/25 09:50登録)
本日発売の早川ミステリマガジン4月号の特集は”高橋葉介の夢幻世界/ジョー・ゴアズ追悼”
漫画は全く読まない人間なので”高橋葉介”って誰?って感じだけど、どうやら乱歩の短篇集なんかに挿絵描いてたりもしてるようだ
さて気になるのはゴアズ追悼特集、急遽間に合わせで4月号に追加したみたいだが、じっくり準備して5月号のメイン特集でも良かったんじゃないの?

ジョー・ゴアズと言えば自身探偵社勤務経験が有りハメット研究家でもあるのは有名で、そのものズバリ「ハメット」という作品もある
「ハメット」は題名通り当時作家として売り出し中のハメットを主人公にしたハードボイルド小説だ
丁度「マルタの鷹」の執筆が佳境に入っていた時期の設定で、ラストでは「ガラスの鍵」の構想が湧き上がった場面で締め括られている(別に話の本筋とは関係無いのでネタバレでは有りません)
「ガラスの鍵」は「赤い収穫」とも「マルタ」とも異なる雰囲気を持っていて、主人公の職業は私立探偵ではない
しかしある意味最もハードボイルドらしいとも言えるだろう
プロの職業探偵を描く「赤い収穫」はハメットでしか書けない作品でハードボイルドと言うより一歩間違うと単なるギャング小説だし、「マルタの鷹」は普遍的な私立探偵小説の原型を創ったに過ぎないと言う面もある
「ガラスの鍵」はハードボイルドの精神というテーマに貫かれプロットの纏りも良く、これをハメットの最高傑作と見なす書評者も多いのも肯ける

No.2 8点
(2010/04/30 11:41登録)
高校の頃のことですが、最初に読んだハードボイルド小説が本作でした。その時も傑作だとは思ったのですが、それでもなぜだか、当時はあまり他のハードボイルドを読む気にはなりませんでした。このジャンルにも手を出すようになったのは、その数年後たまたまロス・マクに接してからになります。
ハメットが自作の中で最も気に入っているのがこれだそうです。その理由は知りませんが、私が読んだ4長編中、完成度は最も高いと思います(『影なき男』は未読)。また、主役の賭博師ネド・ボーモンは、コンチネンタル・オプやサム・スペードよりも孤高の正義派という印象を受けました。その点では、後のマーロウ等につながっていく人物造形ではないでしょうか。
ところで、本作ではなぜ被害者の帽子がなかったのかという疑問が、はっきり謎として提示されます。ひょっとして少しはクイーンを意識したのかもしれません。

No.1 7点 Tetchy
(2009/04/08 22:48登録)
前半、軽妙なリズムで話が流れて、主人公ネド・ボーモンの曲者振りがいかんなく発揮され、かなりの手ごたえを感じた。
特にネドが敵役のシャドの手下達にリンチを受けるシーンは徹底した第三者視点の描写ながら、その執拗な攻撃に身震いを起こしてしまった。
だが後半になると、人物間のドロドロした話となり、いささか辟易してしまった。

名作の名高い本書だが、ちょっとオイラには重かったかな。

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