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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2941件

プロフィール| 書評

No.981 5点 TVレポーター殺人事件
モリー・マキタリック
(2016/01/17 10:08登録)
(ネタバレなしです) 英国生まれの米国女性作家のモリー・マキタリック(1951年生まれ)の1990年発表のミステリーデビュー作です。何と国内の某ミステリー賞を受賞しているのですが本国よりも日本での出版が先なのでしょうか?タイトルから軽いタイプのミステリーかと思いましたが重厚とは言わないまでも地味で丁寧な本格派推理小説なので急がずじっくり読むことを勧めます。強引な取材方法が同僚からも苦々しく思われているニュースレポーターが殺される事件を扱い、最後は探偵役が容疑者を一堂に集めて真相を説明するという古典的な締め括りを迎えます。ただそこに至るまでの謎の盛り上げ方は演出不足で、これといった弱点はないけど全般的に物足りなさを感じます。前述のミステリー賞の選評を読むと人間関係や風俗の描写は誉めていますが謎解きについてはほとんど触れられていませんし(笑)。


No.980 6点 年寄り工場の秘密
コリン・ホルト・ソーヤー
(2016/01/17 09:44登録)
(ネタバレなしです) 1996年発表の<海の上のカムデン>シリーズ第7作で、<黄金の日々>という<海の上のカムデン>のライヴァル老人ホームが登場するためかこれまでの全作品の中でも老人ホーム描写に力が入っています。老人ホームの魅力合戦(?)は前半までで、後半はちゃんと謎解きメインのプロットになります。シリーズを読み慣れている読者には謎解き伏線があまりにも見え見えで犯人を当て易いかもしれませんが、犯罪だけでなく様々な問題もきれいに解決して平和な日常に戻すところはコージー派の本格派推理小説ならではです。


No.979 5点 魚たちと眠れ
結城昌治
(2016/01/17 09:23登録)
(ネタバレなしです) ハードボイルド、スパイ小説、ユーモア・ミステリー、更には非ミステリー作品まで幅広く活躍した結城昌治(1927-1996)の、「ひげのある男たち」(1959年)と並ぶ本格派推理小説ジャンルの代表作とされるのが1972年発表の本書です。豪華客船を舞台にして登場人物がかなり多いですが、簡潔で切れ味ある文章のおかけで退屈はしません。もっとも人物の個性確立というところまでは至らず、動機の説明が後出しに感じられてしまうところは少々問題です。また謎解き議論はそこそこ活発なのですが根拠の不十分な水掛け論に終始している印象が強く、一本調子気味なのも惜しいです。せっかくの豪華客船という舞台なのですから旅情演出とか風景描写も欲しかったですね。


No.978 5点 見なれぬ顔
日影丈吉
(2016/01/17 02:09登録)
(ネタバレなしです) 日影丈吉(1908-1991)は幻想的な文体の作家として名高く、長編短編どちらにも良作があります。1949年に短編作家としてデビューした彼の長編第1作が1957年発表の本書です(「見知らぬ顔」というタイトルで出版されたこともあるようです)。本格派推理小説に分類できる作品でところどころで推理もしてはいますが、敗戦後の世相がまだ混濁していた時代に職を探して上京した主人公の加東の紆余曲折の世渡り描写がプロットの主眼になっています。これはこれでなかなか読ませる面白さがありますが、その分謎解きとしては少々物足りなくなってしまったことは否定できません。


No.977 4点 天使の殺人
辻真先
(2016/01/16 23:53登録)
(ネタバレなしです) 1983年発表の本書は死者は誰か、犯人は誰か、探偵は誰かという謎を一つの作品の中で成立させた独創的な本格派推理小説です。天使と天使長を作中に登場させたことは評価が分かれそうです(もっともこれがあっての「天使の殺人」なのですが)。単なる観察者的な役割を与えているだけならまだしも、本書のように事件に介入させてしまうと一般的に推理できる範囲を超越した結末がいくらだって用意できてしまうのですから。まあそれは作者自身が百も承知、作中で「名探偵に必要なのは推理でなく、犯人を創造するこじつけの能力」とぬけぬけと言わせています。ミステリーでありながらどこかミステリーを揶揄しているようなところがあります。なお創元推理文庫版には小説版と戯曲版が収められており、基本プロットは共通していますがまるで異なる結末になっています。


No.976 5点 鳩のなかの猫
アガサ・クリスティー
(2016/01/16 23:27登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第28作です。本格派推理小説としての出来栄えですが、空さんがご講評で「ずうずうしい」とコメントされているのに私も賛同で、あの真相は読者に対してアンフェアな謎解きだと思います。国内本格派の作家でも似たようなことをやっているのを何度か読みましたが何度読んでも失望させられます。それでも誘拐事件の大胆なトリックは(過去の短編に似たようなアイデアがありますが)なかなか印象的だし、冷酷な犯罪物語に冒険スリラー色を加えて独特の味わいを出しています。


No.975 6点 うしろ向きの騾馬
E・S・ガードナー
(2016/01/16 23:15登録)
(ネタバレなしです) 「奥の手の殺人」(1939年)以来久しぶりとなる1946年発表のテリイ・クレインシリーズ第2作です(といってもこのシリーズはこれで終了のようです)。ペリイ・メイスンシリーズと違って警察(特にマロイ警部)の手ごわさがよく描かれています。シンシアの態度が協力的とは言い難い(敵対的でもない微妙な関係です)状況下でのクレインの辛抱強い捜査が本書の読みどころです。派手な手掛かりはありませんが推理説明がしっかりした本格派推理小説として楽しめました。ロマンス描写もありますが米国作家の作品とは思えないほど慎重な態度に終始した展開に最後はある人物が爆発してますね(笑)。


No.974 5点 死は甘くほろ苦く・・・・・・
山崎純
(2016/01/16 22:54登録)
(ネタバレなしです) 翻訳家である北代美和子(きただいみわこ)(1953年生まれ)が山崎純名義で1988年に発表したミステリーデビュー作です。ユーモア本格派推理小説ですが癖のあるユーモアは好き嫌いが分かれそうです。登場人物のエキセントリックぶりが強調されているのはまだしも、主人公の内心の毒舌は作中の表現を借りれば「お下劣」に近いです。物語のテンポに切れがあり、気の利いた謎解き伏線など優れた要素もあるのですが主人公があまりに共感しづらいキャラクターなのが(弱点として)1番目立ってしまったように思います。


No.973 5点 確率2/2の死
島田荘司
(2016/01/16 22:31登録)
(ネタバレなしです) 1985年発表の吉敷竹史シリーズ第5作です。携帯電話が普及している現在では公衆電話を利用した誘拐劇(ネタバレではありません)がいささか時代の古さを感じさせますがサスペンスはよく効いています。しかし謎解きは好都合な展開(吉敷曰く、計算外)で解決されてしまいます。幽霊自動車の正体もインパクトが弱く、本格派推理小説としてはいまひとつ楽しめませんでした。


No.972 5点 葡萄園の骨
アーロン・エルキンズ
(2016/01/16 22:18登録)
(ネタバレなしです) 2012年発表のギデオン・オリヴァーシリーズの第17作の本格派推理小説です。前半からギデオンの「スケルトン探偵」ぶりがよく発揮されていますが死因の説明が少々持って回ったようなところがあります。なぜそのような殺人方法になったかの謎解きで終盤まで引っ張っていますが、その謎解きと犯人当ての謎解きが別々に解決されたような印象を受けました。ギデオンが犯人当てにあまり貢献していないからでしょう。本書の舞台はイタリアで数々のイタリア料理描写が物語を彩りますが大半がイタリア語での料理名での紹介のため、ピザやスパゲティ程度の語学知識しかない私には残念ながらぴんと来ませんでした。


No.971 4点 湿地に横たわった死体
キャサリン・ホール・ペイジ
(2016/01/16 21:59登録)
(ネタバレなしです) 1997年発表のフェイス・フェアチャイルドシリーズ第7作のコージー派ミステリーです。土地の開発を巡っての賛成派と反対派の対立という、およそコージー派らしからぬテーマを扱っていますが内容はわかりやすく、後半は愛国記念イベントで盛り上げています。やはりというか犯人が誰かフェイスにはちっとも見当がついていなくても犯人の方から勝手に名乗りを上げてくるという好都合な展開でした。ジョイス・ポーターのドーヴァー主任警部シリーズなら同じような展開でも謎解き伏線をちゃんと回収して本格派推理小説を読んだという満足感を得られるのですが、このシリーズではそれを期待してはいけないのでしょうね。


No.970 6点 盗まれた意匠
メアリイ・ケリイ
(2016/01/16 02:52登録)
(ネタバレなしです) 英国のメアリイ・ケリイ(1927-2017)は1950年代から1970年代前半にかけて活躍した女性作家で、1961年発表の本書は同年のCWA(英国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得した本格派推理小説です。企業秘密の漏洩というドライで利益がらみの犯罪を扱っていますが、主人公の私立探偵ニコルソンの捜査で浮かび上がってくるのは複雑な人間関係です。整理が出来ていない序盤は少々読みくいですが、各人の個性が確立すると地味な展開ながらも心理描写の妙で読ませます。主人公に単なる探偵役以上の役割を与えているのもポイント高いです。犯人を特定する謎解き伏線は十分でないように思いますが、ちょっとした手掛かりを巡る推理がどんでん返しを巧く演出しています。


No.969 5点 八方破れの家
ジル・チャーチル
(2016/01/16 02:39登録)
(ネタバレなしです) 2002年発表のジェーン・ジェフリイシリーズ第13作のコージー派本格派推理小説です。作者が得意とする歴史知識に加えて本書では建築に関する専門用語、さらには数字までが飛び交いますがそれらがストーリーの障害になることもなく読み易さ抜群なのは名人級の語り口だと思います。ジェーンの友人シェリイが指摘するように、「少なすぎる情報で結論を出そうとしている」ジェーンの迷走推理でなかなか解決が見えてきませんが、その一方でジェーンが思い出せない伏線の存在がほのめかされて謎解きの興味をつないでいます。とはいえ唐突な解決後に明かされたその伏線は、きっかけとしても決め手としても弱いので肩透かし感が残りました。


No.968 4点 夜の黒豹
横溝正史
(2016/01/16 02:23登録)
(ネタバレなしです) 1964年発表の金田一耕助シリーズ第26作で、短編「青蜥蜴」(1963年)(私は未読です)を長編化したものです。この年に横溝は本書と短編「蝙蝠男」を発表した後、引退状態となり執筆中の「仮面舞踏会」も中絶してしまいます。1970年代に復帰して「仮面舞踏会」も完成できたのですが、もしかしたら本書が最後の長編になった可能性もあったわけです。この時期の横溝作品らしく、登場人物の紹介が報告や証言によるところが多くて直接描写が少ないため人物の印象が薄く、それでいて人間関係が非情に複雑です。登場人物リストを作りながら読んだ方がいいと思います。中盤で金田一耕助による27の疑問リストが登場して謎解き好き読者の心をくすぐりますが、終盤はなぜか犯人視点の犯罪小説風になり、せっかくの疑問リストに対して十分な説明がされないのが残念です。


No.967 5点 湖上の不死鳥
野口赫宙
(2016/01/16 02:08登録)
(ネタバレなしです) 野口赫宙(のぐちかくちゅう)(1905-1997)は朝鮮出身の文学作家で1932年に張赫宙(ちょうかくちゅう)というペンネームでデビューし、日本人女性と結婚して1952年に日本に帰化して野口赫宙というペンネームに変更しました。ミステリーを書いたのは「黒い真昼」(1959年)が第1作で著者によれば評価は高かったが読者受けは悪かったそうです。ミステリー第2作である本書は1962年の作品。東都ミステリー版の巻末解説では「読者の側にまわった時は社会派ミステリーを好む。書くほうの側に立っても私にはそのほうがむいているような気がする」と当時人気の社会派を書く気満々(笑)。でもその一方で「ミステリーといっても探偵小説といわれていた頃の伝統からはずれては存在しえないと思う」と本格派推理小説のこともちょっとは意識しているようです。腐敗した町政描写はいかにも社会派ならではで、プロットは地味ですが複数の容疑者と小林刑事の視点から多角的に描く手法でサスペンスを与えています。推理は論理よりも感覚に頼ったところがあるものの、ある証拠のミスディレクションがなかなかのアイデアで、どんでん返しの謎解きが堪能できます(ここは本格派風です)。ただ犯人逮捕後の最後のどんでん返しがちょっと蛇足のような気もしますが。


No.966 4点 深夜の密使
ジョン・ディクスン・カー
(2016/01/15 18:23登録)
(ネタバレなしです) 1934年にロジャー・フェアベーン名義で発表した「Devil Kinsmere」を改訂して1964年にカー名義で出版された歴史冒険小説です(英語原題は「Most secret」)。原典版の方は私は未読ですがもともと別名義での作品からの改訂だからでしょう、一般的にイメージされるカーの作品とは異質の作品です。創元推理文庫版の巻末解説では「謎解きの興味は疎かにしていない」と弁護していますが個人的には本書はミステリーに分類するのは無理筋かと思います。ある「秘密」について物語の中で伏線が張られてたことが説明されていますが、読者に対して解くべき謎として提示されていたわけではありません。殺人事件もありますが推理の余地もなく場当たり的に犯人がわかります。ミステリーを期待するとがっかりするかと思いますが、もともとが初めて書いた歴史物だからでしょうか時代風俗の描写に並々ならぬ力が入っており、原典版を書いた当時の若き作者の熱意のようなものがこの改訂版でも伝わってきます。


No.965 5点 幻想殺人事件
守友恒
(2016/01/14 09:39登録)
(ネタバレなしです) 国内ミステリーの歴史をよく知らないのですが、1930年代後半が最初の黄金時代だったと何かの文献で見た記憶があります。その黄金時代は第二次世界大戦勃発で早々と終息してしまったらしいのですが守友恒(もりともひさし)(1903-1984)はそんな時代の1939年にデビューして、ヴァン・ダインの影響を感じさせる黄木陽平(おぎようへい)シリーズの本格派推理小説の短編を次々に発表しました。1941年以降はミステリーを断筆して時代小説や冒険小説を書いていますが戦後に再びミステリーに手を染めています。本書は1946年発表の唯一のシリーズ長編です。序盤に事件の回想シーンがあり、犯人と明記はしていませんが何らかの形で犯罪と密接に関わっていたと思われる人物名が紹介されているのがユニークです。プロットがどこかとらえどころがなく、単純な事件のようで不自然な点が多く、エキセントリックな容疑者たちの奇妙な言動に振り回されて捜査は終始後手に回っています。複雑な真相は黄木によって説明されるのですがあまり論理的な推理ではありません。論創社版の「守友恒探偵小説選」は本書とシリーズ全短編(9作)が収められていて資料としては貴重ですがこれはという魅力に乏しく、マニア読者向けかと思います。


No.964 8点 加田伶太郎全集
福永武彦
(2016/01/14 08:53登録)
(ネタバレなしです) もともとは純文学作家の松本清張の成功例に刺激されたのか、純文学作家がミステリーに手を染めるケースが1950年代後半以降に増えたように思います。そういう人たちが書いたから社会派推理小説だったのか、社会派推理小説の人気絶頂期だったから社会派推理小説を書いたのかはわかりませんが福永武彦(1918-1979)はその中では異色の存在で、1956年から1962年にかけて8作の短編を発表しましたが全て伊丹英典を探偵役にした本格派推理小説でした。理由は単純に本格派が好きだからというもので、本格派好きの自分としては思わず「やった~」と喝采したくなります。作者は「余技で書いた」と主張していますが、魅力的な謎と充実の推理だけでなく、「完全犯罪」の推理合戦、「温室事件」の犯人との心理かけひき、「眠りの誘惑」のスリラー演出、「湖畔事件」のユーモラスな展開とちょっと不気味な締め括りと創意工夫に溢れた逸品ぞろいです。これだけしか書かなかったのが本当に残念です。ちなみに加田伶太郎とは作中人物ではなく、本書を発表した時のペンネームです(タレダロウカのアナグラム)。


No.963 6点 犯罪の場
飛鳥高
(2016/01/13 20:19登録)
(ネタバレなしです) 100歳の誕生日まであと約1週間で大往生した飛鳥高(あすかたかし)(1921-2021)は建築技師が本業でミステリー作品は多くありませんがかなりの実力者だと思います。大学の実験室で大学院生が怪奇な死に方をした「犯罪の場」、密室状態の住宅試作品の中で死体が発見される「二粒の真珠」、死体の上に人形が重なっていた「犠牲者」など1947年から1958年にかけて発表された短編6作を収めて1959年に出版された第1短編集は本格派推理小説系の作品が多いです(第2短編集の「黒い眠り」(1960年)は逆にサスペンス小説系が多いです)。「犯罪の場」や「二粒の真珠」のトリックは非常に印象的でこの作者がトリックメーカーと評価されたのも納得できますが、それは一面にしか過ぎないと思います。短編ゆえに限界はあるものの動機にも工夫を凝らしており、時には人間ドラマの方で強い印象を残しています。本格派推理小説と社会派推理小説のジャンルミックス的な作品を書いていたのは当時としては先進的な作家だったと思います。


No.962 6点 逆さの骨
ジム・ケリー
(2016/01/13 19:59登録)
(ネタバレなしです) 2005年発表のフィリップ・ドライデンシリーズ第3作の本格派推理小説です。このシリーズならではの過去の事件と現代の事件の謎解きを扱っていますが、あのスタンリー・ハイランドの「国会議事堂の死体」(1958年)を連想させるような思い切ったひねりがあってびっくりしました。もっともハイランドと比べると安直な手段でどんでん返しをしたという感じもしますけど。植物状態だったフィリップの妻ローラが回復の兆しを見せているだけでなく、フィリップの捜査に意外な形で力を貸しているのにも注目です。しかしこれで夫婦生活が幸福な方向に舵取りされたわけではなく、まだまだ紆余曲折がありそうです。

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