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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2865件

プロフィール| 書評

No.905 5点 祟り火の一族
小島正樹
(2015/12/22 08:51登録)
(ネタバレなしです) 2012年発表の海老原浩一シリーズ第5作です(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)はカウントしていません)。半端ない謎が詰め込まれていて「やり過ぎの小島」らしさが十分に発揮されています。雰囲気づくりには手が回りきっていないし、感心できない謎解きもあってそういうところを批判することもありだとは思いますが、双葉文庫版で400ページ少々のボリュームにこれだけ謎がてんこ盛りサービスされた作品を読めた喜びの方が勝りました。


No.904 5点 狂い壁狂い窓
竹本健治
(2015/12/21 17:48登録)
(ネタバレなしです) 1983年発表の長編ミステリー第5作で、「将棋殺人事件」(1981年)、「トランプ殺人事件」(1981年)と共に狂気三部作を構成しています。ホラー小説と本格派推理小説のジャンルミックス型ですがどちらかと言えば後者寄りでしょうか。作中人物が述べているように「じめじめした薄暗さ」が全編を覆っています。前半は怪現象のグロテスク描写が多いですが、やはり作中人物が「この家は狂気を招き寄せる」と述べるとおり、進行していく狂気描写が後半は増えていきます。最後は探偵役が推理で犯人を指摘する本格派推理小説として着地するのですが、巻末の作者コメントにあるように「相当濃い作品に仕上がっている」ので好き嫌いはかなり分かれそうです。


No.903 4点 寝台特急「あさかぜ」殺人事件
草川隆
(2015/12/21 17:25登録)
(ネタバレなしです) 1988年に発表された本書は地味で特徴のないトラベルミステリーに強引に密室の謎を加えたような印象の作品でした。「個室寝台殺人事件」(1986年)と探偵役が共通していますが個性の乏しさは改善されておらず、しかも女性奇術師を捜査に参加させる経緯が不自然です。専門家の意見を求めるにしてももっとそれなりの名声や地位を築きあげている人を探すべきではないでしょうか。これでは公私混同でしょう。また密室の謎解きも手掛かりに基づく推理ではなく、こうすれば密室でなくなるという可能性の一つを示唆しているにしか感じられません。これで解決では本格派推理小説の謎解きとしては物足りないです。


No.902 4点 プーアール茶で謎解きを
オヴィディア・ユウ
(2015/12/20 16:45登録)
(ネタバレなしです) シンガポール女性作家のミステリー作品が日本で翻訳紹介されるとは驚きました。舞台劇の脚本を30作以上書いているそうですがミステリーは2013年発表の本書がデビュー作になります。米国のコージー派的なところもありますがそれほど回り道をせずに謎解きを重点に置いたプロットになっているのは好印象です。とはいえどのような推理で犯人にたどりついたのかが説明不十分なのが残念です。それにしてもアンティ・リーと犯人との最後の対決は、拷問風なところがあってちょっと不気味でしたね。


No.901 2点 パスカルの鼻は長かった
小峰元
(2015/12/17 09:47登録)
(ネタバレなしです) 1975年発表の長編第4作で高校生向けの雑誌に掲載されています。主人公が小峰元ですが別に作者の分身というわけではなく、高校3年生の設定です。エキセントリックな人物個性が読み手の心にしみじみと伝わるかは微妙ですけれど、勢いのある言動は確かに若さを感じます。しかしプロットが謎解きメインでない上に、何度もパスカルの原理が謎解きに役立ちそうなことが示唆されるのですが結局十分な説明もされずに終わってしまい、推理小説としては出来が悪いとしか言えません。青春推理小説でなく青春小説と割り切って読んだ方がいいかも。


No.900 5点 消えた修道士
ピーター・トレメイン
(2015/12/12 22:27登録)
(ネタバレなしです) 1999年発表の修道女フィデルマシリーズ第7長編です。このシリーズは本格派推理小説と冒険スリラーのジャンルミックス型であることが多いのですが本書の場合は後者の要素の方が多いように思います。2人の国王の会見で起こった同時暗殺未遂事件で幕を開け、その黒幕(実行犯はその場で殺されます)探しにフィデルマが乗りだすというプロットです。ストーリーテリングの見事さは相変わらずで、手掛かりを求めての旅先で起きる様々な出来事から最後は暗殺未遂事件の起きたキャシェルに戻り、関係者のほとんどが集まった法廷でのフィデルマによる謎解きまで、創元推理文庫版で上下巻合わせて650ページを越す分量も気にならずすらすらと読めました。この法廷場面がフィデルマのほとんど独壇場となっていて法廷論争としては物足りないのが(相手方がやや小物でした)ちょっと惜しいところです。また第12章で起こった殺人事件(被害者の名前は最後までわかりません)の真相が全体の謎解きの中で蛇足的な扱いだったのも本格派の謎解きを期待していた自分にとってはやはり残念でした。


No.899 6点 花の棺
山村美紗
(2015/12/08 20:22登録)
(ネタバレなしです) 膨大な山村作品の中でも最も有名なキャサリンシリーズ(長編だけで20作、中短編集もかなりの数があります)の1975年発表の第1作の本格派推理小説です。私の読んだ光文社文庫版の巻末解説ではキャンピング・カーの消失トリックの方をべた褒めしてましたが、現在では和風密室トリックの方が高く評価されているようです。シリーズ第1作だからでしょうが、キャサリン(本書では米国副大統領の令嬢という設定)が外国人であるゆえに日本人と違う視点から事件を観察して解決に結びつけるというユニークさがよく考えられています。


No.898 5点 黒い列車の悲劇
阿井渉介
(2015/12/08 14:19登録)
(ネタバレなしです) 1993年発表の列車シリーズ第10作にてシリーズ最終作です。序盤にスケールの大きな謎が2つ提示されます。一つは単線路を走る列車がトンネルに入ったまま出て来ず、反対側からやって来た列車が無事にトンネルをくぐり抜けたという列車消失の謎。もう一つは消えた列車と同じと思われる列車が線路のない霧の海の上を走っているのを目撃されるという謎。しかし捜査で重要視されるのは誘拐された列車の乗客の安否であり、また身代金の運び人として犯人から牛深刑事が指名されたことから牛深と犯人との間にどういう因縁があるのかという謎解きに多くのページが費やされます。牛深を単なる捜査官にしていないところはシリーズ前作の「虹列車の悲劇」(1992年)に通じるところがありますが人間ドラマとしての緊迫感はやや薄れたように思います。それにしてもトリックも含めてこれほど大掛かりにする必要性があったのかは疑問ですね。


No.897 5点 生首殺人事件
尾久木弾歩
(2015/12/06 22:50登録)
(ネタバレなしです) 1951年に雑誌発表された江良利久一シリーズ第2作の本格派推理小説です。密室内で首なし死体が発見される殺人事件(首はどこへ?)が次々に起こるプロットが派手そうですが、アリバイ捜査が延々と続いて実は結構地味です。第9章の終わりで「読者への挑戦状」が挿入されるのでいよいよ解決間近かと思いましたが、まだまだ新しい事件が起きるは捜査陣の混乱はエスカレートするはと物語は何と15章まで続くのです。このプロット構成を冗長と感じるかは意見が分かれそうです。密室トリックが複数用意されているのはいいのですが、平凡を通り越していくらなんでもこれはひどいというレベルのものがあったのは残念。シリーズ前作の「般若面の秘密」(1950年)と比べて残虐描写がそれほど強烈でなかったのは(個人的には)幸いでした。


No.896 4点 りんご酒と嘆きの休暇
アレクサンダー・キャンピオン
(2015/12/06 22:03登録)
(ネタバレなしです) 2011年発表のカプシーヌ・ル・テリエシリーズ第2作です。パリの事件とノルマンディーの事件を扱っていますが、前者については部下のイザベルに事件の担当を任せ、後者については地元の憲兵隊からよそ者扱いされるためカプシーヌが表立って活躍できないのがプロットの特色となっています。一応は犯人を特定した推理を説明してますが、カプシーヌが言うほど論理的には思えず、証拠としてはあまりに薄弱な伏線を直感で補っているように感じます。パリとノルマンディの風景描写もほとんどありません。代わりに目立つのがフランス料理描写で、さすがレストラン評論家の顔を併せ持つ作者ならではです。


No.895 6点 fの魔弾
柄刀一
(2015/12/06 02:23登録)
(ネタバレなしです) 2004年発表の南美希風シリーズ第2作の本格派推理小説です。タイムリミットによるサスペンスを狙っていますが、多くのタイムリミット作品が死刑執行をデッドラインにしているのに対して本書は求刑(判決が下るまで)をデッドラインにしているのが珍しいです(サスペンス効果という点では死刑執行パターンより劣ると思いますが)。某国内作家の作品に似た前例のある密室トリックが使われていますがトリックを成功させるための細かい工夫が印象的でした。美希風がトリックの詳細を一般には知らせない方がいいと発言していたので「火の神の熱い夏」(2004年)のように曖昧な説明で終わってしまうのではと心配しましたが、幸いそれは杞憂に終わりました。


No.894 6点 吸血の家
二階堂黎人
(2015/12/06 02:08登録)
(ネタバレなしです) 1992年発表の本書は出版順では二階堂蘭子シリーズ第2作となりますが執筆順ではデビュー作の「地獄の奇術師」(1992年)より早かった本格派推理小説です(読む順はどちらが先でも大丈夫)。講談社文庫版で500ページを超す大作ですが他のシリーズ作品と比べるとプロットはシンプルで読みやすく、グロテスクな描写も少ないのでシリーズ入門編として好適かと思います。密室事件もありますが何と言っても被害者の周囲の雪の上に被害者と死体発見者以外の足跡のない事件が本書のハイライトで、非常に印象的なトリックが使われています。「地獄の奇術師」と同じく、手掛かり脚注を使った丁寧な謎解きが楽しめます。ただ最終章の「嘘」に関する蘭子の説明は蛇足のような気もします。また蘭子たち捜査陣側の描写が大半を占めるのは読者に探偵役と同条件で推理に参加させている気分を味わえる一方で、容疑者描写は物足りなくそこは一長一短でしょう。⇒(後記)本書で感心した足跡トリックが1950年代の国内ミステリーで既に使われていたのを私が知ったのはずっと後のことですがそれでも本書の評価を変えるつもりはありません。


No.893 7点 枯葉色の街で
仁木悦子
(2015/12/06 01:32登録)
(ネタバレなしです) 1966年発表の本格派推理小説です。謎解きの面白さでは「猫は知っていた」(1957年)や「林の中の家」(1959年)に一歩譲りますが水準レベルには十分に達していますし、何よりもこの作家ならではの人情あふれるプロットが非常に魅力的です。こういうのが本当の万人受け作品だと思います。


No.892 4点 ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密
ポール・アダム
(2015/12/05 23:18登録)
(ネタバレなしです) 2009年発表のジャンニ・カスティリョーネシリーズ第2作の本格派推理小説です。動機の追及が音楽史の謎解きと絡むという歴史本格派推理小説の要素がありますがクラシック音楽関連ということでどれだけ興味を抱く読者がいるかは未知数です。音楽用語は極力使わず、明快な文章で人間ドラマとしての謎解きにするよう努力はしています。犯人当てとしては片方の事件は推理らしい推理もなく解決されてしまうし、もう片方の事件も唐突過ぎる解決で、私の乏しい理解力ではついていけない推理でした。


No.891 5点 一、二、三-死
高木彬光
(2015/12/05 23:08登録)
(ネタバレなしです) 1974年発表の墨野隴人シリーズ第2作の本格派推理小説です。角川文庫版の巻末解説でこのシリーズを「近代推理小説の新しい試練(社会派推理小説の隆盛と本格派推理小説の衰退のことでしょう)をへたうえで本格探偵小説を書いてみたらどうなるか」を実践した作品と自己評価しています。確かに本書は犯人当て本格派推理小説ではあるけれど社会問題やビジネスへの投資に関するやり取りが随所にあったりして社会派の影響も見られます。謎解きのロマンを減じていると感じる読者もいるかもしれませんが、時代が時代だけに派手な演出の本格派は書きにくかったのかもしれません。個性的な容疑者を揃えようとはしているのですがちょっと顔見せしたかと思うとしばらく登場しなかったりしてプロットのリズムが悪く、誰が誰だかわからなくなるのが辛かったです。墨野の推理をもってしても「見当がつかない」動機の異様さは印象的でした。


No.890 5点 不思議なキジのサンドウィッチ
アラン・ブラッドリー
(2015/12/05 22:10登録)
(ネタバレなしです) 2014年発表のフレーヴィア・ド・ルースシリーズ第6作で、作者は当初本書をもってシリーズ最終作にするはずだったのが、人気が高まったのに応えて全10作とする予定に変更しました。前作の「春にはすべての謎が解ける」(2013年)での衝撃的結末の後を引き継ぐ物語となっており最低でも前作、できればこれまでのシリーズ作品を全部読んでフレーヴィアを取り巻く環境になじんでおくことを強く勧めます。初めて読んだシリーズ作品が本書ということになると面白さは大きく後退します。ある人物との思わぬ形での再会、何と(作中時代では)元首相のチャーチルが登場し、さらにはフレーヴィアのとてつもない計画(成功するわけないと思っていてもどうなるのかどきどきします)とページをめくる手が止まらない展開です。殺人もおきますがその謎解きはややもすると脇に置かれ、ド・ルース家がどういう結末を迎えるのかという方が気になって仕方ありません。本格派推理小説でなくスパイスリラー系のミステリーであったことも意外でした。


No.889 6点 延期された殺人
E・S・ガードナー
(2015/12/04 18:24登録)
(ネタバレなしです) E・S・ガードナー(1889-1970)の死後に発見された2作のメイスン作品の1つで1973年発表のシリーズ第82作の本格派推理小説、よくもここまで書き続けたと感心するばかりです。結果的にはシリーズ最終作です。行方不明になった姉メイを危惧する依頼人、実はその依頼人こそがメイ本人ではないかとメイスンが疑うところから始まる本書は、最晩年の作品ゆえか粗いと思わせる部分もありますが意外と緻密で複雑な謎解きプロットで読ませる作品でした。


No.888 5点 その灯を消すな
島田一男
(2015/12/04 12:00登録)
(ネタバレなしです) 1957年発表の南郷弁護士シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「上を見るな」(1955年)でも地方の旧家を中心した事件を扱っていましたが、本書でも山奥の平家村を舞台にして古風な雰囲気を出しています。同時代の横溝正史と比べると人物描写がドライですがそれでも現代社会とはまるで異質のどろどろした世界です。被害者が死んだ時には灯が消えた状態だったという設定は面白そうですが、よく考えると灯が消えていれば必ず事件が起きるわけではありません(寝る時に普通に灯を消しているはず)。意外と人物関係が複雑でアリバイを細かく検証したりしているのでじっくり読むことを勧めます。謎解きはご都合主義的な部分が多くてあまり感心しませんでしたが、物語の結末は重苦しい余韻を残します。


No.887 4点 鬼女の都
菅浩江
(2015/12/03 18:02登録)
(ネタバレなしです) 女性SF作家の菅浩江(すがひろえ)(1963年生まれ)が1996年に初めて発表した京都を舞台にした本格派推理小説です。「誰がどのようにして死者を自殺に追い込んだのか」という風変わりな謎を扱っているのがユニークです。作者は「ミステリの確固たるロジックは、SFの確固たる科学考証と同じ魅力がある」と語っていますが、最後は冷静沈着な探偵役が真相を明らかにしているものの論理性はそれほど強くなく、人物心理を好きなように解釈しているに過ぎないような印象を受けます。京都の魔力のようなものを丁寧に描くことには成功していますが、思い入れが強過ぎて万人受けは難しいかもしれません。


No.886 6点 笛の鳴る闇
日下圭介
(2015/12/03 16:24登録)
(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説で、作者は「贅沢な推理小説愛好家のために密室、暗号、将門伝説と三つの大きな謎を用意した」とアピールしています。確かにその通りではありますが、密室はトリックが小粒だし、平将門伝説は何が謎なのか焦点が定まっておらず犯罪の謎解きとの関連が薄くて浮いてしまったように感じます。暗号の謎解きは力が入っていて様々な解釈が飛び交いますが、犯人の最後のせりふの通り、「どれほど証拠能力があるか疑わしい」レベルです。緻密に書かれていますがどこか木を見て森を見ずの印象が残ります。なお本書は倉原真樹初登場の作品ですが彼女の登場場面は最後の3章のみで、その範囲内では確かに活躍していますが第一の事件の謎解きには全く関わっていません。全体の主役は古賀父子です。またタイトルに使われている笛は暗号文の中に登場するのみで全く鳴らないのがちょっと肩透かしでした。

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