(2016/01/16 02:08登録)
(ネタバレなしです) 野口赫宙(のぐちかくちゅう)(1905-1997)は朝鮮出身の文学作家で1932年に張赫宙(ちょうかくちゅう)というペンネームでデビューし、日本人女性と結婚して1952年に日本に帰化して野口赫宙というペンネームに変更しました。ミステリーを書いたのは「黒い真昼」(1959年)が第1作で著者によれば評価は高かったが読者受けは悪かったそうです。ミステリー第2作である本書は1962年の作品。東都ミステリー版の巻末解説では「読者の側にまわった時は社会派ミステリーを好む。書くほうの側に立っても私にはそのほうがむいているような気がする」と当時人気の社会派を書く気満々(笑)。でもその一方で「ミステリーといっても探偵小説といわれていた頃の伝統からはずれては存在しえないと思う」と本格派推理小説のこともちょっとは意識しているようです。腐敗した町政描写はいかにも社会派ならではで、プロットは地味ですが複数の容疑者と小林刑事の視点から多角的に描く手法でサスペンスを与えています。推理は論理よりも感覚に頼ったところがあるものの、ある証拠のミスディレクションがなかなかのアイデアで、どんでん返しの謎解きが堪能できます(ここは本格派風です)。ただ犯人逮捕後の最後のどんでん返しがちょっと蛇足のような気もしますが。
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