(2016/01/14 09:39登録)
(ネタバレなしです) 国内ミステリーの歴史をよく知らないのですが、1930年代後半が最初の黄金時代だったと何かの文献で見た記憶があります。その黄金時代は第二次世界大戦勃発で早々と終息してしまったらしいのですが守友恒(もりともひさし)(1903-1984)はそんな時代の1939年にデビューして、ヴァン・ダインの影響を感じさせる黄木陽平(おぎようへい)シリーズの本格派推理小説の短編を次々に発表しました。1941年以降はミステリーを断筆して時代小説や冒険小説を書いていますが戦後に再びミステリーに手を染めています。本書は1946年発表の唯一のシリーズ長編です。序盤に事件の回想シーンがあり、犯人と明記はしていませんが何らかの形で犯罪と密接に関わっていたと思われる人物名が紹介されているのがユニークです。プロットがどこかとらえどころがなく、単純な事件のようで不自然な点が多く、エキセントリックな容疑者たちの奇妙な言動に振り回されて捜査は終始後手に回っています。複雑な真相は黄木によって説明されるのですがあまり論理的な推理ではありません。論創社版の「守友恒探偵小説選」は本書とシリーズ全短編(9作)が収められていて資料としては貴重ですがこれはという魅力に乏しく、マニア読者向けかと思います。
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