nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2865件 |
No.1125 | 5点 | 美人コンテストの女王 E・S・ガードナー |
(2016/03/29 19:43登録) (ネタバレなしです) 1967年発表のペリー・メイスンシリーズ第78作です。殺人事件はすぐには発生しませんが、まったく退屈させない展開はさすがにガードナーです。解決が警察初動捜査の手落ちに頼っているのと推理が相当強引なのが少々気にはなりますが。ちなみに美人コンテストの優勝者が確かに登場するのですが、それは20年前に終わっていた話でした。コンテストの結果がどうなるかをはらはらしながら読む物語かと勝手に私は期待していました。 |
No.1124 | 5点 | 修道院の第二の殺人 アランナ・ナイト |
(2016/03/29 19:25登録) (ネタバレなしです) 英国の女性作家アランナ・ナイト(1923年生まれ)は歴史小説やノンフィクション、ロマンチック・スリラーなど様々なジャンルの作品を書いていますが、1988年発表の本書を第1作とするジェレミー・ファロシリーズには特に力を入れているように思います。ヴィクトリア朝の英国を舞台にした本格派推理小説ですが延々と手掛かり捜査しているプロットがやや単調に感じられますし、いくつかの謎解き伏線はあるものの犯人が指摘されてから初めて動機がわかるという結末にも不満を覚えます。淡々とした筋運びですが締め括りは結構劇的です。 |
No.1123 | 5点 | 密林の骨 アーロン・エルキンズ |
(2016/03/27 15:11登録) (ネタバレなしです) 2007年発表のギデオン・オリヴァー教授シリーズ第14作の本格派推理小説で、南米アマゾンが舞台です。登場人物の間で多少の揉め事はありますが緊張感が高まるほどでもなく、なかなか事件が起きない展開はやや冗長さを感じます。それでもすらすら読ませる筆力はさすがですが。船上の場面が多いのが本書の特徴ですが、そのためかシリーズの特色である骨の分析シーンは無理やり織り込まれたという印象を受けました。 |
No.1122 | 5点 | ブラックスワン 山田正紀 |
(2016/03/27 15:08登録) (ネタバレなしです) 山田正紀のミステリーはどこかもやもやした幻想性のようなものを感じさせる作品が多いのですが、1988年発表の本書もそういう印象を受けます。閑静な住宅街の中にあるテニス・クラブで女性が火だるまになって死ぬという衝撃的な事件で幕を開けますが焼死事件の方は意外と扱いが小さく、18年前に起きた失踪やブラックスワン(本物の鳥です)の死の謎の方に多くのページを割いているプロットです。事件関係者たちの手記が謎解きにからむのはアガサ・クリスティーの「五匹の子豚」(1943年)を連想させます。もっとも明確な探偵役がいないところはクリスティーと異なっており、丁寧に説明していながらもどこか動機にしっくりこないような感じが残りました。なおハルキ文庫版の巻末解説は小説より先に読まない方が吉だと思います。 |
No.1121 | 6点 | 奇妙な果実殺人事件 藤田宜永 |
(2016/03/27 14:44登録) (ネタバレなしです) 作風が変わるのは珍しくありませんけど藤田宜永(ふじたよしなが)(1950-2020)のように1986年に作家デビューしてハードボイルド小説と冒険小説で名を売り、1990年代後半になってロマンス小説に走ったというのは相当珍しい例ではないでしょうか。その彼の唯一の本格派推理小説が1989年発表の本書です。密室で天井から吊り上げられた死体の頭に巨大な果実がかぶさられていたという奇妙な演出もさることながら、列車の時刻表ならぬ航空機のフライトスケジュール(しかも国際線)のアリバイ調査というのはちょっと記憶にありません。色々と詰め込み過ぎ気味で容疑者も無駄に多い感じがありますが、読みにくいというほどではありません。 |
No.1120 | 6点 | 卒業−雪月花殺人ゲーム 東野圭吾 |
(2016/03/27 14:38登録) (ネタバレなしです) 1986年発表の加賀恭一郎シリーズ第1作の本格派推理小説です。後に警察官となって活躍する加賀ですが本書では大学生の設定です。青春ミステりーと宣伝されていますが会話がどこか醒めているというか他人行儀な感じがして、学生仲間同士という雰囲気ではないような気もします。とはいえリアリティーにこだわらなければ単なる謎解き小説に留まらない面白さがあります(明るく楽しいという意味ではありませんけど)。シリアスで独特の重苦しさがあるストーリーだけに、密室トリックが拍子抜けトリックだったのが何とも不思議な読後感を残しました(青春ミステリーではありませんが三好徹の「光と影」(1960年)を読んだ時の読後感に近かったです)。 |
No.1119 | 4点 | 将棋殺人事件 竹本健治 |
(2016/03/27 14:13登録) (ネタバレなしです) 奇書として国内ミステリー史に名を残した「匣の中の失楽」(1978年)、比較的まともな本格派推理小説の「囲碁殺人事件」(1980年)を発表した作者が次にどんなミステリーを書くのか気になった読者も多かったでしょうがどうやら前衛路線を選んだようです。1981年出版の本書は、牧場智久シリーズ第2作(但し謎解き主役は前作同様須藤です)、ゲーム・ミステリ三部作の第2作、そして狂気三部作の第1作と色々な呼称が付いているようです(笑)。角川文庫版の巻末解説でも「読者を混乱の迷路に陥れようとしている」と紹介されていますが、意図的に話の筋道をねじ曲げたかのようなストーリー展開は難解極まりなく、一応最後は須藤が謎解き説明をしていますがそもそも解くべき謎が何だったのかさえ私にとってはよくわからないままに読んだので、すっきり感は得られませんでした。300ページに満たない分量だったのと、難解さのおかげで特に恐怖も感じなかったのがせめてもの救いでしたが(笑)。 |
No.1118 | 5点 | 翼をください 田南透 |
(2016/03/26 23:12登録) (ネタバレないです) 2012年発表のデビュー作である本格派推理小説ですがミステリ・フロンティア版の「嵐の孤島の殺人を中心に据えた、直球の<犯人当て小説>」という宣伝文句とはかなり異なる印象を受けました。第一部は事件発生するまでの登場人物たちの人間関係を描いていますが一部の人間しか脚光を浴びておらず、第二部で事件が起きてからようやく人物整理されます。登場人物のそれぞれの秘密が少しずつ暴かれ、ついには狂気じみた犯人も明らかになるのですが、犯人以上に狂気がエスカレートする人物たちのとんでもない行動ととんでもない結末の方がはるかに印象に残る作品でした。狂喜乱舞ならぬ狂気乱舞ですな、これは。 |
No.1117 | 6点 | カクテルパーティー エリザベス・フェラーズ |
(2016/03/26 09:10登録) (ネタバレなしです) 1955年発表の本格派推理小説ですが、警察も含めて第三者による捜査や推理はほとんど描かれません。事件関係者同士のやり取りの中に推理場面があるのですが思いつき程度のため、謎解きの進展を感じないまま物語が進行するところは「私が見たと蠅は言う」(1945年)といい勝負です。料理の中から味のない毒(砒素)が発見される一方でその料理には誰の仕業か強烈な味付けがされていて常人ならほとんど食べられないという仕掛けがあり、ほんの少し食べさせて気分を悪くする程度に留めようとしたのではないかという説も出て殺人か事故死かさえもなかなかはっきりしません。盛り上がらないまま最終章に至りますがこの最終章の重苦しさはインパクト大です。ここでは推理による真相説明もありますが、謎解きのすっきり感よりもあまりと言えばあまりの結末に愕然としました。 |
No.1116 | 6点 | ひげのある男たち 結城昌治 |
(2016/03/22 00:25登録) (ネタバレなしです) 私は国内ミステリーをそれほど読まず、さらにハードボイルドは苦手ジャンルなので国内ハードボイルド小説の先駆者と評価されている結城昌治(ゆうきしょうじ)(1927-1996)についてはほとんど知らなかったのですが文献によれば国内ユーモアミステリ分野においても先駆者的な存在のようです。1959年発表のデビュー作にして郷原部長シリーズ第1作の本書はユーモア警察小説で本格派推理小説でもあります。郷原部長(どちらかといえば迷探偵の役柄)の空回りする捜査ぶりが描かれているところはユーモアを感じますが、容疑者たちの多くが裏社会系の人間ということもあって乱暴で低俗な口調の会話が多い方が気になりました。本格派推理小説としてしっかりした内容で、犯人の条件に関する推理がちょっと大胆過ぎな気もしますが謎解き伏線をさりげなく潜ませるテクニックが光ります。 |
No.1115 | 5点 | ひとり、そしてそれだけ 佐野洋 |
(2016/03/22 00:17登録) (ネタバレなしです) 1986年発表の本格派推理小説で構成に凝った作品です。場面が次から次へと変わり、その度に登場人物も入れ替わります。ストーリーテンポの良い作家ならこの手法はサスペンスを織り上げるのに効果的だったかもしれません。しかし地味な作風の佐野の場合は成功したとは言えないように思います。曖昧な物語を細かく刻んだために更にわかりにくくしてしまったような印象を受けました。推理の切れ味もありません。複雑な背景を持つ真相なので何度か読めば味わいの出てくる作品かもしれませんが。 |
No.1114 | 5点 | ナンシーの謎の手紙 キャロリン・キーン |
(2016/03/21 08:38登録) (ネタバレなしです) ナンシーが自宅へ郵便を届けてくれた郵便配達夫のアイラ・ニクソンのために暖かいココアを用意したが、ココアを飲み干したアイラが仕事に戻ろうとすると玄関先に置いてあったはずの配達カバンがなくなっていたという事件で始まる、1932年発表のナンシー・ドルーシリーズ第8作です。それまでのシリーズ作品中最もサスペンスに富んだ展開が楽しめます。(必ずしも全てが犯罪がらみではありませんけど)次から次へと何かが起こり、ページをめくる手が止まりません。しかし風呂敷を広げすぎたのか整理不十分のままで強引に締めくくっています。第19章の謎の女性はどうなったんだ? |
No.1113 | 6点 | 通信教育探偵ファイロ・ガッブ エリス・パーカー・バトラー |
(2016/03/21 07:30登録) (ネタバレなしです) 米国のエリス・パーカー・バトラー(1869-1937)は銀行家としても成功する一方で20世紀前半を代表するユーモア作家としても名を残し、その作品数は1700を超すそうです。全部で44の短編が書かれたファイロ・ガッブシリーズは1909年から書かれていますが最初の3作品は探偵物語でないユーモア小説で、第4短編の「ゆでたまご」(1913年)から通信教育探偵として活躍(というか迷走)します。壁紙張り職人であり、「日の出探偵事務所」の探偵養成通信教育講座の受講生でもあるファイロ・ガッブがついに私立探偵としてデビューするが、失敗の連続にもかかわらずなぜか事態が丸く収まっていくというのが基本パターンで、気軽に読める作品です。本書は17編のシリーズ作品を収めた1917年出版の短編集ですが、ちゃんと自力で解決した作品もあれば悲劇としか思えないような衝撃的な結末の作品があったりと決して基本パターンばかりではありませんでした。 |
No.1112 | 6点 | ミツバチたちのとんだ災難 ハンナ・リード |
(2016/03/21 07:17登録) (ネタバレなしです) 米国のハンナ・リード(1953年生まれ)はデブ・ベーカーという名義でも作品を書いているコージー派ミステリー作家です(ベーカー名義の方が作品が多いようです)。本国ではクイーンビー(女王蜂)ミステリーと呼ばれているシリーズ第1作が2010年発表の本書です。別に虫の世界で蜂たちが人間のように活躍するわけではなく、普通に人間が主人公の物語です。冒頭の離婚祝いパーティーには驚きました。いくらアメリカ人がお祭好きだからってこんなネタでもパーティーするんでしょうか?それはともかく謎解きはコージー派にしては意外としっかりしており、主人公のストーリー・フィッシャーが色々な意味で不器用でかなりの回り道をしながらも最後は推理で真相に到達しています。謎解き伏線も十分とは言い切れませんが一応は用意されています。嫌な人間はとことん嫌な人間として描いているので雰囲気がとげとげしくなる場面があるのがコージー派好き読者に受け容れられるかどうか微妙かもしれませんが。 |
No.1111 | 4点 | 蠟人形館の殺人 ジョン・ディクスン・カー |
(2016/03/21 06:58登録) (ネタバレなしです) オーギュスタン蝋人形館で目撃されたのを最後としてセーヌ河に死体となって浮かび上がったオデット・デュセーヌの殺人事件の調査中のバンコランがそこの地下室で新たな死体を発見する、1932年発表のバンコランシリーズ第4作の本格派推理小説です。序盤は蝋人形館の不気味な雰囲気、後半は秘密クラブにおける冒険スリラー風展開と傑出した描写力を見せつけています。他のシリーズ作品と比べるとバンコランがやや精彩を欠いていて捜査に手こずっている印象を受けますが、それでも気の利いた手掛かりによる推理はなかなか見事です。ただ第一の事件の真相が(ネタバレ防止のためはっきりと理由は書きませんが)大いに不満を覚える内容だったのは残念ですが。 |
No.1110 | 5点 | 溺れるアヒル E・S・ガードナー |
(2016/03/21 06:46登録) (ネタバレなしです) 1942年発表のペリイ・メイスンシリーズ第20作です。タイトル通り「溺れるアヒル」が大事な手掛かりではありますが、それよりも複雑な人間関係が生み出す複雑な犯罪をどうメイスンが解きほぐすかで読ませている作品です。真相は丁寧に説明されていますが、第二の事件の方は心理描写の少ないこのプロットでは説得力が十分とは言えないような気もします。 |
No.1109 | 4点 | 殺意の演奏 大谷羊太郎 |
(2016/03/21 06:40登録) (ネタバレなしです) プロのギタリストや芸能マネージャーであった大谷羊太郎(1931-2022)はミステリー作家として成功するために江戸川乱歩賞を獲得することに執念を見せており、1970年発表の本書でついに受賞に成功しました。そのため初期代表作として紹介されることが多いのですが、これは同時にかなりの異色作でもあるようです。密室や暗号など本格派推理小説らしさも十分にあるのですが、この解決はかなりの奇想系で前衛的、マニア読者やミステリー研究家向きの作品ではないでしょうか。賞狙いのためか結末以外はそれほどのひねりもなくて読みやすいですが入門編としては他の作品の方がいいように思います。ウエスタンバンドとかロカビリーとか、現代ではあまり使われなくなった音楽用語が散りばめられているのが時代を感じさせます。 |
No.1108 | 5点 | 千曲川旅情殺人事件 藤原宰太郎 |
(2016/03/21 00:00登録) (ネタバレなしです) 1991年発表の久我京介シリーズ第4作の本格派推理小説です。タイトルから島崎藤村の「千曲川旅情の歌」という詩と関連があるような印象を与えますが別に文学的でもないし旅情も感じません。純然たるパズルストーリです。光文社文庫版では「密室、ダイイングメッセージ、アリバイの推理小説の三種の神器を駆使した巧妙なトリックの数々」となかなか凄い宣伝文句で紹介していますが、地味で小粒なトリックばかりでそれほど印象に残るものではありませんでした。謎の演出が地味だったのは結果的にはよかったかもしれません。この作者らしくミステリー作品のネタバレがありますが、ほとんどが短編作品の紹介なのでネタバレを嫌う読者の精神的被害はそれほど大きくはないと思います(笑)。長編作品でネタバレされたのは横溝正史の「本陣殺人事件」(1946年)の密室トリックぐらいでした。 |
No.1107 | 6点 | 三幕の殺意 中町信 |
(2016/03/20 23:23登録) (ネタバレなしです) 「錯誤のブレーキ」(2000年)以来、久しぶりの2008年に発表された本書が中町信(1935-2009)の最終作となりました。純粋な新作ではなく中編「湖畔に死す」(1968年)(私は未読です)をリメイクしたものだそうですが、それでもファン読者にとっては何よりのプレゼントだったのではないでしょうか。「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説で、いかにも怪しげな容疑者たちのアリバイ調べが中心の地味な展開です。若い時代の作品が原書だからでしょうか、作品全体に強い緊迫感が漂っており、地味でも退屈には感じませんでした。 |
No.1106 | 5点 | アルカード城の殺人 ドナルド・E・ウェストレイク |
(2016/03/20 07:00登録) (ネタバレなしです) アメリカのドナルド・E・ウエストレイク(1933-2008)は泥棒ドートマンダーシリーズやリチャード・スターク名義で発表した悪党パーカーシリーズなど100冊以上の作品を発表した巨匠ですが、どうも本格派推理小説とは縁がなさそうな作家との印象を私は持ってました。その彼が妻でパズル作家(ノンフィクション作家と紹介している文献もあります)のアビー・ウエストレイクと共同で1987年に発表した本書は意外や本格派推理小説でした。但し毛色がかなり変わっていて小説オリジナルでなく、ホテル宿泊客が謎解きに参加する推理イベント「ミステリー・ウィークエンド」(1977年から毎年開催)を本で再現したものです。小説というよりもゲームであり、読者は犯人当てだけでなくクイズ形式の様々な謎解きに挑戦してハイスコアを目指します(このクイズは本書専用に設定されたものです)。登場人物同士の会話は短いナレーションの中だけ、後は1人1人の証言のみという構成で小説として楽しめるものではありませんが、意外とすらすらと読める作品でした。とはいえ紙上参加よりは実際のイベントに参加する方がはるかに楽しめるのでしょうね。動機重視の謎解きになっていますが、物的証拠が少ないので推理の説得力が少し弱いような気がします(この人は動機がないので犯人ではないというのはかなり強引な結論)。 |