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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1552 5点 帽子収集狂事件
ジョン・ディクスン・カー
(2016/08/10 11:08登録)
(ネタバレなしです) 江戸川乱歩が絶賛した1934年発表のフェル博士シリーズ第2作の本格派推理小説です。帽子が盗まれては思わぬ所で発見されるという事件が頻発し、ちょっとした社会問題になっていたという風変わりな謎で幕開けしているのはつかみとしては効果的だと思うし、(他作家による類似の前例があるとはいえ)緻密に組まれたトリックも印象的です。しかし密室とか足跡がないとか突然の出現(或いは突然の消失)とかのような演出高価の高い謎が提示されていないのでトリック説明のインパクトが弱く感じられます。第2の事件の真相も腰砕け感があり、私は残念ながら乱歩ほどの感激を得られませんでした。


No.1551 5点 殺人者なき六つの殺人
ピエール・ボアロー
(2016/08/09 17:16登録)
(ネタバレなしです) 名探偵アンドレ・ブリュネルシリーズ第4作である1939年発表の本書は密室殺人事件が連続して発生、あまりにも次々と事件が起きるのでゆっくり考える時間を与えてほしいという贅沢な不満も言いたくなるほどです。但し物語としての面白さは全くといっていいほどなく、典型的なバズル・ストーリーです。犯人当てとしては容易になり過ぎた感がありますし密室トリックにも目新しいものがないのでミステリー通の読者にはお勧めポイントがありませんが、各々の事件に異なるトリックを用意している点は評価したいと思います。


No.1550 5点 六死人
S=A・ステーマン
(2016/08/09 16:29登録)
(ネタバレなしです) 1931年発表のウェンズシリーズ第1作の本格派推理小説である本書はフランスの権威ある「フランス冒険小説大賞」を受賞したステーマンの出世作です。主要登場人物は6人の青年、1人の女性そして探偵役のウェンズの計8人ですが、連続殺人で最終的にかなり人数が絞られるので犯人当てとしては容易過ぎるぐらいです。とはいえ某有名作家の古典的名作(創元推理文庫版の粗筋紹介でばらされていますが)を先取りしたようなプロットはサスペンスたっぷりで、ボリュームもかなり短めの長編なので一気に読み終えました。


No.1549 6点 嘲笑うゴリラ
E・S・ガードナー
(2016/08/09 16:12登録)
(ネタバレなしです) 膨大な作品を書いたガードナーには動物を扱った物語も少なくありません。当然犬猫の登場回数が1番多いと思いますが他にもカナリヤ、おうむ、金魚、燕、アヒルなど様々です。本書は1952年発表のペリイ・メイスンシリーズ第40作ですが何とびっくりゴリラが登場です。単なるお飾りではなくちゃんとゴリラを法廷論争のネタに使っているところはご立派で、読んでるこちらも興奮してウッホッ、ウッホッホッと胸を叩きました(嘘です)。序盤は筋を追うのにちょっと苦労しましたが最後は派手な捕り物劇もあってすっきりしました。でも中身の方はゴリラがらみの場面は覚えているんですがゴリラ以外の部分はほとんど忘れてしまいました(笑)。


No.1548 6点 失われた時間
クリストファー・ブッシュ
(2016/08/09 16:05登録)
(ネタバレなしです) 1937年発表のルドヴィック・トラヴァースシリーズ第16作の本格派推理小説でブッシュの代表作と評価されています。探偵役のトラヴァース自身がアリバイ証人にもなっているという設定が珍しいですね。地味で堅実過ぎるぐらいの前半に比べて後半(12章あたりから)はメロドラマ風に流れるのが対照的です。唐突に判明する犯人に偶然の要素が混じったアリバイトリックと謎解きとしては必ずしも堅実ではないですけど、どうもこのメロドラマ効果で私は不満をはぐらかされてしまったようです。ずるいぞ、作者(笑)。


No.1547 6点 草は緑ではない
A・A・フェア
(2016/08/09 01:21登録)
(ネタバレなしです) E・S・ガードナー(1889-1970)のペリイ・メイスンシリーズの長編82作には遠く及ばないもののフェア名義のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズも長編29作が書かれました。1970年発表の本書がその最終作です。シリーズ第1作の「屠所の羊」(1939年)ではドナルド・ラムの元弁護士ならではの活躍を描いていましたがその後のシリーズ作品では「曲線美にご用心」(1956年)ぐらいしかその設定は活かされていないように思います。しかし本書では終盤に法廷場面があり、ドナルドは(弁護士ではなく私立探偵の立場ですが)法廷戦術を駆使して(ペリイ・メイスンシリーズを髣髴させるような)劇的なクライマックスを築きます。


No.1546 6点 九人と死で十人だ
カーター・ディクスン
(2016/08/07 09:57登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)シリーズの第11作にあたる本書は戦時色濃厚なのが特徴で、H・M卿も含めて登場人物がある種の緊張感をたたえているのがとても自然に描かれています。さて本格派推理小説で犯人の残した指紋で犯人が判るというのでは推理の楽しみのないつまらない謎解きに感じるでしょう。それを逆手にとったのが本書です。何と登場人物の誰の指紋とも合わない指紋が出現するのです。そのトリックを巡ってH・M卿が指紋の偽造は(すぐにばれるので)不可能であることを丁寧に説明していますが、それを強調すればするほどあのシンプルな真相トリックはどうして通用したのだろうかという疑問が拭えませんでした。ただどうしてこのトリックが使われたのかという理由はよく考えられているし他の謎解きもしっかりしています。


No.1545 5点 ウエディング・プランナーは凍りつく
ローラ・ダラム
(2016/08/07 09:27登録)
(ネタバレなしです) 2006年発表の本書はウエディング・プランナーのアナベル・アーチャーを探偵役にしたシリーズ第2作です。作家として手馴れてきたのか作者のもう一つの職業であるウエディング・プランナーとしての知識が前作以上に随所で披露されるようになり、わがまま放題の新郎新婦そしてその家族を相手にウエディング・プランを打ち合わせる場面がなかなか楽しく、ユーモアも増しているように感じます。とはいえ肝心の謎解きの方がレベルダウンした感が否めないのが残念です。若干は推理もしていますが、32章で真相のかなりの部分があの証拠に(具体名はここでは書きませんが)助けてもらって判明しているのでは本格派推理小説ファンとしては物足りません。


No.1544 5点 アララテのアプルビイ
マイケル・イネス
(2016/08/07 09:21登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のアプルビイシリーズ第7作の本書は驚いたことにアプルビイ警部を含めてわずか6人の船客が無人島と思われる島へと漂着するという冒険スリラー小説です。もっとも切羽詰ったサバイバル感はなく雰囲気はむしろ明るく優雅です。イネスらしく文学談義が随所にあるし英語の言い回しもかなり凝っていることがうかがえますが、深い知識教養と物語の軽快さを両立するのに見事に成功しています。アプルビイが殺人事件の真相を見抜くという本格派推理小説風な要素もありますが論理的な推理というよりはこの説明なら辻褄が合うといった謎解きになっています。この時代ならではの動機が今の読者には却って印象に残るでしょう(本格派の常識内には入らない動機ですが)。中盤まではどことなくのんびりしてますが終盤はまさしく冒険スリラーらしい派手で目まぐるしい展開が楽しめます。河出書房新社版は翻訳が上手いし巻末解説もわかりやすいですが後半の粗筋にまで触れていますので物語より先には読まない方がいいと思います。


No.1543 5点 観月の宴
ロバート・ファン・ヒューリック
(2016/08/07 08:24登録)
(ネタバレなしです) ロバート・ファン・ヒューリック(1910-1967)は日本との縁も非常に深く、オランダ外交官として3回も駐在しており3度目の大使としての任期中に急死したのは大変惜しまれます(但し亡くなった場所は母国オランダらしいです)。ディー判事シリーズ第14作の本書は彼の死後の1968年に出版された遺作です。今回のディー判事はどこか精彩を欠いており、解決の仕方も本格派推理小説の探偵物語を期待すると失望することになるでしょうがエンディングはしみじみ感があってうまく締めくくっています。


No.1542 5点 ビッグ4
アガサ・クリスティー
(2016/08/07 07:57登録)
(ネタバレなしです) 1927年発表のポアロシリーズ第4作ですがポアロが国際的な犯罪組織ビッグ4と対決するというスパイ・スリラー小説系統の作品でシリーズ最大の異色作です。アリンガムの「ミステリー・マイル」(1930年)とかマイケル・イネスの「アララテのアプルビイ」(1941年)とかパトリシア・モイーズの「第三の犬」(1973年)とか、英国では名探偵が犯罪組織やスパイ組織と対峙するミステリーは決して珍しくはないんですね。組織との直接対決はかなり後半になってからで、それまではいくつかの事件を(それぞれは独立した事件ですがどれもビッグ4が絡んでいます)ポアロが本格派の探偵風に推理で解決し、同時にビッグ4の情報を少しずつ集めていくという連作単短編風な展開になっています。最後は派手なシーンで壮大に締め括られます。気軽に読める作品ですがシリーズのイメージにそぐわないためか人気が低いのは仕方ないところでしょう。


No.1541 6点 墓場貸します
カーター・ディクスン
(2016/08/06 16:57登録)
(ネタバレなしです) 米国の作家ながらカー名義のフェル博士とディクスン名義のH・M卿の2大探偵シリーズは英国を舞台にした作品が多いのですが1949年発表のH・M卿シリーズ第19作である本書は珍しくも米国を舞台にしているだけでなく、米国人気質(かたぎ)を語らせたり野球シーンを織り込んだりと随分米国を意識しています。プールからの人間消失というヴァン・ダインの「ドラゴン殺人事件」(1933年)を連想させる魅力的な謎が提示されており、それでいてお手軽過ぎに感じるぐらいのトリックが使われているのがこの作者らしいです。でもkanamoriさんのご講評にもあるように、一番鮮やかな印象を残したのは地下鉄で大パニックを引き起こしたトリックの方かも。ユーモアも豊かです。なお本書は不可能犯罪のエキスパートであるクレイトン・ロースンに献呈されています。


No.1540 6点 クラスの動物園
ジル・チャーチル
(2016/08/06 16:48登録)
(ネタバレなしです) ジェーンの親友シェリルは意外にも高校時代は内気でめそめそしていた少女だったようです。そんな彼女が高校時代のクラブメンバーを集めての会合を企画したら果たしてどうなるか?1994年発表のジェーン・ジェフリイシリーズ第4作の本書は個性的な容疑者揃いという点でシリーズ作品中屈指の出来栄えになりました。いやー、現実世界でこんな人たちばかりに囲まれたら嫌だな(笑)。決定的というほど強い説得力はないけど謎解きの伏線を丁寧に仕掛けてコージー派としては本格派らしさを保っているのも好ましいです。


No.1539 5点 鍾乳洞殺人事件
ケネス・デュアン・ウィップル
(2016/08/06 16:28登録)
(ネタバレなしです) 1934年発表のミステリー第2作です。鍾乳洞の暗闇の中で被害者が鋭い鍾乳石を心臓に突き立てられる、と紹介するとハハンと感じる読者も多いと思いますが本書はあの横溝正史による翻訳で国内に紹介され、明らかに彼の名作「八つ墓村」(1949年)に影響を与えたと思われます。本格派推理小説としてはそれほどパズル要素は強くなく(謎解き手掛かりや伏線は十分ではない)、サスペンス溢れる雰囲気重視の作品です。舞台や人物描写がかなり仰々しい上に横溝の翻訳も「何て〇〇なんでしょう」とお芝居調なので通俗スリラー色は相当ですが旧漢字に旧仮名遣い、現代ではあまり使われない文章表現の翻訳にもかかわらず意外と読みやすかったです。何より洞窟を舞台にしたサスペンス豊かな展開は独特の魅力があります。


No.1538 6点 二輪馬車の秘密
ファーガス・ヒューム
(2016/08/06 16:10登録)
(ネタバレなしです) ファーガス・ヒューム(1859-1932)はニュージーランド人の医師の息子として英国に生まれた作家で、一時期オーストラリアで暮らしたこともあります。本書はオーストラリア時代の1886年に発表されたデビュー作で(作品舞台もメルボルンです)、ミステリー史上50万部を突破した最初の作品として知られています(後には劇や映画にもなったほど成功しました)。本書の翌年にあのコナン・ドイルが「緋色の研究」(1887年)を出版していますがそちらがあまり売れなかったのとは対照的です。もっともヒュームもその後はミステリーとノン・ミステリー合わせて実に130冊以上も書いたのですが現在でも名を残しているのは本書ぐらいですが。書かれた時代が時代なのでロマンス小説の香りが強いのは仕方のないところで、ドイルの「緋色の研究」よりむしろウィルキー・コリンズの「月長石」(1868年)との共通点が多いと思います。本格派推理小説としての完成度は高くありませんが巧妙なミスディレクションによるどんでん返しはなかなか印象的ですし、物語としての構成もしっかりしているので今読んでもなかなか面白いです。


No.1537 6点 不自然な死体
P・D・ジェイムズ
(2016/08/06 15:49登録)
(ネタバレなしです) もとからスピーディーな展開を売り物にしている作者ではありませんが、1967年発表のダルグリッシュシリーズ第3作の本書では検死結果が判明するのさえ物語の半分を占める第一部の終盤になってようやくという大変遅い展開に悩まされます。ちなみに私の読んだハヤカワ文庫版の裏表紙の粗筋紹介ではその結果をフライング気味に紹介しており、これはこれで感心できませんけど。本書はジェイムズ作品としては短めなのがまだ救いです。次作の「ナイチンゲールの屍衣」(1971年)から巨大で重厚な作品が続くので本書に耐えられなかったらジェイムズ作品をこれ以上読むのはお勧めしません。第二部からはミステリーとして十分な盛り上がりを見せ、最後は派手と言えるぐらい劇的に締めくくられます。その気になればちゃんと書ける作家なのですが(笑)。死体の手首を切り落とす理由もよく考えられています。


No.1536 5点 飛ぶのがフライ
ジル・チャーチル
(2016/08/05 08:38登録)
(ネタバレなしです) 巻末解説によるとこのジェーン・ジェフリイシリーズはジェーンの主婦としての奮闘ぶり描写が特に女性読者層に受けているようですが、そうだとすると1997年発表のシリーズ第9作(タイトルの元ネタはエリカ・ジョングの「飛ぶのが怖い」(1973年)?)である本書はジェーンが家族と離れているため、あまり主婦らしさを発揮していないのが期待はずれに映るかもしれません。それでもシェリイとのやり取りは相変わらずユーモアたっぷりで謎解き議論が楽しいです。ただ今回は事件成立が遅い上に動機がなかなか明らかにならず、もやもや感を長く引きずる謎解きになっています。それでいて解決が唐突気味なのもちょっと不満です。


No.1535 5点 テニスコートの謎
ジョン・ディクスン・カー
(2016/08/05 08:32登録)
(ネタバレなしです) 1939年発表のフェル博士シリーズ第11作です。足跡のない殺人がテーマですがトリックメーカーとして名高い作者だけあって「三つの棺」(1935年)ともカーター・ディクスン名義の「白い僧院の殺人」(1934年)とも「貴婦人として死す」(1943年)とも異なるトリックが用意されているのはさすがですが、実行面で難易度が高そうだし何よりもリスクが大きすぎるような気がします。あと犯人を追い詰める最後の証拠は確かに決定的だと思いますがプロット上必要だったのでしょうか?いきなりこれを犯人に突きつけて解決していたら本格派推理小説のお楽しみである推理による謎解きが台無しになるので後出しにしているのですが、どこか不自然を感じますね。


No.1534 5点 誰の死体?
ドロシー・L・セイヤーズ
(2016/08/05 07:40登録)
(ネタバレなしです) アガサ・クリスティーの最大のライヴァルとされ、クリスティーの後継者と期待されるのを嫌がった後世の女性ミステリー作家がよくベンチマークとして引き合いに出すのが英国のドロシー・L・セイヤーズ(1893-1957)です。オクスフォード大学で女性として初めて学位を授与したほどの才人だった、シングルマザーだった、ミステリー作家として人気絶頂にありながら早々と引退して後半生はダンテの「神曲」の翻訳をライフワークにしたなど波乱万丈の生涯をおくったことでも有名です。本書は1923年に発表したデビュー作ですが探偵役のピーター・ウィムジー卿が実によく喋る、喋る(笑)。謎解きから脇にそれてしまうこともしばしばなので人によってはこの饒舌さはうざっとく感じるかも。でもピーター卿が戦争中に抱えた精神障害に苦しむ場面や容疑者〇〇と1対1で対決する場面など随所ではきりっと引き締めています。装身具一つだけの全裸死体というエラリー・クイーンの「スペイン岬の秘密」(1935年)を先取りしたような魅力的な謎に対して真相が他愛もないのが残念ではありますが。


No.1533 5点 多角形
日影丈吉
(2016/08/05 06:37登録)
(ネタバレなしです) 文献によると1964年頃から国内ミステリーは冬の時代に突入したらしく日影丈吉も作家として活躍する機会が激減してしまいます。本書はそんな時期の1965年発表の長編本格派推理小説です。月刊誌の編集人の落合と新聞記者の酢本の2人が語り手を交代しながら物語は進み、最終章ではそれを記録している精神分析医の神近が語り手になります。この作者らしくどこか茫洋とした疑惑を手探り気味に解いていくプロットですが、なかなか事件の全体像が見えてきません。第7章の最後で登場人物にレオナルド・ダ・ヴィンチの言葉「実験には間違いはない。だが、その解釈は間違うことがある」と語らせていますが、どんでん返しの謎解きも最初の推理がそのまま正解と解釈されてもおかしくなかったように感じました。

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