nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2812件 |
No.1592 | 7点 | クリスマス・プディングの冒険 アガサ・クリスティー |
(2016/08/18 18:08登録) (ネタバレなしです) いつの頃からはわかりませんが本国(英国)では「クリスマスにクリスティーを」という洒落たキャッチフレーズでクリスティーの新作を販売促進していたそうですが1960年に発表された本書はまさにこの宣伝文句にふさわしい短編集です。1920年代から1940年代にかけて書かれた作品(一部はリメイクされてますが)を寄せ集めたに過ぎず、しかもポアロ作品5作とミス・マ-プル作品1作というのは短編集としてはバランスが微妙に悪いように思います。とはいえなかなか充実した作品が揃っており、特に「スペイン櫃の秘密」は短編とは思えぬ深みのある物語で作者が自画自賛したのも納得の名作だと思います。謎解きは他愛ないですが「クリスマス・プディングの冒険」はクリスマスの雰囲気描写が見事だし、ちょっとオカルト・ミステリー風な「夢」も面白かったです。 |
No.1591 | 4点 | 三角形の第四辺 エラリイ・クイーン |
(2016/08/17 15:18登録) (ネタバレなしです) 1965年発表のエラリー・クイーンシリーズ第27作で、「第八の日」(1964年)を代作したSF作家のエイヴラム・デイヴィッドスン(1923-1993)が書いたとされる本格派推理小説です。「第八の日」が時代は現代ながらも一般社会とは異なる社会を描いていたところがSF作家らしい発想だと思いましたが、本書はそういう意味では普通の作品です。マッケイ家の家族のきずなに影を落とした人物が殺され、殺人容疑がマッケイ家の人々の間を転々とするプロットです。全く無駄のない展開で終盤までなかなか読ませます。問題は結末であまりにもお粗末です。最初の推理説明もそれほど魅力的ではありませんが読者に全く提示されていなかった手掛かりでのどんでん返しには更にがっかりしました。 |
No.1590 | 6点 | 夜歩く ジョン・ディクスン・カー |
(2016/08/17 14:26登録) (ネタバレなしです) 米国のジョン・ディクスン・カー(1906-1977)は不可能犯罪トリック、オカルト趣味、強烈なユーモア、歴史ロマンなど沢山の引き出しを持っていて今なお本格派推理小説家に強い影響を与えている巨匠中の巨匠です。米国人といってもヨーロッパに長く滞在し、ヨーロッパを舞台にした作品が多いためか同時代のヴァン・ダインやエラリー・クイーンの(当時としては)モダンなスタイルとは対照的に古きロマンのようなものを感じさせます。1920年代に限定出版された中短編もありますが1930年に発表された本書が実質的にはデビュー作にあたります。早速密室殺人事件が扱われており、トリックは偶然に頼ったようなところがありますが暗い幻想性に満ち溢れた独特な雰囲気がなかなか個性的です。多くの方々が粗削りだけどカーらしさは十分に発揮されているとご講評されていますが私も賛同します。 |
No.1589 | 5点 | フレンチ警部と紫色の鎌 F・W・クロフツ |
(2016/08/17 13:58登録) (ネタバレなしです) 1929年発表のフレンチシリーズ第5作ですが本格派推理小説でなくスリラー小説に属する異色作です。映画館の切符売り子が事件に巻き込まれるのですが物語はフレンチ警部の捜査活動が中心になって描かれていることが本書の特徴であり、異色作と言っても他のシリーズ作品と共通部分も多いです。謎めいた話から驚きの進展を見せる序盤はなかなかサスペンスに富みますが、その後はいつものクロフツらしくじっくり丹念な展開になりますのでスリラー小説としてはやや中途半端な印象も受けます。最後は派手な大捕り物で締めくくられますが結局フレンチは活躍しているようで活躍していなかったような...(笑)。 |
No.1588 | 6点 | シャーロック・ホームズ最後の挨拶 アーサー・コナン・ドイル |
(2016/08/17 13:09登録) (ネタバレなしです) これまでのホームズ短編集は基本的に1年間に集中的に書かれた作品をまとめたものですが、第一次世界大戦の影響があるのかドイルの熱意が薄れたのかよくわかりませんが執筆ペースが極端に遅くなり、1917年発表の第4短編集の本書に収録された短編は1908年から1917年の長い間にぽつりぽつりと書かれた作品です。また「ボール箱」(1893年)という短編は本来は「シャーロック・ホームズの回想」(1893年)に収められるはずなのがドイルが禁じたため本書でようやく陽の目を見ています(厳密には米国版の「シャーロック・ホームズの回想」の初版にも収められましたがドイルが抗議して2版からは除外されました)。ミステリー的には目新しいものはありませんが「瀕死の探偵」や「最後の挨拶」などはかなりの異色作として印象に残ります。 |
No.1587 | 5点 | 殺人者は道化師 梶龍雄 |
(2016/08/17 11:39登録) (ネタバレなしです) 作者晩年の1989年に発表された短編集で、収められた7作品全てで探偵役が本名不詳の妖艶なリラ夫人、助手役がパックちゃんという少女です。パックという名前がシェークスピア作品の妖精名に由来しているからでしょうか、廣済堂ブルーブックス版の表紙には「痛快マジカル・ミステリー」という奇妙な宣伝文句が入っていますが別に魔法とか超能力とかは登場しません。短編なので描写はあっさりながらベッドシーンが随所で挿入されて通俗色がありますが本格派推理小説のツボは押さえていて、どの作品も推理による解決で締め括ります。表題作の「殺人者は道化師」などはかなり論理的に犯人を絞り込んでいます。リラ夫人は事件に巻き込まれて困っている依頼者(女性限定)を無報酬で助けるというスタンスですが、その裏でちゃっかり(多くは違法な手段で)稼いでいるところがモーリス・ルブランの「バーネット探偵社」(1928年)を連想させます。 |
No.1586 | 5点 | 殺人の詩学 アマンダ・クロス |
(2016/08/16 15:28登録) (ネタバレなしです) 1970年発表のケイト・ファンスラーシリーズ第3作で、フェミニズム(男女平等主義)をまだそれほど前面に出していない分、一般受けしやすい本格派推理小説になっています。とはいえ(訳のせいかもしれませんが)ついに結婚を決意したケイトとリードの会話ぐらいはもう少し情感をこめてもいいのではと思いますが(ちょっとドライ過ぎです)。ミステリー的には犯人のちょっとしたミスに気づくという古典的な探偵法は気が利いていますが決定的手掛かりが足りないように思えます。前作と同じく名探偵役はケイトでなくリードが務めているのも微妙に物足りません。 |
No.1585 | 6点 | ドーヴァー5/奮闘 ジョイス・ポーター |
(2016/08/16 15:14登録) (ネタバレなしです) 1968年発表のドーヴァー警部シリーズ第5作となる本書はドーヴァーの迷走ぶりが相変わらず楽しいけれど推理という面では「誤算」(1965年)や「切断」(1967年)に比べるとなるほどという説得力にやや乏しく強引さが目立つような感じがします。真相には意表を突かれましたが、(後の米国コージー派でよく使われた)ご都合主義的(棚ぼた式)な解決なので本格派好き読者の好き嫌いは分かれそうです。 |
No.1584 | 5点 | ひらいたトランプ アガサ・クリスティー |
(2016/08/16 14:58登録) (ネタバレなしです) 空さんのご講評でも紹介されているように、1936年発表のポアロシリーズ第13作の本書は「ABC殺人事件」(1935年)の中でポアロが「手掛けてみたい事件」と言った通りの事件を扱っているだけあってなかなかの意欲作となりました。4人の容疑者対4人の探偵という珍しい設定に過去の事件と現在の事件の謎解きを組み合わせた複雑な本格派推理小説です。もっともポアロ以外の探偵役はバトル警視、アリアドニ・オリヴァ、レイス大佐といかにもな脇役キャラクターばかり揃えたので探偵競争というよりは連携捜査の色合いが濃いです。犯人は1人ですから主役探偵もポアロ1人に絞った方がよいと判断したのでしょう。問題は4人の容疑者が関係した過去の4つの事件が相互関連が全くないため、同時に4つの推理小説を読んでいるような感じがして結構読みにくかったことです。 |
No.1583 | 6点 | 渇いた季節 ピーター・ロビンスン |
(2016/08/16 14:10登録) (ネタバレなしです) 1999年出版のバンクスシリーズ第10作で、現在の物語と過去の物語が交互に描かれる構成を採っています。戦後生まれの作者ですが戦時下の田舎の雰囲気が結構それらしく描かれています。バンクスの私生活の変化についてもかなりのページを費やしています。デビュー作の「罪深き眺め」(1987年)と比べると何と劇的に変化したことでしょう。バンクスが手掛かりに基づく推理を披露したりして「誰もが戻れない」(1996年)よりは本格派推理小説らしさがありますが謎解きはそれほど緻密ではなく、その分物語性で読ませている作品です。余談ですがホラー小説の巨匠スティーヴン・キングがこのバンクスシリーズの熱心なファンだというのは何とも不思議な感じがしますね。 |
No.1582 | 3点 | 沈める濤 天城一 |
(2016/08/16 13:56登録) (ネタバレなしです) 天城一(1919-2007)の長編作品は全部で3作ですがその最後の作品が本書です。なかなか出版の機会に恵まれなかった作者ですが本書も完成から出版までの経緯が複雑です。1976年には完成していたそうですが私家版で出版されたのが1999年、商業出版されたのは2009年です(「天城一傑作集4」に第1長編の「風の時/狼の時」と一緒に収められました)。プロットは前半(第四章まで)を五百島(いおしま)部長刑事、後半(第五章以降)を淡路刑事を語り手として進行し、さらにはあの島崎警部も登場します。しかしながら物語の合間合間で語られる下士官出身者の戦時中や戦後の生き様や考え方のエピソードが謎解きの興味を寸断してしまいます。天城らしいといえばらしいのですがやたらと脇道にそれているように感じられます。また終盤に五百島が「死体を一つも見ない」「肝心の証人を1人も尋問できなかった」などと述懐しているように捜査描写もどこか焦点が定まっておらず、読み手を選ぶ本格派推理小説です。 |
No.1581 | 6点 | 風が吹く時 シリル・ヘアー |
(2016/08/15 08:44登録) (ネタバレなしです) 9作しか書かれなかったヘアーの長編はマレット警部単独作品が3作、ペティグルー単独作品が2作、両者の共演作が3作、非シリーズ作品が1作という内訳ですが1949年発表の本書はペティグルー単独作品です(ペティグルーシリーズとしては全5作中の第3作)。ヘアー得意の法律知識に加えて音楽知識も要求されていますがとっつきにくさは意外となく、個性的な登場人物や警察に配慮してでしゃばるまいと苦心するペティグルーの描写などで読ませます。物語の締めくくりもなかなか味わいがあります。ハヤカワポケットブック版は半世紀以上前の1955年翻訳なのでそろそろ何とかしてほしいなというのも正直ありますけど。なお英語原題は「When the Wind Blows」ですがどこかの書評サイトで「Wind」を「風」と訳した日本語タイトルは誤訳で、本書での「Wind」は「管楽器」を意味していると指摘されていましたがなるほどと思いました。 |
No.1580 | 5点 | ヴィンテージ・マーダー ナイオ・マーシュ |
(2016/08/15 08:35登録) (ネタバレなしです) 1937年発表のアレンシリーズ第5作の本書は珍しくもニュージーランドを舞台にしています。殺害方法はかなり派手(図解入りで解説されます)、アリバイ表や現場見取り図などの読者サービスも充実しています。ただ見取り図は小さくて見づらいですが。全体的には取り調べシーンが長くて動きの要素があまりないので人によっては退屈するかもしれません。あと本筋とは関係ないのですが「殺人者登場」(1935年)の犯人名を何度も作中でばらしているのは参りました。「殺人者登場」の中でも「アレン警部登場」(1934年)の犯人名をネタバレしているし、出版順に読まない読者には容赦なしですか?困った作者ですねえ。 |
No.1579 | 5点 | 完璧な絵画 レジナルド・ヒル |
(2016/08/15 08:31登録) (ネタバレなしです) 1994年発表のダルジールシリーズ第13作となる本書では「闇の淵」(1988年)と同じくクライマックスシーンが冒頭に置かれていますが、これが凄まじいです。ここでばらすのは興ざめになると思うので詳細は書きませんがあまりにも衝撃的な導入部で、早く結末にたどり着きたいと気が焦ること焦ること(笑)。残念ながらメインの事件が失踪事件なので(生きているにしろ死んでいるにしろ簡単に行方は判らない)ミステリーとしてあまり興味深い題材ではなく、中盤がやや退屈に感じました。ただこれまでのシリーズ作品ではダルジールの出番が少なすぎたりウィールドが精彩を欠いたりといった不満がありましたが、本書では3人(ダルジール、パスコー、ウィールド)にそれぞれ活躍の場がしっかり与えられていて主役陣の役割バランスという点ではこれまでの全作品中随一の出来かと思います。 |
No.1578 | 4点 | 絞首台までご一緒に ピーター・ラヴゼイ |
(2016/08/15 08:22登録) (ネタバレなしです) 1976年発表のクリッブ部長刑事&サッカレイ巡査シリーズ第6作です。このシリーズ、ヴィクトリア朝の英国を舞台にした歴史ミステリーですが本書では実在のユーモア小説家ジェローム・K・ジェロームの代表作「ボートの三人男」(1889年)が出版された時期という設定になっています。このジェロームの作品は小説を真似たボート旅行が流行するほど大ヒットしたそうで、本書の捜査でもその影響が描写されています。前半はトラベル・ミステリーになっていますが馴染みのない地名がどんどん登場するので地図はほしかったです。この作者の軽妙な文章と物語の展開がうまく噛み合い、伏線もそれなりに張ってあって本格派推理小説としての謎解きもできています。とはいえこういう真相は個人的には嫌いな部類ですので減点評価となってしまいますが。 |
No.1577 | 5点 | 猫と鼠の殺人 ジョン・ディクスン・カー |
(2016/08/15 08:13登録) (ネタバレなしです) 1942年発表のフェル博士シリーズ第14作の本書はカーの多くの作品で見られる怪奇趣味や不可能犯罪とかいった派手な演出はなく、ユーモアも控え目で(プールでの飛び込みの場面なんかは結構楽しいですけど)ごく普通の本格派推理小説といった印象を与えますが、実はかなり大胆なトリックが使われていてどんでん返しが効果的な作品です。このトリック、実際の事件でもあったトリックだそうですが専門的知識のない一般読者にこれを解決前に予見するのはちょっと無理じゃないかと思います。了然和尚さんのご講評で的確に指摘されているように、カーがどれほど好きなのかによって本書の受け容れられ方は異なると思います。 |
No.1576 | 5点 | 盤面の敵 エラリイ・クイーン |
(2016/08/14 02:23登録) (ネタバレなしです) クイーンが最後の作品にするつもりだったとされる「最後の一撃」(1958年)から5年後の1963年に発表されたエラリー・クイーンシリーズ第25作ですが実態はゴーストライター(SF作家のシオドア・スタージョン(1918-1985))が書いてクイーン名義で出版されたそうです。殺人実行犯を影で操る真の殺人犯という設定が大変ユニークで、連続殺人のサスペンスと相まって終盤までだれることなく引っ張ります。真相にも工夫を凝らしていて、この時代ではかなり珍しいであろう犯人像が描かれていて本書に高い評価を与える識者がいるのも理解できます。しかしエラリーの推理が残念レベルです。宗教的というか観念的な説明ですっきり感を味わえませんでした。 |
No.1575 | 6点 | ポアロのクリスマス アガサ・クリスティー |
(2016/08/14 01:39登録) (ネタバレなしです) 1938年発表のポアロシリーズ第17作となる本格派推理小説です。献呈序文で作者は作品が洗練されすぎているという批判に応えて血まみれの凶暴な事件を扱いたかったと述べています。なるほど血まみれの死体を用意しているし、クリスマスなのに少年少女は登場せず祝祭的な場面も全くありません。どちらかといえば暗い雰囲気です。でもこの作者ならではの優雅さや洗練さもちゃんと残っていて過度に重苦しくはなっておらずバランスの取れた物語だと思います。使われているトリックがちょっとひどいと思いますが(そんな小道具で騙せるのか?)、登場人物の心理描写に優れていて読み応えは十分以上のものがあります。 |
No.1574 | 5点 | 柳園の壺 ロバート・ファン・ヒューリック |
(2016/08/14 01:24登録) (ネタバレなしです) 1965年発表のディー判事シリーズ第10作の本格派推理小説です。「紅楼の悪夢」(1961年)でもせっかくの密室を謎の中心にしなかったように、本書では見立て殺人風な要素がありますがそれをことさら謎として盛り上げるような展開にはなっていません。とはいっても謎解きの伏線はちゃんと用意されているし、歴史ミステリーとしての時代風俗描写は丁寧だし、今回はディー判事だけでなく部下たちにも活躍の場を与えているなど内容は充実しています。疫病が蔓延し腐敗と死の都と化した新任地という陰鬱で暗い舞台にも関わらず後味がいいのも特徴です(人によっては結末の付け方に独善的なものを感じるかもしれませんが)。 |
No.1573 | 5点 | 老神温泉殺人事件 中町信 |
(2016/08/14 01:13登録) (ネタバレなしです) 「夏油温泉殺人事件」(「不倫の代償」改題)(1990年)以来となる1994年発表の氏家周一郎シリーズの第11作の本格派推理小説でシリーズ最終作となりました。男に襲われて逃亡しようとして女性が死んだ事件の容疑者が自殺し、その事件の真相を調べてほしいと氏家夫妻が依頼されるのが発端です。ところが依頼人は密室で殺されます(しかもプロローグで間違い殺人であることが読者に提示されます)。密室の謎解きは他愛もない上に失敗リスクはそれなりに高いという残念トリックですが一応は密室にする理由が考えられており、単純そうな事件なのに容疑者の大半が嘘をついているために捜査は錯綜します。作者得意のミスディレクションはシンプルながら効果的です。 |