| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2901件 |
| No.1781 | 8点 | 消された子供 エリザベス・ジョージ |
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(2016/09/29 23:44登録) (ネタバレなしです) 誘拐事件を扱った1996年発表のリンリーシリーズ第8作はまたまたハヤカワ文庫版が上下巻で出版されるほどの分厚い作品で合計900ページを超す本格派推理小説の大作です。大分量でありながら全く退屈させることなく読ませるストーリーテリングが見事で、毎度の事ながらこの人の文章力と演出力には感心させられます。しかも今回はサイドストーリーが誘拐された子供の家族(同時に容疑者でもあります)を中心に展開しているので謎解きプロットと有機的に絡み合っています。犯人が〇〇のことを知った方法にはややご都合主義的な面もありますが、謎解きとしてもよく出来ていると思います。ハヴァーズ部長刑事の後半の活躍も見ものです。 |
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| No.1780 | 6点 | 死を招く航海 パトリック・クェンティン |
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(2016/09/29 23:33登録) (ネタバレなしです) 1930年代から1960年代前半まで活躍した米国のパトリック・クェンティンは作家プロフィールが大変複雑です。1931年から1935年まではリチャード・ウェッブ(1901-1966)による単独執筆か、ウェッブとメアリー・アズウェル(1902-1984)による共同執筆か、ウェッブとマーサ・ケリー(1906-2005?)による共同執筆でパズル色濃厚な本格派を発表しています。ここまでが初期と位置づけられています。1936年から1952年までがウェッブとヒュー・ホイーラー(1912-1987)による充実の合作時代である中期で、本格派の謎解きにサスペンス色を加味した作品が多くなります。それ以降が後期ですがウェッブが健康上の問題でコンビを脱退してホイーラー単独の作品になり、本格派の謎解き要素は大きく後退してこの時期のクェンティンはサスペンス小説作家として評価されています。本書は1933年発表のウェッブとアズウェルによる本格派推理小説で、全ての手掛かりを読者に提示して犯人当てに挑戦しています。新樹社版の29ページの前に「ここには重要な手掛かりが隠されています」というメッセージを挿入して読者をあおっています。この手掛かりはあまりにもさりげなく記述されていて用心深い読者でもなかなか気がつかないでしょう。個性のない登場人物たち、メリハリの少ない展開でダレ気味なのが惜しいです。 |
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| No.1779 | 5点 | 原罪 P・D・ジェイムズ |
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(2016/09/29 23:17登録) (ネタバレなしです) 1994年発表のダルグリッシュシリーズ第10作で、ハヤカワ文庫版で上下巻合わせて700ページ超えの大作です(本書で3作連続上下巻出版です)。フーダニットよりもホワイダニットとしての印象が強く残った作品です。被害者の嫌らしさは殺される前から丹念に描かれているので殺される理由には事欠かないと思って読みましたが、真相を知って動機の奥深さに印象づけられました。謎解きに関しては前の2作よりも推理要素があり、伝統的な本格派ミステりー路線へ回帰しつつあるのかなと個人的な期待を抱かせました。それでもこのボリュームにはてこずりましたが。 |
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| No.1778 | 6点 | ゼロ時間へ アガサ・クリスティー |
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(2016/09/29 23:10登録) (ネタバレなしです) 1944年発表の本書での探偵役はクリスティーのいくつかの作品に登場しているバトル警視です(エルキュール・ポアロは登場しませんが、バトル警視がポアロのことを回想する場面があります)。殺人事件は中盤まで発生しません。犯人が殺人を企画している場面が序盤で紹介され、殺人の瞬間(ゼロ時間)へ向かって物語が進むという特殊なプロットの作品で、クリスティー自身は会心の出来と思っていたようです。評価が分かれそうなのは被害者が誰になるかを土壇場までわからないようにしているところでしょう。殺されてもおかしくないような人物描写にしていないので事件に至るまでの緊迫感には乏しく退屈する読者もいるかもしれません。犯人の計画も特異といえば特異ですが、ジョン・ディクスン・カーの作品に前例がありましたね。 |
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| No.1777 | 5点 | 十六歳の闇 アン・ペリー |
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(2016/09/29 23:03登録) (ネタバレなしです) 英国のアン・ペリー(1938年生まれ)はピット警部シリーズとモンク警部シリーズという2つの歴史ミステリーのシリーズが人気の女性作家です。若い頃に重大犯罪に加担して投獄されたという過去があり、しかもその経歴が暴露されて映画ネタにされたというエピソードまであります。ちなみに本書が1984年に出版された時はその経歴はまだ一般に知られていません。本書は19世紀末の英国を舞台にしたピット警部シリーズの第6作で、倒錯した性行為がテーマとして扱われていますが幸いにして生々しい表現とかはありません。にもかかわらず読んでて不快感を覚えるのは人間の心の卑しさがたっぷり描かれているからでしょう。自分の周囲だけ秩序が保たれれば他人がどうあろうと全く構わないというエゴがむき出しにされています。現代読者が読んでも十分に通用する内容です。論理的推理の要素が少なくしかも駆け足気味な解決なので本格派の謎解きとしてはあまり面白くありませんが、風俗小説としてはとてもよくできていると思います。 |
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| No.1776 | 5点 | ミステリー・ウィーク ヘザー・グレアム |
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(2016/09/28 00:04登録) (ネタバレなしです) ロマンス小説を創作の中心にして1980年代から活躍している米国のヘザー・グレアム(1953年生まれ)は100冊を超す作品を発表しているベストセラー作家です(米国の女優ヘザー・グレアム(1970年生まれ)とは別人です)。英語原題が「Never Sleep with Strangers」の1998年発表の本書はロマンチック・サスペンスでありながら本格派推理小説好きにアピールする内容も持っています。舞台はスコットランドで、秘密の通路のある古城、13人の容疑者(大半がミステリー作家です)、蝋人形の群れ、地下墓地、そして吹雪の山荘状態と何という古典的な設定でしょう。誰もが犯人の可能性を残しつつ最後に殺人犯が明らかになるというプロットは本格派の資格を十分に満たしています。本格派好きの私にとって残念に思うのは犯人を示す手掛かりや伏線がきちんと提示されておらず、犯人がある人物を襲撃することによってその正体が割れるという典型的なサスペンス小説的結末になっていることです(サスペンス小説だとわかって読む分には何の問題もありません)。とはいえベストセラー作家ならではの語り口の上手さであっという間に読み終えることができました。意外にもユーモア豊かな場面もあります。 |
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| No.1775 | 7点 | 悪女パズル パトリック・クェンティン |
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(2016/09/27 23:23登録) (ネタバレなしです) 1945年発表の本書はダルース夫妻シリーズの第4作にあたる本格派推理小説です。関係が悪化している夫婦を何組も登場させる状況設定はパット・マガーの「七人のおば」(1947年)を連想させます。マガーが本書を参考にしたのかどうかはわかりませんが読み比べてみるのも面白いと思います。人物描写に関してはマガーの方が濃厚ですが謎解きに関しては本書の方が格段によく出来ていると思います。全体構成もすっきりしていて読みやすいです。連続怪死によるサスペンスがよく効いていますが最後はシュールでコミカルな一同退場場面を用意して悲惨一辺倒では終わらせないなど小粋な面も持ち合わせています。 |
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| No.1774 | 6点 | ハイヒールの死 クリスチアナ・ブランド |
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(2016/09/26 02:52登録) (ネタバレなしです) 英国の本格派作家クリスチアナ・ブランド(1907-1988)については評論家のアントニー・バウチャーがジョン・ディクスン・カーやアガサ・クリスティーに匹敵する実力者と最大級の賞賛を贈っていますが、私も全面的に賛成です。よく考え抜かれたプロット、巧妙な伏線や手掛かりの配置、どんでん返しの連続によるスリリングで鮮やかな謎解きと全ての面で超一流の作家で、作品数は多くないけど文句なしに巨匠と言える存在です。もっともデビュー作の本書(1941年出版)はそれほど個性的な作品ではありません。ユーモアミステリーと語られることも多いようですがクレイグ・ライスやカーの作品のような派手などたばた劇や陽気な笑いがあるわけではなく、エキセントリックな登場人物の妙ちきりんな言動にひねくれたユーモアを感じる程度です。また容疑者の8割が女性で舞台はファッション業界ですが服装とか容姿とか化粧の描写は意外と少なく、華やかな雰囲気はありません。謎解きも含めて良くも悪くも地味で平均点的な作品です。 |
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| No.1773 | 6点 | アルファベット・ヒックス レックス・スタウト |
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(2016/09/26 02:06登録) (ネタバレなしです) 1941年発表の本書はスタウトの数少ない非ネロ・ウルフシリーズ作品の本格派推理小説で、かつて弁護士だったタクシー運転手アルファベット・ヒックスが活躍します。物語の中で重要な役割を担う小道具がソノシート(CD世代の読者は見たことないかも)というのが時代を感じさせますが全体の流れはスムーズで読みやすく、終盤にはどんでん返しが効果的な謎解きが用意されています。 |
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| No.1772 | 7点 | 聖域の雀 エリス・ピーターズ |
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(2016/09/26 01:41登録) (ネタバレなしです) 作中時代は1140年4月、カドフェルらが教会で祈りを捧げている所へ逃げ込んだ若者と彼を追ってなだれ込んだ群衆という場面で幕開けする1983年発表のカドフェルシリーズ第7作の本書では若い恋人たちが苦難を乗り越えていくという、このシリーズ定番の恋愛物語も描かれていますがそれ以上に印象的なのがオーリファーバー家で展開されるホームドラマです。P・D・ジェイムズのミステリーが「単なる謎解きではなく事件が登場人物に与えた影響やそれによって変わってしまった人生を描いている」とどこかで評されてましたが、本書はそれのピーターズ版と言えるのでは。謎解きとしてもシリーズ作品の中では上位にランクできる出来映えで、個人的にはシリーズ中トップ3のお気に入りです。 |
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| No.1771 | 5点 | 誰もが戻れない ピーター・ロビンスン |
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(2016/09/26 01:36登録) (ネタバレなしです) 1996年発表のバンクス首席警部シリーズ第8作はかなり分厚い本ながらも長さを感じさせずすらすら読める警察小説です。読者が犯人当てに挑戦するようなプロットではない上に重要証拠がかなり終盤に近い段階になって出てくるので解決がちょっと唐突過ぎのきらいがあり、謎解きに重きを置く読者にはあまり勧められませんが人間ドラマとしてはぐいぐい読まされる力を秘めています。英語原題の「Innocent Graves」に使われている「Innocent(潔白)」と「Not Guilty(有罪にあらず)」の違いの大きさを感じることができます。なお「夏の記憶」(1988年)の登場人物の後日談が少し紹介されていますので未読の読者は注意して下さい。 |
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| No.1770 | 5点 | 闇の淵 レジナルド・ヒル |
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(2016/09/26 01:29登録) (ネタバレなしです) 1988年発表のダルジールシリーズ第10作の本書ではヨークシャーの炭鉱町で当時7才だったトレイシーの失踪事件が起きます。失踪直前まで一緒だった炭坑夫のビリー・ファーが疑われ、一方で連続幼女暴行殺人犯のピックフォードが自殺したことによって彼女もピックフォードの犠牲者だったのだろうということで捜査が打ち切られます。連続殺人犯が脇役的に扱われているところはP・D・ジェイムズの「策謀と欲望」(1989年)をちょっと連想させます。その三ヵ月後、ビリーが坑道で死んでいるのが発見され、事故死として処理されます。そこから更に時が流れてからがようやく本筋になります。物語はビリーの息子コリンを中心に進むのですが彼の人物像がなかなかつかみにくいです。激情家で暴力的かと思えば驚くほど自制心が強いような場面もあるし皮肉屋の時もあれば妙に素直な時もあります。この「わかりにくさ」が物語をつまらなくしているかというとむしろその反対で、コリンの一挙一動から読者は目を離せません。そして炭坑の中で迎えるクライマックスが大変劇的です。但し犯人の自白でほとんどの謎が解明されるため探偵の推理による謎解きを期待すると失望します。 |
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| No.1769 | 6点 | 仮面荘の怪事件 カーター・ディクスン |
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(2016/09/25 02:05登録) (ネタバレなしです) カー(カーター・ディクスン名義も含む)は自作の短編からアイデアやトリックを長篇に転用していることがいくつかあり、読者にその転用がすぐばれないように上手く加工しているのもありますが1942年発表のH・M卿シリーズ第13作の本書の場合は「なぜ自分の家に泥棒に入ったのか」というあまりにも特異な謎のため、短編を読んだ人にはトリックも犯人もすぐ見抜けるでしょう。私も短編の方を先に読んでいたので真相はすぐにわかりましたがそれでも十分に楽しめました。カー得意のオカルト雰囲気や不可能犯罪要素はほとんどありませんが、読者に対して手がかりや伏線がきちんと用意されている正統派の犯人当て本格派推理小説として十分水準に達している作品だと思います。 |
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| No.1768 | 6点 | ウィチャリー家の女 ロス・マクドナルド |
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(2016/09/25 01:59登録) (ネタバレなしです) 米国ハードボイルドの巨匠ロス・マクドナルド(1915-1983)と言えばサイコ・サスペンスの巨匠マーガレット・ミラー(1915-1994)と結婚していることで有名ですが(面白いことに結婚時点では両者ともまだ作家ではありません)、その家庭生活は決して幸福ではありませんでした。ひとり娘のリンダが大変な問題児で飲酒癖がひどく、交通事故で子供を轢き殺してしまったりさらには失踪事件を起こしてマスコミの注目を集めたりした挙句、若くして死亡しています(薬物の過量摂取が原因らしい)。その影響が作品にも表われていて家庭内の悲劇を描かせては彼ほど深みのある作品を書ける作家はいないとまで言われています。1961年に発表されたリュウ・アーチャーシリーズ第9作の本書はまさにその代表作で、ドライな文章で淡々と語られているのに段々と絶望感が増していくプロットが見事です。拳銃を使って脅す場面もあるけれどそれほど過激な暴力が描かれているわけではなく、アーチャーと犯人の最後の対決も銃撃戦や殴り合いではなく会話による静かな幕切れになっています。「マクドナルドの作品は本格派ファンにもよく読まれている」というのも納得です。もっとも本格派として読んだ場合、ちょっと手掛かりの提示がストレート過ぎてどんでん返しが上手く決まっていないように思えますが。 |
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| No.1767 | 7点 | 猿来たりなば エリザベス・フェラーズ |
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(2016/09/25 01:42登録) (ネタバレなしです) 1942年に発表されたトビー・ダイク&ジョージシリーズの第4作となる本書は、トビーの1人称形式で物語が進むのが特色の一つです。これまでフェラーズ作品を読んでいて感じたことは、謎解きの場面で大胆な仕掛けが明らかになることが多くてこれには大変満足しているのですが、一方で前半から中盤にかけての謎作りという点では地味過ぎに感じてしまうことが多かったです。しかし本書は謎の提示も謎解きもどちらも魅力的です。誘拐を扱った本格派推理小説自体さほど多くありませんがその被害者が猿だったなんてのは前代未聞です。しかも猿事件が決して奇を衒っただけのアイデアでないところが素晴らしいです。 |
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| No.1766 | 10点 | ナイルに死す アガサ・クリスティー |
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(2016/09/25 01:35登録) (ネタバレなしです) 「華麗なるミステリー」と言われたら迷わず1937年発表のポアロシリーズ第15作の本書が頭に浮かびます。クリスティーとしては重量級の作品ですが退屈も混乱もせずに読むことができました。登場人物も多いですが描き分けがきちんと出来ていて多彩な人間ドラマが楽しめます。ロマンチック・サスペンス的な雰囲気もありますが本格派推理小説としてもしっかりと作られた作品です。真相についてはちょっとがっかりした部分もあるものの緻密に構成されたプロットとトリックであることは確かです。まさにミステリーの女王の名にふさわしい作品と言っても誇張ではないでしょう。 |
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| No.1765 | 9点 | 家蝿とカナリア ヘレン・マクロイ |
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(2016/09/25 01:23登録) (ネタバレなしです) 1942年発表のベイジル・ウィリング博士シリーズ第5作で謎解きの伏線を縦横に張り巡らした本格派推理小説の秀作です。容疑者が少ないと往々にして取り調べが細かくなり過ぎてダレ気味になりがちですが本書は謎解きのスリルが最後まで持続しています。冒頭のカナリアの謎が後半になって再びクローズアップされる展開も見事だし、ベイジルのさりげない名探偵ぶりも好感が持てます。ポーストのアブナー伯父シリーズで既に使われているのと同じ謎解きネタがありましたがそれを差し引いても傑作の名に恥じません。 |
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| No.1764 | 6点 | 手をやく捜査網 マージェリー・アリンガム |
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(2016/09/24 16:43登録) (ネタバレなしです) 1932年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第4作で、キャンピオンが「私立探偵でなく職業的冒険家」と自己紹介していますが本書においては私立探偵と見なしてよいのではないでしょうか。ソクラテス屋敷(何て名前だ)に住む家長(女性)と彼女に頭の上がらない居候状態の家族たちという、よくありがちな人間関係の中で起こる殺人事件の謎解きのストレートな本格派推理小説です。アリンガムというと文学的な作風が評価されることが多いですが本書はそういった面はない代わりにパズルとして大胆な仕掛けがあることに驚かされます。基本的なアイデアはコナン・ドイルの某作品でも見られますがこれをもっと複雑に発展させたものです。六興推理小説選書版は半世紀以上前の古い翻訳の割には読みやすいのですが、それにしても登場人物リストの人物紹介が「ビー公」って...(笑)。 |
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| No.1763 | 5点 | フェニモア先生、墓を掘る ロビン・ハサウェイ |
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(2016/09/24 16:16登録) (ネタバレなしです) フリーランスの女性作家兼写真家としてのキャリアを持つ米国のロビン・ハサウェイ(1934年生まれ)が本書でミステリー作家としてデビューしたのは1998年、何と既に還暦過ぎていらっしゃいます。医者にして探偵のフェニモア先生シリーズ第1作ですが本書を読む限りでは探偵業で稼いでいるようには思えませんね(笑)。毒殺ではないかと睨んだフェニモア先生が被害者はどのように毒を盛られたかを見破ろうと様々な可能性を試行錯誤します。この展開はクリスティーの「スタイルズの怪事件」(1920年)をちょっと彷彿させます。37章で明らかになるトリックは実際のケースとして過去に例があったようで謎解きとしては目新しさはありませんが全体としてのストーリーテンポは快調で、手軽に楽しめるコージー派本格派推理小説です。フェニモア先生をサポートする面々もなかなかいい味を出しています。 |
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| No.1762 | 5点 | ロウソクのために一シリングを ジョセフィン・テイ |
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(2016/09/24 16:12登録) (ネタバレなしです) 「列のなかの男」(1929年)をゴードン・ダヴィオットという男性名義で発表したテイがテイ名義で最初に出版した作品が1936年に発表されたグラント警部シリーズ第2作にあたる本書です。物語の大半が足を使った聴き込み捜査主体で、グラントの考えていることもほとんど読者にオープンになっているクロフツ風な展開ですが最後はグラントの推理が披露されるフーダニット型本格派推理小説として着地します。ただ真相には驚いたというよりも何だこりゃと唖然としました。まず動機。どうやらグラントは床屋の雑誌記事から発見した模様ですが本当にアレが動機とは。ハヤカワポケットブックス版の巻末解説(評者は宮部みゆき)では伏線がちゃんと張られているように評価していますがとても十分とは思えないし、とってつけたようなアリバイ崩しと証拠の発見。謎解きという点では大いに不満があります。とはいえテイの特徴はパズルとしての完成度よりも文章表現の巧さやさりげないユーモアなどにあり、グラントが重要人物にまんまと逃げられるシーンや署長の娘エリカのアマチュア探偵ぶりなど読ませどころは一杯あります。 |
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