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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1692 5点 消えた鱈
シャーロット・マクラウド
(2016/09/08 00:43登録)
(ネタバレなしです) 奇抜な状況設定の本格派といえばマイケル・イネスなどのファルス本格派が頭に浮かびますが1984年発表のセーラ・ケリングシリーズ第5作である本書もそれらに負けじ劣らずの作品で、冒頭の「浮かれ鱈の会」場面からして面食らいます。「納骨堂の奥に」(1979年)での悲劇性や重苦しさは本書では完全に払拭されています。なおシリーズ第5作と紹介しましたが本書で探偵役を務めるのはマックスでセーラは脇役的存在です。


No.1691 5点 殺人はラディカルに
ライア・マテラ
(2016/09/08 00:31登録)
(ネタバレなしです) 1988年発表のウィラ・ジャクソンシリーズ第2作の本格派推理小説です。前作が(十分に成功したとは言えませんが)ユーモアミステリーを心がけたようなところがあったのに比べて本書は作風ががらりと変わり、暗く厭世的な雰囲気が強く漂っています。作者は若い頃に家を飛び出てヒッピー生活をおくった経験があるそうですがそのことが影響しているのかもしれません。ウィラが再びアマチュア探偵として事件を調べることになるのですが、そのことがやがて自分自身を傷つけ悩ませることになるプロットが重苦しいです。


No.1690 5点 国会議事堂の死体
スタンリー・ハイランド
(2016/09/08 00:18登録)
(ネタバレなしです) わずか3作しかミステリーを書かなかった英国のスタンリー・ハイランド(1914-1997)が1958年に発表したデビュー作である本書は単に国会議事堂という作品舞台の珍しさに頼った作品でなく、凝りに凝ったプロットの本格派推理小説です。ジョセフィン・テイの「時の娘」(1951年)のように昔の事件を現代の探偵が解明するというパターンに大きなひねりを加えています。このひねり方はとても鮮やかで本書の白眉といっていいでしょう。とはいえそこに至るまでの前半部の読みにくさは相当なものでしたし、結末のつけ方もすっきりしませんでした。傑作だという評価にあえて反対はしませんが、相当ミステリー通の読者でないとその良さは十分わからないのではと思います。残念ながら私のレベルではお手上げでした。


No.1689 6点 灯火が消える前に
エリザベス・フェラーズ
(2016/09/07 13:23登録)
(ネタバレなしです) 1946年発表の本格派推理小説で第二次世界大戦の影響を残しています。序盤で殺人事件が発生し、あっという間にジャネットという容疑者が逮捕されます(後に有罪判決も出ます)。ジャネットが犯人とは思えないアリスは事件関係者を次々と訪問します。しかしジャネットが無罪という確信があるわけでも他に有力容疑者の心当たりがあるわけでもないのですからストレートな捜査にはならず、ジャネットを理解するという点では進展があっても事件の真相に近づいているという予感がしないので中盤はややじれったい展開です。しかもジャネットを有罪とする根拠が自白、指紋、そして目撃者の証人とそれなりに強固な状況証拠ですのでこれをひっくり返さなければいけません。ジャネットがそのまま犯人の可能性もありますのでひっくり返るかどうかはここでは書きませんが、いずれにしろ終盤にそれまで灰色の世界だったのが突然派手な極彩色の世界に変わったかのような劇的効果が生み出されていることだけは書いておきます。


No.1688 8点 ブラウン神父の不信
G・K・チェスタトン
(2016/09/07 12:26登録)
(ネタバレなしです) 「ブラウン神父の知恵」(1914年)から随分と久しぶりの1926年発表のブラウン神父シリーズ第3短編集で8作品が収められています。チェスタトンはジョン・ディクスン・カーに大きな影響を与えたとして有名ですが、特に本書では不可能犯罪やオカルト的雰囲気を持った作品が多数揃っています。世評の高い「犬のお告げ」は密室トリックがやや肩透かしながらも犬を巡る推理が見事で代表作とされるのももっともな出来映えです。説明がやや冗長ながらも「翼ある剣」は(実現性はともかくとして)凄まじさを秘めたトリックが使われています。奇想天外さでは「ブラウン神父の復活」がイチ推しで、何を書いてもネタバレになりそうなので詳細は書けませんがとてつもない怪作です。他にも大胆な仕掛けやどんでん返しの作品がずらりと並んでいます。


No.1687 6点 ガーデン殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2016/09/07 11:45登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第9作の本格派推理小説です。青い車さんのご講評でも紹介されていますように序盤の競馬場面(ちゃんと出馬表が添付されています)がなかなか印象的で、当時の米国の上流社会ではこういう風に競馬を楽しむのかとちょっと社会勉強になりました。謎解きプロットもしっかりしており、自殺にみせようとする犯人のトリックを早い段階で殺人と見破るヴァンスの推理の前半から快調で、中盤で聞き慣れない化学物質が登場して理系が苦手な私はちょっと集中力がトーンダウンしたものの(笑)、最後は劇的な結末で締め括られます。往々にして饒舌な語りで他人を困惑させるヴァンスがある女性からの訴えに極めて真摯でストレートな対応をしているのも印象的でした。


No.1686 6点 絞首台の謎
ジョン・ディクスン・カー
(2016/09/07 11:24登録)
(ネタバレなしです) 1931年発表のアンリ・バンコランシリーズ第2作は不思議な魅力を持った本格派推理小説です。夜と霧を効果的に使うためでしょうか、舞台は前作「夜歩く」(1930年)のパリからロンドンに移っています。欠点も非常に多く、死人の運転する自動車トリックはひどいトリックだし、miniさんのご講評にもあるように霧の中に出現する絞首台の謎及び謎解きは文章説明だけではわかりにくいです。しかし幻想的怪奇的な演出に優れており、犯人逮捕場面のサスペンスも素晴らしく最後の一行も衝撃的です。結果としては雰囲気のみで勝負したような作品になっていますがこれだけ雰囲気豊かな作品はなかなかお目にかかれません。


No.1685 5点 ストライク・スリーで殺される
リチャード・ローゼン
(2016/09/07 11:01登録)
(ネタバレなしです) TVキャスターを経験したこともある米国のリチャード・ローゼン(1949年生まれ)が1984年に発表したハーヴェイ・ブリスバーグシリーズ第1作は野球界を舞台にした本格派推理小説とハードボイルドのミックスタイプです。米国や日本では野球はよく知られているのでそれほど問題ないのかもしれませんが特に25章から26章にかけての説明は野球を知らない読者には難解過ぎると思います(それ以前に野球選手だらけの登場人物リストでげんなりするかもしれません)。推理の要素が少ないので謎解き重視の読者はお気に召さないかもしれませんがストーリーテンポは軽快で読みやすいです。


No.1684 5点 殺人者の街角
マージェリー・アリンガム
(2016/09/06 19:29登録)
(ネタバレなしです) 1958年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第16作です。場面変化に富んでおり、犯罪者の視点で描かれているシーンあり、ルーク警視やアルバート・キャンピオンが活躍するシーンあり、奇しくも犯罪者と行動を共にするはめになったある人物の冒険シーンありと色々あって退屈はしませんが、逆に主人公不在の物語のようにも感じます。ミステリーとしてのジャンル分けも難しく、アリバイを巡る推理はありますが本格派推理小説ではないし、犯罪小説でもないし、私は(消去法的に)サスペンス小説に分類しましたがあまり自信ありません。ストーリーテリングが冴えわたった読みやすい作品で、ややメロドラマじみていますが印象的な結末が用意されています。


No.1683 5点 憎しみの巡礼
エリス・ピーターズ
(2016/09/06 19:18登録)
(ネタバレなしです) 1984年に出版された修道士カドフェルシリーズ10作目です。時代は1141年5月、スティーブン王と女帝モードの争いは形勢が逆転してモード優勢となりスティーブン擁護派のシュルーズベリが不安を隠せない状況下で起きた事件が扱われています。懐古調になったのか「聖女の遺骨求む」(1979年)、「氷のなかの処女」(1982年)、「聖域の雀」(1983年)などのエピソードが振り返られたり、懐かしの人物が再登場しています。特に要注意なのが「聖女の遺骨求む」のミステリー部分のネタバレをしていることで、未読の人は本書より先にそちらを読んだ方がいいと思います。前半は人物関係がばらばらでまとまりの悪い物語に感じられましたが最後には一つの流れに上手くまとめています。全体としては冒険小説のジャンルに属する作品ですが、本格派としての推理場面も終盤には用意されています。


No.1682 5点 青チョークの男
フレッド・ヴァルガス
(2016/09/06 19:10登録)
(ネタバレなしです) フランスのフレッド・ヴァルガス(1957年生まれ)は本国では大変人気の高い女性作家です(フレッドは男性名であることも多いので非常に紛らわしいです)。本書は1991年発表のアダムスベルグ署長シリーズ第1作の本格派推理小説です(長編ミステリー第2作のようです)。登場人物もエキセントリック、会話もエキセントリック、これが延々と続くので何度も頭の中が混乱してしまいましたが最後は本格派の謎解きとしてびしっと引き締めています。読み終えるのに苦労しますが横溝正史のフランス版みたいな結末は強く印象に残ります。


No.1681 6点 カリブ海の秘密
アガサ・クリスティー
(2016/09/06 19:06登録)
(ネタバレなしです) 1964年発表のミス・マープルシリーズ第9作にあたる本格派推理小説です。大勢のリゾート客が訪れる西インド諸島を舞台にしており、もう少し異国の雰囲気が描けていればなあとは思いますがミステリーとしてのツボはしっかり抑えてあって1960年代の作品の中ではいい出来映えだと思います。作中でミス・マープルが「こんな簡単なことなのに」と述懐していますが、私は過去の作品で使われている騙しのテクニックにまたまたやられてしまった自分を再発見する羽目になってしまいました。


No.1680 5点 緋色の研究
アーサー・コナン・ドイル
(2016/09/06 19:00登録)
(ネタバレなしです) 英国のサー・アーサー・コナン・ドイル(1859-1930)は本業は医者でしたが商業的に苦しかったため、冒険小説、歴史小説、怪奇小説、SF小説など幅広いジャンルの作品を精力的に執筆し、ついには専業作家へと転身しています。その作品中最も有名なのが世界で一番有名な探偵シャーロック・ホームズのシリーズでしょう。全部で4長編と5短編集(56短編を収録)が残されており、21世紀になった今なお多くの作家がホームズを主人公にした作品(パロディーも含む)を書いているなどミステリー界に巨大な足跡を残した偉人です。本書は1887年発表の記念すべき最初のホームズ作品となった長編です。中編に近いぐらいのボリュームで、しかもホームズの活躍場面が二部構成の物語の前半部だけという点に物足らなさを感じる人もいるでしょうが(後半部の最後にもちょっとだけ登場しますが)、それでもホームズの名探偵らしさは十分鮮やかに描かれています。後半部は冒険ロマン小説風になっていますが小説として面白いかはともかく、ここでのモルモン教徒の扱い方は現代だったら(宗教団体から)訴えられたんじゃないかなと思えるほど過激に描かれていますね。


No.1679 6点 オランダ靴の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/09/05 04:26登録)
(ネタバレなしです) 1931年に発表された国名シリーズ第3作でもちろん「読者への挑戦状」が付いています。相変わらず登場人物が多いし人物描写は上手くない、おまけに病院での殺人ということで「ほとんどが医者ばっかり」ですから誰が誰だかますますわからず人物整理が大変です。臣さんのご講評の通り単調な筋運びなのも読みにくさを助長しています。謎解きも不満点があり、確かに動機は決定的証拠にはなり得ず、機会と手段の手掛かりだけで犯人を特定できるというのが作者の主張かもしれませんけど、だからといって隠された動機が後出し説明というのはどこか釈然としません。とはいえエラリーの推理は国名シリーズの中でも屈指の冴えを見せており、特に靴の手掛かりに基づく推理はシャーロック・ホームズ現代版といった趣きさえ感じさせます(もちろん本書ももう古典的作品ですけど)。


No.1678 5点 グリーン・ティーは裏切らない
ローラ・チャイルズ
(2016/09/05 00:51登録)
(ネタバレなしです) セオドシア・ブラウニングを探偵役にした「お茶と探偵」シリーズの2002年に発表の第2弾です。アマチュアゆえやむを得ないところはあるのですが例によって動機探しが探偵活動の中心となり、具体的な証拠となるとかなり後半にならないと出てこないし、しかもコージー派によくありがちな(推理の不十分な)パターンで犯人が明らかになります。とはいえ風景や小物類の描写にセンスの良さを感じさせる文章力は心地よく、午後のお茶を飲みながら優雅に読書を楽しむのには好適の一冊だと思います。


No.1677 7点 大はずれ殺人事件
クレイグ・ライス
(2016/09/05 00:43登録)
(ネタバレなしです) 1940年発表のマローン弁護士シリーズ第3作で「スイート・ホーム殺人事件」(1944年)と並ぶ代表作とされています。個人的にはこの2作以外にも読み落とせない作品がいくつもあると思いますけど。ただ本書はビギナー読者にも勧められるかというとためらいがあるのも事実です。社交界の花形モーナ・マクレーンが「絶対につかまらない方法で人を殺してみせる」と突如宣言し、殺人事件が起きると(被害者とモーナの関係もわかっていないのに)犯人はモーナと仮定して探偵活動しているところからして尋常でないプロットで、王道的なフーダニット本格派しか読んでない読者は面食らうかもしれません。とはいえ殺人予告、どんちゃん騒ぎ、ハードボイルド風銃撃戦、ギャング、酒、身だしなみのセンス、賭け事、不可能犯罪とおバカなトリック、カーチェイス、脅迫、人情物語、容疑者を一堂に集めての真相解明とよくもまあこれだけの要素を盛り沢山に詰め込み、しかもテンションを落とすことなく一気に読ませてしまうストーリーテリングはちょっと誰にも真似できないでしょう。


No.1676 6点 ある詩人への挽歌
マイケル・イネス
(2016/09/05 00:22登録)
(ネタバレなしです) 1938年発表のアプルビイ警部シリーズ第3作の本書は江戸川乱歩や折原一が大絶賛した作品です。五部構成ですがそれぞれ異なる人物の目を通して各部を語らせているのが作品の個性です。第一部は(教養文庫版の)巻末で解説されているように読みづらい部分もありますが、それでも前作の「ハムレット復讐せよ」(1937年)に比べると格段に読みやすくなっています。どんでん返しの連続が圧巻です。


No.1675 5点 フレンチ警部最大の事件
F・W・クロフツ
(2016/09/05 00:06登録)
(ネタバレなしです) 1925年発表のミステリー第5作はシリーズ探偵であるフレンチ警部の初登場作であり、これ以降の作品のほとんどはフレンチ警部(後に警視まで出世します)が登場するようになります。本書は通常の犯人当て本格派推理小説とは毛色が異なっていて、謎の人物「X夫人」の追跡劇が中心のスリラー小説要素の強い作品です。しかし随所ではフレンチによる推理場面がありますので一応は本格派の体裁を保った作品と言えると思います。フレンチの捜査範囲が英国から欧州各国へと広がっていくのですが風景描写に関しては物足りなく、トラベルミステリーの雰囲気は意外と希薄でした。「最大」というタイトルもかなり誇張気味なので期待は割り引いておいた方がいいかも(笑)


No.1674 7点 シーザーの埋葬
レックス・スタウト
(2016/09/04 10:09登録)
(ネタバレなしです) 1939年発表のネロ・ウルフシリーズ第6作の本格派推理小説です。軽妙な会話や大胆な行動によるユーモアがスタウト独特の魅力ですが本書では特にそれに磨きがかかっているように感じられました。それは本書で初登場するリリー・ローワンというアーチーの恋人役に拠るところも大きいでしょう。恋人関係といってもベタベタな描写はほとんどなく、物語のスムーズな流れを全く妨げていません。タイトルに使われている「シーザー」とは全米チャンピオンの座を獲得した名牛ヒッコリー・シーザー・グリントンに由来しますが牛を謎解きに絡めたプロットが個性的で、スタウトを代表する傑作と評価されているのも納得です。


No.1673 5点 五匹の赤い鰊
ドロシー・L・セイヤーズ
(2016/09/04 09:55登録)
(ネタバレなしです) 1931年発表のシリーズ第6作でセイヤーズの全作品中最もパズル要素が強く、一方でセイヤーズの個性が希薄とも評されています。題名に使われている「赤い鰊」は目くらましとか偽の手掛かりという意味らしく、また物語の序盤で「読者への挑戦状」(エラリー・クイーンのそれとは毛色が違いますが)が挿入されるなどまさに「本格派推理小説」にこだわった作品になっています。となると私の好みには適合するはずなのですがこれが結構読みづらかったです。クロフツ顔負けの細かいアリバイ崩しが延々と続いたからというのも一因ですが一番の理由は6人の容疑者をあまりにも均等に描き分けたからだと思います。もう少し容疑にメリハリを付けた方が読者をミスリードしたり意外性を演出できたのでしょうが、悪い意味で完璧になリ過ぎて(Tetchyさんのご講評で指摘されているように)誰が犯人でも同じだという気分にさせてしまっています。文章が上手いと言われるセイヤーズでさえこうなのですから謎解きの面白さというのは奥の深い、永遠の課題なんでしょうね。

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