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ミステリの祭典

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消えたボランド氏
J・モンタギュー・ベルモア

作家 ノーマン・ベロウ
出版日2016年10月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2016/12/08 20:04登録)
(ネタバレなし)
 <墜落したはずの人間が空中で消失!?>という王道・直球の不可思議な謎の提示も魅力的だが、全体的に筋運びが垢抜けて軽快で、そこがとてもよろしい。

 探偵役のラジオ俳優J・モンタギュー・ベルモアは、自分の大根ぶりを自覚している(でも仕事はそこそこある)好々爺で、陽気で明るく、マジメな一線だけは決して譲らない人物(友人が初対面の相手にデブと侮蔑されると「失礼だが」と断りながらきちんと抗議する)。
 今年はじめて出会った探偵のなかではトップクラスにスキになったわ。
捜査陣のタイソン警部ほかサブキャラクターたちもなかなか存在感があるし。キャラクター的には全般的に溌剌として良かった。中盤のパーティ場面なんかも結構笑える。

 とはいえ、ワクワクする魅力的な謎を暴く真相に関して
「え、その説明で作中の登場人物は了解するの!?」
 とツッコミたくなるような点では『魔王の足跡』といっしょ。
 それでも個人的には全体では『魔王』より楽しめた(終盤はやや冗長感はあったが)。
 先にも書いたけど、謎解き成分が多めの都会派ハードボイルド(J・ラティマーとかの)のオーストラリア版みたいな、フットワークの軽い筋運びとミステリ的な興味がとても快かったので。

 まあ、前半読んでる間は、これは今年の翻訳ベスト5候補かな…!? とも思いかけたんだけど、最後までいくとさすがにソコまでは行かなかったね。でも翻訳していただいて、そして一読して良かったと思える一冊。

 J・モンタギュー・ベルモア主役の作品はまだあるみたいなので、いつかそっちも邦訳してほしい。

No.1 6点 nukkam
(2016/10/10 19:31登録)
(ネタバレなしです) 1954年発表の本格派推理小説で、タイトル通り崖から飛び降りたはずのボランド氏が崖下に墜落することなくそのまま消えてしまうという不思議な謎が読者に提示されます。もっともメインの謎はむしろ人間関係にあり、ボランド氏も含めて3人もの正体不明の人物がいて、それ以外にもその正体を探って密告する男がいたりさらにその男の情報を密告する女がいるなどまともでなさそうな人間がぞろぞろです。これで裏社会の描写がもっとこってりしていたら本格派推理小説というより通俗スリラーになったかもしれません。作者の特色の一つであるオカルト演出は全くありませんが、代わりに素性の怪しい人物を何人も配して謎めいた雰囲気を盛り上げています。第25章ではユーモア溢れるどんちゃん騒ぎを起こしており、この作者がジョン・ディクスン・カーから強い影響を受けていることを再認識させられます。

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