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ミステリの祭典

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屍衣を着た夜
蓬田専介シリーズ 筑波孔一郎名義

作家 筑波耕一郎
出版日1977年09月
平均点4.00点
書評数2人

No.2 3点 積まずに読もう!
(2024/09/12 16:24登録)
【あらすじ】
(できるだけ今後の読書の興を削がないように要約したつもりですが、嫌な人は注意してください)

ルポライター木島逸平は九州の遠縁が夏休みの間実家に寄宿するため、自分の部屋を明け渡し、気分転換をかねて「白雲荘」というアパートで暮らすことになった。引っ越して間もなく、隣室に住む長瀬保三という男と知り合ったが、彼から逸平の部屋に以前に住んでいた田代弓弦という若い男についての奇妙な話を聞く。田代は雪が降り積もったある日、友人の兵藤汎士の屋敷を訪ね、その留守中屋敷の周りを散策している姿を汎士の義母歌名子に屋敷の2階から見られていたが、歌名子が電話のために5分ほどその場を離れた間に、雪上に足跡を残したまま途中で忽然と消え失せてしまい、その後行方がわからなくなっている、ということだった。
興味を抱いた逸平は田代について調べ始めるが、田代の残した荷物を預かっていた兵藤汎士から、田代が書いた小説原稿の束を渡される。それは各々が独立した14編の短編ミステリであり、最終的に一つの長編として完結する予定であったが、その最後の一編は未完成の状態であった。汎士はその中の一編の内容が、田代が消失した状況と同じであることを指摘し、田代の失踪は今後起こる大きな犯罪の環の一つなのではないかという。その時は汎士の危惧を真に受けることが出来なかった逸平だったが、やがて平吾を当主とする兵藤家に対して、田代弓弦を名乗る人物から、妻歌名子宛の電話が頻繁に掛かってくるようになる。電話は歌名子に取り次ぐ間もなく切れてしまい、その意図は不明であった。
それらを皮切りに、兵藤家の長男鷹史が勤め先の大学の窓から飛び降りる姿を見られたにもかかわらず、その死体が忽然と消え失せ、さらに長女亜蘭は密室状態の別荘から消失する、という異常事態が兵藤家の周辺で発生する。それらはいずれも田代が残した小説の内容と同じ状況であった。
兵藤家に関わる人々はなぜ不自然な状況で消えなければならないのか?その方法は?田代が残した小説との関連は?田代は生きているのか?なぜ兵藤家を畏怖させるような連絡をしてくるのか?錯綜する謎の解明に、逸平は三文文士蓬田専介とともに挑む!

【感想】

もしあらすじを読んでいただいたなら、謎解きの本格ミステリが好きな方々はゾクゾクするのではないかと思われます。人間消失テーマの扱いはかなり難易度が高く、ハウダニットがどうしても不自然になる分、なんでそんなことした?というホワイダニットに謎の重点をおかないと、幼稚で素人臭い作品になってしまいがちです。そういう意味で一族の連続消失事件、という魅力的かつミステリ的趣向に富む謎に挑戦したH・ブリーンの『ワイルダー一家の失踪』、鷲尾三郎『屍の記録』はまさに竜頭蛇尾を地で行く作品で、世のもの好きたちに膾炙されてきたわけです。先行する2作から数十年を経て、あえて同趣向のテーマに挑むからには、作者は相当の覚悟でこの作品に取り組んだに違いないと、期待して読ませていただきました。そして内容は期待にたがわぬものとなりました。名作『11枚のとらんぷ』の後に出版された本書から、幻影城ノベルスはフランス装のアンカットを取りやめましたが、その島崎博の決断は正解です。この小説のページ一枚一枚をペーパーナイフで切りながら読み進めていかなければならない悪夢は、想像するだに恐ろしいものがあります。

(必要上、以下思いっきりネタバレします。了承できる人のみ読んでください)
まずこの小説は相当ヘンテコな展開をします。第一の消失事件こそ冒頭から発生していますが、第二の消失は物語の2/3を過ぎたところ、第三は残40ページくらいでようやく発生します。ミステリの常套として、「最後の事件発生」が物語を収束させるきっかけになったり、ドラマティックな展開に及ぶことが多いのですが、やがて起こりえるであろう「謎=消失」を煽ることもなく、作者は淡々と物語を進めます。それでも物語の中盤くらいまでは、良いとは言えないまでも、ダメとも言い切れないくらいの按排で逸平の捜査を描いています。作法が巧みでないため、全く小説的な効果は発揮できていないのですが、モブキャラの一人一人にも細かい描写をするなど、作者自身気を遣って書いていることも判ります。
ただ、謎の設定、そして解明になると……。これはすごいですね。乏しい読書量のなかでも、ベスト級にすごい内容だと思います。まず田代が書いた小説がこの犯罪に及ぼす効果ですね。ストーリー上において、この小説の存在を知る人はごく限られます。13編の小説を仕上げるのは並大抵の手間ではありませんが、それをあえて行う理由が△△のためだけです。警察などの目を欺けるならいざ知らず、「狭い環」の中の登場人物のためだけに、人はこれだけの手間をかけるでしょうか?小説の詳細について内容を提示するくだりもかなり問題ですね。この部分で事件の大筋が読めてしまいました。作者はこの「工夫」で読者が感心するとおもったのでしょうか?
事件の構図にも瑕疵があります。犯人は**に罪を被せるため、様々な回りくどい方法で事件を起こしますが、肝心の**の行動を全くコントロールできていません。犯人が苦心して準備した仕掛けが発動した時、**にアリバイがあったり、腹痛で動けなくなっていたりしたら、犯人はどうするつもりだったのでしょうか?事実ストーリー上では警察は**を疑わず、××を殺人容疑で連行しようとします。(**を疑うのは逸平だけです。でも常識的には警察に疑ってもらわないと意味がないでしょう。ただそれは当たり前です。犯人は「狭い環」の中の人物に対してだけにしか工作していないのだから……)
また犯人が犯行の成果を得るためには、××と〇〇する必要があるのですが、同じく××を全くコントロールできていない(していない)ため、警察に疑われた××に途中で自殺されてしまいます。その時点でバレたら死刑必至の犯罪がすべて水泡に帰します。こんな心もとない計画に、犯人はピタゴラスイッチ並みに回りくどい方法で策略を巡らせているのです。
消失に関する謎も同様です。前述の通り、その方法についてショボくなってしまうのは覚悟の上ですが、第一の消失は良いとして、第二の消失については、当該人物がそのような行動を行う理由が中二病のようなものです。もう少しなんとかならなかったものでしょうか?第三の消失に至っては、第三者を巻き込む手間をかけて「消失」した理由を説明することすら放棄しています(2回読み直したが書いてない)。
犯人の行動についても矛盾が多いです。犯人が小説や電話などを使って兵頭家の人々を脅すメリットがほぼありません。こういうことは密かにやるから効果があるのであって、表面上の「サスペンス」「謎」のためだけに犯人は動いているのです。合理性も何もあったものではありません。
作者が用意した「謎と解決」に対して、全てにツッコミが可能です。ここまでくると、ワザとやっているのではないかと疑われるほどです。ミステリにもしラジー賞があるとしたら、これを候補のひとつとして挙げたいと思います。
物故された作者に対して甚だ失礼ではありますが(これを読んで不快に思われた方々にも申し訳ありません)、エンタテイメントには様々な楽しみがあります。これを書いていて、私自身は結構楽しかったです。ミステリとしては1点、強烈な記憶に残る作品として1点、楽しませてくれたお礼に1点で、評点は3点にさせていただきます。本格ミステリの作法を考えるうえで、機会があれば是非読んでいただきたい作品です。

No.1 5点 nukkam
(2016/10/09 11:18登録)
(ネタバレなしです) 1977年発表の蓬田専介シリーズ第2作の本格派推理小説ですがシリーズ前作の「殺人は死の正装」(1976年)以上に専介の影が薄く、ワトソン役の木島逸平の地味な捜査に多くの筆を割いています。謎の発端は失踪事件で、読者を退屈させないようにと考えたのか雪の上に残された足跡が途中で消えていたという不可能趣味に彩られた謎を付加しています。トリックはわかりやすいものですが(作品名は忘れましたが)某ミステリー作品で痕跡をちゃんと調べれば見破られると説明されてたトリックで、しかも必要性がまるで感じられずトリックのためのトリックです。犯人の計画も本当にこんなんで犯罪が成功すると思ってたのかと聞きたいぐらい粗いと感じました。

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