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ミステリの祭典

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nukkamさんの登録情報
平均点:5.44点 書評数:2812件

プロフィール| 書評

No.1812 4点 緑の髪の娘
スタンリー・ハイランド
(2016/11/12 23:26登録)
(ネタバレなしです) 「国会議事堂の死体」(1958年)から長い空白を経て1965年に発表されたミステリー第2作の本格派推理小説で、織物工場の染料桶から緑色に染まった女性工員の死体が発見されるというショッキングな事件を扱っています。論創社版の巻末解説で評価が賛否両論の作品として紹介されていますが、その中で「性格描写も推理もない。だが容疑者は数多い」という評価に私は一票を投じたいです。刑事たちが手分けして捜査しているのですが場当たり的に容疑者が増えていくばかり、しかも被害者との関係が整理されていないので物語のだらだら感は相当なもの。この読みにくさはグラディス・ミッチェルといい勝負かも。読解力が読者平均を大きく下回る私には本書の英国風ユーモアを楽しむ余裕などありませんでした。


No.1811 6点 宛先不明
鮎川哲也
(2016/11/09 19:48登録)
(ネタバレなしです) 9人の作家による「産業推理小説シリーズ」(最終的には8人8作で終わった模様です)の1作として1965年発表に発表された鬼貫警部シリーズ第9作です。作者自身が「産業推理あるいは企業推理などの分野には興味も感じないし関心も持っていない」と述べていますが、会社内における派閥争いや企業秘密の漏洩などを取り入れているところが鮎川なりの産業推理なのでしょう。とはいえ本書はやはりアリバイ崩しの本格派推理小説として読むべき作品で、このシリーズでは珍しい郵便アリバイに挑戦しています。犯人がいきなり堅固なアリバイを主張するのではなく、警察が捜査を進めるほどにアリバイが強固になっていく展開が巧妙です。鬼貫の登場場面はかなり後半になってからです。


No.1810 5点 殺人ごっこ
左右田謙
(2016/11/08 11:24登録)
(ネタバレなしです) 左右田謙(そうだけん)(1922-2005)は本名を角田実といい、あの角田喜久雄と親戚関係の作家です。1950年頃に本名名義で作家デビューし、1961年発表の本格派推理小説である本書(当時は「県立S高校事件」というタイトルでした)から左右田謙名義の作品を発表するようになります。舞台は女子高ですが登場人物はほとんどが大人で青春物語要素は全くありません。校長によって失職に追い込まれたもと教師、謎の人物によって派遣され校長を殺害するよう指示されたにせ教師、そして当の校長とそれぞれが秘密或いは陰謀を胸に収めていることが描写され、やがて悲劇が起こります。後半になると乾刑事による地道な捜査描写となりますが、かなりの秘密が読者にとっては秘密ではないプロットなので読者が推理に参加する気分は味わえません。それでも明かされた真相には驚きのどんでん返しが用意されてあります。


No.1809 3点 殺人ツアーにご招待
マリアン・バブソン
(2016/11/08 11:18登録)
(ネタバレなしです) 1971年デビューのマリアン・バブソン(1929年生まれ)は米国の女性作家ですが英国に在住しており、1985年発表の本書も舞台は英国です。英国ならではのお屋敷ホテルを舞台にしてツアー客や役者が参加する推理劇の最中に本当の殺人事件が発生する本格派推理小説です。本当の犯罪が起きた後もなぜか推理劇は続行され、犯罪捜査とゲームの探偵活動がごちゃごちゃになるのが本書の特徴です。謎解きは伏線が十分でないままに唐突に犯人が明らかになります。扶桑社文庫版の登場人物リストが重要人物が何人も漏れていて不完全なのも残念です。


No.1808 6点 出雲神話殺人事件
風見潤
(2016/11/08 11:01登録)
(ネタバレなしです) 子供向けミステリー作家として名高い風見潤(1951-没年不詳)が一般読者向けに初めて書いた本格派推理小説で1985年に発表されています。作者あとがきによれば1970年代後半に発表された初期3作(私は未読です)のトリックが流用されているそうです。出雲地方の村に伝承される七不思議をなぞったような事件が次々起こります。初めはいたずらレベルですがやがて殺人事件に発展します。被害者が殺される理由が見当つかず、なぜ七不思議の見立て殺人にしたかの謎も探偵役の羽塚たかしを悩ませます。子供向けミステリーの経験が活きているのでしょう、文章は明快で物語のテンポも軽快です。出雲神話や地方歌舞伎、郷土料理描写など地方色もそれなりに豊かです。横溝正史の「悪魔の手毬唄」(1957年)を洗練させたような軽妙な作風ですが謎解きは実に手が込んだ充実作です。


No.1807 4点 検事燭をかかぐ
E・S・ガードナー
(2016/11/01 19:27登録)
(ネタバレなしです) 1938年発表のダグラス・セルビイシリーズ第2作で、後にセルビイのライバルとなるアイネズ・ステープルトン初登場の作品です。事件がちょっと変わっていて、殺人をもくろんでいた(らしい)男が犯行に及ぶ前に事故で死んだ(らしい)というものです。粘り強く捜査を進めるセルビイの前に立ちはだかるのが地元の権力者で、事件関係者かもしれない息子をかばってセルビイに圧力をかけまくります。権力に屈しないセルビイの姿勢描写に力を入れた作品で、そういう読み物としては面白いのですが謎解きの方がどうにも粗すぎます。推理よりもはったりで自白を引き出している印象が強く、前作の「検事他殺を主張する」(1937年)と比べると本格派推理小説としての面白さは後退してしまっています。


No.1806 5点 スペードの女王
横溝正史
(2016/10/30 02:57登録)
(ネタバレなしです) 1958年発表の短編を1960年に長編化した金田一耕助シリーズ第20作の本格派推理小説です。内股にスペードのクイーンの刺青のある女性の首無し死体が見つかりますが、同じ刺青を持つ女性が2人いるらしくどちらが殺されたのかがわからないため容疑者も容易に絞り込めません。物語の途中で「案外簡単に事件は解決した」とか「事件は急転直下、解決にむかった」といった文章が挿入されていますが被害者の素性が確定するのはほとんど終盤という難事件です。金田一の推理は犯人の特徴を推論するプロファイリングに近いのですがこれでは犯人特定には弱く、結局犯人の自滅を待っての事件解決です。動機は完全に後出しでしかも強引な解釈だし、そもそも金田一が捜査に参加するきっかけとなった彫物師の死の謎が事故なのか殺人なのか(多分後者らしいですが)はっきりと説明されないのも不満です。


No.1805 4点 ホワイトハウス殺人事件
マーガレット・トルーマン
(2016/10/27 13:40登録)
(ネタバレなしです) 米国のマーガレット・トルーマン(1924-2008)は第33代米国大統領ハリー・S・トルーマン(1884-1972)の娘で、1980年に本書を出版した時は大統領ファミリーがホワイトハウスで起こった殺人事件をテーマにした本格派推理小説を書いたと結構話題を集めたようです(日本でもすぐ翻訳出版されました)。しかし現在はこれについては疑問符がついてます。というのはトルーマンは本書の成功に自信を得て全部で25作(1作は死後出版)のミステリー(「Capital Crime」シリーズと呼ばれてます)を発表したのですが実は第2作以降は全てドナルド・ベイン(1935年生まれ)による代作であり、本書についても(証明はされていないものの)ウィリアム・ハリントン(1931-2000)による代作の可能性があるという何とも灰色な状況になってしまったのです(余談ですがベインはトルーマンの死後も遺族と契約して「トルーマン」の作品を書き続けています)。さて作品内容についてですが、殺人舞台はまさしくホワイトハウスでしかも被害者は国務長官という超大物ですが派手な描写は全くありません。特殊な場所ゆえに容疑者もすぐ絞り込まれそうですが、機会よりも動機に捜査の重点を置いたかのように被害者の人間関係をひたすら地味に調べていく展開が続きます。ドライな文体で淡々と(やや一本調子気味に)進行しますが最後は人間ドラマとして感情の高まりが描写されます。推理は物足りなく、謎解きの大半は自白頼りです。


No.1804 6点 浴室には誰もいない
コリン・ワトスン
(2016/10/23 04:21登録)
(ネタバレなしです) 1962年発表のパーブライト警部シリーズ第3作の本格派推理小説です。何と情報部員が登場して捜査に参加しているのが本書の特徴です。アガサ・クリスティーもエルキュール・ポアロシリーズの「複数の時計」(1963年)で同様の試みをしており、本書と読み比べるものも一興かもしれません。創元推理文庫版の巻末解説で説明されていますが、イアン・フレミングのジェイムズ・ボンドシリーズの世界的ヒットでスパイ小説が大人気だった時代だからこそ本書のような作品が生まれたのでしょうね。「笑える作品」、「コメディの花火」、「ファルス・ミステリ」と表現は違えどアントニイ・バークリー、ジュリアン・シモンズ、H・R・F・キーティングがユーモアミステリーとして高く評価していますが、クレイグ・ライスやジョン・ディクスン・カーのように派手で勢いのあるどたばたで笑わせるのとは違い、見解の相違やちょっとした皮肉からじわじわと醸成されるユーモアです。私のように理解力が弱い読者だと二度読み三度読みしないと作品のよさがぴんと来にくいかもしれません。謎解き説明ももう少し丁寧さが望まれます。


No.1803 5点 ハリウッド的殺人事件
マリアン・バブソン
(2016/10/22 14:10登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表の本格派推理小説で、もとハリウッド・スターの2人の女性を主人公にしていますが作品舞台は英国のロンドンです。高齢の2人ですが個性は強烈で、エヴァンジェリンは自分が目立つのが大好きで他人が目立つのが大嫌い、語り手のトリクシーはもう少し常識人ぽいけどタップダンスを踊りだしたり心配性の娘のマーサとどこか噛み合わない会話をしたりとこちらも目が離せないキャラクターです。この2人を中心にもとスターや演劇研究生たちが繰り広げるどたばた劇とミステリーを組み合わせており、どこかクレイグ・ライスを髣髴させるユーモア本格派です。どたばた描写で手一杯で謎解きとしては粗く、解決が唐突過ぎる感があります。主人公以外の登場人物も書き込み(説明)不足で、被害者のフィオーナって結局どういう人物だったのかよくわかりませんでした。


No.1802 5点 呪縛の沼
鷲尾三郎
(2016/10/18 13:33登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表の三木要シリーズの本格派推理小説です。底なし沼の畔に建つ療養所で起こった密室殺人事件の謎解きを扱っています。第6章の人名表で20名を超す人物が紹介されていますが実のところ重要容疑者はごく一部です。もっともそれは読み進めないとわからないので無駄に人数が多過ぎる印象を受け、犯人を当てようとする意欲がわきにくくしているのが本格派としては弱点だと思います。三木の説明も丁寧ではありますが推理の過程がそれほど理路整然としているわけではありません。第14章の惨劇描写の凄まじさが1番記憶に残りました。


No.1801 4点 ディフェンスをすり抜けろ
リチャード・ローゼン
(2016/10/14 12:20登録)
(ネタバレなしです) 1986年発表のハーヴェイ・ブリスバーグシリーズ第2作で、プロ野球界を引退したハーヴェイは私立探偵になっています。意外にも本書では野球界でなくバスケットボール界で起こった犯罪が扱われています。プロバスケットボール選手の相次ぐ失踪事件に端を発していますがこれが殺人事件に発展し被害者たちの過去、つまり学生バスケットボール界にまでハーヴェイの調査は広がります。ハーヴェイの捜査は丹念ですが殺人のきっかけになったと思われる過去の出来事に注目したのはほとんどヤマ勘に近いのが少々ご都合主義を感じさせます。前作の「ストライク・スリーで殺される」(1984年)は本格派推理小説とハードボイルドのジャンルミックス型ですが本書はハードボイルドに徹しており、痛快アクションを期待する読者にはお勧めできませんがきれいごとだけではないスポーツ界を描いたミステリーとしては貴重だと思います。


No.1800 6点 消えたボランド氏
ノーマン・ベロウ
(2016/10/10 19:31登録)
(ネタバレなしです) 1954年発表の本格派推理小説で、タイトル通り崖から飛び降りたはずのボランド氏が崖下に墜落することなくそのまま消えてしまうという不思議な謎が読者に提示されます。もっともメインの謎はむしろ人間関係にあり、ボランド氏も含めて3人もの正体不明の人物がいて、それ以外にもその正体を探って密告する男がいたりさらにその男の情報を密告する女がいるなどまともでなさそうな人間がぞろぞろです。これで裏社会の描写がもっとこってりしていたら本格派推理小説というより通俗スリラーになったかもしれません。作者の特色の一つであるオカルト演出は全くありませんが、代わりに素性の怪しい人物を何人も配して謎めいた雰囲気を盛り上げています。第25章ではユーモア溢れるどんちゃん騒ぎを起こしており、この作者がジョン・ディクスン・カーから強い影響を受けていることを再認識させられます。


No.1799 5点 屍衣を着た夜
筑波耕一郎
(2016/10/09 11:18登録)
(ネタバレなしです) 1977年発表の蓬田専介シリーズ第2作の本格派推理小説ですがシリーズ前作の「殺人は死の正装」(1976年)以上に専介の影が薄く、ワトソン役の木島逸平の地味な捜査に多くの筆を割いています。謎の発端は失踪事件で、読者を退屈させないようにと考えたのか雪の上に残された足跡が途中で消えていたという不可能趣味に彩られた謎を付加しています。トリックはわかりやすいものですが(作品名は忘れましたが)某ミステリー作品で痕跡をちゃんと調べれば見破られると説明されてたトリックで、しかも必要性がまるで感じられずトリックのためのトリックです。犯人の計画も本当にこんなんで犯罪が成功すると思ってたのかと聞きたいぐらい粗いと感じました。


No.1798 5点 白の恐怖
鮎川哲也
(2016/10/09 10:39登録)
(ネタバレなしです) 1959年発表の星影龍三シリーズ第2作の本格派推理小説で、雪の山荘を舞台にした連続殺人事件を扱っています。残った容疑者よりも死者の方が多いという、「りら荘事件」(1958年)の同工異曲的な作品ですが「りら荘事件」ではアリバイ成立など犯人を簡単に特定できないような難関を設定していたのに本書ではそういう工夫が足りず、まあ犯人はこの人だろうと予測しやすくなっています。星影の説明は真相はこうだという結果説明に過ぎず、江守森江さんや空さんのご講評で指摘されているように伏線を回収しての推理になっていないのが「りら荘事件」と比べて物足りません。読みやすい作品ですが荒削りな部分が多く、作者が改訂を検討していたというのも納得です(結局改訂は果たされませんでした)。


No.1797 5点 轍の下
西東登
(2016/10/09 10:14登録)
(ネタバレなしです) 西東登は動物ミステリーの書き手と認知されることもあるようですがそうでない作品もいくつかあり、1965年発表の長編第2作である本書は動物は登場しません。それなりの社会的地位を持つ4人と運転手1人が乗る車が1人の男を轢き殺してしまい、5人が事故を隠蔽しようとする犯罪小説風な展開を見せます。脅迫者と化した目撃者が登場したり、いつまでも帰らぬ被害者の家族の生活が少しずつ崩壊したりと物語としてなかなか読ませ、最後には驚きの結末を迎えて何とも言えない悲哀感が残ります。人間ドラマとしてはなかなかの出来栄えですがミステリーらしさが希薄なのが弱点です。驚きの結末も伏線が用意されていません。


No.1796 6点 叫ぶ女
E・S・ガードナー
(2016/10/06 01:33登録)
(ネタバレなしです) 1957年発表のペリイ・メイスンシリーズ第53作の本格派推理小説です。身勝手な依頼人であっても依頼人を見捨てないメイスンが描かれるのは本書に限ったことではありませんが、それゆえに他に困っていそうな人物が頼ってきてもそちらの弁護人になることができません(依頼人の不利益になるかもしれないので)。そしてそちら側の弁護人が悪徳弁護士であることが事態をますますややこしくします。検事だけでなく悪徳弁護士の出方にも注意しながらの法廷論争はサスペンスたっぷり。ハミルトン・バーガー検事を巧みな法廷テクニックであしらいながら真犯人を指摘する推理が鮮やかです。


No.1795 6点 読後焼却のこと
ヘレン・マクロイ
(2016/10/03 02:00登録)
(ネタバレなしです) 1980年発表の本書は「割れたひづめ」(1968年)以来久しぶりにベイジル・ウィリング博士が登場する本格派推理小説(シリーズ第13作)で、ヘレン・マクロイ(1904-1992)の最後の作品でもあります。ボストンの自宅を5人の作家に間借りさせているハリエット・サットンは作成途中と思われる手紙を入手します。その手紙には辛辣な批評で作家たちから忌み嫌われている謎の書評家ネメシスの正体をつかんだこと、ネメシスがハリエットの家にいること、そしてネメシス殺害に加担するよう書かれていました。一体誰が誰に送ろうとした手紙なのか、ネメシスの正体は誰か、そして当然ながら殺人犯は誰なのかと謎は色々と提供されます。しかしkanamoriさんのご講評で指摘されているように全盛期の作品に比べると淡白な謎解きに終わっているのは残念です。それでも十分水準作の域には達していると思いますが。なお本書を読む前にコナン・ドイルの「バスカーヴィル家の犬」(1902年)を読んでおくと面白さがちょっとだけ増えると思います。


No.1794 5点 姿なき殺人
ギリアン・リンスコット
(2016/10/03 01:52登録)
(ネタバレなしです) リンスコットは20世紀前半の英国を舞台にして女性人権活動家のネル・ブレイシリーズを11作書きましたが、1999年発表の本書はシリーズ第8作です。作中時代の1918年に女性参政権が認められての初の総選挙が実施されんとしていて、当然ネルも議員への立候補を検討していましたが有力な後ろ盾がありません。そこへ思わぬ救いの手が差し伸べられますがそれはネルの探偵としての手腕をあてこんでの立候補援助だった、というのがプロットです。選挙戦と探偵活動の両立という点ではエドマンド・クリスピンの「お楽しみの埋葬」(1948年)やアリサ・クレイグの「山をも動かす」(1981年)と共通していますが、本書は物語の3分の2ぐらいまではどちらかといえば選挙の方に重きを置いて描かれています。とはいっても本格派推理小説としての謎解きを放り出しているわけではありません。人物描写も巧みだし文章も読みやすいです。ただ講談社文庫版に(ネタバレになるので具体的な内容は書きませんが)大きな欠点があったのは残念です。


No.1793 6点 ヒッコリー・ロードの殺人
アガサ・クリスティー
(2016/10/03 01:36登録)
(ネタバレなしです) 1955年発表のポアロシリーズ第26作の本格派推理小説です。学生寮を舞台にした作品で、私はエリザベス・ジョージの「名門校殺人のルール」(1990年)を思い出しましたが描かれている世界が全然違いますね。暗く重いジョージに比べて本書はいかにもクリスティーらしく明るく読みやすい作品です。今回の犯罪の影にはぞっとするような悪意が隠されているんですが、それでも全体の雰囲気がさほど陰湿にならないのは(むしろユーモア溢れる場面さえあります)クリスティーならではです。そういうところが非現実的だと批判する人がいるのもまあわかりますけど、これがクリスティーの世界的な人気の秘密の一端ではないでしょうか。

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