| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2901件 |
| No.1901 | 3点 | 伊豆密会旅行殺人事件 草野唯雄 |
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(2017/07/26 21:32登録) (ネタバレなしです) 1989年発表の尾高一幸シリーズ第7作です。家族のいる男性とホステスの浮気旅行、日本へ出稼ぎに来ている外国人労働者描写、非情な犯人によって返り討ちのように殺されてしまう新たな被害者など通俗スリラー、トラベルミステリー、社会派、ハードボイルドの様々な要素を織り込んではいるのですが作品全体がお手軽感に包まれていて中途半端な印象です。犯人の正体も尾高や警察の捜査とは関係なく唐突に読者に提示されており、本格派の謎解きとして楽しむことも困難です。徳間文庫版の巻末解説では作者の小説執筆姿勢として「書きたいのは極限状態に置かれた時の人間のドラマです。(中略)それをミステリの範疇に納め、最後をドンデン返しの意外性で幕をおろすとすれば、もういうことはありません」と紹介していますがこのコメントは作者が脂ののっていた時期の1977年発表のもの。本書は残念ながらそういうこだわりが感じられませんでした。 |
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| No.1900 | 5点 | 殺しのディナーにご招待 E・C・R・ロラック |
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(2017/07/24 23:02登録) (ネタバレなしです) 1948年発表のマクドナルドシリーズ第30作の本格派推理小説です。有名な文筆家のクラブの新規会員としてパーティーに招待された8人の男女。ところが招待者の姿が見えず、でっち上げのパーティーという手の込んだいたずらではないかと疑った8人は自分たち主催のパーティーとして楽しんで解散します。ところがその後いたずら企画者として彼らに疑われていた男の死体が会場で発見されるという事件に発展します。ひたすら地道な捜査と深まる混迷、そして重箱の隅をつついたような手掛かりに基づく推理説明のプロットを果たして楽しみながら読めるか我慢しながら読むことになるか、読者の度量が試される作品と言えそうです。個人的にはもう少し(なるほどとうなずけるような)気の利いた謎解き伏線を用意してほしかったです。 |
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| No.1899 | 5点 | どんどん橋、落ちた 綾辻行人 |
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(2017/07/15 23:30登録) (ネタバレなしです) シリーズ探偵の登場しない1999年発表の短編集で5つの中短編が収められています。私の読んだ講談社文庫の新装改訂版の巻末解説は大山誠一郎が書いていますがその中で「作者はもちろん、読者に絶対に犯人を当てられないことを目指す」とコメントしていますがまさに本書はそれを突き詰めようとしています。しかし作者勝ちにこだわり過ぎて(青い車さんがご指摘されているように)反則ぎりぎりの技巧頼りになってしまい、しかも小説としての余裕がないように感じます。例えば「犯人以外の人物の証言に嘘はない」というルールは確かに注意を払って守っているのですが、普通なら会話の流れの中で探偵役の勘違いに気づいて(犯人以外の人物は)それを訂正してしかるべきなのにそれをしないまま会話を続ける(そしてミスディレクションが成立する)というのはあまりに不自然に感じました。「鳴風荘事件」(1995年)以降王道的な本格派の作品を発表できず焦った作者がついに異端に手を染めてしまったのでしょうか。 |
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| No.1898 | 5点 | モノグラム殺人事件 ソフィー・ハナ |
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(2017/07/15 03:15登録) (ネタバレなしです) サイコ・スリラーの書き手である英国の女性作家ソフィー・ハナ(1971年生まれ)が2014年に発表した本書はあのアガサ・クリスティー(1890-1976)の名探偵エルキュール・ポアロシリーズの「公認続編」として注目を集めた本格派推理小説で、英米などで大ヒットしたそうです。クリスティーは他人による贋作など「望まなかったと思われる」というハヤカワ文庫版の巻末解説のコメントはもっともでしょうし、本書を読んだ私のことも「クリスティーファン読者とは認めません」と天国のクリスティーから叱られそうな気がしますけど。「殺される罰を受けなければいけない」と語る謎の女性とポアロの出会い、それに続くホテルでの三重死事件と派手に幕開けしますが、その後の展開はちぐはぐで回りくどい会話が連続してテンポが重いです。ポアロの真相説明であまりにも多くの嘘で塗り固められていたことがわかり、これはとても読者が完全正解できるような謎解きとは思えませんでした。 |
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| No.1897 | 6点 | 鬼ガ島地獄絵殺人 山村正夫 |
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(2017/07/11 17:39登録) (ネタバレなしです) 1983年から1987年にかけて発表された滝連太郎シリーズの短編6作をまとめて1987年に出版された、シリーズ唯一の短編集です。伝奇本格派推理小説の作品が多いのはこのシリーズならではです。犯人がわかりやすいとかトリックがたいしたことないとか謎解きの底が浅いと感じられるところもありますが、作品間のばらつきは少なくシリーズ入門編としてもお勧めです。その中では表題作の「鬼ガ島地獄絵の殺人」は誘拐あり殺人ありとプロットは起伏に富み、大食漢の滝が食欲を失う珍しい場面もある上にトリックがなかなか大胆で長編作品に仕立ててもよいのではと思いました。どこか横溝正史の「悪魔の手毬唄」(1957年)を連想させる「暗い唄声」も印象的です。 |
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| No.1896 | 6点 | 凍った夏 ジム・ケリー |
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(2017/07/07 07:39登録) (ネタバレなしです) 2006年発表のフィリップ・ドライデンシリーズ第4作の本格派推理小説です。創元推理文庫版の巻末解説では本書のことを「シリーズの途中だから本書から読むのはNGだ、なんて心配する必要は全くない」と入門編として勧めていますがドライデンの生活環境の変化の行く末にも興味を抱くなら、シリーズ第1作から順番に読むことを勧めます。このシリーズの特色である現代の事件と過去の事件の融合が本書でも見られ、第37章での大胆な事実(犯人の正体ではありません)には驚かされます。寒さ冷たさの描写だけでなく犯人の冷酷さ描写も作品の重苦しさを深めてます。ドライデンの推理は最後のどんでん返しで微妙に中途半端な印象が残りますがその後の劇的な結末で盛り上げてます。 |
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| No.1895 | 4点 | ブリキの自動車 ネヴィル・スティード |
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(2017/07/02 02:05登録) (ネタバレなしです) ミステリー作家としては1980年代後半から1990年代前半の短い期間の活躍に留まった英国のネヴィル・スティード(1932年生まれ)の1986年発表のデビュー作がピーター・マークリンシリーズ第1作の本書です。ピーターはアンティーク玩具屋で、本書では金持ちコレクタ-の代理人として高価なアンティークのブリキ製自動車(たった11台で2万2千ポンド)をフランスで購入します。ところが帰る途中でそれらが安物のプラスチック製玩具とすり返られてしまい、盗品を取り戻すために奔走します。流しの犯行の可能性など全く考えず、ほとんど証拠もないまま目星をつけた容疑者の家宅に侵入したりはったりの脅迫電話をかけたりとピーターの捜査は強引で違法なものばかり(そしてかなりご都合主義的に事が運びます)。本格派推理小説の謎解きをちょっと期待していましたがそういうミステリーではなく冒険スリラータイプです。ピーターが焦る気持ちはわからないでもありませんが、それほど共感できる主人公でなかったので彼がある女性と出会っていい関係になりかけているのを応援する気にあまりなれなかったです(笑)。 |
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| No.1894 | 5点 | 赤い森の結婚殺人 本岡類 |
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(2017/07/01 15:59登録) (ネタバレなしです) 1986年発表の里中邦彦シリーズ第2作の本格派推理小説です。「白い森の幽霊殺人」(1985年)のように邦彦がオーナーのペンション「銀の森」が舞台ではなく、ホテルの披露宴で花嫁が消えてしまう不思議な事件を扱っています(後には殺人事件も起きます)。新しい証拠が見つかるたびに謎は深まる一方、誘拐なのか偽装誘拐なのか邦彦や警察の推理もいい線まで行きそうで何度も壁にぶち当たります。どうやっての謎解きも悩みますが、シンプルにさりげなくできそうなのをなぜ複雑に派手にやったのかという謎がそれ以上に難解です。プロットは読みやすいですが真相は計画的な行動ととっさの行動が絡み合う非常に複雑なもので、多分読者が完全正解するのは無理ではないでしょうか。 |
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| No.1893 | 6点 | チューインガムとスパゲッティ シャルル・エクスブライヤ |
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(2017/06/28 20:41登録) (ネタバレなしです) 1960年発表のタルキニーニシリーズ第1作のユーモア本格派推理小説です。欧州各国の司法警察を研究しているアメリカ人のリーコックがイタリアのヴェローナを訪れるところから物語がスタートします。そのヴェローナ警察で彼の面倒を見るのがタルキニーニ警視です。リーコックが訪問済みの警察評価は(国民性の評価でもあります)イギリスとドイツは高評価、フランスとスペインは低評価ですからヴェローナについてどうなるかはある程度予想がつきそうですが、一方でヴェローナの人々がこのアメリカ人の言動をとてもまともなものではないと感じている描写も多々あるのが面白いところ。タルキニーニとリーコックの最初の会話からして「犯罪の動機はほとんどいつも恋です」「なぜですか」「だってここはヴェローナですから」とまるで噛み合いません。タイトルの「チューインガムとスパゲッティ」は「アメリカ人とイタリア人」と置き換えてもよさそうです。犯人当ての謎解きもありますが、異国の地でカルチャーショックと戦うリーコックの奮闘(と時に暴走)の描写の方に読者は振り回されそうです。 |
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| No.1892 | 5点 | 天国は遠すぎる 土屋隆夫 |
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(2017/06/24 03:02登録) (ネタバレなしです) 1959年発表の第2長編で、光文社文庫版で300ページに満たない短めの作品です。本格派推理小説ですが早い段階で犯人はこの人しかありえない状況になります(そもそも他の容疑者が登場しないのです)。自信満々の犯人が用意した鉄壁のアリバイを崩すのがメインの謎解きです。佐野洋が「刑事の描き方がリアル」と賞賛しており、捜査と推理が地道に描かれているのは同時代の鮎川哲也の鬼貫警部シリーズとも共通していますが刑事の執念描写は鮎川作品にはない個性だと思います。但し刑事以外の登場人物では犯人の心情発露は終盤の逮捕以降のみ、被害者については全くといってもいいほど性格描写がないので小説としての膨らみが足りない気がします。推理小説が文学足りえるか否かについて常に意識した作者ですが、本書についてはまだ道半ばといったところでしょうか。 |
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| No.1891 | 5点 | 殺人作家同盟 ピーター・ラヴゼイ |
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(2017/06/22 10:02登録) (ネタバレなしです) ピーター・ダイヤモンドシリーズの「漂う殺人鬼」(2003年)で名脇役ぶりが印象的だったヘン・マリン主任警部を探偵役にした2005年発表の本格派推理小説です。ちなみに一瞬だけですがダイヤモンドも登場しています(捜査には加わりません)。出版社の経営者が放火で殺され、彼から作品を批判されたりいい加減な約束で迷惑を受けていたアマチュア作家サークルの面々が主要容疑者になります。前半はサークルの新会員で被害者と面識のないボブ・ネイラーがアマチュア探偵として事件を捜査します。ヘンの登場は中盤近くからで、部下の刑事たちと手分けしての捜査となるためプロットが一気に複雑になります。作中でアガサ・クリスティーを引き合いに出したりして本格派推理小説としての謎解きに期待がかかりましたが、どのように推理して犯人を特定したかを論理的に説明していないのがちょっと消化不良に感じました。 |
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| No.1890 | 6点 | 錯誤のブレーキ 中町信 |
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(2017/06/17 22:33登録) (ネタバレなしです) 2000年発表の和南城夫妻シリーズ第4作の本格派推理小説です。この後の中町信(1935-2009)は最晩年の2008年に中編をリメイクして長編化した「三幕の殺意」を発表したのが最後なので新作として書かれたのは本書が最終作だったわけです。交通事故(1名死亡)で幕を開け、その事故で生き残った者が殺されます。動機を探して過去の病死(心臓麻痺)や自殺事件までもが調査され、密室、アリバイ調べ、ダイイングメッセージと謎解きは多岐に渡ります。人物描写に精彩がない中で自信満々の割に推理が暴走気味、でもたまに有能な時もある二本柳警部が異彩を放ってます。地味で暗めの文章のため盛り上がりを欠くきらいがあるものの、安定したレベルの本格派を40作以上も提供してくれた作者には大いに感謝です。 |
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| No.1889 | 5点 | バートラム・ホテルにて アガサ・クリスティー |
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(2017/06/16 11:18登録) (ネタバレなしです) 1965年発表のミス・マープルシリーズ第10作の本格派推理小説です。プロットがちょっと風変わりで、殺人事件の謎解きはかなり遅めに開始されます。それまではロンドンの名門ホテルに宿泊したミス・マープルがホテルの雰囲気にどこか違和感を覚える場面が多く、どこかもやっとした展開です。その違和感の正体についてはスコットランドヤードのデイビー主任警部によって説明され、なかなか大胆な真相が印象的ではありますが推理としてはかなり粗いと思います。後味の悪さを残す幕切れはかなりのインパクトがあります。 |
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| No.1888 | 2点 | エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件 ジョン・ディクスン・カー |
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(2017/06/12 17:16登録) (ネタバレなしです) 1936年発表の歴史ミステリーで実際に17世紀の英国で起こったゴドフリー卿暗殺事件(犯人は不明)に作者が挑戦した作品です。本書に影響を受けてリリアン・デ・ラ・トーレが「消えたエリザベス」(1945年)を、ジョセフィン・テイが「時の娘」(1951年)を書いたことでも有名で、ミステリー史上の重要作ではあるのですが感想に悩んだ作品でした。登場人物がやたら多いうえに彼らの直接的な言動描写も物語としての展開もほとんどなく、小説というよりも研究論文というべき内容です。後年のトーレは本書よりも小説としての趣向を増やし(但しまだ論文要素の方が強い)、テイに至ると小説といえる内容に発展しているのがわかります。とても低い採点にしているのは小説としての面白さを放棄していることが理由です(おまけに私の知能水準では論文としてどうかという評価もできません)。できれば別名義で発表してほしかったですね(推理「小説」を期待する読者ががっかりしないように)。 |
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| No.1887 | 6点 | 雪盲 ラグナル・ヨナソン |
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(2017/06/11 01:48登録) (ネタバレなしです) アイスランドの弁護士兼作家であるラグナル・ヨナソン(1976年生まれ)のダーク・アイスランドシリーズ第1作である2010年発表の本格派推理小説です。原作は当然アイスランド語で書かれてますが海外向けに翻訳された版が出回って各国で好評、日本でも英訳版からの翻訳で読めるようになりました。余談ですが主人公のアリ=ソウル(本書では24歳の新米警官)の登場する作品にはダーク・アイスランドシリーズに属しない作品もあるそうです。さて本書は玄関に鍵をかけないのが日常の静かな漁師町シグルフィヨルズルに警官として採用され、よそ者(首都レイキャヴィークから移住)であることを意識せざるを得ないアリ=ソウルが描かれます。文章は簡潔にして要を得ており、人物描写にも配慮されていて謎解きだけでなく人間ドラマとしても充実しています。これで厳しい冬の描写に(オーストラリアの)アーサー・アップフィールドのような雄大なスケール感があればなあと思いましたがこれはぜいたくな注文でしょうね。もうひとつ余談ですが本書の小学館文庫版の巻末解説で作者のことを(男性作家なのに)「アイスランドのアガサ・クリスティ」と紹介していますが、細かい伏線を張ってある本格派推理小説であるところは共通していますが内面描写の多い本書の個性はクリスティの作風とはかなり異なるように感じました。 |
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| No.1886 | 5点 | お嬢さま学校にはふさわしくない死体 ロビン・スティーヴンス |
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(2017/06/09 09:08登録) (ネタバレなしです) アメリカ生まれで英国在住の(両国のパスポートを持っているそうです)女性作家ロビン・スティーヴンス(1988年生まれ)の2014年発表のデビュー作が本書です。本書の英語原題は「Murder Most Unladylike」ですがこれが好評で続編が書かれるとシリーズ名も「Murder Most Unladylike」シリーズと呼ばれるようになりました。本書の作中時代は1934年、舞台は英国の女子寄宿学校、主人公は3年生(13歳)のデイジーとヘイゼルです。デイジーがホームズ役(本人もかなり意識しています)、ヘイゼルがワトソン役ですがデイジーの推理は必ずしも完璧ではなく(中盤で早々と犯人はこの人だと断言しますがまだまだどんでん返しがあります)、ヘイゼルも単なる観察者にはとどまってはいません。後半になると冒険スリラー色が濃くなってはらはらどきどきの展開となります。読者が事前に犯人を推理するデータを十分に提供できていないのと主人公以外の人物描写が弱いのが少々惜しまれますが、推理と捜査に傾注してミステリーらしいプロットにはなっており最後は容疑者を一堂に集めての犯人指摘場面が用意されています。 |
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| No.1885 | 6点 | 死刑台へどうぞ 飛鳥高 |
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(2017/06/07 08:41登録) (ネタバレなしです) 作者が印象に残る作品の1つと評価していた1963年発表の長編第9作の本書は本格派推理小説、社会派推理小説、サスペンス小説のジャンルミックス型で、謎解きの妙よりも終盤の悲劇から浮かび上がる登場人物の非情さの方が記憶に残ります。純然たる謎解きを追及するならあの悲劇はストーリー上不要だったと思いますが、そうではないところが作品としての個性です。事件解決したのにどこか不満そうな刑事の描写にも共感しました。 |
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| No.1884 | 5点 | 宿命は待つことができる 天城一 |
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(2017/05/31 15:15登録) (ネタバレなしです) 作者の自作解説によると第2長編である本書は「エラリー・クイーンのスタイルで」1947年頃に書き上げられ、作家仲間から「小説の下手なのに寒心した」と批判されたそうです。そこから改訂を重ねて1990年に私家版(当時は「Destiny Can Wait」という英字のタイトル)で出版されたのは実に第6稿です。その私家版の解説によれば作者は「悪の社会の階層性」を描こうとしていたようで、悪の存在とその悪を上回る悪の存在、悪事の連鎖による悲劇性と虚無感の描写の前には本格派推理小説としての謎解きは(探偵役の島崎が一部の謎解きしか貢献できず自白頼りなこともあって)印象薄に感じられてしまいます。ただ感情描写にかなり力を入れていることもあって個人的には3作の長編の中では1番読み易かったです(あくまでも天城作品の中ではという意味で、一般的には本書も難解な作品だと思いますが)。 |
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| No.1883 | 6点 | 殺戮者 下村明 |
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(2017/05/28 20:29登録) (ネタバレなしです) 下村明(1922年生まれ)は1950年代後半から1960年代前半の短い期間に活動していた作家で著書の多くは柔道小説やアクション小説のようですが、1959年発表の本書を皮切りに3作の本格派推理小説と1作のスリラー小説を書きました。構成が非常に独特で、五瓶高彦を主人公にして彼を取り巻く時代と境遇の変遷を描いた小説に3つの独立した謎解きを絡めています(そのため「長編というより3編の連作中編」と評価する向きもあります)。最初の謎解きは第二次世界大戦が終わり中国で復員を待ち続ける高彦たち兵隊の間で起こった殺人事件、2番目の謎解きは故郷である大分の天堂村へ復員した高彦の周囲で起こった殺人事件、3番目の謎解きは柔道講師(警察の技術職員)として1948年に大分の別府に着任した高彦がまた巻き込まれる殺人事件と続きます。どの謎解きでも高彦が推理していますが全部が彼の手柄で解決しているわけではなく、中には手掛かり不十分のまま場当たり的に解決してしまう事件もあって本格派推理小説としては未熟に感じるところもあります。しかし時代と社会の描写、その中での人間ドラマが謎解きの不満を補う魅力となっています。 |
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| No.1882 | 5点 | エレヴェーター殺人事件 ジョン・ロード&カーター・ディクスン |
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(2017/05/27 22:46登録) (ネタバレなしです) ジョン・ロード(1884-1964)とカーター・ディクスン(1906-1977)、本格派推理小説黄金時代を代表する作家の2人が1度だけ共同で執筆した成果が1939年発表の本書です。6階建ての建物で容疑者たちが各階に散らばる中、エレヴェーターで降下中の被害者が射殺され、犯人も凶器も見つからない不可能犯罪を扱っているのはトリックメーカーとして評価の高い2人の共作なら当然の流れでしょうか。どのような分担で書かれたかはわかりませんが文章表現はディクスンらしさを、機械設備の細かな説明はロードらしさを感じます。トリックはクレイトン・ロースンの某作品を連想させるもので(本書の方が早く書かれてます)図解付きで説明されますが、どうせなら現場図もほしかったです。細かいところまで謎解き複線を張ってあるのは評価できますが、ごちゃごちゃを整理しきれなくて少々読みにくい印象を受けました。 |
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